あのゼノスとの、小さな誤解によるバトルから暫く――俺達はこのグランシルに居を置いていた。まぁ、ぶっちゃけ俺の我儘――闘技場で修行したいってのが理由――だったんだが……お陰様で、フリー部門のマスタークラスを制覇することが出来た。因みに、ラルフもマスタークラス制覇者だったりする。アイツ、メキメキと上達するんだもんなぁ……俺も幾らか指導したとは言え、今じゃあ単純な強さだけなら、現役インペリアルナイト三人組とタメを張るか――超えてるんじゃないか、と思う。成長し、『習得』出来るってのは羨ましい限りだぜ……。俺?俺もしっかりチートスキルを活用しましたよ?お陰様で、グロランスキルは、ほぼ全てマスターすることが出来た。覚えていないのは――テレポートと、一部補助魔法と――蘇生魔法のレイズくらいだと思うぞ?――にしても、やっぱりマスタークラスは凄いな……インペリアルナイト並に強い奴らが、わんさか出て来るんだもんなぁ……。原作では、正にキャラ絵がインペリアルナイツのまんまだったが、実際には違ったらしい。少し考えれば当たり前だが……ナイツがこんな所に顔を出す程、暇な訳が無い。休暇とかなら話は別だが……態々、貴重な休暇を闘技場で過ごす様な真似はしないだろう……まぁ、原作のジュリアンは例外だが。――しかし、その強さはガチでした。ラルフも、最初は敗戦したくらいだしな。俺は――ストレート勝ちですよ?まぁ、分かりやすく言うなら――レベルカンストした上でM2着けてる様な状態だからな――負けるワケが無い。お陰で、様々な武器を扱える様になったさ。その中でも特に気に入ってるのは――大剣と双長剣だな。あ、双長剣ってのは、『ライエル式』の――長剣を二刀流する型のことを、俺が便宜上そう呼んでいるだけだから。その後、何度か俺達はマスタークラスに顔を出し――最終的には荒らし回……席巻することになり、それに付随した賞金やアイテムのお陰で、かなり裕福にもなった。装備も充実した……少なくとも、これは序盤の装備ではない。闘技場――恐るべし。とりあえず俺は二ヶ月、ラルフは半年で闘技場を制覇しました。ラルフは闘技場に出たりしながら、商人としてのスキルにも磨きを掛けていった。ハウエル家の名前を出さず、己の裁量のみを使って。その手腕は見事なモノで、新たな流通ルートの構想や、商品の質の向上、いかに安く仕入れ利益を得るか、とか。勉強熱心なのもそうだが、商人としてもかなりの才覚の持ち主だな――ラルフは。まぁ、ハウエル家の英才教育の賜物でもあるのだろうが――。それから、ラングレー家との関係も良好に進んだ。ゼノスとは時々、一緒に訓練したり、料理を教わったりもした。ただ、あのエプロンを着けるのは止めて下さい。今でこそ慣れましたが、あれはワンキル決まる位の破壊力があるんですから。しかし、あれだけ料理が上手いなら剣闘士なんかにならず、後にカーマインが貰う土地に店を出させて貰えば良いのに……流行るぞ。だが、あの姿は見せては駄目だ……皆吹く。笑いが原因か、吐き気が原因かの差はあるけど。俺とラルフは前者、原作のティピは後者だったワケだな。何故か、俺はゼノスに気に入られている……概ね仲は良好だ。なんつーか、普段は冷静なんだが――所々で『アニキ』キャラなんだよなぁ……地が『アニキ』キャラなのか?まぁ、精神年齢は俺の方が上だがな――シオンとして生きてる分も合わせたら……40代超えてるし。カレンとの仲も良好……と、言って良いのだろうか?よく、薬草取りに付き合ったりする。護衛の為に……だぞ?その際に、薬草学や調合術なんかも教えて貰った。楽しそうに説明するカレンが――とても印象的だったな。後は、買い出しに出掛けたりもした……荷物持ち的な意味で……だ。何か凄く楽しそうで、幸せそうに微笑んでいたが……可愛いよなカレン……。って!イカン!!俺がニコポされている!?てか、勘違いだからな!!原作でファザブラコンなカレンさんがメロリンLOVE……とか無いからな!?勘違いして、泣きを見るのは俺なんだからな……。つーか、この時点ではゼノスにゾッコンの筈……。――フラグか?けど、フラグが立つんなら俺よかラルフだろ?カーマインと同じ要素を持ってるんだからさぁ。てか、ラルフよ…あからさまに気を使って二人きりにしようとするんじゃない!!この御気遣いの紳士め!!その後、ラルフも首根っこ引っつかんで連れていきました。荷物持ちは多ければ多い程良いのだ!――決して、二人きりだと気まずいからじゃないぞ!?そして、大体のパターンとして俺達は家に招待されて飯をご馳走になります。宿には寝に帰るしかしません。まぁ、賑やかな食卓というのは良いモノだと思います。