さて、煩悩と戦って目覚めた翌日……俺達は三日目の休暇を迎える。あ、カレンにはサンドラとのことは言ってある。やはり受け入れてくれた辺り、ガチで本気なんだな……と思う。なんか、本当に某プレイボーイ状態になりそうで怖いが……。さて、次の休暇先は。*******休暇三日目・魔法学院さて、魔法学院に到着した俺達はそれぞれに散って行った……。ふむ……何をするか……ん?視線を感じる……この気配は。俺は視線をそちらに向ける……すると。あれ、秘書さんだよな……何してるんだ?あ、視線が合った……って、隠れた?分かりやすく説明すると……。壁|ω゚)……壁|彡サッという感じだ。なんだ?ヒゲにでも言われて監視しているのか?……にしては、随分お粗末な監視のやり方だな。しかも気の感じからして、まだあそこに居るみたいだし……。マジで何がしたいんだ……?********おかしい……マスターから貸して戴いた資料の通りにしたのだが……。『恋する乙女―堕ちていく愛―』という資料だ。これは幼なじみに恋する少女が、告白したいが出来ずに、影から見守り、それに気付いた幼なじみの少年が少女の愛を受け入れる……という話。しかし、この少年はサディスティックな性癖願望の持ち主で、少女は次第に調教されて……というストーリーだ。ふむ……やはり私が『幼なじみ』では無いから、失敗してしまったのでしょう。ならば次の作戦です。『仮面を被った淫獣』これは偶然を装って少女たちに近付く、好青年の仮面を被った淫獣の様な男の話……これは好青年のフリをして少女達に近付き、弱みを握って脅迫、淫獣の様に貪るストーリー…………。駄目ですね……弱みを握る以前に、あの男がそんなことをするとは思えないし、弱みをそう易々と曝すとも思えない。いや、この場合――弱味を握られるのは私だから、問題は無いのだろうか?――いやいや、私の弱味など、マスターとの関係くらいだが、それを曝す訳にはいかないですし――。ならば次は……。********……本当に何をしてるんだ?俺は気配を消し、音を立てない様に近付く……。そして壁の向こうを覗くと……。「…………」なんか、座り込んで本を読んでるな……真面目な顔して、何を読んでるんだろうな……。チラリと本のタイトルが目に入った。『淫獄地獄』「ブフォ!!?」い、いかん!!むせた!!「!?……見ましたね?」「ゴホッ!ゴホッ!えっ!?いや、見てない!俺は何にも見てないから大丈夫!!誰にも言ったりしないから!?」まさかこの秘書さんにそういう趣味があったとは……い、いかん……煩悩が、昨夜から押さえ付けていた煩悩が……落ち着け俺……サイン、コサイン、タンジェントだ!!いや、こういう時こそ素数を数えるべきだろ!?煩悩退散!煩悩退散!!喝!!かぁぁぁぁっつ!!!ふぅ……手強い相手だったぜ……。「……成る程、私は脅迫されて次第に調教されて、貴方無しではいられない身体になるわけですね……」「げふぅ!!?」俺は再びむせた……な、何をおっしゃりやがりますかこの秘書は!?「な、何でそうなるんだ!?」「これに書かれています」秘書さんは先程の『淫獄地獄』のページをめくって、問題のページを見せた。***********男は女の弱みを握り、愉悦の笑みを浮かべる……また獲物を得たのだ……極上の獲物を……。「心配しなくても、君の秘密は誰にも言わないよ……そのかわり、分かってるな?」「………はい………」女は涙を浮かべ、恐怖を現にしながら頷く。秘密をバラされた日には、比喩では無く首を括らなければならない……。女は男の言う通り、その身に纏う衣を脱ぎ………。***********だああああぁぁぁぁ!!?カットカットカットォォォォッ!!!!?何だこの官能小説は!?いや、突っ込む所そこじゃなくて……。「俺はこんなことしません!!」「そうなのですか?では、貴方はどういうのが好ましいのでしょうか?」うぐぅっ!?な、なんで俺基準!?何か!?そういう罰ゲームか!?「そんなこと言えないって!大体、秘書さんは言えるんですか?」あ……やべぇ、聞いちゃいけないこと聞いた。「……すいません、その様な経験が無いため分かりません」あ、そうなんだ……って、そうじゃねぇ!?何ガッカリしてるんだ俺!?欲求不満が溜まってドS根性機関に火が着いたか!?よーしCOLAになるんだ……って!?COLAじゃなくてCoolだっての!!「貴方はこの本の様なことは嫌いですか?」「だから言えないって」……いや、そんなに真剣に見つめてくるなよ……ったく、このままじゃ同道廻りになりそうだしな……仕方ない。「嫌いじゃない……が、脅迫したり無理矢理は好かん。やっぱり、自分色に染めるのは楽しみだし、育むものだしな……まぁ、イジめるのも好きだが、使い捨てにする話は好きじゃない……」ったく、何が悲しくて己の性癖を暴露せにゃならんのだ……まぁ、聞かれて困るモンじゃねぇがよ……ただTPOってのがあるからな。周りに人がいないのは確認済みだ。「成る程……ありがとうございます」「別に良いけどな……何だってそんなことを聞く?」まさか、こんなくだらないことに、クズヒゲが絡んじゃいないだろうな?「それは……」「それは?」「私の趣味です」……僅かな感情の動きが感じられる……これは。「嘘だろ」「……何故そう思うのです?」「本当に僅かだが、焦りと困惑を感じ取れた……趣味なら、そんな感情は出ないだろ?」いや、そりゃあこんな本を読んでた所を見られたんだから、普通は動揺するだろうが、この秘書さんはそんなタマには見えないのだ。