俺はカーマイン達を見送った後、ジュリアンと二人きりになる。――どうしても、聞いておきたいことがあったからだ。少し移動して、人気のない場所に来たんだが。「どうしたのですか?マイ・マスター?その……私に話とは?」「……言葉遣いが変わってるぞ?」「も、申し訳ありま……コホン!すまない……それで、話とは?」ジュリアは言葉遣いを直す……どこで誰が聞いてるか分からないからな……と、言うか偉く上機嫌だな……そんなにプレゼントを気に入ってくれたんだろうか?さっきから時折、ペンダントを弄っている。「ジュリアンに聞きたいことがあってな……聞かれて楽しいことじゃないんだが……」「……それはまた意味深だな……何なんだ?」これを聞けば、ジュリアは迷うだろうか……それとも、嫌悪感を示すだろうか……どちらにしろ、良い返事は期待出来ないか……。「ジュリアンがインペリアルナイトになって……国に仕える様になった時……もし、俺が何らかの理由でバーンシュタインと敵対することになったら……お前は、どうする?」「え……?」そう、気になるのはそれだ。今回のリシャールは正気だったみたいだが、直ぐにゲヴェルの傀儡に戻っちまう筈……リシャールを通して今回の戦いを……いや、今回だけじゃない。カーマインやラルフを通しても見ていた筈だ……故にこちらの情報はゲヴェルに筒抜けであり、ゲヴェルにとって、俺が最も危険な相手だと認識されている筈……。だからこそ、リシャールを通して俺を抹殺しようとする可能性がある……それがなくとも、反乱は起こされる。ならば……ジュリアンと俺が戦う可能性は少なくない……。俺が国に戻れば良いだけの話に聞こえるかも知れないが、そうなると俺の目的であるパワーストーンフラグを折ることは出来ない。ラルフも、一緒に戻ろうとする可能性も捨て切れないが、カーマインパーティーに残ってもらえれば、ルイセがいるから問題は無い筈。……結局のところ、二者択一しか俺には出来ない……幾ら人外染みた力を持っていても、な。国も家族も大事だ……今の俺にとっては掛け替えの無いものだ……だが、今の仲間も俺にとっては同様だ。だからジュリアンに聞いておきたかった……俺達……いや、俺の敵になるのか?……と。原作の通りなら、迷いなく言い切るのだろうな。「な、何をたわけたことを……そんなこと、あるはずが」「仮にだって。まぁ、国に仕える騎士になるんだ……答えるまでもないか」原作では、ジュリアンは迷いながらも決意を胸にカーマイン達と敵対した。戦う度に迷いは強くなっていった様だが……。ならば今回も……。「馬鹿にしないで戴きたい……ナイトになるということは、国に剣を捧げるということ……例え貴方と敵対することになろうと、私は……」「……口調がまた変わって」「――しかし、それは意味なき反逆の場合の話です」その瞳に宿るのは揺るぎなき決意……紡ぐ言葉は偽りなき信念。「貴方が意味も無く、そんなことをするとは思えません……剣は国に捧げますが、この身体と心は……貴方の物です……!貴方に真実があるというならば、私は貴方に従います」ジュリアは顔を赤く染め、瞳を潤ませながら俺に告げる。つーか、端から聞くとコレ……ジュリアフラグ?いやだからオッサン勘違いしちまうって!!?「その〜……なんだ……仮に、の話だぞ?」「あ……そ、そうですよね?ははは……私としたことがその……」「口調、口調」まぁ……幸い近くには気配は感じないから、良いんだがな。「す、すまない……しかし、シオンも人が悪いな……そんな質問をするだなんて」「まぁ、今は平和な世の中だが……騎士なら最悪の事態も想定しないとな?」ジュリアはああ言ってくれたが、実際に部下を持つ立場になれば、ジュリアの性格上、部下を置いてはいけまい――。「そうか……シオンは私の気を引き締めようとしてくれたのだな……すまないな」いや、違うんだが……勘違いしてくれてるなら、そのほうが良いか。「改めて言うが……頑張れよ?俺が帰国するまでにはナイトになってろよ?」「ああ、約束しよう……貴方に戴いたこのペンダントに誓って……必ず……!」互いに握手を交わす……青春を感じるんだが、なんかピンクな感じに感じてしまうのは……イカンイカン!!煩悩退散!煩悩退散!喝!!その後、俺とジュリアは待っていたカーマイン達と合流……ジュリアとはそこで別れる……お互いの再会を信じて。「さて、野暮用も済んだし、あとはコムスプリングスに行ってフェザリアンの話を聞き出すだけか」「シオンさん、肝心なことが抜けてるんじゃない?」ティピの質問に、俺は首を傾げる。「何かあったっけ?」「もう!ゼノスさんに毒を飲ませようとした犯人について……だよ!!」「冗談だよ!ちゃんと覚えていたんだな?」一般常識とかは直ぐに忘れるのにな……。「立ち話もなんだから、俺の家に行こうぜ?」ゼノスの提案に頷いた俺達は、ゼノスの家で話しをする。そこで、俺とラルフは旅の道中、集められる限り集めた、知り得る限りの情報を皆に話す。バーンシュタイン王国には影の実行部隊である、シャドーナイトが存在すること。奴らのやり口、その特性……。そのシャドーナイトが、人員補給の為に優秀な人材に唾をつけていたこと。その中にゼノスの存在があったことが挙げられる。「ちなみに、サンドラ様の魔導書を盗んだのも奴らだ」「あの時の……!?」「だが解せんな……すると研究書はバーンシュタイン王国が盗ませたことになる……だが、一体それが何の得になる?」