どうも、シオン・ウォルフマイヤーです。現在、俺はローランディア王城にある地下牢…その中にいます。……何故、こんな所にいるのか?正直、説明するのも腹立たしいのだが……。********俺は周りが微かに明るくなる早朝に起きた。いつも、この時間帯に起きて身体を動かすのが日課だからだ。外に出て、軽く柔軟して、剣舞、精神統一、筋トレ、武術の型の反復練習……ラーニング能力は便利だが……それに付随する、超無才能という有り難くないオマケを持つ俺には、さして意味の無いことなんだよな……しかし、昔からの日課だしな。あ、魔法やスキルのアレンジもこういう時に行う……とりあえず、目下はテレポートのアレンジと、ディスペルの強化……かな?新テレポートは、ほぼ構築が終わっていて、後は煮詰めるだけ……あ、名前も決めないとな。流石に瞬間移動……ってのは却下だな。これは、詠唱が必要だから、龍玉のそれより時間掛かるしな……高速詠唱、詠唱時間短縮のスキルを使えば大差無いが。何か分かりやすい名前が良いよな……。ディスペルは、サンドラの時の例がある……流石に、もうあんな思いはさせたくないからな……。そうこうしてる内に日が昇り、そろそろウォレス辺りが起きてくるだろう時間だ。カーマインが1番最後なのは仕様か?俺もそろそろ戻るか……。今日の朝飯は何だろうな……そんなこと考えながら家に入ろうとした時、そいつはやってきた。俺は城から誰かが出て来たみたいなので、そちらに振り返る。「シオン殿ですか?」ローランディアの兵士だ。「そうですが……何か?」「実は、王がシオン殿に話があるとか……重要な用件だそうです」アルカディウス王が?随分早起きなんだな……俺が言えることじゃないが。エリオットの件か何か……か?どうも呼ばれてるのは俺一人らしい……と、言うことは元インペリアル・ナイトの息子としての助力が欲しい……ということか?そうなると、父上に挙兵を促す説得とかか?いや……もしかすると、やはりコーネリウス辺りが駄々をこねたのかも知れん。「分かりました、案内してください」俺も早い所、ジュリアとエリオットを引き合わせておきたかったし、その辺りも頼んでみよう。***********こうして、俺はローランディア王城内部へとやってきた。……?……なんだこれは……?番兵が居ない……?幾ら戦争中とは言え……。俺は不審に思いながらも、兵士に案内されるがままに謁見の間へ向かう。だが、そこに待っていたのは。「……これはどういうことでしょうか――ヘルゼン卿?」「知れたこと。敵国のスパイを捕らえるのだよ」謁見の間には王はおらず、居たのはコーネリウスと十数名の兵士。「成程……戦争で幾らか兵が出払っているとは言え、番兵すら見掛けないのはおかしいと思いましたが……」「貴様の情報は王を惑わせる……それは私には都合が悪くてね?言っておくが抵抗はしないことだ……あの王族の少年の命が惜しければ……ね」エリオットを人質に取ってる……ってか?……ガセ……と、言い切れないのが辛い所だなぁ――。エリオットは現在、ローランディア城内に匿われている状態だ。故に、コーネリウスの手の者がエリオットを見張っている――という可能性は大いに有り得ることなのだ――。「それに、貴様が反抗して我らを殺したとして、その後はどうする?我らの死体を何処に隠す?そんな騒ぎになれば、貴様は間違いなくスパイだと断ぜられるだろう!よしんば、殺さなくても結果は同じ……逃げても結果は同じ……そんなことをすれば、せっかく騎士にまでなった彼らも断ぜられるかも知れんなぁ……ああ、あのカーマイン殿に似た男……彼もバーンシュタインの生まれだったな……ならば彼も怪しまれるかも知れんなぁ?」――俺はこの男に、強烈なまでの殺意を抱いた。仲間を盾に取った……ダチを引き合いに出した……。