明日になったらする、という場合の明日は永遠に来ない明日である。
一度決まりを破ると際限なく破り続ける。
by田中雄一
第10話 「何もしなくても物語りは進む」
さてさて俺の計画についての結果報告です。
とりえず、第一段階である。目眩まし用の案である3はスカさんに受け入れられました。
というよりも、それに近い案がスカさんにもあったみたいですね。問題である拠点の確保についてはスカさんの方で用意すると言ってくる辺り、もう準備のほうもしてあったのかもしれません。
まぁ、俺としては俺が本気で取り組んでいるということをアピールすることが目的ですから、多少踊らされていたとしても何の問題もありませんけどね~。
マジでスカさん準備良すぎ('A`)
俺が3について提案してからたった1週間で拠点を用意してきました。
スカさんが、違法研究用の研究所兼ガジェットドローン生産用拠点として無人世界の一つを最高評議会から分捕ってきやがった。
表向きは、資源開発会社による開拓事業です。ただしこの世界を巡回する管理局の部隊は、最高評議会の息が掛かっているので表向きの理由もいらないくらいの至れり尽くせりな環境です。
欠点としては、この世界が生物が生まれなかった世界ってことですかね。
地球とまったく同じなんですが、微生物一匹存在しません。ということで酸素なし荒れ放題の土地という素敵仕様です。
…………。
まぁ、なんとかなるか。
さて、無人世界の管理はスカさんが全面的に任せてくれたので好き勝手やれます。
現在、無人機械によって昼も夜も関係なく工事が多面的に行われています。最高評議会が用意してくれた予算の限り同時進行。途中からは最高評議会の手から完全に離れた行動をしなければならないので、自立するために必要な施設を最優先で建造中。
とりあえず、エネルギー生産施設、資源発掘施設、マザーマシーン生産工場。これだけあれば最低限なんとかまわすことができる。
まぁ、大量の機械と資材があるからなんとかなりそうですけどね。
そう思っていた時期が俺にもありました。
死ぬマヂで死ぬ。人手が足りなさ過ぎる。工場の建設なんかは最低限のことさえしてやれば無人機械が勝手にやってくれるが、その最低限で死ねる。
設計図は元からあるものを流用しているけど、それでも多少は変更しないといけないし、最低限の監督は必要。無理やりクアットロとウーノを手伝わせているけど。全然人手が足りない。おまけにウーノはすぐにスカさんが連れて行っちゃう。
あん?
トーレ、チンク、セインはどうしたんだって?
監督業ならある程度まかせれるけど、たいした戦力にならん。おまけにクアットロはすぐにバテるか逃走しやがる。
楽に作業をするには最低でもウーノが10人は欲しい。
いっそのことクローニングで作るか?
っていっても、単なる駒としてクローンを量産するのには抵抗があるんだよな~。辛うじてある俺の良心の一つ。俺の中では、クローニングしてもスカさんがナンバーズにしている程度の扱いはするっていうマイルールがある。
っていっても、俺自身のことが最優先だから決まりを破ること自体には躊躇いは無いんだけど、これはあくまで目眩まし用の作戦。そんなことで決まりを破るのは、俺自身の精神衛生上良くない。
工期を多少ずらしてもかまわんか……。俺の頑張りをアピールすることが目的だしな。
それに、下手にクローンを作ってまた憑依者がでてくるとややこしいしな。
side out
「ドクター、あの男を好きにさせておいていいんですか?」
多少苛立った様子のクアットロがスカリエッティに尋ねる。
「ん? 何か問題でもあるのかね。彼も一応、我々の協力者だよ?」
「クア姉は、扱き使われるのが嫌なんだよね~」
何も問題は無いだろと答えるスカリエッティに、茶々を入れるセイン。
「違うわよ! まぁ、確かに嫌なことは確かだけど……。ドクター、そうは言ってもあの男は何を考えているのかわかりませんわ。私達に開発を手伝わせていますけど、重要部分に関しては、どんなに忙しくても私達に触らせません」
クアットロはセインに怒鳴った後、真面目な顔になりスカリエッティに話しかける。
クアットロはあの男が裏切るのではないのかと考えていた。田中が開発したガジェットに関してもプログラム部分はブラックボックスになっており、いかなる命令を受け付けるのかがまったくといっていいほどわからない。
ナンバーズ側にマニュアルと指令入力用のコードは渡されているが、命令の優先度は田中が上位になっている事は間違いないとクアットロは考えていた。
「それに関しては問題ないよ。何を考えているかはだいたい創造が付く。彼は私に、最高評議会が持っている彼自身のデータを消去して欲しいと頼んできたんだからね」
「それがどうかしたんですか?」
よく解らないといった表情で尋ねるクアットロ。
セインは特に変わらない。おそらく、興味が無いのだろう。セインとしては、田中が裏切るとは思っていない。彼女の認識では、悪戯をするけど面白い人間となっている。そんな人間が裏切るなんて考えもしない。
「おそらく彼は私がデータを消去するのを確認するのと同時に逃げる気だよ。最悪の場合、証拠隠滅のため私達を処分しようと考えているのかもしれないね」
「「なっ?!」」
クアットロとセインは驚きの表情を顔に浮かべた。
