自分が考えていた人物像と実際の人物では違うことがある。
しかしそれを嘆いていても仕方がない。
重要なのはこちらに与える結果なのだと割り切ることだ。
by田中雄一
第17話 「ドナドナな田中」
~side NO893~
現在、私はマスターを救出するための作戦を実行しようとしている。今日、マスターは管理局から本局にヘリで移送させられることになっている。そこを襲撃する。
こんなことをしているというのもあの愚か者共のせいだ。製造された順番が50番以内というだけでマスターの周りで活動することを許されただけの能無しだ。
幸運にもマスターのそばで活動できるというのに、マスターを守ることも出来ずに管理局に捕まった愚かな姉達。
しかし、不謹慎だけどこれは私にとってのチャンスでもある。
本来なら私は管理局襲撃時の部隊に配属されるはずだった。でもマスターが捕まったため、現段階においてもっともガジェット運用能力のある私が救出作戦を実行することになった。
もしこの作戦が成功したら、私がマスターの傍で活動を続けることも可能になる。そうなれば、私がマスターにとっての一番になることも不可能じゃない。まぁ、作戦に参加する配下の妹達も傍にいることになるだろうけど、それは我慢しよう。ただし2番以下ならね。
それ以上を望むなら退場してもらおう。何処からとは言わないけれどね。
まぁいいわ。今は作戦のことだけを考えましょう。捕らぬ狸の皮算用をしても仕方が無いしね。
ガジェットのレーダーがマスターを乗せたヘリを捉えた。ガジェットから送られてくるデータを確認すると、自然と口元が綻んでしまう。
時間通りね。地上本部から流される情報もそれなりに使えるわね。
さてと、それでは私の夢を実現するために動くとしましょう。
~side out~
現在ヘリの中には、パイロットであるヴァイスの他に、なのは、フェイト、ヴィータ、シグナムそして田中がいた。
会話はない。田中が他の5人と話をすることもなければ、4人が犯罪者の前で会話をすることもない。
だが、突如その沈黙は破られた。
「!! ミサイルにロックされました!!」
ヴァイスの声によって緊張がはしる。
「私とヴィータが出る。テスタロッサ達は、ヘリの防衛を頼む」
「うん。シグナム達も気をつけて」
シグナムとフェイトが声を掛け合い終わると、シグナムとヴィータはヘリから出撃した。
「ちっ!! うじゃうじゃといやがる」
ヴィータは愚痴を零すが、手は止めずに次々にミサイルを撃墜していく。
「たしかに切りが無いな」
シグナムも愚痴を零す。
ヴィータとシグナムの前には、約50機のⅡ型が2機ごとに編隊を組んで飛行している。
すぐにでも壊滅させたいが、Ⅱ型はアウトレンジからのミサイル攻撃を主体にした戦法で襲ってくるため、ベルカ式の二人ではなかなか数を減らすことができない。
また、接近し破壊しようにもⅡ型が広範囲に散らばっているため、接近してもすべてを破壊することができない。下手をすれば離れているⅡ型がヘリの方へ向かわれてしまうという危険も付きまとうためある程度の距離を保ちすべての敵を牽制しなければならない。
むろんシュワルベフリーゲンやシュツルムファルケンといった遠距離魔法を使用すれば撃墜することは可能だが、シュツルムファルケンは隙が大き過ぎる上に多数を相手にするには向いていないため使用できない。
よってヴィータのシュワルベフリーゲンに頼ることになるが、ミサイルを絶えず発射してくるため迎撃にも力を入れねばならず、結果として撃墜数は上がらない。
「でも、ヘリから遠ざけることはできたな」
シュワルベフリーゲンでミサイルを迎撃しながらヴィータが呟いた。
時折、何体かのⅡ型がヘリへ向かおうとするが、それらは全て二人によって撃墜されており、Ⅱ型をこの場にとどめることに成功している。そのおかげでヘリはすでに20km以上離れている。
「だが少し簡単過ぎたのではないか?」
「そうか? こいつらが賢くないのは前からだろ?」
シグナムが疑問をあげるが、ヴィータは軽く返す。
いかに二人が強いといっても、ガジェットは数が多いため無理に突破をかければ半分とは言わないが、四分の一程度は突破することが可能だ。そう考え疑問を挙げたシグナムだった。
「たしかに戦法は変わってるみてぇだけど、動きはパターン化されたことの繰り返しみてぇだし考えすぎじゃないのか?」
「それもそうか……」
納得しきれた訳ではなかったが、シグナムも納得の声を返した。
