さて……グレンガルの企みを未然に潰した後、皆の所に戻った俺は、潜んでタイミングを計る。「シオンさん……それは?」「ん?バーンシュタイン軍の旗だよ。念のために用意していたんだ」カレンの質問に答える俺。これを用いて、更に大根を走らせようってつもりです。「……何と言うか、本当に用意周到だな」「感謝の極み」そう言うウォレスに、完璧な角度でズバッ!という感じで礼をする俺。完璧だ!!……何がと聞かれたら困るが。とりあえず布陣としては、俺がトップで敵を掻き回し、ラルフ、カーマイン、ゼノスが前衛で零れた敵を相手取り、ウォレスが中衛……というより、旗と後衛の護衛……駄洒落じゃないぞ?……そして、後衛がカレン、ルイセ、リビエラ、ミーシャの女性陣。彼女達には旗の護衛と、後方から魔法をぶっ放して、敵を牽制して貰う。よし、こちらの準備は整った……後は、やるだけだな。森の中を進軍していくランザック兵達……。さて、作戦通りに行けば面白いことになるな。「ねぇ、本当にやるの?」「モチ。上手く行けば敵を無傷で無力化することも不可能じゃない」ティピの問いに、答えてやる。俺達の作戦の内容は、バーンシュタインとランザックを仲違いさせること。これに尽きる。説得?それも考えたが無理だろ?バーンシュタインとランザックが先に同盟を結んだ以上、説得しに行ったりしたら捕縛されて終わりの可能性が高い。エリオットの正当性を訴えた所で、ランザック王国にしてみれば現状、全く関係の無い話だ。元よりランザック王国がローランディアを敵に回してまで、バーンシュタインの挟撃作戦を受けたのも、バーンシュタインと争うのを嫌ったからに外ならない。それだけの兵力、戦力差があるからなんだが――。ちなみにローランディアがエリオット達に協力しているのは、身の潔白を証明する為だと俺は思う。リシャールを操っているゲヴェルの企みとは言え、世論的に言えばローランディアが喧嘩を売った形になっているからな。まぁ、アルカディウス王が良い人であるのは確かだし、大陸の平和を憂い、協力を惜しまない気持ちも本物だろうがな?ちっと話が逸れたな……とにかく、そんな状況なら説得は無理。ウェーバー将軍は頑固一徹というか、主君に忠実で義理堅い漢らしい。そんな漢が、同盟相手を裏切れ……なんて言って納得するだろうか?いやしない。ならランザック王を説得する?不法侵入してか?出来るけど、やらない。説得云々以前の問題だ。幾ら原作で、人の良さそうな人だったとしても不法侵入者に対して、外面を良くする訳が無い。他にも色々な要素はあるが、結局の所、原作通りガムランの横槍が入った以上、仲違いさせて関係をぶっ壊すしかない。その上でエリオット達のことを話せば、喜んで協力してくれるだろうさ。裏切られたバーンシュタインに復讐出来るし、エリオットが王位を取り戻した時に、反逆者の烙印を押されずに済む。まぁ、俺達の行いが民衆の方々にバレたら二度と外を歩けなくなるが……バレなきゃ良いんだよ?何の為にいちいち変装してると思うんだい?ちなみにそんな理由から、アレンジ系魔法や必殺技は使用禁止。「え〜〜、それくらいならバレたりしないから大丈夫だよ〜〜」「俺もそう思う……実際、魔法に疎いランザック軍がそれだけで他者を特定することは出来ないと思うが……」ミーシャとカーマインが意見を述べてくる。まぁ、確かにカーマインの言い分も分かる。例えランザック軍でなかろうと、魔法に疎い者にとってはマジックアローもマジックフェアリーも大差ない。また、この世界の住人は基本、気や魔力波動で個人を特定したりは出来ない。そういう技術が無いからな。俺達は例外だが……特に俺とラルフは。しかしボスヒゲがいるからな。確か、ランザック軍はボスヒゲに魔法を習っていた筈だ。あ、ちなみにミーシャは自分がルイセやカレンより早くマジックフェアリーをマスターしたのを、自慢したい的な考えなのは目に見えていたので、スルーしておく。「とにかく、用心に越したことは無いってことさ……んじゃ、作戦通りにな?」