どうも――シオンです。今、俺はグランシルの闘技場に居ます。観客としてでは無く、一出場選手として――です。それは良いのですが……俺の目的の一つでしたし。……眼の前には大剣を構え、金色の手甲に白いプレートメイルを着込んだ男が――殺意すら篭った眼で俺を睨み付けて来て……おっかない……めがっさおっかないお兄さんと対峙しています。「貴様にカレンは渡さんぞっ!!どうしてもと言うなら、俺を倒してからにするんだな!!」何でこんなことに…………orzん?何でこんなに頭が痛たくなる状況になってるかと言うと……だ。「知るかっつーの、この妹魂(シスコン)野郎め――っ」これが今の俺の素直な気持ち……これで理解出来る……ワケもないよな?これでは話が進まないので、何故こうなったか思い返してみよう。あんまり、思い出したくは――無いんだけどな……。※※※※※※※※※宿に着いてから、それなりに疲れが溜まっていたのだろう――それぞれ、くたばる様に惰眠を貪った後……。「ん〜!!……今日はいい天気だなぁ……絶好の商売日和だ!」いやラルフ君?商売日和ってなんぞ?まぁ、確かに天気は良いけどね。「確かに天気は良いがな…さって、先ずは闘技場かな」俺がグランシルを訪れた大きな理由として、闘技場での戦いが挙げられる。俺のラーニング能力を有効活用する為には――戦う必要がある。ラルフや父上などと訓練した結果、色々とラーニングをしたが、まだまだ覚える余地はある。そんな訳で闘技場。質はともかく量なら凄い。何しろ、大陸中から猛者という名の暇人が集っているのだから。まぁ、一攫千金を狙ったり、レアなアイテムを手に入れる為に参加する連中も、中には居るみたいだが。というか、そう言うのが大半だろうな――。俺の様に修行目的――なんてのはかなり珍しい――酔狂な部類に入るのだろう。「うーん……僕は武具や、アイテムの仕入れ値の相場なんかを調べたいんだけれど……」と、ラルフはおっしゃる。いやね?このグランシル全体をグローシュ波動で覆うことは造作も無いので、別行動しても良いんだが……。「仕方ねぇな……んじゃ、俺も付き合うぜ。それが終わったら闘技場な?」念には念を…ってな?「ありがとう……」ラルフは眩しさ満開なナイス微笑みを俺に向けてくる。止めて!そんな純粋な微笑みを俺に向けないで!!溶けるっ!溶けてしまうぅぅっ!!その後。俺とラルフは店をあちこち梯子した。商品の相場、質、流通ルート、etc……。そんな中で街の郊外に薬草が生えてる場所があるという話を聞いた。ラルフは、その薬草の群生地を見たかったらしいので――当然の様に俺も同行した。薬草……街の郊外……橋……まさか、な?確かに、『原作』で彼女とカーマインが再会する場所ではあるが――。原作開始まで、まだまだ時間があるし……そう容易く、エンカウントしたりはしないだろう?そう考えながらその場所に向かう。「きゃあっ!?」……って、おいおいこの声は!?「悲鳴っ!?」「行くぞ!!」絹を裂くような女性の悲鳴――俺とラルフは直ぐ様駆け出すっ!!――俺が若干ラルフから先行する形となり――前方に人影を捕らえた。長い綺麗なブロンドヘアと、コアラの耳の様に纏めた髪。間違いなく彼女だ……ってぇ!?モンスターに囲まれてるやんっ!?「先に行くぞ!」ラルフにそう告げ、背中の鞘から大剣を抜き放ち、この身を加速させる。この身は風の壁を突き破り、一陣の疾風(かぜ)となる!今にも、彼女に襲い掛かりそうなモンスター……リザードマンが眼前にまで迫った。そいつを光速の一撃にて切り捨てる。モンスターは、断末魔の悲鳴を上げる間もなく真っ二つとなる。