「それで、何でエリオット君は書簡を無くしちまうのかな?かな?」王城へ向かう最中に、俺はエリオットに尋問……もとい、質問をしていた。なんか、皆がガタブル震えてる(特にルイセ、カレン、ミーシャ、ティピがヤバイくらい震えてた)が、知ったことではない。俺の計画が潰れそうなんだからな。「あ、ああああの!ルイセさんのお母さんが危ないって時だったから……慌てて着替えて、それで」「つまり、書簡は宿に忘れてきちまったと……そう言いたいわけだ?」「は、はいぃぃ……」因みに、俺の当初の計画はこうだ。エリオットを連れて来た時に思い付いたんだが……。エリオットが書簡を忘れず、それを提出……それで兵が動けば御の字、でなければ+俺が説明で、ほぼ確定の筈だった。その時が訪れた場合の為、父上達には、オズワルドを通して連絡してある……父上達の安全の為というのもある……動くか動かないかは、父上次第だが、最近入った連絡では、父上は動いたとのこと。つまりはこうだ。エリオットを旗印に反攻→父上説得の上、挙兵。こちらに着いてもらう。という算段だったのだ。言わばボスヒゲの書簡は物的証拠みたいな物……なのに……肝心の書簡を無くしやがってぇ……。「このおバカあああぁぁぁぁ!!!」グリグリグリグリグリグリッ!!!!!「ご、ごめんなざぁぁいっ!!」俺は、春日部のスーパー五歳児をも震え上がらせる、頭グリグリ攻撃をエリオットにかました。勿論、手加減したぞ?でなきゃ、頭蓋骨粉砕しちまうもの。エリオットは泣いて謝るが、本当に反省したか迂闊者め!!俺はしばらく、グリグリ攻撃の手を緩めなかった。後、ルイセが「怖いよぅ…怖いよぅ…」と、膝を抱えて震えており、ミーシャはその後ろでガタブル震えながらこちらを伺っていた。カレンは「ごめんなさいごめんなさい!もうしません!もうしませんからぁ!!」と、泣きが入っており、ティピはティピで頭を抱えて地面に蹲って震えていた。ちなみに、街の人達の中には、気絶してる人達もチラホラ……むぅ、そんなに怖かったか?……自重せねばなるまいな。男連中も震えてしまっているし……ちなみに、女性陣が復活するのに時間が掛かったことを明記しておく。「そ、その書簡には何が書かれてるって言うんだ?」カーマインがそう聞いてくる……どうでも良いが、その引き攣った顔どうにかしなさい。「まぁ推測だが、エリオットが王子だという証拠みたいな物が書かれていたんだろうな……わざわざ王に向けての書簡なんだから、それくらいのことは書かれていてもおかしくはない。」詳しい話は王城で、という話になった。で、俺達は事情の説明と、姫を送り届けるためにローランディア王城謁見の間にやってきた。そこでは王と、サンドラ様と、文官の人と……?何やら貴族らしい男が待っていた……誰だ?「おお、無事に戻ってくれて何より。お前たちも、よくぞ我が娘を助け出してくれた」「ははっ」俺達はひざまずき、その言葉を受け取った。「父上、ご心配をおかけしました」「うむ、もう良い」レティシア姫を見て、心底安心した様に頷くアルカディウス王。……何と言うか、助けて良かったと思うな。「姫、私も心配しておりましたよ」「ありがとうございます、コーネリウス様」大仰な動きで、心配していたことをアピールする男……コーネリウス………もしかして、Ⅱでローランディア王になっていた……あのコーネリウスか!?「それにしても、憎きはバーンシュタイン……我が姫君をかような目に合わせようとは……」「失礼を承知で伺いますが陛下……そちらは?」憤慨するコーネリウスを無視し、アルカディウス王に尋ねる俺。「おぉ、そういえばまだ紹介していなかったな……我が国の臣下、コーネリウス・ヘルゼン卿だ」「コーネリウス・ヘルゼンだ。