皆はそれぞれ頷く。勘の良い人は気付いたかも知れないが……ぶっちゃけ、俺はランザックの人達を傷付けるつもりは無い。まぁ、覚悟は決まってるから、仲間のピンチになったら斬り捨て御免も止む無しだ……とは言え、気分が良い物じゃないし、これから同盟相手にしようって輩を殴ッ血KILLのもどうかと思う訳だ。これが、どうしようもないゴミクズみたいな奴らなら……遠慮もしないんだが。「よし、作戦開始だ」俺は旗を携え、皆に告げる……そして皆はそれに答え、それぞれ仮面を着けた……勿論俺も。本来、指示を出すのはカーマインの役目なんだが、今回は俺が言わせて貰った。俺達は森を迂回し、ランザック軍の後方に回り込み、平原へと出た。ズガンッ!!俺は大地に旗を文字通り、突き刺した。もうこれで気付かなければ、そいつはボケが始まっているかも知れん。「!?……何だアイツらは!!」「……どうやら、バーンシュタイン軍みたいだぞ?」「何でバーンシュタイン軍が我が軍の後方に!?」「何かあって、伝令を寄越したのかも知れん」等、向こうは情報が錯綜している様子。俺は最前線に立つ。そして放つは初歩の魔法……。「マジックアロー」ズガガガッ!!俺の放った魔法の矢は、上級兵らしき男の足元に炸裂する。「な、何だと……バーンシュタイン軍が我が軍に攻撃!?」「何を驚いている?お前達は嵌められたのだよ……フフフ、気付かなかったのかな?」うろたえる向こうの陣営に、俺は黒の反逆皇子様風を演じながら言う。「な、何!?」「我らバーンシュタインが、ランザックごとき弱小国との約束ごとなどを守るわけが無かろう……貴様達には、この戦で潰れて貰う算段なのでね」俺は、不遜な態度を演じ続ける……。そこに最前線からの伝令だろうと思われる、ランザック兵が現れる。「た、大変です!ローランディア軍を攻撃する筈のバーンシュタイン軍が引き上げて行っています!!」「な!?」正確には進軍しているんだが……ランザックにとってはどちらでも同じこと。何も知らない(と、思わせている)ローランディア軍と、裏切ったバーンシュタイン軍(偽)である俺達。挟撃するつもりが、いつの間にか逆に挟まれるという状況に。しかし、この状況で伝令が来るとは好都合……正に計算通り……。「おのれ、バーンシュタイン軍め……よもや裏切るとは……!!」「悪いな……約束ってのは破られることもあるんだぜ?」「騙されるテメェらが間抜けなんだよ!」ウォレスとゼノスが更に挑発する。ウォレスもゼノスも、存外ノリが良いな……しかしゼノスよ。その台詞を君が言うかね……原作を知ってるだけに苦笑いな俺。まぁ、今のゼノスには関係無い話だが。「くぅぅ!全軍反転!バーンシュタイン軍を迎え撃つ!!お前は将軍にこのことを伝えろ!!」「ハッ!!」伝令の兵が再び最前線に向かって行く。多分、前線の指揮を取っているであろうウェーバー将軍へ伝令に向かったのだろう。ローランディア軍は知らぬ存ぜぬの防戦一方……ならば高確率でランザック軍本隊は、こちらに向かってくるだろう。「良いか!ランザック軍の本隊が到着する迄が勝負だ!!」「よぉし!いっけえぇぇぇぇぇ!!!」俺の指示が飛び、ティピの言葉により戦端が開かれる。俺はまず、気当たりを使う……全力の殺気を叩き付ける。無論、前方の敵にだけな?「「「ぐぁ!!?」」」ドサササササササッ!!!次々と倒れ伏せるランザック兵達。ちなみに、俺の全力気当たりは小動物や一般市民、覚悟の無い盗賊くらいならショック死させることが出来るくらいに強烈だ。何故ここに来て、全力気当たりなのかと言うと、軽い気当たりではある程度以上の実力がある者、覚悟を持つ者には通用しないからだ。中には気合いで跳ね退ける輩もいる。何しろ、グレンガルは勿論、その部下にも耐えられたんだからな。傭兵上がりのランザック兵に耐えられない道理は無い。案の定、俺の全力気当たりを喰らって気絶したのは半数より少し上回った程度で、他は震えながらも立ち続けている。徐々に援軍も来る……さて、いっちょ行きますか!