猫を被るということ言葉がある。悪いことのように聞こえるがそんなことはない。
仮面を被り本来の己と違う自分を他人に見せるのは普通のことだ。
面接で素の自分を出す奴なんていないだろ?
by田中雄一
第17話 「三人目」
まぁ、それなりに良い情報は手に入ったか。
フェイトが出て行ったドアを見つめながら、手に入れた情報について考えを巡らせる。
とりあえず、わかったのはゼスト隊の面々は生存。ティアナの兄者も生存。スバルの母者も生存。ヴァイスの妹者は失明していない。フェイトさんの制服姿もエロイ。
そして何よりも大事なのが、スバルにホクトという姉がいることだな。
この流れからすると、憑依者なんだろうねぇ。クイントになんらかの助言を与えて、ゼスト隊壊滅を阻止って所かな。ヴァイスの妹さん人質事件で、クイントが活躍って所から考えるとこれもホクトが助言してるんだろうねぇ。ということは、ティアナのほうも同じ流れなのか?
そこから導き出されるホクトの人物像は、最高のハッピーエンドを求めるオリ主。
……厄介だよなぁ。色々な意味で。
これからのことを考えると絶対俺の計画を邪魔するよなぁ。俺の計画だと原作知識を活用して、聖王を機動六課に渡さずに確保、地上本部襲撃で機動六課主要メンバー殺害って作戦だったんだけど、確実に無理だね。ようやく原作知識使えると思ったんだけどなぁ。
ゼスト隊が生きている時点で敵戦力が大幅にUPしている上に、敵にも憑依者がいるから原作知識が役立つかも微妙。俺と憑依者の間で、相手がいかに原作知識を活用するかを考えて対策を立てるという化かし合いになるだろうからなぁ。
まぁ、ヴィヴィオはガジェットに反応して起動したっぽいから、トラックにレリックを載せなかったらなんとかなるかなぁ。
でも、ガジェットが無くても勝手に起動しそうでもあるんだよなぁ。そのための対策もしとけば大丈夫か?
まぁ、こうやって色々と考えても全部UNズが俺を助けてくれることが前提だけどな(泣)
そんなことを考えていると、ドアが開いた。
一人取調室に残されたのは、はやてが直々に取調べでもするためだろうと思っていたが、入ってきたのは予想と反し別の人物だった。スバルと似た顔でスバルよりも長い髪をしていたので、ギンガだと思ったがすぐに違和感を覚えた。
長い髪と思ったが、よく見れば肩までしかない。
あぁ、こいつが……。
「初めまして、あんたがホクトか?」
軽いジャブの代わりに、あくまで笑顔で挨拶をしてくおく。
「初めまして、えぇ私がホクトよ」
それに対してこのオリ主は笑顔で答えてきやがった。
可愛いのが逆にむかつくぜい。
「ところで、この会話は監視されていたり、録音されていたりするわけ?」
重要なことなので聞いておく、監視されているなら憑依者ってことがバレないようにするために、出来る会話が限られるからねぇ。
まぁ、こいつがバレてもかまわないって考えているならこちらとしては、どうしようもないけどね。必要となればこいつも原作キャラにバラすだろうし、信じられる信じられないは別にして。
「いいえ。ここでの会話は一切記録されていないわ」
「なるほど、それなら安心して会話ができるな」
「えぇ、だから何も心配せずに会話が出来るわよ。介入者さん」
あくまで笑顔だが目が笑っていない。っていうよりも若干鋭い。
最高のハッピーエンドを求めるオリ主っていう推測は間違ってなかったというわけか。
「それはお互い様でしょ? 介入者さん」
向こうも笑顔。こちらも笑顔。
でも、この空間の沈黙は物凄く剣呑。一応笑顔だけど居た堪れないぃぃぃぃ。
「あなたは、どうして介入なんてするの? それも悪い方に」
笑顔を消し、真剣な目つきで話してくる。
ここからが本気と言うわけか。さて、どうするか。正直に話す必要も無いが、話さない必要も無い。
むしろ真実を俺に都合がいいように折り曲げて伝えた方がいいか……。
だが、ここはあえて本音でいかせてもらおう。ここで、こいつの心証を良くしていても対した益にはならないだろうし、なによりも俺はこいつに俺の人生について批評してもらいたい。
別にこいつに共感されたいわけでもないし、否定されても生き方を変える気も無いが、俺の人生が他人にとってはどのように映るのかが知りたい。
憑依という特異な人生のおかげで他人に話せないから、こんな機会は二度とないかもしれない。
「立場の違いだね」
「立場の違い?」
首を傾げながら聞き返してきた。
