魔水晶……精神力の代替品など、魔法を使う上で非常に有効な物だ。魔道具の製造にも多く使われ、俺もお世話になったことがある。もっとも、水晶鉱山産の魔水晶は学院の管理下にある為、最近では魔水晶はあまり使わないけどな。ヒゲいわく、魔水晶が悪用されることは防がねばならんらしい。……黒幕が言う台詞じゃねーな。「まずは横流しが事実であるかどうか調べて欲しいのじゃよ。そして必要であれば、正式に軍隊を派遣してもらい、犯人を捕らえてもらいたい…どうじゃ?ついで仕事に、引き受けてもらえんだろうか?」「分かった、任せてくれ」カーマインは素直に引き受けた様だ……まぁ、現段階ではウォレスですら気付いていないんだしな……仕方ないか。俺達はヒゲから水晶鉱山立入許可証を入手し、学院を後にする。「さて、じゃあ行きますか」「そうだね」俺の言葉にラルフが頷く。他の皆は首を傾げている。「言わなかったか?俺とラルフは水晶鉱山を見に行ったことがあるって」「あっ…そういえば」「てなワケだ…行くぞ?」ミーシャが何か思い出した中、俺はテレポートを唱える……あっという間に鉱山街ヴァルミエに到着。「……けどさ〜、これなら通行許可証はいらなかったんじゃない?」「まぁ、そうなるな」俺はティピの質問にサラっと答える。全くもってその通りだな。「懐かしいな……」「ウォレスさんは、水晶鉱山の警備をしていたんですよね?」ヴァルミエの町並みを見て、懐かしんでるウォレスにカレンが尋ねる。「もう20年も前のことだ……あの日、俺と隊長は非番でこの街にいた。だが鉱山の方が騒がしかったんで、急いで駆け付けてみると、化け物が部下を皆殺しにしていたんだ……隊長はその化け物を追い、それっきり帰ってこなかった」それを聞いて、皆がシーンとなってしまう……こういう時にどう声を掛けたら良いか分からないからだ。「…さて、それじゃ目的を果たしに行くとするか」「だな」ウォレスがそう言ってくれたので、俺達もそれに便乗する形になった。警備兵に立入許可証を提示、水晶鉱山に通してもらった。んで、間近で水晶鉱山を拝んだ訳なんだが……。「……凄いね……」「だな……」俺達は一瞬、呆然となってしまった。その威容は、近くで見ると想像以上だった。「この山、全てが水晶なんだな……」「何と言うか、ただただ圧倒されてしまいます……」カーマインやカレンも感動や驚きが隠せない様だ。それは皆同じなんだが、例外が二人いた。一人はここの警備をしていたウォレス、もう一人はゼノスだ。何でも、数年前に水晶鉱山の警備の仕事もしたことがあるとか。「見慣れちまうと、そういう感動も湧かねぇのさ」そりゃそうだろうが……と、何時までも見てるだけではな。お仕事お仕事っと。俺達はまず、頂上にある採掘場に顔を出し、作業員達に話しを聞く。情報を整理すると、やはり旧坑道が怪しいという話になり、下にある旧坑道に向かうことに。で、旧坑道なんだが。「ここは20年前から閉鎖されている。俺達が見ているから大丈夫だ」「調査なら上でやるんだな。さあ、帰れ、帰れ!」案の定追い返されてしまった。「何よ、あの態度!」ティピが憤慨する……気持ちは解るがな。とりあえず俺達は連中の目が届かない位置まで戻る。「怪しいな…こっちを見るなり追い払いやがった……」「怪しいよね〜!」ウォレスの言葉に相槌をするミーシャ。「どうする?力付くで押し通るか?」「落ち着いてよ兄さん……」「確かに大義名分があるので、力押しでも通れるかも知れませんが……」物騒なことを言うゼノスを諌めるカレンとラルフ。俺としてはゼノスと同じ気持ちなんだが、ラルフの言う様に無理に押し通ることも可能だが……。とは言え、この場に置いては幾つか手段はある。そもそも、国や学院から派遣された形になる俺達を、一介の警備兵が退けることは出来ない筈なのだ。この辺は原作をやっていても思ったことなんだが……。「俺に任せてくれないか?何とかしてみせるぜ?」なので俺は提案する。手段は色々ある……力付く以外の方法もな。まぁ、それもこれもカーマイン次第だが。「……分かった。シオンに任せる」「了解♪任された!」おっしゃ!これでパワーストーンフラグも折れる!……まぁ、クリアノ草を取りに行く場合の対策もしてあったけどな。透明薬を作りたがってる教授には大変申し訳ないが……後でどうにかクリアノ草を手に入れて――進呈しますんで、勘弁して下さいねっと♪俺達は再び警備兵達の前へ……皆には俺の後ろに下がる様に指示しておく。「何だまたお前達か……何度来ても無駄だ!」「いい加減にしないと力付くで……」「ほう……力付くか。面白い…やってみるが良い……やれるものならば、な」ブワッ!!「ヒッ!?」「ぐげっ!?」ドササッ!警備兵もどき達は倒れ伏せた……気絶しているのだ。俺が何をしたのかというと……メンチビーム、というか殺気を叩き着けただけ…気当たりという奴だな。俺の殺気は、相手に原初の恐怖を思い出させる……この程度の奴らを気絶させるくらい、どうということはない。ちなみに、他にも真っ当に交渉する、山吹色の菓子を握らせる等の手法もあったが、これが手っ取り早いしな。ん?手は出してないんだから問題無いでしょ?後はこの二人を縛り上げて……と。ちなみにこのロープ、俺が作った魔道具の一つでその名を『緊縛くん1号』という。