「……貴方に興味があった、ではいけませんか?」またまた……そんなこと言ったって…………オイオイ、この感情は……。「マジ……なの?」「はい、それが何か?」何か……ってなぁ……この感情は、カレン達が俺に向けてくれるそれに近い。あそこまで強い想いじゃなく、なんと言うか、カレン達が一面綺麗な花畑なら、秘書さんのそれは路面に生えた小さなたんぽぽ……しかも花が開きかけてる状態だ……。マジで?秘書さんフラグですか?……俺、何かしたっけなぁ……いや、確かに書類拾って運んであげたけど……まさかそれだけで……。「……何でしょうか?」「あ、いや、何でもない……」どうやら俺は秘書さんをマジマジと見詰めてしまったらしい……。むぅ……とりあえず、秘書さんはともかく、俺はどうなんだ?……うむ、クズヒゲは嫌いだが、秘書さんは嫌いじゃない。むしろ好感を持っている……面白いしな。「なぁ、秘書さん――」「イリスです」「えっ?」「私の名前です……いつまでも秘書さんでは、なんなので」これはつまり……名前で呼んでくれってことか?にしても、そんな名前だったんだな……。「分かった、じゃあイリス……で、良いか?なんなら敬語を使うけど?」「いえ、不要です。どうぞ自由にお呼び下さい」呼び捨て許可が出た……俺としても堅苦しいのは好きじゃないから、正直ありがたい。「じゃあ、イリス……あ、俺はシオンで良いぜ?何か学院であった話をしてくれないか?まだ時間があるなら……だけど」「分かりましたシオン。しかし、そんなことで良いのですか?」「ああ、せっかく名前を知り合ったんだから、他愛ない話でもしようってな♪」俺は笑顔を浮かべながらそう言う。俺は決めた……この秘書、イリスの運命に介入してやる!全力でそう決めた!!……イリスにはなんら罪は無い……少なくとも今は。ならば全力を尽くす!!まずは、一般常識とかを教えてやらねば……。その後は色々話し合った……学生の授業風景、教員達の勤務態度、この本は学院長から借りた物だとか………あのヒゲ、マジでシバく……!俺は、仲間の話なんかをした。重要な話はしなかった。当たり前だが、あのクズヒゲに監視されてる可能性大だからだ。後は簡単な一般常識くらいか……少なくとも、あんな場所で官能小説を見ちゃいけません!「すいません、そろそろ仕事に戻らなければなりませんので」「そうか、ならまた機会があったら話そうぜ?」「はい、それでは失礼します」こうしてイリスは去って行った……機会があれば、また話そう。と、まだ時間があるから、もう少しぶらつくか、外に出て、広場に出たらゼノスが居たので話し掛けた。「学院か……俺には縁の無い場所だぜ。俺は生活費を稼ぐ為に傭兵をしてたから、勉学ってのには縁が無かったのさ……傭兵になった理由は他にもあるがな」後はベルガーさんを探す為だったんだよな?分かります。ゼノスと別れた後、俺はアリオストの研究室に顔を出す。「よぅ、やってるか?」「やぁ、シオン君……よく来てくれたね。何も無い所だけど、ゆっくりしていってくれ」んでは、お言葉に甘えて……。俺達は何気ない雑談を交わしていた。「そう言えば、俺なりに飛行装置を考えてみたんだけどさ……」「へぇ、是非聞かせて欲しいね」とか。「そういえば、シオン君はフェザリアンの過去のことを知ってるみたいだけど、どれくらい知ってるんだい?」「俺自身、遺跡を巡った時に得た情報だから、正確な所は分からないぜ?ただ……」等。「そういえば、カーマインとゼノスが騎士に任命されてさ……」「そうなんだ?それは凄いなぁ!是非、おめでとうと言わせて欲しいな」等……極め付けはこれ。「そういえば、この間ミーシャが壁に激突しそうになってさ」「ははは、ミーシャ君らしいなぁ」「それをラルフが抱き留めて助けてますた」「そうなんだ……って、何だってぇぇぇぇ!!?」そんな叫ばんでも聞こえるって……お前はキバヤ○か?あ、叫んでるのはオマケ数名の方か。眼鏡繋がりで、合ってると思ったんだがねぇ。「そ、それで!ミーシャ君は!?」「心配しなくても、何時もの様にミーシャの目がハートマークになって終わり。ラルフは気付いてなかったよ」ほふぅ〜……と溜め息を吐くアリオスト……なんだかなぁ。「そんなに心配なら一緒に着いて来たらどうだ?それならそういう場面に出くわした時に、アリオストが助けられるだろ?」まぁ、アリオストが同じことをしても……。『ありがとう、アリオスト先輩♪』くらいで済ませそうだがな……ミーシャの場合。「………………いや、まだ僕はフェザリアンを納得させる方法を見付けていない、だからそう言う訳には行かないんだ!」目茶苦茶間が開いたなぁ……余程悩んだんだろうな……何と言うか頑固だねぇ……まぁ、研究者というのは選てしてそういう物かも知れないが。「そっか……頑張れよ」「ありがとう!必ず約束は果たすよ……!!」アリオストがサムズアップしてきたので、俺もサムズアップして答える……くぅ!熱い奴になったなぁ……よし!オッサンもミーシャ関連の情報はちゃんと教えてやるからな………って、これは逆効果か?その後もちょっとした談話をした後、時間が来たので帰ることにした。集合場所に戻って来た俺達は、テレポートで帰還、休暇の終了を報告、家路に着いた。夕食時、ティピが貰った土地を気にしていたので、明日は任務に行く前に土地に寄ることに。土地に寄るのは良いんだが――まだ、何も無い草原だった筈なんだがなぁ……。