ゼノスは本気で来いと言うが……本気でやったら、比喩無しで闘技場吹っ飛ばしちゃいますよ?どんだけだよって?……俺もそう思う。「行くぜラルフ!!」「了解です!!」やっぱり二人掛かりか……なら、身体能力をラルフ基準からチラッと上げた方が良いか。「カレンは下がってろ……もし俺が危なくなったら魔法で援護!良いか?」「分かりました……気をつけて下さいね」「了〜解!」まぁ、カレンの出番は多分無いだろうけど……念のためにな?ん?ワザと負けるのを止めたのかって?だってゼノスがそう望んでるんだぜ?なら、答えてみせるのが【漢】ってやつだろ?全力は出せないが、本気でやってやるさ。「ゼェリャアァァ!!」「セェェイッ!!」二人が渾身の一撃を叩き込んで来る……俺は剣を横に翳し、それを同時に受ける。ギャアアアァァアァァァンッッ!!!凄まじい金属音が会場に響き渡る……!!「ゼノス……お前の望みを叶えてやる……後悔するなよ?」一応言っておかないとな?確認の意味を兼ねて……な。********「……後悔するなよ?」ゾクゥッ!!そう言ったシオンを見て、俺は言い知れぬ感覚を覚え、思わず後方に跳んでしまった。ラルフも同様だったのだろう……同じ様に下がってしまう。「……どう思うラルフ?」「ゼノスさんの提案を受け入れてくれたんじゃないですか……?多分、全力は出さないでしょうけど……本気で来ますよ?」言いたいことは分かる……シオンは致命的と言って良いほど優しい男だ……あの場面は俺も見たから分かる。そんなシオンが仲間相手に全力を出す筈が無い……だが、本気で来るとラルフは言った……つまり、実戦のつもりで掛かってくるってことか……。「……余計なこと言わなきゃ良かったかなぁ……」「今から訂正します?シオンなら喜んで手加減してくれますよ?」「……へっ!それこそ、まさかだぜ!!俺はこの日の為に訓練してきたんだからな!」そう……アイツに負けた時から、ずっとな。傭兵やりながらも剣の腕を磨き続けて来たんだ…。「優勝は俺達が戴くぜ!!」「分かりました……僕もシオンの本気は初めてです……気を引き締めて行きましょう!!」俺とラルフは再び剣を構える……何だかんだでラルフも気合いが入ってるみたいだな!「話し合いは済んだか?」シオンは魔法陣を頭上に展開しながら俺達を待って………おい、待て。「ならぶっ放すけど良いか?まぁ、答えは聞かないけど……マジックガトリング!!」シオンが手を振り下ろす……ッて、マジかよっ!!?ドガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ!!!!!無数の魔力の矢が降り注ぐ……まるで豪雨の様にっ!!「ぐっ!!?」「っ!?」俺とラルフは縦横無尽に駆け回る……ち、近付けねぇ!!降り注ぐ魔力の矢群……無論、全力で魔力が込められた物では無いらしく、何発か当たっちまったが、軽い痛みしか感じない……だが、まともに喰らい続けたらダメージを受けるのは眼に見えている!俺達は避けながら、避け切れない物は剣でたたき落とす……初っ端からかましてくれるぜ!矢の豪雨が止む……よし、次はこっちの――。「よう」「!?」眼の前に……いつの間に!?「ちぃ!?」ガキャアアァァァァン!!俺は咄嗟に剣でガードに入る。シオンの剣がそこにはあり、一歩間違えればやばかった……。「腕を上げたな……以前のままなら今のは防げなかった筈だ」「こちとら……お前らがいなくなってからも、訓練は欠かさなかったんでね……!」鍔ぜり合いに持ち込まれる……俺の方が見た目パワーも体重もある筈なのに……圧される……くそ!!なんつー馬鹿力だよ……!?「ハァッ!!」ヒュカッ!!「うぉ!?」そこにラルフが切り掛かり、それをシオンはバックステップでかわす……助かったぜ。「大丈夫ですか?」「スマン……助かった……距離を離したら厄介だ!一気に攻めるぞ!!」「了解!」接近戦も遠距離戦も厄介に変わりは無いが、離れればまた、トンデモ魔法が飛んで来る……なら接近戦の方がまだマシだ!!俺達は直ぐさま追撃に掛かり……すかさず連撃を繰り出す。ガギキキキキギギキキイイィィンッッ!!!俺とラルフはひたすらに斬る!斬る!!斬る!!!ただ斬るだけでは無く、突きも交え、縦切り、横切り、袈裟切り……様々な軌道の攻撃が飛び交う……なのに……!!