俺は、彼女を守る様に――彼女の矢面に立ち止まり、残ったモンスター達を睨み付ける。それに怯んだのか、モンスター達の動きが止まる。「大丈夫か?」俺は背後に視線だけを向けて、そう尋ねた。※※※※※※※※今日、私は日課にもなっている薬草集めに出掛けた。家を出る時に兄が……。「また、薬草取りか?最近あの辺りも、モンスターが出る様になったからな。もうそろそろ控えた方が良いんじゃないか?」そう、言ってきた。「もう、兄さんったら……少し足りない薬草があるだけだから……直ぐに戻ってくるわよ」心配をしてくれるのは嬉しいけれど、私も――もう17歳なんだから……子供扱いはしないで欲しいなぁ――。そして、私は何時もの場所に向かう。グランシルの南の出入口を通って行く――。眼の前には橋がある……この橋を越えた先にモンスターは棲息している。何故かは分からないけれど、橋を挟んだコチラ側には滅多にモンスターは現れない。モンスターは人の匂いに敏感だと言うし、街の周辺は在中の警備兵の人が、定期的に見廻りをしてくれているから――当然なのかも。だから、兄さんの忠告を聞いていたにも関わらず……『この場所は安全だ』――そう、私は考えていた。「それじゃあ、早速採取しようかな」少しでも遅くなったら、兄さんが心配するしね♪「あ、この薬草……こんな所にも生えてたんだぁ……採取しとこう。これも丁度少なくなってきていたし」私は薬草採取に没頭する。兄さんの忠告は、次第に頭の隅に追いやられて行き……。それから暫くして……。「うん♪これくらい有れば良いかな♪」私は収穫内容に満足し、荷物を纏める。これだけ有れば、兄さんが怪我して帰って来ても――ちゃんと治してあげられる。「少し時間掛かっちゃったなぁ……兄さん心配してるかしら……」――心配しているだろう。兄さんは、凄く私を大切にしてくれている。私が唯一の家族で血の繋がった妹だから……。「……妹、かぁ……」兄さんは私をただの妹としてしか、見ていないんだろうなぁ……兄さん、鈍感だから……。「……わかってるんだけどなぁ……」この想いが――抱いてはいけない物だってことは……。けれど、それでも……私は……。――そんなことを、考えてたからだろうか?「え……?」ガサッ……。草木が動いたかと思うと、そこから現れたのは二足歩行の蜥蜴男…リザードマン。「!モ、モンスター!?」そんな…!こっち側までモンスターが来てるなんて…っ!!私は一歩、後退る。けれど、私は更にやって来た――他のモンスターに囲まれてしまう。「あ……あ……っ」私はまた更に、一歩後退る……。けれど――。「きゃあっ!?」石に躓いた私は、その場に尻餅を着いてしまう……た、立たなきゃ……!「痛っ!?」右足から痛みが走る……今ので、くじいてしまったのだろうか……?「GISYAAAAAAA!!!」そこに一匹のリザードマンが襲い掛かってくる。その剣を振り上げ、私を切り裂くつもりなのだろう……。「い、や……だれ、か……」(……嫌だ……誰か……助けて………兄さんっ!!!)恐怖から、助けを呼ぶ声すら挙げられず――。私は思わず眼を閉じる……最愛の兄に、助けを求め……。ドサッ……。……………?いつまで待っても、私に降りかかる筈の、刃が届かない――それに、何かの音が……。ゆっくり眼を見開くと――そこには、私を守る様に立つ男の人が居た……。「…兄、さん…?」一瞬、兄さんと見間違えた――でも、よく見ると違う……この人の鎧と武器――剣が、兄さんの使ってる物と似ているから、見間違えたのかな………?その人は、兄さんと比べたら幾分背が小さい……けど、何故か凄く大きく見えた――。