「つまり10の力も、5と5に分けなきゃいけなくなっちゃうってことか」「今はまだランザック王国が参戦していないが、もし参戦されれば、そうなるってことだ」ウォレスの説明に分かりやすく解釈するティピ。うむ、大変わかりやすい。「う〜ん……困ったわねぇ……アンタ、どう思う?」「そうだな……ランザックと同盟を結ぶ……というのはどうだ?」「あ、そっか。ようするに攻めて来ないって約束があればいいんだ」ティピの問いに答えるカーマイン……それを聞いて感心するルイセ。「確かに戦争を未然に防ぐには良い方法だと思うよ」「だな。そうすれば、ランザックの乱入を心配せずに戦いに専念出来るしな」ラルフ、ゼノスも賛成らしい。「どうでしょうか、王?」「よし。では、お前たちが休暇を終える迄に、ランザック王宛の書簡を書き上げておく……エリオットの件も協議しておこう」さて……良い方向に話が纏まれば良いが……あのコーネリウスがなぁ……断固反対しそうだ……。で、今回は休暇を三日貰った……最初に向かう休暇先は……。*********休暇一日目・観光地コムスプリングステレポートでコムスプリングスまで飛んで来た俺達は、それぞれに行動する。さて……俺は……お、居たな。「よぅ、ジュリアン」「!?シオン……何故?」「ま、カーマイン達が休暇を貰ったから、協力者の俺達も付き添い」「……戦争状態の国に休暇に来るとは……何を考えているのか……」「とは言え、ここから水晶鉱山までは魔法学院の管轄だろ?つまりは中立地帯って訳だ。だからこそ、休暇先にしても許可が出たわけだしな」俺があっけらかん、と言うと、ジュリアはふぅ……と、ため息を吐いた後で苦笑いを浮かべた。「仕方ないな…お前は…」ん?何かジュリアの気が乱れてるな……そういや、原作だと寝不足で倒れたんだっけ?「せっかくだ、邪魔の入らない所で話そう……聞きたいこともあるし」「……分かった、私もお前とは話したいと思っていた」俺達は連れ立って、宿の部屋を一つ借り、そこに入った。ちなみに、監視とかが無かったことは既に気を探って判明している。扉を閉め、俺はベッドに腰掛ける。「ジュリアも座ったらどうだ?」「は、はい……失礼します」ジュリアは素直に従い、横に座った。顔を赤くしている……可愛いな。「さて……何から話すべきか……」「以前、バーンシュタインの敵に回るかも知れない……という話を伺いました。そしてマイ・マスターは敵に回った……その辺りの理由をご説明して戴きたいのです」真剣な表情で尋ねて来たので、俺は三度になる説明を繰り返した。グレッグ卿が仕立て上げられた偽物の可能性、エリオットの存在、そしてリシャール王との関連性、シャドー・ナイトの存在と、それがエリオットを狙った事実、そしてエリオットの腕輪の話……更にはボスヒゲ……バーンシュタイン王国宮廷魔術師長であるヴェンツェルが、エリオットの両親に彼を預けた事実……等を話した。「……そんな……あの時の少年が……」「……まぁ、可能性の話も混じってはいるが、ほぼ間違いないだろうな……それとも、信じられないか?」それも仕方ないだろうがな……いきなり自分の仕える国の王が、実は悪巧みをしていた偽王だって言うんだ――国に仕える騎士としては信じ難いモノがあるだろう。「そんな筈はありません!マイ・マスター……貴方が言うことです。私は――信じます!」「サンキューな……」本当に、嬉しいことを言ってくれる……しかし。「しかし、何故そこまで信じてくれる……?俺はお前の部下の命を奪ったんだぞ……憎くはないのか?」「……戦争ですから、そういうこともあります……いえ、本当は思いました…何故、敵対しなければならない?何故貴方と……何故……と」「……………」「――しかし、マイ・マスターのことを信じていたから……だから私は……憎めなかった……指揮官失格です、ね――死んでいった部下たちも、草葉の陰で嘆いていることでしょう……」憎いんじゃない……絶望したのだろう。俺と敵対したことに、俺に部下を奪われたことに……しかし、それでも信じてくれた……そこまで想ってくれていた……。悲しみに彩られながら、不甲斐なさを噛み締めながら……それでも。――真(まこと)の忠誠は失われてはいなかった……。俺はジュリアを抱きしめる……悲しい位の決意を秘めた彼女を……。「!ま、マイ・マスター……お、お戯れは止めて下さい……」「……ありがとう、ジュリア」「……マイ……マスター……」真っ赤になって、しどろもどろだったジュリアだが、俺の抱擁を甘受している様だった。それからしばらくして、冷静さを取り戻したジュリアは俺に聞いてくる。「もしや、ウォルフマイヤー卿の屋敷が裳抜けの空になっていたのも……」「まぁ、そういうことだ」「では、私も兵達に話を通してみます」「良いのか?反逆罪になるかもしれないぞ?」「……構いません、私はダグラス家とは縁を切った身……私だけでも、必ずお力になることを誓います」やっぱり縁が切れちまってたのか……。これはなんとかしてやらないとな。「分かった……期待させて貰う……我が騎士、ジュリア」「ハイ!この身に誓って……!」となると、ジュリアとエリオットを引き合わせることも考えないとな……ジュリアだけで話すより、エリオットも居た方が説得力はあるからな。……アレを渡しておくか。「ほら、これをやるよ」「これは……?」俺が渡したのは腕輪……宝石が三つ着いた腕輪だ。「これは『転移の腕輪』っていう魔道具で……まぁ、簡易テレポート用魔道具だな……ここに嵌められてる宝石はグローシュ結晶って言ってな……魔水晶から抽出されたグローシュを結晶化させた物だ……それを大気中のグローシュを吸収する媒体として使用し、その魔力を使用してテレポートを行う。