「届かねぇ……!!!」「くっ……!!」何故だ……その全てが、まるで吸い込まれる様に叩き落とされて行く……!?「……そろそろこっちも行くぜ?」ゾクッッ!!?何だ……?やばい…!ヤバイ!?シオンがこちらの剣閃を縫うように切り掛かってくる……一見、受け止められそうだが……あれは受けに行ったら駄目だ!!俺とラルフは左右に別れ、それぞれ距離を取る。「勘が良いな……今のを受けてたらお前、吹っ飛んでたぜ?」「制空圏……かい?」「制空……圏?」なんだそりゃあ……?「初めは大きく……後に小さく……制空圏って言うのは、その小さくしていく過程に見えてくる己の領域……だったよね?」「やっぱり覚えていたか……流石はラルフ、お前もバッチリ自分の物にしてるみたいだな?」「どういう……ことだよ……」俺は息を整えながらも質問をぶつける……マジックガトリングの傷は癒えねぇだろうが……今のうちに身体を休めて、体力だけでも戻さなきゃあな……。「簡単に噛み砕いて言えば、自らの攻撃が届く範囲……それによって形成される領域だな……この領域に入ったモノは確実に捌き、払い、打ち砕く……武術って奴の神髄の一つだ」なんだそりゃあ……そんなの俺は知らねぇぞ?……考えてみりゃあ当然か。俺の剣は親父から教わった物を、実戦で磨いて来た物だ……その親父も傭兵をやってたって言うし、俺と同じ様な感じだろう……ならそんなことを知るわけが無い、か。「普通は、それ相応の訓練を積まなけりゃ制空圏は見えない筈なんだが……それを本能だけで察知するとはな……ちゃんと師匠に師事すりゃあ――更に化けるかも知れないな……ったく、羨ましい限りだよ」……俺のことか?俺にまだ先が……?限界まで鍛えたつもりだったんだが……というか羨ましいって、そんだけの力があって言うことかよ?「何だか分からないが……要は弾けないくらいの威力の一撃を叩き込めば良いんだろ?」「面白れぇ……やってみろよ」身体も休まった……後はやるだけだ!!「行くぞラルフ!!全力でやってやる!!」「!……分かりました!」どちらにしても、これが破られたら勝ち目はねぇ……なら、俺の全てを叩き込んでやる!!*********「……凄い……」私は三人の戦いを見ていた……兄さんもラルフさんも凄い……私には動きがよく分からない様な速さで動いて……素人眼にも分かる……兄さん達は強いって……。でも……。シオンさんはそのことごとく上を行っている……んだと思う。だって、ゼノス兄さん達の攻撃が通じていないもの……。凄い……凄いとしか言えない……。……さっきまでの私なら、また落ち込んでしまっただろうけど、私はあの人の……シオンさんの力になるって決めたんです……!!背中を支えてあげられるくらいになるんだ……!倒れそうになっても、立ち続けるあの人の背中を……。今は出来ることが無いかもしれない……それでも……!私はこの戦いを眼に焼き付ける……争いごとは嫌いです……でも、私の誓いは揺るがない……何があろうと……。********「……アンタとの試合も凄かったけど……これはまた……」ティピが絶句する……気持ちは分かる。あの二人を相手に一歩も退かない……それ処か、逆に圧している……シオンの奴、ここまで……。「ここまでの力を持っていたとはな……俺も気付かなかったぜ……この勝負、ゼノスたちに分はない……」「でも、まだ分からないんじゃない?」「俺は眼が見えない分、人の気配には敏感になっていてな……それで何と無く分かるんだ……ゼノスは全力、ラルフも全力……ラルフは団長並みか……?あの若さでとんでもねぇな……」ティピの疑問に答えるウォレス……団長というのは、確かウォレスが捜している……。「その団長さんって、強かったの?」「当時の傭兵団で、俺は副団長をやっていてな……俺の他にも二人の副団長がいたんだが……俺達が纏めて掛かって、やっと互角だったな」「ほえ〜……昔のウォレスさんって凄く強かったんでしょ?【放浪の剣士】なんて呼ばれてたくらいだし」……そういうことは覚えてるんだな……ティピ。「……そう呼ばれていたのは傭兵団が無くなってからだがな……だが、腕と眼が自前だった頃の方が腕が立ったのは確かだ」「そのウォレスさんと同じくらい強い人が二人……その全員が纏めて掛かっても互角がやっとなんて……その団長さん凄かったんだね〜♪」「一応、副団長という括りをしたが……一人は純粋な戦闘よりは頭や策を使う、傭兵としては風変わりな奴だったからな……無論、他の団員に比べれば腕は立ったが」「とにかく……ラルフがその団長と同じくらいの実力があるということか」それだけの力があるなんてな………待て……。