周りが静寂に包まれる……って、俺……何かしましたか?「なんなんだ?俺、何か変なこと言ったか?」「シオン……お前もテレポートが使えたのか?」カーマインが尋ねて来たので、ちゃんと答えるとしよう。……何か誤解されてる雰囲気だし。「ああ……正確には『使える様になった』……だけどな?」「どういうことだ?」ウォレスが疑問を浮かべる。俺にはラーニングって能力があって、それによってルイセのテレポートを覚えました♪……なんて一々言うつもりは無い。細かい説明は面倒だし、俺自身、どうしてこんな能力があるか分かっちゃいないから、その辺を突っ込まれたら説明のしようがない。……何より、それを告げて皆に色眼鏡で見られたくはないからな。皆、そんな奴らじゃないとは理解しているが……やはり臆病なのかね、俺は。「どうも、ルイセが初めてテレポートを使った時に覚えたらしい……これは憶測だが、テレポートを使った時にルイセが大量のグローシュを開放した。それと同時に、俺のグローシュと共鳴現象を起こしたんじゃないかな?それに寄って、俺の中に眠っていた力も眼を覚ました。と、俺は考えてるけど?」それっポイことを適当に述べる。まぁ、大まかな流れに間違いは無いけどな。「でもそれだと、グローシアンなら誰もが共鳴現象を起さないかい?今までに君達の様な前例が無かった……とも考えられるけど」そこに異論を挟んだのはアリオスト。流石は天才学者……とでも言っておこうか。「あくまでも憶測さ……或いは、皆既日食のグローシアン同士だから起きた現象かも知れないし……まぁ、詳しくは分からないんだが」「う〜〜ん……僕もグローシアンは専門外だからなぁ……何とも言えないんだけど……学院長なら何か分かるかもしれないなぁ」アリオスト君……君は俺にあの狸ジジィの実験材料にされろと?……絶対に御免だっての。「な〜んだ♪アタシは、てっきりテレポートを前から使えたのに、それを隠してたかと思っちゃったわよ」「……実は……わたしも……」「……つまりアレかな?君達は、サンドラ様のピンチだった時に、俺がテレポートを使えるのに理由もなく、敢えて使わない様な、薄情な男だと……そう言いたかったわけかな?」「うぐ……そ、そんなことは無いわよ?………嘘ですゴメンなさいチョロっと疑っちゃいましたゴメンなさい」俺は言い訳するティピに、冷たい視線を送ってやる……すると、直ぐさま土下座に移行した……憎めない奴。どうやらルイセとティピが、特に勘違いしてたみたいだな……つーか、そんな薄情なことする印象を与えてたのか?……結構ショックだわぁ……。「ご…ごめんなさい!そんなつもりじゃなかったんです!」じゃあ、どんなつもりだったと?……な〜んて、言わないけどね。そんなこと言ったら、ルイセは泣いちまうだろうしな。付き合いはまだ短いが、それくらいは理解出来る。幾ら俺だって、そこまで空気の読めないことはしないって。「いや良いよ。気にしないでくれ」俺は気にしない様に言うが、些か凹んだぜ……。「大丈夫です!シオンさんが優しい人だって……私はよく知ってますから……」カレンが率先してそう言ってくれる。「そういうことだ。あんま気にすんなよな!」「シオンは気にし過ぎだよ。実際、皆そんなに気にして無いと思うよ?」「ああ……少し気になっただけだからな……それ以上の他意はないさ」ゼノス、ラルフ、カーマインもそれに続く……やっべ……目頭が熱くなってきた。やっぱり持つべきものは友達だなぁ……。「しかし、なんで今まで黙ってたんだ?」「黙ってたんじゃない。言うタイミングが無かったんだ」ウォレスの疑問に簡潔に答える。現に、俺は何度かテレポートが使えることを告げようとした……だが、何故かタイミングよく……いや、悪くか?告げることが出来なかったのだ。「成る程な」ウォレスも思い当たることがあるのか、納得したようだ。「んで、話しを戻すけどな?俺もテレポートが使える訳だからして、無理にルイセに飛んでもらう必要は無いんじゃないかと」要はルイセの代役を勤めようか?という提案です。正直、嫌々な所を無理に勧めるのは気が引けるし、原作では偏屈なフェザリアンに、言葉でベッコベコに凹まされたのか、涙目になりながら戻ってきたしな……ルイセは。なら、俺が行ったほうが良いだろう。こう見えても、元サラリーマンだ。……エリートでは無かったケド。しかし、現場回りで培った交渉術がある。少なくとも、某全身黒ずくめで成功率5割の交渉人より、まともな交渉が出来る自信はある。それに、生身で空を飛ぶというのは中々に興味を擽られる。ロマンだよ浪漫!……まぁ、俺も自力で『跳ぶ』ことは出来るが、自由自在な『飛行』は無理だからなぁ……いや一応、理論上は不可能じゃないが……あの魔法を使えば、某マフィアの高校生ボスみたいな『飛行』は可能だろうが……肝心の魔法の威力がパネェからな……被害が甚大だ。つーか、地面になんか恐ろしくて撃てんわ!「成る程……分かった。ならそれで行こう。それじゃあシオン君、こっちに来てくれ」アリオストに呼ばれたので、アリオストの所に向かう。「あの……ありがとうございます!その、わたしの代わりに……」ルイセがしどろもどろになりながらも、礼を言って来た。さっきのことをまだ気にしてんのか?「まぁ、俺も空を飛ぶってのに興味があったし。気にすんなって♪」俺は最高のスマイルと共にサムズアップしてやる。「……ハイ!」よ〜し、良い返事だ!ウンウン♪やっぱり女の子には笑顔が1番だな。