――これが国の為なら納得出来る……信念があるなら、理解もしよう……だが、コイツは我欲に染まっているだけに過ぎない。まるで自分が王の様に玉座に座っているのが、全てを物語っている……。いや、本人はローランディアの為だと思っているのかも知れないが――。「……何が望みだ」俺は拳を握り締め、口惜しさに憤慨しながら、聞いた……。「出来るならこの場で処刑したい所だが、バーンシュタイン貴族なら幾らか利用価値もあろう……それに王の御座を汚らしい血で汚すこともなかろう」********で……捕まってこうして牢屋にいるってワケだ。抵抗して八つ裂きにすることも出来た……一人逃げ出すことも出来た……。だが、仲間を引き合いに出されれば……いや、仲間じゃなくても、無関係の人間が巻き込まれれば……俺はこうしていただろうな。俺的には、仲間>他人>自分>屑だからな……。ちなみに今の俺は、上半身の装備を剥がされ上だけ真っ裸状態。下は武士の情けか、そのままだったが……。無論、装備もアイテムも全て取り上げられた。今現在、両手両足を鎖に繋がれて、壁に張り付け状態です。意外に冷静に見える?さっきまで腹腸煮え繰り返ってたぜ?今でも思い出せばイラつくし。けどさ、拷問係の人があまりに哀れでさ……明らかにやりたくないって顔してるんだよ。けど、命令だから鞭を振るうんだよ。俺としては、まともにダメージを受けてやる気は更々無かったので、気で身体を強化してたけど。こっちは傷一つ無くて、終いには向こうがバテちまってな……俺は哀れみを込めて。「……満足したか?」と、冷ややかに言ったワケだ……そしたら、逃げ出しやがってな。まぁ、鞭で打たれるという状況にイライラしてたので、殺気混じりだったせいなのかも知れないが……。鞭で打つのならともかく、打たれるのは趣味じゃない。……怒りが直ぐに治まったのは、仲間を信じてるからというのもあるのだろうな……。俺がいなくなったことを不審に思って…………。そういや、原作ではカレンが突然いなくなった時、ティピがプンプン怒るだけで終わった様な気が…………まさか、な?ま、大丈夫だろ……明らかにコレ、コーネリウスの独断だろうし。と、噂をしていたら……。気配を感じた俺はそちらを向く……そこには私兵を二人引き連れたコーネリウスが。「ふむ……薄汚い場所だが、貴様には似合いだな」「……何か用か?」俺はコーネリウスに感情を込めずに言う……正直、コイツを見てると虫酸が走る。「いや、貴様に良い報せを持って来た……騎士殿達が任務に着いたとのことだ……おめでとう、貴様は見捨てられた訳だ」クックックッ……と笑うコーネリウス……コイツ、原作でもこんなに歪んでたっけ?戦争したがりっ子である以外は普通だと思ってたんだが……。ふむ……皆が見捨てたか……まぁ。「ハッタリだな」「なに……?」俺の言葉にピクリと眉根を動かすコーネリウス。「幾つか理由はあるが、ワザワザそれをテメェ自ら言いに来た理由……不安感を煽る為か?不安になった顔を見て悦に入りに来たか?……違う。そこの私兵の一人が帯剣してる理由は?護衛の為?なら一人だけに剣を持たせるのは変だ……統合すると答えは自ずと出てくる……」俺はズバリと答えを突き付けてやる。「恐らく、俺が消えたことで真っ先にお前が疑われたんだろう?それを知ったお前は焦り、予定を変更して俺を始末しようと考えた……」カーマイン達が任務に着いたのなら、皆の気が城の中に残っているのは有り得ない。あの面子の中には、気の扱いに熟知した奴がいる。俺と共に旅をし、俺と共に修業をした……俺がもっとも頼りにする男が。「……世界は、真に平和な世界の為には、優れた指導者の下に管理統制されなければならん……その国こそ我がローランディアである!