――夢を見ていた……。双子の兄弟と、幼なじみの女の子の物語……。双子の弟は、才能はソコソコに、でも勤勉で努力家で……。双子の兄貴は、才能は弟より優れ、ソコソコに勤勉で努力家だった。双子と女の子はお隣りさんで、三人は何処に行くのにも一緒で、いつも仲良く遊んでた――。そんな何処にでもある有り触れた物語……。――幼なじみの女の子は弟を応援した……何をするにも、兄貴が勝っていたからだ……。双子は女の子が好きだった……だから、弟ばかり応援されて、兄貴はショックだった。子供心に辛かったのだろうが、兄貴は努力した。きっと自分の努力が足りないから、認めてくれないんだって……。でも、努力は影でする物だ……そう兄貴は思っていた。そのほうが格好良いから!という陳腐な理由だったが。多分、当時見ていた特撮が影響したのかもしれないな……。普段は遊んで、ヘラヘラ笑いながら――影では誰よりも努力した。弟もずっと、努力し続けた。幼なじみの女の子も応援していた……。それでも仲良く三人は成長していった。――変だよな……そういう二人を見ていく内に、兄貴は二人がお似合いに見えて来た。けど、心は諦め切れないのか努力することは辞められずに……。本当、有りがちな話だと思う。ある時……双子と女の子が学生になった頃……。立派に成長した双子の兄貴と弟は大層モテた。弟はその努力と誠意あるところが……兄貴は社交的でみんなを引っ張る様なところが……。二人ともそれなりに男前だったしな。二人はそれを知っても、幼なじみの女の子への想いは消えなかった。ある時……兄貴は、思い切って想いを告げることにした。これで駄目なら……スッパリ諦めようと。未練がましい自分に、トドメを刺して欲しかったのかも知れない――。校舎の屋上に呼び出して……兄貴は想いを告げた。結果は予想だにしない物だった。OKを、貰ってしまった……自分も好きだったと……。兄貴は弟のことを持ち出した……だって、そうだろ?彼女は弟の応援しかしていなかった筈だ……いつも弟の近くに居た筈だ。そう言ったら、彼女は苦笑いを浮かべて言うんだ……双子の弟のことは、自分も弟くらいにしか見ていなかった……と。実は、最近弟にも告白されたらしい……それを断って現在に致る……と。それから二人は幼なじみの枠を越えて付き合いだした……弟も祝福してくれた。本当に心から……双子だからかなのか――そういうのは分かるんだ……だから、こっちが逆に申し訳なくなってしまう。そんな兄貴に、気にするなって言ってくれる弟は、本当に優しい奴なんだと思う……。これから幸せな時が続く……幼なじみの彼女と一緒に……そう思ってた。本当に有りがちで、有り触れた物語……。兄貴と彼女は初デートをすることにした……兄貴は一緒に家を出るつもりだったが、女の子は待ち合わせをしようって……デリカシーが無いって怒られたっけな……。一緒に出れば良かったんだ……なるべく長く一緒に居たいとか……そう言えば彼女は納得してくれた筈なんだ……。けど、二人は――別々に家を出た……。――双子の兄貴は大分早くに家を出た……彼女を待たせることはしたくなかったし、何より自分自身が楽しみだったからだ。当たり前だが、早く着き過ぎた兄貴は、彼女を待つことにした……。待つことは苦じゃなかった……今日のことを想うと、胸が弾むってやつだ。懸命に考えたデートプランを反芻し、想い描いた――。彼女は楽しんでくれるだろうか?緊張して醜態を曝したりしないだろうか――って。しかし……幾ら待っても彼女は来なかった……待ち合わせ時間を過ぎても……気になって携帯に電話しても、家に電話しても……彼女は出なかった。嫌な予感がした……言い知れぬ不安感……心臓が締め付けられる様な焦躁感……。