人は自分の思惑とはまったく違うことを考え行動する。
それを完全に予測することは不可能である。
その結果、大きく食い違ったまま行動し続ける。
by田中雄一
第24話 「一方での反省会」
~side out~
機動6課部隊長室には、はやて、なのは、フェイトそれにヴォルゲンリッターが揃っていた。
しかし、全員の顔は暗く重い雰囲気が漂っていた。
「はやて、上層部からは何て?」
やはり暗い顔のフェイトがはやてに尋ねた。
「本局の上層部はリンディ統括官が抑えてくれているからええけど、地上本部からは機動6課解散の要求まであったわ」
その答えに皆黙り込んだ。
「一度捕まえた重要容疑者の取り逃がしにヘリの撃墜、おまけにガジェットの殲滅には首都防衛隊の手を借りとるっていうところを本部が突いてきとるみたいやな」
「ごめんはやて。あの時、あたし達がヘリから離れさえしなきゃ」
泣きそうな声でヴィータが答えた。
「?! 違うんや。私はそんなつもりで言うんたんやないよ」
はやては慌てヴィータの言葉を遮る。
「今回の件は、襲撃を予見しきれんかった私にある。もし、私がシャマルとザフィーラを同行させていれば、今回のことは防げたはずや」
「でも……」
はやてが言い終わると、その場にいた他の者がその言葉を否定しはやてに非が無いことを言うとするが、はやては何か言おうとする皆を制して言葉を続ける。
「責任を取るんわ部隊長の仕事や。それに、リンディー統括官が頑張ってくれているおかげで、責任はそこまで大きくないもんになるはずや。それも500機以上のガジェット相手に頑張ってくれた皆のおかげや」
そう言って、はやては微笑みながらヴィータの頭を優しくポンと撫でた。
それに対してヴィータは皆に見られていることもあり顔を赤くし俯いた。
「ほんなら、暗い話はこれくらいにして、これからの事を話し合おか。失敗した分はこれから取り返していけばええ」
はやてはニカッと笑い皆のほうを向いた。
それを見た他の者も表情を幾分か柔らかくし、先程までの重い雰囲気はいくらかは和らいでいた。
「残骸を調査した結果あのガジェット達についてわかったことがいくつかあるから、それについて説明するで」
はやてはそう言うと、コンソールを操作しウインドウを浮かび上がらせる。
浮かび上がってきた映像にはⅡ型が映っていた。
「まずⅡ型からやけど、戦ったみんなは解っていると思うけど。今までの機体と違って新型や。動力炉の出力強化で熱光線の攻撃力、AMFの防御力が向上しとる。それに速度の向上と大型化による積載量の増加で増えたミサイルも侮れんもんがある。特に目新しい技術は使われてないけど、能力の向上は厄介やな」
「そん次はこのⅢ型やけど、発見されたものには2種類があったんや。一つ目が、なのはちゃん達に砲撃をかましてた砲撃型。AAクラス以上の砲撃能力がある。二つ目は、AMF特化型。ゼスト隊の話やとAランクの射撃も無効にしとったらしい。砲撃型にAMF特化型っていうのが厄介な相手なんやけど、それ以外に使われとる技術自体に厄介なもんがあるんや」
そう言ってコンソールを操作して別の映像を映し出す。映し出された映像には、大きく抉り取られた地面に爆風で倒壊したと思われるビルが映し出されていた。
「Ⅲ型には高エネルギーの動力炉が積まれとったらしい。実物はガジェットに自爆されてしまったから手に入らんかったけど。映像を見たらわかるとおり並大抵のエネルギーやない。この動力炉が量産されとるんやとしたら、今までの対AMF戦だけやと対処できんようになるかもしれん」
ここまで、ガジェットの機体を滞りなく説明していたはやてであったが、一度コンソールを動かす手を止め深呼吸をし、表情を引き締めた。
そんなはやてになのは達は少し怪訝な顔をするが、はやては話を再開するのを待った。
「最後になるⅣ型や。これは回収された残骸から、元の形状を復元したもんや」
そういってⅣ型の映像を映し出す。
映像が映し出された瞬間、その場にいた全員が反応した。
映し出されたガジェットは、かつてなのはに重症を負わせ空から堕とした存在であった。
「こいつは……」
ヴィータは目を見開き瞳の青色を濃くし映像を睨みつけていた。
両手は血が出そうなほど握られている。
「そうや、昔なのはちゃんを堕としたガジェットや。至近距離に近づかれても簡単には気付けんほどのステルス能力があるさかいに気をつけて欲しい」
