さて、俺は今一人、謁見の間に居ます。正確には俺、アルカディウス王、レティシア姫、サンドラ、文官の人だ。他の皆は外で待ってる。そして目の前には、もの凄っっっく!申し訳なさそうなアルカディウス王と、同じく、もう半端無いくらいに申し訳なさそうなレティシア姫。何と言うか、見てるこっちが気の毒になる……当事者の一人が言う台詞じゃないけどな。あの後、装備一式を返された俺はそれに着替えた。いや〜、捨てられてなくて良かったわぁ……特に我が愛剣、リーヴェイグは愛着もあるし、俺のチートぶりに着いてこれる数少ない武器だから……マジで良かった。ちなみにコレらはコーネリウスの執務室から見付かった……とか。その際に、色々怪しい資料がゴロゴロと……。やはり、アルカディウス王を毒殺する計画だったらしい。食事に少しずつ毒を混ぜ、徐々に弱らせ、病死に見せ掛けるという計画だった……もう一発ぶん殴って、一生流動食の刑にしておくべきだったか。「この度のことは本当にすまなかった……いや、すまなかったでは済まされんな……しかし、私には頭を下げるしか出来ん……」「……言葉もありません……まさか、コーネリウス様がシオン様にそんなことをするなんて……許されるとは思ってはいません……ですが……」あ〜……国のトップとその娘が……アンタら、どれだけお人よしだよ?……まぁ、好感は持てるがね。私は謝らない!……なんて、某所長みたいなことを言い出したら、ムッコロ……もとい、見限って国に帰る所だ。……冗談だぞ?「お二方とも、気にしないで下さい。私もこうして、無事なのですから……あまり気にされても、こちらが気を使ってしまいます」俺としては気にしていないワケで……むしろ、あんな某新世界の神のデッドコピー……むしろ彼と比べるのもおこがましい位の小物だが、信頼していた臣下に裏切られていたアルカディウス王の方が気の毒だって。それに最悪、コーネリウスをぶん殴ったせいで処断される可能性も考慮にいれていたからな……この王様ならそんなことはしないとも、思ってはいたが。万が一を考えるのは決して悪いことじゃない。「……済まぬ、この償いは必ず……」「それでは……というワケではありませんが、お伺いしたいことが……エリオットを旗印に、バーンシュタインの王位を奪還する為に動くとか……それは本当でしょうか?」ラルフから聞いたことだが、これは確認しておきたい。これによっては、俺の今後の動きが大きく変わる。「うむ、本当だ……しかし、二面戦争の恐れがある以上、先ずはランザックに同盟を取り付けてから……ということになるが」……そうなると、やはり俺が動く必要があるか……。「王、その件で私に考えがあります」「考えとな?」俺は前以て、父上とその手勢に動いて貰ったこと、現インペリアル・ナイトの一人――ジュリアがこちらに付くことを話した。「我が父は、その気になれば直ぐさま馳せ参じましょう……しかしジュリアン将軍は部下が見限る可能性もあります……そこで、エリオットを連れて説得に当たりたいのです」原作でジュリアに兵が着いて来たのは、それだけ信頼されていたからだが、それは幾度となく戦に出陣し、成果を挙げてきたからだ。無論、ジュリアの人格も判断材料に多分に含まれているのだろうが……。現時点では離反する兵士も少なくない筈。その為に、裏工作……というと聞こえが悪いが……要するに対策を取る役を引き受けたいというわけ。「……ふむ、そこまで根回しをしていたとはな……」「お父様、この方……シオン様は信頼に足る人物です」「私も同感です……ここは彼の申し出を受け入れても宜しいかと」レティシア姫とサンドラから援護射撃的な言葉が来る。そこまで信頼してくれんのはありがたいが……アルカディウス王も、内心は信じてるのだろうな……しかし忠臣と思ってた男が、アレだったからな。慎重になるのも無理からぬこと。「シオン殿、一つ聞きたい……何故そこまで力を貸してくれるのだ?バーンシュタインの者であるその方が……」「……『我らこそ、真なる王家の剣たれ』……これが我が家の家訓です。しかし、それは真なる王家にのみ誓われた言葉だと、私は思います……それも理由の一つです」そう、それも理由の一つ……俺のもう一つの故郷を、ゲヴェルの好きにさせたくは無かったというのもある。だが、何より……。「……私には仲間が居ます。掛け替えの無い友が居ます……彼等の為に、私はこうして此処にいます」ハッキリ言って、世界平和とか言うお題目に比べたら超個人的な意見だと思う。しかし、コレが偽り無き俺の答え……元々、俺が国を出たのも、ラルフを……ダチを助けたいって理由だったからな。それから仲間が増えて、愛する人達も出来た……。俺にとってはそれで十分。目の届く場所にいる人を守る……それが俺に出来る精一杯。「……あい分かった、その件はシオン殿に任せよう」「ありがとうございます!」俺はひざまづき、礼を述べた。王様は信じた……一度、裏切られていながら、また信じるってのは、勇気がいる行為なんだ。流石は為政者……と、讃えられるべきか、迂闊者のお人よしと詰られるべきか……いずれにせよ、その信頼には答えなけりゃあな。俺は謁見の間を後にし、待っていた皆と合流した……エリオットもいる。念の為に呼んでおいたのだ。「あ、シオンさん!」「で、どうだったんだ?」ティピが先に気付き、カーマインが尋ねてくる。「お咎め無し。それどころか王と、姫まで来て一緒に謝られた……こっちが恐縮しちまうくらいにな」「そうか……まぁ、結果論だが……暗殺計画を未然に防いだんだ。