さて、色々あって時間を喰っちまったが、いよいよ出発ってわけだな。幸い、カレンの二日酔いも一日休んで貰って、二日酔いの薬を処方したら良くなったからな。カレンが非常に申し訳なさそうにしていたが……まぁ、気にしていても始まらないだろう?皆も責めたりしなかったしな。まずはヒゲに通行証を返しに行かねばなるまい。俺達は魔法学院に向かう。「あ〜、楽しかった♪今度はどこ行くの?」「あのね、ミーシャ……」魔法学院に来て早々これだ……流石ミーシャクオリティ……。「ちょっと!」お、アリオストが前に出た……何やら耳を澄ましている様だ。「どうしたの、アリオストさん?」「ちょっと黙って………………あれは……」ふむ……そういえばこんなイベントもあったな。「歌声……か?」「歌声ですか?」確かに歌声が聞こえる……ウォレスには聞こえて当然だな。目が見えない分、他の感覚が優れているんだろうから。俺は肉体がチートだからか、聴力も結構良い。ウォレスと同じくらいには耳が効く。「……間違いない!」「アリオストさん!」走って行っちまった……まぁ、アリオストにとっては思い出の歌だからな。つーか、この歌が聞こえるってことは、やっぱりステラ女王はさらわれたのか……。「ねぇ、ウォレスさん、何か聞こえるの?」「歌声だ。聞こえないか?」「俺は聞こえたぜ?〜〜♪〜〜♪……って言うメロディだよな?」俺は歌の音程を歌で示す。「そう、その歌だ」「お前らよく聞こえるな……俺にはサッパリ」「ウォレスさんとシオンさんって、耳がいいんだ……」ゼノスには驚かれ、ミーシャには感心されてしまった……。「とにかく、行ってみようよ」ルイセに促された俺達はアリオストを追う。そして、中央広場でアリオストを見付けることが出来た。どうやらアリオストは吟遊詩人の歌を聞いている様だ……。それは自然を慈しむ歌……日の出ている時には小鳥が囁き、風の音が囁き、暖かな物で満たしてくれる……夜は、暗闇に包まれるが、月の光が優しく照らして、安らぎをくれる……そんな歌だ。良い歌詞なんだが、いかんせん歌い手の歌唱力が着いて来ない……。これを実際に、女王に歌って貰いたいと思ったのは俺だけじゃないはず。アリオストは尋ねる……その歌をどこで知ったのかと。そうしたら、北にある保養地ラシェルのそばで聞こえて来たという。アリオストは、吟遊詩人に礼を言ってからこちらに戻って来た。「どうしたんです、急に?」「今の歌がどうかしたのか?」「微かだけど、覚えている。あの歌は、僕が幼い頃、母さんが歌ってくれた歌だった」ラルフとウォレスの質問に、アリオストが思い出す様に答える。「ってことは、フェザリアンの歌?」「ああ」「こりゃ、調べてみる価値ありかもな」「それは良いが、まずは通行証を返してからな?」俺が皆に釘を刺す。一応ここには通行証を返しに来たのが目的だからな。んで、通行証を秘書さんに渡して、いざいかんラシェルへ!!……と、言い忘れる所だった。「どうする?ラシェルなら、テレポート出来るけど?」「そうだな……じゃあ、頼めるか?」そう、俺はラシェルに行ったことがある。色々暗躍してた頃にちょろっとな?「え、え〜〜っ!?じゃあ、もしかしてシオンさんも……」「うん、シオンさんも、わたしと同じグローシアンなんだよ」「しかも、ルイセちゃんと同じで、皆既日食のグローシアン!」ルイセとティピが、ミーシャに説明してやる……どうでも良いが、自慢げだなティピ。「ふぇ〜、知らなかった……そんな大きい剣を持ってるからアタシてっきり……」「グローシアンだからって、魔法一辺倒というのは偏見だぞ?」まぁ、ミーシャの見てる前で、まだ魔法戦はしてなかったからな……分からなくても仕方ないか?しかし、何回か同じ質問に答えてるが、やはり俺のグローシアンとしての在り方は異端みたいだな。「もしかして、ミーシャちゃんは知らなかったの?」「うぇ?もしかして……皆は知ってたの?」カレンの問いに問いで返したミーシャ……それに返って来たのは全員の肯定だった。「アンタのことだから、シオンさんが説明してても『お兄さま♪』とか言って、ラルフさんやコイツを見てて聞いてなかったんじゃないの?」「酷いよティピちゃん!幾らアタシでもそこまでは…………もしかしてあの時……?……それともあの時……?まさかあの時なんてことは……」「……思い当たる節がありまくりじゃねぇか」ティピの言い分に反論しようとしたが、思い当たる節が多々あるミーシャは、妄想少女の名に恥じることなく思ったことを駄々洩れにし、そこをゼノスに突っ込まれる始末。これがミーシャクオリティだな……。これでヒゲに俺のこともバレた可能性大だが……だからどうした?って話だ。ヒゲはミーシャを使って監視するだろうが、手出しは出来ない。原作でもルイセをどうこう出来なかったしな。仮に手を出して来たら……火傷じゃ済まさないさ。そんなこんなで、俺のテレポートでラシェルへ。瞬時に到着する俺達……いやぁ、懐かしいな……あの子は元気かな?見舞いに来たかったけど、忙しくて中々顔出せなかったからな……。「確か向こうにお花畑が……」「あ、こら、ミーシャ!どこ行くのよ!?」ティピに怒鳴られながらも、気にせず走り去ってしまうミーシャ。「……もう、ミーシャったら……」「ルイセちゃん、あの娘、どこに行ったか心当たりある?」