*********「くっそ……切りがねぇ!!」俺達はそれぞれに任務に着いた……任務とか、中々格好良いじゃねーか。今は懐もあったけぇし、シオンの頭万歳!!正義の味方万歳!!糞喰らえ!!グレゴリーのケチ野郎!!……まぁ、金のことはついでだがな……一旦、堕ちる所まで堕ちる寸前まで行った俺が……再びこうして理想に燃える日が来るなんてな……と、んなこと考えてる場合じゃねーな。「オイ、ビリー!ニール!気合い入れろよ!?」「了解っす兄貴!」「とは言え、流石にキツイっすよ…」確かにな……さっきからモンスターが引っ切り無しに来やがる。最近、古巣の盗賊団にモンスター使いが加わったって話だが……そいつの仕業か?奴らの目的は、間違いなくカレンっていう嬢ちゃんだ……俺達を足止めしておく算段みたいだが……。「モンスターに任せて、テメェは高見の見物かよ……気にいらねぇなぁ!!」俺は手近に居たモンスターの頭をカチ割る。だが、一匹倒しても、また一匹出てきやがる。一応、マークとザムを先に向かわせたが……どうにも嫌な予感がしやがる……!!「そこをどきやがれ雑魚どもがぁぁぁぁ!!!」早く向かって、アイツらの救援にいかなけりゃあ……!!*******「あ……あ……」今、私の目の前にはシオンさんの仲間の人たち……マークさんとザムさんが居る……ボロボロの姿になって……。「く……くぅっ……」「……この男……強い……」彼らの見据える先には一人の男性……黒いフードとコートを着た人が剣をダランと構えて立っていた。「フン……モンスター使いには戦闘能力が無いとでも……?救いがたい愚者共だ……貴様ら程度、レブナントの力を借りる迄もなかったな」彼の後ろには数人の盗賊と、大きな飛竜。盗賊達は私たちの様子をにやけた表情で嘲笑う。「ハァ……ハァ……舐められた――ものだな……!!」「……まだ、倒れる訳には……」二人は再び立ち上がる。……ボロボロになりながら、私を庇って……。「も、もう良いです!もう良いですからっ!!」私は彼らに懇願する…これ以上、私を庇って彼らが傷付くのは見ていられない……。「そういう訳には行くか……アンタを守るのが俺達の仕事なんだからな……」「……しかし、あの飛竜が邪魔だな……嬢ちゃんを逃がしたら絶対嬢ちゃんを追っていくだろうな……」マークさん達がそんなことを話してると、黒いフードの人がため息を吐く。「もう良い……戯れにも些か飽きた。レブナント、餌だ。存分に喰らえ……女は喰うなよ?」「GOAAAAAAAA!!!」飛竜の咆哮が周りに響く。……恐い……圧倒的な威圧感……絶望感……。「……俺はまだ死にたくないんだがな……」「俺だってそうだ……だが、仕事だから――な。逃げたら、シオンの頭に顔向け出来ないし……」「……言ってみただけだ……」「ならもう少し、建設的な意見を所望する……」彼らが軽く言い争っている……けど、彼らの足が震えてる……怖いんだ……でも逃げ出さない……私のせいで……そんな私も身体中が震えて、座り込んでしまっている……怖い……怖い……!!私は……首から掛けたあの人からの贈り物……プロミス・ペンダントを握りしめる……お願い……助けて……助けて……!!――私は今、この街に居るゼノス兄さんでは無く、何処に居るとも知れない……あの人に……助けを求めてしまった……幾らあの人でも、そんなに都合よく助けに来てはくれない……でも、私はあの人を想い描いてしまった………。……シオンさん……シオンさん……!私は涙を滲ませてしまう……目の前ではマークさんとザムさんが、震えながらも、その場から逃げ出さずに武器を構えている。飛竜は一瞬、眼を細め……カッと見開き、襲い掛かって来た。駄目……二人が…二人が死んじゃう……!?「いや……助けて……助けてぇっ!!シオンさあぁぁぁぁぁぁんっっ!!!」私は心の底から叫んだ……涙を振り撒きながら……来る筈のない愛おしい人を……。「呼んでくれたなら……応えなきゃなっ!!」声が聞こえた……力強く、優しい声――。声と共に降り注ぐのは、赤い閃光――。「!?GUGYAAAAAAA!!!??」