世の中は常に動いていく。
しかし自分が考えたとおりに動くとは限らない。
むしろ、違う動きをすることが大半だ。
by田中雄一
第22話 「戦果」
~side out~
なのはとフェイトは、大量に押し寄せるⅡ型を順調に撃墜していた。
最初は、大量のミサイルに翻弄され押されていたが、時間が経つにつれミサイルを失い熱光線で攻撃を仕掛けようとする機体が増えたため攻撃の間隔が広がり、なのは達が攻撃するチャンスが生まれた。
結果、なのはは真骨頂である砲撃を撃てる時間を得ることになり、大量のⅡ型がピンクの光に飲み込まれ爆散していった。
すでになのは達は100機近くのⅡ型を撃墜する事に成功しており、残りの機体も大半がミサイルを失っている状態であった。
Ⅱ型を壊滅させるのは時間の問題になっていた。新型は時たま砲撃しに出現するが撃ち終わるとすぐに引っ込むためまだ撃破できていないがⅡ型を壊滅させれば、機動力の無い新型はすぐに破壊できると思っていた。
しかし、そんな時にヘリの下を探査していたサーチャーが異変を知らせてきた。
「なっ?!」
サーチャーから、なのはに送られてくる映像には、ヘリが撃墜される姿が克明に映されていた。
何の予兆も無くヘリが堕ちたことで、なのはとフェイトは一瞬呆然となるが、すぐにヘリの元へ向かおうとする。
しかし、その行く手をⅡ型が塞ぐ。ミサイルを使い果たした機体が大半とはいえ、まだ100機以上の機体が残っているその戦力は、足止めには十分であった。
「フェイトちゃんは、先に行ってて。私はちょっと掃除をしてから行くから」
一人がⅡ型を食い止めれば、一人はⅡ型を振り切ってヘリの元へ行くことが可能である。なのははそう判断し、フェイトに告げた。
「でも……」
しかし、フェイトは即答することを躊躇っていた。ここでなのはを置いていけば、無茶をするのではないかと心配してのことであった。
「早く行って!! 間に合わなくなる!!」
語気を強くし、なのはがフェイトを促す。
もしヴァイスが生き残っているのなら、速やかな治療が必要である。1分1秒が生死を分ける。ここで、無駄に時間を浪費するのがもっとも愚かなことだ。
なのはは、絶対にここに残るだろう。なら、友の意思を無駄にしてはならないと考えフェイトはなのはに応える。
「わかった。でも無茶しちゃ駄目だからね?」
「うん。わかってるよ」
心配そうに声をかけるフェイトに対して、なのはは笑顔で答えた。
その直後には、フェイトはヘリに向かって飛行を始めた。進行を塞ごうとしていたⅡ型を擦れ違いざまに2機切り捨て、最大速度でヘリへ向かっていった。
それに反応して数機のⅡ型が追いかけようとしたが、なのはのアクセルシューターによって撃墜された。
「ここから先は通行止めだよ」
レイジングハートをⅡ型へ向けて宣言した。
フェイトが最初に見たものは、撃墜され黒煙を上げるヘリとこちらに向かってくるⅡ型の編隊であった。
このⅡ型はUNズ側が用意した最後の予備兵力であった。もし、なのはとフェイトが二度目の襲撃で分かれて行動した場合にヘリと切り離すために用意したものだ。
しかし無事に田中を救出させることに成功したため、なのはとフェイトを殲滅するために投入してきたのだった。
ヴァイスの安否の確認と田中の所在を確認したかったフェイトであったが、Ⅱ型との交戦を余儀無くさせられた。
数は50機程であったが、ミサイルを完全装備しているため、最初と同じ状態になってしまった。いや、なのはがいないため完全に撃ち落すことができず回避に力を入れなくてはならずそのぶん不利であった。
視界を覆いつくす程のミサイルが襲い掛かってくるが、フェイトは機動力を活かし回避していく。
しかしいくら回避能力に優れていても数が多いため、至近距離で回避しなくてはならないミサイルもでてくる。しかし、そんなミサイルは内部のコンピュータによって自動で自爆していく、その爆発は装甲の薄いフェイトにとっては軽いものではなかった。