「ここにきれいなお花畑があるってよく言ってたから、たぶん、そこだと思う……」しゃあない、迎えに行くとしますか……後で迎えに来ても良いんだが、話の種にはミーシャって最適だからな。で、件の花畑へ向かう……改めて見ても綺麗なもんだな。こういう風景は嫌いじゃない。「ちょっと、ミーシャ!」「え?あ、みんな……もうお話終わったの?」ムカッ腹を立てて頭にバッテンマークを着けたティピ……略してムカッティピを見たからか、バツが悪そうに答えるミーシャ。「まったくこんな所で何してるのよ?」「お兄さまたちにこれをあげようと思って!」「わぁ、綺麗な花冠!」ルイセが言う様に中々綺麗な花冠だ。上手く編んであって、花が綺麗に揃っている。この短時間でこれだけの物を二つも編むとは……これもお兄さま愛のなせる技か。「……これを」「僕達に……?」「ハイ!カーマインお兄さま、ラルフお兄さま……受け取って貰えますか?」二人はお互いに見合い、フッ……と微笑んだ。まぁ、自分達のために精一杯作ってくれたんだ……この二人の性格上……。「ああ、ありがたく貰うよ……」「ありがとう、ミーシャちゃん」と、こうなる。流石は男前兄弟……。「それじゃ、アタシがお兄さまたちの頭の上に乗せてっと……まずはラルフお兄さまから♪」「僕かい?」ラルフは頭に届く様に屈んでやる……流石は御気遣いの紳士……。「似合うかな?」「とっても素敵ですぅ☆あぁ……幸せ♪」う〜ん、和気あいあいだ……だが、ティピのイライラがそろそろクライマックスだぞ?「それじゃあ、次はカーマインお兄さまに」ドゲシッ!!あ、無言のティピキック。「でぇ〜〜い!遊んでる時間はないの!!さっさと行くわよ!」「ティピちゃんのイケズ……」蹴られた頭を摩りながら、恨みがましい視線をティピに向けるミーシャ。カーマインは、それを哀れに思ったのか、自分から花冠を頭に乗せていた。「でもミーシャ、よくこんな場所を知ってたね」「えへへ、おじさまのお供で1度ここに来たことがあるんだ。その時にこの花畑を知ったの。アタシが住んでたメディス村にもね、こんなお花畑があるんだ。ここにいるとそれを思い出しちゃって……」嬉しそうに語り出したミーシャ……いわく、小さかった頃、両親を無くして悲しんでたミーシャに、学院長が車百合の花を渡して慰めたという。……それ以来、故郷の花畑は1番のお気に入りだとか……。……あのヒゲ……マジでどうにかしてやる……。この後、車百合の花言葉が【多才の人】という意味だということで、ティピが、ミーシャは【非才の人】だとからかったりしていた。お兄さまSに泣きついたミーシャに、「気にするな」的な言葉で慰めたお兄さまS。「うん、お兄さまたちがそういうなら、アタシ気にしない☆」と、言ったミーシャを見て……幸せなんだなぁ……とか何となく思ってしまったのも、仕方ないことだと思う。「そういえば、もう何年も家に帰ってなかったっけ。またあの花畑に行ってみたいなぁ……そろそろ花が咲いている季節だし」この後、今度暇な時には一緒に村に行こう……みたいな話になった。ミーシャが案内してくれるとか…………くそっ、あの腐れヒゲが……っ!「……シオン、メディス村に花畑なんてあったっけ?」「さてな……俺達が知らない場所にあるのかも知れないしな」……俺とラルフはメディス村にも行ったことがある……だからラルフが疑問に思うのも当然だろう。俺は適当に言葉を濁す。「それはともかく、お前、いつまでそれを着けてる気だ?」「だって、せっかくミーシャちゃんが作ってくれたんだからさ」まあ……良いがな。カーマインも着けてるんだし。で、あちこちで情報収拾……しかしめぼしい情報は得られず、とりあえずまだ行ってない保養所に向かうことに……何か歌について情報が掴めるかも知れないからな。そんな道中……。「今日は聞こえないなぁ」そんな独り言が聞こえてくる……どうやらあそこにいる女の子らしい。「どうしたの?」「あのね、風向きのいい時には東の森から、とっても綺麗な歌が聞こえて来るんだよ」ティピが声を掛けたら素直に答えてくれた。「それはいつ頃からだい?」「う〜ん、2〜3日くらい前からだよ」アリオストの質問にも答えてくれた女の子……二、三日前ってことは、俺達がコムスプリングスに居た頃か……。多分、ダニー・グレイズさんに話を聞いてた頃だな……。もう少し情報が欲しい俺達は保養所へ……しかし、原作では情報はカレンから聞いたんだが……カレンは今ここにいるしなぁ……誰から聞けるんだろう?アイリーンか?俺達は保養所の中に入る……看護婦とか医者とかが居たから、保養所と言うより病院というイメージなんだが……。足が不自由な人用の手摺りみたいな物もあるし、ただ、俺の世界の病院よりは暖かみがある感じ……そう言う意味では、まさに保養所だな。「さ、おじいさん。外はいい天気ですよ」「今日は聞こえんな……」「そうですね」こんな会話が聞こえて来た……看護婦さんとおじいさんの会話だ。言うまでもないかも知れないが、おじいさんは偉くムキムキな筋肉のガッチリした身体の持ち主……ウォレスの探し人である、ベルガー団長その人だ……ウォレスは…………気付いてないか。「ん?どうしたシオン?」「いや、ここの人に聞き込めば、歌のことが分かりそうだな……ってな?」ウォレスの問いはごまかす……俺が教えるのは不自然だしな……ウォレスが気付かないなら仕方ない……どちらにしろ、ゲヴェルが出てこないと意味はないしな……。