その後、上機嫌なランザック兵に見送られその場を後にする俺達。その際に、街にバーンシュタインの兵が来ているから問題を起こすなよ?と、釘を刺されたが。しかし、こんなこともあろうかと、ブローチを追加購入していて良かったな。しばらく歩いてから……。「あの、ごめんねお兄ちゃん……」「ん?何のことだ?」ルイセが何で謝るのか……検討がつかないのだが。「だって、さっき……」もしかして、関所での話か?どうやらルイセは気にしているらしいな。「ま、言いたいことは分かる……ルイセの気持ちも何となくだが分かる……だから気にするな」俺はルイセの頭を撫でてやる。「……お兄ちゃん……うん、ありがとう♪」やはりルイセには笑顔が1番似合うな。俺たちはそのまま進んで行く……道中にモンスターが結構出て来たが、問題無く進む。そしてガラシールズの入口辺りにたどり着いた。「やっと着いたわね。通行手形ってここまでしか来られないんでしょ?」「そう言ってたよね。とりあえず場所は覚えたから、テレポートは大丈夫だよ」ティピの言う通り、商人用の通行手形ではここまでが限界……まぁ、ルイセが居るからテレポートを使った行き来が出来る分、時間的なアドバンテージを得ることが出来る。「さて、これから先は現場判断ってことになるんだが……どうする?」「そう言えば、関所の衛兵が気になることを言っていたな」「気になること……何だっけ?アンタ、覚えてる?」ゼノスの疑問に答える形でウォレスが言う。ティピはさっきのことを忘れているらしい……揮発脳か?「街にバーンシュタイン兵がいるという話だろう……?」「そうだ。なぜバーンシュタイン兵がランザック王国の街にいるのか?シオンも言っていたが、やはりバーンシュタインもランザック王国との同盟か……或いは協力を取り付けに来たのだろう」「つまり手遅れだったってのか?」俺の答えにウォレスが頷く……確か、ガムランとか言うウォレスの傭兵時代の仲間……今はバーンシュタインの高官らしいが……そいつがランザックとの交渉に赴くとか……。ゼノスの言う様に間に合わなかったのか……?「まだ何とも言えんが……ガムランが絡んでる以上、可能性は高い……しかしせっかくここまで来たんだ。連中の行動を探るところから始めても良いだろう」「……そうだな、情報を集めよう。結論はそれからでも遅くはない」俺たちは街の中に入り、情報を集めることにする。すると幾つか情報が集まった。まず、この街にバーンシュタイン兵がいる理由。バーンシュタインの高官の、ガム何とかという奴がお忍びで来ているから――らしい。これは十中八九、ウォレスの言うガムランだろうな。そして、今この街にはランザック王国の将軍……名をウェーバーというらしい……が、やって来ている様だ。ランザック王国随一の将軍で、寡黙で人望が厚いと評判らしい。「…むぅ……」だが、このウェーバー将軍の名前を聞いた時に、ウォレスが何とも言えない表情になった。そして何やら考え込んだ後、話があるから宿にでも行こうと言い出した。なんでも、ここでは話せない内容らしい……。俺たちは頷き、直ぐさま宿に向かった。「で、話ってのは何なんだ?」宿に着いて、ゼノスが開口1番に訪ねた。「さっき、街の人がウェーバーの話をしていただろ?」「たしか、将軍って言っていたよね。その人がどうしたの?」ウォレスの言葉を聞いて、ルイセが尋ねる。「ウェーバーは俺の傭兵仲間だった……」「ウォレスの傭兵仲間……もしかして、三人いた副団長の最後の一人が……」「ああ……それがウェーバーだ。奴は団長がいなくなると、残った部下を養うため、ランザック王国と独占的な契約を結び、そのまま正規軍になった」俺の疑問に答えるウォレス……成る程、ウェーバー将軍は噂通りの人物らしいな。「それじゃ、その将軍と話が出来れば、ランザック王国と同盟を取り付けるのも楽になるんじゃないかな?」「確かにそうかも知れんが……」「事はそう簡単にはいかねぇって訳だな」「どういうこと?」ルイセの提案に、渋るウォレス……そして理由を悟るゼノス。ミーシャには何故か理解出来ないらしい。「……街でバーンシュタインの高官が来ている……って話があっただろう?ガム何とかっていう奴がお忍びで来ていると」「それって確か……」「そう、シオンが言っていたジュリアンからの情報と一致する……確か、ガムランだったか?」俺の意見にティピがハッとなる。そう、ガムラン……ウォレスの傭兵時代の仲間で、副団長の一人だった男。そうウォレスから聞いている。「つまり、旧友のよしみで同盟か協力を取り付けに来たかも知れない……そういうことだよな?」「ああ。確かにガムランは団長の失踪と同時に、傭兵団を抜けた男だ。その後バーンシュタイン王国に渡って、仕官した。そして俺たちのように同盟、或いは協力を取り付けるため、旧友ウェーバーを頼った……そう考えるのが自然な流れだ」俺の意見にウォレスが肯定の意を示す。「もしそうだとしたら、わたし達の任務ってどうやっても成功しないんじゃ……」「……もう少し調べてみよう。結論を出すのはそれからでも良いだろう」ルイセの言葉に、頭を抱えるみんな……だが、結論を出すにはまだ早い。「みんなで別行動して、情報収集した方がいいかもね」「そうだな……どちらにせよ、このまま手を拱いたままになんて出来ねぇからな!」