しかし、アルカディウス王にその器は無い……だからこそ、真に優良たる私が立たねばならんのだ……我が夢を貴様ごときに阻まれる訳にはいかんのだよ……」……やっぱりロクでも無いことを考えてやがったな……やり口が黒の皇子の劣化版で、思考が新世界の神の劣化版かよ……。俺は思考が冷えていくのを感じた……こんなゴミクズの為に、傷つく人達がいる……死んでいく人達がいる……。「お題目は結構だが……貴様は所詮小物だ……優れてなどいない、思い違えるなゴミ虫が」「なっ!?」そう、お題目は立派だが……そこに信念は無く、覚悟もない……ただあるのは、強烈な迄の我欲と保身のみ……。「くっ!?これだけの無礼……もはや我慢ならん!!貸せっ!!」コーネリウスは私兵から剣をぶん取り、抜き放つ……そして牢の鍵を開け放つ。「この私自ら引導を渡してくれるわぁぁぁぁ!!」コーネリウスは剣を俺の心臓目掛けて突き出した……が。ガッ!!「なっ!?」「どうしたド素人……痛くも痒くも無いぞ?」俺の身体に剣は刺さらなかった……気で強化してるからな……その程度の攻撃は効かねーんだよ……。「ば、化け物めぇ……!!」「……言いたいことはそれだけか?」俺は凍りの眼差しを向ける……そこに。「シオン!!」ラルフを先頭に皆がやってきた……サンドラも一緒か。「ば、馬鹿な!?どうして此処が!?」ラルフは気を熟知している……気を探って他者を判別することなど造作も無い……特にこの場所は、魔術的付加もされていないんだ……バレるのは当然だな。「ヘルゼン卿……これはどういうことですか!?」「!これはサンドラ殿……見ての通り、内通者を処断しているのではありませんか」サンドラに弁解してもらおうとでも思ったのか、コーネリウスは嬉々として語る……俺が内通者であるという証拠を並べ立てる……が、どれもコレも嘘八百も良い所の、お粗末な物だった。俺は思わず呆れてしまい、他の皆は、ある者は同じ様に呆れ、ある者は怒り、ある者は哀れみを向けた。コーネリウスの私兵二人ですらも……。「……そう言うわけです。この様な害悪にしかならない者は処分すべき……そう判断した私は正しいのです!!ですから……」……何と言うか、コレが王の座を狙ってた男か……器じゃねぇな。「な、何だその目は……私は真に優良たる器を持つ者だぞ!?皆、私を敬えば良いのだ!!私がこの国を強くしてやる!!全て私が正しいのだ!!お前達無能者を導いてやると言ってるのだ!!この私がぁ!!!」……もう限界だな。バキンッ!!俺はあっさり鎖を引きちぎる……そして。ドゴンッ!!!「げひぃ!!?」俺はコーネリウスを殴り飛ばした……無論、手は極力抜いた為、死んではいない。「貴様はもう喋るな……空気が腐る」顎を粉砕し、気絶しているコーネリウスにそう言った俺だった。あ〜あ……やっちまったなぁ……皆が馬鹿にされてたからつい……せっかく、手を出さずに我慢してたのによ……。その後、俺は皆から事情を聞いた……朝起きた時に俺が居なくなっていて、皆心配してくれたらしい……で、なんと、俺が兵士に連れられて城に向かうのをラルフが目撃していたそうだ。それを聞いた皆は城で合流しようと、最初に謁見の間に訪れた……しかし、王から聞かされたのは任務の話のみ……不審に思った皆は王に尋ねてみたが、当然俺のことなど王は知らない……サンドラに聞いても分からず、その場に居た皆は困惑するだけだった。しかし、ラルフが俺の気を地下から感知……王に地下には何があるか聞いた……そうしたら牢屋があると聞かされた……と、同時に、俺の拷問をしていた兵士さんが駆け込んで来た……。そして、洗いざらい話してくれたそうだ。それを聞いて、皆、慌てて駆け付けてくれたというわけだな。そして、現在に至ると…。「悪かったな、皆…せっかく助けに来てくれたのに」我慢出来なくてぶん殴っちまった…我慢した意味無いっての。仮にも他国の貴族を傷付けたんだ……最悪、処断される可能性もあり……か。