兄さんより、筋肉質な身体をしていない……けど、細身なだけで筋肉はしっかり付いてるみたいで……。それに……輝く様に綺麗な、銀色の髪……澄んだ蒼い瞳……何と言うか……凄く、綺麗な人……。「大丈夫か?」眼の前の男の人が、気遣うように尋ねて来た。「は、ハイ!大丈夫です!」その男の人に見取れていた私は、慌てて返事を返してしまった……う〜……なんか恥ずかしい……。※※※※※※※※Side:シオンなんだ?顔が赤いぞカレンさん?なんつーか……イイな。艶の中に愛らしさがあると言うか……まだ、原作よりも可愛らしさが強い感じか?今が、原作開始より三年前だから……カレンさんは17か。なら、無理も無いか?つか、カレンさんで――良いんだよな?「――っと、今は先ず……オイお前ら……尻尾巻いて逃げるなら――見逃してやるぜ?」更に殺気をぶつける。その殺気を受け、モンスター達は震えている……。野性に生きる者だからこそ、彼我の実力差を理解出来るのだろうか?蜘蛛の子を散らす様に逃げ出すのに、さして時間は掛からなかった。「おーーいっ!!」そこにラルフが駆け付けてくる。「遅いぜラルフ」「シオンが早過ぎるんだよ……いや、僕が遅過ぎるのか……」肩で息をしながら、何故か――自身の力の無さを軽く嘆いているラルフを見て、『相変わらず生真面目な奴だなぁ……』と苦笑しつつ――。俺は剣を鞘に納め、カレンさんに手を差し出す。「怪我は無いかい?」「あの……貴方達は?」俺の手を掴むかどうか、迷っているのか……手を差し出しかけながらも、困惑した表情で尋ねてくる。俺は一回手を引っ込める。先ずは自己紹介が先、かな?「あ〜、自己紹介がまだだったっけな。俺はシオン。旅の剣士……と言った所かな?」「僕はラルフ、旅の商人です」「私はカレンと言います……危ない所を助けて戴いて、ありがとうございます」ぺこりとカレンさんは頭を下げる。実に礼儀正しい。「いやいや、たまたま通り掛かっただけだし……無事で何より何より♪」「僕は何もしていないんですけどね」俺はカラカラと笑い、ラルフは苦笑いだ。「それで……カレンさん?立てるかな?」俺は再び手を差し出す。カレンさんは赤くなりながらも、今度は俺の手を掴んでくれた。「はい、ありがとうございま……痛っ!?」カレンさんは立ち上がろうとしたが、再びうずくまってしまう。……足を怪我しているのか?「ちょいと失礼」「あっ……」屈んでカレンさんの足を取り、様子を見る。足首が腫れてる……これは捻挫か?歩くのは辛いのかもしれないな……。「よし……ハイ、どうぞ」「えっ…あの…」俺は、カレンさんに背を向けて屈む。「ほら乗って。家までおぶっていくから」「えっ!え〜〜〜〜〜っ!?」カレンさんは、真っ赤になって悲鳴じみた声を上げる……って何故?いきなりプリンセス抱っこした訳でも無し……いや、やるつもりは無いけどな――プリンセス抱っこ。あんなのは、カリスマBランク以上の特権です。俺みたいな奴には無縁の産物です。もしやったら、セクハラでタイーホされてしまう。……どうでも良いが、はわはわしてるカレンさん、可愛いな。「歩くの辛いんだろ?こうして出会ったのも何かの縁だ。頼ってくれると嬉しいんだが――」そう言ってカレンさんを促す……やっぱり会ったばかりの奴を頼るなんて、無理かな?とか思ってたら、怖ず怖ずと手を伸ばして来てくれた。それは、俺を頼ってくれたってことで――素直に嬉しい。「よしっ!それじゃあ案内してくれ」「は……ハイ」カレンさんを背負って立ち上がる……女の子特有の甘い香りが鼻を擽る――。良い匂いだなぁ……って!違う!!鎧を着けてたから、カレンさんのふくよかな胸の感触を味わえ無かったのが良かったやら残念やら……。