夢を見ていた……アイツの……沙紀の夢。『氷堂 沙紀』……俺『海導 凌治』と、双子の弟『海導 礼治』の幼なじみの女だ。性格は竹を割った様なカラッとした性格の姐御肌……そうだな、ティピの強気を幾分強くした感じか……けど、ツンデレとは違うのは明記しておく。あくまで、強気……なのだ。もっとも、実際は涙脆く、女らしい一面もあったのも知っていたが。俺とは毎回喧嘩したりしていた……俺としては、好きな女の子が弟ばかり褒めちぎるのが気に食わない……という気持ちも多分にあったワケだが。それが悔しくて、ガムシャラに努力したりしたワケだ……沙紀に見て欲しくて……。それが実は、小さい頃から相思相愛だったんだから、笑っちまうだろ?互いに片思いだと思っていたのが更に……な。まるで、流れる様に楽しい時が過ぎて行く……三人で馬鹿をやった時、告白して受け入れられた時………そして、あの日。俺と沙紀の初デート……正にワクワクが止まらない状態だった。沙紀の奴が、待ち合わせをするのがデートの醍醐味!とか言って、一緒に家を出るのを嫌がって……俺が『家が隣なんだから一緒に出てもいいだろ?』と言ったら、『リョウはデリカシーないんだなぁ!もう!』と言って怒られたっけ……アイツも楽しみにしていたんだな……。あ、リョウってのは俺のことな?凌治だからリョウ……愛称という奴だな。よく晴れたその日、絶好のデート日和に俺は家を出た。沙紀を待たせたくないから、かなり早くに家を出たワケだ。俺自身も、非常に楽しみだった……というのもあったけど。で、案の定早く着きすぎた俺だが、待つのは全然苦にはならなかったな。その日のデートプランを確認したりしてたからな。ワクワクが止まらない!ってやつだ。しかし、沙紀は来なかった……。来れるワケ――無かったのだ。俺は電話したが、沙紀は出ず、終いにはアレだけ晴れていたのに、曇り空が雨になりやがった。俺は不安になり、待ち合わせ場所から家に向かい駆け出した……家が隣の沙紀なら、待ち合わせ場所に至る道順も同じ筈だからな……。ずぶ濡れになろうが、足が悲鳴を上げようが、気にせず走り続けた。そして、辿り着いた先にアイツはいた……。まるで糸が切れた操り人形の様になって……朱い水溜まりを作って……沙紀は横たわっていた……。『沙紀ぃ!!?』俺は沙紀に駆け寄った……俺は絶望した……。……即死していてもおかしくは無い惨状だった……なのに、アイツは……。『リョウ……?来てくれたんだ……アハハ……酷、いよ…ね?アタシ……ゴホッ!!』アイツの口からドロリとした紅い液体が流れ出る……助からない……瞬間的にそう理解してしまった……内臓も潰されてるんだろう……俺は青ざめていく……そんなこと、ある訳無いと首を振り、震える手で携帯の番号を押し……救急車を呼んだ。『……ゴメンね……約束……守れなく……て……こんなことなら、リョウの言うよ……に、一緒に家……出て……』『何、謝ってるんだよ……?今、救急車を呼んだから』俺のその言葉に、沙紀は否定を示す……。『……無理だよ……もう……身体が動かないもの……何も……見えないも……の……最後に、リョウの顔……見たかった……な……』『らしくないこと言ってんじゃねぇよ!!踏ん張れよ!!いつもの根性はどうした!!!』俺は泣き叫んでいた……何でコイツはこんなに落ち着いてやがる……違う、落ち着いてるんじゃない……本当は怖いんだ。死が近づいてくるのが……なのに沙紀は……俺を心配して、自分に縛られず幸せになれという………俺は。『お前がいないで幸せなんかになれる訳ないだろうがっ!!お前とじゃなきゃ!幸せなんかっ!!』――って……喚いていた……アイツは悲しそうな顔をしながら息を引き取ったんだ……。……本当にそれで良いのか?最後まで心配掛けて、最後に悲しそうに逝って……無念を残して逝かせて…………良い訳あるかっ!!!言ってやるんだ……これが夢だって良い!!沙紀に伝えてやるんだ!!!!『……アタ、シは駄目だけど……リョウは……幸せにならなきゃ……だめ、だから……ね……』『……任せろ……必ず幸せになってやる……お前を心配させたりしない……』俺の言葉に、眼を見開く沙紀……。『……そっか、それなら安心……』いつの間にか、俺の姿は『凌治』から『シオン』に、沙紀も無傷で立ってこちらを見ていた……その顔は晴れやかだ。「ずっと、見守ってくれていたんだろ……俺の中で」「まぁ、ね……リョウってばアタシのこと引きずり過ぎなんだもん……放って置いたら洒落にならなかったって……」薄々感づいていた……沙紀の存在を。「立ち直りつつ、適当にサラリーマンなんてしてたリョウが、こんなことになってるんだから……世の中分かんないわよね……あ、リョウが何でこうなったかはアタシにも分かんないからね?アタシも気付いたら、赤ちゃんになったリョウの中に居たんだから……」むぅ……聞きたいことを先に答えられた……沙紀にも分からんか。「カレンさん、だっけ?幸せにしてあげなよ?他にもたくさん好かれてるみたいだし、男ならガッツリ愛してあげなさい!」「……行くのか?」「ん、アタシもやっと肩の荷が下りたし……いつまでも過去の亡霊はお呼びじゃないってね?」「バ〜カ」「な、何よ!?」「お前は亡霊なんかじゃねぇよ……だから、忘れてなんかやらねぇからな?お前の思い出を抱えて進み続けてやる」「……そんなこと言われたら、未練……残るじゃない……」「生まれ変わったらまた来い……その時は相手してやる、今度はそっちが告白な?」