さて、俺は今から策とも言えない策を説明する。正直、屁理屈にも劣ることだと思うが……。「策は二つある……まず、ランザック軍を迎撃する……普通にな?」「普通にって……それだけかよ!?」俺の言い分に、ゼノスが驚愕する。まぁ、普通はそうだろうなぁ……。「この場合、こちらはランザックが攻めて来ても、追い払う程度に対処しなければならないけどな」「?どういうこと?」ティピが首を傾げる。「……つまり、ランザック単体の侵略行為……と、こちらが思っている様に見せる訳か」ウォレスは俺の言い分を理解した様だ。つまり、俺の策とはこうだ。まず、ブロンソン将軍率いる、ローランディア軍にランザック軍と戦って貰う。この際、相手を殲滅するのでは無く、追い返すというのが重要だ。ランザック軍は引き上げざるをえない。何故なら、後ろ盾とも言える、バーンシュタインからの援軍は無いのだから。元々、ランザックは自国をバーンシュタインに攻めて欲しくないから引き受けた挟撃作戦だ、必要最低限の兵しか向かわせてはいまい。ランザックはバーンシュタインの様に宣戦布告をした訳じゃない……もし、宣戦布告してきたのならとことん戦うのも必定かも知れないが、宣戦布告無しに、しかも単独で攻めて来たとなれば理由を尋ねなければならない……その際に俺達が使者として赴き、同盟を交渉すれば良い。ランザック王国としても、バーンシュタインが増援に来ないと分かれば、バーンシュタイン王国に嵌められたと思うだろう。ならば、同盟交渉もしやすくなる……この時にエリオット達の事情を上手く説明することは重要だ。俺なら、口先の魔術師並の屁理屈で丸め込む自信がある。その旨を皆に伝えた。「…成る程な」「双方に少なくない血は流れるでしょうが、同盟のチャンスを得るにはこれしかないかと……」「ふにぃ〜……?よく分かんないよ……」「要するに、現バーンシュタイン政権に悪者になってもらうってことだよ、ミーシャちゃん」俺の説明に納得する王……ミーシャは分からないと首を捻るが、ラルフが分かりやすく説明。「だが、それだと些か不確定な要素が多過ぎないか?」「だからこそ、もう一つの策で駄目押しをするのさ」ウォレスの言う通り、この策は確率だよりの運任せ的な所が強い。追い返すとは言うが、ランザックが引き返さずに粘り続ければ被害は大きくなる。確かに引き返す可能性の方が高いが、開き直って戦い続ける可能性もある。そもそも交渉を突っぱねられる可能性も、無いわけじゃない。だからこそ、もう一つの策が生きてくる。本当はこんな策は使いたく無いんだが。「もし、バーンシュタイン王国軍が、ランザック王国軍の背後……もしくは側面から攻撃を仕掛けて来たら……ランザック王国軍はどうする?」「……ランザックはそちらの対応に追われることになる……成る程、そういうことか」カーマインは頷く。俺の言いたいことが、分かった様だ。要するに、俺達で偽のバーンシュタイン軍を演じ、ランザック王国を掻き回す。ぶっちゃけ、原作でカーマイン達がやってたことに近い。四面楚歌に陥ったランザック王国は、喜んでこちらの手を取るだろう。「……正直、褒められる策ではありませんが、有効な策ではあります」いや、本当……気が進まない。同盟を結ぶために、同盟を結ぶ相手を傷つけなければならないんだからな……。某大作スペース浪漫に出てくる、魔術師と呼ばれた提督を最高の策士と信じる俺だが……この策は黒いよな……。とは言え、やるしかないのだが……。「確かにそれなら悪くない賭だな!」「いかがでしょうか王?」ゼノスが俺の策に賛同し、ウォレスはアルカディウス王にお伺いした。王は、少し悩む様な仕種をして……答えを出した。「……分かった。この作戦、その方らに任せよう……頼んだぞ!」「はっ……必ずや成し遂げてみせます」カーマインがそう言った後、俺達は謁見の間を後にした。そして城の外に出た俺達は、簡単な作戦タイムを取ることにした。「それでどうするの先生?」ルイセが尋ねてくる。……結局先生か。俺はルイセに魔法を教えてる訳だが、教えてる時は先生、普段はシオンさんだと少々ややこしいので、普段からどっちかに搾ったら?とは、ティピの談。結構悩んでたが、結局は先生になったらしい。まぁ、俺はどちらでも良いんだがね?「まずはブロンソン将軍に事情を説明して、その後に準備をして作戦開始……だな」俺はルイセの問いに答える。原作とは違い、迷いの森は使えない。それを使ってジュリアン達の背後に出られたりしたら困るし。作戦の準備自体はたいしたことないのだがな。「ねぇ、先生って何?」「あぁ、俺はあの子……ルイセって言うんだが、彼女に魔法を教えてるんだよ」リビエラが聞いて来たので、答える。「教えてるのは魔法だけじゃないし、ルイセだけに教えてるわけじゃないけどな」言わば、ここにいる全員が俺の教え子ないし弟子というわけだな。先生と言ってくれるのはルイセくらいだが。「ふ〜ん……ねぇ、今度は私にも教えてよ」「暇があったら構わないぜ?」今度の休暇の時にでも、講義すっか。……ん?皆こっちを見てる……その視線の先は俺…では無く、リビエラか?正確には、カレン、ラルフを抜いた面々だがな…見てるのは。「さっきから気になってたんだけどさ……その人誰?」「あ、アタシも気になってた!」ティピとミーシャがそういう。他の面々も心は同じなのか、頷いていた。