「すると、何か…?あの二人と互角処か、むしろ圧しているシオンは……」「正直、俺にもシオンの底は見えん……ただ、言えるのは、あれでもシオンは全力じゃないということだ」「アレ……でも?」ティピが再び絶句する……アレでも全力じゃないだと……?「……確かに、シオンさんが使ったマジックガトリング……お母さんを助ける時に使ってたのと威力が違ってた」ルイセが冷静に言葉を紡ぐ……確かに……あの時の魔法はモンスターを吹っ飛ばすくらいの威力があった……。「どうやら、ゼノス達が勝負を仕掛けるみたいだぞ?」ウォレスに言われて、俺は再びこの戦いに集中する……シオンにしろ、ラルフにしろ、ゼノスにしろ……本当に俺は井の中の蛙って奴だったんだな……上には上が居る。……俺もいつかアイツらと同じ高さに届くだろうか?********さて、加減はしつつ本気で戦ってるわけなんですが。予想以上に二人掛かりってのが手強い……つい、制空圏を発動しちまうくらいに。ちなみに元ネタは某史上最強の弟子の受け売りです。出来ないかな?……とか思ってたら出来たという……なんとも感慨の薄い結果だった……。――まぁ、これは俺の隠された能力に関連してて……ぶっちゃけ俺、気が使えます。使えると言っても、エネルギー弾を放ったり、空を飛んだりは出来ません……出来るのは気の強さを高めたり、特定の人物の気を感じたり、身体能力の調整が出来るくらいです。全力全開なら身体を半透明な青白い炎みたいな物が包み込みます。龍玉ですね本当にありがry本・当・に・何・な・ん・だ・こ・の・身・体。orz気付いたのは一年前……ラルフと旅をしていた頃だ……俺は気配を感じたり、身体能力を調整したりを何と無くやっていたんだが…ふと、身体能力全開にしたらどうなるんだ?と、気になった。なのでやってみた。後は言わなくても分かるだろ?敢えて言えば、その時は森の奥に行って試したんだが……ラルフが居なくて助かった……とだけ言っておく。その時ラルフがどうしていたか?近くの街で、品物の仕入れ値を聞いたりしていたさ……。俺のグローシュパワーなら多少離れていても、その距離が極端で無い限りゲヴェルの波動を遮断出来るからな。……話が逸れたな。つまり何が言いたいかと言うと、俺は気を読んで相手の動きを読める……その動きに合わせれば制空圏『みたいなこと』が出来るんじゃね?……と。つまり、俺のこれはアレンジ……言うなれば、【制空圏モドキ】と言った所……まぁ、効果としては本来の制空圏とほとんど変わらないんだが……流水制空圏は使えないだろうなぁ……あれは言わば明鏡止水の境地だからな……それこそラーニングでもしないと。そもそも、俺自身、静のタイプなのか動のタイプなのか、判然としないしな……つーか、俺の体質上、その両方を有してる可能性大…………静動合一ですか?と、長々と思考してる間にゼノスの闘気が高まり切った様だ……ゼノスも無意識かも知れないが闘気……要は気を操るんだよなぁ……本当、誰かに師事すりゃあ化けるぜ。「準備は済んだみたいだな……?」「ワザワザ待ってくれてたのかよ……ったく、ありがたいことだ、ぜ!!!」ズドンッ!!ゼノスが強烈な踏み込みで踏み込んで来る……速いな……だが、対応出来ないほどじゃない!「クイック!」「む?」ゼノスのスピードが上がった……ラルフか。【クイック】原作では硬直時間と詠唱時間を短縮してくれる魔法……しかし実際にはその動きをも早めてくれる魔法だ。なるほど……だが、それだけでは……。「……グローアタック!……グロープロテクト!!」!?高速詠唱だと!?オイオイ……確かに教えはしたが、もう使いこなしてんのかよ!?元々、剣士としての才覚は並外れていたラルフだが、魔術師としても並々ならぬ物を持っていた……流石にグローシアン程の魔力量はないが、魔法を巧みに使いこなす。原作のカーマインを見れば分かると思うが、カーマインはメイキング次第ではあるけど、魔術師としての才覚があるのが分かる。……ラルフは剣士としての才覚も、魔術師としての才覚も、両方を有していた。