「オイッス」「シオンとカレンか……」俺とカレンは観客席に来た……まぁ、敵情視察には観客席から見るのが1番だろ?それに……あのままだったら中々に気まずかったからな……カーマイン達が来てくれて助かったぜ……。「さて、本日注目のカードな訳だが……解説のウォレスさんはどう見ます?」「前評判ではゼノスとラルフが圧倒的だな……ゼノスにしろラルフにしろ、このグランシルでは知らない者はいないだろう」「兄は地元だから分かりますが、ラルフさんってそんなに凄かったんですか……?」カレンが小首を傾げる。まあ、カレンが闘技場に足を運んだのは俺が知る限り、今回を抜かせば一回だけだからなぁ……俺とゼノスがガチンコした時です。知らなくてもしょうがないか?「ラルフは俺に付き合って、闘技場のフリー部門に参加してさ。最終的にはマスタークラスを軽々制覇するくらいになった……ま、俺を抜かせば大陸最強かもしれんな」冗談めかしながら言うが、ラルフの力量は実際半端無い。正直、あの原作魔改造キャラたるリシャールを凌駕している……気配の強さで分かるわけだが……つまり俺が魔改造してしまったわけですね本当にありがとうごryラルフも、なんだかんだで努力する奴だからなぁ……俺と一緒に地獄の特訓に付き合ったりもしたし……ちなみに史上最強の弟子形式ですが何か?あと龍玉形式もちらっとやったっけな〜。あれだけ強くなったんだ……オッサンも誇らしいですよ。なんつーか、弟子みたいなものだからな。「だから【漆黒の旋風】なんて呼ばれてるんですね〜……」「らしいね。ラルフはそう呼ばれるのがこそばゆいみたいだけど……何気にファンも結構いるらしいぞ?」主に女性のファンが多いな……耳を澄ませば聞こえてくる。「いや〜ん♪次はラルフ様よ!わたし全力で応援しちゃう!」「わたしはカーマイン様ね♪あの方のクールな表情……あぁ!いいわぁ♪そういえば、お二人はそっくりだけど……ご兄弟かしら?」などなど……他にもラルフ様応援団……みたいな物も組織されている様だ。カーマインも初出場ながらラルフに迫る人気らしい……まぁ、あの容姿であの強さなら仕方ないか。ちなみにゼノスも大人気だが、比率的に女性三割、男七割という感じだ。ゼノスも美形ではあるが、線が細いという訳ではなく、むしろガタイはマッチョ。まぁ、どちらにしろ人気なのは分かるがな?「……シオンさん、人のことを言えないのに気付いてますよね?」「は、ハハハハ……」思わず渇いた笑いを浮かべる俺……そう、信じられないことだが俺の人気も凄まじく、ラルフ同様応援団も結成される始末……。しかも大半が女性という……皆、物好きだな……と言うか……アイドルってこんな感じなのかな?そんなことを漠然と考えてしまう俺であった……。ちなみにカレンやルイセなんかも、男連中に……それこそアイドルみたいな声援を受けていた。「ルイセたんハァハァ……」「カレンたんと合体したい!!」……とか、言いながら危険な視線を撒き散らしガチで何かしでかしそうな連中が居たので、ボコッてひん剥いてゴミ捨て場にポイしておいた。ひん剥いた時に、やっぱりありましたよ妙な薬。媚薬らしき物、痺れ薬らしき物……何を考えてるんだか。しかし、この世界にもいるんだな……ああいう奴ら。興奮するのは良いが、良識を持って行動しろ……俺の悪友も言っていたぞ?『現実とゲームを履き違えるのは愚か者だ!!ハァハァするのは画面の中だけにしろ!!』……と。……なんか違うか?「それはともかく!……解説のウォレスさんはこの勝負をどう思う?」「状況によるな……総合的な能力からすればゼノスのチームだが……」だよね〜……俺の感じた気配では、ラルフが抜きん出ていて、カーマインとゼノスがほぼ互角……そこから超えられない壁を挟んでルイセ……みたいな感じだな。もっともこれは単純な戦闘能力に限っての話だ……魔力という意味ではあの面子の中じゃ、ルイセが断然1番だ。勝負に徹すれば、ゼノスとラルフが勝つだろうが……その辺が鍵になりそうだな。「そういえば、さっきゼノス達が来てな……その時――」「その話なら控室で、カーマイン達に聞いたよ……詳しい話は大会が終わってから……ということで」「うむ……わかった」何処で聞き耳立ててるか分からないしね……俺の意図をウォレスも理解してくれた様だ。