「あ、アンタ……」「それくらい望んでもバチは当たらんだろ?……何しろ、俺は鈍感だからな」文句あっか?と言った風に胸を張る俺。「……うん、一杯告白してあげる……それから……今度は…………もっと…………」沙紀は光になり、俺の中から消えて行った……雨は上がり、雲の間から晴れ間が覗く……雨は――上がったんだ……。*******「ん……」日の光が眼に入り……俺は眼を覚ました。横には俺に抱き着き、気持ち良さそうに寝ているカレンの姿があった……。ちなみに、服は来ているからな?だって何もしていないもの。あの状況で何もしないのか?と、疑問に思うかも知れんが……。確かに、あの後、何だかピンクな空気が流れ、行くとこまで行きそうになった。危うく発禁的行為になりそうになり、俺のガメラが有頂天になったのは認める。カレンも俺との絆を深めたいと、望んでくれた。『シオンさんの望む様に……愛して下さい……』――という台詞と共に。その際、有頂天が怒髪天になったのは……言うまでもないだろ?けど、俺は踏み止まった。それどんなエロゲだよ!?……と。ヘタレとか言うな!!理由だってあるんだからな。ここは何処だ?そう、砦だ。しかも今は戦争中だ……そんな不謹慎なことは出来んだろ?……後は、カレンの身体を知れば、本気で俺は……俺の望むままにカレンを染めてしまいそうでな……俺のドSな部分がそう告げていた。しかもこの肉体はチートだ……アッチ方面も絶倫な可能性がある。いや、それ自体は悪くないか。ま、それは戦争が終わって、本当に平和になってからだな。……そうカレンに告げたら、渋々ながら頷いた。カレンも今の世の中が大変だってのは分かってる筈だからな。まぁ、不満そうだったから、キスして黙らせた。それだけで、ぽーー……となってしまうカレンが可愛過ぎて、ヤバイことになりそうだったのを、鋼の精神を駆使して抑えた俺を褒めて欲しい。「んぅ……あ……」ん?カレンが起きたみたいだな。「おはよう、カレン」「お、おはようございます……シオンさん」顔を赤くしながら、挨拶するカレン……改めてこの状況を、恥ずかしく感じたんだろうな……。でも顔が嬉しそうだ……かく言う俺も、少し顔が熱い……。「目が覚めたなら、準備しようぜ?今日はローザリアに戻らなきゃならんからな」「……もっと、こうしていたいです……」「いつだって出来るって……な?」俺はそう言って、カレンの髪を梳いてやる……すると気持ち良さそうに眼を閉じるカレン。「じゃあ、このまま……その……」俺はカレンの言いたいことを悟り、カレンの口を俺の口で塞いだ。「んっ…ふぅ…」一瞬で真っ赤になり、しかしそれを甘受するカレン……。チュッと触れるだけのキスでコレだ……ディープなのをしたらどうなっちまうんだろうな……。………舌、入れてやろうか………。……って、何を考えてんだ俺は!自重せい自重を!!俺はそっと唇を離し、カレンを正面から見つめる……うむ、ぽーー……としている。潤んだ瞳が、ぽわぽわ感がたまらんですばい。ヤバイ……み・な・ぎ・っ・て・き・た!!煩悩退散!煩悩退散!!喝!!俺は鋼の精神力で、欲望の渦を抑え込む。目を逸らす弱さを超えた、リビドー的な熱い思いというのは大事だが、限度があると思うんだ。**********俺達は準備をした後、部屋を出て皆と合流……指令室に顔を出すのだった。とりあえず、ルイセ達が元気そうだった所を見るに、お気遣いの紳士達が動いたようである。「昨夜はよく眠れましたか?」「はい……久しぶりにゆっくり眠ることが出来ました」姫はチラリと俺を見てくる……ほんのり頬を染めて……うん、言いたいことは分かる。「シオンさん……レティシア姫もですか?」近くに居たカレンが、ジトーーーっとした顔でこちらを見てくる。「まぁ…意識してじゃないんだがな」非常に申し訳なく思うが、こればかりは仕方ないと思う。鈍感とかと違うんだし。「もう良いです……シオンさんが望むなら、私も頑張ります♪」この場合、件の同盟に引き込むつもりなんだろうな。まぁ、流石に姫はそこまで…無いって言えない自分が怖い…orz「では、任務の締め括りだ。安全に姫を城まで送り届けるんだぞ」「了解しました」カーマインがそう答えた後、俺達は指令室をあとにし、テレポートを唱えてローザリアへと飛んだのだった。で、ローザリア到着。「やっと帰ってきましたね。もう二度と戻れないかも知れないと、考えたこともありました」「そんな弱気になっちゃダメだよぉ」「そうだな。諦めたらそこで終わりだ」ティピとウォレスがそう言って姫を励ます。「はい、そうですね……ところで一つ聞きたいことがあるのですが……」レティシア姫の声が自信なさ気に小さくなる……。姫が俺に視線を向けて来たので、俺は頷いて促してやる。決意を新たに姫は尋ねた。「みなさんが危険を冒してまで私を助けてくれたのは、父上に命じられたからですか?」それを聞いて、カーマインが答える。「妹の友達を助けるのは、兄として当然のことだと思いますが……」「友達……」呆然としてる姫の前に、ルイセが歩み出る。「姫様もお友達だと思ってって言いましたよね」「もし任務を与えられなかったとしても、アタシたちきっと助けにいったよ!」「ええ、友達を見捨てるなんて、絶対出来ませんから」ルイセ、ミーシャ、カレンがそう告げる。姫は感動して眼が潤んでいる。「ありがとう…本当にありがとう!」その涙は、昨夜見た涙と同じく、凄く綺麗な物だった――。