俺は二本のグラムを引き抜き、構える。「行くぞ!!」俺は、いの一番に駆け出した。敵の弓矢が飛んで来る。しかし、それに当たってやる俺では無い。身体能力は相当抑えているが、それでも余裕でかわせる。「ふっ!!」ランザック兵の集団に斬り込む俺――縦横無尽に、剣閃を振るう――だが。「なっ!?」「俺の斧が!!?」「……次はお前達がこうなるぞ?」俺は二振りのグラムで、敵の武器を細切れにしただけ。これは警告の意味も兼ねている。――なんか、某種運命の大和さん家の息子さんの気分……もしくは某るろうに。別に自由の翼も逆刃刀も持ってないけどな?それに――俺はこの二人の様な迷いは無い。それが良いことなのか、悪いことなのかはともかく――。本音を言えば、こんなのは綺麗事以外の何物でも無いと思う。もしこれが旧バーンシュタイン派の兵が相手なら、俺は容赦はしなかった。信念を持って挑む者には、それ相応の形で応えるのが礼儀…少なくとも俺はそう思っている。もっとも、変装して第三者として介入している俺のほうが――何万倍も質が悪いだろうけどな。「オロロロロロロロッ!!!」ドドドドドドドドドドッ!!!「「「「「ギャーーースッ!!!」」」」」無数の蹴りや拳、剣の腹打ちの雨霰……俺はランザック兵の中心で大暴れだった。ちなみにキャラは意図的に崩しています。万が一、正体がバレるのを防ぐため……って、原作のシャドー・ナイトゼノスの件を考えれば杞憂だろうが……。アレか?セー○ーム○ンとかプ○キュ○が変身したら正体バレないのと同じか?ちなみに他の皆は、襲ってくる奴らを迎撃するくらいに留めている。殆ど、俺の圧力で押さえ込んでいるので、やることが無いとも言うが――。つまり、俺無双ですね分かりまry……これでも、ちゃんと手加減しているんだぞ?致死量のダメージを与えず気絶させるのは難しいんだぜっと。もう一度言うが、これで現バーンシュタインとの間に確執が生まれたらシメたモノだ。上手く交渉すれば、新バーンシュタインを受け入れて貰い、今のバーンシュタインを打倒するのに賛同し、三国同盟を築くのも無理な話では無い。「さて……悪いが、まだまだこれからだぜ?」気を探った所、本隊が到着する迄にはまだ時間が必要みたいだ……何度も言うが全滅させる必要は無いから、ある程度時間を稼ぐ。まぁ、あからさまにやり過ぎると幾ら脳筋ばかりのランザック兵でも気付かれるかも知れないから、タイミングは結構重要だがな。「貴様ぁ!!」「新手か……よっと」俺は武器を壊しながら、メンチビームを喰らわせつつ、ランザック兵の皆さんを気絶させていく。ちなみに、バインドを掛けて動けなくするのも忘れない。********今、俺達は戦いの渦の中にいる。こちらは敵を一人も傷付けてはならない……という、なんとも無茶苦茶な作戦だ。しかもこちらは9人(ティピは頭数には入れてないぞ?)……向こうは数えるのも馬鹿らしい数……。なのにそれを……。ただの一人が……それを殆ど抑えている……。そいつが突っ込んだ先では、ランザックの兵士達がまるでゴミの様に吹っ飛ばされていく。しかも、そいつらは気絶しているだけで死人は一人も出ていない。「まるで台風……ううん、嵐よね……」近くに居たティピが呟く……確かにそうだ。まるで嵐の様に敵を吹き飛ばす……正直、半端無い。「このぉ!!」嵐の様なシオンの猛攻から逃れて来たランザック兵が、俺に切り掛かって来る。俺は妖魔刀でそれを受け流す。「ハッ!」ドゴッ!!!「ごはぁっ!?」そしてランザック兵のどてっ腹に回し蹴り。兵士は吹き飛び、呻きながら立ち上がろうとする……しかし、ダメージが大きいのか立ち上がれない様だ。「えい、バインド!!」そこにルイセのバインドが決まり、ランザック兵は完全に立ち上がれなくなり、青虫の様に這いずり回るくらいしか出来なくなる。もっとも、ダメージが大きく、それさえ出来ないみたいだな。俺はルイセに感謝の意を込めて、サムズアップしてやる。ルイセはそれに手を振って応えてくれる。……仮面が不気味感を漂わせているが。