――夢を見た。男と女が居る……アレは…俺……?いや、微妙に違う…な。俺に似てはいるが――若干、老けている様にも見える。ここは……岬か?遺跡の様にも見えるが、遠くには塔の様な岩が斜めに立ち……その先には輪が掛かっている――いや、浮いているのか……?女が、男に呼びだした理由を問う。男は頭を掻く……どうやら、緊張している様だ。――男は何かを決意したのか、一つの指輪を差し出した。『これは…あなたが大切にしていた指輪…いつ見ても綺麗。不思議な光を放っているわ』女が言う様に、不思議な指輪だ……指輪というより、指輪に着いている石か……何と言うか、暖かみのある光を放っている――。『これを君に貰って欲しいんだ』『えっ…それって…』――成程、緊張する筈だな。一世一代の大勝負……賭けという奴か。『…俺はしがない傭兵だ…戦うことでしか金を稼げ無い男だ』再び男は頭を掻く。最後の一言を言う為に……自身の勇気を振り絞る為に。『もし…もしよかったら、俺と…結婚して欲しい』女は両手を口元に当て、男を見る――驚きに目を見開きながら。けれど、それは直ぐに歓喜に変わる――頬を一筋の涙が伝い、女は男の気持ちに答えた――。『うれしい…うれしいよ。私、ずっとその言葉を待ってた…』『…シエラ…』シエラと呼ばれた女が、歓喜のあまり男に抱き着く…男もそれを受け入れた……。………。……。……ねぇ……。……ん……?…起きてよ…。……おきる?……起きる?――誰が?……お兄ちゃん起きてよぉ!!お母さんが呼んでるよ!お兄ちゃん……?俺のことか……?お母さん……母さんか……?もぉ……お兄ちゃん!?そしてさっきから――俺を、お兄ちゃんと呼ぶお前は――誰だ?……妹、だな。俺には、妹しかいない訳だし…。……ルイセちゃん、ここはアタシに任せて……。とは言え、俺の安眠を邪魔する様な悪〜い妹なんてお兄さん知りません……て、誰だ今の声……ルイセじゃないよな?…えっ、ティピ…?こうやるのよ……せ〜のっ!ティピ……?誰だよ?…というか、何だ?何をする気…。……あっ…!あっ!ってルイセ?一体な…「ティピちゃ〜〜んキーーーック!!」ドガッ!!「まそっぷっ!!?」何だ、今の衝撃は!?意識を覚醒させる(というか、させられる)と――そこには……。「やっと起きたか!」ピンクの長髪を、変則お団子ツインテールにした、可愛らしい我が妹と――似た様なピンクの髪をショートカットにした……ガラの悪そうな……妖精?が居た。と、そうだ……さっきの衝撃は何だったんだ?俺は視線を右往左往させる……だが、居るのはやはり我が妹のルイセと、頭にバッテンマークを立てた妖精?のみ。「何キョロキョロしてんのよ!もっとシャキッとしなさいよ!」「ふふふっ。何も知らないのに、いきなりそんなこと言っちゃ、お兄ちゃんが可哀想だよ?」「ルイセ……」言ってることはごもっとも……だが、それならば笑わないでくれ……俺はベッドから起き上がり、可笑しそうに笑みを溢す妹君を見やる。「驚いた、お兄ちゃん?」「当たり前だ……出来れば、説明してくれ……寝起きの俺でもわかる様、簡潔に……」自慢じゃあないが、俺は朝が苦手だ……。頭の回転は、それなりに速い方だと自負しているが――寝起きの時はその限りではない。「詳しいことは下で教えてあげるから♪久しぶりにお母さんが帰ってきてるんだよ!」「母さんが……?それは珍しいな……解った、軽く身なりを整えたら行く」「早く降りて来なさいよ!」そう言って妖精?とルイセは下に降りて行った。「どうでも良いが……やけに偉そうだな、あの妖精……」――俺は椅子に掛けてあった赤いジャケットを羽織り、袖に腕を通し――肩には袖を通さず、着崩す。この着方にはよく意見されるが、これは俺なりのこだわりという奴だ。だって――普通に着るより格好良くないか?――俺の名前はカーマイン。カーマイン・フォルスマイヤーだ。ここ、ローランディア王都ローザリアに住み、ローランディア王国の宮廷魔術師を母に持つ……とは言え、実母では無いんだが……。「……と、俺も下に行くか」まだ、眠気が残る頭を軽く振り――夢の中の男がした様に、頭を掻く。なんのことは無い――何となくの、気紛れって奴だ――。ただ、不思議と眠気が晴れていく様な――そんな気がしたのだった。*********階段を降りて居間に向かう――するとそこには、我が妹……ルイセ・フォルスマイヤーとあの妖精?――そして、魔術師然とした妙齢の美女が居た。――この人こそ、俺達の母にして、この国の宮廷魔術師でもある――サンドラ・フォルスマイヤーだ。