「ただいま!」俺達はローザリアまで戻り、カーマイン宅で待つサンドラ様のもとへ。「お帰りなさい」サンドラ様はベッドの上から、俺達を出迎えてくれる。若干、顔は青い感じだが、まだ元気そうだ。「ただいま、お母さん」「母さん、解毒薬だ……飲んでくれ」ルイセは挨拶を返し、カーマインはサンドラ様に解毒薬を手渡す。「………ふぅ………」「どう、マスター?」「フフ……そんなに直ぐ、効果は分かりませんよ」サンドラ様は穏やかな笑みを浮かべる。本当、10代の娘が居るとは思えん人だな……。「貴方達のことは、時折ティピを通して見させてもらっていました……大変だったでしょう……本当にありがとう……」サンドラ様は深々と頭を下げる……むぅ、そう改まって言われると照れるんだがな。「サンドラ様、積もる話もあるでしょうが、それは明日のお楽しみにしておきましょう」俺がそう言うと、サンドラ様が頷いて言う。「そうですね……貴方達も疲れたでしょうから、今日はゆっくり休んで下さい」俺達はそれに頷く。薬が効くには約一日掛かる筈だ……なら、無理せずに休んでいて欲しい。俺達は医者の先生に頼んで、様子を見ていてもらうことにした。俺達が部屋を出ると、どうやら日が暮れた様で、外は夕闇に包まれていた。虫の音色まで聞こえる……なんか、日本の鈴虫の音色に似ているな……。「僕は家に戻って、もっと両親のことを調べてみます……母が父を理解した具体的なきっかけが分かれば、フェザリアンたちも人間を理解してくれるかも知れない」アリオストはそう言い出した……。大変な仕事だが、アリオストならやり遂げるだろう……何しろ約束したんだからな!「アリオストさん、ありがとう」「アリオスト……あんたが居なければ、俺たちはフェザリアンに会えなかった……母さんに薬を届けられなかった……本当に感謝してる」アリオストに礼を言うルイセとカーマイン。確かにな……それが偶然だろうと必然だろうと、アリオストと出会ってなければ……カーマイン達からしたら、感謝してもしたりないだろう。「礼を言われるようなことはしてないよ。それよりこっちがお礼を言いたいくらいだ……一目でも母さんに会えたんだから、それこそ幾らお礼を言っても足りないさ」「……んじゃ、頑張れよ?応援してるからな」「ああ、【約束】したからね……それじゃ、僕は村に戻るから。何かあったら、村か研究室の方に来てくれれば会えると思う」「気をつけてね、アリオストさん」「さよなら」俺達はアリオストを見送った……希望に満ちたその眼は、飛行機械を完成させた時より、ずっと輝いて見えた……。「さて、俺たちも少し休むとしようか……いろいろと疲れたしな」「……だな。流石に少し疲れた」ウォレスとゼノスがそう提案する。確かに……安心したら精神的にドッと来るもんだな……。「ルイセちゃん、一緒に寝よう♪」「そうだね♪みんな、お休みなさい」「お休みなさ〜い!」本当、あの二人は仲が良いな……。二人は挨拶すると二階に行った……恐らく、ルイセの部屋に行ったのだろう。「みんなは、客間があるから、よければ使ってくれ」カーマインが言うには、一階と二階にそれぞれ客間があるんだとか……まぁ、国の宮廷魔術師が住む家だからな……原作みたいに狭くは無いとは思ったが……。ゼノスの家にも客間が有ったんだから、考えてみれば当然か。俺達はそれぞれ、割り当てられた部屋に向かった。明日にはサンドラ様も全快してるだろ……しっかし、改めて一人になると考えちまうなぁ……。何で俺はこの世界に生まれ落ちたのか……。そもそも転生だと思っていたが、本当にそうなのか?この、人間が持つには過ぎた力の秘密は……考え出したらキリがねぇ……。俺は首に掛けてあるプロミス・ペンダントに触れる……。以前、俺がグランシルを去る時、別れを悲しんでくれたカレンへ、再会の証として買ってあげたペンダント……その時に自分の分も購入していて、今では肌身離さず身につけている。ちなみに俺の願いは【みんなが笑顔でいられる世界】……世界と言うと、大袈裟かも知れないが、ルイセの願いと大差無い。誓いは【俺自身の真実を明らかにすること】……これは叶うか分からないが……。「……いつまでも考えていても――仕方ないか」俺は寝ることにする。ゆっくり身体を休めて、明日に備えなければ…。