シオンたちと別れた後、俺たちは早速ランザックに……行く前にティピの我が儘により、領地を見に行くことに……確かに気にはなるが……。そんなことをしている場合ではないんだがな――。ローザリア西門を真っ直ぐ抜け、そのまま直進する……。すると、そこには広大な土地が広がっていた。要するに土地だけで、後は何も無いがな?見晴らしは最高だけどな。「ここがそうなの?何にもない所だよ?」ティピが不満そうにしていた……いや、想像しとけよ。と、そこで一人の男性が居るのを見付ける。その男性はどうやらこの土地の管理人の様だ。ご主人様……と言われるのはなんかこそばゆい。管理人の彼が言うには、施設の制作費用を払ってくれれば、後は自分の方で業者を手配して、施設を建てておいてくれるらしい。管理運営費用、従業員の給料などは、施設の売り上げの一部から転用されるとか。更に一部が俺のポケットマネーになるらしい。それを聞いていたゼノスが。「くっ、やっぱ土地にしときゃあ良かったか!?」とか、言っていたが後の祭りという奴だろう。従業員は、ある程度なら雇ってくれるらしいが、必要な人材はこちらでスカウトして来て欲しいとのこと。……そういえば、あちこちで色々な人に会って来たからな……暇があれば頼んでみるか。で、まずはここの名前を決めて欲しいということだが……。「名前か……簡単には思い浮かばないな」これからその名前がこの都市の名前になる……ならあまりふざけた名前は付けられないしな……。「アンタが決められないならアタシが決めてあげるわ!!『ティピちゃん王国』よ!!」「却下」「な、何でよ!?」即答した俺に、ティピがぶーぶー文句を言う。説明しなきゃ分からんか?「正直、突っ込みどころが多過ぎる。ここはお前の国じゃないし、何より王国なんて名称を付けたら、ローランディアに喧嘩売ってる様な物だ……つーか、今後は決めた名前で通さなければならないんだから、マトモな名前が良いんだよ」ティピ、あえなく撃沈。しかし、その後もみんなに意見を聞いたが……。「ゼノスアイランドにしようぜ!!」……だの。「私とお兄さま達の愛の花園……素敵……♪」……だの、ろくな意見が出なかった。誰がどの台詞を言ったか説明するまでもなかろう?勿論、ツッコミと共に全却下だ。ゼノスはティピと大差無いし……。ミーシャ辺りは花の名前辺りから良い名前をくれると思ったんだがなぁ……。常識人と言えるウォレスは……。「どうも、名前を付けるとか経験が無くてな……お前の名前のままカーマインとかで良いんじゃねぇか?」――と言って、事実上の辞退を表明してきた……いや、俺もそういう経験は無いんだが……。というか、まんま俺の名前とか恥ず過ぎなんですが?こういう時にアイツらがいればな……。シオンは時折、ティピと悪ふざけをしたりするが、常識人であり知識も豊富だ……何かしら良い案を出してくれただろう。ラルフも商人志望なだけあり、知識も豊富だから何かしらアイディアをくれるだろう。カレンも常識人ではあるが、知識はどうなんだろう……だが、悩みながらも真っ当な意見を言ってくれそうだな。……むぅ、どうするかなぁ……。「ねぇお兄ちゃん、エルスリードなんて――どうかな?」「エルスリード?」ルイセが意見を出してくれる……エルスリードか……良いな。しかし、何処かで聞いたことがあるような……。「ほら、最初の任務でレティシア姫を護衛した時に、シオンさんがお話を聞かせてくれたでしょ?その時に出て来た……」ああ確か、物語に出てきた城だか国の名前だったな。ふむ……他にアイディアは無いし、これで良いか。しかしティピ、ミーシャ……「「あっ、そういえば……」」って、忘れていたのかよ。二人が言うには、話の概要は覚えてるが細かい所はうろ覚えだそうな。……とにかく、この都市の名前は『エルスリード』に決定した。その旨を管理人に伝えると、今度は施設や人員をどうするか話し合った。とりあえず、やれる限りのことを全てやって貰うことにした。費用は多少掛かったが、先行投資だと思えば高くはない。国から給料も支給されているから、多少余裕はあったしな。次に訪れるまでには全て終わらせておく……と、言われ、俺達はその場を後にした。さて、今度こそランザックに……と、思ったがここで問題が発生した。というより、懸念していたことなんだが。パーティーを分ける前にシオンが……。『商人用の手形で通るなら、何かしら品物を準備してた方が良いんじゃないか?最悪、武器商人とかでも通るかも知れないが、武器よりは何かしら別の物を用意していた方が、怪しまれないと思うぞ?』という助言をくれていた。どうしたものかと、考えていたら。「そういえば、グランシルでフリーマーケットをやっていた筈だな……あそこなら何かしら手に入るんじゃないか?」と、ゼノスが言ってくる。成る程……フリーマーケットか……。「ところで、フリーマーケットってなんなんだ?」「アンタ知らないの〜?」「……そういうティピは知ってるのか?」「……エヘッ♪アタシも知らないや……教えて?」ティピ……お前な……。みんなが言うには、それぞれ物を持ち寄って、露店を開いて自由に売るのがフリーマーケットだとか。一般の人も参加してるらしく、売る物も基本的には自由らしいので、色々出回ったりするらしい。なら、そこで何かを仕入れるとしよう。俺達はルイセのテレポートでグランシルへ。グランシル到着後はゼノスの案内でフリーマーケット会場へ……って、闘技場前の広場が会場なのか……。