諸君らのお陰で、姫を救い出せた……礼を言おう」コーネリウス……ヘルゼン卿は、横柄な態度でそう言う。……俺はⅡでカーマインを振り回すこの男が好きではなかった。何より、平和な世の中になったⅡの時代に、軍備を異常な迄に強化し、他国を脅かしたこの男は……正直、好きにはなれない。それがある意味、必要な措置だったとしても――だ。話を聞くと、ヘルゼン卿は軍部を統括する位置にいるとか。グレッグ卿と同様、王の信頼も厚いそうだ……確かに有能なんだろう……だが、その眼は野心にギラついてる様に見える。俺はⅡをプレイしていて、不可解に思ったことがある。やっとボスヒゲの魔の手から開放された世界……そんな世界で、アルカディウス王は一年足らずで崩御した……あの明朗快活なアルカディウス王が?普通有り得るか?そしてコーネリウスが後釜に着いている……考えられるのは一つ。姫に近づき、その後、秘かに王を毒殺した可能性だ。……いや、あんまりに突飛な話だな。アルカディウス王は、本当に病気で亡くなったのかもしれないし……。「それよりレティシアよ、お前に聞きたいことがある……本当にグレッグ卿がリシャール王に斬り掛かったのか?」「残念ながら本当です」「むぅ……」「しかし、それも思い返せば妙な気がします」「妙とな?」姫が言うには、その時のグレッグ卿は姿形こそ似ていたが、どこか別人の様だったと……。「うむ……するとやはり……」王は何かを考えている……俺が話した、グレッグ卿偽者説が濃厚になってきたからだろうな。「そう言えば、その者は……?」「ええと……」緊張してるのか、言葉に詰まってしまうエリオット。「そこから先は私が説明します」俺は説明する……彼の名前がエリオットであること、エリオットが王都を訪れた理由、エリオットとリシャールの関連性、バーンシュタイン王国の影であるシャドー・ナイトの存在、そのシャドー・ナイトに命を狙われている事実、そしてリシャールと同じ王位の腕輪を身につけていること、王位の腕輪の持つ意味、本物の腕輪と偽物の腕輪の違いなど、皆に説明したことを改めて説明した。「むぅ……するとその方は、このエリオットが本物の王子で、新たに王位に着いた者は偽者だと言うのか?」「はい、正確には、正当な王位継承権はエリオットにあると思います……」皆、一様に言葉に詰まってしまう。分かるけどな……いきなりこれだけの情報を提示されたんだから……しかも、俺の肩書は元インペリアル・ナイトの息子だからな……信憑性はある。しかし、そこに異論を唱える男がいた。「ふん……敵の言うことを真に受けることなど出来ぬわ」「……どういう意味でしょうかヘルゼン卿?」「貴様は敵側である、インペリアル・ナイトの小伜であろう?ならば、自国の為に虚言を吐いている可能性もあるな?」コーネリウス……この男……。「よしんば、その情報が正しかろうと関係無い……向こうが宣戦布告をしたのだ!ならば、我らの力を示すのが道理だろう……そこの者が本当に王族だと言うなら、その身を盾にすれば良い……陛下、この様な虚言など信じず、徹底抗戦の姿勢を取るべきです」……本気で言っているのかコイツ……その言動はあまりにも無茶苦茶だ。エリオットを盾にするだ?そんなことすれば、更に泥沼になるのが分からないのかよ!?俺は血が滲み出るくらいに、拳を握り締める……コイツの頭には、三国を武力で統一しようとか、そんなことを考えているんだろう……これが王の為というなら俺もここまで苛立ちはしない。むしろ、元インペリアル・ナイトの息子である俺を警戒し、王へ危険性を説く姿は賞賛に値する――。だが、コイツは最終的にはその頂点に自ら立とうとしている……。「言葉を謹めヘルゼン卿!その方は下がってよい」「……分かりました。