あれが無ければ、非常に可愛らしい笑顔を浮かべていたのだろうが……。俺達の役目はシオンが討ち漏らした奴の相手……後衛の護衛という意味もある。とはいえ、そんなのは殆ど居ないし、仮に居たとしても今みたいに返り討ちだけどな。俺、ラルフ、ゼノスの三人が壁になっているんだ……。多少の数ではやられる筈が無いって訳だ。「にしても、こっちは加減しなきゃならねぇのは、少々厳しいぜ……」「確かにな……だが、最前線で抑えられているからな……幾らかマシだろ」「そうだね……あの数を相手に加減なんて、僕らじゃ出来そうに無いからね」上からゼノス、俺、ラルフの順番である。確かにシオンは半端無いが……。「俺に言わせれば、お前も相当だと思うぞ……?」「そうかな…?」ケロッとするラルフ……コイツは自分の実力を理解しているのか……?ラルフは敵を軽くいなし、倒し、気絶させる。しかも速い。俺とゼノスがそれぞれ二人倒す間に、ラルフは五人倒している。―――以前、シオンがそれとなく言っていたな……。『俺を除けばラルフが大陸最強だろうなぁ……』……と。その言葉の意味を思い知らされた気分だな……。俺は改めて、世の中は広いということを痛感したのだった。********俺はカーマイン達の若干後方から、戦場を伺っていた。「とんでもない規格外もいたモンだな……」俺は一人そう呟く……それも仕方ないことだろう……シオンのあの戦いぶりを知れば。最初、この作戦を聞いた時は正気の沙汰とは思えなかった。幾らシオンが実力者とは言え、千を超える大軍を相手に一人で相手取り、更に不殺で対処するというのは無謀だと思ったからだ。確かに、同盟を成す為には必要なことかもしれないが……。戦争ってのは、個々の質もさることながら、絶対的な物量は無視出来ないモノだ。しかし、シオンはその常識をひっくり返しやがった……。あのインペリアル・ナイトも百戦錬磨の実力者と言われるが……シオンのそれは一騎当千……いや、それ以上のモノだ。仮に敵だったら……そう考えるとゾッとするぜ。そしてカーマイン達も百戦錬磨の強者を思わせる実力者だ……カーマインもゼノスもな……まぁ、俺があのくらいの時も同等の実力はあったが。だが、やはりラルフの実力は抜きん出ているな……。全盛期の俺でもまず勝てん……。正に一騎当千……って奴か。団長と比べても遜色は無い……いや、僅かだがラルフの方が……。全く……つくづく敵じゃ無くて良かったぜ。さて、前線の四人の働きでやることが無いが、ここは戦場……油断せず護衛に専念するとしよう。*******「えいっ!スリープ!」アタシの唱えた眠りの呪文、スリープがランザックの兵士に直撃!兵士の人はそのまま眠りの世界へ……どんな夢を見るのかな?アタシならお花畑に囲まれたお家でお兄様たちと……いや〜ん、ミーシャの馬鹿馬鹿♪そんなの、無理に決まってるじゃない☆でもでも!シオンさんもハーレム――なんてことになってるんだから、アタシが両手に花になっても不思議じゃないよね?うん!不思議じゃないわよミーシャ!「……それで、アタシとお兄様たちの間には可愛い子供たちが♪男の子も女の子も皆どんと来ーいっ!アタシ頑張っちゃうもん!!ハッ!?でも、そうなったら誰が誰の子供か分からなくなっちゃう!?うん♪でも大丈夫♪だってお兄様たちとの……愛の結晶だ・か・ら♪……な〜〜んちゃって!嫌だも〜〜!恥っずかし〜〜☆」「……ミーシャ〜……」「?どうしたのルイセちゃん?それにカレンさんもリビエラさんも」何かルイセちゃん、凄く疲れた顔してる……それでいて悲しそうで、何と言うか、見てるこっちが悲しくなっちゃう。「……ミーシャちゃん、もしかして無意識?」「……ふにぃ〜?」カレンさん、何が言いたいんだろう???「ねぇ、ルイセちゃん……友達なんでしょ?何か言ってあげたら?」「う、うん……」リビエラさんがルイセちゃんに何かを促す……むぅ、本当に何なんだろう??「あ、あのね、ミーシャ……」「うん、どうしたのルイセちゃん?」何だか言いにくそうなルイセちゃん。