あれは……赤い、マジックアロー?その赤いマジックアローが飛竜の顔に刺さり、炎が燃え上がる。あの声は……間違い様が無い……!!私が何時も想っている、人……!「……今の声は……まさか……」「ああ……!間違いない……!!」マークさん、ザムさんも気付いた様だ……あの人の声だと。スタッ!空から飛来したのは、一人の男性……銀の髪が陽光に輝く……あぁ、間違いない…本当に助けに来てくれた…。「ベタベタ過ぎるシチュエーションだが……間に合ったみたいだな」「シオンっ……さんっ……」私は人目を憚らずに泣いてしまう……ピンチの時に駆け付けてくれる……正義の味方みたいな人……私の大好きな、愛しい人の名を呼びながら……。********間に合って良かったぜ……竜の咆哮みたいのが聞こえた時は焦ったが、この身体で爆走したんだ。間に合わない筈がねぇ。「レブナントっ!?レブナントォッ!!?」飛竜は苦しみもがいていた……顔の炎を消したいが、息を吸い込めば炎が口から入ってくる……つまり息が出来ない。マジックアローのアレンジ……【ファイアーアロー】……炎のマジックアローだ。ファイアーボールが範囲魔法なのに対して、これは単体魔法。密集戦なんかで役に立つ。俺は更に、別の詠唱をする。勿論、高速詠唱を用いて瞬時に終わらせる。「ウォーターアロー」バシャバシャァ!ジュウゥゥゥ……。苦しみもがいている飛竜に、水の矢が襲い掛かる。しかし、それはぶつかるが、たいした威力も無く、炎を消しただけ。俺が威力弱めに撃っただけなんだがね?【ウォーターアロー】読んで字の如く、マジックアローのアレンジで、水の矢だ。しっかり魔力を込めれば対象を貫ける力がある。これは、これから起きるであろうイベントの対策として作った魔法だが、実戦にも対応出来る。火属性の敵には効果抜群だろう。余談だが、前述のファイアーアローと、このウォーターアローは野宿の時には非常に重宝する。「貴様……よくも我が友を……許さん……絶対に許さんぞぉ!!」黒フードの男が喚き出す。こっちはワザワザ炎を消してやったんだ……感謝してもらいたいな?「絶対に許さん……か」俺は後方に眼を向ける……膝を着いて荒い息を整えるボロボロなマークとザム……そして、恐怖からか、泣きじゃくるカレン……やっぱり涙を流すカレンは綺麗だ……とか、考える俺はドSなのだろうか?……なんてのは、今はどうでもいい。「グローヒーリング」俺はこの世界で最高の回復魔法……グローヒーリングを唱える。これは一度に大勢を完全回復させる魔法だ。「お…?」「…傷が…」二人が負っていた傷を癒す。完全にだ。メジャーな所で言えば、ドラ○エのベホ○ズンみたいな物だからな。このグローヒーリングは。「二人とも、よく逃げずにカレンを守ってくれた……礼を言う」「……礼を言われる必要は無い……当たり前のことを……」「しただけ……ですから……まぁ、給料分くらいは働かないと、ね」二人が俺に最高の笑顔を向ける。俺も最高の笑顔で迎える。俺達の間ではナイススマイルは必須スキルだからな。目指せヒートスマイル!!……だが、何故か俺は上手く決まらない……暑苦しさが出ないんだよな……今、1番ヒートスマイルに近いのはオズワルドだったりする。「貴様!!聞いてるのかぁ!!」黒いフードの男が五月蝿い。だが無視する。「カレン……」「シオンさん……」俺は最高の笑みを浮かべて告げる。「少し待ってろよ。今すぐこいつらをブチのめして、家に連れてってやるからな?」「は、ハイ!!」涙を流しながらも、笑顔を向けてくれた……確かにカレンの泣き顔は綺麗だが……それを、俺以外の奴が泣かせたってのは――許せないな……。「おのれぇぇ……この様な屈辱は初めてだ……レブナント!!アイツを喰らえ!!」だが、レブナントと呼ばれた飛竜は動かない……震えているのだ。「どうしたレブナント!?お前に恥を掻かせた者が居るんだぞ!?何故動かん!?」それは無理だ。何故なら俺が飛竜へ直に殺気をぶつけているからだ。この身体から発する殺気は、原初の恐怖を相手に抱かせる。つまり喰うか喰われるかの、弱肉強食の恐怖を……だ。