さて――幸か不幸か、俺達は一回戦からぶつかった。こんな衆人監視の中で、かなり緊張してはいるが……俺としても、ゼノスの実力を知りたかったので、正直な話『渡りに船』って奴だ。「でやあああぁぁぁぁ!!!」「ハァッ!!」鈍く、澄んだ金属音が響き渡る――。重量級の一撃がぶつかり合い、周囲に衝撃が走る……成程、大した剛剣だ。先ずは小手調べを――と思い、打ち合って見たが……中々どうして。「セイヤァッ!!」「ぐぅ!?」俺は大剣を横薙ぎ――ゼノスを弾き飛ばした。更にゼノスが体制を立て直す前に、袈裟掛けに切り掛かる。――しかし、剣閃がゼノスを捉える瞬間――突然、ゼノスの身体が幾重にもぶれた。まるで、分身しているかの様に――。「なっ!?」「おらっ!!!」袈裟切りが手応えなく素通りし、武器を振り切って肩透かしを喰らった俺を、ゼノスが死角から切り上げる。「くっ!」それをスウェーで上体を反らし、避ける。だが、それを読んでいたかの様に手首を返し、俺を追尾するように切り下げてきた。それを読み、剣で受け流した……つもりだったが、その剣閃は俺を捉え――僅かだが、腕に傷を付けられた。「くおっ!?」更に、そこに蹴りが入り――蹴り飛ばされた俺は、無様にも壁に叩き付けられた。――実力的には、俺の方が圧倒している筈だ。しかし、こうも容易くあしらわれた――それは、純粋な経験の差から来る物だった。気概、気迫、勘、機転――それ等、経験から来る物の絶対値が違う――。そう、それは『分かっていた』ことだ――。故に――。※※※※※※こんな物なのか……?確かに、それなりには強いが――苦戦をする程じゃあない。歓声に包まれ、周りからのゼノスコールの中、壁に叩き付けられたシオンをそんな思いで眺める。地元だからってのもあるだろうが、俺はこの闘技場ではそれなりに顔が知られているからか、ファンって奴がそれなりに居たりする。まぁ、傭兵の仕事が無い時は顔を出してる――常連だからな――っと、それは余談だな。――あの時、初めこそカレンをたぶらかした奴として敵視しちまったが……冷静に頭を冷やせば別にアイツらがイチャついていた訳じゃないし、カレンにしろシオンにしろ誤解だとか言ってた気がする。一方的に話しを聞かなかったのは、他でも無い俺な訳で……。次の日には、完全に頭が冷えた。てか、カレンに本気で怒られちまったし……。後でラルフに聞いたら、確かに少し良い雰囲気だったらしいが、イチャつく様な激甘な雰囲気ではなかったらしい。勢い余って決闘を挑んじまったが……悪ぃことしちまったと、今でも思っている。俺はまた、妹の恩人に恩を仇で返すような真似をしちまった。――じゃあ、何で決闘なんかをしてるのかと言うと……。単純にシオンの力が知りたかった……というのもある。初見でシオンとラルフを見た時、コイツらが相当腕の立つ連中だってのは直感的に理解できた。少なくとも、俺と同格かそれ以上――。――しかし、俺の見立てではシオンもラルフも、同程度の実力の持ち主であると予測していたのだが――。そのラルフが、自身よりもシオンの実力が高いと評していた――。予測を上回る実力――試してみたくなるのは当然――だろう?――決闘を挑んだ側としては、引くに引けないというのもある。……だが、何よりこれは――カレンの為だ。冷静に考えた……考えた上で、気付いちまった。――シオンの方はどうか知らないが、恐らくカレンは――シオンに好意を抱いている。……自覚しているか、無自覚なのかは分からないが…。カレンが危ない所を、直接助けたのはシオンだって話だし――カレンにとって、それは何よりも輝いて見えたのかも知れん――。