そういやぁ、自己紹介がまだだったよな。「彼女の名前はリビエラ・マリウスって言ってな……」俺は皆に詳しく説明する。以前に色々あって仲間になったこと。オズワルド達と行動を共にしていたこと。そして……何故か俺に好意を持ってたらしく、俺もそれを受け入れた為、件の同盟効果で恋人の一人になってしまったこと。「またかこの野郎!羨まし過ぎるぞ!」そう言ったのはゼノスである。「そういえばゼノス君……何やらカレンに余計なことを吹き込んでたみたいだな?」「!な、なんのことだ?」しらを切ろうとするゼノス……だがこっちはネタが挙がってるんだよ!「……兄さんの嘘つき」「カ、カレン!?」そう!カレンという証人がいるのだよ!!ちなみに今は魔王降臨(ティピ命名)はしていない。しばらく期間を置いたことで頭が冷え、そこまで怒りが込み上げて来なかったからだ。とは言え、腹立たしいことに変わり無く、俺は二つの選択肢を与えることにする。「ゼノス……お前に選択肢をやろう。後日、俺のスペシャルでゴージャスな修行を受けるか、今この場で恥をかくか……因みに拒否権は無い」「……なんか分からんが、後者は問答無用で危険な気がする……なら、修行で」チッ……運の良い。それとも傭兵時代に培った勘か?「……因みに、後者だったらどんなことをされてたんだ?」「くすぐって、笑いで痙攣させて失禁」そう説明したらゼノスは心底震え上がり、前者を選択して良かったと、本気で言っていた。他の面々は仕方ないなぁ……とか、もう慣れっこだしな……とか、色々言ってたが、受け入れてくれた様だ。……俺の台詞じゃないが、マジでそれで良いのか?そう言ったら、皆は俺がどれだけ真面目に本気か知ってるから良いんだってさ。「……シオン、まだ言ってないことがあるわよ……私が元シャドー・ナイトだったってことを」『!?』皆がざわつく……当たり前か。この事実は一部の奴しか知らない。俺は敢えてそこは言わなかった……それはリビエラ自身、シャドー・ナイトだったことを悔いていて、消せない汚点だと思ってるからだ。そんな話を高言するほど、俺は腐ってない。しかしリビエラは話した……これから長い付き合いになるからな……隠し事は出来るだけしたくなかったのだろう。俺と出会った経緯なども全て話した。「これが私の隠してた全てよ…」拒絶されることも覚悟してた様だが、そこはこのパーティー……皆が迎えてくれた。俺としては、ゼノスやウォレス辺りが何か言うと思ってた。その辺りを聞いてみると……。「シャドー・ナイトとは言え、元なんだろう?シオンが認めた相手なら、問題無しだと思うぜ俺は」「お前が決めたことだ……俺達がとやかく言うことじゃないさ。お前の人を見る目が良いのは知ってるからな」ということらしい。てっきり疑いの眼差しを向けられるかと思ってたんだが……。特にゼノスはカレンが狙われていたこともあり、シャドー・ナイトを嫌悪しているからな……だが、俺やカレンが認めたなら文句無しと言い切る辺りは、非常にゼノスらしいとも言える。「けどソレ、マスターは知らないよね?」「サンドラ様には休暇の時に言う……流石に王の前で言う様な台詞じゃないだろ?」「アタシなら、テレパシーで伝えられるけど?」ティピの言葉に答える俺……わざわざ王の御前で言うことじゃないからな。ちなみに、俺は公私のケジメをつける為、普段はサンドラ様と言っている。二人きりの時や、休暇の時なんかは名指しで呼んでいるけどな。そしてティピがテレパシーによる中継ぎ念話を提案するが、俺はそれを断る。「やっぱり直接言いたいからな」「そっか、分かったよ」ティピも納得してくれたみたいだな。「さて、じゃあ早速ラージン砦に向かうとするか」俺達はラージン砦にテレポートする。到着してから門を通り指令室へ。「君たちか、どうやら合流出来た様だな」「おかげさまで……早速ですが、将軍にお願いしたいことがあるのですが……」カーマインがさっき俺が説明した策をブロンソン将軍に伝える。さっきまでは俺が説明していたが、やはりこのパーティーのリーダーはカーマインなわけですよ。なので任せた訳だ。「成る程……分かった。我々は防戦し、ランザック王国軍を追い返せば良いのだな?」「はい、タイミングを見計らって俺達がバーンシュタイン軍に成り済ましてランザック王国軍を引き付けますから」将軍の言葉を肯定したのはゼノス。しかし、ゼノスに敬語が恐ろしく似合わないと思ったのは、多分俺だけじゃない筈だ。俺は慣れたけどな。「分かった……君たちの成功を祈る」「はい、任せて下さい!」将軍に答える様に言うルイセ。俺達の担当する策は駄目押しみたいな物だが、これが成功すればローランディア軍の被害も減ることになる。結構重大だ。「さて、皆にはコレに着替えて貰うぞ?」「これって……」それはシャドー・ナイトの装備一式だった。********おまけ♪「リビエラさんって何歳なんですか?」「ミーシャだっけ?18だけど、それがどうかした?」周囲がざわついた…いや、元シャドーナイトだと暴露した時よりざわめきが大きいのはどうなんだ?「……言いたいことは何となく分かったわ。歳相応に見えないって言いたい訳ね」俺は気にする必要無いと思うんだが…それだけリビエラが美人ってことだし。と言ったら。「シオンがそう言うなら、気にしないことにする…」と、ほんのり赤くなりながら言われた。可愛いやっちゃな〜、もう。