兄貴は……俺は走り出した……彼女がここに来るなら、俺と同じルートを通る筈……行き違いになったなら後で謝れば良い……俺は走って走って走りまくった……息が切れそうになっても、足がガクガクになっても……走り続けた。晴れていたはずの空が曇り……雨が降り出した……それでも構わず走り続けた……俺は曲がり角を左に曲がった……。……そこには……。**********「っっ!!?」ガバッ!!「……ここは……」俺は辺りを見渡す…………そうだ、俺達はグレイズさんの話を聞いた後、取ってあった宿に泊まったんだっけな……。「……にしても、何でこんな夢を……」俺にとっては、懐かしくもあり、幸せでもあり……絶望を知った時の夢を……。「……もう、吹っ切れた筈だったのに……」俺はベットから起き上がり、部屋を出る。体が汗だらけだからな……せっかく温泉に来てるんだから、汗を流すのも良いだろう。このままじゃ眠れないしな……。俺は密かに持ち込んでおいた物も持っていく。で、風呂場に来た。都合よく誰もいない……シメシメだぜ……。俺は服を脱ぎ、風呂場に入る。あ、ちなみに闘技場で装備していた鎧……ブレストプレートはゼノスに壊されてしまった為、着けているのはデュエルガードというジャケットタイプの装備だ。なんでもグローシアン支配時代、決闘をする際に着た物だとされているが……ちなみにカーマインみたいに特殊な着方はせず、エリオットみたいに普通に着てます。そんなことはどうでも良いか。俺は隠し持っていたアイテム……お盆と徳利……そして日本酒を常備して――。で。「くあぁっ!!たまらんぜぇ!!」俺は風呂に入りながら、おちょこのポン酒をキュッと一口……あ〜〜、この一杯のために生きてるぜっ!!とか、リーマン時代は言いながら飲んでたわけよ。懐かしいねぇ……あ、このポン酒?妖魔刀(形状はまんま日本刀)という武器があることから分かる様に、この世界には日本的な文化や、技術が伝わっている――。徳利も骨董品店で仕入れた物だ。ならば、日本酒があっても不思議では無いだろう――。考えてみれば、カーマインが領地を貰った時に、和食レストランとかも作れた筈だから、ポン酒があるのも当たり前っちゃ当たり前なんだがな。――コムスプリングスに来た時は、絶対やりたかったことなんだが……。遊びに来てた時はまだ子供だったし、ポン酒があることを知ったのは旅に出てからだったしなぁ……。ちなみに、シャドーナイトの動向を探りに来た時は、本当に温泉には入らなかった。遊びじゃなかったしな。「正確には【日本酒】では無いんだが……作り方や材料も同じみたいだから、ポン酒で良いだろ?」俺は再び徳利からおちょこに注ぎ一口……くぅぅ!美味い!!しかもデッカイお月様を眺めながらの月見酒……風流だろう?あ、良い子のみんなは真似すんなよ?血圧高い人もな?倒れても知らないぜ?ん?誰か来たな……気配がする。まぁ、店員でもない限り目くじらを立てられることも無いだろ?シュル……。きぬ擦れの音がする……って、野郎の脱ぐ音にきぬ擦れとか言う表現はダウトだな……キショイ。要は客ってことだな……誰か起きて来たのかね?「これが女の子だったらね〜……オッサン辛抱堪らなくなっちまうのにぃ〜……いや、全力で逃げるけどな、実際は」いかんなぁ〜……酒が入ると独り言が多くなっちまうな……ミーシャじゃあるまいし。……独り言でも言ってなきゃ、さっき見た夢を思い返しちまいそうで……。「っと、イカンイカン……せっかく楽しく飲んでるってのに……そうだ、今から入ってくる奴を巻きこんじまおう、一人で飲むよりソッチの方が楽しそうだ……俺のネゴシエーションを甘く見るなよ?あのフェザリアンを動かしたくらいなんだぜ?」とりあえず、入って来た所を俺から話し掛ける……。そこから主導権を一気にコチラに持って行き、そして……!お、入って来たな……足音がする。ヒタヒタという素足独特の足音……まだだ、もう少し引き付けてから……もう少し……もう少し………今だっ!