「幾ら最前線から離れてても、戦ってる最中だから、ボーーッとするのは止めた方が良いよ?」「えっ?アタシ、ボーーッとしてた?」「うん……」うっわぁ……アタシってばこんな戦場で……こんなポカしちゃうなんて、アタシの馬鹿馬鹿!!そうだ、今は作戦中なんだから!!気を抜いちゃ駄目よミーシャ!!「ありがとうルイセちゃん!!アタシ、頑張る!」「うん!頑張ろう!!」そうしてアタシ達は再び、魔法で援護していくのでした。「……ミーシャちゃん」「なんか私、頭が痛くなってきたわ……」「仲が良い証拠なんでしょうけど……」「……なんで、声に出てるって一言が言えないのかしらね?……まぁ、考えても仕方ないか……私たちも援護に戻りましょう」「ええ、そうですね……」********戦況は膠着している……それを演じている訳なんだが。ちなみに、前衛組は互いの名前を呼ぶのを禁じています。名前から身元が割れる可能性があるからな。後衛組は敵が近付かない限り、そういう縛りは無しだけど。さて、さっき戦いが拮抗していると言ったが、俺が徐々に弱っていく感じに見せている為、あちらさんは有利に感じている筈……。実際は余裕なんて有り余っているが、息も絶え絶え……という演技をする。人間の心理とは不思議な物で、僅かでも期待感があればそれを求めてしまう……。ギャンブルにのめり込む者が良い例だ。決して勝ち目が無いと理解はしていても、甘い汁がそこにあればコロッと気持ちが傾く。もしかしたら……きっと……多分……。そんな感じに流されてしまう。以前、諦めないことが人間の長所……と言う話をしたが、これは長所であると同時に短所でもあるということだ。まぁ、欲が絡むか絡まないかの違いはあるがね。しかも今は数の有利に頼ってしまう状況なので尚更だ。フェザリアンは徹底的な合理主義……しかしフェザリアン程では無いが人間にも同じことが言えるわけだ。相手が疲労困憊、仲間が良い様にやられたという憤りと怒り、そして数で勝るという優位性……。「倒せる……倒せるぞ!!」この状況でこんな台詞を誰かが吐けば、周囲はイケイケモード突入だ。その勢いは素早く伝染し、強い士気を生む。共通の敵なんてのがいると更に宜しい。ロープレの魔王に挑む勇者なんかが、正にそれだ。この場合、俺が魔王役なのが微妙に悲しいが……ウェーバー将軍が近づいて来てるし、頃合いだな。俺はむりくり逃げ道を塞ぐ敵を叩き飛ばす。「くっ……よもやランザックごときに遅れを取るとは……覚えていろ!この借りは必ず返してやる!!撤退だ!!!」俺は高らかに撤退を宣言し、上空にマジックアローを放つ。撤退の合図だ……どうやら気付いた様だな。ルイセ達から順に森の中へ引き上げていく……。さて、ここでもう一つ手を打っておくか。俺はふらつきながら、その場を走り去ることにする……。「逃がすな!!追え!!」指揮官らしき上級兵が指示を飛ばす。本来、ここは深追いをせずに本隊と合流するのが常策なんだが、集団の意思が場を支配しており、自身も正常な判断力を削られている様だな……。こうなったら総指揮官であるだろう、ウェーバー将軍が来ない限りは流れは変わらんさ……!「後は三十六計逃げるに如かずってね!!」ルイセ達はカーマイン達との合流後、テレポートでトンズラしてもらうことになっている。ルイセの魔力波動も感じたから、間違いなくテレポート出来たのだろう。俺はなるべく敵を引き付ける為に、逃げ回る。無論、加減してだ。全力疾走なんかしたら、問答無用でぶっちぎってしまう。さて……恐怖を味わって貰うとしますか。*******我々はローランディア軍の後方に出て、強襲した。ローランディア軍はこちらの意図が読めずに、防戦一方だった……ここにバーンシュタイン軍が攻め込んで来れば、挟撃作戦は成功していた……筈だった。しかし、一向にバーンシュタイン軍が攻め込んで来る気配が無い……そこに伝令がやってくる。いわく、バーンシュタイン軍は王都側に引き返したのだと……。「どういうつもりだ……お前は後方の部隊にもこのことを知らせに行け!」