しかも今はこの飛竜に一点集中で浴びせてるのだから。コイツには己より巨大な竜にでも見えるのかもな。まぁ、どうでもいい。「おい、トカゲ野郎……」俺が一歩を踏み出す……すると飛竜はビクリと身体を震わせ、その身を後退る。「やるってんなら相手になるが……今度はきっちり焼肉にするぜ?それとも細かく切り刻んでやろうか?安心しろ……ちゃんと骨まで喰らい尽くしてやるから」更に殺気を強くしてやる……すると……。「GYAAAAAAAA!??」飛竜は混乱……いや、恐慌状態に陥る……しかし逃げることも叶わない……殺気にやられ飛ぶことも出来ないか。俺は怯える飛竜に近寄り……その顔を撫でてやる。撫でている俺の掌が光る。キュアを掛けてやったのだ。火傷が徐々に癒えていく。「大人しくしていれば危害は加えない……分かるな?」俺は優しく諭す様に話し掛ける。飛竜は不思議そうに見ていたが、やがて震えが止まり、まるで了承したと言わんばかりに後方に下がる。「良い子だ……」「レブナント!!何をしている!!早くそいつを……」「ギャアギャア喧しい奴だな……飛竜の背中に隠れないとマトモに戦えないのか?」「なにぃ!?」「そいつは試してるのさ……俺を強者と認めたそいつは、お前が本当に主足り得るのか――」俺は背中に背負った大剣を抜き放つ。「そいつとの絆を取り戻したければ、テメェの覚悟ってモンを見せな。それとも、弱い者虐めしか出来ねぇか?」……俺が言えた台詞じゃねーな。俺も広義的な意味では弱い者虐めしかしてねーし――。「ふざけるなぁぁぁ!!!」黒いフードの男が俺に切り掛かる。俺はそれを軽く受け止める。「ぐぅ……がぁぁぁ!!!」黒いフードの男が怒涛の攻撃を仕掛けてくる。激しい金属音が周囲に響き渡る――。ま、俺にとってはスローモーションみたいなものだが。当然、全部弾く。つーか、弾くのも面倒になってきたな……。そう思った俺は、敵の攻撃をかわし続けることを選択する。奴の剣撃を紙一重に――避けて避けて避けまくる。「成程……」「ハァ……ハァ……おのれぇ…」男は息が荒く、俺は涼しい顔で男を見下す。殺すつもりならもう何十回も殺せた。まぁ、そのつもりは無いけど。コイツは原作には居ないキャラだからな……実力を測るに越したことはないし。「お前の強さはオズワルドと同じ位だな……中々に強いが……上には上がいることを知るべきだ」別に俺じゃなくても、カーマイン、ウォレス、ラルフ、ゼノスにインペリアルナイツ……etcetc……。コイツ以上なんてゴロゴロいる。原作に出て来たシャドーナイツ所属のモンスター使いよりは――強いかもしれないがな。「それじゃあ、実力も分かったことだし……アイツらを傷付けた礼、カレンを泣かせた礼――きっちり返すぞ?」俺はゆっくりと奴に近付く……威圧感と殺気をぶつけながら……。「ヒッ…!?」奴を始め、盗賊連中の動きが止まる。一歩……また一歩と近付く。盗賊の一人がそのまま気絶する。また一人……また一人と。俺がやってるのは【気当たり】と言う奴だ。本来、動物ってのは本能的に天敵を感じ取ったりするが、人間にも少なからず、そういう感覚が残っているものらしい。優れた達人同士の戦いでは重要な要素で、フェイントに使ったり、牽制として相手の動きを封じたり出来る……とは、某史上最強の弟子の師匠、喧嘩百段の空手家様がおっしゃっていたことだ。まぁ、格上相手には通じないがな?しかし逆に、格下相手だと今みたいに気絶させたり出来る。……そう考えると、は○めの○歩に出てくる、某浪花の虎が使う、殺気のフェイントも――この気当たりに分類されるんだろうな。なんて、考えてる内に盗賊どもは全員気絶していたが。「……俺の気当たりをマトモに受けて、気を失わないのはたいしたモノだが……」「ハァ……ハァ……ハァ……!」このモンスター使い、かなり気合い入ってるな……足は震え、身体中汗だくになりながらも、立ち向かおうとしている。「悪いが、俺も少しカチンと来てるんでな……懺悔の時間と行こうか?」因みに後方のカレン達には殺気を飛ばしていないので、何事も無く無事だったりする。