「さて、ゼノス君の覚悟が決まったところで――」「……しゃあねぇだろ……我が儘言った上、これ以上どうしろと……戦場に向かう時以上に覚悟が必要とか、どういうことだよオイ……」何かぶつくさ言ってるのが一名いるが、気にしない気にしない♪というか、気にしたら負けだよ。ん?出場を辞退しないのかって?そ ん な こ と す る わ け な い だ ろ ?せっかくだから、グロラン・ザ・グロランを目指すのも悪くない。……殺し合いは好きじゃないが、喧嘩は別なんだよ。とは言え、今の俺では全力全開なんてしたら洒落にならん。だから多少は自重しますがね。「さて、グランシルに向かう前に少し寄り道して良いか?」「どしたの?シオンさん?」「ほら、ダニー・グレイズの件をアリオストに知らせておこうと思ってさ」ティピの疑問に答える。せっかく知った手掛かりだ……アリオストも喜んでくれるだろ?「そうだな……アリオストは研究室に居る筈だったな……」カーマインや皆も賛成してくれた様だ……。んで、アリオストの研究室。丁度出掛ける所だったみたいだな。「やあ、君たち」「アリオストさん、どこかへ行くところだったんですか?」「ああ、ちょっと、学院長に呼ばれてね」ああ……そういえばこんなイベントもあったな……出来ればこの流れをぶっ壊したいんだが……そうも行かないよな……今の段階でそれをすれば、俺の方が罪に問われるからな……マジであのヒゲはどうにかしないと…。「!ああ、そうだ。君たちに話すことがあったんだ。その前に一緒に学院長の所へつきあってくれ」「それくらいは構わない…じゃあ行くとするか」カーマインの推しもあり、俺達は再び学院長室へ逆戻り。で、再び学院長室。「失礼します」アリオストが入室の挨拶をする。何気にルイセ以外の『失礼します』はレアだよな……とか考えてしまう件。「やあ、来たね、アリオスト君。実は君の研究のことで、ちょっと話があってな」「はぁ」たく、このヒゲのせいでステラ女王の拉致が行われるんだよな……ここからしばらくは、ヒゲとアリオストだけの会話が続くので、しばらくは会話のみをお楽しみ下さい……って、俺は何を言ってるんだろうな?「君の研究が完了したらしいとの報告があったのだが?」「はい、成功しました」「それはおめでとう。……だが教授会でいろいろ検討した結果、君の研究は戦争利用をされた場合、非常に危険であると判断されたのだ」「はぁ……」「そこで魔法技術管理法に基づき、君の研究成果はこの学院で預かることになった。しかし悲観することはないぞ?君は人が空を飛べることを証明したのだからな。これが規定の報奨金だ」「はい……飛行装置は僕の研究室においてあります。飛行理論を記した研究書もありますので、よろしくお願いします」「これにめげず、次の研究に励んでくれ」「それでは、失礼します」以上、会話終わり……ったく、聞いてて胸糞悪くなったぜ……。危険なのはテメェだヒゲ!!「何だかフェザリアンと同じ様なことを言われたな」「ま、仕方ないさ。実際、この学院で開発される技術のほとんどはこうなるんだ」どこか悟った様な感じのアリオスト……フェザリアンの時の様に凹まないのはたいしたものだな。「それじゃどうして研究を続けるの?」「それが『証』だからさ」「あかし?」ティピが興味津々な眼差しを向ける……まるでトランペットに憧れる子供みたいだ。「詳しくは僕の家で説明するよ」「アリオストさんのお家?」「ああ。僕と父さん……それから母さんが数年間暮らした家だ」「そうか。確かお前さんのお袋さんは……」「シッ!それは、ここでは……ね?」ウォレスがウッカリと、アリオストの秘密を話しそうになった……あっぶね〜……こんな所で秘密を話したらあのヒゲに、どんな実験をされるか……まぁ、大丈夫だとは思うが……あのヒゲの興味はグローシアンにしかないからな……。だが、万が一ということもある。ウォレス、マジ自重。「す、すまなかった」「どうして母さんが父さんと結ばれたか、知りたくないかい?そういうわけだから、一緒に村に行って欲しいんだ」「そういうことなら、行かざるを得ないかな?」ラルフが皆に確認を取る。俺は勿論オッケー。カーマイン、ウォレス、ルイセ、カレン、ティピも同様だ。ゼノスは少々悩んでいたが、結局、納得したらしい……何をそんなに焦ってるんだ?適正テストも始まった頃だろうが、まだまだ余裕はある筈だろうに。俺達は一旦外に出た……学院内では強力な魔法は使えないらしいからな……俺やルイセはポンポンと使ってるが、テレポートは本来、最高位呪文に位置する魔法……当然学院内では使えない。