「おはよう。私が居ない間、何か変わったことはありませんでしたか?」「いつも通りだったよね、お兄ちゃん?」いつも通り……まぁ、そこの妖精モドキ以外に関しては……いつも通りだったな。「あぁ、特に変わったことはなかったな」「そうですか。それを聞いて安心しました」「それより、マスター?そろそろアタシのこと紹介して欲しいんだけど」「そういえば母さん、この妖精?は何なんだ?」「……アンタ、なんで妖精の後に【?】が付くのよ……」「……気のせいだ」というか、自覚しろ。そんな柄の悪い妖精は居ない。多分……。「まだ、自己紹介してなかったのですか?……彼女の名前はティピ。魔法で生み出されたホムンクルスです」ホムンクルス…魔導生命――って奴か。「ティピだよ☆よろしくぅ♪それで、アンタの名前はなんて言うの?」「カーマインだ……宜しくな?」中々、可愛らしいな。元気があって大変宜しい。それに中々フレンドリーな……。「言いにくい名前ねぇ……やっぱり【アンタ】って呼ばせて貰うね」……前言撤回。人の名前を小ばかにするとは……本当に母さんの作かコイツ?カーマインという名は、母さんが俺に与えてくれた物だ――。その名を貶すということは、自身の創造主(マスター)を貶すことと同意だろうに……。というか、なら名前を聞くな。「口の悪い奴だ……お前、本当に母さんの作か?」「むか〜っ!コイツ、アタシに喧嘩売ってる〜!」「喧嘩?羽虫なんかに喧嘩を売ったりするか……自分が惨めになってしまうだろ?」「むっか〜〜〜っ!!!」これくらいで怒るとは……沸点低いんじゃないかコイツ。まぁ、裏表の無い性格なんだろうな……。「あはは、は……ティピって妖精の格好してて可愛いよね?お兄ちゃん……?」妹よ、ギスギスした空気に耐えられなかったんだな?別に、俺は喧嘩売ってるつもりはないんだがなぁ……少し弄ってただけで。とは言え、可愛いか……か?中身はどうか知らんが……見た目だけで言うなら。「ああ、可愛いと思うぞ」「でしょでしょ♪マスターに感謝☆」あ、機嫌が直った……何と言うか……単純な奴だ。「さて、宮廷魔術師である私が、こんな時間に戻って来たのには幾つか理由があります」確かに、こんな朝早くに帰って来るなんて珍しいよな……。母さんは宮廷魔術師だ。宮廷魔術師というのは、国の為に働く魔術師で……魔術師としての優秀な頭脳で国王に進言したり、様々な研究に着手したりする。兵に魔法を指南したりもするので、正直忙し過ぎる職業だ。簡潔に言えば、文官であり、参謀であり、研究者であり、魔法使いなのだ。故に、日々を半端なく忙しく過ごしており、家に帰る暇は殆ど無い……そんな母さんが……。――母さんが言うには、理由の一つはルイセの『魔導実習』のためだ。『魔導実習』とは、ルイセの通っている魔法学院のカリキュラムの一つで、高名な魔導師の元でその魔導師の魔導研究などを手伝う。実習終了のレポートなどは、その魔導師が作成する。それを、魔法学院に提出すれば晴れて実習終了――と、なる訳だ。「わたしはお母さんが宮廷魔術師をしているから、得しちゃったな♪」そう、母さんは紛れも無く高名な魔導師だ。何しろ、ローランディアの宮廷魔術師=ローランディア最高の魔術師、なのだから。だからこそ、ルイセはこうして実家に居る訳だ。母さんの研究所は、ローランディア城内にあるからな……そして城と我が家は、文字通り眼と鼻の先である。通い詰めるには、これほど最高の環境は無いだろう。「甘えてはいけませんよ?実の子供だからこそ、手加減せずに指導しますからね」「……はぁい……」そう、幾らルイセが愛娘でも――そこは公私をしっかり分ける母さんのこと、手加減無しなのである。少しルイセが凹んでしまった。まぁ、頑張れ。「それから……もう一つの理由ですが、こちらが本題なのです」俺を見据えてから母さんが言う。「捨て子だったあなたを私が引き取ってから、もう17年になりますね」そう、俺は母さんの実子では無い。ルイセが生まれる前に拾われ、この家にやって来たのだそうだ。この17年、俺はこの王都ローザリアから一度も外に出されたことが無かった。頑なに禁じられていた……その理由を話してくれるらしい。――なんでも、俺が幼い頃に母さんが俺のことを占ってくれたらしい。――ある時には『世を滅ぼす元凶となる』――またある時は『世を救う光となる』と出たらしい……それはまた、極端な……。正直、訳が分からんな……。母さんも判断が着かなかった為、俺がある程度成長して一人前になるまでは外界との接触を極力断つことにしたと言う……それが、俺が王都から出れなかった理由か。