「……私は……私は!友の信頼を勝ち取らねばならんのだ……故に、倒れる訳には……いかん……のだ……!」男は剣を振りかぶって来る……だが俺の剣は、奴の剣の刃を文字通り切り捨てた。魔剣リーヴェイグ……俺が持っている限り、切れないモノは――無い。ドスッ!切り飛ばされた奴の剣の刃が、奴の後方に突き刺さる。俺は奴に剣を突き付けた。「彼女の前で残酷シーンは見せたくない……見逃してやるからとっとと失せろ」もっとも、カレンが見ていなくても、残酷シーンを行うつもりはないんだがな。「……くっ!!おのれぇ……我が名はエリック……この恨み、忘れんぞ!!」エリックと名乗った男に、ド三流な捨て台詞を吐かれる。ワザワザ名乗るとは、ありがたいことで。そこへ、さっきの飛竜が近付き、エリックに頬擦りした。「…レ、レブナント……?」「良かったな。お前の根性は、相棒にも伝わったみたいだぜ?」そう、圧倒的に負けていたが……その戦いぶりに改めて主人と認めた……のだろう。普通は見捨てていても可笑しくはない。所詮この世は弱肉強食……って奴だ。俺はそういう考えは好かないが、それが一つの真理であることは事実。モンスターや動物などの野生生物には、特にその傾向が強い。例え躾られていても、原初の恐怖に抗うのは中々出来ることじゃない。それだけ、絆が深いのかもな。もしかしたら、この飛竜は主人の本来の気性を見たかったのかも知れないな……まぁ、野生の世界でも、妙な例外があったりするからな。草食動物の子供を、肉食動物が守ったり……な。「……レブナント……俺は……俺は……っ!!」男が泣きながら飛竜に抱き着く。飛竜はそれを優しげに見守っている。「よぉ……俺を許さないそうだが……リベンジしたいなら俺の所に直で来い。そん時は相手してやるよ。……だが、もし今度仲間に手を出そうとしたら……お前らの存在を塵芥一つ残さず消してやる……覚えとけ」俺は飛竜と男に、殺気をぶつけながらそう告げる。……まぁ、まだまだ人を殺めることは出来そうにないからな……ぶっちゃけハッタリです。気概自体はハッタリでは無いし、その覚悟もあるが……土壇場ではどうなるかは分からない。思ったより簡単に出来るかも知れないし、躊躇してしまうかもしれない。やはり俺は甘いのかね……。「良いだろう……修練を積み、再び見えてやる!!貴様を倒すのは俺……いや、俺達だ!!」「GOAAA!!」飛竜と男は殺気を押し退けて宣言する。良い気概だ……中々どうして、これが絆の力ってか?……悪くはないな。「おう!喧嘩なら大歓迎だ!また喧嘩――しようぜ!!」俺は男と飛竜に最高の笑顔を向ける……やはり暑苦しさが足りない。少しムカッ腹だったのは事実だが……まぁ、仲間に手を出さないと誓ったなら良いさ。「フン……その余裕、必ず打ち砕く!行くぞレブナント」男は飛竜に乗って上昇、そのまま飛び去って行った。「やれやれ……終わったぜ?」俺は後方で待機していた三人に近付きながら声を掛ける。「流石はシオンの頭、あの男を――あんな簡単に退けるなんてな」「俺に言わせるなら、お前らの鍛え方が足りないんだ。もう少し鍛えろ。あのレベルの奴に二人掛かりでボロ負けしてたら、これから先キツイぞ?」「……反論出来ない……な……」俺の戦力批判に、二人が冷や汗を流している。いや、マジな話しだぜ?俺としても仲間に死んで欲しくは無い。そんな二人を尻目に、しゃがみ込んでしまっているカレンに近付く。「終わったぜカレン……大丈夫か?」「は、はい。貴方の御蔭です……貴方がいなかったら…わたし……」カレンが頬を赤く染めながら、潤んだ瞳で俺を見つめてくる……風邪か?……なんか、前にもこんなことがあった様な……?「気にするなよ。カレンがピンチなら、この星の裏側からだって直ぐに駆け付けて来るさ」俺はカレンにそう言ってやり、手を差し延べる。何と言うか不安を消し飛ばすつもりで言ったのだが……。「シオンさん……わたし……」何故か余計に赤くなってしまった……何故だ?っていうか、何か勘違いしてしまいそうだ………やはり、前にもこんなことがあったような……既視感?