……まぁ、泣き顔も捨て難いが……て!?違うぞ!?俺はノーマルだ!その後、俺達はカーマイン達に手伝ってもらいながら、飛行機械を装着した。「それじゃ、アタシ達はお家で待ってるからね!いってらっしゃ〜い!」「ああ、ちょっくら行ってくるぜ!」アリオストが飛行機械を操作する……すると、飛行機械から光の翼が現れ、フワリと身体が浮かぶ……そして俺達はグングンと上昇して行った。「……………」んでもって、ただいま上空を飛翔中……下を見ると皆が豆粒くらいになってます。ここは『人がゴミの様だぁっ!!』……という台詞が相応しいのかも知れないが、まかり間違っても仲間をゴミ扱いにしたくありません。というか正直、言葉が出ません。この絶景に……いや、それ以上に空を飛んでいるという感動から。「どうだい?空を飛んでみた感想は?」「なんつーか……言葉もねぇわ……」強いて言葉をあげるなら、俺は今!猛烈に感動しているぅ!!……と言ったとこだな……。……あっ!?『I Can Fly』って言うのを忘れた!空を飛べたら言おうと思ってたのに!?そんなこんなで、俺とアリオストはフェザリアンの浮き島……フェザーランドに降り立った。「さて……上手く薬を貰えたら良いんだが……」「大丈夫、きっと話を聞いてくれるさ」アリオストはそう言うが、なまじ原作を知っているだけに、ある程度は想像出来てしまう。さぞかしムカッ腹が立つことだろう……しかし、こっちにも交渉材料はある……フェザリアンは人間に対し憎悪しており、上から目線で人間を小馬鹿にしている節があるが……フェザリアン自体は馬鹿じゃない……まぁ、女王辺りとなら、それなりの交渉が出来るだろう……さぁて……ネゴシエーションを始めようか?*******「たっだいま〜〜♪」ティピが声高らかに告げる……そんな大声を出さなくても聞こえるってのに。「後はシオンさんが戻ってくるのを待っていればいいんだね?」「だな。薬を貰ってくるだけだ。早く済むだろうさ」ティピの疑問にゼノスが答える。確かに、薬を貰うだけならすぐに済むだろうが……アリオストが母親に会いに行ってるのだからな……しばらく時間が掛かるかもな。とは言え、今日中には戻ってくるだろう。「それよりサンドラ様の具合は大丈夫なのか?」「シオンが言うには、半年は平気な筈ですから、大丈夫だと思いますけど……少し様子を見てみるかい?」ウォレスとラルフが母さんの様子を気にする。確かに、時間的には余裕があるとは言え、気にはなる。「そうだな……様子を見てみるか」「それに、もうすぐお薬が届くことも、お母さんに伝えたいしね」ルイセは母さんを安心させたいのだろうな……。俺達は母さんのいる部屋に入る……。「マスター、眠ってるね」近くに控えていた医者の先生に聞いた所、今しがた眠ったばかりとのこと。…なら起こすのも気が引けるな。「お母さん……」ルイセは眠る母さんを見て、再び涙が零れそうになる……本当、涙脆いよなルイセは……昔からちっとも変わらない。「大丈夫だ。もうすぐシオンが薬を持って帰ってくるんだから……な?」俺はルイセの頭を優しく撫でてやる。ルイセはこれが好きだったからな……大概こうしてやれば、涙も治まるんだよな。「お兄ちゃん……うん♪そうだよね!」涙は零れずに、にこやかな笑みを浮かべる。やっぱりルイセには笑顔が似合うな。「……この人がサンドラ様……」ん?カレンが母さんを見てる……そういえば、カレンとゼノスは母さんとは直接の面識は無かったっけな……。「早く良くなって欲しいですね……サンドラ様とは、色々お話してみたいですし」カレンが母さんと……?心配してるっていうのは、何となく伝わってくるので分かるが……。母さんと何を話したいんだろうな……?「シオンが薬を持ってくるまでだ。そのフェザリアンってのは人間よりも薬学が進んでるんだろ?それなら安心だな」「そうですね……思ったより早く事が収まりそうで、安心しましたよ」ウォレスとラルフが安堵の息を漏らす。まだ、シオンは帰って来てはいないが、気分的には俺も同じだ。「とにかく、ここで騒ぐのはやめようよ」「そうだな……外に出よう」俺達はティピの提案を受け入れ、外で待つことにした。そして数分後……。「あら、シオンさん。早かったのね。お薬は?」「それが……ちぃっとばかし厄介なことになっててな……」思った以上に早く戻ってきたシオンに多少驚きながらも、薬のことを聞く……が、どうやら薬は持っていない様だ。何か面倒ごとが起きたらしいな。「一体、何があったんだ?アリオストの奴が居ないみたいだが……」「まぁ……その辺も関係しててな。……多少話は好転したんだが……何と言ったら良いか……半分は俺の責任と言うべきか……実際、あそこまでだとは思わなかったぜ……」どうやら、話を上手く進めたのもシオンなら、ややこしくしてるのもシオンらしい……それ以上に、シオンの言い分を聞いていると、どうにもフェザリアンという奴は中々に気難し屋のようだ。「まぁ、論より証拠。一緒に来てもらったほうが早いな……その為に戻ってきた様なものだし。場所は覚えてきたから、いつでもテレポートが可能だぜ?」「分かった、早速行こう。皆も構わないか……?」「もっちろん!早く行きましょ!」「うん!」「ああ、もちろんだ」「ええ、急ぎましょう……!」「準備はオッケーだ……行こうぜ!」「シオンが一人で戻って来たんだ…その理由を確かめないとね」皆それぞれ頷く。「よし、テレポートするぞ」俺達はそれぞれ光の球に包み込まれた…。