だが、フェイトもただやられるだけではない。隙をみてはプラズマランサーを撃ち込み、擦れ違いざまに切りつけⅡ型を撃墜していく。
ヘリの落下地点から離れるわかえにいかないため機動力を十分に活かせないが、それでもⅡ型に対して五分以上の戦いを繰り広げていった。
このままいけば、時間はかかるが全機撃墜するのは不可能ではないだろう。
ただし、そこにいるのはⅡ型だけではなかった。
ステルス機能を使用しながらⅣ型がフェイトの背後から忍び寄っていた。
フェイトが高速で移動しているため攻撃を仕掛けるタイミングが無かったが、Ⅱ型のミサイルをバリアで防いだためにフェイトの動きを止った。その瞬間を狙い、両腕の鎌で切りつけた。
しかし鎌の刃がフェイトに当たる前にⅣ型が爆散した。
「何?!」
一番驚いていたのは、フェイトであった。フェイトにとっては何もない空間が突然爆発したのであるから当然であろう。バリアをはっていたため無傷とはいえ、驚きは隠せない。
「フェイトさん無事ですか?!」
フェイトの眼下にはコンクリートの岩陰に隠れながらストームレイダーを構えるヴァイスの姿があった。
ヴァイスはヘリが落されたるのと同時にヘリから飛び出し、ビルにアンカーを打ち込むことで落下を防いでいたのだった。
その後は、Ⅱ型と空戦を開始したフェイトの援護をしようと移動し、ストームレイダーを構えていたが、フェイトの背後に迫るⅣ型に気付きをそれを撃破したのだ。
ちなみにⅣ型に気付けたのは、Ⅳ型にヘリの破片が載っていたためだ。高性能なステルス能力を持っているのにそれを無駄にするⅣ型は間抜けだが、空戦のために視野を広くし大まかにしか見ていなかったとはいえ、フェイトが気付けなかったほど小さな破片に気付けるほどの注意力を持つヴァイスの能力の高さが窺えるとも言える。
「よかった無事だったんだ」
フェイトはヴァイスが無事だったことに安堵し息を吐いた。しかしすぐに気を引き締め、バルディッシュを構えなおすと残りのⅡ型へ向かった。
~side NO893~
ちっ!! 忌々しい!!
死に損ないのヘリパイロットのせいで、Ⅳ型の奇襲が失敗した。
まだ付近に何体かのⅣ型はいるけど、警戒した状態の金髪女をもう一度奇襲するのは難しいそうよね……。
ミサイルも機体数もまだあるからなんとかできそうだけど、時間がかかるし機体の損失が増えそうねぇ。
せめて、AMF発生に特化させたⅢ型が近くにいればいいけど、すべて白い奴のところにいるのよねぇ。ヘリと戦力、最後の引き離しがどこになるのかわからなかったから仕方がないけど。まさかここまで苦戦するとは思わなかったわ。
でもまぁいいわ。このまままとめて始末すれば何の問題も無いもの
妹が勝手に桃いのと赤いのを殲滅を始めたけど、それも問題は無い。あの2匹を始末する必要は無いけど、ヘリの襲撃を妨害にするのを阻止するために時間稼ぎをする必要はあった。それを始末するように変えただけでしかない。
被害が増えるけど、始末するほうが費用対効果は高い。始末できるだけの戦力があるんだもの。誰でもそうする。私もそうする。
ミサイルを装備したⅡ型が飽和攻撃を仕掛ければ回避能力に長けた金髪女でも完全に避け切るのは不可能だわ。当たりさえすればそのうち墜とせるはずだしね。
死に損ないが増えた程度でこの運命は変えられないわ。
あの白いのも今は善戦しているけど、こちらが徐々に押している。金髪女がいないおかげで、Ⅲ型の砲撃もバリア越しとはいえ当てる事ができるようになってるしね。
ここで落しさえすれば、戦力を金髪女に回せるから一気にかたがつくはず。
桃いのも赤いのも映像を見る限りかなり消耗しているみたい。こちらの被害もかなり増えているけど、援軍を回すまでもなく撃墜できそう。
敵の援軍の心配があるから時間はあまりかけれないけど、それでも少なくとも到着までにあと二十分は掛かるはず。
~side out~