ガジェットについての説明を終えるとはやては、全てのウインドウを閉じた。
「なるほどこいつらが、8年前にふざけたことをしてくれたわけか」
ヴィータは誰にも聞こえないほどの声で呟いた。
「それでこれからの事やけど、今うちにいるあの子達を本局に連れて行かなあかんのとあの施設に捕まっていた子を聖王医療院まで連れて行かなあかん」
あの子達とは捕まえたUNズの事であり施設に捕まっていた子とはカルタスのことである。
UNズは捕まって以来、何も話していないが大きな手掛かりであるのには変わりはない。彼女達から情報が得ることができれば、事件への解決が大きく前進すると期待されている。
カルタスは、人体実験を行われていたことなどから単なる被害者であると考えられているため、本局ではなく聖王医療院へ連れて行き療養させることになった。はやてとしては前回数百機ものガジェットが繰り出されたことを考えると心配であったが、聖王医療院は単なる病院ではなくベルカ騎士も駐在する教会組織の一部であり、襲撃の心配も少ないと上層は判断していた。
「今回は、前回の事もあるから本局から護送の増援が送られてくるから、それまでの間にフェイトちゃんはホクトやギンガと一緒にあの子達から話を聞きだして欲しいんや。できればあの子からも」
本局からの増援は、前回失敗したことにたいする不信感だけではなく、前回の戦いで隊長陣全員が少なくない怪我を負ったためである。
特にヴィータは、無理をしてなのは達の救援に向かったため初期で負った怪我が悪化し、当分の間は激しい運動は禁止されていた。他の隊長陣に関しても、リンカーコアの酷使などから戦闘はできないと判断されていた。
とは言え、信用が落ちていることは確かであった。
そのため、はやてとしては少しでも情報を集め、上層部による情報の統制が行われたとしても何も知らないと言う状況を避けたいと考えていた。
部隊長室から出たフェイトにカルタスが意識を取り戻したという情報がもたらされた。
その報告を受けたフェイトはすぐに医務室へと向かった。はやてに頼まれた情報収集という目的よりもカルタスが心配であるという気持ちがうえであったが。
フェイトは医務室の外でシャマルからカルタスの状態を聞き話しが出来る状態であることを確認すると一緒に医務室に入って行った。
カルタスはベッドで寝ている状態であったが、フェイトが入ってくるのを見るとベッドから起き上がろうとした。
しかしそれを見たフェイトは慌てて止めた。いくら意識を戻したからと言っても、体のほうの疲労や怪我はそこまで良くなっていないため、フェイトは無理をさせたくなかったのであろう。
「はじめまして。私はフェイト・T・ハラオウンです。よろしくね」
そう言ってまだベッドに寝転んだ状態のカルタスに微笑みながら声をかけ、頭を優しく撫でた。
頭を撫でられたカルタスは、顔を紅くし慌てていた。それを見たフェイトとシャマルはそれを微笑ましく見ていた。
『カルタスです。よろしくお願いします』
それに対してカルタスは、喋れないため情報端末に文字を入力して意思表示を行う。 本来なら念話で会話をするればよいのだが、リンカーコアも不安定なため大事をとってこのような方法をとった。
違法研究所にいたせいで声を失ったというのに、意思の強い目を失わずにいるカルタスの姿を見て、フェイトは安心した気持ちと同時に痛ましい気持ちになっていた。
そんな彼に仕事とはいえ、辛い過去を聞きだし情報を集めなくてはいけないことを思うと暗雲たる気持ちになった。
「それじゃあ、君の事を話してもらってもいいかな?」
それでも気持ちを入れ替えフェイトは少しでも彼に不安を与えないために、優しい声でゆっくりとカルタスに語りかける。
『はい』
~side フェイト~
カルタスから話を聞き終えた情報を頭の中で整理する。
カルタス自身についての話を簡単にまとめるとカルタスは私が以前突入した研究所で田中(カルタスが教えてくれたおかげでようやくわかったあの男の名前は、以前名乗っていたとおり田中だった。あの時は偽名だと思っていたけど、どうやら本名を名乗っていたみたい。戸籍が無い以上は意味がないのかもしれないけど)に生み出されたエリオ・モンディアルのクローンの一人で、私が保護したエリオも田中が生み出した一人であるらしい。それは予想していたことであるとはいえ、やっぱり衝撃はあった。
