そんなこんなで、やってきました闘技場。にしても、賑やかだなぁ……一年を修業に費やした者……参加者が夫らしく、イチャついている夫婦……新魔法を試しに来た魔法使いの爺さん……参加者だけでも様々だ。おっ?ノミ屋まで出てるんだな?「エキスパートの部、1番人気は去年の優勝者バズロックだ!2番人気は、去年のフレッシュマン優勝者ジュリアンだ!フレッシュマンは新進気鋭のダークホース揃いだ!さぁさぁ、己を信じて、でっかく賭けよう!!」やっぱりジュリアンは参加するんだな……なら、エキスパートはジュリアンで決まりだな。原作ではフレッシュマン優勝候補はゼノスだ……とか言ってたんだが、ゼノスもさっき出場登録をしたばかりだからな……こんな所にもタイムラグの影響が。ティピとルイセが、ノミ屋って何?と、聞いて来たが、ウォレスはやんわりと知らなくていいと言いました。良い子の皆は、賭け事は大人になってからだぞ!オッサンとの約束だ!!んで、俺ら三組……受け付けを済ませます。カーマイン組は左側、ゼノス組は右側の控室の様です。原作通りですね本当にありがとうございます。肝心の俺とカレンだが……左側らしい。つまり、カーマイン達とは決勝でしか当たらないと言うワケか……まぁ、ゼノスとラルフに勝てれば……の話だが。流石に組み合わせは分からんから、何とも言えないがな。ゼノスにラルフとは、俺達が先にぶつかるかも知れないし、勝ち上がり方次第では先にカーマイン達とぶつかるかも知れない。「俺は参加できないから、観客席にいくぜ。皆、後悔の無いようにな」ウォレスの激励を受け、俺達はそれぞれの控室に向かう……その分岐路にて。「改めて言うことじゃないが、勝負は正々堂々。手加減抜きだぞ?」「皆には悪いけど、僕達が勝たせてもらうよ?」ゼノスとラルフはやる気満々だ。「こっちだって負けないからね!」「やるからには勝たせてもらうぞ…」ティピを筆頭に、カーマイン達もやる気十分だ……。「あ、あの……お手柔らかに……」……ゴメン……一人例外が居たわ。まぁ……ルイセだしなぁ……。「まぁ、ウォレスも言ってた様に皆、悔いが残らないようにやろうぜ?」俺はそう締め括る。結局は悔いが残るのが1番辛い……原作のゼノスみたいにな。そういや、シャドーナイトは何か仕掛けてくるのか?これは正直、微妙だと思っている。ゼノスの出場登録は原作とは違い、俺達と一緒でギリギリに済ませた物だ。なので、奴らがゼノス出場の情報を手に入れたというのは考えにくい……が、相手はシャドーナイツだからな。用心に越したことはない……か。とは言え、俺はカーマイン達と同じ控室だから、あまり干渉は出来ないんだが……。まあ、ラルフが居るから心配はしていないがな?後は、ゼノスが俺の占いをどれだけ信じてくれているか……だな。「シオンさん、頑張りましょうね」「勿論。まぁ、怪我のないように、俺達は俺達のペースでやろうな、カレン」「そうですね……分かりました」俺達は俺達なりに気合いを入れる……。カレンは俺が守る……その上で優勝する。その気になれば楽勝だがな……とか言える自身のチートさに全俺がryさて、不安要素は一旦置いておいて……闘技大会の開会式が始まる。開会式は出場者が整列することになっており、当然俺達も並んでいる。俺達フレッシュマンは後方に並んでます。「これより本年度の闘技大会を執り行う!今年は国賓としてバーンシュタイン王国の王子であり、インペリアル・ナイト・マスターでもあられる、リシャール殿下がお見えになられております」闘技大会の開催責任者が、開会の挨拶を執り行う。そしてリシャール……やっぱり来ていたか。……と、なると……シャドーナイトの横槍はあるものと見るべきだな。リシャールの顔に、カーマイン達は気付いてないな……まぁ、この距離だからな……普通は見えないよな。しかし、よく似てるよな……流石はエリオットの複製体……か。「我が国の民は知っていると思うが、私も国ではナイト・マスターをつとめ、剣術には興味があります。みなさん。悔いの残らぬよう、全力を出して戦ってください」開催責任者に促され、開会の挨拶を行うリシャール……周りは歓声に包まれた。