**********夢を見ていた……そこは洞窟の様な場所で、複数の小さな怪物と、その親玉の様なデカい奴……それと母さんを襲った仮面の騎士達が居た……。「どうした。ローランディアの宮廷魔術師はまだ生きているぞ」「申し訳ございません」……どうやら、あのデカい異形の化け物が親玉で、仮面の騎士達はその手下みたいだな……。あのデカい奴の言い分からすると、母さんを襲わせたのはアイツか……。「もっとも、お前たちだけの責任ではないがな」「はっ?」「作戦を多少急ぐ必要があるか……」「では、我々はその準備に掛かります」「うむ」そう告げると、仮面の騎士の内二人がその場を去った。「それにしてもあの男と娘……邪魔だな……」男と娘……?一体誰のことを言っている……?そこで俺の意識が浮上していくのを感じた……。********「っ!?」俺は跳び起きる様に目を覚ます。「やっと起きた!」「……ティピ?」声のする方に目を向けると、そこにはプンスカしているティピがいた。「……ティピ?じゃないよ!どうしてアンタはそう寝起きが悪いの?」「……すまん、また変な夢を見てな……」俺はティピに夢の内容を説明した。「マスターを襲った仮面の男たちが、怪物に命令されている?怪物ってどんな?」「……仮面の騎士の鎧に似ていたな……そしてかなりデカい」「なるほどね……その夢の話はマスターに話した方が良さそうね」「そうだな……ところで、母さんは?」俺は気になっていたことを聞く……フェザリアンから貰った薬は効いたのかを。「うん!マスターならもう大丈夫だよ」「そうか……」本当に良かった……母さんを助けられて。俺とティピは下の階に降りる……すると、みんなは既に起きて、居間に集まっていた。勿論、母さんも一緒だ。「あ、カーマインお兄さま!」「よ!おはよう」「おはようございます」「おはようさん」ミーシャ、ウォレス、カレン、ゼノスが順に挨拶してくれる。「おはよう、カーマイン」「おはよう、お兄ちゃん。またお寝坊さんだね」「おはよう、って……カーマインって低血圧か?」相変わらず爽やかな笑みを浮かべる、我が双子の兄ラルフ。お寝坊さんって、別にいつもじゃないぞルイセ。夢を見ない日は絶好調なんだから。シオン……俺は別に低血圧じゃないぞ?……多分。「おはよう。あなたが来るまでに、今までのことは聞かせてもらいましたよ……ゆっくり眠れましたか?」母さん、顔色も良くなって……もうすっかり良いみたいだな。「おはよう母さん……お蔭様で……と、言いたい所なんだけど、また変な夢を見てさ……」「夢ですか?話してみなさい」俺は夢の内容を詳しく説明する。「……………」「変な夢でしょ?仮面の男たちが出てくるのはいいとして、怪物に命令されているなんて」母さんは俺の話に何か考え込んでしまう……。ん?ラルフも何か考え込んでいる。「……どうしたんだラルフ?」「……同じなんだ……僕も今朝、全く同じ夢を見たんだ」「そっか!ラルフさんもコイツと同じ夢を見るんだったよね」「?どういうことですか?」俺は母さんにラルフのことを説明する。俺とラルフは双子だからか、同じ夢を見るらしい……ということを。「そうだったのですか……そうなると、益々あなたの見る夢が、偶然には思えなくなりますね……」母さんの言う通り……幾ら双子でも、全く同じ夢を見るなんて、偶然にしては出来過ぎている。「つまり、その怪物がサンドラ様に傷を負わせた仮面の男たちと関係があるって言うんだな?」「夢の内容から考えるとそうなるわね」ウォレスの質問にティピが答える。ちなみに、ゼノス、カレン、ミーシャは俺とラルフの夢がどういう物なのか分からない為、それについて今、シオンが説明している。「その怪物はどんな格好をしていたんだ?」「……あの仮面の男たちが着けてた鎧に似てたな……多分、仮面の男たちの鎧があの怪物に似ている……というのが正しいんだろうが」「全身銀色で、それに、結構大きいんですよ……」俺とラルフは夢の怪物の姿を説明する。母さんはそれを聞いて更に考え込んでしまう。「ちょっと聞いてくれ。俺が昔、傭兵団に入っていて、水晶鉱山の警備をしていたことは話したな」「たしか、化け物が暴れて、って話だったよね?」俺もその話は聞いた……その化け物は、ウォレスの所属していた傭兵団を壊滅させたとか……。「ああ…その化け物だが、似ているように思えるんだ」「カーマインとラルフが夢で見た化け物に…か?」