「ぬおりゃあ!!!」ズドドドド!!ドゴーーン………。気の溜まった拳を水晶の山に叩き付けるウォレス……そこには見事なまでの道が出来ていた。つ〜か、あれ、一種の気合い砲だよな?黄色い気の奔流が見えたぞ?あれだ。イメージ的にはネ○まのトリプルTさんが使う、豪殺な拳の居合じゃないバージョンとでも言えば分かりやすいか?「わぁ、ウォレスさん、すご〜い!」「コレだけの技……実戦で使わないのは何でだ?」素直に褒めたたえるミーシャと、疑問を感じるカーマイン。「威力はあるが、溜めが長すぎてな……実戦じゃ使えんさ」いやいやいやいや、それ魔法と大差無いから後方支援に徹すれば、下手な大砲以上に厄介ですよ?つ〜か、あの気の乱れ方からして、我流かそれに近いのか?「ウォレスさん、どこで気を扱う方法を習得したんです?」「ん?コレは気というのか?団長を探して旅をしてる時に習得したんだが……技自体は旅の拳法家に教わった物だ。ただ、この力の流れみたいな物を感じられる様になったのは、眼と利き腕が無くなってからだが」ラルフの質問にウォレスが答える。ウォレスが言うには、技自体は正拳突きの様な基礎の様な物らしいんだが、眼が見えなくなってからも、訓練自体は続けていたらしく、自身の気の流れに気付いた時に、拳にそれを上乗せしたらどうなるか?試したらああなったと………。やっぱり我流かよ……いかんせん気の集め方に無駄が多く、時間は掛かるが……気の効率的な運用法を学べば……化けるぞ?「とにかく、これで先に進めるな……」俺達は先に進むことにする……ルイセが先に進むのを渋っていたが……結局ビクビクしながらも着いて来た。先に進むこと数分……。「水晶鉱山の規模と進んだ距離から考えて、ここら辺がちょうど中心だな」「さすが!昔ここの警備をしていただけのことはあるね?」「改めて言われると、自分の歳を実感するぜ……」ティピ的には誉めたつもりなんだろうが、ウォレスは自分の歳を実感させられ、哀愁が漂う……しかしまだ36だろ?十分に若いって。「何コレ?人型に水晶がへこんでるよ?」「こんなに大きいんじゃ、巨人だね」ティピが見つけた人型の凹み……ミーシャの言う通り巨人だな。分かりやすく言うなら人間と標準サイズのMSくらい大きさが違う……成程、ゲヴェルが封印されてた場所か……。「カーマイン……これは……」「ああ、夢で見たのよりデカイが……あの怪物の形に似ている」ラルフとカーマインが互いに頷き合っている。「間違いないな。20年前、奴はここから出て来た。そして鉱夫や俺の部下たちを惨殺したんだ」「どうしてここに居たんだろう?それともここで生まれたのかな?」「伝承では、ゲヴェルはグローシアン達によって倒されたとされている……案外、倒したんじゃなく、封印されていただけかもな」ミーシャの疑問に、俺は真実を仄めかしながら話す……もっとも、断定する様な言い方をしてないから分からないだろうが。「それは今のところ、何とも言えんな。だが、水晶鉱山から奴が出て来たことだけは間違いねぇ」「ひょっとして、ここみたいな水晶鉱山が他にもあるのかな?そんで、その中にも怪物がいるとか……」「それは分からないな……だが仮にそうだとしたら、水晶鉱山を見つけても迂闊に掘るのは危険だ……」ウォレスの言い分に、おっかなびっくりなルイセ……その言葉に、水晶鉱山採掘の危険性を述べるカーマイン。「それでは、早く知らせないと……」「ああ……まずは国王へ報告にいこうぜ」カレンは、焦りを浮かべ、ゼノスが俺達を促す。こうして、俺達はローランディアに戻ることにした。あ、捕らえた盗掘者や警備兵もどきは、街の自警団に纏めて簀巻きにして渡しておきました。『私達は魔水晶を横流ししていました』という看板を首に下げさせてな。***********で、ローランディア城謁見の間。「おお、戻ってきたか。では、報告を聞こうかな?」「水晶鉱山の旧坑道の奥に、怪物が出没したと思しき場所がありました」「なんだとっ!?」ウォレスの報告に眼の色を変える王様……まさかそこまで具体的な報告を聞けるとは思わなかったんだろうな。「そして、もし怪物が水晶の内部から出現したとなると、今後水晶鉱山が見つかったとき、同じく内部に怪物が潜んでいる可能性があります」「もし水晶鉱山を新たに発見しても、むやみに採掘するのは危険と判断します」「う、うむ……」ルイセとゼノスの発言に、言葉が詰まってしまうアルカディウス王……仕方の無い話ではあるよな……まさか水晶鉱山の採掘が、そんな危険なこととは思っていなかったんだろうから。「いずれも憶測の域を出ません……直ぐにでも、調査団を派遣するべきかと」「わかった。サンドラ、さっそくその手配を」「はい。調査団については、私の方から魔法学院に連絡しておきましょう」カーマインの発言に頷く王様。サンドラ様も調査団について魔法学院に連絡するという……どうせヒゲが何かしら工作を働くのだろうが……。「頼むぞ、サンドラ。お前たちもよく調べてくれた…次の任務は姫を迎えに行くことだが、しばし時間がある。それまでは休暇とする」姫を迎えに行く……か。まず間違いなく戦争は起こる……やり切れないな。あ、今回与えられた休暇は3日だ。最初に行く休暇先は……。******休暇一日目・王都ローザリアさて、今回も城門前で分かれた俺達。今回は何をするか……流石に、そう都合よく……この間みたいに、サンドラ様が来たりはしないしな……。