「……まぁ、そのなんだ?立てるか?」「……ゴメンなさい……情けない話ですが、腰が抜けてしまって……」まぁ、仕方ないよな……カレンは可憐な女性だし……駄洒落じゃないぞ?本来、心が強い人でもあるんだがな。「そうか……ホラ、おぶされよ」俺は背中を見せてしゃがみ込む。以前もこうやって背負って行ったっけな……プリンセス抱っこはセクハラの罪に問われます。サンドラ様の時?あの時は緊急事態だったんだから、仕方ないだろう。普段は絶対にしない…………ん?カレンが来ない……?俺は振り向くと、カレンが頬を膨らませて不満そうにしていた……うっ、可愛い……けど何故に?「……あの、宜しかったら腕で抱き抱えて欲しいのですが……」はっ?何を言っちゃってるんでしょうかこの娘は?それはつまり……プリンセス抱っこって奴でしょうか?「……それとも……わたしでは重いから嫌ですか……?」「いや、そんな訳無いだろ?カレンが重いわけない……つーか、重くなかったしな」以前背負った時はむしろ軽いくらいだった。もしかして不本意に重く……?……とかは言わないけどな。流石に俺でもそれくらいのデリカシーは弁えてる。「仕方ないな……じゃあ、少し失礼するぜ?」俺はカレンを抱き上げようと手を伸ばした。********「ふふふ……あれが特異点の一人か……中々強いみたいだけど、あの程度の輩に手間取る様じゃ、まだまだかな?」ボクは遠目に写る男を嘲笑う……インペリアルナイツくらいには強いかも知れないな……まぁ、ボクの敵じゃないね。しかし、彼は中々面白い力を持っている様だ……あの火と水のマジックアロー……この世界の魔法を改竄する力か……欲しいなぁ……あの力。「にしても、誰も殺さずに勝っちゃうなんてね〜〜。まるで英雄……いや、この場合は正義の味方かな?ん〜〜、よく考えたらこれじゃあ彼の実力を正確に計れないよなぁ〜〜。……よし、やっぱりアレを使おう♪」ボクは呪を唱える。あそこで気絶している奴の一人に、細工しておいたんだよね〜♪さ〜〜て、君の力を見せて貰おうか?特異点君?********「?何だ…!?」これは……魔力か!?何処だ……何?俺が魔力の出所を探ろうと、カレンに差し出した手を止め、気配を探るが……突然、気絶していた盗賊の一人が立ち上がる。もう気がつくなんてな……だが、今はお前の相手をしている暇はないんでな。「寝てろっ!!」俺は立ち上がった男に殺気をぶつける。だが……。「微動だにしない……だと!?」幾ら全力の殺気じゃないとは言え……さっきはこれで気絶したんだぞ?「うぐぅぅぅ…………」……?様子が変だ……目が白目を向き、顔に血管を浮かべて……。「ガアアァァァァアァァ!!!」!?早い!?奴が襲い掛かってくる……その加速は達人のそれ。この動き、カーマインやゼノスクラスか!?俺は奴の繰り出すナイフを避ける。チィッ……これだけの力を隠し持ってたってのか?まぁ、それでも俺には通じないが……カレン達に襲い掛かられても、厄介だ。「くっ……仕方ない、少し痛い目にあってもらうぜ!!」俺は鳩尾に拳を叩き込む。更に奴の身体がくの字に曲がった所を蹴り飛ばす。奴は派手に吹っ飛び、地べたを転げ回る。マズい……今のは肋骨が何本かいったな……加減したつもりだったんだが……あまり良い気持ちはしない……な!?「グゥゥゥゥゥ……」奴は何事も無く立ち上がる……馬鹿な!?肋骨が折れてるんだぞ!?普通なら激痛で動けない筈……。「頭――コイツは俺達が……」「…流石に少しは働かないとな…」マークとザムが駆け付けて俺の前に来て武器を構えるが、俺はそれを押し止める。「来るな!!カレンを連れて逃げろ!!コイツはお前らじゃ……!?」「ガアアァァァァアァァッッ!!!」奴がこちらに踏み込んでくる……更に早くなった!?加速した奴の凶刃が、マークとザムを捉えた―――!!!「があっ!?」「ぐぉっ!?」マークとザムは男に切り刻まれる。「マークっ!ザムっ!!このぉ!」俺は先程より更に力を込めて殴り付ける……奴は咄嗟に防いだが、奴の腕の骨がグシャグシャに砕ける音が、手に響く。