さて、魔法学院に来たワケなんだが……何をするか。既に解散した後で、今は俺一人。正直あんまりやること無いよな?む〜〜……アリオストとでも話してくるかな?研究者としての観点からの意見交換とか、結構有意義だしな……それとも折角だから図書室で読書でも勤しむか………とか、考えてるうちに学院内に入って来ていた俺。「そうだな……ここまで来たら……ん?あれは……」目の前を行くのは、あのクソヒゲの秘書さん……あの金髪セミロングは間違いない。今回は赤いピアスでは無く、紫掛かった宝石のピアスだ……多分アメジストか何かだな。しかも何やら書類を大量にお持ちのご様子。足取りは危なげないが、体が少しふらついている……というか、あの量では前が見えないだろうに。まぁ、ミーシャの様にドジっ娘属性は無いだろうから、床にぶちまけたりはしないだろうが……見ちまったモンは仕方ないか。「すいません」「?はい、何でしょうか?」うぉ、普通に振り向いて平然と返事したよ……しかし、体が……特に腕が震えてるのが何とも。「見てて大変そうだったんで……宜しければ手伝いましょうか?」「いえ、結構です」即答!?無表情でそう言われると、意外にショックなんだが。「しかし、随分と腕が辛そうですけど?」「問題ありません」問題ないって……めがっさプルプルしてるやん!ヤバイ……この人、意外に面白い……。表情を崩さずに言い、腕がプルプルしてるから……中々にシュールな笑いが……。……よく考えたら、原作ではこの人、ナイフを使ってたからな……力はあんまり無いのかも知れないな。俺は無言でその書類の束を引ったくる。「なんのつもりですか?」「見てて危なっかしいんで、手伝いますって」「問題ないと言った筈ですが?」ったく……ああ言えばこう言う……。ま、屁理屈と言うワケでも無いから良いがね。「あのな……こういう時、人の親切は素直に受けとくもんだぜ?」「……そういう物ですか?」「そういう物です。ま、大きなお世話と言う場合もあるが」「どっちなのですか?」相変わらず無表情だが、少々の感情の変化が感じられる……これは困惑……か?「この場合は好意に素直に甘えて欲しいかな?とりあえず、アンタを見付けた以上は知らんぷりは出来ないからさ」「……分かりました。それではよろしくお願いします」丁寧にお辞儀をしてきた……また、その角度も完璧だ。何が完璧と言われると困るが。「それは良いから、この資料は何処に運べば良いんです?」「では、学院長室までお願いします」「了解、では行きますか」俺達はエレベーターに乗り、七階の学院長室に向かう。そして、学院長室のドアを開けてもらい、机に資料を置く。「ありがとうございました」「いや、これくらいは良いって、それよりヒ……学院長は?」アブネー……危うくヒゲって言っちまいそうになった……俺自重。「学院長なら、水晶鉱山へ調査団を編成し、調査に向かっています」「ああ……そういやぁ……」成程、それが今日なわけな?あのヒゲが小細工する場面だな?「さて、んじゃ、俺はそろそろ行くわ」あんまり長居していては、迷惑だろう。俺はそう告げた。「一つ宜しいですか?何故貴方は、こんなことをしたのですか?」理解出来ません。と言う様に首を傾げる秘書さん……むぅ……もしかして秘書さんの感情が希薄なのは、ヒゲが最低限の教育しかしてないせいかも知れん……。だとしたらあのヒゲは、問答無用でクソヒゲだな。「そんなもん、人として当然のことだろ?」「そういうものでしょうか?」「そういうもの!まぁ、単に俺が放っておけなかっただけ――なんだけどな!」そう言って、俺はニッ!と、アルティメットスマイルを浮かべる。俺にとっての最高の笑顔だ。「そうですか……」ガクッ!は、反応が薄〜〜……しかし、それは分かり辛いだけで、僅かながらも感情が感じ取れた。これは、感謝か?若干、困惑しているみたいだが……。俺は秘書さんに別れを告げ、学院長室を後にした……結構、有意義な時間だったな。そういや……秘書さんの名前って何なんだろうな?何となく気になりながらも、俺はまだ時間があったので、当初の予定通りアリオストの研究室に顔を出す。「やぁ、いらっしゃい。今日はどうしたんだい?」「何、カーマイン達が休暇を貰ってね……その随伴で、休暇を楽しんでいる所でありますよ」俺はカーマイン、ルイセ、ウォレス、ゼノスがローランディア王国に仕官したこと。俺とラルフ、カレンとミーシャは協力者として、力を貸していることを話した。「そうか……みんな頑張ってるんだな……」「そういうアリオストはどうなんだ?何かしらの成果はあったのか?」自分なりのやり方で、フェザリアンを認めさせる……とはアリオストの談。「まだこれと言った成果はないよ……けど、まだ始まったばかりだからね!諦めるつもりはないよ!」「そうか……まぁ、愛しのミーシャ君と離れることを選んでも、頑張ってるんだからな、必ず実るさ!」ブハァッ!!あ、アリオストが吹いた。「な、なななな何を言ってるんだい君は!?」「いや、温泉の件でバレバレだから……それに今の反応を見ても明らかだし」吃った上に声が裏返ってるからな……非常に分かりやすい。「……うぅ……」「しかし大変だとは思うぞ?ミーシャはカーマインとラルフにゾッコンだからな?もっとも、二人がどう思ってるかは分からないから、一度腹を割って話すことをお勧めするぜ」「あぁ…考えておくよ……けど、今はまずフェザリアンだ。