――いかんいかん!煩悩退散!煩悩退散!喝っ!かぁぁつっ!!「んじゃ、行こうぜラルフ」「分かったよ」流石に怪我人を抱えながら、薬草の群生地を見ると言うのは常識的にアレなので、カレンさんを自宅に送り届けることにした。(そういや……回復魔法を使えば良かったんとちゃうけ?)最近、使わなかったしなぁ……てか、このタイミングでそれを思い出すとかどんだけ〜……。俺はこの時……自分が回復魔法を使えることを失念していたことに――激しく後悔した……。と言うか、ラルフも確か回復魔法が使えた筈だし、回復薬も常備している。カレンさんもこの段階でキュアが使えた筈――か、どうかは分からんな。確かにキュアは、カレンさんの初期習得魔法だが――アレは今から三年後の話だしな。もしかしたら、カレンさんはまだ魔法が使えないのかも知れない。――まぁ、カレンさんは何故かテンパっていたので、どちらにしろ気付かなかっただろうから、仕方がないけど――我ながら何と言う迂闊……。キュアなり、ヒーリングなりを掛けて、カレンさんに歩いて貰えば良かったのだ。そうすれば……。「カレェェェンッ!!大丈夫かっ!!」こんなことにはならなかったのに……。「あ」「?」「…………」「…に、兄さん?」上から俺、ラルフ、ゼノっさんと思われる男性、カレンさんとなっております。「……え〜っとぉ……」何か、ヤバイ感じがするなぁ〜……確かゼノスってかなりのシスコンだったような……でも、話せば分かってくれる様な人だった筈……だよな?「――兄さん?この人、カレンさんの「貴様ァアアアアッ!!カレンをどうするつもりだぁぁぁぁぁ!!!」――あっるぇぇぇぇぇ!?」ちょっ待っ……って!!この人剣を抜きましたよ!?超弩級の弩シスコン――『妹魂』ですか!?アンタは二次創作使用の高町家長男かっ!?――二次創作の某白い魔王のお兄さんは、よく妹魂扱いされるが――実際はそこまで重度では無い。って、現実逃避している場合じゃねーか……。「待って兄さん!!この人達は私を助けてくれたの!!」「な、何?」カレンさんが説明をしてくれる。薬草採取中にモンスターの群れに襲われたこと……。あわやの所で俺が駆け付けたこと。足をくじいて歩けないこと等。「そ、そうだったのか…すまない、俺の早合点だった……危うく妹の命の恩人に切り掛かっちまうとこだった……」剣を収め、俺達に頭を下げて来たゼノっさん。やれやれ……穏便に済んで何より。俺達はその後、ゼノスさんの家に招待された。ゼノスさんが言うには……。「妹の恩人をただで返す訳には行かないぜ。っていうか、勘違いして切り掛かっちまっうとこだったしな……借りを作りっぱなしってのは性にあわねーんだ。少しは返させてくれ」ということだそうだ。ゼノっさん……なんて義理堅いんだよアンタ。これがゼノスの良いところなんだろうな……まぁ、その義理堅さに付け込まれて、シャドーナイツに引き込まれるんだから…皮肉と言えば皮肉だよな……。あ、ちなみにカレンさんには回復魔法を掛けてあげましたよ。何時までも、俺におぶられてるのは良い気分はしないだろうし、何より俺の煩悩が刺激されて大変よろしくない。煩悩全開しても、どこぞの煩悩少年みたいにパゥワァは上がりませんよ、俺は。念の為に、ヒーリングを掛けてから立たせてあげました。一瞬、カレンさんが残念そうな顔をした様な気がしたが……ま、気のせいだろ。そんなこんなで、ゼノスさん宅に上がらせて戴きました。間取りなんかもしっかりした作りです。ゲームには無かったんですが、ゼノスさんの部屋とかもあるらしいです。