とりあえず、それぞれ自由に見て回ることに。任務の内容上、あまりのんびりも出来ないが、せっかくの機会だからな。ウォレスは疲れたとか言って休んでいたが。早速、フリーマーケットを見て回ることにする。……本当に色々あるんだな。……ファッショナブルな漬け物石ってなんだ……?と、ある程度見回った時にルイセを見付けたので話し掛けてみる。「あ、お兄ちゃん。あのね、わたしにアクセサリーって似合うかな?」む?突然何を言うのか……ルイセにアクセサリーか……似合うと思うがな。「ルイセなら何を着けても似合うと思うぞ?」「そうかな〜♪」照れるルイセ……中々に愛くるしいな。話を聞くと、ミーシャが小物屋を見つけたので、自分も行ってみたのだそうだ……中々可愛いアクセサリーが一杯あったらしい。しかし、自分にアクセサリーが似合うとは思えず、何も買わずに飛び出したという。「もったいないわね〜。ルイセちゃんなら何を着けても似合うのに」「ありがとう、ティピ」どうやらティピもそう思っていたらしい。そういえば、そんな店があった様な……。その後、フリーマーケットの雰囲気について語った後、一旦ルイセと別れた。確かこの辺りに……あったあった。俺は店員と話してアクセサリーセットを購入する。若い工芸師が練習用に作った物だからか、100エルムと、今の俺からすればかなりお手頃な値段だった。俺はどれがルイセのお気に入りか分からなかったので、それなりに数もある、アクセサリーセットを購入した。可愛らしい箱に、幾つかのアクセサリーが入っており、そのどれもが素人目にも中々に悪くない感じの品物ばかりだ……ルイセも気に入ってくれると良いんだが。「ルイセちゃん、喜ぶぞぉ!さっそくプレゼントしてあげようよ!」「そうだな……」俺はルイセを探した。「ルイセ」「あ、お兄ちゃん。どうしたの?」俺はルイセに買ったばかりのアクセサリーセットをプレゼントする。「え?お兄ちゃん、わたしにこれをくれるの?」「ルイセが、どのアクセサリーを気に入ったのか分からなかったから、セットを買ってきたんだが……気に入ってくれたか?」ルイセが箱を開けて中身を見ている。そして俺を見る。「うん。とっても嬉しい……」「じゃ、なんで泣きそうな顔をしてるの?」そう、ティピの言う通りルイセは涙ぐんでいる……今にも泣きそうだ。俺はてっきり、いつぞやのプロミス・ペンダントの時みたいにはしゃいで喜ぶと思ったのだが……あの時ペンダントを買ったのはシオンだったが。もしや、気に入ったアクセサリーが無かったのか……?「お兄ちゃんからのプレゼントが……とっても嬉しくて……」赤くなりながらも、涙を流すルイセは綺麗だと思った……。「もう、泣くことなんてないでしょ」「ティピの言う通りだ……まぁ、そこまで喜んでくれたなら買った甲斐はあったよ」「うん。お兄ちゃんありがとう。大事にするね……」そう言って大切そうに、アクセサリーセットの入った小箱を抱きしめるルイセ。……なんだか、そこまで喜ばれるとこっちが照れてしまうな……。その後、色々と物色していたが、流石に時間的に余裕が無くなって来たので、そろそろ任務に戻ることにする。ティピに頼んでみんなに集合を掛けてもらう。……全員集まったな。俺達はルイセのテレポートでラージン砦へ。そこから南の森へ向かって行く。森の中にはプラントという植物系のモンスターが数多く居たが、ハッキリ言って今の俺達の敵では無く、文字通りちぎっては投げ、ちぎっては投げ状態だった。とは言え、数だけはいたから少々手間取ったけどな。ファイアーボールでも使えれば一発なんだが、周りが森だからな……洒落にならん。マジックアロー系、トルネード等の魔法も駆使して先に進んだ。「止まれ!これより先はランザック王国領だ!通行手形のない者を、通すわけにはいかん!」関所があったので、俺は行商手形を提示する。「見ての通り、俺たちは商人だ……ランザックには商売の為に訪れた」「確かに手形もあるな…どんな物を扱ってるんだ?」やはり聞いてきたか……まぁ、改める為というより興味本位で聞いてきた感じだが。一応、用意はしてあるが……道中、俺が用意した品物よりはルイセにプレゼントした品物の方が良いという話になり、ここはルイセに任せることになった。むぅ……そんなに駄目か?ファッショナブルな漬け物石。『物珍しいアイテムならお客さんの眼を引き付けるからね』と、以前にラルフが言っていたのを思い出して購入したんだが……もしかして、何か勘違いしたか、俺?「え、えっと。アクセサリーを扱ってるんです。若い職人さんの細工だから、お値段も安めで、わたしくらいの女の子には、人気があるんです」「ほう、私にも君と同じくらいの娘が一人いてな。これなんか、一つ買ってあげると喜んでくれそうだな。いくらするんだ?」「え、あの…え〜と……」ルイセが言葉に詰まっている……大方、そこまで決めてなかったのと、俺からのプレゼントだから渡したくないというのがあるんだろうな。仕方ない。俺は懐からブローチを取り出す。「そうだな……大体5〜20エルムくらいだな。それも悪くないが、これなんかはどうだい?娘さんも喜んでくれると思うよ」「おお、中々可愛らしいブローチだな…細工も綺麗だし…よし、それを買おう」「毎度あり、しばらくはランザックで商売させてもらうからね。兵隊さんには特別に5エルムでまけておくよ」俺がそういうと、なんか悪いなぁ、と言いながら兵士はブローチの代金を支払ったのだった。