これで闘技場での目的の八割は果たしたな……後は……。「あ、どうやら始まるみたいですよ?」カレンの言う通り、選手入場が始まった……さて、どんな戦いになるやら……カーマインも何故か原作より強いし、ゼノスも毒を喰らってない全力全開状態……ラルフもどう動くのか、正直楽しみだぜ!********「いよいよだね!」「ああ……」ゼノス……そしてラルフ……二人とも俺と互角……いや、俺より上だと思ったほうが良い。正直、この戦いにさして意味はない……コムスプリングスの旅券も、シオンが居る俺達には必要無い。……だが。「ラルフ!俺がカーマインの相手をする!!」「僕はルイセちゃんを抑えれば良いんですね?了解です」……どうやら一対一でやってくれるらしい……ありがたいことだ。「そういう訳だ……ルイセは下がってろ。こっちから仕掛けなければ、ラルフも手荒なことはしないだろう……」「……うん!気をつけてね、お兄ちゃん」「……俺を誰だと思ってるんだ?」俺はルイセに不敵な笑みを浮かべてそう言ってやる……自意識過剰?こうして奮い立たせでもしないと呑まれる……それほどの相手なんだ。「では、試合開始!!」俺とゼノスは一斉に駆け出す……スピードは若干俺の方が上か。「うおおぉぉぉぉっ!!」「はああぁぁぁぁぁっ!!」鈍い金属音と共に衝撃波が生じる……互いに正面からの全霊の一撃……パワーはゼノスの方が上か!?僅かに俺が後方に圧される……。「やはり強いな……」「……そっちもな!」俺は自分から後方に跳び、体勢を立て直す。「行くぞ!」「っ!?」ゼノスが踏み込み、一瞬で間合いを潰してくる……俺は上空に跳び、それをかわしながら、下に向かい切り掛かる。ゼノスはそれを迎撃、俺はそれに弾かれる感じで飛ばされる……強い……分かっていたが強い!「面白い……!」俺は空中で体勢を変え、激突しそうな壁を背にし、それを蹴る!そしてその加速力のままゼノスに切り掛かる。「ハッ!!」ズガァァァッ!!「何っ!?」ゼノスの横を擦り抜け様に切る!ゼノスも防ぐが俺は勢いに任せたまま、剣を滑らせた。擦れ違い様にゼノスの篭手を切り飛ばす。そして後方に着地し、その場で横の回転切り…ゼノスも同様の動きを見せる。「ハアアァァァァ!!」「ゼリャアアァァァッ!!」俺とゼノスは互いに譲ることなく、切る!切る!!切る!!!互いにそれを捌き、受け流し、隙を見つけては攻撃に移る。互いに縦横無尽に駆け回り、打ち合う!……初めてだ……初めて俺は全力で戦っている……今までも手を抜いたことはなかったが、全力で打ち合えた奴は初めて……。「フッ……」俺は自然に笑みが零れた……強い。この強い奴相手に自分の力がどれだけ通じるか……試してみたい!俺の中にこんな感情が眠っていたとはな……。*******チィッ……予想以上に手強い……。剣速は互角、パワーは俺の方が上……だが、身のこなしの速さはカーマインの方が若干上回っている。その若干がくせ者で、カーマインは縦横無尽に駆け回り、こちらを翻弄する……俺はそれを正面から追わない。追っても追いつけないからだ……速さにもそれなりに自信があったんだがな……まぁ、幾ら速くても捕えられない程じゃない。俺は上手く、足運びと体捌きで追従していく……実際、足運びだけで大分無駄は省ける。……確かにカーマインは強い。……だが、俺はもっと強い奴と戦ったんだ!あいつと戦って負けて……俺は自分を鍛え直した……それが無ければ、カーマインには勝てなかったかもしれん……。だが、アイツに比べたら……!再び剣閃がぶつかり合う――。これで何度切り結んだのか……十合、二十合……いや、もっとだな……。互いに小さなダメージはある……だが、このままだとじり貧だな……悔しいが、ダメージ量は俺の方が多い……なら、一気に片を付ければ良いだけだっ!!ガキャアアァァァン!!俺は再びカーマインを叩き飛ばし、距離を取り構えを取る……チャンスは一度……乗るか反るかだ!!俺はここで負けるわけにはいかないんだからな……。********二人ともやるなぁ……他の出場者とはレベルが違う……。「あ、あの……ラルフさん?」「何だい?ルイセちゃん?」「本当に、わたしたち何もしなくていいのかな……?」