だから、俺のアレンジスキルやアレンジ魔法も教えたんだが……まさか高速詠唱をマスターしていやがったとはな……。今、気付いたんだが……カーマインもラルフと同じで、剣と魔法――両方の才能に満ち溢れているんじゃあ……まさかぁ!そんなご都合主義………無いとは言えないよなぁ……俺自身がご都合主義の塊みたいなモンだからな。「ウオオオォォォォォ!!!」ゼノスが向かってくる……真っ向唐竹割りって奴か……この場合、縦一文字斬りか?避けるのは容易い……けど、ここは真っ向から受けて立つのが漢気ってもんだろうが!!「僕もいるのを忘れないで欲しいねっ!!」ラルフも掛かってこようとする……忘れちゃいませんよ!「バインドォ!!」「なっ!?カレンさん!?」「私がいるのを……忘れないで下さい!」俺に集中し過ぎて、カレンのこと忘れてたろ?イカンぜ?状況はきっちり把握しなきゃ。「二人一緒に相手しても良いんだが……やっぱ、全霊を賭けて挑んで来る奴には、それ相応の返礼をしなきゃ失礼ってもんだろ?」俺は構えを取る……この世界に来て、唯一体得した奥義を……。********っ!!?見たことの無い構え……。俺の勘が警鐘を鳴らしている……アレはヤバイ、早く逃げろと……さっきもこの勘に助けられた……だが。「今更……退けるかああぁぁぁぁ!!!!」俺は渾身の力で剣を振り下ろす……普通なら問答無用で相手を絶命させる一撃だ……本来なら仲間に使う様な攻撃じゃない……だが、俺には漠然とした予感があった。――これだけの一撃もコイツには通じない――と。それでも、攻撃を止めなかったのは……意地だったのかも知れない。「――飛竜――」……竜……?シオンの言葉と竜の幻影……俺が見聞きしたのはそれだけだった。*******「ファイン!!」僕は直ぐさまこの状態を解く……迂闊だった……こちらから手を出さなくても、カレンさんが手を出さない保証は無かったのに……!いや、今はそんなことよりゼノスさんをドゴオオォォォォォンッッッ!!!!何だ!?音のした方を見遣ると……そこには壁にメリ込んだゼノスさんが……。!?……ゼノスさんの鎧が……粉々に……!?「……参ったぜ、まさか一太刀貰うとはな」シオンの声を聞き、僕はシオンに視線を向ける……すると、シオンの鎧に斬撃の痕が……。*********Sideシオンいやはや……つくづく大したモンだ。幾ら身体能力を大幅に落としてるって言っても、ゼノスを上回るくらいには調整したんだぜ……?そんな俺に一撃くれやがった……。俺自身、ゼノスを傷付けないように気を配ってたのもあるが………いや、言い訳はよそう。俺に油断があった……俺が未熟だった……それだけだ。あるいは……ゼノスの意地って奴か。「さて、残るはラルフ……お前だけだが、どうする?」「その前に一つ……ゼノスさんは大丈夫なのかい?」「ああ、腹打ちだし……衝撃を鎧に這わせて後方へ抜ける様に打ち込んだからな……お陰で鎧は粉々だが、ゼノス自身に傷はほとんど無い。喰らった時の僅かな衝撃と壁に激突した衝撃で、気を失ってはいるがな?」言うなれば【飛竜翼撃】って所だな。要は【飛竜翼斬】のアレンジってわけだ……。「また器用なことを……まぁ、シオンが仲間を傷つけるとは思ってなかったけど……」「で、どうする?やるならやるが?」「……やる!と、言いたい所だけど……」ラルフは剣を納める。「降参するよ……悔しいけど、僕もまだまだ修業が足りないみたいだから……」いや、間違いなくお前は強いよ?……つーか商人の枠を超えてるよ?……俺なんかを基準に考えてたら切りがないぜ?「勝負あり!そこまで!!」しばらくは静かだったが……ゆっくりと拍手が巻き起こり……最後には割れんばかりの歓声と拍手に包まれた。結局、俺達が優勝か…。「カレン、すまなかったな……大きな傷を付けることが無かったとは言え、ゼノスをぶっ飛ばしちまった……」「いいえ……兄も……それを望んでいましたから……」「……ゼノスの所に行ってやれよ。賞品の授与はやっておくから」「……すみません」幾ら無事とは言え、やはりカレンは心配なのだろう……ラルフにも頼んで二人にはゼノスに付き添ってもらう。「勝者にはリシャール様より、バーンシュタイン王国コムスプリングスへの旅行券がプレゼントされます!」さて……んじゃ、久方振りの再会と行きますか。