それでは、失礼します」奴はそう言われ退室する……擦れ違い様、ゴミを見るような眼でこちらを見て来た……いけ好かねぇ野郎だぜ。「シオンよ、気を悪くしないで欲しい……ヘルゼンはヘルゼンなりに国を憂いているのだ……だが、その方の覚悟はしかと聞いている……すまなかった」「申し訳ありませんでした……シオン様」そう言って、頭を下げて来るアルカディウス王とレティシア姫……って!!「あ、頭を御上げ下さい!!その様なこと、滅相もありません!」俺が慌ててそう言うと、二人は顔を上げてくれた……ったく、どれだけ人が良いんだよ。その後も、エリオットが手紙を無くしたこと、その手紙にエリオットが王子であることが書かれていた可能性があることを話した。そして……。「僕の両親は本当の両親じゃないと、ここへ来る途中に知らされました。ある人に預けられたそうです」「ある人?」「直接は知りませんが、両親の会話に『ヴェンツェル様』という名前がよく出てきたのを覚えています」「ヴェンツェル?本当にヴェンツェルと言ったのですか?」サンドラ様が反応した……まぁ、師匠らしいからな。「はい、何度も聞いているので間違いありません。一体どなたなのでしょうか?」「バーンシュタイン王国宮廷魔術師長にして、私の師です」「お母さんの先生……」ルイセが驚いているが、そりゃあサンドラ様にだって師匠くらい居ただろう。まぁ、これでエリオットが王族だと言う信憑性が更に高まった訳だ。俺はアルカディウス王に、エリオットの王位奪還の助力を願った。勿論、エリオット自身の覚悟の程も問うた……無理矢理やらせるのはやっぱり違うからな……すると。「それが僕に課せられた役目なら……」と、存外やる気はある様だった。これも両親の教育の賜物かね?とは言え、どうするかは直ぐには決められないし、しばらく時間が欲しいとのことだった。そして、姫を救出し、バーンシュタイン王国の侵入作戦を未然に防いだということで、仕官していたカーマイン、ゼノスは騎士の称号を授けられた!「………」「俺たちが……騎士に?」二人とも呆然である。まぁ致し方ないか……いきなり大出世だからな。ちなみにルイセは魔導師だから、ウォレスはサポート役なので授与はされてない。俺ら?俺らはあくまで民間協力者だからな。皆に祝福され、褒め讃えられる二人。いや、本当におめでとう!「そしてささやかだが、一人には土地を、一人には褒美を授ける……好きな方を選ぶと良い」で、話し合った結果、カーマインが土地を、ゼノスが褒美を承ることになった。「場所は城下街の西門を出て、少し進んだ所にある空き地だ。詳しいことは現地の管理人に聞くとよい」「うふふふ♪楽しみぃ☆」楽しみな所悪いがティピ……多分、まだ何も無いぞ?しかし、喜んでばかりもいられないのは事実で、バーンシュタインとの戦争は始まってしまっている……エリオットを旗印にしようにも、その後に色々裏工作をしなければならない以上、南の森で戦端が開かれるのは避けられない……しかも、あそこはランザック王国とも隣接している為、下手をすれば二面戦争になってしまう。「二面戦争か……そいつはまずいな」「どうして、まずいの?」「いいか、今、ローランディア王国はバーンシュタイン王国と戦争状態に入った。国内の兵はバーンシュタイン王国との戦にあてなきゃならねぇ…そこへランザック王国が攻めてきたら、ランザック王国を止めるために兵を割く必要がある。つまり、バーンシュタイン王国と戦う兵が不足する。戦争ってのは個々の力もさることながら、絶対的な物量ってのは無視出来ないもんなんだ」戦いは数だよ兄貴!と、某中将もおっしゃってるし、俺が策士としてもっとも尊敬する、自由惑星同盟の魔術師もそんなことを言っていたしな。俺なら力押しで無双出来てしまうけどな…多分。