説明が終わったのか、ゼノスがウォレスに尋ねる。「そうだ……そして隊長は奴を追って行方不明となった。その隊長を探していた俺の前に立ちはだかり、俺の腕と眼を奪ったのは仮面の男たち……」「仮面の男たち?それじゃ、マスターを襲った仮面の男たちって?」「このあいだ戦ったとき、似ていると思ったよ。俺はこの通り、シルエットしか見えねぇが、あんな形をしてりゃ、すぐに分かるぜ……話を聞く限りじゃ同じ連中のようだな」もしかしてあの夢は………。「ちょっと良いか?実は以前、ウォレスの腕が斬られた時の夢を見たことがあるんだ……」「なんだって?」俺はその時の夢の内容を詳しく説明する。その時の相手も、母さんを襲った連中と同じ格好をしていたことも。もっとも、その内の一人が、俺とラルフにソックリだというのは伏せておいたが……。「……やっぱりサンドラ様を襲った奴か……」「お兄ちゃん、それっていつ見たの?」「俺が初めて王都の外へ出た時に倒れて、何故か母さんの研究室で倒れてた時があっただろう?あの時だ」「つまりマスターを襲った連中なんて知らなかった時だね」そう、ウォレスにも会っていなければ、あの仮面の騎士達の存在も知らなかった頃だ。「……お母さん」「夢に出てきた異形について少々心当たりがあります」不安そうに母さんを見るルイセ……それに答える様に母さんは告げた。「何だって?サンドラ様、詳しく教えてくれ!」「あくまでも伝承に残るだけなのですが……昔、グローシアンが人間を支配していた時代に、人を襲う【ゲヴェル】という怪物が現れたそうです」「それで、その怪物はどうなったの?」ウォレスの問いに答える母さん……ミーシャは純粋に好奇心からのようだ。「伝承では、数人のグローシアンがゲヴェルと戦ったそうです。詳しいことは解りませんが、それ以降ゲヴェルも、当時いたグローシアンもいなくなったそうです……もし夢で見た異形がゲヴェルだったら……」********サンドラ様の言いたいことは分かった。ゲヴェルが実在していたなら、これは由々しき事態だ。いや、間違いなく実在してるんだけどね……カーマインとラルフが生き証人みたいなものだからな。「くっ!調べてみたいのはやまやまだが、この体じゃ……」「それに、その怪物の姿を知っているのは、夢を見たお兄さまたちだけじゃ……」ゴメン、俺も知ってるんだわ……まぁ、原作ゲームでの話であって、実物は見たことないけどな。「調べるにしても、水晶鉱山はバーンシュタイン国内にあるはずだろ?」「僕とシオンはバーンシュタイン国民だから、専用の通行証を持ってるけど……それを使う訳にもいかないし」「行くだけなら、俺のテレポートで連れて行けるが……水晶鉱山は魔法学院の管轄だから、勝手に調べたりは出来ないはずだぜ?」そう、以前俺達は水晶鉱山にも立ち寄っている。水晶鉱山に入るには許可が必要で、俺達は遠巻きにその威容を眺めただけだったが。「打つ手なしか……!」「……方法はあります」「えっ!なに、なに?」打ちひしがれるウォレスに、何かを提案するサンドラ様。ティピはそれに興味津々に食いつく「あなた達は闘技大会に出場しましたね?」「うん!優勝したのはシオンさんとカレンさん、準優勝がゼノスさんとラルフさん。コイツとルイセちゃんは準決勝で負けちゃったけど、でも、スッゴい勝負だったんだよ?こう、ズバババ!でカキキーンで!!」ティピが興奮気味に説明する……確かに、ゼノスとカーマインの戦いは白熱した……闘技大会フレッシュマン部門の歴史に名を残す名勝負だったろう。ラルフ?ラルフはゼノス、カーマインより確実に強いが……あの時はルイセとあっち向いてホイしてただけだし……。「私もティピを通して見させてもらっていましたから分かります……あれだけの実力があるなら、我が国に仕官できるでしょう。そうすれば公務として、バーンシュタイン王国に行くチャンスがもらえるかも知れません」「わぁ、すごいなぁ☆」ミーシャは闘技大会の戦いを見ていないからな、尊敬の眼差しを俺達に向ける……もっとも、カーマインとラルフには違う感情も混じってるみたいだが。漫画風に言えば、眼がハートになっている。「もちろん、国から受ける任務が優先されますから、いつでも自由に動けるとは限りません。それでもチャンスはかなりあるはずです」……お?ゼノスが震えてる?「あ、あの!