俺自身、アイツらと話したのはほんの少しでしか無いが、アイツらの人なりはそれなりに理解したつもりだ。悪い奴らじゃない……寧ろ好感が持てる。二人ともよく分からん魅力――こう言うのをカリスマってのか?そんな物を感じる。だが、ソレとコレは別だ!俺には、カレンを守る義務がある――故に、カレンを悲しませる様な奴にはカレンは任せられん!!俺より弱い奴に、カレンを守れる訳が無い!だが――もし仮に、仮にだが!俺より『強い』なら、認めてやらんことは無いがな……。まぁ、今鍔ぜり合った感じでは、到底俺には敵わな――。「――そうか、今のが【分身】か――」「ん?」シオンが何かを呟いた――まだ戦えるってか?面白ぇ!!そうこなくっちゃあなっ!!「……成程、実戦に基づいた戦闘経験……そこから生まれる我流の戦技、か……『覚えた』ぜ――」な、に……っ!?直前――シオンの姿が、俺の視界から掻き消えたのは、正に一瞬の出来事だった――。「ごあっっ!!??」横から強烈な衝撃を受け、続いて側面に再び衝撃を受けた。――気が付いたら、今度は俺が壁に叩き付けられていた。喰らったのは――蹴り、か……?全く、見えなかった……。クソッタレ――味な真似してくれんじゃねぇかよっ!!※※※※※※さっきのお返しとばかりに、脇腹辺りを蹴り返してやった。そうしたら、今度はゼノスが吹っ飛んで行った。さっきまでは、敢えてゼノスの実力を計る為――ゼノスに身体能力を合わせていた。そう、合わせていた筈だった……。だが、実際はかすり傷とは言え一太刀与えられ、更に蹴りまで喰らわされた……。身体能力を合わせる――等と言う慢心が、僅かなりとも油断を生んだ――それは事実だ。だが、それ以上に――ソレは戦闘経験から生まれた差なんだ……。あれが本物の戦士……父上達、騎士の誇りとはまた違う――生き残り、勝つ為の戦闘術……。スゲェ――あれだけの力を、あの若さで、独力で身につけたのかよ……!?正直、武者震いがした。ゼノスの実力は、父上達――インペリアルナイトにこそ及ばないまでも、ソレに迫る物だ。もし――もし、俺が【凌治】のままだったなら、ここまで到達しえただろうか……?それは、分からない……試そうにも、今の俺は【シオン】だ……。神懸かった――このチートな身体に、チートな能力……その代わり、独力で『習得』するのがほぼ不可能な身体……。羨ましい、どうしようも無く羨ましい……。父上も、ラルフも、ゼノスも……。皆が皆、研鑽し、努力し――到達した。騎士の誇りを守る為、真実武具を知る為、生き残る為――そこに至る迄の理由は違えど、その過程は輝いている――。ソレは、俺には出せない輝きなのだろう……。「立てよ……まだまだいけるんだろう?」かつての俺では、届かなかったかもしれない……『英雄』とも呼べる男……。「【全力】で来い……あるいは、この身に届くやも知れんぞ?」とある運命の似非神父の台詞を吐く。両手を広げ、挑発するような態度……。周りの空気からも分かるが、超アウェー……闘技場内にはブーイングが響き渡り、いつ物が飛んで来てもおかしくない雰囲気――。――良いさ。ならば、俺は敢えて悪役になろう。これは一種の暗示――【全力】は出せないが【本気】でやろう……。羨望は胸に秘め、高揚感を前に出そう……【シオン】となった俺が、物語の英雄と戦える栄誉を賜ったのだ……ならばこそ、マジにならなきゃ漢(おとこ)じゃねぇ!!「く、やるな……今までは本気じゃなかったって訳か……」ゼノスが立ち上がり、獰猛な迄の笑みを浮かべながら立ち上がり、武器を構えた――先程までとは覇気が違う。「なら、お望み通り……全力で相手をする迄だぜっ!!」