俺は姫が泣き止むまで、ただ側に居た……気の利いた主人公なら、頭を撫でるくらいはしたんだろうが……。流石に結果が分かってて、やることは出来ないからな。いや、だってセクハラだぜ?別に俺は主人公じゃねーし……いや、違うな。主人公なんて括りで纏めるのが、そもそも間違いなんだ。脇役とか、そんなんじゃないんだ……。皆、生きているから……強いて言うなら、皆がそれぞれの物語の主人公なんだ……。なら、俺も、俺の物語の主人公なんだ……それはカーマイン達にも言えることだ。……ただ、それだけなんだよな……皆、自分の物語を必死に生き抜いている……なら、俺もそうしても――良いよな?脇役気取りはもう止めだ……俺は、俺の物語を精一杯生きていく。まぁ、改めてやることじゃないんだが……。俺はレティシア姫の頭を優しく撫でる……小さい子供をあやす様に。嫌なら、無礼もの!とでも言われて、手を払われるだろうが……それも俺の物語だ。逃げずに受け止めるさ。「え……」「明日、聞いてみると良いですよ……絶対にそう言ってくれますから」俺は満面の笑みを姫に向ける……姫は顔を真っ赤にして俯いてしまう。「ありがとう……ございます……」「どう致しまして」俺は姫の髪を撫でていた手を離した。「あ……」「そろそろ休んだ方が良い……明日も早いですから」「そう……ですね。分かりました……あの!……また、お話の続きを聞かせて下さいますか…?」「機会があれば……喜んで」そう言って、姫は去って行った……何だろうな?普段ならやっちまったー!!とか思うんだが……いや、思わなかった訳じゃないんだが……何だろうな……。自分でもよく分からない心境の変化に、僅かに戸惑いながらも、俺は宛がわれた部屋に向かう……と。「カレン……?」「シオンさん……」俺の部屋の前にカレンがいた……どうしたんだろうな?「どうしたんだ?眠れないのか?」「……っ!」そう尋ねた俺に、カレンが抱き着いて来た……その体は凄く震えている……。「私……私……」俺はカレンの体をギュッと抱きしめた。「あっ…!」「大丈夫……大丈夫だから……」「うっ…うっ…シオン……さん……!!」カレンは俺に縋り付き、啜り泣いた……悲しみを吐き出し続けた。俺は抱きしめながら、カレンの髪を梳いてやる……安心させる様に……以前、カレンが俺を慰めてくれた様に……優しく、包み込む様に。少し落ち着いた後、カレンを部屋に通して事情を聞く……聞けば、夢にうなされたとのこと。自分の魔法で人が死んでしまう様子が、ありありと……。「ごめんなさい……シオンさんだって辛いのに……ごめんなさい……」ああ、また泣きそうになる……確かにカレンの涙は綺麗だが。「まぁ、辛くない……とは言わないさ。俺だって、まだ夢にうなされる時もあるんだから……多分、これからもずっと背負って行くことになるんだろうな」それは変わらない……変わってはいけないこと。それが人知を超えた力を持つ者としての……最低限の責任だと思うから。「たださ……こうやって話を聞くことは出来る。だから、もっと甘えても良いんだぜ?」悲しければ悲しいと、嬉しければ嬉しいと、話してくれれば、それを受け止めてやる。難しく言っちまったが、要は遠慮すんなってこと。「甘えても……良いんですか?」「おう!」「迷惑……じゃないですか?」「迷惑ならこうして部屋に連れ込んでまで、話を聞いたりしてないって」ニッ!と笑い、サムズアップする。そこら辺に、嘘偽りは無い。そう示すような笑み。「あの……それじゃあ、お願いが、あるんですけど……良いですか?」「ん、俺に出来ることなら」あまり無茶なお願い以外ならドンと来いだ。俺はドラ○もんじゃないからな……出来ることは限られてるが。「あの……私、シオンさんのおかげで震えが止まりました……ありがとうございます」「俺もカレンのおかげで立ち直れたから……おあいこだって」「でも……私、一人になったら、またあの夢を見てしまうかも知れない……」「ああ…」「だから……その、一緒に寝ても……良いです、か?」「ああ……………ハイ?」今、何を言いやがりましたかこの娘は?『一緒に寝ても良いですか?』と、聞いたよな?カレンも顔を真っ赤にして俯いてる………成程ねぇ♪さん、はいっ♪なにぃぃいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!?「ちょ、な、何を!?」「……駄目、ですか?」「いや、駄目も何も、冷静になろう……な?俺達は男と女な訳でありまして、しかもカレンみたいな可愛い野兎ちゃんがいたら狼さんが辛抱たまらんわけで……何を言ってるんだ俺はぁ!?」「……私、シオンさんになら何をされても構いません……」そう言ってカレンが抱き着いてくる。柔らかいし、温かいし……って違う!!「カレン、幾ら冗談で……」「冗談じゃ……ないです……」カレンが震えている……震えて、涙を零している……。「ひっ、私はぁ、っく、本当にぃ……」俺がカレンを泣かせた……その涙は綺麗だったが、何故か胸が締め付けられた……理由は分かってる。俺はカレンの想いに気付いてる……まぁ、カレンだけじゃないが……いつぞやの温泉で記憶の扉をこじ開けられて以来……忘れることが出来なくなった。………アイツがいなくなってから……俺は死んだみたいになっていた。それを見兼ねた両親は、俺を医者に連れていき、催眠療法でその記憶――と言うより、それに伴うトラウマを封じた……ただ、その弊害で、女を遠ざけたり、女と良い感じになったりすると記憶が飛んだり……そっち関係では有り得ないくらいに鈍感になったりしたが。