そりゃあそうだよなぁ……幾ら傭兵とかを生業にしてるっつっても、実家に部屋くらいあるわな。でなきゃあ、妹と同衾とかになっちまう……。背徳の香りがプンプンします。まぁ、実際には血の繋がりは無いんだし有り……なのか?あのフォルスマイヤー兄妹も部屋は別々だし。で、俺達は今――テーブルに座っております。お茶なんか出されたりしてます。お紅茶でございます。「自己紹介が遅れたな…俺はゼノス。ゼノス・ラングレーだ。傭兵をやってる。んで、もう知ってると思うがこっちが妹の……」「カレン・ラングレーです。改めて、先程はありがとうございました」カレンさんが深々と頭を下げてくる。「いやいや、頭を上げてくださいなカレンさん。あ、俺はシオンです。旅の剣士とでも言えば良いのかな?」「僕はラルフと言います。旅の商人…いえ、商人見習いです」俺達はそう自己紹介する。ちなみに俺達が互いのファミリーネームを名乗らない理由は、有り体に言えば有名過ぎるからだ。インペリアルナイトを父に持つ俺は言うに及ばず、ラルフの家――ハウエル家のネームバリューは凄まじい。大陸一の豪商、その名は大陸全土に轟いているらしい。原作でもウォレスがそんなことを言っていたからな……間違い無いだろう。「へー…剣士に商人か…変わった組み合わせだが、二人ともかなりの腕前みたいだな?闘技大会…は今の時期じゃないな」年に一回行われる闘技大会……しかし今は時期が違う。つーか一目見ただけで実力の片鱗を掴むとか、この人も大概だな……俺は大幅に力を抑えてるけど。「フリーの部門があるだろう?そっちに出るつもりさ」一対一で、三戦三勝したら勝ち上がり――次のランクに上がるというシステム。ちなみに殺しはご法度……事故という場合はあるが基本、故意の殺害は反則負け。また、出場登録者以外にも闘技場側が魔物なども用意しており、出場選手扱いで出てくる。この魔物も殺すのはご法度。「僕は付き添いみたいな物です……仮に出場しても、彼と鉢合わせたら目も当てらませんから」コラコラ、そんな大袈裟に言うんじゃない。コレでも、ちゃんと加減してるんだから。「そんなに強いのか?それは一度手合わせしてみたいもんだな……と、そうだ!まだ、飯食ってないだろ?良かったら食っていけよ」貴方そんなにバトルマニアでしたっけ?って飯だとぅ!!?これはつまり……。「よろしいんですか?」「あぁ構わねぇぜ?てか、実は最初からそのつもりだったしな」ゼノスの手料理フラグキタコレッ!!つまりそうなると……。「そんじゃ待っててくれ!今、美味いのを作るからな?」ゼノスは張り切りながら台所があると思われる場所に向かっていった。「あ、あの…カレンさん?」「?何でしょうか、ラルフさん」「料理を作るのは……もしかしてゼノスさん……なんでしょうか?」やっぱりそうだよなぁ…普通は『逆だろ!?』とか思うよな?だがなラルフ君。これくらいで驚いてたら、多分……身が持たないぜ?「ええ♪兄は凄く料理が上手なんですよ♪」「そ、そうですか」「それはそれは、楽しみですな♪期待しながら待ちますかね」ラルフは少し引き攣った笑みを浮かべ、俺は期待しながら待った……出オチ的な意味でも。その後、しばらく俺達は談話しながら時を過ごした……なんかカレンさんがチラチラこちらを見てくるが、もしやラルフに父親の面影でも感じ取ったか?心なしか俺の方を見てる様な気もしたが……この銀髪が珍しいのかも知れんな。そうこうしてる内に――遂に、奴がやってきた。「よう!待たせたな!!」「ぶっふぅぅうぅぅぇえぅっ!!!??」あ、吹いた。紅茶を飲んでる時なら、非常に(ネタ的な意味で)美味しかったのに……残念だったなラルフ君。