とは言え……タダ飯を食らうつもりは無く、食材くらいは提供させて戴いています。以前、飯代を払おうとしたら――『そんなのはいらないから』――と、断られたのでせめて食材くらいは……ということに。大体、年月にして一年くらいグランシルに居ただろうか……?約一年間、一緒に過ごしていたので、当然の様に誕生日を祝ったり、祝われたり――と、色々ありました。俺が16歳、ラルフが15歳になりました。ちなみにカレンは18、ゼノスは23になりました。――そんな穏やかな時間を感じつつ――しかし、俺達はその穏やかな時間を断ち切って――グランシルを去る決意をした。正直、此処は居心地が良すぎる……叶うなら、ずっとこうして居たい――と、思える位には。だが、俺達の目的は各国を周り見聞を深めることだ。――このままでは、旅に出ることを許可してくれた父上に申し訳が立たない。ラルフも似た様な心境だったらしく、俺の提案をすんなり受け入れてくれた――。その旨を、ゼノスとカレンにも伝える。ゼノスが在宅中だったのは丁度良かった。今まで、散々世話になっているのだ。挨拶も無しに帰る様な、礼節を欠く様なことはしませんよ?家柄のことは言わないで置く……この二人に限って有り得ないが――態度が変わり、色眼鏡で見られるのを防ぐ為。――堅苦しいのは好きじゃないんだ。今生の別れでも無いし――な?ラルフもその案に賛成してくれた。――やっぱり、俺らは友人としてありたいわけさね。ゼノスは渋りながらも、仕方ないか……と、認めてくれた。別に今生の別れになる訳でもないしな……と、俺と似た様な意見も溢していたし。――ゼノス自身も傭兵なんかをしている為、家を空けることが多い――それ故、あまり強く言えなかったのかも知れない。カレンは、少なからずショックを受けていた様だ……潤んだ瞳で見られた時はズキリと胸が痛んだ。そうだよな……俺達が居なくなったら……また、一人で兄の帰りを待つ身になる。ゼノスが居る時はともかく、あれだけ賑やかだった空気が静まる……それは辛く、悲しいだろうな……。――原作の知識で知っていたが、こうして交流を持って改めて理解した。カレンは普段凄くしっかりしているが、内面は脆く儚い、支えてあげたくなる女性。原作でもカーマインの生まれや、父との関連性を知り、悩み、潰れそうになっていた……。それに、今は年齢的にも女性というよりは――女の子。精神的な脆さは原作以上……そんな感じがする。或いは俺達と出会い、こうして生活していく内に、本来育まれる筈だった強さに歪みが生じたのかも知れない……。「そんな……私……私……っ!」「カレンッ!!?」俺達から視線を逸らし、まるで自分に芽生えた不安を振り払うかの様に、その場から走り去るカレン。それを見たゼノスが、直ぐ様カレンを追い掛ける――――――かと思われたが、立ち止まり、ギュッと拳を握りしめる……そして振り返り、真っ直ぐに俺を見据える。「……シオン。お前が行ってやってくれ」「!?俺、が……?」「悔しいが……今のカレンに必要なのは俺じゃ無い……お前が行ってやらなきゃ……駄目なんだっ!!――頼む!!」……驚いた。あの妹命のゼノスが……自分では無く、俺に妹を追えという。頭を下げて……己の不甲斐無さに憤慨しながら……。俺は困惑した表情で、ラルフを見る……アイツは微笑を浮かべて頷いた。――そんな風に頷かれたら――行くしかないよな?俺はそれに頷きで返し、カレンを追い掛けたのだった――。「全く……不甲斐無い兄貴だぜ」「お疲れ様です、ゼノスさん」「ラルフ……あいつは、カレンの気持ちに気付くかね?」「ハハハ……それはどうでしょう?本人に自覚があるかどうか……」「あの野郎、カレンを泣かせやがって……これ以上カレンを泣かせる様なら容赦はせんぞ……」「ハハハ……(シオン…気付け――とまでは言わないけれど……上手く収めてくれよ――?)」********俺はカレンを追って、街の中に向かった……闘技大会の受け付け施設がある、少し開けた場所……時には、バザー等の催し物が開かれる場所――そこに、カレンは居た。「カレン……」俺はカレンに声を掛ける、びくりと一瞬カレンの身体が震えた。「その、なんだ……別に一生のお別れって訳じゃないし……会おうと思えば何時だって会いに……」俺の薄っぺらい言葉は、そこで止まる……振り返ったカレンが泣いていたからだ。悲しげな表情を浮かべて……胸がズキズキと痛む……しかし同時に、不謹慎ながら思う。――その泣き顔は、なんて綺麗なのだろう……と。罪悪感を感じながらも、その顔から眼が離せない……『ふつくしい……』とか、某社長の台詞で場を濁すことも叶わない。――言った所で、カレンには理解出来ないのだろうが。