アタシは引き続き、盗み聞き……じゃなくて情報収集に勤しんでいるわけです。「ならばランザック王国としての答えを聞こうか?この挟撃作戦に協力するのか?それともしないのか?」「既に出撃の準備は出来ている。本当にバーンシュタイン王国が、我が国に攻め込まないと言うのであれば……」「それは約束しよう。お前と俺の仲ではないか。信じろ……」いや、それは嘘っぽいから!目茶苦茶嘘臭いから!!断っちゃいなさい!!「かつての友とは言え、お前は団長なき傭兵団を見捨てて、自分のために生きた男だ。あれから俺が部下を養うためにした苦労など、想像も出来んだろうな」「そう言うな……もし俺がいたら、もっと苦労していたかもしれんぞ?お前と俺は、水と油だからな」つまり、絶対に混じり合わないってこと?じゃあ駄目じゃん!「それに一人で苦労した原因を俺だけに求めるのはどうかと思うが?」「……ウォレスか」いや、ウォレスさんは死んじゃったかも知れない団長さんを、ずっと探していたんじゃない!今だって本当は……あぁ!!もうこのガムランってオヤジムカつくぅ!!「話が逸れたようだな。本題に戻ろう」「……わかった。では、この盟約書に互いにサインし、それぞれ国王に届ける……それでよいな」「ああ」ひぇ〜……大変だぁ……。アイツに報告しなきゃ……!********「………という事なのよ!」ティピから屋敷の中での密談について聞かされる……やはり間に合わなかったか……。「とにかく宿に戻って、みんなに報告だな」俺たちは急いで宿に戻った。「お、帰ったか」俺達が宿に戻ると、既にみんなは戻ってきており、それぞれの得た情報を持ち寄って話し合いに……しかし。「悪ぃ…特にこれと言った情報は無かったぜ」「こっちも収穫なしだよぉ……」ゼノス、ミーシャ、それにルイセも特に情報は掴めなかった様だ。「お兄ちゃん達はどうだった?」「それが大変なの!」「詳しく話してみろ」「実はね……」ティピは得た情報を説明する。バーンシュタインの高官ガムランと、ランザックの将軍ウェーバーが密談していたこと。その内容が、バーンシュタインとローランディアがぶつかり合っている間に、ランザックがローランディアの背後に回り込み、挟撃をするという作戦についてだということを……。「……そんな……」「ガムランとウェーバーが……」ルイセは同盟が結べなくなったことにショックを受け、ウォレスは旧友二人と敵対することに、流石に思う所があるのか、考え込んでしまう。「それより早く何とかしないと!」「連中の話からすると、迷いの森を通過して攻め込むらしいな……確かに森の中は入り組んでいるから、ローランディア、バーンシュタインの両軍隊がぶつかっている間に背後を突くことが可能だ」慌てるティピに対して、ウォレスは冷静に状況を分析している。「どうするの?このままじゃ、ランザックと同盟を結ぶどころか、ローランディアが負けちゃうかも知れないじゃない!」「俺たちで何とかこれを止める方法はないのか……」「……とりあえず、前線指揮官のブロンソン将軍に報告しておこう」ミーシャの言い分は分かる……ウォレスも頭を悩ませている。俺はブロンソン将軍にこのことを知らせることを提案した。でなければ、最悪の場合、何も知らないローランディア軍が挟撃を受ける恐れがある。迷いの森……何かが引っ掛かる……何だったか。何か、そこに解決の糸口が見付かりそうではあるんだが……。俺たちは頭を捻りながらも、テレポートでラージン砦に向かう。「どうしたんだ?血相を変えて?」俺達は指令室に駆け込んだ。そこには、俺達の様子に首を傾げるブロンソン将軍がいた。「何をゆったり構えてるのよ!敵が攻めてくるって言うのに!」「ん?そうか、君達は知らないのだな」「どういうことだ?」ティピは騒ぐが、ブロンソン将軍は余裕の表情。ウォレスでなくとも疑問は浮かぶ。「実はな……」ブロンソン将軍の話によると、2〜3時間くらい前にシオンたちがやってきて、バーンシュタイン軍を追撃しない様に頼みに来たのだと言う。何でも、バーンシュタイン軍の司令官はジュリアンであり、その説得に赴いたのだと……。「つまり、バーンシュタイン軍は攻めて来ないってこと?」「そういうことだ……だが、万が一もあるからな。防衛はすることにしたのだ……いざとなれば自分が交渉すると、彼は言っていたがな」……いや、その台詞を言ったなら心配は無いだろう。俺も全容を見たわけじゃないが、シオンが本気で交渉したら納得『させられている』だろうからな。いちいち正論であり、理論武装して、尚且つ感情にも訴え掛ける……。それがシオンの『交渉』だからな。何しろ、あのフェザリアンすら説得して見せたんだ……信頼するに足りるだろう。みんな、意見は同じ様で、しきりに頷いている。とは言え、流石にランザック王国が攻めてくるというのは分からないだろうからな……。俺は事の次第を説明した。「この期に及んでランザックが参戦してくると言うのか……」「そうだ。とは言え、状況自体は決して悪い物じゃない……挟撃作戦は防げたんだからな」考え込むブロンソン将軍に、現在の状況を話すウォレス。その状況を作ったのがシオンなわけだ……相変わらず、流石というか……。「…少し情報を整理してみよう」俺はそう提案する。正直、色々絡まり過ぎている。