「ん〜……観客の人達も二人の戦いに熱中してるし……」そう、最初こそ僕達が戦わないことで、ブーイングみたいなのも起きたけど、二人のあまりにレベルの違う戦いに会場は大興奮。僕達は放置されちゃったわけだね。シオンが言うには、あの二人はインペリアルナイトとも良い勝負をするらしい……気配を探れば分かるって言ってたけど、まだ僕は漠然としか分からないからなぁ……。気配の強さは大まかには分かるけど……。「それじゃあ何かする?結局、どっちが勝っても僕達がそれぞれ残ってたら勝負が着かないしね」それが闘技大会のルールだからね……けど僕はルイセちゃんを傷つけたくは無いんだよなぁ……。まぁ、いざとなればどっちか降参すれば良いわけだし……。「それじゃあ、あっちむいてホイでもしようか?」「あっちむいてホイかぁ……昔、お兄ちゃんとよくやったなぁ……うん、あっち向いてホイしよう!」うん、良い笑顔だ……なんかこっちまで穏やかな気持ちになるよ……。「それじゃあ行くよ?」「うん、負けないからね?」「「ジャンケンポン!」」*******「……何やってるんだアイツら」俺の視線には激しい戦いを繰り広げるカーマインとゼノス……から離れ、闘技場の隅っこで…あっち向いてホイに興じるルイセとラルフが映っていた……いや、なんぞそれ?「……今のところ互角か……そういえば、ルイセとラルフはどうしたんだ?」「……もうちょい右に視線をずらせば分かる」「右?」俺はウォレスにそう教えてやる。するとウォレスは少し右に視線を動かした。「……二人は何やってるんだ?」「あっち向いてホイ」「……あっち向いてホイ?」「そっ、あっち向いてホイ」「………………」ウォレスが絶句した……だよなぁ……しかもあそこだけホンワカと言うか……空気が緩いし。「ルイセちゃん、楽しそうですね♪」「いや、楽しいんだろうけどさ?」もはや闘技ですらない……いや、某番長のアレは例外だけどね?「…どうやらゼノスが動くみたいだぞ?」ウォレスに言われて見ると、ゼノスが闘気を纏っている……次で決めるつもりだな。********何だ……?ゼノスの雰囲気が変わった……?何かする気か?……なら、その隙を与えなければいいだけだ!!俺は駆け出した……すぐに間合いを詰める。そして剣を勢いよく切り付ける……斜めに切り上げる感じだ。ゼノスは動かない……何故だ?直撃コースだぞ……!?俺の疑問も虚しく、俺の剣はゼノスへと吸い込まれる様に――。ブゥンッ!!「っ!?」剣が当たったと思った瞬間、ゼノスの身体がぶれ……剣は虚しく空を切った……これは……【分身】……。俺の剣が振り切られた直後……俺の右側に回り込まれた……?「終わりだ」「くっ!?」俺は咄嗟に方向転換……間に合わないか……ならば攻撃を防ぐ!ゼノスの剣は打ち下ろし……俺は剣を構え防御の姿勢を取る……受け流して軌道をずらせば……!!「でりゃああぁぁぁぁぁっっ!!」ガッ……バキャアアァァァァンッ!!!「っ!?」剣が……砕け――っ!?「せりゃぁ!!」「がぁっ!?」振り切った剣はそのままに……ゼノスは肩から当たって来た……!?俺は後方に飛ばされながらも足を地に着け、踏ん張らせる……。ズザザザザザッ!!俺は壁に激突する寸前で立ち止まった……。なんとか軌道はずらせた……もしあのままだったら、剣が砕ける所じゃ済まなかったからな……。さて……どうする?お互いが満身創痍、特にゼノスは今の一撃に全てを掛けていたのだろう……あれ以上追撃してこなかったのがその証だ。それでもゼノスは息を整えながらこちらに睨みを効かせる……『まだ続けるか?』……と。俺は眼を閉じ…そして考える…。結果など、分かり切っている。半分以上先が無くなり、ナイフみたいな大きさの刃になってしまった剣……。戦えなくはないが……。俺は剣を鞘に収める。「……俺の……負けだ」ここが戦場なら、俺はなりふり構わなかったかも知れない……だが、俺は一介の剣士として挑んだんだ……悔いはない。俺の敗北宣言を聞き、ゼノスも大きく息を吐き出し、剣を収めた。*********「勝負あり……か」「紙一重……だったんだがな」原作では自動的に発動するスキルだった……【分身】……実際は自身の意思で使いこなす技能だ。考えれば当然なんだがな……確率で発動とかゲームだけだって。