俺……自分も仕官出来るんでしょうか?」おお、ゼノスが敬語を使ってる……原作でも無かったよな……。「ええ、貴方の実力なら問題ないでしょう。むしろ、あれほどの戦いをした者なら、遠からずこちらから声を掛けたでしょうから」「うっしゃぁ!!……し、失礼しましたっ!!」「もう……兄さんったら」ゼノスは思わずガッツポーズ……それを見てカレンは苦笑い。だが、その表情は微笑まし気なモノだ。――当然だな。ゼノスの――国に仕官するという望みを最初に聞き、その努力を見守ってきたのは他でもない――カレンなのだろうから――。「出来るだけ自由の利く任務をもらえるように、私から国王に掛け合ってみましょう」「これでウォレスさんの目的にも、一歩近付いたね!」「ああ」実際は、もう出会ってるんだがな……。等と考えてると、カーマインがサンドラ様に連れられ、奥の部屋へ……何でもカーマインにだけ話があるのだとか。********「それで母さん……俺に話って?」俺は母さんに尋ねる。正直、何の話かは分からない。「あなたは小さい頃から不思議な夢を見てきました。それがどんな意味を持つのか?あなたの生まれは何なのか?それが、あなた自身の旅の目的になるでしょう。それがどんな結果に繋がるか、予想も出来ません……ですが、これだけは覚えておきなさい」「…………」「私やルイセは、お前を本当の息子、本当の兄だと思って来ました……そして、これからも」「母さん……」それを言うために俺を呼んだのか……俺に秘められた真実……それは気になるが。「当たり前だろ?俺は母さんの息子で、ルイセの兄貴だ……それは変わることはないさ」「そうですね……ありがとう、カーマイン」別に礼を言うことじゃないだろう?むしろ礼を言わなきゃならないのは――俺の方なんだし。それから母さんと俺は、居間に戻った……皆も待ってるからな。********カーマインとサンドラ様が戻って来てから、俺達は城に向かうことに。カーマイン達を王に紹介するんだろう……確か、アルカディウス王だったよな?俺達はローランディア城内に足を踏み入れる……実は少しだけワクワクしていたりする。今まで色々な地を旅して来たが、城にだけは入れなかったからな。このローランディア城は、城というより雰囲気は一流ホテルのそれに近い。まぁ、やっぱり広さは城だ!と感じるほどなんだが。「あっ……」ん?ミーシャが後ろに下がった……もうすぐ謁見の間だったな。「アタシ、ここで待ってますね!……だって、ほら!仕官するのはカーマインお兄さまとルイセちゃんとゼノスさんだし、アタシってば、ウォレスさんやシオンさんみたくちゃんとしてないし…」「ミーシャったら、そんなこと気にしなくて良いのに……」そうは言うが、一般人からしたら王様に謁見なんて戸惑うだろう。俺も両親の教育が無かったらミーシャと同じ気分だったかも知れないし。……と、ついでだし言っておいたほうが良いな。「サンドラ様……実はお願いがあるのですが」「は、はい……何でしょうか?」俺が真面目な顔で話し掛けたら、顔を赤くして返事をしてくれた……ヤバイ、これは中々クるものがあるな……って、違う!自重しろ俺!「実は、俺やラルフ……それにカレンは、仕官ではなく、あくまで協力者という立ち位置で紹介して戴きたいのです」「カレンさんは分かります……しかし、貴方たちに関しては何故ですか?」やっぱり、俺達も普通に紹介するつもりだったか……危ない危ない。って、カレンさんって……いつの間にそんなことを知る仲に?……なんか、非常に妙な感覚を感じるのですが?似たような感覚は以前にジュリアが居た時にも……まさかな。「貴方たちがバーンシュタイン出身であることが、関係しているのですか?」俺とラルフは互いに視線を合わせ、互いに頷く。こいつらなら大丈夫だ……そう信じて。「ええ……俺のフルネームはシオン・ウォルフマイヤー……バーンシュタイン王国近衛騎士団、インペリアルナイツに所属していた父、レイナード・ウォルフマイヤーの息子です」その俺の告白に、ラルフ以外の皆がア然となる。「ウォルフマイヤー……あのインペリアル・ナイトの……シオンの剣筋を見て、似ているとは思ったが……」「知ってるの、ウォレスさん?」「俺がまだ腕と眼が自前だったころ、剣を合わせたことがある」何?それは初耳……いや、そういえば父上が強い傭兵の話をしていたな……戦ったけど勝てなかったと。