この時点でアイツは既に、ゲヴェルの傀儡なんだよな……昔、父上の関係で、リシャールとは何度か会ったことがある……話してみると、やはりというか、良い奴だった。……俺が旅に出ず、士官学校に入っていれば……多分、リシャールが最良の友になっていたことだろう……。結局、俺は二者択一でラルフを選び、今に致る訳だが……改めて思う……幾ら戦闘能力がチートでも、俺は万能では無く、十全でも無いと……それでも、あの悲劇は回避したいな……その考えが、えらく傲慢だと理解しちゃいるが……な。「次に、前年度、フレッシュマンの部優勝者、ジュリアンより、選手宣誓です」「宣誓!我々は己の持てる力を出し切り、正々堂々と戦うことを誓う!」「「「「オオオオォォォォォ!!」」」」お、ジュリアンだ。別れてから、まだ数日程度しか経ってない筈だが、妙に懐かしく感じるな。ジュリアンの宣誓で、一気にテンションが上がった選手一同。うむ、元気なのは良きことかな。で、控室に戻り、早速適正テストに取り掛かる。1番手は俺達らしい。ちなみに適正テストの内容は、制限時間内に闘技大会側が用意したアイアンゴーレムへ、どれだけダメージを与えられるか計る……というもの。因みに、ダメージカウンターの様な物がゴーレムに取り付けられており、200以上のダメージ値で合格だそうだ。正に原作通り。「ダメージですか……大変そうですけど、シオンさんならどうにかしてしまいますよね……なんだか、申し訳ないです……」「気にするなって、適材適所……カレンには、俺を応援していてもらいたい……それだけで俺には力になる」落ち込み掛けているカレンを励ます。やはり、自分が足手まといだ……とか考えてるんだろうな。だが、俺が励ましたらカレンの顔が赤くなった。やはり風邪か?益々、カレンを前線では戦わせられないな。ここはもう一押し励ましを込めてあの台詞を!……まぁ、俺が言いたいだけなんだが。「ああ、そうだカレン。君に一つ聞いておきたいんだが……」「は、ハイ!何でしょうか!?」この台詞はキザに、ニヒルに、自信を込めて言わなければならない。「ダメージを与えるのは良いんだが……別にアレを倒してしまっても構わんのだろう?」そう、かの紅い弓兵のあの台詞……リアルに言う日が来るとは思わなかったが……言ってみると結構スッキリする物だな。「…………ハイ!思い切りとやっちゃって下さい!シオンさん!!」どうやら、元気になった様だな。まだ顔が赤い……つーか真っ赤だが。もう自分を卑下したりはしない様だ。しかし、流石は紅い弓兵の台詞……大人しいカレンをも元気付けるとは……それじゃ俺も。「では……期待に答えるとしよう」マジでな?いや、全力は出さないが……せめて一撃で決めるくらいは――良いよな?……これで双剣ならバッチリだったんだが、贅沢は言わんさ。ここからはノンストップ風にお送りします。********シオン、カレン組ズバッ!!ズズズン!!!「まぁ、こんなものか」「す……凄い……」「言ったろ?倒しても構わないかって。俺は約束は守る主義なんだよ」シオンWINTIME、一秒にも満たないくらい。決め手、唐竹割りに真っ二つ。カーマイン・ルイセ組「ルイセは魔法で援護してくれ!」「うん!お兄ちゃん!マジックアロー!」ドガガッ!「!今だ!」「いっけえぇぇぇ!」ズガカガガガッ!!ズシャァッ!!ズズーンッ!「やったぁ!」「やったね、お兄ちゃん!」「ああ……次もこの調子でいくぞ?」カーマインWINTIME、本大会で三番目の早さ。決め手、マジックアローで体制を崩した所に叩き込んだ連撃。ゼノス・ラルフ組「さて、どうします?僕が魔法で援護しましょうか?」「そんなまどろっこしいのは無しにしようぜ?お互いに剣に自信があるんだ……なら!」「正面突破…ですか。了解です……行きますっ!!」ズバババババババババッ!!ズガガガガガガガガガッ!!ズズズーンッ!!!「まっ、ざっとこんなモンだ!!」「次もこの調子でいきたいですね」ゼノスWINTIME、本大会で2番目の早さ。決め手、二人掛かりでフルボッコ。