お咎め無しなのは当然とも言えるな」ウォレスがそう言ってくれる。あ、コーネリウスだけど、応急処置して牢屋に放り込んでおいた。コーネリウス一派も芋づる式に捕らえられている。反乱分子が全員タイーホされるのも、そう遠くは無いだろう。「まぁ、何はなくとも無罪放免なんだから、良かったじゃねーか」「そうだよシオンさん!」ゼノスに労われ、ルイセにも肯定される。「悪者も捕まったし、めでたしめでたし!だよね♪」「まぁ、新しい任務も仰せつかったから、そう楽に構えてもいられないけどな」軽い感じに言うミーシャに、俺は突っ込みを入れる。「新しい任務ですか?」「ああ、エリオットの手伝いだな」「僕の……ですか?」カレンの質問に答える。エリオットも疑問に思ってるみたいだから、詳しく説明する。エリオットの王位奪還の為、我が父であるレイナード・ウォルフマイヤー卿が軍勢を引き連れて離反……今は俺のアジトにいるらしいこと。ジュリアンはこちらに付いてくれるが、部下は分からない……その為、説得を兼ねて、エリオットを連れてあちらこちらを駆け回ることになった。「ということなんだが……エリオットはOKか?」「はい!僕なんかで役に立てるか分かりませんが……僕のやるべきことですから……だから、宜しくお願いします!」おお、やる気満々じゃないか。やる気のある若者には、オッサンも感心しちまうぜ。「そうなると、メンバーを二つに分けることになるのかな?カーマイン達はランザックの同盟締結の任務があるから、抜けられないしね」「そうだな。俺は一人で抜けても良いんだが…………いや、カレン?そんな悲しそうにこっちを見るなよ……分けると言ったって、そっちが同盟を済ます頃には戻ってくるぞ?」「……だって……」ラルフの説明に便乗して説明する俺……しかし、また以前の様に離れることがカレンには耐えられない様で……なんか、恋仲になってからはそういうのが顕著になった気がする。直ぐに戻るって言ってるのにな……くぅっ!可愛い奴!!超お持ち帰りしてぇ!!まぁ、人目もあるし自重しましたが。ゼノスよ……カレンを泣かせるんじゃねぇ!的な光線が出せそうな視線を向けないでください。まぁ、結局。同盟組、カーマイン、ティピ、ルイセ、ウォレス、ゼノス、ミーシャ。暗躍組、俺、ラルフ、カレン、エリオット。というメンバー編成になった。まぁ、上の面子はローランディア王国に仕官しているメンバーだからな。で、こっちは民間協力者で構成されたメンバー。ミーシャは最後まで悩んだが、結局カーマインチームに。その際のやり取りが。「う〜〜〜ん……ルイセちゃんが居て、カーマインお兄さまが居て……でもあっちにはラルフお兄さまが……ああっ!神様!これは試練なのね!ミーシャの愛を試してるのね!?でもアタシには選べないよ〜……あ〜あ、アタシが二人居ればなぁ……あ、でもそうしたらアタシとアタシで喧嘩になっちゃうかも……それで喧嘩なんかする女の子は嫌いだって言ってお兄さま達に嫌われちゃったりして、そしたら」「……ティピ〜?」「オッケー……ティピちゃ〜〜〜ん!イナズマキィィィィック!!」ドゲシッ!!「ふぎゃ!?」ビッターーーン!!天空より垂直に加速して来たそれは、見事妄想少女に直撃し、哀れ妄想少女は大地と口付けをする羽目になったのだった。「ウダウダ言ってないでさっさと決めなさい!!アタシ達だって暇じゃないんだから!!」「うぅ……キックの威力が上がってるぅ……」まぁ、こういう経緯があって、ミーシャはあっちのメンバーに。むぅ、にしてもティピ……俺の指導があったとは言え……中々やるな。「そういえば、ジュリアンからの情報だと、バーンシュタインも同盟工作の為に動いてるって話だぞ?」「それ本当!?」「ああ……バーンシュタインの高官が交渉相手で……確かガムランとか言ったかな」「ガムランだと?」俺はジュリアンから貰った情報を提示する。原作でも同じだったからほぼ間違い無いだろう。案の定だが、ウォレスが食いついて来た。「知ってるのかウォレス……」「……俺が所属していた傭兵団には、団長と三人の副団長がいてな……俺もその一人だったんだが」「もしかして、その人も?」「ああ、ガムランも副団長の一人だった」カーマインの質問にウォレスが答え、ルイセの疑問にも答えた。ウォレスいわく、ガムランは実力もそれなりにあるが、呪術や毒のスペシャリストで、力押しより策を労するタイプだと言う……正に原作通りだな。「あのガムランが不可侵条約のみを取り付けるとは思えん……何か企んでいると見るべきだな」その後、互いに少しの話し合いをした後にそれぞれに分かれた。……ティピの我が儘によって、領地に顔を出してから行くらしいが。「さて、俺達も行くか……」「それで、どういう方針を立てたんだい?」ラルフが聞いて来たので、俺が答える。「一応、それなりに大義名分がある俺達だが、やはりまだ証拠としては弱い……だから、エリオットが本物であることを証明出来る人物を説得する」「僕が本物であることを証明出来る人……それは一体……」ラルフの問いに答えた俺は、エリオットの疑問にも答えることにする。「それは……お前さんの本当の母親さ」「僕の……本当の母さん……?」そう、エリオットの母…王母アンジェラ様を説得すること。これが叶えば、大きくアドバンテージを得ることが出来る。幸い、アンジェラ様とも顔見知りだから話くらいは聞いてくれる筈。原作通り、王族直轄地にある屋敷に幽閉されているらしいしな。