ただ、使い切りアイテムでな?十数人程度なら結晶一つ……数百人程度なら結晶二つ……それ以上なら結晶全部を代償にしなければ発動しない……しかも登録した場所にしか跳べないワケだが……これは魔力に指向性を持たせることにより………って、分かりにくいか?」「も、申し訳ありません……」フラフラしてるジュリア……あ、眠いんだったよな。「簡潔に言えば、決められた場所にテレポート出来るアイテムだ。使い方は魔力を込めるだけ……簡単だろ?三回まで使用可能だが、人数によっては一回コッキリしか使えない」俺はオズワルドに頼んで、グローシアン達へこれを配らせていた……これを使えば不足の事態に備えられる。……まぁ、中にはオズワルド達の説明が信じられず、腕輪を着けずにポイ捨てした奴もいるかもしれんが……そんな奴まで責任は取れん。「大体分かりました……しかし、これを使うと何処に……」「父上達がいる場所……まぁ、隠れ家だな」そう、実は俺はアジトとも言うべき物を「こんなこともあろうかと!」作製していたのだ。まぁ、詳しい話はまた語ることもあるだろう。ジュリアを信頼してるからこそ打ち明けたのだから。それに、これを使えば、父上と合流することも出来る。その後、悪巧み……もとい、色々話し合った。俺達がランザックと同盟を結ぶ話をしたら、ジュリアのほうからもバーンシュタインがランザックと条約を結ぶ……という話をして来た。バーンシュタインの高官、ガムランその人が。むぅ……どうでも良いが、端から見たら完全にスパイと変わらんな……俺ら。まぁ、誰かの気配も感じないし、念の為に消音魔法も掛けたから問題無しだがな。消音魔法『サイレント』……声を封じて呪文を封じる、『サイレンス』のアレンジで、周囲の空間を覆い、空間の中の音を外に漏らさない様にする。これは部屋にも掛けることが可能なので、非常に便利である。あの砦の時も、実はこの魔法を部屋に掛けていたりする……でなきゃ、あんな大声を出して、誰もすっ飛んで来ないというのは有り得ないだろう?少なくとも、誰か起きてしまった筈。と、そういえば……。「カレンから聞いたが……同盟を結んでたんだって?」「はう!?な、何のことでしょう!?」「隠すなって、もう知ってることなんだからさ……で、だ。こんな時に言うのも何だが……」「は、はい……」本当、こんな時に言うなんてどうかしてると思う……我ながらタガが外れたんじゃ無いかと思う。しかし……。「ジュリア……俺のモノになる気はないか?」「………!!」「既にカレンとは両想いになったワケだが……俺はジュリアも好きで、ジュリアの気持ちにも答えたいワケだ……全く、我ながら最低なこととは思う……だが、自分に正直になろうと決めた以上、自分の気持ちに嘘はつきたくないんでな……嫌なら嫌で良い。強制はしな」それ以上は喋れなかった……ジュリアに、口で口を塞がれたからだ……。互いの唇が離れる……。……真っ赤だなジュリア……恥ずかしいのに頑張ったんだろう。「嫌な訳――無いじゃないですか……カレンに同盟を持ち掛けたのは私ですよ……?マイ・マスターの寵愛を受けられる……こんなに嬉しいことはありません……」「ジュリア……」「あの日……言いましたよね……私の心と身体は貴方のモノだと……その気持ちに、嘘偽りはありません」抱き着いてくるジュリア……俺はそれをしっかり受け止める。……温かい、ジュリアの気持ちが伝わってくるみたいだ……。「愛していますマイ・マスター……これからも、お側に置いて下さい……」「俺も愛してる……頼まれたって離さんさ……ずっと俺の側にいてくれ……ジュリア……」俺達はお互いに抱きしめ合い、幸せを噛み締めたのだった……。本当はこんな状況で言う台詞じゃないんだが……なんつーか、こんなに想ってくれてるのに、答えないのは男じゃないだろう?にしても……本当に何で俺なんかをこんなに想ってくれるのか……。カレンにしろジュリアにしろ、物凄く良い女なのに……。これで俺は二股だぜ?……でもカレンとジュリアはそれでも良いという……マジで幸せにしてやりたいよなぁ……。その後、やはりピンクな空気になるが、ググッと我慢!!何度も言うが戦争中です。平和になったら一杯愛し合おう……と言ったら、ジュリアは茹蛸みたいに真っ赤になって頷いた。ただ、またしばらく別れねばならない為、もう一回キスして欲しいと頼まれ、ならばと強烈なのを一回してやった。めがっさ深〜い奴を。詳しくは明記しないが、最初は驚いていたジュリアだが、途中からは甘受していた……しかし、その行為の内容と疲労が合わさって真っ赤になって倒れてしまった。ボンッ!!と言う擬音と、頭から煙がシュ〜〜……と出ている幻覚と幻聴が……気のせいにしておこう。俺はジュリアをベッドに寝かせ、ジュリアの髪を撫でる……サラッサラだな。「……時間か……じゃあそろそろ行くから……またな」俺はジュリアのおでこに軽く口付け、その場を後にした。……どうでも良いが、俺、キス魔になっているよな……しかし、俺がキスした時のアイツらの喜び様が………くぅ!!平和になってから……平和になってからだ……。我慢した俺を褒めて欲しい……いやマジで。何と言うか……静まれ我が息子よ!!…あぁ、煩悩もまたチートかよ…不能より全然良いけど。そして集合場所に集まった俺達は、テレポートで帰還、次の休暇先を申請、帰宅した。あ、ジュリアが俺達の側に付くかも的なことは皆に話したぜ?黙ったままは後味悪いし、皆を信頼してるしな?