俺は檀上へ上がり、陛下の御前にて謁見を行う。「おめでとう。きっと優勝は君たち……いや、君だと思っていたよ……久しぶりだな、シオン」「リシャール陛下も、御健在の様で何よりにございます……」「君が旅に出ていたことは、君の父上から聞いていた……私も君が健在で嬉しく思う。これで君が我が国に戻ってくれれば、私もより嬉しく思うのだが……」「私ごときに勿体なきお言葉です……ですが無礼を承知で申し上げます……まだその時では無いかと……この見聞の旅が終われば……いずれその時が来れば、直ぐさま舞い戻りましょう」「……そうか、なら仕方あるまいな…今回の所は諦めよう。これがコムスプリングスへの旅券だ。温泉にでも浸かって、この戦いの疲れを癒してくれたまえ」旅行券を手に入れた!「学院長に通行証を預けてあるから、彼から通行証を受け取ると良い……では、失礼するよ」リシャールはその場を去って行った……フゥ、疲れた……にしても、ゲヴェルに操られている筈なんだが……やけに平然としてたな。操られている状態では、俺が近付くだけでも苦しい筈なのに……もしかして、洗脳解けてた?そういやぁ、原作でリシャールも言ってたっけな……自分の意識とそうじゃない意識が切り替わったりしていた……と。末期になると、どっちが本当の自分か分からなくなっていたらしいが……。俺はそんなことを考えながら、ゼノスの元へ……どうやら気がついた様だ。「ゼノス兄さん!」「気がついたみたいですね……」「カレン…ラルフ…俺は……そうか、負けたのか」ゼノスは自身の惨状……鎧粉々状態を目にして気付く。「よお、無事か?」「シオン……結局、届かなかったか」「何言ってるんだよ……この傷が見えないのか?」俺は自身の鎧の傷を指し示す。「それは……」「ゼノスの意地……確かに届いたぜ?」「そうか……」ゼノスは我が生涯に一遍の悔い無し!……って顔をしている。まぁ、鎧に傷ついただけなんだが……一撃貰っちまったのは確かだしなぁ……。「今はゆっくり休めよ……行くぜカレン」「?まだ何かあるんですか?」あるんだなぁコレが。俺はゼノスにヒーリングを掛けた後、カレンに告げる。「最後にエキシビジョンマッチがあるんだよ」「エキシビジョンマッチ……ですか?」「これから決勝が行われるエキスパートの部の優勝者と、フレッシュマンの部で優勝した俺達との戦いだよ」俺はカレンに説明してやる……まぁ、十中八九ジュリアンが出てくるだろうな………いや、原作と違って俺達が勝っちまってるんだ……まさかまさかのバズロックが出てくるとか……無いな流石に。ジュリアン、短期間だが俺が稽古付けてやったから、原作より若干強めだしな。「あの……エキスパートの優勝者って……凄く強いのでは……?」「普通は勝てないらしいな。エキスパートの優勝者がどれくらい強いか示すための、余興の一つ……要するに俺達はスケープゴートってわけだ」「そんな……!」カレンがそれを聞いて愕然とする……争いごとが嫌いなのに、その上みせしめにされるとあってはな……。「心配すんなカレン……シオンは負けねぇよ」「ゼノス?」ゆっくり立ち上がりながらゼノスが言う。「コイツを誰だと思ってるんだ?この俺とラルフに勝った男だぞ……?まさか、ここに来てわざと負けるなんてないよな?」「……当たり前だ。元来、負けず嫌いなんだぜ、俺は!……それにここで負けたら、俺に勝った奴は間接的にお前らより強いってことになっちまうもんな」俺は拳を突き出す。ゼノスもフッ……と笑い、俺に拳を合わせてくる。「勝てよ?」「傷一つ貰わずに勝ってやるよ」俺も不敵な笑みで返す……と、俺の拳の上にトンッ……と言った感じで更に拳が置かれる。「……頼んだよシオン?」「おう、任せろ相棒!」互いにニッ!と、笑みを浮かべる……よっしゃあ!一丁いくかぁ!!「行くぜ、カレン!俺達をスケープゴートにしようって奴らに、眼にもの見せてやる」「は、ハイ!でも、相手も労ってあげて下さいね?」「分かってるさ」幾らなんでも全力全開なんてしねぇさ。そんなわけだ…負ける訳にはいかねぇぜ?エキスパートの優勝者さん?俺達は再び控え室に戻り、取り留めの無いお喋りでもしながら時を待った。ゼノスとラルフも観客席から応援してくれるらしいしな。そして、俺達は衛兵に呼ばれ闘技場内に入る。そこに居たのは予想通りの人物だった……。