そういう俺も直視が出来ない。チラッと見たがこれはかなり……。鎧と手甲を外してエプロンを着けているゼノス。一見普通の姿に思えるかも知れないが……このエプロンが、かなりのクセモノだ。「せっかく客人が来てるからな!今回は少し奮発しちまったぜ!」ラルフの異変に気付かずに、最終兵器(リーサルウェポン)は何かを言っている。――エプロンの説明に戻るが――メイドさんが着けてるエプロンがあるだろう?ひらひらした白い奴……カレンさんも着けてるんだけどさ。ぶっちゃけ、カレンさんのエプロンとデザイン同じです。それだけなら未だしも…その全身像がまた…。防具を外しただけなので、腕のタイツ状にピチィッとしたモノが張り付いて筋肉を強調しまくっている……トドメにその顔だ。目茶苦茶笑顔なのだ。原作でも見れない位――ニッコニコなのだ。「ゼ……ゼノス、さん……その格好は……」俺は敢えて尋ねた。自爆覚悟で。「ん?これか?カレンが作ってくれたんだ。可愛いだろう?」「ふぐっ!??」ラルフは必死に笑うのを堪えている。分かる、分かるぞラルフ……俺もやばかった……原作をプレイして、オチを知っていなければ……堪えられなかっただ――。「うん♪やっぱり兄さんにピッタリ♪凄く可愛いよ♪」「ロボフッッ!!!!?」ちょっ!?カレンさん!?それは予想外だぜぇ!?眼科っ、眼科医さんはいませんかぁっ!!?「そうか♪ありがとうなカレン」ゼノっさん…そ、そこで頬を赤くしないで……満面の笑顔であ、あ赤くならんといて〜……っ!もう止めてぇ〜っ!俺のLPはとっくに0よぉぉぉっ!!?ラルフを見ると、顔全体を真っ赤にしながら必死に堪えている。ふと、ラルフと視線が合う。(もう……俺、ゴールしても良いかな……良いよね……?)(!?駄目だシオン!堪えるんだ…堪え…)再び脳内でリフレイン。アーンドリピート。((ッッッッッ!!!!?))その時に……俺達の心は一つになったのだろう……。俺達が落ち着く頃には、料理は全て並べられていた。最後まで堪え切る――という偉業を成し遂げた俺達を褒めて欲しい。流石……あのティピに兵器と言わしめた男……強敵だったぜ。因みに、料理は大変美味しく戴きました。ウチのお抱えのコックにも負けてないんじゃないか?食後のお茶を戴きながら談話する。「いや〜美味かったよ、ご馳走様でした」「本当に美味しかったです。ご馳走様でした」「そう言って貰えたら、作った甲斐があったってもんだぜ」満足気に頷くゼノス。いや本当に美味かった…しかし逆に悪い気もしてくる。確か、ゼノス達は金銭的に裕福では無かった筈……だからこそゼノスは傭兵をして稼いでるんだからな。「そうだ、御礼に二人のことを占ってやろうか?」「?占いですか?」「ああ、俺の占いはよく当たるって地元では有名なんだよ。な、ラルフ?」俺はラルフにアイコンタクトを取る。どうでも良いが俺は早速タメ口を使っている……さっきの談話中に許可は貰った。堅苦しいのは好かんのよ。礼儀は守るけどね。「ええ、僕も占って貰ったことがあるのですが…お陰で助かったことがあります」そう話しを合わせてくれる。とは言え、全くの嘘では無い。実際、ラルフを占ったことはある……つっても占いなんか俺には出来ない。俺が教えたのは――ズバリ『原作知識』だ。多少細部をぼかしてだけどな。それに、幾らなんでも有名という程じゃない。てか、今までに占いをしたのって、ラルフだけだし。「俺は占いなんて信じる質じゃないんだがなぁ…」「良いじゃない兄さん。せっかくだから占って貰いましょうよ」「カレン?まぁ、カレンがそう言うなら……」おぉ?カレンさんが押し勝った?