それに対し、二人の反応をみたスカリエッティは愉快そうな顔で笑っていた。
「何故、それがわかっているのにあの男を処分しないんですか?!」
クアットロは、若干の怒気を含めた声でスカリエッティに尋ねた。何を考えているのかわかっていても意味が無い。問題は大有りだ。といった所だろう。
セインも顔の色を悪くし、しきりに頷いている。セインとしては寝耳に水といった感じだ。
「と言っても、この考えは私の想像の領域を超えるものじゃないしね。そんな不確定な材料で彼を罰したら悪いだろ? それに私が何もしなくても、彼は私達に協力せねばならない状況になるよ」
スカリエッティは楽しそうに二人に語る。それに対して二人は意味がわからないといった顔になる。
side 田中
クアットロが過労で倒れたりしたけど、何の問題もなく工事は進んでいく。でも戦闘機人が倒れるってどんだけー。
多少工期は遅れてるけど特に問題なし。たった三ヶ月で一部の施設では稼動に扱ぎ付けることに成功っていうのは逆に賞賛物ですよ。
俺の設計した新型ガジェットも順調に頭数が揃いつつあるしね。ただし、ミッドチルダにある生産施設のみの生産だけど。
まぁ、もうすぐこの世界の生産設備も稼動できそうだから、一気に戦力は増えそう。こりゃマヂで3を実行してもいいような気がしてきた(笑)
っていっても、時空航空艦隊とぶつかるとなると更なる戦力が必要だからまだまだ不可能だな。
すべて順調に言っていると思っていたら、別の所で問題発生。しかも大問題が……。
今日は、スカさんに呼ばれてミッドチルダに帰ってきた。他に、こちらにある生産拠点の調整なんかもしなければならないんですけどねぇ
さっさと話を聞いて、拠点の方に行くとしますか。
「すいません。もう一度言ってもらってもかまいませんか?」
現在、スカさんとお話中。ただし、スカさんが問題発言。
もう一度、スカさんに言い直してもらう。うん。きっと聴き間違えだ。そんなことがあるわけが無い。
「じゃあもう一度言うが、君のデータが管理局に回されたみたいだよ?」
頭が真っ白になって何も考えることができない。頭では理解できているけど心が受け入れられないっていう状況なんだろう。
スカさんに部屋で少し休みますと言い。自室に戻った。
「やられた……」
最高評議会は、完全に俺を縛る気のようだ。よく考えればこの可能性に行き着いたはずなのに、無視してしまったツケが回ってきたと言うことなんだろう。
そもそもスカさんが指名手配されていること自体がまずおかしいのだ。最高評議会の保護下にあるスカさんが何故手配される?
簡単だ。管理局に指名手配させ最高評議会の保護が無ければ生きていけない状態にするためだ。それが俺にもされたということだろう。
今までは、あくまで予備という側面が色濃かったことやスカさんのクローンがいるということを隠したかったために公表は控えていたんだろうが、俺がスカさんと行動を共にし始めたことで、反抗される可能性を考慮し予防策をとったということか……。
まぁ、すべて後付けの説明だからなんとでも言えるか……。
とは言え、これで俺が目的を達成するためには
『3.管理局を滅ぼすor管理局に対抗できる組織を作る』
を実行するしか方法がなくなったわけだな……。
まぁ、逃亡生活を続けるっていう道は残されて入るが、あの脳味噌の飼い犬共に追い回される生活なんてごめんだ。
よろしい。ならば戦争だ。
脳味噌どもには、俺の退路を絶った事を後悔してもらおう。
奴らがもっとも大事にしている管理局諸共消し去ってくれようぞ!!
side out
昔、クロノが言った言葉にこんな物がある。
世界は、いつだって……こんなはずじゃないことばっかりだよ!!
ずっと昔から、いつだって、誰だってそうなんだ!!
こんなはずじゃない現実から逃げるか、それとも立ち向かうかは、個人の自由だ!
だけど、自分の勝手な悲しみに、無関係な人間を巻き込んでいい権利は、どこの誰にもありはしない!!
ただし、田中はそうは思わない。
いや、前半部分に関しては同意見だ。でも権利が無い云々については違う。別に権利があると思っているわけじゃない。
ただ、権利なんて物は人間が作り出した概念でしかなく、そんな物は存在しないと考えているだけだ。
他人を巻き込むのに権利なんて物は必要ない。意思と力さえあればいくらでも巻き込める。ただ巻き込む者に意思も力もなければ反撃を喰らい敗北するだけのことだ。
彼が前世で常識人だったのは社会に生きていたからだ。簡単に言うなら、他人を不幸にした際に被る反撃に怯えていただけだ。社会的地位を失うことや家族に迷惑をかけるのが嫌だったそれだけである。たしかに、彼にも良心はある。ただし、それよりも他人に軽蔑されたりするのが嫌だということのほうが大きい。
ただし、今は何も失う物はない。すでに社会的地位は犯罪者。迷惑をかけたくないと思う人間もいない。
現在の彼は、精神的に自由だ。彼を縛るのは彼の良心だけ。ただし彼の良心は、自分を不幸にする者とその眷属に対して容赦するつもりはない。
だから彼は、自分の勝手な悲しみに、無関係な人間を巻き込むことを決めた。
あとがき
なんか、田中君の人生の方向性がわからなくなりました。
後は野となれ山となれですね。とりあえず進めておけば、納得できない終わり方であったとしても終りを迎えられるはずです。