「あんたはナカジマ家に保護されてぬくぬくと育てられてきたんだろうが、俺は最高評議会に捕らわれ違法研究をさせられてきたんだ。自由を得ようと思うなら、管理局を瓦解させなければならないと考えるのは普通だろ?」
言い終わると、肩を落としながら溜息を吐いた。
言いたいことを言えたからか、少し肩が軽くなった。
「もしそうだったとしても、いえ、そうだったのなら尚更あの娘達のような不幸な存在を生み出すべきではなかったはずよ! 何故、自分と同じ境遇の者を増やそうというの?!」
目の前の女は、少し語気を強くして言い放った。
確かに、言ってることは正論だと思う。でも納得は出来ない。
「それは持てる者のエゴだと思えるけど? クローンを作って管理局に反抗するというのが駄目だと言うのなら、俺はどうすれば良かったんだ?」
姥捨て山に老人を捨てるのを非人道的だと言うのは簡単だ。だが、それはただの自己満足でしかない。
老人を捨てなければ、その者は老人共々と餓死するのだから。
捨てたくて捨てるのではない。捨てると言う道しか見つからないから捨てるのだ。
文句を言うのなら解決方法も教えなければ意味が無い。
「機動六課に助けを求めるなり、何らかの方法があったはずです」
厳しい表情を崩すことなく、淡々と言葉を紡いでいくホクト。
たしかに、それも考えたことが無いわけじゃないけど。
「仮に俺が助けを求めたとして、どうなると言うんだ? とりあえず、機動六課には保護されるとは思うよ。でもさ、その後は? 本局に連れて行かれて、上層部の意向で合法・非合法問わずに抹殺されるのは目に見えているじゃないか」
「…………」
厳しい表情は崩れることは無かったが、返答は無かった。
「俺がもし今と違う立場だったら、また違った道を歩んでいたはずだよ?」
好きでこんなことをやっているのではないという意味を込めて言い放つ。
もし、俺がこいつと同じような境遇なら、それこそ俺が最高のHAPPY ENDを目指していたと思う。
…………………………………………。
ごめん。嘘吐いた。
たぶんハーレムエンド目指してた。出来る出来ないではなく、ハーレムは男の夢だろ!! まったくもって興味がないなんていう奴はいないはずだ!!
目指してもたぶん失敗するけどな!!
俺が馬鹿なことを考えていると、ホクトは表情に若干の憂いを加えた表情で喋りだした。
「……それでも私は、あなたがやってきたことを認めることはできません」
ホクト的には、『自分の勝手な悲しみに、無関係な人間を巻き込んでいい権利は、
どこの誰にもありはしない』ってことなんだろうねぇ。
それを別に否定するつもりはない。むしろ立派だなとさえ思える。でも、それに俺が共感することも無い。
「別に認めてもらおうと思って話したわけじゃない」
まぁ、俺としては最初から俺の意見に賛成してもらえるとは思ってなかった訳だし、言いたいことを言えてスッキリさせてもらったんだから御の字だね。
「……聞いていた話とは、あなたの人物像が違いますね」
ホクトがポツリと呟いた。
「ん?」
俺の人物像っていったいどんなのだよ。
クローン技術を利用してまでロリっ子を大量生産する変態とか思われていたら流石に嫌だぞ。
「報告では、常に相手を馬鹿にしたような態度で挑発的とあったんですけどね。確かに挑発的ではあるけど、報告のようなものと違いますね」
報告って言うと、フェイト達が書いたものか?
まぁ、確かにすき放題やったわな。
「RPGって知っているか?」
「RPGですか?」
ホクトは顔に困惑の表情を浮かべ、俺に聞き返してきた。
「そうだ。ソ連の携帯対戦車グレネードランチャーだ」
「…………」
ホクトは微妙な表情を浮かべて、こちらを見つめてきた。
「いや、そこはつっこめよ」
いや、つっこんでくれないと。
なんだか俺がKYな人みたいじゃないか。
「まぁいい、role playing game つまり役割を演じる遊びだ」
「つまり、あなたの今までの態度は演じていた物だと? しかしいったい何のために?」
納得し切れていない顔でホクトが尋ねてくる。
「やる気を出すためさ。悪役を演じることで自分を騙し、チート主人公に対しても怯まずに挑発することができる!」
俺がいい事を言ったところホクトは何故か呆れた顔になった。
何故、呆れた顔をするのかが理解できない。演じるということは非常に重要なことだし、自分を騙すということも、仕事をするうえで効果的だということは、心理学の本やビジネス書にも書かれていることなんだぞ?