今回は撃墜に梃子摺っているが、それは相手の動きが良いからではない。戦闘アルゴリズムが変わっているだけで性能自体はそれほど変わってはいない。
「ん? 動きが変わった?」
動きを変化させたⅡ型を見てヴィータが呟いた。
2機での編隊は変わっていないが、今まではバラバラに行動し攻撃してきていたのが、全ての機体がこちらから大きく離れていった。
それを見たヴィータとシグナムは逃げられると思い。追撃を始めようとした。
これだけのガジェットを見逃せば後の憂いになる上に機動六課の立場も悪くなる。そう考えた二人は全力で追撃を始めた。
これ以上、ヘリとの距離が開くことには躊躇いがあったが、フェイトとなのはが機械兵器ごときに不覚を取ることは万に一つも無いと考え行動を開始した。
シグナムとヴィータはヘリからⅡ型を引き離すことに成功した。
しかし、これは言い換えればⅡ型がヘリから二人を引き離したとも言える。
シグナムとヴィータの二人が追撃を始めたのと同時にヘリでも動きがあった。
現在、ヘリの中にいるのはバインドで簀巻きにされた田中と操縦しているヴァイスだけで、なのはとフェイトは外でヘリと平行飛行し、護衛に当たっていた。
「フェイトちゃん!!」
なのはがフェイトに注意を促した。
そしてすぐに二人はバリアを張り防御にあたった。
バリアの発生とほぼ同時に光の濁流が二人に襲い掛かかる。
光の発生源には原作ではⅢ型と呼ばれるガジェット2体が地上に鎮座していた。ただし、原作と違い大型の砲を装備し、単純な出力さだけでも数倍の性能差を誇る。
「あれは新型?」
フェイトがⅢ型を見て呟いたが、次の瞬間には意識を切り替えた。
地上から大量のⅡ型が上昇してきていたのだ。
「なのは!」
「うん!」
二人は完全な戦闘態勢に入り迎え撃とうとしていた。
「これは罠に嵌められちゃったかな?」
「……たぶん」
なのはが苦い顔をしながらフェイトに問いかけ、それに対しフェイトも苦い顔で答えた。
今まで何の反応が無かった事から、ガジェットは稼動していない状態で地上に配置されていたことが窺える。Ⅱ型から回避できたと思っていたが、それはただ単にこの場所に追い込まれただけだったのだと二人は悟ったのだ。
そして状況はさらに悪化する。
「駄目だ。念話が使えない……」
二人からは見えない位置にいるが、強力なAMF発生装置を装備したⅢ型が多数取り囲み、念話を使用できないようにしている。また揚がってきたⅡ型は包囲網を形成しようとしていた。
アグスタを経験していない彼女達には、ガジェットは設定された目標に沿って行動するといった固定概念があった。随時、人がガジェットに命令を与え続け操作するという可能性を失念していた。
「今のところ順調ね。でもここからが本番か……」
NO893は離れた場所から戦闘の様子を窺っていた。
今回の作戦は勿論、田中の救出が第一目標であるが別の目標もある。
今回の作戦に参加しているガジェットは地上本部襲撃時に使用する部隊をそのまま使用している。そしてその中のⅢ型を出撃させていることが、その別の目標行う理由に直結している。
本来ならⅢ型は、地上本部の襲撃で初実戦を行う予定であった。
地上本部の襲撃と同時に高ランク魔導師及び教導隊に襲撃をかけ壊滅させ、Ⅲ型への有効な対策を立てる事を不可能にし、そのままゆりかご浮上を行う手筈であった。
Ⅲ型を管理局に認知させないことで、対策をたてさせず技術的奇襲を行い圧倒するはずであったが、今回の作戦で認知されてしまう恐れがでたのである。
よって今回の作戦では、Ⅲ型を目撃した人物を全て抹消する必要がでてきたのである。そのため、Ⅲ型の高濃度なAMFを加えたジャミングを行いあらゆる通信を妨害しているのである。
「さぁ、管理局のエースの皆様には舞台から退場していただきましょう。マスターを連れ去ったことを後悔しながら死んでいってもらいなさい」
NO893が配下の妹に声をかけ、作戦を第二段階へと移行させた。
あとがき
UMズがなんだかヤンデレ気味です。こんな思考をしていても見た目はとてとて歩く美幼女なんだぜ。
最初の設定では、心優しい少女って設定だったはずなんだが一体何を間違えたんだか……。
それはそうと今回は少なめです。
本当はもう少し先まで進めたかったんですが、昨日は弟をオープンキャンパスへ連れて行ったりしていて時間切れになりました。
なら完成してからとも思ったんですが、また明日から滋賀の方へ行かなくてはならなず、次に投稿できるのは遅くなりそうなんで投稿しちゃいました。