ルイセの意見に同意を示すゼノス。確かにバラバラに情報収集した方が効率的だな。「それがいいかも知れん……だが、スマン。俺はここに残る。もしガムランとウェーバーに見つかると、こっちの動きがばれるからな」「しょうがないよね……それじゃ、みんなで別行動しましょ。何かわかったら、またここで落ち合いましょう!」確かにウォレスとその二人は、かつての副団長同士……顔見知りだからな……バレたら面倒だ。「うまく出来るかなぁ……」まずミーシャが行き……。「情報収集か……ま、なるようになるさ」ゼノスが行き……。「行ってきます」ルイセが情報収集に行った。「さ、アタシ達も行きましょ!」「そうだな……じゃあウォレス、行ってくる」そして俺とティピも情報収集に向かったのだった。とは言え、何処から手を着けたものかな……。とりあえず住民からは、あらかた情報を聞いた後だしな……ん?そういえば、まだ調べていない場所があったな。俺はその場所に向かうことにする。街の人に、ここから先には近付かない方が良いと言われた場所。俺はそこに向かった……そこにはランザック王国の兵士が一人……恐らく見張りだろう。「ここは立ち入り禁止だ!さっさと立ち去れ!!」……近付いたら問答無用で追い返された。……何かあるな。俺は誰かに協力を仰ぐことにした。「あら、お兄ちゃん。どうしたの?」ルイセか……ルイセなら相手も油断してくれるかも知れないな。「実は町外れを調べたいんだが、兵士が見張っていて先に進めなくてな……そこで、ルイセに兵士の気を逸らして欲しいんだ……頼めるか?」「うん、わかった。私でよければ協力するよ!」俺はルイセを伴い、見張りの立つ場所へ……。「それじゃ、ルイセちゃん、お願いね」「う、うん……」どうやら、緊張している様だな……大丈夫かルイセ……?そうは思いながらも、俺とティピは物影に隠れて、事の展開を見守る。いざとなったら、飛び出して助けることも出来るしな。「あ、あの……すみません」「どうした?」「あっちでケンカをしている人がいるんです!早く止めないと……」「しょうがないな……案内しなさい!」「はい、こっちです……」ルイセは見張りを連れて走って行った……。「やったわね。さ、今のうちよ!」「ああ……だが」「?何よ?」「ルイセにあんな大嘘を言わせてしまうとは……なんか自分が情けなくてな……」これを期に悪い女になったりしないか、心配で心配で……これも俺が頼んだからだよな……。ルイセって、基本は俺の言うことを何でも聞くからな……それは純粋ということでもあるんだが。やはり、ルイセには兄離れを勧める。俺もルイセに少し厳しく接しなくては……しかし。……あの子犬的なルイセを見てると、つい……な?むぅ……俺も妹離れをしなきゃならんのかもしれんな……。「って、今はそんなこと言ってる場合じゃ無いでしょ!!」「ああ……そうだな」確かにそんなことを言ってる場合じゃないな。気を取り直して、俺達は先に進むことにした。「ここにも警備をしている兵隊がいるよ?」ティピの言う様に、数人の兵士がうろうろと警備をしている。あの屋敷には余程重要な客がいると見えるな……。「あの屋敷で何をしてるのかな?アタシ、ちょっと見てくるよ。あの屋敷の煙突から入れば、気付かれずに様子を探れると思うんだ」「分かった……気をつけてな?」「オッケー、任せといて♪」自信満々に言い、上空に上がるティピ……兵士達に見付からない様にする為だ……だが。「きゃ〜〜〜〜!」ティピが風に押し戻され、こっちまで戻って来てしまう。どうやら上空は風向きや風の強さが異なるみたいだな……そういえば、飛行装置の説明の時にアリオストがそんなことを言ってたっけな。「風が強くて、飛べないよぉ……」「……俺が連れていくしか無い、か」「ゴメン……屋根の所まで連れていってくれたら、煙突を通って、中の様子を見てくるから」「まぁ、仕方ないさ……」早速、シオンの教えを実行する日が来るとはな……。俺は覚えたばかりの気の調整を行い、限りなく気配をゼロにする。まだまだ完璧では無いが、幾らかマシになるだろう。そしてティピをジャケットのポケットに入れ、潜入開始。兵士の目をかい潜り、素早く、焦らず進んで行く。その甲斐あって、何とか見付からずに屋根にある煙突まで、ティピを送り届けることが出来た。「やったね。それじゃ、中の様子を見てくるから」「ああ……俺は屋敷の入口で待ってるからな」ティピを見送った後、俺は再び見付からない様に屋敷の庭を出た。「後はティピを待つのみか……」俺は屋敷の入口からティピが戻ってくるのを待つのだった。******何とか上手く潜り込めたわね……けど、煙突だけあって煤が……ん?話し声が聞こえる。アタシは煙突の入口まで来たので、影から中の様子を伺う。「しかし、互いに歳を取ったものだな。昔はもっと……」「無駄話をしに来たわけではあるまい。さっさと本題に入れ」「いまだにその堅苦しい性格は直らんか……」「大きなお世話だ」「…ふん」あれがガムランって人とウェーバーって人かな?なんか仲が悪そうね〜。「我々、バーンシュタイン王国は国境の森を抜け、間もなくローランディア王国と交戦する。その間にお前たちランザック王国はローランディア王国の背後に回り込み……」「作戦の確認はいい」って、やっぱりそういうことだったのね…。