「よう、アンタも一杯どうだ……い……」「え……シオン、さん……?」…………………。………………。……………。…………。………。あ、ありのまま起こったことを話すぜ!!温泉で酒を飲んでたら客が入って来て、見たらそれは肌色が眩しい姿のカレンだった……。頭が変になりそうだ……。のぞきとかハプニングとか、そんなチャチなもんじゃ断じてない……もっと恐ろしいモノの片鱗を味わったぜ……。…………ほわい?「………ッ!!!」俺は立ち上がろう……としたが、当然下にタオルなんか着けていない。タオルは頭の上だ。なので、俺は顔を前に向ける……てか、何で!?「かかか、カレン!?な、何で男湯にっ!!?」「え、あああ、あの……外、女湯になってて……そのっ……!」何ぃ!?まさか……時間帯ごとに男湯と女湯をチェンジするシステムか!?それなら店員確認しろよ!怠慢だぞ!!いや、店員がカウンターから奥に引っ込むのを見計らって移動したが……普通脱衣所くらい確認するだろうよ!?さっきチラッと見てしまったカレンの姿……髪は完全に降ろしてあり、リボンも取ってある……前を軽くタオルで押さえてるだけで後は……タオルから体の形がくっきり………だああああぁぁぁぁ!?思い浮かべるなぁ!!くっ……絶対記憶能力が憎い!!忘れられんではないか!!忘れられんではないか!!大事なことなので二回言いました……って、落ち着け俺ぇ!!?「ゴメン!気付かなかった!!すぐ上がるからっ!!」酒とかそのままだが、気にしてる場合じゃない!!このままじゃあ……「ま、待って下さい!!」うぐっ!?な、なんでせうか……?あれか?訴訟ですか?タイーホですか?………ちゃぽん。は?「……何、してんの……?」「ああ、あの……わ、私のことは気にしないでください……」気にするでしょうよぉぉ!?しかも何で俺の隣だよ!?「宜しければ……このまま一緒に……」チラッとカレンの顔を見る……真っ赤だ……恥ずかしいなら止めりゃあ良いのに……!?見てない!見てないぞ!!デカメロンみたいな膨らみなんか見てないぞ!?煩悩退散!煩悩退散!!喝!!!俺は視線を反らす……ヤバイ……俺のガメラが怒髪天に……落ち着け、素数だ……素数を数えry「ど、どうして……カレンはこんな時間に?」「その……眠れなくて……シ、シオンさんは?」「まぁ……俺も似たようなもんだ……」「……そ、そうですか」…………………。か、会話が続かない……あぁ!!誰か!?俺に力を貸してくれ!!ふと、リーマン時代の悪友が浮かぶ……何か、何かアイディアをくれ!!奴は笑顔でこう言いやがった……MO・GE・RO☆更にファックユーのオマケつき。とりあえず心の中で、再起不能なまでにボコッておいたが、問題は何も解決していない。ふにょん♪「!?か…カレン、その……当たってるんだが?」「あ!ご、ゴメンなさい!!その……えっと……嫌です…か?」「はいっ!?嫌も何も……むしろ気持ち良…ゴフンゴフン!!うら若き乙女が……こんなことしちゃイカンですよ!?」というか、ガメラが完全に怒髪天!?これじゃ出るに出れねぇ!?「……こんなことするの……シオンさんにだけです……」「うぇ…?」どういう……意味だ……?「……シオンさん……私……」カレンの視線を感じる……俺はカレンの方へ顔を向ける。……俺を真っ直ぐに見詰める眼……。上気して赤く染まった頬……。オッサン……勘違いしちまうぞ?……良いのか?幾ら俺だって、こんな状況じゃあ……。『ゴメンね……約束……守れなく……て……』!!?フラッシュバックした光景は……あの時の……。俺は……俺は……。「……?シオンさん……?」「え…あ…!?か、カレン!?な、なんでここに!?」俺は風呂に入って酒を飲んで…それから?どうしたんだっけ…?いや、つーか、この状況は何だってのさぁ!?