「その辺は僕達にも分かりません……ただ、奴らが動いたのは事実です」ウォレスの疑問に答えるラルフ……俺はまぁ、『原作知識』があるから――ある程度は理解しているが……流石にコレは言えないしな。「あの盗賊連中もシャドーナイトに雇われた奴らでな……カレンを拐おうとしたのは、妹を人質にしてゼノスに言うことを聞かせようとしたんだろうな」「そうだったんですか……」「今回……俺に化けて接触してきたのは……?」「大方、仲間であるカーマインに不信感を抱かせる為だろうさ……そして、そこを上手く丸め込もうとしたって所だろう」俺はカーマインに説明してやる……。まぁ、本来は更にカレンを毒に冒し、それを助けて恩を売るという自作自演効果をプラスしようという腹だったみたいだが……俺がその企みを粉砕しちまったからな。「くっ……そんなことの為にカレンを……許せねぇ!!」「とは言え、僕らの掴んだ情報はこれくらいしか無くて……」殆ど証拠を残さない奴らを相手に、コレだけの情報を得られたんだ……むしろ褒めてくださいな。「影の実行部隊……シャドーナイトか」「今すぐどうこうって話じゃない……ただ、頭の中には留めておいてくれ」俺は皆にそう言い渡す……すると一様に皆が頷いた。俺はそこでシャドーナイトの話を締める。とりあえず、今言えることは全て話したからな。そして俺達は早速コムスプリングスへ……と、その前に。魔法学院に向かうことに。確かにテレポートで行けるが、一応、顔を出しておかないと、色々面倒なことになりかねない。なので、通行許可証を受け取りに来た。せっかくだから、アリオストを呼んでやろうと言う理由もある。ルイセのテレポートにて魔法学院に……さて、まずはヒゲに顔を出してそれから――。「お兄さま〜っ!」タタタタタタタ……!「お仕事大変ですね。何かあったら、遠慮なく呼んでくださいね。それじゃ、失礼します」タタタタタタタ………!「何なのかしら、あの娘……」「……さあ?」これは何か?自分も連れていけ……とかそういうことか?まぁ、ミーシャの件は一旦置いておいて……先ずはクソヒゲに謁見申し上げるとしますか。「失礼します」「おお、来たな。君たちが優勝するとは思わなかったわい………これが通行証だ」奥から通行証を持ってきて、それを手渡して来た。「では、失礼します」ルイセが応対し、そのまま部屋を退室――。「そうそう!言い忘れる所だった。旅行が終わったら、その通行手形はわしに返してくれ。数に限りがあるんだよ」「まったくセコいわねぇ……」「いいじゃない、ティピ。別にそれほど面倒なわけじゃないし……」俺かルイセがいればテレポート出来るしな?「それじゃ、忘れずに頼むよ」そうして俺達は学院長室を後にした……で、入口前で。「待ってよ〜!」「ミーシャ!」やっぱり来たか……ミーシャが大急ぎで走って来た。「温泉に行くんだって?」「どうして知ってるの?」「闘技大会で優勝したって聞いたよ?」「結構広まってるのね」いや、幾らなんでもこんなに早く広まるわけ無いだろ?この世界にテレビみたいな情報媒体があるなら、話は別だが……今はせいぜいグランシル内でしか話題にはなっていないだろう……外に情報が伝わるには、まだ幾らか時間が掛かる筈。「だってお兄さまたちのことだもん☆」「ハ…ハハ……」「相変わらず独特のテンションだな……この娘は」「なんか、馴れたらあまり気になんねぇもんだな」渇いた笑いを浮かべるティピ、もはや呆れを通り越して感心しているウォレス、もう馴れたというゼノス……これが真実なら、ワザワザ闘技大会に観戦しに来たことになる………なんか、違和感無いな。【お兄さまLOVE】という鉢巻きを付けて、旗を振りながら応援してる姿がすんなり頭に浮かんだ……これがミーシャクオリティか。「で、ご一緒していいでしょ?」「え〜っ?」うわ、ティピ嫌そう……まぁ、気持ちは分からなくはない。「9名様までOKって聞いたけど」「はぁ!?」「うそっ!?」俺とティピは、ほぼ同時に声を上げる。待て、原作では確か5名様だった筈だぞ!?俺は貰った旅券を見る……そこには。「……本当だ。9名までって書いてある」……どういうことだ?俺が存在することによる弊害か……?原作と現実の差異か?これも宇宙意思の御導き……って奴か?俺が思考の海に沈む中、とんとん拍子で話が進んでいく。学院長がミーシャの身元引受人で、ミーシャがおじ様と呼んでいること……なんかも説明された。「どうするの、シオンさん?」「え……あ、何が?」「ミーシャちゃんを連れていくか?だよ。優勝したのはシオンとカレンさんなんだから……」「カレンは良いのか?」「私は構いません。大勢の方が賑やかで、良いと思いますよ?」つまり俺に決めろってか?……むぅ、何だか分からないが、旅券の使用人数も変わっていたし……俺がテレポートを使う意味がほぼ無くなったんだよな?ヒゲは嫌いだが、ミーシャは嫌いじゃないし……俺がグローシアンであることを告げなければ……いや、むしろ俺がグローシアンであることをバラすのもありかもな……どちらにしろ、今すぐさして状況が変わる訳でも無し……なら。「ああ、良いんじゃないか?旅は道連れ世は情け……とも言うからな。カレンの言う様に、大勢の方が楽しいだろうしな?」「やったぁ♪ありがとう、シオンさん♪」「よかったね、ミーシャ」「うん!向こうに行ったら、お背中、流しっこしようね♪」平和だねぇ…裏にヒゲの打算が無ければ、オッサンも素直に頷くんだがねぇ……。……よもや、女風呂を覗く為にミーシャを寄越した訳ではあるまいな……あのヒゲ。