ゼノスのやったことは、俺と戦った時にやったことと殆ど同じだ。違うのが、最後の最後まで分身しなかったこと。そして繰り出した一撃が、溜めを効かせた更に強烈な一撃だったことだ。それを受け流したカーマインも賞賛に値する。だが悲しいかな、武器がそれに着いていけなかった。何しろカーマインの剣って、グラディウスなんだぜ?下級兵士の基本装備として知られるそれは、扱いやすくはあるが、品質もそれなり。何でも、初めて旅に出る時に買った物で、ポケットマネーまで出して買ったそうで、愛着があったとか。手入れもしていたみたいだが……カーマインの力に武器が着いて来れなかったんだろうな。こう言ってはなんだが、今のカーマインに見合った武器だったなら……勝負は分からなかっただろうな。「ゼノス兄さんが……決勝戦の相手なんですね」「まあ、そういうことだな……」もっとも、ゼノスのことだ。カレンは絶対狙わないだろうし、狙わせないだろうな……その場合ラルフにもよるが、二対一になるか。ん?ラルフとルイセはどうしたって?カーマインとゼノスが決着付ける前に決着付けてます。ラルフが勝ってました。結構意外だったな……ルイセってあっち向いてホイが強い印象があるんだが……。なんか、この前ティピ相手にあっち向いてホイしてたしな……。いや、待てよ?そういえばアレは不意打ちだったような……。ちなみに、ラルフ対ルイセの内容はこんな感じだ。*********「「ジャンケンポン!」」「あっち向いてホイ!やったぁ♪わたしの勝ち♪」「強いねルイセちゃん……でも、次は負けないよ?」「私だって負けないよ!行くよ〜?」「「ジャンケンポン!あいこでショ!あいこでショ!」」「あっち向いてほい。ふふ、僕の勝ちだね?」「あ、あれぇ??よ〜し、次こそは!」「「ジャンケンポン!あいこでショ!」」「あっち向いてホイ……また僕の勝ちだね」「うぅ…負けちゃった……」「楽しかったよ。また機会があったらやろう」「うん!」*********と、こんな感じで終始ほんわかしていた……あそこだけ空気がゆるゆるなんだもんな……何かお花が舞ってるような……いや、これ以上考えるのは止めよう……。とにかく!ゼノスとラルフが決勝まで来たのは事実なんだからな。「さて、しばしのインターバルを挟んで、いよいよ決勝ってわけだな……俺達は控室に戻るよ」「そうか……どちらかだけを応援することは出来ないが、ここからお前たちの戦いぶりを見させてもらうぞ?」「OK!まぁ、それなりに頑張らせてもらうさ……行こうか、カレン」「はい!」俺達は、興奮覚めやらぬ観客席を後にした……。そして闘技場内からは、ゼノスチームの勝利を告げる声が高らかに上がるのだった……。そんで、控室。「よう、お疲れさん」俺は控室で休憩を取っていたカーマイン達に声を掛けた。「あ、シオンさんとカレンさん」「惜しかったな?正直、紙一重だったぞ」「とは言え、負けは負けだ……言い訳はしないさ」なんともまぁ、清々しい顔を浮かべて……悔いは無いって感じだな?なら、そんなやり切ったカーマイン君に、オッサンから贈り物をさせてもらおうかな?「ほら、これをやるよ……頑張ったで賞だ」俺は持ってきた細長い、布で包まれた物を渡す。「……これは……剣か……?」包みを広げたカーマインは、黒塗りの鞘に納まった細く湾曲した剣を見て驚く……まぁ、ぶっちゃけ刀だな。「それは妖魔刀って言ってな?東の果てにある国の名匠が鍛えた業物だ。その切れ味は、金属鎧すらスパスパ切れちまうんだぜ?使い手の技量にも左右されるけどな?」「良いのか……?こんなものを貰っても?」「構わねーよ。使わない物を持ってても仕方ないしな。いらないなら無理にとは言わないが?」「いや、ありがたく戴くとするさ……ありがとう」カーマインはそう言って受け取ってくれる。まぁ、本当に使わなかったしな……使ってくれるならありがたい。「ルイセにもあるんだ。コレなんだが」「これは、召喚カード?」「知ってるのか?なら、使い方も分かるだろ?それはフェアリーカードって名前のカードだ。何でも、隠された力ってのがあるらしいぞ?」カードの力を使って二百の敵を倒すと大化けするカードです。……そこまで使われる可能性は、殆どないだろうがな。「でも、わたし殆ど何もしてないし……」「そんなこと無いよ。