シグナムとヴィータは、あれから50機以上のⅡ型を落していた。が、二人もまたボロボロになっていた。
致命傷こそ受けていないが何度も攻撃を受けており、騎士甲冑も破損が目立つようになっていた。ガジェットが原作よりも強力になっていることもあるが、リミッターによる速度、防御力の低下が大きな原因であろう。
そして現在、ガジェットは二人に止めを刺すべく周りを包囲し、突入のタイミングを図っていた。
「思っていたよりはやるみたいだな」
シグナムと背中を合わせた状態で、ヴィータが不敵に笑う。しかし、息は荒く余裕は無い。
「機械兵器ごときだと侮り過ぎたな」
それにシグナムも不敵に笑いながら応じた。
Ⅱ型は先程から体当たりによる自爆も辞していない。Ⅱ型の持つ質量とエネルギーはそう何度も耐えられる物ではない。
二人は敗北の可能性を感じていた。地上に隠れれば密度の高い攻撃は避けられるだろうが、それからは一方的に攻撃されることになる。そのため、地上に降りることも躊躇われていた。
しかしⅡ型が攻撃に移ろうとしていた時、二人は高魔力反応を感じ取った。
そして次の瞬間には、数機のⅡ型が爆散し、二人の目の前に数人の人影が現れた。
「首都防衛隊のゼスト・グランガイツだ。救援に来させてもらった」
ゼスト隊が到着したことで戦況は大きく変わっていた。
ランクが高いとは言えない航空魔導師が多いとはいえ、熟練された技と連携でⅡ型を落していった。いかにⅡ型が個体での戦闘能力が高く、瞬間瞬間での状況把握能力が高いとは言え、それなりの数がいて連携の取れた相手では戦闘アルゴリズムにも限界があった。おまけにリミッターの無い高ランク魔導師であるゼストも参加することで、なす術もなく落される。
あくまで、Ⅱ型の長所は物量とそれを生かす状況把握能力なのである。
一方、なのはがいた戦域でも変化があった。
変化の始まりは、なのはに対して行われた近距離での念話であった。
<こちら、首都防衛隊のクイント・ナカジマです。これより、地上の敵戦力を殲滅します>
その念話の直後、地上から空のなのはを狙っていたⅢ型とその護衛のⅠ型に対してゼスト隊の攻撃が開始された。
多数の砲撃型のⅢ型は廃墟の影に陣取り、自身を中心にⅠ型に円陣を組まるというスタイルで分散していた。
それらのガジェットの一団に対してクイント率いる分隊が戦闘に入っていった。
一人突出し接近するクイントに対して、ガジェットは接近するにクイントへの迎撃を開始した。全機体の熱光線がクイントに集中するがそれらをすべて回避しながら、接近していく。チャージの終わったⅢ型の高出力砲撃も放たれるが、それすらも機敏な動きで避け、手近なⅠ型を叩き潰す。
そして、次々とⅠ型がクイントのリボルバーナックルに破壊されていく。一度懐に入り込まれ乱戦になると、近接武装の乏しいⅠ型やⅢ型はなす術はなった。
陣形の乱れたガジェットに対して他の局員も攻撃を開始することで、ガジェットは離脱することも適わず殲滅されていった。
しかしメガーヌに襲撃されたガジェットはさらに悲惨であった。
周辺の廃墟ごと地雷王によって吹き飛ばされ、Ⅲ型は廃墟に押しつぶされ、生き残ったⅠ型も他の局員によって破壊されていった。一部のⅠ型はメガーヌを攻撃しようと試みたが、メガーヌの護衛に当たっている局員によって破壊されるだけであった。
これらの戦闘によって、廃墟の影ではなく完全に廃墟の中に身を隠していたAMF特化型のⅢ型とその一団を除き、次々と壊滅されていった。
対航空魔導師用に分散していたことが裏目に出る結果となっていた。分散することで、航空魔導師からの攻撃で一度に壊滅することを避けていたが、本格的な陸戦部隊が出てきたことで戦力が大幅に低下していたガジェットは防戦一方になっていた。
並みの陸戦魔導師が相手ならAMFの影響もあるので倒すことが出来るだろうし、それが無理でもⅠ型を殿にすることで逃亡は可能であろう。