君との約束だしね」むぅ……色恋沙汰より男の約束を選んだか……存外熱い奴なんだなアリオストは。それからしばらく魔道具に関して、更にはフェザリアンの思考について語り合った。「と、そろそろ集合時間か……んじゃ、今日はそろそろ帰るわ」「そうか、それじゃまた今度」俺はアリオストに帰りを告げ、そのまま集合場所に向かった。全員が揃ったので、ローザリアに戻る。そして、次の休暇先を申請してから家へ……ナチュラルにカーマイン宅を家とか言ってるが、気にしない様に。食事時にティピから、ミーシャがいかにボケてるかを聞かされる。ああ、そんなイベントもあったなぁ……とか考えてると、ミーシャも言い訳をしてくる。ミーシャいわく、アリオストの研究室前で寝てたのは、俺とアリオストが難しい話をしていたからだとか……つまり、魔道具やフェザリアンについて語っていた時か。全く、タイミングが良かったのか悪かったのか……。そして就寝……んでもって翌日。*******休暇三日目・観光地コムスプリングスズバッと参上!という感じで、瞬時にコムスプリングスに到着。本当、テレポートって便利だわぁ。「俺は、温泉にでも入ってるぜ」そう言ったウォレスを先頭に、皆それぞれに散って行く……俺はどうするかな?折角コムスプリングスに来たんだ……ウォレスみたいに温泉に入るかな?しかし、温泉と聞くと………だああぁぁぁ!!?思い返すなって!!しかし、カレンって着痩せするんだな……主に胸が……って!?何を考えてるんだ俺はあああぁぁぁ!!?見た目は普通にしていたが、心の中ではツイストがハリケーンでトルネードサンダーと化していた……何を言ってるか分からないだろう。俺も分からん!!しかし……俺ってこんなに欲求不満野郎だったか……?いや、カレンを始め、俺の周りには魅力的な女が多いのがいかん!……どちらにしろ、俺にはそんな資格ないのにな。まぁ、ここで思い出したことだが、俺は彼女いない歴=年齢では無かったこと……から考えても欲求不満になるのは仕方ないことだな……まぁ、オッサンも男なんだぞっと。なんか温泉って気分でも無くなったので、流れる川をボーーッと眺めていた。なんか、時折……女性が俺を見てきゃーきゃー言ってるのが聞こえる……まぁ、この顔ならな……アイドル並の甘いマスクって奴だからな。俺はその状況に苦笑を浮かべたりしていると……。「シオンさん、どうしたんですか?」「カレン……」何とカレンが話し掛けてきていた……って、何だってカレンが……イカン、また肌色が……くぅ!この絶対記憶能力が憎い!!ちなみにこの台詞三回目!!「いや、ただ川を眺めていただけ……カレンは?どうしたんだ?」「私は……シオンさんを見つけたので……その……」モジモジしてる……可愛いよな。女性らしさと少女らしさを併せ持つ……とでも言うべきか?見てると、めがっさ抱きしめたくなる。「…………」「?あ、あの……どうかしましたか?」小首を傾げるその仕草も、愛らしい……何と言うか、サンドラ様やジュリアともまた違った魅力だよな……。いっそのこと、抱きしめられたらどんなに楽か……しかし、そう考える度にアイツの最後を思い出す……俺にはそんなことをする資格はないと思い知らされる。「なに、カレンは良い女だな……と、思ってさ」「え………」俺には勿体ないくらいのな……。……………………ん?……今、俺は何を口走った?『カレンは良い女だな……と、思ってさ』こんなことを口走らなかったか?「あ、あああの……それって……」カレンが物凄く真っ赤だ……うん、気のせいじゃなかったのか。成程〜。HAHAHA〜N♪………マジか orz何を言っちゃってるの俺!?本音が!本音が漏れてしまった!!俺はミーシャじゃ無いっつーの!!とは言え……本当のことだからなぁ……冗談と否定するのはなぁ……。「……本当に、そう、思って……くれてるんですか……?」「……あぁ、良い女だと思ってるよ……マジでさ」「そ、そうですか……」うわぁ……その笑顔は反則だって……そんな嬉しそうに笑顔向けられたら俺は……何をしようってんだ?俺の脳裏にはあの時の記憶が蘇る……そう、俺には幸せになる資格も無ければ、誰かを幸せにすることも出来ない……俺なんかには……出来ない。「……とにかく、前にも言ったけど、カレンは自分に自信を持つんだ。掛値なしの美人なんだからさ?」俺はそう告げ、ニッ!とスマイルを送る。「良いんですか……本当に自信持っちゃいますよ?」「勿論!男なら誰もが放っておかないだろうさ」だから俺は……鈍感であり続ける。意識していることを匂わせない……。「そんじゃ、俺は行くわ。またな、カレン!」「ハイ!また後で」カレンが俺に、好意を持ってくれていることも何と無く理解している……カレンだけじゃない。ジュリアやサンドラ様だって……けど。「……彼女達と接していると……自分の罪が赦されるんじゃないか……なんて考えちまうな……」別荘街まで来た俺は、そんなことを口にした。……そんなこと、それこそ――ご都合主義じゃねぇか……。その日……俺は集合時間が来るまで、ただ青空を眺めているだけだった……。ローランディアに戻って来た俺達は、休暇の終了を報告して帰宅……眠りに就いたのだった。その翌日……物語は大方の予想通り、緊迫感を伴い進むこととなる……。