「マーク!!ザム!!………致命傷は無い……が、出血が多いか……グローヒーリング!」俺は再び二人の傷を癒す……二人はゆっくり起き上がろうとする。「無理するな……幾ら傷を治したって言っても、失った血が戻る訳じゃないんだ」「すんません……お頭……」「…………」二人は面目なさそうにうなだれる。「シオンさん!!?」カレンが叫んだ……俺はカレンの指し示す方を見ると……。「な………に……?」そこにはあの盗賊の男が立っていた……しかも、砕けた腕を再生させながら……なんだコイツ!?人間じゃない……のか!?ゲヴェルの複製人間だってこんな回復力は無いぞ!?これじゃあまるで新型ゲヴェル……ヴェンツェル並の回復力だ……。「グゥォオゥゥゥゥ……」コイツ……いや、もしかしてさっきの魔力の主が何かしやがったのか……?場所は既に把握している……そいつを潰せば……。「ウガアァァァァァァ!!!」「!?チィ!!」今度は俺に襲い掛かってくる……コイツを無視して向かえばカレン達が危ない!クソッ!!これじゃあ原因を潰しにいけねぇ!!*******「フフフ……リミッターも強制解除して、限界を取っ払い、強制的に回復力も上げている……致命傷を与えなければ何度でも立ち上がってくるよ……さぁ!さぁ!!君の力を見せてくれ!!!」ボクの弄った玩具が彼と戯れている……インペリアルナイツ位の力があれば殺せるんだからね……ボクを失望させないでよ?*********くっ……なんなんだコイツは!?俺の攻撃を喰らいながら、何度も立ち上がってくる……致命傷にならない様に加減して戦ってはいるが、普通なら気を失うなり、苦しみ呻くなりする……だが、コイツは立ち上がる……何事も無いかの様に……立ち向かってくる……。俺は恐怖した……コイツにでは無い。この状況を打開する策が一つしかないことに、だ。コイツは誰かにおかしくさせられている……。なら、その術者をどうにかするか?それは無理。理由は術者がこの場所から、かなり離れた場所にいるからだ。俺の足なら、直ぐに駆け付けて倒すことは出来るだろう……だが、俺の後方に居るカレン……血を減らして身動きがとれないマークとザムが狙われる……。テレポートを使うには、明確に場所をイメージしなくてはならず、奴の居場所は知っていても、居る場所を見ていない俺では、テレポートを使っても奴の居場所へは辿り着けない。……ならば方法は一つだけだ。「……殺るしかない、のか……」俺はリーヴェイグを握り締める……。まさかこんなに早く決断を強いられるなんてな……。奴は再び傷を再生させていく。覚悟を決めろ……迷うな……退くな……!!俺が逃げればカレン達が危ない……!「すぅ……ふぅ……すぅ……ふぅ……」心を研ぎ澄ませ……集中しろ……奴は化け物だ……人間じゃない……人間じゃないんだ……。人間じゃなければ傷付けて良いなんて、そんな道理は無い……だが、こうして自己催眠でも掛けないと……自分をごまかさないと、やり切れない。「ガァアァアァァァァァ!!!!」傷を再生させた奴が、向かってくる。……済まない……せめて、苦しまない様に一撃で決めてやる……。俺は剣を片手に持ち、駆け抜ける。奴のナイフが俺に襲い掛かる。だが俺は超神速とも言えるスピードで、奴の目の前で斜めに跳ぶ。俺は木を蹴り加速、奴に襲い掛かる。その剣は飛竜の爪の如く――飛竜が羽ばたくが如く襲い掛かる……我が父の奥義が一つ……その名も。「【飛竜翼斬】」分かりやすく言うなら、大剣を使った【空飛拳】と言った所か。もっとも○空みたいに空力を使うそれでは無く、身体能力に任せた力技だが……その一撃は正に必殺。故に、実戦で使うには躊躇した技……。「!?」奴がこちらに振り向く……このスピードに気付いたのは見事だが、もう遅い……。「……せめて苦しまずに――逝け……!!」俺の剣閃が奴に食い込む瞬間……再び魔力の本流が……。「……は?俺」!?眼に光が……正気に――。ズシャアアァアアアァァァ!!!!!「は……何だ……コレ……?」俺の手は止まらず、擦れ違いざまに……袈裟掛けに男を真っ二つに切り裂いていた……。