「挑発する必要が何処にあるんですか?」
あぁ、そっちか。
なんで挑発すかってそりゃぁ、
「相手を挑発することによって、相手の精神状態を乱し隙を作らせ、そこを攻撃する。アニメや漫画の基本じゃないか」
実際、この戦法で先の戦闘ではフェイトさんに一撃かませたし悪い戦法ではないはz…………今度は可哀想な者を見る目で見られている気がする。
「それは置いておくとして、あのエリオのクローンもあなたが生み出したのですか? これまでの取り調べでもはぐらかしてきたようですが」
あれ? なんで話を変えるの?
別に他の話をするのはいいんだけど、なんでこんな区切りの悪い所でかえるんだ?
……まぁいいか、エリオのクローンっていうとカルタスだよな?
「あぁ、一応俺が作ったんだけど、あれって実は憑依者なんだよねぇ」
「!! 憑依者なんですか?!」
ホクトは驚いたようで目を見開いている。
「名前はカルタスって名乗ってる。あいつがこのあとどういった証言するのか予想できなかったからあいつについての情報は喋らなかったんだよねぇ」
「なるほど。それにしてもどうして、カルタスと名乗っているんですか? うちの部隊のカルタスさんと被っていますけど……」
えっ?
被って……いる……だと?
「……そのカルタスってアニメとか漫画でてた?」
いやいや、まったくに記憶が無いから出てきてはいないはず。
「はい」
「……まったく気が付かなかった」
俺もカルタスもまったくもって気が付きませんでした。
誰だよ。108部隊のカルタスって。影薄すぎ、出演しているならもっと濃いキャラになってくれないと。
おかげでいらん恥を掻いてしまったではないか。
「でも別にどうでもいいや、影が薄すぎたため気づかなかっただけです。因果関係は有りません」
「……わかりました」
なんかホクトが若干疲れているように見えるけど気のせいだよね。
俺が悪いんじゃないよね。
雰囲気が悪いし話題を変えるとしよう。
「で、あんたはこれからどうする気?」
「これからとは?」
ホクトは、疲れた顔を一変させ厳しい表情に戻っていた。
会話がフレンドリーになっていたけど、こっちへの警戒は解けていなかったみたいだねぇ。
ただのお人よしではないようだ。でも、顔に出やすいから効果は半減だな。
「ヴィヴィオを攫わせないとか、レジアスを死なせないとか、サウンドステージXやForceでも介入するのかってこと」
「それを聞いてどうしようというんです?」
さっきよりも目を鋭くして聞いてくる。
警戒レベルを上げられたか、もし助け出されたら活用できるかと思って聞き出そうとしたが無理そうだな。
「なに、もう俺はもう舞台から強制退場だからねぇ。これからこの物語がどうなるのか気になるだけだよ。おそらくこの後は、一生を牢で過ごすか最高評議会に暗殺されるかだからねぇ」
「……………………。残念ながらXやForceは知らないのでどうしようもありませんが、私は少しでもこの物語を幸せな物語にしようと思っています」
ホクトはいい終わると席を立ち出口に向かって行く。
なるほどねぇ。出来る限りのハッピーエンドねぇ。まぁ、せいぜい頑張ればいいと思うよ。
そんなことを考えていると、ホクトはこちらを振り向かずに話しかけてきた。
「地上本部には私の知り合いがいます。あなたを暗殺なんてさせません。それにもしあなたが反省し、やり直す気があるのなら私はあなたを支援してもかまいません」
言い終えると、ホクトは扉から出て行った。
「…………」
その幸せな物語に俺も入っているって言いたいのかねぇ。
結局はただのお人よしさんだな。
まぁ、悪くは無いと思うよ。少しでも人を幸せにしようって考えて、他人のために何かをするってのはなかなかできる事じゃないからねぇ。
でも俺はそんな夢物語よりも、現実的な道の方が好みだけどね。