しかし、シューティングアーツの使い手でありAMF状況下でもかなりの戦闘能力を発揮できるクイントに、強力な召喚虫を操るメガーヌの二人、そして他の局員が二人の補助をすることで、逃亡すら出来ぬ状況となっていた。
次々と送られてくる映像を見て、NO893は放心していた。
「嘘でしょ……。何でこんなに早く動けるの? これじゃあ、全員を始末するなんて無理じゃない……。それにこれだけ敵戦力が増えたら、こっちが全滅する可能すら……」
力ない言葉を呟き、体の震えが止まらず目の焦点も合っていない状況で両膝も地面に着けていた。
目の焦点はすぐに戻ったが、体の震えは止まらず言葉は溢れてくる。
「これじゃ、私が手に入れることができる戦果はほとんどないじゃない……。マスターは助けることが出来たけどそれは出来て当たり前の戦果。報復に護衛メンバーを殺害するのも他の姉妹との暗黙の約束だっていうのに……。少なくともⅢ型の目撃者殺害すら失敗した現時点で、私が捕まった姉妹の後釜にすわること対して横槍が入るのは必至よね……。なんとかして、戦果を少しでも手に入れておかないと私の先が無い。せめて、金髪女か白い奴のどちらかだけでも殺さないと……」
一通りの言葉を吐き出すと、両膝を地面から離し立ち上がった。
そして、コンソールを操作しガジェットを操り始めた。
地上での戦いが激しくなってきた頃、フェイトを囲んでいたⅡ型の大半が一斉に移動を開始した。無論、それをフェイトが黙って見過ごすはずもなく遠ざかろうとするⅡ型に対してフォトランサーを撃ち込み数機を撃墜するがそれでも他の機体はスピードを緩めることなく遠ざかっていく。
フェイトが追撃を行おうとした瞬間、残っていたⅡ型が体当たりを始めた。無論、そう簡単に当たるはずも無く難なくかわしが、切り付けようとした瞬間に機体が爆発し、フェイトにダメージを与える。
しかもⅡ型全機が殺到し始めたため容易に追撃できる状況ではなくなった。
Ⅱ型は完全に戦力の温存、費用対効果を無視した行動を取り始めていた。
シグナム達に対しての体当たりとは違い、撃ち落される確率が高く成功率の低い場合でも躊躇なく突っ込んでいた。完全に足止めのみを目的とした行動であった。
そして、なのはの方でもⅡ型による体当たりが始まっていた。
こちらでも全機がただ只管に突っ込んでいた。
なのはもそう容易く体当たりを受けるような魔導師ではないが、全方位から味方同士による同士討ちを気にせず熱光線を乱射しながら突撃してくるⅡ型を完全にかわしきることはできなかった。
なのはのアクセルシューターが数機のⅡ型を撃墜すると、1機がなのはに接近するという具合だった。なのはは回避しようとするが、Ⅱ型は接触が不可能と判断した時点で自爆していき、少しずつとはいえ確実になのはへダメージを与えていった。
ほんの1、2分の間に4、50機のⅡ型が堕ちたが、確実になのはのバリアジャケットを削り消耗させていた。
見るからに、なのはは消耗しておりそう何度も耐えれないという状況であった。
しかし、Ⅱ型はそんななのはに止めとばかりに八方から同時に接近していった。なのはのアクセルシューターが1機、2機、3機、4機、5機と撃墜していったがそこで展開していたアクセルシュータが尽きた。新たに展開していたのでは間に合わない、そう判断したなのはがバリアを展開し衝撃に耐えようとしたその時、接近していたⅡ型が爆散していった。
「空でなのはを守るるのはあたしの役目だからな」
鉄(くろがね)の伯爵グラーフアイゼンを構えた鉄槌の騎士ヴィータが誰に聞こえることなく呟いた。
ヴィータはゼスト隊が来たことで戦域が落ち着いたため、シグナムやゼストに後を任せ救援に駆けつけたのだ。
ヴィータが加わったことでなのはやフェイトが戦っていた戦域も急速に鎮圧されていった。
「……終りね。残ったガジェットは自爆させてデータ解析されないようにしないとね……」
それだけ呟くと。
NO893は配下の妹達と共に撤収していった。