*******と、そんなワケで俺達は難無く適正テストをクリアした。まぁ、この面子だから当然だな。むしろ、クリア出来ないほうがどうかしてる。そんな流れで、俺達は予選に駒を進める。予選は4組のチームが、時間内にどれだけのモンスターを倒せるかを競う。本戦に進めるのは上位一組のみ。ちなみに用意されたモンスターはゲルが五匹。「さて……さっさと片付けるかな……マジックガトリング!!」開始早々、俺はマジックガトリングを放ち、五匹纏めて吹き飛ばす。「予選Aグループが終了しました!見事、本戦進出の権利を獲得したチームは……」まあ、文句なしで俺達の勝ちだろ?「勝者は【白銀の閃光】と名高いシオン選手率いる美男美女チーム!シオン選手、圧倒的な力の差を見せ付けてくれました!!これからの本戦、また素晴らしい戦いを見せてくれる事でしょう」だからその厨二臭いネーミングは止めい!!小っ恥ずかしいわっ!!つーか、美男美女チームとか……まぁ、確かにそれなりに容姿には自信があるが……カレンも美人だしな。だが、司会者よ……ネーミングが安直だ。俺が言えた義理じゃないんだが……。原作でも、カーマイン達を兄妹チームと呼んでたしな……この司会者。「その……予選突破ですね」「次もこの調子で行こうぜ……ん?カレン、また顔が赤くなってるぞ?やっぱり風邪か?」「い、いえ!違うんです!その……美女なんて言われて……私なんて、そんなことないのに……」「何を言ってるんだ?カレンは垣根無しの美人だと思うぞ?少なくとも、俺はそう思ってるけど」そもそも、カレンが美人じゃなかったら、一般の方々はどうなる?多分そんなこと言ったら睨まれるぞ?正直、カレンは自分を過小評価してるよなぁ……って、カレン余計に赤くなったぞ!?「ああああ、あの……その……そんなこと貴方に言われたら、私……信じちゃいますよ?」「いや、まぁ……俺の個人的な意見だしな……けど、嘘は言ってないから……信じて良いぜ?」「シオンさん……」「…………」って……なんだこの雰囲気……何だか、以前にもこんな雰囲気になったことがあるような……うっ!そんな潤んだ瞳で見つめないでくれ……オッサン勘違いしちまいそうだからっ!!「あ〜……こんなことを言うのは何ですが……次の予選も控えてますので、両選手、ストロベリるなら後でにしてください」「「!!?」」コホン……という申し訳なさそうな咳ばらいを聞き、カレンと……恐らく俺もだが、顔を真っ赤にしながらそそくさと控室に逃げ帰った。って、違う!違うからな!?俺はストロベリってなんかいないんやあぁぁ〜〜!!?ちなみにカーマイン達も予選を勝ち抜いた……当然だな。つーか、控室に戻ってからも何か気まずい……恥ずくて顔が見れない…カレンも同じみたいだ。うぐぅ…こんなんで俺、本戦で戦えんのかぁ…?予選がとんとん拍子で進んで行く中、未だに俺とカレンは気まずい雰囲気を抱えたままだ。イカン!このままじゃイカン!!あの有名な超人も言っている!『屁の突っ張りはいらんですよ!』……と。……意味分からん。が、とにかく凄い自信に満ちた言葉だ!今はこんなことをしてる場合じゃない!そろそろ本戦が始まるんだからな。「まぁ、その……なんだ、俺は基本、嘘はつかないからして……さっきのも本心からの言葉なワケだ……」「ハイ……」うぐぅ……まだ動揺が隠せない!クールになれ……素数だ、素数を数えるんだ……。そもそも、何を勘違いすることがある……そういう勘違いをして痛い目にあったことがあるだろ?思い出せ……あの灰色の日々を……。…………(回想中)…………。オーケー、クールになった……危うく、クールを通り越して鬱になる所だったが……。orz「カレンはもう少し自信を持つこと!カレンは美人で可愛い。俺が幾らでも保証する」俺は最高の笑顔を向けた。よし、いつも通りのナイススマイル!やはり暑苦しさが足りないのが難点だが。「ハイ……シオンさんがそう言ってくれるなら…信じます♪(貴方が……貴方だけがそう想ってくれるだけで私……嬉しいんです……)」赤くなりながら、凄い綺麗な笑顔で答えてくれるカレン……うぐっ、不覚にもドキッとしてしまった。