さて、俺達はアンジェラ様の説得に……赴く前に。「エリオット、カレン……コレをやるよ」二人にそれぞれ武器を渡す。エリオットには細身剣のマインドブラスト……負の力を凝縮されて作られた細身剣で、その刀身から放たれる強い精神波動は、貫いた相手の精神にもダメージを与えるという。原作的には、攻撃時ダメージの1/10をMPに与えるという物だ。実際には、MP……つまり魔力、精神力にもダメージを与えることが出来て、尚且つ詠唱を阻害する効果もある。魔術師殺し……と言うには些か過言だが、対魔術師には役立つ武器だ。勿論、武器としても中々優秀な剣だ。カレンに渡したのは新たな魔法瓶グリトニルと……一見何の変哲もない注射器だった。「この注射器は……」「それは接近戦用でな?手に持って大きくなれ!って念じてみ?」「はい……ん………!?」カレンは言われた通りに祈る……すると何と言うことでしょう……注射器がカレンと同じくらいに大きくなったではありませんか。「あわ、わ、わ!?」カレンは慌ててそれを脇に構える……というより、そうしなければ持てないのだが。「シ、シオンさん……コレは……?」「それはインジェクターって言ってな?見ての通り、どデカい注射器だ。本来、大きさはビッグサイズから変わらないんだが、持ち運びに不便だからな……幾らか弄らせて貰った。元に戻す時は戻れ!と念じれば戻る」早速カレンは念じて元の小さな注射器に戻した。「普段はこの専用のホルスターに納めて持ち歩くと良い」俺はカレンにカバーを渡した。これで危なげなく持ち歩ける。この元インジェクター……正確にはインジェクターⅡは、インジェクターの不満点を改良した俺の魔道具だ。まず、持ち運びの利便性、そして材質の強化&軽量化。これにより、従来のインジェクターより格段に扱いやすくなった。ぶっちゃけ、あんな巨大な物、常時携帯してぶんまわすなんてカレンには無理です。実際、インジェクターⅡでも少しふらついてましたから、カレン。もう一つの機能は薬液の自動精製。普通、注射器ってのは薬液を入口から抽出して使うが、これはインジェクターが自動に精製してくれる。まぁ、コレはインジェクター無印の頃からあった機能だが。後は針の自動洗浄機能、そして新機能の、薬液切り替え機能だ。自動洗浄機能はインジェクターを常に清潔に保つ機能。そして薬液切り替え機能は、文字通り使用する薬液を切り替える機能だ。巨大化した際の状態に、新たにスイッチを増設。猛毒+マヒ毒、石化毒、そして増強効果の三つに切り替えられる。猛毒+マヒ毒、石化毒に関しては読んで字の如くだ。増強効果とは、ぶっちゃけドーピングで、アタック+プロテクト+クイックが掛かるオリジナル仕様。元ネタは押○!番長。ちなみにやり過ぎは身体に害にしかならないので注意。後、渡した魔法瓶も改良した物で、投げ付けて中の魔法が発動したら、手元に戻ってくる仕組みになった。正式名称はグリトニル改!ま、面倒なんでインジェクターとグリトニルで通すが。まぁ、これで幾らか戦闘も楽になるだろ?「よし、それじゃあそろそろ行くか」「バーンシュタイン王国の王族直轄地か……行ったことは無いけど……」まぁ、ラルフの言い分も当然ではある。俺も行ったことは無い。俺達は旅をしていたが、当然立ち寄らなかった場所もある。王族直轄地もその一つだ。「場所的にはガルアオス監獄を東に行った所にあるんだが……あそこの橋はブッ壊したからなぁ……」まだ直ってないだろうなぁ……まぁ、あの程度の距離、俺とラルフなら飛び越えられるか。「まぁ、行ってから考えるか……じゃあ、テレポートするぜ?」俺達はローザリアを後にし……ガルアオス監獄前にテレポートして来ました。そして橋の前まで来た俺達……やはり橋は直ってませんでした。「どうしましょう……この先なんですよね……」「しかし、他の道もありませんし……山を登って迂回していては時間が掛かります」カレンとエリオットが頭を抱えてる……確かに近くに森が、その先には山があり、そこを迂回していけば橋を渡らなくても行けるが、時間が掛かる……まぁ、そんなことしなくても。「ラルフ」「了解!エリオット君、僕の背におぶってくれないか?」しゃがんでエリオットを促すラルフ。「分かりました……これで良いでしょうか?」「うん、しっかり掴まってるんだよ」それに素直に従うエリオットに、やんわりと注意を促すラルフ。「あ、あの……一体何を?キャッ!?」俺はカレンをプリンセス抱っこする。訴訟?タイーホ?しゃらくさいわ!!俺とカレンは恋人同士……怖いモンなんぞ無いわ!!まぁ、こういう関係だからこそ出来るワケだけどな。「しっかり捕まってろよ?」「……はい、離しません……♪」そう言って嬉しそうに抱き着いてくるカレン……うむ、カレンの吐息を身近に感じる……このままキスしてしまいそうな勢いだ。とか、言ってる暇は無いか。俺はラルフに目配せした……ラルフもそれを見て頷く……そして俺達は。ダダンッ!!!「!?」飛翔したのだった。俺はその脚力で一気に向こう岸へ。ラルフは間の離れ小島と化した場所を経由しこちらへ。「カレン、怖くなかったか?」「いいえ、だってシオンさんが抱いていてくれたんですもの……怖いことなんかありません」「カレン……」俺達がラブ空間を展開している間。「あの、ラルフさん……シオンさん達ってもしかして……」「うん、相思相愛って奴だね。