だけど、その後に語られて話の方がインパクトが強過ぎてすぐに衝撃も和らいだ。
カルタスが語ったのは田中についてのものだった。カルタスは田中自身も囚われの身であり、違法研究も強要されて渋々研究を行っていたと言うんだけど……。
はっきりと言って、そんな話は信じられない。この前の戦いと取り調べをした時に田中と相対し言葉を交わした身としては考えようがなかった。
あの時、田中が語った言葉はふざけた口調であったけど、あの言葉は本気だったと思う。じゃなければ、あそこまですらすらと言葉が続くとは思えない。
それにあの目は本当になんとも無い目だった。あの少女達が不利になると話した瞬間もにやつかせた目を変えることは無く少女達を材料に交渉してきた。
いくつもの事件に関わってきた執務官としては、その言葉を信じるよりは田中があの少女達にしたようにカルタスにも洗脳を施したと考えるべきだと思う。カルタスを利用しやすくする為に偽の記憶を与え、思考を誘導にしているのだと考えたほうが理解できる。
カルタスが語った真の黒幕が管理局の最高評議会であるというのもこの考えの真実味を与える要素だと思う。最高評議会がこのような犯罪行為を行っていたというのは突拍子過ぎる。確かに管理局は完璧な組織じゃない。でも、そんな話を簡単に信じるほど、私は管理局を腐った組織だとは思っていない。
ふとカルタスの目が合った。偽の記憶を与えられたであろうカルタスは本気で田中の心配をし、不安げな瞳で私を見つめていた。
だから私はカルタスを安心させるために嘘とは言えないが本当でもない言葉をかけた。
「大丈夫。私がすべての真実を明らかにするから」
その言葉にカルタスは安心した顔を見せてくれる。
そんな顔を笑顔で見ていたけど、内心ではそんな顔をするように仕向けた田中に対して憤然たる思いだった。
~side カルタス~
最初はどうかなるかと思ったけどなんとかなって良かった~。
この前の戦闘でフェイトの田中に対する感情は最悪になっていた思っていたから、俺の話を信用しないんじゃないかと思ってただけに安心した。
やっぱり、フェイトは優しいのだとおもう。
ここまでくると後は逃げ出した田中だけが問題だなぁ。
なんでも詳しくは教えて貰えなかったが、護送中に逃げ出したらしい。なんで逃げ出してんだよ……。
田中を説得できれば大団円で終わると思ったんだけどなぁ
でも、やっぱり前回のこともあるし完全な無罪で終わるって言うのは難しいのかなぁ。フェイトさんも『すべての真実を明らかにする』とは言ってくれたけど、田中の処遇については、何一つ具体的に言ってくれなかったしなぁ。やっぱり多少の刑罰はあるのかな?
例えそうだとしても田中には自首して欲しいと思う。
このまま逃げ続けてもどうにもならないと思う。このまま原作通りに行けば最高評議会も全滅して逃走の補助は完全に無くなるだろうからいずれ捕まる……。そうなればより罪は重くなるだろうし、期間があけば最高評議会の罪も隠蔽されるんじゃないかと思う。
それよりは、他にいるであろう憑依者に協力してもらって最高評議会の罪を暴いてもらえば大幅に減刑されるだろうからその方がいいと思う。
他の憑依者もゼスト隊を助けている所をみる限り悪い人じゃないと思うし。
う~ん。やっぱりそれしかないよな。
~あとがき~
新年明けましておめでとうございます。
投稿がだいぶ遅くなってしまってすいません。
原因はリアルでのできごとによるモチベーションの低下でした。
去年は最後の最後で不幸が続きまくったおかげで、やる気がなくなってしまいました。
徐々に持ち直してきたので、少しずつでも投稿量を増やしていきたい所存です。
前回アンケートの結果
KAKUGEN存続希望票が多かったので存続決定です。
>せつなさみだれうちさん
だぁかぁらぁぁぁぁぁ
POEMではなくKAKUGENNですってば。
>mujinaさん
作者が聞いた格言の影響を受けた格言(笑)は書きますが、実際に使われている格言をそのまま使用する予定はあんまりありません。引用という形で使用することはあるかもしれませんが。
>はきさん
他のオリキャラの格言は隙があればやっていこいうかと思いますが、たぶん回数はあまり多くならないと思います。
感想はすべて読んでいるのですが、返信は一部だけとさせていただいています。
申し訳ありません。
投稿日:2010/01/01 00:14