「さて、そろそろ俺達の出番だ!気合い入れていくぜ!」「はいっ!」よっしゃ!いっちょ行きますかぁ!何故かは分からないが、いつも以上に気合いが入ってしまう俺だった。本戦一回戦目は、四組同時のバトルロイヤルだ。最後まで残っていたチームが二回戦に駒を進めることになる。非常にわかりやすいな。「お、おい、あの【白銀の閃光】が居るぜ……?どうするよ?」「どうするもこうするも……やるしかねぇだろ?」「予選のアレ……とんでもなさすぎでしょ……?」「だが、接近戦もヤバイぞ……適正テストのあのゴーレムを倒したのは3チームいたが……その中でも奴は一撃で切り捨てたらしいからな……」「……先に潰しましょう。どうやら他のチームも同じ考えみたいだし」「幾ら【白銀の閃光】が強くても、全員で掛かれば……ってことね?」おおぅ?何やら視線が俺に集まってる……こいつらまさか。「それでは、試合開始!」試合開始を告げられたと同時に、3チームが一斉に俺達に襲い掛かって来た。やっぱりそう言う手段で来たか……どうする?選択肢は幾つかあるが……。防衛戦……大丈夫だとは思うが、カレンを危険に晒す可能性があるな。魔法戦……勝てるが、相手が心配になるな。上手く手加減しないと……これはどの案にも言えることだけど。「よし、これで行くか……マジックフェアリー!!」俺は魔力の妖精で、正確にそれぞれを狙うことにする……勿論、気絶する程度に手加減して。この大会も当然、殺しはご法度だしね。ズガガガガッ!!魔力の妖精が自在に舞い踊り、それぞれに命中していく。「ぐぇ!」「うぉ!」「きゃあ!?」「ぬぁぁ!!」「あうっ!?」「きゃんっ!」全弾命中……上手い具合に気絶してくれた様だ。こういう時にデバイスがあればなぁ……便利だよな、非殺傷設定。簡単にやってる様に見えるが、実は結構難しい。手加減する程度なら簡単なんだが、攻撃魔法で手加減し、尚且つ気絶する程度のダメージを与える……と、なると綿密なコントロールと繊細な魔力の調整が必要になる。「一回戦Bグループの勝者が決まりました!見事、二回戦進出の権利を獲得したチームは……【白銀の閃光】率いる美男美女チーム!流石【白銀の閃光】!またもや圧倒的な実力を見せつけてくれました!これは今後の試合展開も期待出来そうだ!」だから……もう良いや【白銀の閃光】で……他が勝手に呼んでるだけだし。気にするだけ疲れる……。「……………」「ん?どした、カレン?」「い、いえ……何でもないです」?……何やら複雑な表情を浮かべていたが……どうしたんだ?俺は気になったが、いつまた司会者から突っ込みが来るか分からない……だから、カレンを連れて控室に戻った。その後、カレンの様子はいつもと同じに戻っていた……俺の気のせいだったのか?*******私のことを、シオンさんは美人だって思っててくれた……それはその……凄く嬉しかった。少なからず、そういう風に思ってくれているということだから。頑張れば、シオンさんにも私の想いが伝わるかも知れないと分かったから……けど、さっきの試合で思うことがあった。――シオンさんは、応援してくれるだけで十分だ……と、言ってくれたけど……本当にそれで良いのだろうか?もし、私の想いに応えてくれたとして……その時に私は彼を支えてあげられるのだろうか……?私は知っている……こういうお祭りとは違う、本当の戦いという物を――シオンさんが嫌っているのを……あの時の壊れかけたシオンさんのことを……今は立ち直ったけど、今尚、傷つき続けていることを……それでも彼は覚悟を決めた……躊躇いながらも、背負いながら進んで行くことを……私は、今のままで良いのだろうか?守ってくれるのは嬉しい……けど、守られるだけは嫌……私は彼と……シオンさんと一緒に歩んで行きたい……。隣で歩む……ううん!せめて後ろから支えてあげたい……シオンさんがそうしてくれる様に……私も。その為にも今は……。「シオンさん……この大会、絶対勝ちましょうね!」「ん?おう勿論……どうしたんだ急に?」