シオンには他にも愛する人がいるみたいだけど」「えっ!?それって良いんですか!?」「うん、どうやら当人達も合意の上らしいし、良いんじゃないかな?シオンは本気みたいだし……というより、カレンさんや他の人がそうして欲しいって願ったらしいし」「そうなんですかぁ!?」等と言う話をしていたらしい。で、流石にイチャついている暇は無く、そのまま王族直轄地へ向かう。それくらいは俺も弁えてますから。で、王族直轄地に到着。道中、モンスターが現れたが、メンチビームで撃退。「番兵が居ますね……どうしましょうか?」「何、堂々と通れば良いさ」「堂々と!?」カレンの質問に、俺はサラリと答えてやる。エリオットは信じられないと言った風に声を上げる。「成る程……エリオット君にリシャール王を演じて貰う訳だね?」「ラルフ大正解!ってなワケで、頼むぜエリオット?」「……ぼ、僕に出来るでしょうか?」緊張するエリオット……そこで俺は簡単なアドバイスをすることにする。「良いか?ポイントは偉そうに振る舞うこと、自分が王になったつもりで……多少傲慢が鼻に付くくらいで」「わ、分かりました……やってみます」エリオットは深呼吸を繰り返し、決意を顔に浮かべる。それを確認した俺達は門番に歩み寄って行く。「止まれ!ここから先は王族の直轄地、身分の分からぬ者を通す訳にはいかぬ!!」「この私も通さぬと言うのか?」「!?こ、これは王!?し、失礼いたしました!!」「本来ならば処罰を降す所だが、職務に忠実故の過ちとして、見逃すとしよう……それより、母上に会いたい……通してくれるな?」「はい!……しかしその格好は……それにその者達は……?」「今回のことは人目を忍んでのこと……それゆえに小数の供を連れ訪れたのだ……あくまで極秘でのことだ……このことは、内密に頼むぞ」「ハハッ!!畏まりました!!」「うむ」その後、門を開けて貰い中に入って行く……そしてある程度距離を置いた所で……。「ふへぇ………こ、怖かったぁ……」キリッとした顔をへにゃあ……っと崩し、思いっきり溜め息を吐くエリオット。「何言ってるんだ、凄く似ていたぞ?」幾ら同一人物みたいなモンとは言え……よくもまぁあれだけ……。「何と言うか、凄く雰囲気が出てたよ」「ええ、凄いわエリオット君」皆に誉められて、生きた心地がしないと言いながらも照れるエリオット。いや、実際たいしたモンだとオッサンは思うよ??「さて、アンジェラ様に会うまで、頼むぜエリオット」「ハイ!任せて下さい!」こうして王族直轄地の屋敷に向かう。皆が皆、エリオットがリシャールだと信じて疑わない。そして、屋敷に入る……そこには憂いを秘めた表情を浮かべた王母…アンジェラ様が居た。なんつーか昔と変わらんな……グロラン世界の女性は化け物か!?つまり美人なわけです。「!リシャール……」「あの……えっと……」こちらに気付いたアンジェラ様が、エリオットを見て驚愕の表情を浮かべている。対するエリオットは、実の母に会ったからか、照れながら素に戻ってしまっている。「済まない、リシャール陛下は王母様と極秘の話がある……悪いが人払いを頼みたいのだが」「ハッ!畏まりました!!」どうも俺達は、リシャールの腹心の部下だと思われてる様で、兵士も俺の言葉に素直に従ってくれた。さて、妙な気配も感じないし……これで邪魔者はいなくなったな。「……?どうしたのですかリシャール……?」「あの……初めまして、母上……僕はエリオット、貴女の本当の息子です……」「?何を言っているのです、貴方は?」勇気を持って息子宣言をしたエリオット。しかし、アンジェラ様はクエスチョンマークを浮かべている。そりゃあそうだよなぁ……やはりここは俺が出るか。「詳しいことは私が説明します」「貴方は……?」「お久しぶりです、アンジェラ様……覚えておいででしょうか?レイナード・ウォルフマイヤーの息子のシオンです」俺は数回しか会ってはいないが……覚えてくれているだろうか?「……!ウォルフマイヤー卿の……ええ、覚えていますとも。随分、大きくなりましたね」よかった……覚えてくれてたみたいだ……。これで話は聞いてくれる筈だ。後は俺のネゴシエーション次第か……。それから俺は説明した。エリオットが真の王位継承者であることを。エリオットの命が狙われたこと、それを行ったのがバーンシュタインの暗部、シャドーナイトであること、そして宮廷魔術師長ヴェンツェルがエリオットを人に預けた事実、我が父上がその事実に動いたこと……その他諸々。極め付けは『王位の腕輪』だ……これを見せた時にアンジェラ様は驚愕の顔を浮かべる。そして、本物なら王子生誕当時の宮廷魔術師、三人が記した署名があるとも……。それを聞いたエリオットは以前の様に腕輪を取ろうとするが……やはり取れない。そんなエリオットにアンジェラ様は……。「それより……確かな証拠があります……後ろを向いて、首筋を見せて下さい」「はい……これで宜しいでしょうか?」アンジェラ様はエリオットの首筋を確認する。「……僅かだけど、ちゃんと残ってる……ということは貴方が本当の息子なのですね……」エリオットの首筋を撫でながら、アンジェラ様が呟く。「あ、あの……僕の首筋に一体何が……」困惑するエリオット……まぁ、分からないだろうな……原作でも決定的な決め手になった証拠。それは…………。