エリオットの首筋にある物……それは微かな火傷の痕。アンジェラ様が言うには、生まれて間もない頃に侍女の一人が誤って火傷を負わせてしまったとか。それ、相手によっては万死に値するよなぁ……しかし、誤ってのことなので不問にしたそうだが。何とおおらかな方なんだろうか……。で、現在、母と子の感動の再会をしている二人。流石に邪魔は出来ず、待機する俺達。それからしばらくした後に。互いの近況を話し合う……アンジェラ様は最近のリシャールの豹変ぶりに戸惑いながらも、我が子のことと信じていたそうだ。しかし………。「リシャールが怪しげな男に命じて、偽のグレッグ卿を仕立て上げ、わざと自分に切り掛かる様に指示しているのを、立ち聞きしてしまいました……」やはりと言うか、グレッグ卿は偽者だった訳で……立ち聞きしていたのをリシャールに知られたアンジェラ様は、ここに幽閉される羽目になったと……正に外道!!いや、その場で始末しなかった辺り、まだ自我が残っていたのか?「それで、これからどうするのですか?」「そうですね……我が父上の助力、ローランディアのアルカディウス王も助力を誓って戴いておりますが……」決意を固めたアンジェラ様の質問に答える……後はジュリアの部隊の説得だが……ジュリアの為にも後一押ししておくか。「私の父上の知己であるダグラス卿ならば、あるいは助力をしてくれるかも知れません」「……そうですね。分かりました……私も及ばずながら力を貸しましょう」「助かります。アンジェラ様に共に赴いて戴けるならば、ダグラス卿も分かって下さるでしょう」俺だけでも説き伏せる自信はあるが、やはり王母様がこちら側に居るという事実は大きい。策士、策に溺れるという言葉はあるが、常にどういうケースにも対応出来る様にするのは悪いことじゃない。で、アンジェラ様を同行者に加えた俺達は、まずはこの屋敷から出ることに。案の定門番に声を掛けられるが。「母上を城にお連れするのだ……私の計画に必要なのでな……」「は、はぁ……」計画って何だよ!?……と、突っ込みたくても突っ込めない……何故か?それは王だからだ!!特にゲの字に操られてるリシャールは、傲慢外道王として、子供からお年寄り、あちらさんにもそちらさんにも大評判だからな!!……下手なことを聞いたら首が飛ばされる。比喩じゃなくてマジでな。なので、門はあっさりスルー。さって…………よし!気は感じない。どうやら原作みたいに仮面騎士の横槍は無い様だ。まぁ、展開が早いからなぁ……ゲヴェルも今は、手元にこちらへ回せる仮面騎士がいないのかもしれんな。「ダグラス卿はシュッツベルグに居るんでしたね……じゃあ行きましょうか」「しかし、ここからどうやってシュッツベルグまで行くのです?あそこに行くには王都を通らねばならない筈……」「アンジェラ様、御心配には及びません……だよね、シオン?」アンジェラ様が心配するが、そこは抜かり無し!ラルフが目配せして来たので、サムズアップして答えてやる。「もしかして……」「言ってなかったっけ?シュッツベルグは、旅をしていた俺達が1番最初の頃に立ち寄った街だよ」カレンの疑問に答えてやる……というか、旅をしてきた時の話をしていたから覚えてる筈だが。そう言ったら……。「そう言えば、そうでしたね……」懐かしそうに微笑むカレン……忘れていたのではないらしい。まぁ、それはともかく……。テレポート!!*********――して、シュッツベルグ入口。「これは……」アンジェラ様がびっくりしているので、テレポートについて簡単に説明。「これがテレポートですか……初めて体験しましたが、凄い物ですね……」ん?この台詞、原作でサンドラも言ってたんでなかったっけ?まぁ、良いか。門番に軽く挨拶、街の中に入り、ダグラス卿の屋敷に向かう。道中、ジュリアの弟が修業の旅に出たとか言う話を聞いたりした。修業の旅か……俺達も14、5の時に旅に出たからな……良い思い出だぜ。そうこうする内にダグラス卿宅に到着。コンコン。軽くノックするエリオット……そして出て来たのは執事と思われる人。「失礼。ダグラス卿はご在宅か?」「!これは王!それにアンジェラ様まで!今、ダグラス様を呼んで参りますので、どうぞ中でお待ち下さい!!」で、応接間に通される俺達。「皆さん、やはり王様が来ると畏縮してしまうんですね……」「そりゃあな……仮にカーマイン宅に居て、アルカディウス王が尋ねて来てみろ……ビビるぞ?」カレンの言葉に答える俺の脳裏に浮かんだのは、ウォレスみたいな服装をした王様……魔法の眼の代わりにグラサンを着けている……自分で想像しといて何だが……ないわ……そりゃ無いわ……。「……上手く行くでしょうか……?」「そこは信じるしかないね……」大丈夫だとは思うがな……俺も交渉のテーブルに着くし。仮に通報なんてされたら、全力で逃げ出すし。……と、来たみたいだな。「これはリシャール王にアンジェラ様……わざわざ出向かれずとも、こちらからお迎えに上がりましたのに」「……えっと……」「?どうなされました?長旅でお疲れでしょうか?」これから話すことを考えて、素に戻ってしまうエリオット……それをフォローする様にアンジェラ様が話す。「用があるのは私の方なのです」「アンジェラ様が?して、私めにどの様な?」「ダグラス卿……貴方は彼を見てどう思いますか?」「彼……と申されますと……陛下のことでしょうか?」アンジェラ様はエリオットについて尋ねるが、ダグラス卿は頭にクエスチョンマーク……それも仕方ないだろうな。