「ハッ!」しばらくして伝令が戻って来て、驚くべき知らせを持って来た。「将軍!!後方部隊が、バーンシュタイン軍の襲撃を受けています!!」「な、何だと!?」もしや、最初からこういう腹積もりだったのか!?バーンシュタイン軍が我々を嵌めたというのか……!「バーンシュタイン軍の規模は?」「見た所、10名程の先遣隊の様です……いかがいたしましょう?」……我々は退路を断たれている。ならばローランディア軍か、バーンシュタイン軍を突破しなければならない。俺は数の少ないバーンシュタイン軍の先遣隊を突っ切ることを決めた……その方が兵の被害も小数で済むだろう。「全軍反転!バーンシュタイン軍を突破してこの場を脱出する!!」我々を裏切ったバーンシュタインを討つ!!本隊を引き連れて現場に向かった俺が見たのは、異様に戦意が高まった兵士、そして肝心のバーンシュタイン軍はどこにも居なかった。あるのは地に刺さったバーンシュタイン軍の旗。近くの兵に聞くと、幾つかの部隊が追撃しているとか。「追撃を中止しろ!これは罠」その時、森の方から幾つもの悲鳴が聞こえたのだった…。********さて、俺は超遠距離にある高台から迷いの森を伺っております。ランザック軍の兵士の皆さんがぞろぞろと……。お〜お〜、自信満々って面だわ。なんつーか、狩人の顔?自分達の有利を決して疑わない顔とでも言いましょうか……。何で分かるのかって?見えるからですよ。俺のこのチートボディならこれくらい造作も無い。目を凝らせば遠くを見渡せ、耳を澄ませば話し声も聞こえる。某史上最強の師匠の強化版……と思ってくれれば間違いない。あの人達はその化け物じみた視力を駆使して、口の動きを読んでいたからな。読唇術って奴だな。視力に限って言えば赤い弓兵でも可。あれは魔術で視力を強化してるんだっけか?ランザックの皆さん、余裕ありまくりみたいなんで、俺はマジックガトリングIN手加減バージョンを放つことにする。これは喰らっても痛いくらいで、死にはしない……それくらいの威力に抑えている。「そんな訳で、そぉい!!」ドガガガガガガガガガッ!!!無数の魔力の矢群はランザック兵に雨の様に襲い掛かる。「な、何だ!?」「がっ!?こ、これはマジックアローか!?」「敵の増援か!?グハァッ!!?」連中は森の中で視界がさして効かず、オマケにこの距離だ。連中に距離と場所は特定出来ず、急にマジックアローが雨の様に上から降り注いだ様に見えるだろう。マジックガトリングは数が膨大なマジックアローだからな……術式や俺の詠唱姿を見られなければ、多数の術者が自分達に向かってマジックアローを唱えて来たと思うだろう。更に、俺は自分の声が聞こえる場所まで瞬時に距離を詰める。……俺のチートボディのスピードはパネェ。超加○や、クロッ○アップを使われても余裕で対処出来そうだ。流石にその上位版のハイパーなクロッ○アップや、某魔法先生の全身雷化は…………何とか出来たりして。ハハハハハ…まさかな?いや、実際それらに相対したこと無いから分からんがよ……なんか感覚的に無理だと言い切れ無いんだよな。……俺、生まれる世界を間違えたんじゃ?orz……とにかく、俺は声が聞こえる距離まで来た後、こう言ってやる。「……貴様達は完全に包囲されている。観念するのだな……」そして、元の高台に移動!!そこから再び様子を伺う……何と言うことでしょう。皆さん、先程の様子とは裏腹にテンションがた落ちではありませんか。「く、くそっ!隠れてないで出てこい!!卑怯者!!」等と言いながら武器を構えてる辺り、流石は傭兵上がりのランザック王国軍兵士。たいした胆力だと思う……震えながら言う台詞では無いとは思うが。あと一押し……って所か。「てな訳で、もういっちょそぉい!!」俺は再びマジックガトリングIN手加減バージョンを放つ。ドガガガガガガガガッ!!!!「「「「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」」」」「お〜お〜、逃げてく逃げてく……指揮官のいない兵は脆いのぅ」と、某封神演○の某道士風に言う俺。