「じゃあまずゼノスから」「それは良いんだが、俺はどうすれば良いんだ?」「そのまま普通にしてくれてれば良いさ」ゼノスの顔の前に手を翳す……変に凝っても胡散臭いだけだからなぁ……適当に適当に。「よし、オッケー♪」「もう良いのか?」「おう。んじゃ結果を言うぜ?見えたのは未来だ」「未来?」「まぁ、その可能性だな…良いか?『汝、世界を救う光なり…光は…金と銀を携えし光に出会う…やがて光はぶつかり合う……されど汝、光を疑うことなかれ、影は常に汝を狙っている……光を否定せしは影の道……影の謀略はやがて、汝の光のカケラと共に――汝を影へ飲み込むであろう』」「は?何だそりゃあ?俺が世界を救う光?影が狙っているって何だ?」「さて、所詮は占い。信じる信じないは自由さね…ただ、頭の隅には入れといた方が良いぜ?」これで、少しでも未来が変わるなら良いが……無理だろうな。ゼノっさん、占い信じる感じじゃないし。「よく分からんが…とりあえず頭に入れとくわ。んじゃ、俺は食器洗ってくるぜ」そう言って台所に向かって行った。やっぱり信じてないか……当たり前だな、胡散臭過ぎだもんなぁ……。「んじゃ、次はカレンだな」「よろしくお願いします」気を取り直して、先ずはゼノスの時と同じく雰囲気作り。さて、どんなことを言ってやろうかなぁ……ベルガーさんのことは……今は置いておくか?17の少女が知るには、ヘビー過ぎる。やっぱりシャドーナイト関連かな?後は……。「よし、見えたぞ?『――汝は身近き光と共に運命の光と出会う……もし、運命に導かれたのならば、運命から離れぬ様…影は汝を狙ってる…影は汝を闇に捕らえん…さすれば、身近き光は影に堕ちるだろう…そうなれば全ては運命の光に委ねられる…運命を信じよ…それが汝を救う道であり、汝を祝福する道である――』……こんな所かな?」「影……それって兄さんの占いにも出てきた……それに運命の光って……」「さて?所詮は占い。関連があるかは分からないさ。でも――運命ってのは案外、生涯の運命の人かもね?」「しょ、生涯の運命の人…ですか」いやいや、出来れば影云々も気にして欲しいんだけど……いや、場を和ます冗談として、運命の人なんて言ったのは俺だけどさ。……カレンさん?何故赤くなりながらコッチを見るのかな?そこはせめてラルフじゃね?というか、そんなに見られたら……幾ら俺でも勘違いしてしまいそうになるんだけど?確かファザコン&ブラコンだったよねカレンさん……うん、勘違い勘違い。「………」「………」な……何だこの空気は……めがっさドキドキするんだけどさ!?「なぁ、久々にデザートなんか作ってみたんだ…が……」「あ……ゼノスさん……」※※※※※※※※※ここで、冒頭に戻る訳だ……ここまで説明すればオチが読めるよな?ゼノスは何を勘違いしたのか大暴走。デザートのシフォンケーキ(お手製)を投げ付けてきやがった。勿論、そのケーキアタックは避けた――かったのだが、その延長線上にカレンが居た為――俺は甘んじて顔面にケーキアタックを受けた。俺は、何とか場を修めようとしたのだが――余計に酷くなる有様で……ラルフも手伝ってくれたんだが……。カレンも必死に、誤解だと説明してくれた……べ、別に悲しくなんかないんだからねっ!?しかし、ゼノスは聞く耳を持たない。俺も、つい売り言葉買い言葉になり……こうして闘技場でやり合う嵌めになった。本当、こんな筈じゃなかったのに……。ちなみに顔面に喰らったケーキは、実に美味かったことを明記しておく。「行くぜ!!」「来い!」こうして、勘違いから始まってしまった戦いのゴングは――鳴り響いてしまったのだった……。