俺達は外に出た……相も変わらず良い天気だ。「こうして再び、陽光を浴びることが出来ようとは、思わなかった……」ステラ女王が日光を満喫している……まぁ、あんな所にいたんだから当たり前か。「それにしても酷いよね、他のフェザリアン達は女王様を助けない、なんて言うんだもん!」「それはそうであろうな……我一人の為に、皆を危険に曝すことなど出来ぬ」平然と言ってのけるフェザリアンの女王。ウォレスは疑問に思う。「捕らえられてたアンタがそういうのは分かる……だが、救出側がそう言うってのはどういうことだ?」「人間には理解出来ぬのかも知れぬな……だが我々はあるがままを受け入れて来た……」「………それは、諦めじゃないのか?」そこに異論を挟んだのがカーマインだ。「あきらめ……だと……?」「……そうだね。貴女達の生き方は、諦めそのものだ……僕たち人間は最後まで諦めない」「……………」カーマインの言い分にクエスチョンマークを浮かべる女王……原作ではバッテンマークだった筈なんだが。更にアリオストの物言いに、考え込んでしまう。「『歩き出す前から諦めるのは、愚か者のすることだ。この世界に生まれた以上、向かい風でもくじけず歩け』……父の言葉です」「…うむ……」「それに、貴女が言うように、フェザリアンが昔からあるがままを受け入れて来たような種族なら……先人達はこの世界に渡って来たりは出来なかったでしょうからね」考え込む女王へ更に、俺はトドメの一言。Ⅲの時代、決してフェザリアンは運命を諦めていたわけじゃない……でなければ、今頃は元の世界に残っていた筈なんだからな。「………そうか…」更に考え込む女王……出来れば、良い結論を出して戴きたいものだが……。「ところで、聞きたいことがあるんだが?」「何であるか?」そこにウォレスが質問する。「いったい誰がアンタをここへ閉じ込めたんだ?他のフェザリアンの話じゃ、魔法使いだったとか言ってたが……」「相手は複数だったので、全員は覚えていないが……その中のリーダー格の男は、片目であったな」「片目の男、か……」アリオストは怒りを押さえ込むように、言葉を捻り出す……母と同じフェザリアンをこんな目に合わせた上に、もしかしたら、自分の研究が悪用されてるのかも知れないんだからな……。「我々の科学技術を教えろと言われたのだが、一言も喋らなかったので、あそこへ閉じ込められたのだ」「酷い……」ルイセは純粋に心を痛めてるようだった……。ルイセだけじゃない、カレンもミーシャも同様だ。「人間は我々の技術を争いに使うであろうからな……そのような事になるならば、我が命を投げ出した方がましだ……」「それじゃ、そいつらにバレる前に急いでここを離れましょ!」ティピの言葉に頷いた俺達はテレポートでフェザーランドに向かった。女王の翼の傷は治癒したが、長時間飛ぶには体力が持たないだろう……との判断だ。***********フェザーランドに着いた俺達――と言うより、俺達と一緒に戻って来た女王を、見張り役のフェザリアンが出迎えた。「は、女王様!よくご無事で!」「心配かけたな……この者たちに助けられた」早速、俺達を見付けたフェザリアンは、一緒にいる女王様に駆け寄る。そして女王の安否を知ると、他のフェザリアン達にこのことを知らせに走って行った。しばらくして、フェザリアン達が集まって来た。「お帰りなさいませ、女王」「すまなかったな、みんな」「ご無事で何よりです!」みんな内心では女王様が心配だったんだな……だが、それに納得行かないのがうちらのパーティーには何人か居る。「何を言ってやがる!俺たちが助けなかったら、女王様は死んでいたかも知れないんだぞ!!」「テメェらは女王をさっさと切り捨てやがった癖に、最初から心配してたみたいな態度を取りやがって……ふざけんじゃねぇぞ!!」「そうだ、そうだ!調子が良すぎるぞ!!」ウォレスとゼノスとティピだ……まぁ、気持ちは分からなくも無いが……。「そ、それは……」「それとも俺たちが助け出してくれるなんて、甘い考えをしていたんじゃねぇだろうな?」「そ、そんなことはない!」「元はと言えばお前たち人間が女王をさらったのがはじまりだ!」「だからって、見捨てていいの?」「確かに争いは愚かです、でも、それだけ女王様を心配していたなら、何故助けようとしなかったんですか?」「…………くっ……」ウォレスに続いて、ミーシャ、カレンも、フェザリアンに鬱憤をぶつける………そろそろ止めるか。「ハイ、ストップ」「シオン……」「お前たちもやめるのだ」「女王……」どうやら女王様もフェザリアン達を止めてくれたようだな……。「お前ら、少しは落ち着け……彼らは集団の意志を尊重する……だが、本当は助けに行きたかった者も何人も居た筈だ」「……それは……だけど」ルイセも実は不満があった様で、何かを言おうとする。「現に、彼らはウォレス達の言い分に言葉が詰まった……直ぐに言い返せなかったのは、そういう気持ちがあり、その上での罪悪感がある証拠だ」俺が優しく諭す様に言うと、皆、言葉をつぐんでしまった。「貴方達フェザリアンの言い分も分かります……確かに我々は価値観という物が違います……いや、本来は違わなかったのかも知れませんが、そうさせたのが人間だというのも理解しています……ですが、頭に血を上らせて、全て人間が悪い……というのもどうなんでしょうね?」要するに、ありがとうの一言くらいは言いなさい……ってこと。道徳や倫理について説く書物を残しているフェザリアンが、そんなことも言えないのか?