まずシオン達はエリオットの王位奪回の為に、エリオットの実母である王母アンジェラ様の説得、ジュリアンの父であるダグラス卿の説得、更にシオンの父であるウォルフマイヤー卿の参戦……そしてジュリアン部隊の説得。これにより、ウォルフマイヤー、ダグラス両卿の混成部隊がアンジェラ様を伴い北から、ジュリアン率いる進攻部隊がエリオットを伴い南からバーンシュタイン王都に攻め込むことになるという。つまりガムランの計画は潰された訳だな。しかし、まだランザック王国が残っている……。これをどうするかだな……。「とりあえず、俺は王に報告すべきだと思う。シオンたちとも合流したいしな」恐らく、任務を終えたら一旦報告に戻ってくるだろうからな。「そうだな……ランザック王国が進軍してくるまでは幾分か時間がある…」「テレポートで戻ればすぐだしね?」ウォレスとルイセは賛成してくれる様だ。「そうだな……俺も賛成するぜ!」「うん!アタシも」ゼノスとミーシャも……これで決まりだな。「事情は分かった……我々はランザック王国の警戒に当たろう」「頼みます、将軍」後のことをブロンソン将軍に任せ、俺達は一旦ローランディアに戻ることにしたのだった。********「そうか、説得は上手く行ったか」俺達は現在、ローランディア王城、謁見の間にてアルカディウス王にジュリアン率いる部隊の説得が上手くいったこと、更にその父ダグラス卿、エリオットの実母である王母アンジェラ様の説得も行い、それが実を結んだことも報告していた。「父とダグラス卿は北から、ジュリアン将軍は南から進軍するとのことです」「うむ、我がローランディアも協力すると誓ったのだ……我々も兵を派遣せねばなるまいな」「これでカーマイン達がランザックとの同盟を結べれば、戦乱の終結は早まるでしょう」俺の報告に、力強く頷き、改めて協力を誓ってくれるアルカディウス王。同盟を結べれば、更に戦乱の終結が早くなるというサンドラ。……そう簡単にはいかないと思うがなぁ……。原作の展開から考えて、十中八九ガムランが挟撃作戦を取り付けている筈だ。もっとも、ローランディア進攻部隊は、ほぼ丸ごと説得したからな……ガムランの策は叩き潰したことになる。しかしそうなると、ランザック王国軍が野放しになる……何かしら対処せねばならなくなるが……迷いの森のグローシアン遺跡の装置を起動するか?いや、ジュリアン達が味方についている以上、グローシアン遺跡の起動なんてしたら大根が走り回るだろうしな。ジュリアン達、迷いの森から進軍→装置起動→迷いの森発生→大根RAN。策はある……しかし、まだ不確定要素が強い。もう少し煮詰めたい所だが、恐らくあまり時間が無いだろうからな。いや、原作とかなり食い違って来てるんだ……もしかしたら同盟を成功させているかも知れない……が、それは楽観的希望だ。常に最悪のパターンを想定して策を練るのは、悪いことじゃない。と言うか、必要なことだ――。「お言葉ではありますが、同盟工作が失敗した場合のことも考えておくことも必要かと」「ふむ……シオン殿はどう見るかな?」俺はジュリアンから得ていた情報……ガムランがランザックとの交渉の為、ランザックに向かったであろうことを説明した。「むぅ……そのバーンシュタインの高官が、先にランザックと不可侵同盟を結んでいるかも知れない……と言うことか」「不可侵同盟だけなら良いのですが……」「どういうことですか?」俺の話に、難しい顔で考え込むアルカディウス王……そして俺の意味深な台詞にカレンが疑問をぶつけてきた。「不可侵同盟どころか、協力体制を組んでローランディアを襲ってくるかも知れない……そうだよねシオン?」「そういうこと、流石はラルフだな……まぁ、協力を組む筈のバーンシュタイン進攻軍は、こっちについたからな……この時点で敵の策は無効にしたことになる」俺はラルフの解説に相槌を打つ。あのクズ野郎の策は潰してやったが……。「けど、実際にはどうするの?」「そうだな……策はあるが」リビエラの質問に答える……策という程のことじゃないんだがな。「策とな?」「はい……もっとも、策という程の大層な物でもありませんが……」まぁ、詳しくは全員揃ってから話そう。俺は気が読める……だから分かる。カーマイン達が近づいて来ているのが……もうすぐそこに来ている。案の定、謁見の間に入ってくるカーマイン達。「おお、お前たちか……ランザックとの同盟は上手くいったのか?」「そ、それが……」アルカディウス王の問いに、申し訳なさそうに事の顛末を語るティピ。やはり、ガムランが手を回していたか。予想通りとは言え、正直気分が良いモンじゃないな。「シオンさんがジュリアン達と交渉してくれたから、挟み打ち!なんて状況にはならなくなったケド、ランザック王国軍は攻めて来るんだよ……」今回はそれほど何もしてないんだけどな……。「むぅ……シオン殿の予想通りになったな……」「予想通り…?」王の言葉に反応して、カーマインが俺に聞いてくる。「まぁ、最悪のパターンも想定していたからな……この展開も読めていた」ある程度は……だけどな?「彼には、何か策がある様です」「策?どんな策なんだ?」サンドラが、カーマイン達に説明する。それを聞いてゼノスが俺に尋ねてくる。本当に対した策じゃないんだがなぁ……あまり気乗りはしないし。俺は皆に、現在の考えを話した。それは策とも言えない様な代物……屁理屈の上に屁理屈を重ねた様な代物………。それは……。