モチ、ジャンプ仕様の奴な?まぁ、俺には白いカバ君もいなければ、宝貝も持ってないけどさ。「……っと、そっちはトラップゾーンだのぅ」そう、俺はローランディア方面、ランザック方面以外にトラップを仕掛けていたのだ。ザッ!バヒューーン!!「ん?なん…だああぁぁぁぁぁぁ!!?」ある者は足から縄で逆さ吊りになり……。カチッ!ベチョン!!「な、何だこのベタベタした物は……!?ぬおおぉぉぉ!?と、取れん!!?」ある者は俺特製、トリモチ君の餌食になり、木に貼り付けられたり……。ドゴッ、ヒューン……ボチャーーン!!!「ゴボッ!?ぷはぁ!!お、落とし穴……って、ニンニク臭ぇ!!?ネギ臭ぇ!!?」某魔法先生の親父である英雄殿が、キティちゃんに使った大人げ無くてえげつないトラップを参考にしたトラップに掛かる者など……様々だ。ちなみにこの落とし穴、俺なりにアレンジを加えてあって、自力では這い上がれ無い位深く、水を溜めてあるという点は全く同じだが……俺は予めネギは刻み、ニンニクはすりおろして水へ大量にぶち込んでおいたのだ。その上で密封。手間や労力が掛かり、使われた材料を勿体なく感じたが、それらを代償に得た効果は絶大だ。「鼻が!?目が、目があぁぁぁ!?」良い子の皆は、玉葱を切ると何で涙が出るか知ってるかい?それは玉葱にはそういう臭い成分が含まれているからなんだ。そして、それは葱にも含まれている成分なんだ。葱を切ってて、同じ様に涙腺が刺激された人も居る筈だ。葱にしろ玉葱にしろ、よく切れる包丁があれば基本は問題無いんだけど。まぁ、そんな訳で落ちた彼の冥福を祈りつつ。改めて思うが、幾ら指揮官がいないとは言え脆過ぎる。それだけウェーバー将軍が優秀だと言うことなんだろうが……。何故こんなトラップ群を仕掛けたのか?それは嫌がらせのためさ!!いや、それは冗談だがな?とりあえず、幾つか目的はある。バーンシュタインはランザックを、鼻糞程にも思ってないんだぜ!という意思表示。逃げる為の時間を稼ぐため……。この二つはダミーの理由。脳筋のランザック兵達は仲間がやられた上(気絶させただけで死んでません)これだけコケにされれば怒り心頭だろう。(だが、既にバーンシュタインの仕業ということは印象付けており、こんな駄目押しは本来不用だったりする)しかし本当は包囲などしておらず、逃げる時間を稼ぐ為だったのだ!……という筋書き。実際、ウェーバー将軍なら、このトラップ群は時間稼ぎにしか過ぎないことは見破るだろう……だが、そこまでだ。『逃げる時間を稼ぐ』という行動自体がダミーとは――見抜けないだろう。ウェーバー将軍は確かに優秀だが、それだけだ。戦闘力、指揮能力は一級品ではあるが……決して軍師の様な知謀の人では無い。故に見抜け無い。優秀であるが故の固定概念があるために……。そもそも、俺は時間稼ぎなんかしなくても逃げられる。ならば何故こんな工作をしたのか……ウェーバー将軍をごまかす為、不信感をごまかす為……そして――万が一にも正体がバレない様にする為。ウェーバー将軍に対することに関しては前述の通りだから省くが。もし仮に俺が何の対策もせずに逃げればどうなるか?逃げ足の早い奴だ……で、済むかも知れない。しかし、追い込んでいた筈の相手が何故機敏に動けるんだ?と、疑問に思われるかも知れない。その疑問を逸らす為に『隠された必死さ』を演出したって訳だ。んで、正体に関してだが……俺をよく知る奴、少ししか知らない奴でも、俺がこんな狡い作戦を使うとは思わないだろう。事実、俺もトラップとか使うのは初めてだし。まぁ、トラップに嵌まっていく姿は見ていて面白かったが……。「っと……噂をすればウェーバー将軍」本隊を引き連れてウェーバー将軍が救援にやってきた。気配から森の入口辺りまで来ていたのは知っていたが……。トラップを免れた兵士が助けを求めたんだろうな。さて、成り行きを見守るとしますか。「し、将軍!!」「落ち着け!これは敵の作戦だ!!」