捻りもセンスも無いネーミングだが、その性能は折り紙付きで、相手が暴れれば適度に締め上げるという代物だ。その性能上、捕縛目的以外にもアブノーマルなプレイをする方々にも好評である。これは商標登録をしてあり、一束100エルムで販売中でございます。「さて……んじゃ行くか……て、カレンは何してるんだ?」後ろを向くと、カレンは何故か顔赤くしながら、いやんいやん♪みたいに顔を振っていた。俺は気になったので皆に聞いたが、皆は首を傾げるだけだ……要するに分からないと。とりあえずカレンを正気に戻した後、坑内に入ることにした。「さて、この中に幽霊が出るという話だが……」「……やっぱりやめにしない?」ウォレスの言葉に尻込みするルイセ……そういや幽霊とか苦手だったよな。「どうしたの、ルイセちゃん?ひょっとして、幽霊、怖い?」「やっぱり怖いよぉ〜……だって、死んでる人でしょ?それなのに、出てくるなんて……うぅ……」あ、ルイセ泣きそうだ。「バカ言うな。この世の中に幽霊なんているはずねぇだろ?お前もそう思うよな?」「いや、俺は会ったことがあるんだが……」「そうよね、直接会っちゃったもんね」しかしカーマインとティピは、幽霊に会ったことがあるという……多分シエラさんのことだろうな。「え〜っ、やぁだぁ〜……本当なのお兄ちゃん!?」「ああ」「本当だもん♪」「カーマインお兄さまって凄〜い!」「そういう問題か…?」「やはり、無念が強すぎて、さ迷っているのでしょうか……」上からルイセ、カーマイン、ティピ、ミーシャ、ゼノス、カレンだ。カレンも少し震えてる所を見ると、少しは怖いみたいだ……あ、ルイセがマジ泣きしそうだ。「心配しなくても、今この場所にその手の類の気配はねぇよ」「そういえば、シオンは『見える人』だって言ってたっけ?」ラルフがそう言う……昔に言ったことをよく覚えてたな?「…ほ、本当に?」「こんなことで嘘をついてもしょうがねぇだろ?」そう言って笑い掛けてやると、ルイセとカレンの震えは止まった……カレンは顔を赤くしているが。「ま、もっとも……奥からは違う気配を感じるがな」「確かに……これは人の気配だね」俺とラルフは奥から人の気が感じられたので、それを伝える。「怪しいな……調べてみよう」「ねぇ、天井が崩れたりしないよね〜……一度崩れてるんでしょ?生き埋めになったりしないよね〜……?」ウォレスが調べてみようと言うが、ミーシャが不安そうに天井を指し示す。「ティピ、頼めるか?」「うん、任せて♪」俺はティピに頼んで天井の状態を調べてもらうことにした。「え〜と……うん!結構しっかりしてるわね。全然崩れそうな心配はないよ」「普通の鉱山と違って、この山全体が1個の水晶だからな。そう簡単に、崩れることはねぇさ」俺達は周囲に気を配りながら進んで行く……。すると、水晶が崩れた跡の様な場所を発見する。「調査団が遭った崩落事故の現場じゃねぇか?」「にしては綺麗さっぱり片付いてるのは妙じゃねぇか?」「とにかく、先に進もう……そうすれば答えも分かるだろ」ウォレスの言い分にゼノスが疑問を浮かべるが、進めば分かると言うカーマイン。そして俺達は奥に進んで行った……したら案の定いやがったよ。「さっさと詰め込むんだ!人目がないうちに外へ運び出すぞ」「ああ、だがそろそろ国やらなんやらが不審がりそうだよな……調査団なんか派遣されたら面倒だぜ?」「確かにな……いい加減控えた方がいいかも知れん。グレンガルのダンナは、もう買ってくれないみたいだしな」グレンガル……遂にその名を聞くことになったか。「やっぱり、こういうことか」「予想通り過ぎて、呆れちまうがな」「誰だ!」ウォレスとゼノスの声に反応する盗掘者達。ま、気付くのが遅かったな。「貴様らに名乗る名前は無い!と、言いたいが、国と学院から派遣された調査員なんだな……コレが」「アンタたちの悪事、しっかりと押さえたわよ!」「大人しく捕まるなら危害は加えない……諦めて投降しろ」俺とティピとカーマインが宣告する。「くっ……見張りは何をしていた!?」「今頃は夢でも見てるんじゃないかな?多分、悪夢だろうけどね」ラルフが補足してやる……確かに良い夢は見ていないだろうな。「さぁ、観念するんだな!」「ええい!ここまできて捕まってたまるか!」「アタシ達から逃げられると思ってんの!?」結論から言うと、全員捕縛することが出来た。とりあえずメンチビーム発動!気絶したのは無視、気絶せずに怯んだ奴には、その隙に死なない程度にフルボッコ。今回、犯人を捕らえるのも仕事の一つだ!と、皆を説得して。殺しちまったら、ヒゲの思惑通りになっちまうからな。俺は拳で、ルイセ、カレン、ミーシャは魔法で、カーマイン達はそれぞれの得物を使って。ちなみにここでも『緊縛君1号』が役に立ちました。「ねぇねぇ、あそこも水晶の破片が山になってるよ!」「行ってみようよ」俺達は更に奥に向かう。「水晶が崩れた跡みたい…ここでも崩落事故があったのかな?」「う〜ん……そう簡単には、壊れそうもないんだけどなぁ……」「ここの水晶も、あの人たちが運び出していたみたいですね……途中まできれいに片付けられてますから……」ルイセとティピは首を傾げ、カレンは状況を告げた。「まだ奥に続いてるみたいだな…崩せば通れそうだ」「ちょっとどいてろ」カーマインがそう言うと、ウォレスが前に出て左手に気を溜め始めた。って――『気』だと?