普通は占いなんか……と、思うが――母さんは当時から優れた魔術師だった。故に、それはある程度の信憑性がある占いだった訳だな。「今日からあなたには、都の外に旅に出て貰おうと思います」「随分と唐突だな母さん……とは言え、是非も無し。俺も外の世界には興味があったしね……まぁ、捜してみるさ。自分の進むべき道って奴を」その答えに満足したのか、母さんが微笑みを浮かべる。我が母ながら綺麗な人だな……と、つくづく思う。********母さんから旅の準備に……と、75エルム貰う……て、母さん、これは少なくないかい?食料や薬草などを買う分には、十分過ぎる額だが――武器を新調しようとすると、どうしても足りなくなる。一応、訓練用に使っていた青銅の剣を持ってはいるが――。如何せん、ガタがきているので――旅には持っていけないだろう。……仕方ない、ポケットマネーから出すか。その後は、旅仕度の為に買い物に行く。――何故か、ティピの奴も一緒に。――先ずは、近場にある『スキマ屋』に寄った。『スキマ屋』ってのは、読んで字の如く――建物の隙間で商売してる店のことだ。店の親父さんはスペースの有効利用とか言ってるけど……。その後も、色々あった。スキマ屋を捜していた人にスキマ屋を紹介してあげたり、何故かマンホールに書かれていた暗号を解いて、変な本を拾ったり、塾の講師に出された問題を解いたり、困ってる女性を助けたり、子供の遊びに付き合ったり、喧嘩を仲裁したりもした。そして宿屋でのことだが……。「これからの冒険で楽しみなことってある?」宿屋のおばさんに宿番を頼まれたんだが、ティピが真っ先に根を上げた。「冒険の楽しみね……強いて言うなら、全てが楽しみだ。人との出会い、強敵との戦い、知らない土地巡り、己の成長……世界の動きなんてのも興味があるな」なので、ティピが質問して俺が答える。という、言葉遊びみたいなことをしている。「じゃあさ?何か鍛えたりしてた?」「色々やったな……剣に槍、ボウガンなんてのも。勿論、魔法もな?他にやることなんてほとんど無かったしな」今では王都で1番強いと自負している。外の世界は分からないけど、な?「好きな戦い方は?」「正々堂々正面から……まぁ、必要なら策を労するのも有りだけどな」「好きなタイプは?」ここで質問の意図を180°変えてくるとは……やるな。「甘えん坊」1番にルイセの顔が浮かんだのでそう答える。ティピが悔しがってるが、そもそもこの街を出たことが無い俺に、大した判断規準は無い……母さん、ルイセ、ティピくらいだ。この中ならルイセってだけの話。ルイセは確かに可愛いが……。なんて話していると何やら怪しい二人組がやってくる。――こいつらが勝手に話した内容によると、どうやらカレンという女性を捜しているらしい。で、宿帳を見せろとか言って来た。しかし、宿のおばさんに『中は散らかっているから、入らないでくれ』と言われていたので、断った。どのみち――こんな怪しい奴らの頼みなんか、断ったけどな。揚句の果てには、金をちらつかせて来たのでキッパリと断ったさ。すると逆切れして絡んで来た。俺もいい加減、イライラし始めていたので、ボッコボコにしてやろうか――と思ったが、先にティピの逆鱗に触れたらしく……。「ティピちゃ〜〜ん!キーーーック!!」バキッ!!と、こうなった訳だ。まぁ、俺もスッキリしたしナイスだ!と言っておく。※※※※※※私は今、ローランディアの王都、ローザリアに来ている。兄さんが傭兵の仕事関連で、ローランディアに用があったため、私も着いて来たのだ。二年前に別れた、シオンさんを捜す為に……。兄さんもそれを分かってくれていたからか、特に何も言わなかった。私は胸のペンダントに触れる……あの日シオンさんがプレゼントしてくれた、誓いを遂げると願いが叶うペンダント…。「シオンさん……」私はペンダントを愛おし気に撫でる……あの人のことを思って……。……?何か外が騒がしいけど……。『ティピちゃ〜〜ん!キーーーック!!』バキッ!!「な、何!?」窓の外を見ると……そこにはここの宿のおばさんと……。「え…!ラルフさん!?」あの顔は間違いない……ラルフさんが居るということは、あの人もっ!?私はその場から駆け出し――そこに丁度、おばさんが宿の中に入って来る。「カレンさん?どうしたんです?」「あの、今の人は」「ああ、カーマインさんね……宮廷魔術師サンドラ様の息子さんさ」「カー…マイン?」人…違い……?けど、どう見てもあの人は――。一体、どうなってるの……?