と。とは言え……。「今すぐ、我々の溝が埋められるとは思っていません……ゆっくり考える必要があるのでは……と」「「「……………」」」フェザリアン達も押し黙ってしまう……彼らにも色々考えて貰いたいよな。「……『歩き出す前から諦めるのは愚か者』か。確かに、考える価値がありそうな言葉だ……それに、祖先の恨みを引きずるのもまた愚かだ……というのもな」女王は俺達を一通り見渡して、フェザリアンの一人に言伝をする……渡されたのは、フェザリアンの薬だった。「私達は、見返りが欲しくて貴女を助けた訳じゃありませんが……」「そんなつもりは無い……我々に考える機会を与えてくれたそなたらへの、気持ちだと思ってくれ……」俺は女王の瞳を見る……嘘を言ってる様には見えない……その顔には偽りの無い微笑みが浮かんでいる。「なら、ありがたく頂戴しましょう」俺はニッ!という笑みと共に答える。「やったぁ☆これでマスターが助かるね!」「うん!」「…そうだな」ティピとルイセが大喜びだ。カーマインも何気に嬉しそうだ。皆はそれを見てホンワカムード……って、アリオスト、お前までホンワカしてどうする?俺はアリオストを肘で突いて促す。それで気付いたのか、アリオストは俺に頷き、女王の前に出た。「あの、母さんに会わせてください」「そなたの母とな?」「……僕の中には、あなたたちと同じ血が半分流れています……最初に僕がここに来たのも、母さんに会いたかったからです」「そうか……そなたがジーナの息子か……」「お願いします!母さんに……」「……悪いがそれは出来ぬ。ジーナは掟に背いて人間と一緒に居た……その過ちを認めない以上、人間であるそなたを会わせる訳にはいかぬ」「そんな!」俺はアリオストの肩を叩く……こっちを向いたアリオストに不敵な笑みを浮かべてやる。任せろという意志表示だ。さぁ、ネゴシエーションを始めようか。「少々、宜しいですか?」「何であるか?」「先程の言い分ですが、彼が人間だから掟に引っ掛かり、罰を受けている彼女には会えないと……しかしフェザリアンなら面会は出来るのですよね?」「……何が言いたい?」「確かに彼は人間です……ですが半分はフェザリアンでもある。ならば、半分はフェザリアンの法が適用される筈ではありませんか?」そう、俺の武器はアリオストがハーフであること……そこに必ず逆転のチャンスが隠れているはずだ。「……半分とな?」「そう、半分です。半分とは言え、貴女達の同朋なんです。ならば、面会する権利なら彼にもある筈です」「……屁理屈だな。わらわが認めても、他の者達が納得しないであろう……我々に考える機会を与えてくれたことは感謝しているが、まだ人間を完全に認めた訳ではない……だが」「女王……」もう一つの武器は、原作よりステラ女王が俺達に好意的だということ。こんな不確かな蜘蛛の糸だが、手繰り寄せられなければネゴシエイターの名が泣く!!……別にネゴシエイターじゃないんだが、せめてアリオストに一目でも母親に会わせてやりたいじゃないか。無論だが、ここで脅迫じみたことを言うのはNG……せっかく好意的なのに水を射すことになる。「……面会するのは彼だけ、短時間、見張りを着ける……これが条件だ」「!!」アリオストはビックリしている……まぁ、分からなくは無いが。しかしこれは……女王の最大限の譲歩だな……現段階ではこれ以上は無理か。「分かりました……それで良いか?アリオスト?」「!ハイ、ありがとうございます!」アリオストとしては是非も無いだろうな。何しろ生き別れた母親に会えるんだから……。「おい、案内してやれ」「はっ……こっちだ」アリオストはフェザリアンに連れられて、奥に向かって行った。それから数分後、アリオストは戻って来た……たいした時間は取れなかったが、母親に会えたのだ……その顔は若干幸せそうだった。「今後例外は認めない……だがもし、そなたらが真に我々を認めさせられたら……その時はジーナを自由にしよう……」「わかりました……絶対に、認めさせてみせます!」アリオストは母と再会したことで決意を新たにし、母を自由にする為に誓いを立てたのだった。それは欲が強いとも言える……だが、俺はそれが絆だと信じたい。「シオン君……ありがとう」「ん?」「君のお陰で、少しだけど……母さんと会う事が出来た……本当にありがとう」アリオストは心底感謝している様で、俺に礼を述べてくる……俺はたいしたこと言っちゃいないんだがね。「男の約束だったからな……というか、女王の言う様に俺は屁理屈を言っただけだ。あんなのは突っぱねることも出来たんだからな……むしろ、それを受け入れてくれた女王に感謝しなって」もっとも、アレを突っぱねられても、後2、3手は詰められたけどな。……本当、あんな目に会いながらも、真摯に向き合ってくれた女王は立派だよ……。「それでも母さんと話せたのはシオン君のお陰なのは変わらないよ……だから幾らお礼を言っても足りないさ」「フッ……それじゃあ、その気持ちを受け取っておくさ……しかし、本当の意味でフェザリアンを認めさせるのは骨が折れるぜ?大丈夫か?」「あぁ……必ずやり遂げてみせるさ!男と男の約束だ!!」そう言って笑みを浮かべるアリオスト……やっぱり暑苦しさは出ないが、ナイススマイルだ!「さて、じゃあ戻ろうぜ!サンドラ様も待ってるからな!!」皆も頷いたのを確認し、俺はテレポートを唱えた……こうして俺達はフェザーランドを後にしたのだった。