もしかしてウォレスのことだったのか?「それで、結果はどうなったんだ?」「結局、どれだけやっても勝負は着かなかったよ…」ゼノスの質問に答えるウォレス……って、あの父上と互角?全盛期ではナイツ最強と謳われ、今でもライエル卿と互角に近い実力を有する父上と?まぁ、それもリシャールがナイツ入りするまでの話だし、三年前の話だから、現在はもう少し腕が落ちてるかも知れないが。昔のウォレスってパネかったんだなぁ……。「もし他の国に仕官なんてしたら、見聞の旅に出してくれた父に顔向け出来なくなります」「そうでしたか……ではあなたは」まだまだ皆がア然とする中、立ち直ったサンドラ様(他に立ち直ったのは男連中とティピのみ)はラルフに質問する。「僕のフルネームはラルフ・ハウエル……バーンシュタインで商人をしています」んで、ラルフもネタばらし。ウォレスやゼノスがやはり、ハウエル家のことを知っていたらしく、大陸一の豪商であることも直ぐに伝わった。「………」「……驚いたか、カレン?」「ハイ…少し……でも、ラルフさんはラルフさん……シオンさんはシオンさんですから、何も変わりませんよ」そう綺麗な笑みを浮かべながら言ってくれる……参ったな。……暗に、『身分の差がなんぼのモンじゃい!!』……と言ってる様なモノだ。普通、こんなパターンだと高根の花と諦めるか、玉の輿だと欲を深めるか……だが、カレンは違う。俺が俺だから……と言った……その言葉に偽りがないのが分かる。……俺なんか、そこまで想われる価値の無い人間なのに……。結局、俺らの心配は杞憂に終わり、皆は今まで通りの対応をしてくれた。ミーシャはひとしきり凄いと言い、ティピはしつこく何かご馳走してとせがんで来たが。で、謁見の間。「宮廷魔術師、サンドラ、まいりました」「おお、サンドラ。体の方はもう良いのか?」この人がアルカディウス王か……成程、凄く良い人そうだ……サンタさんを連想すれば分かりやすいか?髭は黒いがな。「はい。この子たちのおかげで、すっかりよくなりました。国王陛下にはご迷惑をおかけしました」「うむ。しかし治って良かったな。ところで、話とはその者たちのことか?」「はい。この2人は私の子供でございますが、息子の方が少々奇妙な夢を見ます」「ほほぅ、奇妙な夢とな」アルカディウス王は興味を示した様だ……そしてサンドラ様はその夢のことを説明する。見たことも無い、遠くの場所の情景をまるでその場に居たかの様に見せる、正夢というには現実感が有り過ぎる夢。「息子の見た夢のおかげで、私は命を救われました」「夢で事実を知るとは……なんと不思議な……」「問題はここからです。この子の夢に、過去の伝承にうたわれる、ゲヴェルらしき怪物が出てくるようなのです」「ゲヴェル!?人を滅ぼし、グローシアンの力を持ってやっと倒されたとされる、あのゲヴェルか?」王様、博識だなぁ……とは言え、実はゲヴェルは結構有名で、一般では民話として知れ渡っている。【悪いことをした子はゲヴェルに喰われるぞ!!】……というナマハゲじみた扱いもされている。もっとも、ゲヴェルと違い、ナマハゲは善玉な鬼なんだがな。「そこで陛下にお願いがございます。この子たちを仕官させ、各国を回り、ゲヴェルの実態を調査させたいのです」「うむ……」王様は悩んでいる……まぁ、損な買い物じゃないと思いますよ?サンドラに促され、カーマインが一歩前へ……そしてひざまずく。「この子は今年の闘技大会で準決勝まで勝ち上がりました……準決勝までとは言え、その実力は仕官には差し支えないかと存じます」カーマインが下がり、ルイセが前に出て、スカートの裾を持ち一礼。「そしてルイセがグローシアンであることは、もうご存知と思います」「うむ…」ルイセが下がり、今度はゼノスがひざまずく。「こちらの男はゼノスと言い、今年の闘技大会で決勝にまで駒を進めております。その実力もまた、仕官に差し支えないと存じます」ゼノスが下がり、ウォレスの番。「こちらの男、名をウォレスと言い、同じく闘技大会などで優勝した経験を持ちます。彼をサポートにつけたいと思います」ウォレスが下がる……次はいよいよ俺達の出番か……とは言え、説明はサンドラ様がしてくれるから楽っちゃ楽だな。実際、俺は王族に謁見するのは初めてじゃないしな……リシャールとか。