ちゃんとカーマインをフォローしてたろ?最後のあっち向いてホイはともかく。それまでルイセがフォローしていたのは事実……カーマインもかなり動きやすかった筈だ。「ああ……ルイセが居てくれたおかげで、俺は助かったんだぞ?」「お兄ちゃん……」おおぅ?何だかまた空気が違うぞ??「ねぇねぇ♪アタシには?」「ティピか?ティピには………何も無い!」スッテーン!と、空中でずっこけるティピ……器用だなぁ。「な、何じゃそりゃああぁぁぁ!!?」「いや〜、何かあげたいのは山々だが、ティピに合うサイズのアイテムが無くってさ!今度、何か用意しておくからさ」「むぅ〜〜、約束だからね?」「了解♪」用意しておくさ……取って置きの奴をな?「あ、勿論カレンにも用意してあるから」「わ、私にもですか?」「ああ、カレンも頑張ってくれたしな……ただ、それは大会が終わってからということで……構わないか?」「は、はい……ありがとうございます!」うぉ!?なんか素晴らしくキラキラした眼差し……あんまりたいした物じゃないんだがなぁ……。それからしばらくして、カーマイン達は観客席で応援してる……と言って、観客席に向かった。いよいよかぁ……さて、どうするかなぁ。正直、勝つのはワケ無い。自信過剰に聞こえるかも知れないが、それだけの力の差がある。仕官を願うゼノスの為に、ゼノス達を勝たせるべきか……ただ、優勝したところで、確実に仕官出来るかと聞かれたら――答えはNOだ。……原作のカーマインにも、スカウトなんて来なかったからな……。とは言え、大筋は原作通りに進んでる……もし、サンドラ様を助けられたら、流れ的にゼノスが仕官出来てもおかしくはない。あの戦いぶりが知れたならカーマインも……よし!ここはワザと負けよう!そうなると問題は負け方だよな……あまりにワザとらしいと、気付かれちまう……ここは途中まで互角に戦うというのがベストか。「シオンさん、始まるみたいですよ?」「ん?そうか……よし、行くか!」俺はカレンを連れて闘技場内に足を踏み入れた。「これより決勝戦を始める!選手入場!」俺達は促され、所定の位置に。ゼノス達も同様だ……無論、足取りがおかしかったりはしない。休憩時間内にしっかり回復出来たみたいだな。「青コーナーはゼノスとラルフの戦士&剣士コンビだ!!このチームは本大会優勝の有力候補!準決勝でのカーマイン選手との熱く激しい戦いは、闘技大会の歴史に残る物となったでしょう!」「赤コーナーはシオン&カレンの美男美女チーム!このチームは本大会優勝の最有力候補です!!準決勝で強豪のニック選手を降したシオン選手!未だに底が知れません!!カレン選手もよくシオン選手をフォローしています!ちなみに、ゼノス選手とカレン選手は兄妹だそうです!!」わあああぁぁぁぁ!!!という感じで歓声が強くなる。まぁ、どうせ負けるつもりなんだから……派手に行きますか!!バッ!!俺は右の拳を天高く突き上げた……俺に着いて来い!的なパフォーマンスだ!!「「「「ウオオオォォォォォ!!!!」」」」「「「「きゃあああぁぁ〜〜ん♪♪シオン様あぁぁぁぁ〜〜ん♪♪♪」」」」……何だか物凄い歓声だ。こんなにド偉いことになるとは思わなんだ。「……凄い人気ですね、シオンさん?」カレンが何故かジト眼で俺を見てくる。「そうでもないぜ?カレンも手でも振ってみれば分かる」「え?……こう、ですか?」カレンは観客に向けてひらひらと手を振る……すると。「「「「ウオオオォォォォォッッ!!!カ・レ・ンちゅわあああぁぁぁぁぁん!!!!!!」」」」ビクッ!!思わずカレンがびくついた……いやぁ〜、野郎ばっかりってのが凄まじいねぇ〜……ストーカーみたいなのも出るんじゃなかろうか?まぁ、そんなことをする輩は俺かゼノスがぶっ殺だがな。「……分かったか?」「は、はい……」すっかり萎縮しちまって……可愛いなぁカレン♪ちなみに、向こうも似たような感じなんで、内容は省きます。そして決勝戦、試合開始のゴングは鳴った。「行くぜシオン!!お前の事だ……余計なことを考えてるのかも知れんが、構わねぇ!全力で来い!!ワザと負けられても嬉しくないからな!」……参ったねぇ……、こっちの思惑が読まれてるよ。「買い被り過ぎだ……まぁ、お手柔らかにな?」なら、俺のすべきことは一つ……か。