しかし、勢いを取り戻したのは良いが、大切なモノが無くなったのは、何となく理解していたらしく、イライラが募ってグレたりしちまったが。今でも頭を過ぎるアイツの最後……アイツの言葉……。もう、死にそうなのに、俺に謝り、約束を守れなかったと言うアイツ……そして……。『……アタ、シは駄目だけど……リョウは、幸せに、ならなきゃ……だめ、だから……ね……』最後の力を振り絞ってアイツが言った、最後の言葉だった……。……最後の最後まで俺の心配をして、逝っちまった。お前の心配は分かるよ……自分に縛られるな、そう言いたかったんだろ?けどな……お前を死なせちまった俺に、誰かを好きになる資格なんか……無いだろうが。だから……。俺はカレンを抱きしめて優しく頭を撫でてやる。「シオン……さん……」そろそろ向き合わなければならない……何時までも期待させる訳にはいかないから……。「ゴメン……カレン……俺は君の気持ちに答えることが出来ない……」「っ!!?」カレンの震えが増す……聞きたくない、とでも言う風に首を振るう……だが、俺は逃がさないし離さない。一世一代の大演技……カレンは何故か俺に依存する位に想ってくれている……生半可な言葉では諦めてくれまい……だから。「何故なら俺は……」「いや……いやぁ……」心を鬼にして叫ぶ……俺が嫌われるべき台詞を!!!「俺は!誰か一人を愛することが出来ないんだ!!カレンだけじゃない、俺を想ってくれてる皆が好きなんじゃああぁぁぁ!!」「いやぁ!…………はぇ?」フフフ……完璧だ!人間ってのは独占欲が強い!つまりこういうことだ!俺カレンを否定→カレン絶望→理由を述べる→いやいや→ハーレム万歳!!→カレン呆然→ハーレムの素晴らしさを語る→シオンさんのバカァ!!→俺、星になる。フフフフフフ……完璧だ。完璧に最低だ。ハーレムなんてのは男の野望の一つだが、それを胸を張って主張するなんざ女性にとって最低の極み!!これで間違いなく振られる!!計・算・通・り!!俺は心の中で、計画が予定通りに進行していることに邪笑を浮かべている。後は最後の工程をやり遂げるのみ。俺はカレンへの抱擁を解き、肩に手を置いて真っ直ぐ見詰める。ここは大真面目に語らねばならん……ここでふざけたら、逆に真実味が無くなる。「カレン……俺は確かに君の気持ちに気付いてた……君のおかげで、気付くことが出来た……だが、それはカレンだけじゃない……この世界に生まれ落ちて、俺なんかに好意を抱いてくれた女性全てに言えることなんだ……カレンを含め数人、そう想ってくれた人達がいるんだ……だから俺はその全てを愛したい!だからカレンだけの俺ではいられないんだ!!」言った……俺は言い切ったぞ……さぁ!後はどりるみるきぃなり、100tハンマーなり、コークスクリューブローなりドンと来い!!喜んで俺は星になろう!!カレンの体が震えている……秒読み開始か!?「し、シオンさん……」お、来るか!?「シオンさああぁぁぁぁぁん!!」「のわっ!?」俺はカレンに飛び掛かられ、後ろにあったベッドに押し倒される形になった。って、まさかマウントですか!?肉体がチートだから効かないけど、視覚的には痛いよ!?「嬉しいです……」はい……?「私もシオンさんが好きです……大好きですっ!愛して……います」そう言ってギュッと俺を抱きしめてくるカレン……って、待て!?「いや、ちょ……だから、俺はカレンだけを愛せないって……」「良いんです……私だけじゃなくても、愛してくれるなら……みんなも、同じ気持ちですから……」「み、みんなって……?」カレンが言うには、あまりに鈍感な俺を振り向かせる為に、同盟を結んだとか……他の同志はジュリアとサンドラ様…………って。な・ん・だ・そ・れ・は・!?orzイレギュラーにも程があんぞ!?何?マジで恋愛原子核なの俺?てか、ご都合主義の星に生まれてるんじゃねぇの!?心の中のアイツ……頼む!この状況を打開する策をくれ!!しかしアイツは溜め息を吐いて、ヤレヤレと首を振り……。『いい加減に覚悟を決めちゃいなさい!男ならガバァ!と行けガバァ!と』とか宣いやがった……うがぁあぁぁぁ!?それが出来たら苦労しないっての!!その時、窓から一陣の風が吹いた……。『……もう、自分を許してやりなよ……少なくとも、アタシはそんなこと望んでないんだから……』ふと、そんな声が聞こえて来た……幻聴だろうか……それを聞いた時、ふっと身体が軽くなった気がした……。「シオンさん……シオンさん……♪」俺に擦り寄ってくるカレンを、俺は自然に抱きしめていた。今更、さっきの嘘!なんて言えないし、あながち嘘でも無いからな……。最終確認だ。「本当に良いのか……俺は二股三股どころの話じゃないぞ?」「貴方じゃなきゃ、駄目なんです……」「一般的には、最低の男だぜ?」「最低でも良いんです……シオンさんが良いんです」ここまで言われて、惚けることは出来ないよな……これだけ想われて、答えないのは男じゃないよな……。「カレン……」「ん……っ」俺はカレンの顔を見つめ、そっとキスをした。カレンも目を閉じ、静かにそれを受け入れてくれた……。「シオンさん……好きです……」「……俺もだ」俺達は互いに抱きしめあい、お互いの想いを確認しあったのだった…。つーか、本当に良いのか?間違いなく、悪友に知られたらもげろと言われるな……。