「そうです。彼は私の本当の息子、リシャールです。しかし貴方の知っているリシャールとは別人です」「……おっしゃることが分かりかねます。この方はリシャール様だが、王では無い……?」本来ならここでボスヒゲの書簡が出てくるんだが……無いので、俺が出っ張る。「お久しぶりですダグラス卿……三年ぶりですか?」「ん?おおっ!シオンじゃないか!懐かしいなぁ……元気にしていたかね?」改めて言うことじゃないが、ダグラス卿とウチの父上は同僚で仲が良い。故に、ダグラス卿も俺を息子の様に可愛がってくれる。が、俺としてはその感情をジュリアに向けてやって欲しかったと思ってる訳だが。さて、昔話はまたの機会にして交渉、交渉。俺はアンジェラ様に説明した内容を一字一句、間違わずに説明した。勿論、火傷の痕の話も……グレッグ卿が偽者だという話も。「……俄かには信じがたい内容だ……しかし」アンジェラ様も勿論説得に加わってくれた……なのでもう一押しなのだが。「『王家の剣』の一族であるレイナードも動いている……だが……」ここでエリオットが前に出る……決意、覚悟を決めた顔だ。「僕には力はありません……ですが、今こうしている間にも、多くの望まれない血が流されています……本来、それは必要が無かったことです。僕はそれを止めたい……こんな僕に出来るなら、だから……お願いします、力を貸して下さい!!」勇気を振り絞って、真っ直ぐにダグラス卿を見つめる瞳に濁りは無い。ダグラス卿も気付くだろう、懸命に精一杯な少年……その純粋さに育まれた王としての器、カリスマ性を。「……分かりました。エリオット様……いえ、リシャール様に忠誠を誓いましょう」やはり理解してくれた……どうやらネゴシエーションは不要だったみたいだな……。エリオットはリシャールと呼ばれたのを訂正して、エリオットと呼んで欲しいと言った……ずっとエリオットと呼ばれて来たので、リシャールと呼ばれてもピンと来ないらしい。俺達は勿論、アンジェラ様もダグラス卿もそれを承諾した。「しかし、私とレイナードがこちらに着いても、兵力はいまだに向こうが上……ローランディアが助力してくれるとは言え、些か厳しいぞ」まぁ、確かに……これでランザックとの不可侵同盟が上手くいくなら良いが、下手にランザックとこじれたら厄介だ。俺がここまで原作を掻き回した以上、全てが原作通りになる可能性は低い……最悪のパターンも想定していなければならない。「そこら辺は抜かり無く……インペリアル・ナイトの一人に助力を頼んであります」「まさか……そのインペリアル・ナイトとは、ジュリアンのことか?」ダグラス卿が俺の言い回しに、何か感づく……まぁ、ご名答なんだが。「はい、以前……前以て話を通していたので……ただ、兵を説得するのに難航するやも知れないと……」「そうか……」ダグラス卿は何か考え込む……。まぁ、色々思うことがあるのは理解出来るが……。「そこで、エリオットにはもう一働きしてもらいたい」「はい、ジュリアンさんの部下の人達を説得するんですね?」いやぁ、優秀だわエリオット君。オッサンびっくりだわ。つまりそういうこと。予定としては、まずアジトに寄って父上達とエリオットを会わせ、その他の事情を説明。その後は場所が場所だから、ダグラス卿と合流するのが望ましい。その後ジュリアの方に合流、兵達を説得。気の位置からして、原作通りにバーンシュタイン軍のローランディア進攻司令官はジュリアンの様だな。その後は、アルカディウス王に報告するか、カーマイン達に合流するか……いや、もう一つ選択肢があったな。とにかく、アンジェラ様をダグラス卿に任せ、俺達は次の目的地へ……。「待ってくれ……シオン、君と話したいことがある。少し良いだろうか?」と、ダグラス卿が俺を名指しで指名する………もしかしてあの話か?「分かりました……皆は外で待っててくれ」「分かったよ」ラルフ、カレン、エリオット、ついでにアンジェラ様にも外で待っててもらう。「それで……話とは何でしょうか?」「うむ……ジュリアンのことなんだが……シオン、君は知っていたのか?」遠回しに聞いてくる……なので、俺はハッキリ言ってやる。「『ジュリア』のことでしたら、以前に……」「やはりか……アレは早々隠し通せる物ではないからな……ジュリアには、済まないことをしてしまったと思っている……あの子に辛く当たってしまったこともあった……」ダグラス卿の話では、勢い余って勘当したりはしたが、自身がジュリアを歪めたのを自覚しており、そのことを大変後悔しているとのこと。本当はそのことを謝りたいのだが、言い出せずにいたとか。「これは、娘に謝ろうとしたためておいた手紙だ…ついぞ渡す機会は無かったが……恥を忍んで頼みたい。これを娘に渡して欲しい……君に頼めた義理では無いのかも知れないが……」俺はそれをスッと受け取る。「引き受けましたよ…必ず渡します」「!……すまない」どう致しまして、俺としてもジュリアには笑顔で居て欲しいからな。******オマ剣。「ところで、何で私がジュリアのことを知っていると?」「ああ、それは娘がナイトになることを告げに来た時に、『父上、私とシオンの仲を認め…って違ぁう!?』というやり取りがあったので、もしやと思ってな?」「…あの馬鹿」俺はガックリと膝を着いた。ちなみに俺が複数の女性と付き合ってるのを告げたら、ダグラス卿はナイス笑顔で了承した…ってキャラ違っ!?