「それじゃ、今回はルイセに任せた」「わたし?うん、分かった。テレポートするよ!」今回はルイセにテレポート役を任せる……毎回、俺がテレポート使ってたら、ルイセの為にならないからな。まあ、この距離なら歩いても構わないんだが、テレポートの方が確実に早い。そんなこんなで、文字通り、あっという間にブローニュ村に到着。「おーい!帰ったぞ!」アリオストが声を掛けると、村人が集まって来た。「おお、アリオストさんだ!」「帰ってきたな、出世頭!」「まあ、まあ」アリオストは村人を宥める……そして村人の一人に、学院長から受け取った報奨金を渡した。「はい、これ。学院から報奨金が出たんだ」「いつもすまねぇな。これでまた村が豊かになるさ」「いやぁ、僕はみんなみたいに村の仕事をしていないから」「何言うさ。アリオストさんには才能があるんだから、そっちをやるのが当然さ。村のことはオラたちに任せておくさ」「すまないね」「なんの、なんの」何と言うか……フレンドリーというか、カントリーというか……とにかく良い雰囲気の村人達だな。「僕は先に家に戻るから、後から来てくれ。しばらく帰らなかったから、汚れているんだ」「なぁ、お前の家ってどこなんだ?」ゼノスが尋ねる。そういえば、俺達……アリオストの家には行ったことないんだよな。一応、位置的には原作と変わらない筈だが……原作には無い家とかもあるし……まぁ、他の村人も住んでるんだから、当たり前なんだがな。「ここからでも分かると思うけど、近くに井戸があるから直ぐに分かる筈だよ」そう告げると、アリオストは家に向かって行った……やっぱり原作とは大差無しか。「アンタら、アリオストさんの友達け?」「はい。魔法学院の後輩です」「俺達は、まぁ…友達みたいなもんかな?仲間って方がしっくり来るんだが」ルイセと俺はそれぞれにアリオストとの関係を話す。俺は他の皆の分も含めての言だが。「どうさ、アリオストさんは?」「すごい人です。あの若さで自分の研究室をもらえる人は、そういないです」「そうだろう?あの人はオラたちの希望さ。お父さんも凄い人だったけど、あの人も凄いさ」ルイセの言葉に、満足気に頷く村人……そういや、ウォーマーってどうなんだろうな?「アリオストさんのお父さんも魔法研究家だったの?」「いいや、そうじゃねぇさ。オラたちがこうして生き甲斐を持てるのも、お父さんのおかげさ」「どういう事かな?」ウォレスが尋ねる。まあ、確かに気になるよな。「オラたちは親もなく、捨てられた存在だったさ。その日の飢えをしのぐのに人の物を盗んだり、悪いこともしたさ。だけどそんなオラたちを引き取って、この村に連れてきてくれたのが、彼のお父さんだったのさ。そしてオラたちに畑の耕し方を教えてくれたさ」「ああ。そして採れた物を街で売って、金を稼ぐ。そうやって自分たちの力だけで生きていく事を教えてくれたさ。自分で何とかしようと努力すれば、どんなことだって出来るんだってね」「アリオストさんのお父さんって、凄い人だったんですね……」カレンは純粋に感動している様だ……気持ちは分かるよ。そういうことは、やろうと思っても中々出来ないしな……普通に尊敬出来る人だよ。「アリオストさんは頭がいいからこんな村、出ていこうと思えばいつだって出ていけるはずさ。だけど、自分が研究を続けられるのもオラたちがいるからだって、出ていこうとしないのさ」「あの人が才能や運だけであそこまでになったなんて、誰も思っちゃいないさ。いつだってあの人は勉強している。それは凄いことさ。それどころか今日みたいに、学院から報奨金が出ると村のために回してくれるのさ」「天才は一日にして成らず、か」「真の天才とは、1%の閃きと99%の努力だ……とも言うけどな」村人達のアリオストに対する、想いって奴を聞いて、ウォレスと俺はそれぞれ思ったことを口にする……いや、マジで凄いよアリオスト。普段は涼しい顔をしているが、影では努力しているっていう……原動力は母への想いなんだがな。「これからもアリオストさんのこと、よろしく頼むさ」「ああ……勿論だ」カーマインがそう締め括る……さて、んじゃアリオストの家に行きますか。「おじゃましま〜す」「やあ、来たね。楽にしてくれていいよ」アリオストの家にお邪魔したワケだが……結構綺麗に片付いてるじゃないか。必死になって掃除したか?「さっそくだけど、『証』の事を教えてよ」「ああ。だけど、その前にちょっと別の話……、僕の両親の話をさせてくれ」「聞いたよ。お父さんって偉い人だったんだね」「なんだ、村の人たちに聞いたのかい?」