「カレン……」「……初めて貴方と出会った時のことを――覚えていますか……?」「え……?」「私がモンスターに襲われていた時です……私は逃げようとして躓き、足を痛めてしまって……心の中で、兄に助けを求めたんです。――もう駄目だって思いながら……そこに駆け付けてくれたのが……貴方だったんです」「…………」あれは単に近くを通りかかっただけだ。運が良かったに過ぎない。「……一瞬、兄さんが来てくれたと思ったんです。おかしいですよね?貴方と兄さんは全然似てないのに――でも、何よりもその時に感じた感想は、凄く綺麗な人だなぁ――だったんです」「綺麗って、男としては複雑だな……」「ふふふ……でも、本当にそう思ったんですよ?あとで、中身は凄く逞しい人だって……知ったんですけど」これは……ヤバイぞ?赤くなり、涙を拭いながらハニカむカレン……お持ち帰りしてぇ……。「優しくて、不思議な雰囲気を纏ってて……気が付くと、何時も貴方を視線で追っていました……」ちょ、待っ……今更気付いたが……カレン告白フラグですかコレ?た、確かに俺に好意を持ってくれている――と、思っていたけど……せいぜい友達くらいが良いところで……って!どんだけご都合主義だよ!?誰かぁ!!カレンのステータス画面を持ってきてぇ!!(必死)「俺は、そんな大層なモノじゃないよ……何処にでも居る様な、普通の男だって」恰も平静に返すが――内心バックンバックンですよ?忘れてる方もいらっしゃると思いますが、自分、彼女居ない歴=年齢ですよ?チェリーボーイですよ?え?ピンクなお店とか行かなかったのかって?いやいや、やっぱり初めては好きな人とでしょ?お陰で知識だけは豊(ry落ち着け俺……素数だ、素数を数えるんだ。素数は孤独な数字――こんな俺にも勇気をくれる……。「いいえ、そんなこと――無いです。例え、そうだとしても……私には大きな意味があるんです……」いや、間違いなくそうですって。中身はただのオッサンですって……身体はチートですが。「私には、好きな人が居たんです」ハイ来たコレ!キタコレ!!スーパー告白タイムですよ……って、好きな人が【居た】?「その人は私のすぐ近くに居たんです。でも、私の気持ちに全然気付いてくれないんです……」あれれ?これってもしかしなくても……。「仮に気付いて貰っても……それは叶わない恋なんです。永遠に私の片思いで終わる恋……」ゼノっさんじゃんコレぇぇっ!?何!?勘違い!?勘違い乙!?チートボディだからって調子こいてた俺様思う壷!?「でも、そんな私を救ってくれた人が居るんです。その人は私の側に居てくれました……その人の側に居るとドキドキして熱くなるのに、心の何処かでホッとするんです。凄く、安心するんです――」成程……土器土器ですかぁ……縄文と弥生なら弥生だよねぇ………。ふへへへ……笑えよ……この自惚れ屋を笑うが良いさ……殺せぇ!俺を殺せぇ!!【雨音が――聞こえる……】「わ、私はその人と過ごす内に、その人の心が知りたくなりました……その人の心の中に、私が居るのか知りたくなったんです…………?…シオンさん?っ!?」そこでカレンが見たのは真っ白になった俺だったそうな。【赤い、紅い、アカイ――】「へへへ、燃えたよ……燃え尽きた……真っ白にな……」「し、シオンさぁぁぁん!?しっかりして下さぁぁぁい!?」それから、俺が再起動するまでに数分……。「はて?俺は何をしてたんだっけ?」「え゛っ゛……?」確かカレンを追い掛けて……別れを惜しんで、泣いてるカレンが綺麗だなぁとか、赤くなりながらハニカむカレンかぁいいなぁ……お持ち帰りしてぇとか思って……そこから先はぼんやりとしか思い出せん。思い出そうとすると――雨音の様なナニカが聞こえ――まるで霧に撒かれる様に、記憶が霧散していく。人間の脳には自己防衛機能があって、あまりに辛いことをリセットするらしいが……何か辛いことでもあったのかね?「大丈夫♪土器は弥生時代のが良いぞ?縄文はそれっぽすぎだしな?」「ハ、ハイ?」その後、何故か盛大に落ち込むカレンさんを連れての家路……道中に雑貨屋があったので立ち寄る。確か、ここだったよな?店員に聞くと、お目当ての物が丁度二つ残っているらしい。うむ、ツイてるね。「カレン」「……何ですかぁ……?」め、めがっさどよーんとしとる……。「ハイ、コレ」「えっ、コレって……」「俺からのプレゼント――受け取ってくれたら、嬉しいんだが――」それをカレンにプレゼントし、俺達は家路に着いた。そのプレゼントを、カレンは思いの他喜んでくれた。良かった――。確かに泣き顔も綺麗だが――やっぱりカレンには、笑っていて欲しいからな――。