言うが早いか、勢いを乗せて踏み込んでくる。踏み込む速度、体捌き、剣速……それらが全て、先程とはまるで別物。「オラオラオラァァァァッ!!!」ガァンッ!!ギャンッ!!ギィィィンッ!!素早く、何より重い【連撃】を繰り出してくる。――十合、二十合それと打ち合った。その度に衝撃波が周囲に広がり、風が舞う。やがてブーイングは止み、辺りには剣撃による金属音が幾度も響き渡る――。ゼノスは両手持ちで、大剣を文字通りブン回す。斬るだけでは無く、突きすらも繰り出し、そこに蹴りや――隙あらば体当たりを繰り出してくる。正に、誇りもへったくれも無い――勝つ為の技術。故に――強い。しかし、俺はそれを既に【知ってしまった】……そう、欠点すらも……。俺は同じ様な大剣を使いながらも、片手でそれを扱う。なのに、パワーが違うからか……互角に競り合う。――競り合えてしまう。勝つ為のロジックも幾つか出来上がっている――身体能力全開を抜かすなら――例えば、魔法を織り交ぜれば楽に対処出来る。他にも……。ギィィィィィンッッ!!!ギャリリリリリリ――!「くっ……!!」「それで全力か?」こうして鍔ぜり合いに持ち込んだ時に、こちらから引いてやる――。そうすると――。「何ッ!?」ゼノスはその体勢を崩す。だが、体勢を崩しながらも、剣を横凪ぎに振るってきた――。俺はそれを剣で受け流し、体勢が崩れている所へ――すれ違う様に膝蹴り。重い、確かな手応えを膝に感じる。「ぐ……はぁ……!?」メキメキメキ………と、膝がめり込み、ゼノスの身体は若干くの字に曲がる。すかさず、俺は空いてる左手でゼノスの襟首を掴み、引き倒すのと同時に足を払う。「ヌオォォ!?」強烈な衝突音と共に、地面に叩き付けられるゼノス。その衝撃に一瞬、息が詰まった様になり――軽いブラックアウト状態に陥るゼノス。その隙に、剣をゼノスの首に突き付けてやる……。「…まだ、やるか?」「……参、った――」ゼノスが自身の負けを宣言した瞬間、俺に勝利の名乗りが挙げられ、会場は一気にヒートアップした。さっきまでのブーイングも何処吹く風……ってな具合に沸き上がる歓声。俺はそんな中で、溜め息を吐きながら剣を鞘に収めた。「立てるか?」俺はゼノスに手を差し出す。「チッ……完敗、か。まぁ、これだけスパッと負けたら、案外スッキリするもんだ、な……っいつつ……」俺の手を取って立ち上がると、ゼノスはその顔を歪め、脇腹を押さえる。肋骨は折っていない筈だが……ヒビでも入ったか?「……ヒーリング!!」ゼノスを柔、らかな光の柱が包み込む。すると、その光は見る見る内にゼノスに付いた傷を癒して行った。「どうだ?楽になったか?」「ああ、お陰で痛みも消えた。……にしてもお前、魔法まで使えるのかよ……」「こう見えても、皆既日食のグローシアンだからな…ヒーリング位は使えるさ」「皆既日食のグローシアンだぁ!?なんつーか……つくづく規格外な奴だな、グローシアンなのに剣士やってるなんて、初めて聞いたぞ俺は……」「俺に言わせれば、グローシアンだからって魔法一辺倒なのはどうかと思うワケよ……と、そろそろ控室に戻ろうぜ?次の試合もあるしな」「そういやそうだな……」その後の残り試合に関しては……語る程の物は無い。つーか、皆さん棄権されましたから。どうやら俺とゼノッさんの試合を見て、肝っ玉縮んだみたいですね。その後、賞品と賞金を受け取り……闘技場の入口に集合。観戦していたラルフ、カレンとも合流した。ラルフは心配はしてなかったと言ってくれた。それだけ信頼してくれていたのだろう。ありがたいこっちゃ。カレンは……思いっ切り、心配していた。