「しゃあない……訓練でもしますか」俺はとりあえず人気の無い所に行こうとすると……。「ん?あれはカーマインとラルフか?」何やら話し込んでるみたいだな?「よ、何してるんだ二人とも?」俺は二人に声を掛ける。二人はこっちを向き……。「やあ、シオン」「…どうかしたのか?」上からカーマイン、ラルフだ……って、何?「ふふふ……どうやらまた引っ掛かったみたいだね」「……案外いけるもんだな」「ちょ、おま……ハァ!?」俺はきっとΣ(゚Д゚;)←こんな顔をしていただろう。だってカーマインがラルフでラルフがカーマインだよ!?何を言ってるのか分からないだろう?俺も分からない!「で、どういうことなんだ?」「うん、ほら、僕達って双子だろ?だから服を変えてみたんだよ……誰が最初に気付くかな?ってさ」そうカーマインの服を着たラルフが言う。「そしたら、思いの外気付かれなくてな……ティピ、ルイセ、ゼノス、カレン、ミーシャ……そしてシオンも気付かなかった」と、ラルフの服を着たカーマインが言う。そりゃ無理だろ?気の質も似通ってるし、見た目同じだし。いや、細かく気を探ればラルフの方が気が大きいのは理解出来るんだけどな……普段は抑えてるから分かりにくいんだよ。身長の差?そんなもん微々たるものだぞ?まぁ、眼で見て判断したからこそだろうが……。「多分、ウォレスには気付かれると思うぞ?」「……そこが難題だな」「いっそのこと、お互いを演じてみるのはどうだろう?」俺の言葉に考え込むカーマイン……しかし新たな提案をするラルフ。「面白いな……やってみるか」そうして二人はウォレスの所へ向かって行った。なんつーか楽しそうだねぇ……と、そういやティピがいなかったな……何処に行ったんだろうか……ちょっと探してみるか。探してみると、ティピは直ぐに見つかった……どうも商店街をウロウロしていたらしい。「何してるんだティピ?」「あ、シオンさん!丁度良かった♪コレ買って♪」ティピが指し示すのは、どうやらクレープの様だ。「本当はアイツに買ってもらおうかと思ったんだけど……アイツとラルフさん入れ代わってあちこちに行っててさぁ……アタシもルイセちゃんも驚いちゃったよ」まぁ、見た目変わらないしな……性格こそ違うがな。「まぁ、たまには弾けるのもいいさ。それで、どれが欲しいんだ?」「やった♪えっとね、えっとね……コレ♪」それはチョコバナナクレープ……ある種の王道だな。「分かった……すいません、それを二つ下さい」「かしこまりました♪少々お待ち下さい」いや、見てたら俺も腹減って来てさ!甘い物も嫌いじゃないからな……俺は。俺はクレープを持って広場に行き、適当な所に胡座をかいて腰掛ける。「ほら、ここに座れよ」俺はティピに俺の膝の片方を指し示す。「えぇ!?でもその……良いの?」「床だと冷たいだろ?肩というのも有りだが、そうするとクレープが持てないだろ?」ティピの身体じゃ、クレープ持ったまま飛行とか出来ないだろうからな。何しろクレープとは同じ大きさの身体……いや、少しクレープの方が大きい。「それじゃ、お邪魔しま〜す……」ちょこん、と右膝に座ったティピにクレープを差し出す、とは言え食べづらいだろうから、右手で持ってティピの視線に合わせる様に持ってくる。「わ〜〜♪いっただきま〜すっ♪」すると、凄い勢いで食べ始める……あまり急ぐと喉に詰まるぞ?そう思いながら、俺もクレープを食べ始める……うん、クレープの香ばしい香り、チョコと生クリームの甘さ、バナナの甘酸っぱさ……良い具合にハーモニーを奏でている。つまり美味いってことだ。それからしばらくして、俺達は食べ終わったのだが……決して食べるスピードが遅くない俺と、同じ早さで完食したティピはマジパネェと思う。「ふぅ〜〜、ごちそうさま〜〜♪凄く美味しかったよ♪ありがとう、シオンさん♪」「どう致しまして……あ」俺はティピの顔を紙ナプキンで拭ってやる……クリームとかがべったりだったからだ。「わぷっ!?」「慌てて食べるからだぞ?ほら、取れた」うむ、キレイキレイ♪「あ、ありがとう……けどさ?こういう時は普通指かなんかで拭って、そのクリームをパクッ♪てのがお約束じゃない?」少し照れながらも茶化してくるティピ。「なんだ、やって欲しかったのか?」「そそ、そんな訳無いじゃない!?ただ、アタシはカレンさんやマスターがそんなことされたら、喜ぶかな〜?とか思っただけで……それに、アタシこんなだから、そんなことしてもシオンさん面白くないでしょ?」カレンやサンドラ様を引き合いに出す理由……分からないとは言わない。分からないと言いたいが……あと、こんなってのは身体のことか?性格のことか?だとしたら、ティピは勘違いしてるな。「ティピは十分可愛いだろ?元気一杯だしな。その性格もむしろプラスだぞ?」「え……あ……ぅ……い、嫌だなぁシオンさんってば、からかったりしてぇ♪あ、そろそろ集合時間だよ?アタシ先に行くから!!」顔を茹蛸みたいに真っ赤にしながら、ティピはかっ飛んで行った……むぅ、なんか地雷を踏んじまったか?しかし、本当のことを言っただけだしなぁ……。で、夕方になったので集合場所へ……そして城に次の休暇先を申請し、カーマイン宅へ戻った。余談だがカーマイン達の変装?はウォレスにもバレなかったそうだ…どんだけ〜?翌日。次の休暇先に向かう…その場所は。******休暇二日目・魔法学院