「作戦……ですか?」「恐らく、敵は逃走する時間を稼ぐために罠を仕掛けたのだろう……でなければ、こんな馬鹿にした様な罠ではなく、殺す様な罠を仕掛けているだろうからな。周囲を包囲したというのもハッタリだろう……援軍は来たのかも知れないが、それは味方を逃がすため。そして我々が追っていた奴も上手くそれを利用して、逃げおおせたのだろう」「ならば、今すぐ追撃を」「いや、深追いは出来ん……この罠は警告に過ぎない。これ以上追うなら、こんなモノでは済まさない……というな。この先にはより危険性の高い罠が仕掛けられているかも知れん……俺にはこんな生易しい罠だけには、どうしても思えなくてな」どうやら、何か勘違いしているみたいだな……。こちらにとっては好都合だが。結局、ウェーバー将軍率いるランザック王国軍は、王都に帰還する様だ。なんでも、王に指示を仰ぐとか。フフフ……ウェーバー将軍、貴方は確かに優秀だ。だが、それ故にコチラにはプラスとなった。ありがとう。おかげで計算通りに事が運べたよ……。これがどうしようもない馬鹿……あるいはコ○ン君並の灰色の脳細胞を持った奴が相手なら、こうは行かなかっただろう。前者なら追撃を掛け、後者ならダミーの情報を見抜いた筈だ。ほどよく優秀な将軍なればこそ、上手く引っ掛かったと言える。俺はランザック軍が完全に撤退したのを見届け、迷いの森に仕掛けたトラップを解除、もしくは破壊。その後テレポートで待ち合わせ場所に向かったのだった。で、ラージン砦の指令室。「よっ、お待たせ」指令室には皆が揃っていた……当たり前だがブロンソン将軍も一緒だ。「お疲れ、どうだった?」「バッチリだ」ラルフに問われ、俺はサムズアップで答える。そして皆に細かい部分を説明する。「成る程……」「これはウェーバー将軍が勘違いしてくれたから……って言うのもあるけどな?」「だが、それも計算づくだったんだろう?……本当、味方なら頼もしい限りだぜ」カーマインが納得して頷いてる。俺は更にそこへ補足を付け足す。ウォレス……それは敵だった場合を仮定したりしたってことかね?「まぁ、褒められて悪い気はしないが……運の要素も多分に含まれていたから、胸を張る気にはならんな……」「そんなに謙遜することないのに……」「そうだよ、シオン。シオンは頑張ったじゃない」ティピとリビエラがそう言うが、俺としては大したことをしたつもりは無いし、褒められることだとは思っていないからな。「それより、ブロンソン将軍。ローランディア軍の被害はどれほどだったのですか?」「防戦に徹したことと、君達が頑張ってくれたおかげで、最小限で済んだよ……本当に君達はたいしたモノだよ!」将軍はそう言ってくれるが、言い方を変えれば、最小限とは言え被害を出した……ということになる。やり切れないな……。――やり切れないとか思っている時点で、俺は策士には向かないと――改めて感じてしまう……。「シオンさん……無理しないで下さいね……?」「……ん、大丈夫だよカレン」どうも一瞬悲痛な面をしたのを見られたらしい。いかんな、俺がしっかりしなければ。「さて、じゃあとりあえず王に報告に行くか!」「その前にこの服を着替えようよ」「そうだね」ゼノスの提案に待ったを掛けたミーシャとルイセ。まぁ、いつまでもシャドー・ナイトルックでいるのもアレだしな。俺達はそれぞれ元の服装に着替え、砦を後にして王都へ向かうのだった。*******オマケ。もしもシオンが中身太○望チックなら……。俺はランザック兵の皆さんにマジックガトリングIN手加減バージョンを放つ。「そぉれ!喰らうがよい!!」ドガガガガガガガッ!!!!「「「「うわああぁぁぁぁぁ!!!?」」」」「フハハハハ!愉快痛快!!やはり主人公はこうでなくてはのぅ!そうれもう一発!」ドガガガガガガガガガガガッ!!!「ああ楽しい!楽しすぎて背景に華が咲きそう!!」泣きながら笑っている俺の背景に薔薇っ!って感じに華が咲き乱れるのだった。次はトルネードでもいってみるかのぅ!ダァハッハッハッハッ!