シオンさんは不思議そうに首を傾げる……これは私の一方的な想い……でも、決めた。強くなってみせる……貴方の傍を歩むに相応しい様に。貴方と一緒に歩むために……今は応援くらいしか出来ないけれど……必ず!……その前に、私の気持ちに気付いて欲しいけど……ううん!こんなところで弱気になっちゃ駄目よ!……もっと私がアプローチしなきゃ……ファイト私!*******なんか知らんが、カレンが急にやる気になった……正確にはやる気倍増!……みたいな?まぁ、元気になったなら何よりだけどな。泣き顔も綺麗だが、やっぱり笑顔も綺麗だしな……って、何言ってんだ俺は!?そうそう、カーマイン達とゼノス達も一回戦突破だ。当たり前なんだがな……今、ふと思ったんだが、よく予選や一回戦でこの2組と当たらなかったな……これも宇宙意思とかいうのが働いたのかね?二回戦からは二対二のチームバトルだ。ガチンコバトルって訳だな。ただ、特筆すべきことが無かったので、詳しい内容は省く。ただ言えるのが、俺達全員が余裕で勝ち進んだことと、二回戦でも仲間内でぶつかり合わなかったことだ……運が良いのか悪いのか。いよいよ次は準決勝か……トーナメント表を見たが、どうも俺達の相手はゼノス組では無いし、勿論カーマイン組でも無いらしい。というか、この二組がぶつかり合うらしいし。となると……アイツか。*******「ようウォレス!」「ん?ゼノスとラルフか……」俺達は観客席に足を伸ばした。そこにはウォレスと……カーマインとルイセ、それとティピがいた。………間違いなく本物だな。俺はラルフに振り向くと、ラルフもしっかり頷いた。「ゼノスさん、ラルフさん!二人もシオンさんの試合を見に来たの?」ティピが問いかけてくる……その通りなんだが、念のため確認しておくか。「まぁな……何しろ確実に決勝で戦う相手だからな……それよか、一つ聞きたいんだが……カーマイン、お前一人で俺の所に来たか?」「?いや……俺はずっとルイセやティピと一緒だったが……?」「うん、ずっと一緒だったよ?コイツがアタシ達から離れるとしたら、トイレくらいだけど……別にトイレには行ってないしね」「それがどうかしたの、ゼノスさん?」やはりか……じゃあ奴はラルフが言う通り……。「何かあったのか?」「実は、控室にカーマインによく似た男が来たんです……というより、カーマインそのものと言ったら良いのかな?服装も同じだったし、何より顔がそっくりだった……」ウォレスの質問にラルフが答える。そう、服装は言うに及ばず……なにより……顔がそのものだった……まるで……。「それって、ラルフさんみたいに?」「うん、全く同じと言って良い……僕も一瞬、カーマインかと思ったんだけど、側にルイセちゃんと……何よりティピちゃんが居なかったからね…妙な感じがしたんだ」「大方、変装でもしてたんだろうけどな……流石にティピを真似ることは出来なかったって訳だ」仮にルイセに変装は出来ても、ティピはサイズ的にな?お陰で気付けたんだが…な。「そのお兄ちゃんそっくりの人がどうしたの?」「俺たちに飲み物を差し入れに来たよ……しかも、かなり特別な奴をな」「特別な飲み物……まさか」勘の良いウォレスが気付いたようだな……。俺自身、シオンのあの占いがなけりゃ、今頃はどうなってたか……。「毒だよ……しかも結構、強力な奴をね」「な……っ!?」「ど、毒ぅ〜〜!?」カーマインとティピが驚く…っつーか、ティピの奴騒ぎ過ぎだ!!「シッ!静かに……どこで聞き耳を立ててるか、分からないから……」「ご、ゴメンなさい……」ラルフの注意を素直に受け取るティピ。「それで、その毒はどうしたんですか?」「とりあえず、飲むフリをした後に捨てた。あの偽物野郎も、それを見届けてから帰りやがったしな」「にしても、よく気付けたわね〜……」ティピが感心した様に言う……実際、感心しているんだろうがな。「まぁ、ラルフが気付いてくれたのと……シオンの占いのお陰だな」「占い……そういえばそんなのが得意だとか言ってたな……俺も占ってもらったが」「その占いの中に、この状況を示唆する様な文があったのさ……しっかし、あの占い、おっそろしい的中率だな」そういうのを信じない俺でも、これからは信じちまいそうだぜ。