ゼノスなんか、こんなところ(闘技場入口)で妹からお説教です。「だいたい兄さんは…!!」「勘弁してくれカレン……」そんな様子を見ていた俺達は、(生温かい)微笑みをラングレー兄妹に向ける。「兄弟か……良いね。僕は一人っ子だから羨ましいよ」「案外、どこかに生き別れの兄弟とか居るかもよ?」「ハハハ、まさかぁ」いや、居るんだよ……お前の兄弟に当たる奴らなら沢山……まぁ、カーマインなんかもその一人だしな。もし、カーマインと接触する時になったら――その辺の事実をでっちあげるかな?うん、それも面白そうだ。その後……。「んじゃ、俺達は宿に戻るよ」「そうか――お前ら、まだグランシルに居るんだろ?」「ええ、暫くは滞在するつもりですよ。ねっ?」「ああ、まだまだやることは残ってるしな」闘技場フリー部門で、マスタークラスまで制覇しなきゃならん。マスタークラスになれば、かなりの使い手が居るはず……そうなれば色々ラーニング出来そうだしな。「そうか……俺は家を空ける時もあるけど、カレンはほとんど家に居る筈だから、良かったら暇な時に顔を出してやってくれないか?」「に、兄さん!?」おろ……これが昨日大暴走してた男か?まるで、憑き物が取れたみたいに……もしかして、俺のことを認めてくれたのかな?何か、嬉しい様な複雑な様な…。戦士として認めて貰えたのは嬉しいけど……厳密に言えば、自分自身の力で認めて貰えた訳ではないからな……やっぱり複雑だぜ。「ああ、そっちも暇な時は顔を出してくれよ?」そんな気持ちをお首にも出さず、そう告げる。「カレンも、薬草の採取位なら手伝えるからさ♪」わざとらしい位に分かりやすく、ウインクをする。元が良いから完璧とは言えなくても、そこそこ雰囲気を解すくらいは出来た筈だ……。――某人生薔薇色ライダーズのヘッドみたいに超絶にウインクが下手では無い……と、思いたい。「は、ハイ!その時は宜しくお願いしますね」赤くなりながら、視線を逸らすカレンさん。やべぇ……そんなに無様だったか?やっぱり、慣れないことはするべきじゃないな……まさかと思うが――某人生薔薇色ライダーズのヘッド並にウインクがへ(ry※※※※※※シオンさんとラルフさんを見送った後、私と兄さんは家路に着きました。さっきは少しびっくりしたなぁ……凄く大人びた雰囲気のシオンさんが、凄く綺麗な笑顔で……う、ウインクしてきて……。何故か、胸の鼓動が強くなって、頬まで熱くなって……思わず視線を逸らしてしまった。……変に思われなかったかなぁ……。「良かったなカレン?少なくとも嫌われてる訳では無いみたいだぞ」「兄さん!?もう!茶化さないでよ!兄さんが思ってる様なことは、何も無いんだからね?」「とは言え、あれは相当鈍感だな。お前が視線逸らしたのを別の次元で勘違いしてるぞ、あれは……」「だから違うってば……」それに鈍感云々を兄さんが言わないで欲しい……私の気持ちにも、気付いてくれないんだから……これじゃあ、仮に兄妹じゃなくっても、永遠に片思いだったかも。でも、シオンさん……かぁ……。あの人を見ていると……心が掻き乱される。まるで、初めて恋をしたかの様に……そんなこと、あるわけ無いのに――。私の今の気持ちは……一体誰に向いてるんだろう…?ゼノス兄さん?それとも――。ふと、シオンさんの占いの時に言っていた――ある言葉を思い出した。(運命の人…それは貴方ですか?それとも……)運命という言葉――それが誰を指すのか――それはわからない。けど――漠然と――。この日、私の運命が変わったんだって――。そんな――気がした――。※※※※※※後書きキャラ崩壊が凄いことになってる…;