照れ臭いのか、アリオストは少し顔を赤くしている。「ええ、ちょっとだけ」「聞いた話は一部だと思うけど、中々出来ることじゃないですよ」ラルフもどうやら感心していたらしいな。「それに、以前言っていたな。母親がフェザリアンだって」「う〜ん、考えてみれば人間を嫌っている彼らが人間と結婚したなんて、変な話だよね。オッケー!話して!」流石のティピも気になったか……そりゃあそうか。あのフェザリアンが人間と愛し合っていた……なんて、フェザリアンと邂逅した身としては信じられないわな。「この村はね、僕の祖父が何もない荒れ地を開拓して作った村なんだ」「おじいさんが?」「僕の祖父は若い頃、孤児たちを引き取って、ここに村を作った。孤児たちを養うために畑を作り、出来た物を売って暮らしの必需品を買った。それがこの村のはじまりだ。最初は養われることに甘えていた孤児たちだったけど、そのうち、自然と畑仕事を手伝うようになったそうだよ。僕の父も孤児の1人だった」「それじゃ祖父といっても、血は繋がっていないのか」「彼は僕たちみんなの祖父さ。言い換えればこの村の父親だね」「創立者……ということか」カーマインの言う通りなんだろうが、村の父親と言う方がしっくりくるな。「話を続けるよ?成長した孤児たちの多くは自信に満ち、別の土地に散っていった。そこで成功を収めた者もいて、みんなの希望にもなった。一方、この村に残った父は、自分がそうだったように孤児を見つけてはこの村へ引き取った」「……すごい……」「つまりは爺さんの意思を、親父さんが受け継いだ形な訳なんだな……」「だからアリオストさんが成功すると、皆さんも嬉しいんですね」「ちょっと照れ臭いけどね」本格的に照れ臭いらしく、アリオストは頬をポリポリと掻く。「けど、僕が研究を頑張って来たのは、村のみんなのためじゃないんだ……僕は、母さんに会うために……ただそれだけの為に研究を続けて来たんだ……自分の欲のためだけに……」アリオストは自身を責める様に言う……やっぱり気にしてたのか……。「……研究者って言うのは、少なからずそういうものだろう?」「そういうもの?」「確かにそうだな。研究者が研究をするのは、それを成し遂げたという……満足感が欲しいんだろう?多かれ少なかれ、そういう部分はある筈だ」「……そう言って戴けると助かります」アリオストはカーマインとウォレスに礼を言う……まだ吹っ切れないだろうが……これなら大丈夫そうだな。その後アリオストから、色々聞いた……アリオストの父が、傷ついたアリオストの母を助けたこと。アリオストの母が父に興味を持ち、いつしか二人は愛し合うようになった……ということ。原作でも触れていたが、アリオストの母……ジーナさんはアリオストの父親の優しさ、そして【歩き出す前に諦めるのは、愚か者がすることだ。人として生まれた以上、向かい風でもくじけず歩け】……という祖父から受け継がれた信念に触れ、興味を持ったのだろう。俺達は俺達の調べ上げた成果を話す……コムスプリングスにいるダニー・グレイズという人が、フェザリアンについて何かを知っている……ということを。で、俺のテレポートで行ける……というのと、ゼノスの希望で闘技大会に出ることも告げる。ティピが【証】について聞きたがった為、アリオストは話した……自身の研究者としての誇り……信念を。自分が研究をするということは、その研究を残すということ。自分が研究を完成出来なくても、その研究は後世で役に立つ時が来る……。それはつまり、自身が存在した【証】だと……。やっぱりアリオストは大した奴だ……俺は改めてそう思った。**********俺達はアリオストと別れグランシルへ……。で、ゼノスが慌てて何処かへ行ってしまった為、先に登録所へ登録しに向かう……誰と組もうか迷っていたら、ゼノスがやってきた。なんでも、組むつもりだったパートナーが、既に他の奴とパートナーを組んでいたという。既にカーマインとルイセは組んでいたため、選定外だったが、ならば俺達の中から組めばいいと言うウォレス……ちなみにウォレスは何回か出場していてエキスパートにしか出場出来ないため、俺達とは組めない。そこでゼノスは、こともあろうにラルフと組みやがった!!ラルフも承諾するし、俺はどうすれば良い!?何ですか?仲間外れですか?って聞いたらカレンと組めば良いとか言う。馬鹿なの死ぬの?しかしどうやらマジらしい……カレンも何故かやる気を出してた為、俺はカレンと組むことに。――どうしてこうなった?……まぁ、良いか。俺がカレンを守れば良いんだし……なんとかなるだろ。