「しかし……その男は何者だ?大会出場者の関係者か……?だが、なら何故ゼノス達だけを狙った……?」「その辺りについては、僕に心当たりがあります……とは言え、事は結構大きい話なので……この大会が終わった後、シオン達を交えて話したいのですが……」「分かった……俺は構わない。皆はどうだ?」カーマインが全員の意見を取る……どうやら満場一致の様だな。俺はラルフからある程度の話は聞いてるからな……シャドーナイト……成る程、【影】か。「さぁ、両チームが位置につきました」「っと、どうやら始まるみたいだな」今はコッチにも集中しなくちゃな。「青コーナーはメディス村出身の戦士コンビ。特にニック選手の剛剣の噂は、このグランシルまで届くほどです」「ほう……剛剣のニックか……」「知ってるのかゼノス……?」「ああ、結構有名な奴だぜ?だが相手が悪かったな」カーマインの疑問に答える。確かにソコソコ有名な奴だが…今回は運が無かったな。「対する赤コーナーは旅の剣士シオン率いる、美男美女チーム。ここグランシルの闘技場のフリー部門にて、無双の強さを誇ったシオン選手……その時に付いた字が【白銀の閃光】!その字に負けない圧倒的強さで、ここまで勝ち上がってきました!」さて、お前がどういう戦いをするのか……じっくり見させて貰うぜ。**********「準決勝戦Aグループ、試合開始です!」司会者の声と共に試合が始まる。それにしてもニックか……原作では何気に好きなキャラクターだ。アイリーンがヒゲにグローシュを抜き取られて、廃人同然になってしまった時に、恋人であるアイリーンを助ける為、ヒゲの秘密基地に乗り込んで来た男……そしてヒゲのアイリーンへの仕打ちに怒り、ヒゲ軍団に挑んだ熱い男……怒りに駆られていたとは言え、『俺のアイリーン』と公然で叫んだ勇者だ。……あの時は敢えてニックにヒゲのトドメを刺させたりしたっけな……。あぁ、アイリーンってのはニックの恋人で、メディス村の医者。カレンの治療を担当した医者で命の恩人………ん?よく考えたら、アイリーンとカレンの接点をぶっこわしてるんだよな……俺。そもそも、カレン襲撃事件を経て、アイリーンに治療してもらってからカレンは医者を目指していくわけで……それまでは傭兵業を生業にしていたゼノスの為に、薬学を学んでるだけの女性なんだよな。だからⅡでも小さな診療所を開いてる訳だから…………俺ってば言霊の面に続いて、Ⅱのフラグを叩き折りました?……ま、良いか。さして問題あることじゃないだろ?……多分。「俺はニック……【白銀の閃光】……お前の力、見せてもらおうか」お、戦う前に名乗りを上げるとは……中々、騎士道精神に溢れてるじゃないの……とは言え。「その呼び方は好きじゃないんだ……ま、お手柔らかに頼む」気配で分かったが、確かにニックは強い……が、俺は勿論、カーマイン、ラルフ、ゼノスには届かない……オズワルドよりは強いみたいだが……敢えて言うなら盗賊団頭のグレゴリーと同じくらいか?「悪いがそれは約束出来ん……【白銀の閃光】相手だ……俺の全力を見せてやる!!行くぞ!!」ニックが剣を構え、突撃してくる……だから俺をその名で呼ぶなと言うに……どうすっかなぁ……魔法で迎撃するのはたやすいが……。ここは剣術の稽古と行くか。……しかし、そうなると、あの弓兵が邪魔だな……俺がニックと切り結んでいる間に、カレンを狙われかねない。もっとも、某錬鉄の魔術使いの様に百発百中というわけではないだろうが……やはりココは魔法で。「……シオンさんは剣士の人を……私は弓の人を抑えます」「カレン……?だがそれは……」「私だって戦えますっ!……シオンさんなら、二人相手でも切り抜けられるかも知れません……でも、私だって戦えるんです!……お願いします、信じて……下さい」カレン……もしかして、ずっとそんなことを考えていたのか……?俺はカレンと視線を合わせる……強い眼差しだ。俺なんかよりずっと強い……争いごとが嫌いなカレンを、ここまで奮い立たせる物……それが何かは分からない。ただ、その信念を踏みにじってはいけない様に――俺は思った……。「分かった……あの弓兵は任せる。ただ、危なくなったら横槍いれるからな?」「はい、任せて下さい!」「よそ見してる場合かぁ!!」「おっと」「!あの体制から、俺の剣を受け止めただと!?」俺は背のリーヴェイグを抜き放ち、ニックの一撃を軽々と受け止めていた。「そこそこ良い一撃だったが……まだまだだな」「くっ!舐めるなぁ!!」俺の態度が癪に障ったのか、猛攻を仕掛けてくるニック――。それに対して、俺も剣を合わせていく――。俺は身体能力をラルフくらいに抑えながら、しかし徐々に剣速を上げていく。すると次第にニックが着いて来られなくなる……。「く、くそっ!?」「……どうやらこの辺りが限界みたいだな」俺はこれで終いとばかりに、ニックの剣を跳ね上げる。「ぐっ!?」「終わりだ」姿勢が崩れたところに、気合いを乗せた拳打を放つ。「覇っ!!」ズドォォンッ!!「ぐっ!がああぁぁぁぁっ!?」ドゴオォォォォォ……ン……。闘技場の壁に叩き着けられたニック……やべぇ、やり過ぎたか?手加減したから、大丈夫だとは思うんだが……。********私も戦う……あの人にそう告げた……なら、私の出来ることをする!!弓の人がシオンさんを狙っている……!「させません!マジックアロー!!」ズドドドッ!!「くぅ!?」「あなたの相手は……私です!」あらかじめ、マジックアローを詠唱しておいてよかった……なんとか命中してくれた。けれど、私は攻撃魔法というのが得意じゃない……今の私じゃ、攻撃魔法はマジックアローくらいしか使えないし……それに魔力もルイセちゃんやシオンさんみたいに高くない……。「くっ……やってくれたな……」だから、弓の人がたいした傷を負う筈がない。魔法瓶を使うしかないのかな……でも、これは使い捨てだから……あまり使いたくないんだけど……。手が無いわけじゃない……覚えたばかりのあの魔法……あれなら弓の人を無力化することが出来るはず。けど、覚えたばかりだから、上手く出来るかどうか……それにあの魔法はマジックアローよりほんの少し詠唱時間が掛かる……でも、やるしかないもの!私が……抑えるって、やるんだって、シオンさんに誓ったんだから!!「…………」「呪文詠唱…!?させるか!!」弓の人が向かってくる……あの距離からでは、弓の人の矢が届かないからだろう。私は呪文詠唱を急ぐ……早く……早く!!!弓の人が立ち止まった!?そして矢をつがえる……ま、間に合わない!?もう少しなのに……!!「足を撃って動きを封じさせてもらうぞ……悪く思うなよ」そんな……やっぱり、駄目なの……?私では……あの人の支えにはなれないの……!?私は歯痒い思いをしながら、しかしこのまま私が傷ついては、シオンさんを苦しませるだけだと悟り、詠唱破棄を実行しようとした。けれど……。「ぐっ!がああぁぁぁぁっ!?」ドゴオォォォォォ……ン……。「な、何だ!?」何かが弓の人の横を通り過ぎて、壁に激突した……それはニックと呼ばれた、弓の人のパートナーの人だった……。「う、うぅ……」「ニ、ニック!?」弓の人が後ろを向き、ニックさんに声を掛ける……!弓の人の注意が逸れた!?今っ!!私はその隙を逃がさずに、呪文を完成させた。「…………!」「!?しまっ……」もう遅いですっ!「バインドォ!!」弓の人の周囲に光の柱が降り注ぐ。その光は地を這い、弓の人の足へ。光は弓の人の足に絡まり、動きを封じる。「ぐ……足が……!?」【バインド】人の運動神経にダメージを与え、軽い麻痺を起こさせる補助魔法……特にその麻痺は足下の自由を奪い、掛けられた者はしばらく下半身を動かせなくなる。「これであなたは動けません……降参してください!」「くっ!舐めるな!!例え足が効かなくとも……」そう、この魔法は特に下半身へ麻痺を与える……が、上半身はたいした麻痺を受けないため、動かすことも可能。けれど……。「チェックメイト」「っ!!」弓の人の後ろには、いつの間にか移動して、剣を首元に突き付けたシオンさんが居た。「相方は気を失ってるみたいだが……まだやるかい?」「……ま、参った」弓の人は弓矢を手放して降参を宣言した……。「勝負あり!準決勝Aグループの戦いを制したのは、魔法剣士シオンが率いる美男美女チームだ!見事、あのニックを倒し、決勝へのキップを手にしました!!」やった……私にも出来た……?「お疲れ、カレン」控室に戻って来てから、シオンさんが私を労ってくれる……ううん、違う。私はまた……シオンさんに助けられたんだ……シオンさんが居なかったら……私はきっと……。「そんな……私なんて、何も出来ませんでしたし……」「何言ってるんだよ……」ポン……。「あ……」「カレンは頑張っただろ?……ありがとうな、お陰で助かったよ」そう言ってシオンさんが微笑みを浮かべて、頭を撫でてくれる……何時もは快活に笑う彼が……初めて見た……なんて綺麗なんだろう……。「本当ですか……私、お役に立てましたか……?」「勿の論!大体、こんなことで嘘をついてどうするんだよ?」今度は何時も見せる清々しい笑顔……どちらの笑顔も暖かくて……染み込んで来る……。あぁ……シオンさんの笑顔が暖かい……シオンさんの手が心地良い……シオンさんの言葉が……染み込んで来る……。********……良かった。カレンが立ち直りそうで……。実際、カレンが弓兵を引き付けてくれてたから、剣術の練習……なんて言う余裕が出来たんだもんな。……最後は危ないっぽかったから、ニックを弓兵の近くへ殴り飛ばしたんだけど……にしてもバインドか……原作では使う機会が無かった……先入観からか、実戦でも使う機会が無かったからな……けど、考えたら、バインドは相手の動きを封じる便利な魔法だよな。今度アレンジしてみるかな?……………………………………………ん?撫で撫で。………………ん〜〜?………………なでなで。……………これは……つまり……ナデ?そういえば………さっき微笑みたいなのを浮かべた様な……なんか知らんが、自然に出ちゃったんだよね〜〜〜。………これって、ニコポナデポって奴?………ハハハハハハハハハ……ハフゥンッ!!!?や、やっちまったあああぁぁぁぁぁっっ!!!??セクハラ!?セクハラでタイーホされる!?いやぁぁぁ!!違う!違うんや!!なんか知らんけど落ち込んでるカレンを見てたら急に……!?こう、身体が勝手にぃ!!そう!俺は知っている!!二次創作で見たんだ……主人公でも無いやつがオリ主を気取ってこんなことをした時の末路を……。ニッコリ♪→こいつキモッ!→冷たい眼差し→オリ主に痛い目に合わせられる→BADENDナデナデ♪→なにすんのよ!!→急所にキツイ一撃→悶絶→オリ主に痛い目に合わせられる→BADENDオ・ワ・ッ・タ♪ははは……マジで終わった……主人公でも無いのに何やってんだ俺……。そういえばこの世界にオリ主とか居るのかね……?居ようが居まいが結果は同じか……。でも警察はいないから最悪は無いか………国家権力は居るか……兵隊さんとかね?牢屋行きかな?この世界では、セクハラとか無い筈だけど……まさかいきなり縛り首とかギロチンとか……ないよな…………無い……筈………。……………。…………。………。……。…謝ろう。そうだ謝っちまおう!!某煩悩を力に変える霊能力者も、某もっこりスイーパーも、セクハラする度に平謝りしてるじゃないか………そして折檻を受けてるじゃないか……例題を間違ったな。くっ、正直釈然としない物を感じるが……。やむを得まい!って、俺はいつまで撫でてんだ!!?バッ!!「あっ……」「その、ゴメン!!頭撫でたりなんかして……」「いえ!良いんです!!むしろ……その、もっと……して欲しいというか……」「……えっ?」今、なんて言った……?「な、何でもないです!その、気にしないで……下さい……」カレンが赤くなってる……赤く?……ポされてる?…まさかぁ♪もしカレンがポされてるなら、俺ってばオリ主の立ち位置かよ?ないない♪俺みたいなのがそんな……無い…よな?その後、何処かへ行っていたカーマイン達が戻って来るまで、口数が減っていたのは仕方ないことだろう?