ドチャァ……グシャア……!俺の後方で、何かが嫌な水音と共に崩れ落ちるのが聞こえた……。………俺は何をした?……化け物になった人間を倒した。……オレはなにをしタ……?……意識ヲ取り戻した化け物を殺シタ……。………オレハナニヲシタ………?………ニンゲンヲ……コロシタ……ニンゲンヲ……ヒトヲ……。コロシタ……殺した……殺した……?死なせてしまった……?「あ……」愛剣のリーヴェイグを見ると……そこには血は着いていない……なら俺は斬らなかったんじゃないか?……そんなわけ無いだろうっ!!!血が着いてないのは、それだけの早さで剣を振りきったからだ!!この手には感触が残っている!!剣が肉に食い込み、切り裂く感触が!!後ろから漂う血臭は!?どうやって説明するつもりだ!!?「……俺が……殺した……のか……」俺は剣を取り落とし、膝を着いてしまう………手が……身体中が震える……。「あ………あ………あぁ……うわあああああぁぁぁぁぁっ!!!」俺の中の何かが……音を立てて崩れていくのを感じた……。********「これは驚いた……今の剣撃から推測すると……インペリアルナイツマスター……確かリシャールだったね。彼を超えている……」これは予想外だ……まぁ、それでもボクには及ばないケド♪「少なくとも、モブキャラを倒しただけであんなに取り乱す様な奴には――負ける気はしないなぁ♪」ボクは特異点の彼を見下しながら感想を言う。ボクは親切心から、あの盗賊の意識を戻してあげた。優しいでしょ?なのに彼はそれを殺した。酷いよね〜?しかも勝手に取り乱してるんだもん、馬鹿じゃないの?って感じだね。「もう面倒だから、ここで彼の力を戴いちゃおうかな〜………ん?アレは……」何やら街の方と森の方から数人ずつ、あそこに向かっているみたいだなぁ……ちょっと面倒かな?ここは消えるが吉……かな?「やっぱり、もっと舞台は華やかな方が良いしね♪ここは幕引きということで」ボクはその場を去った……再び彼と見えるその日を楽しみに……ね♪願わくは、彼にはこんなところで壊れないで欲しいものだ――。――僕が壊す楽しみが――無くなるからねぇ♪********「ウワアアァァァァァァァァァッッ!!!?」シオンさんが……叫んでいる……涙を流しながら、頭を掻きむしる様に両手で掴みながら……。伝わって来る……悲しみが……怒りが……嘆きが……後悔が……。「シオン……さん……」わたしは立ち上がり……シオンさんに近付く……。「俺は……俺はあぁぁぁぁ!!」駄目……このままじゃあ……シオンさんが……。「シオンさん……」「人を……殺しぃ……!?」シオンさんが……壊れてしまうっ!!「シオンさんっ!!」「!?カレ……ン……」わたしはシオンさんを抱きしめる……頭を手繰り寄せて包み込む様に……。「大丈夫です……大丈夫ですから……」わたしは彼の髪を撫でる。……凄いサラサラしてる……。「でも俺……俺は……人を……」「……それは確かに辛いことかも知れません……けれど、おかげで私たちは助かりました……」「あ……」「貴方が来てくれなければ……私たちは助からなかったかも知れません……人の命を奪うのは、してはいけないことですし、悲しいことです……けれど、私たちは貴方が助けてくれたんです……だから……自分をそんなに責めないで……」「カレ……ン……う……ぐうっ……うあああぁぁぁぁっ――!!」彼はわたしに抱き着いて、再び涙を流す……今度は自分を責め壊すものじゃない……吐き出す為のもの。今のわたしには、これくらいしか出来ないから……。********俺は泣いた……泣き続けた……。人目を憚らずに泣いた……恥も何も無く、カレンの胸の中で……。しばらくして……なんとか平静を装える位には精神が安定した時に、俺は今、とんでもないことをしていたことに気付いた。カレンに抱き着き、胸の中で泣いていたのだ……あのふくよか過ぎる胸の中で……コレってその……パフパフって奴になるんじゃあ……。こんなことを考えられるくらいには、回復してる……俺も存外異常なのかもしれん……いや、現金とも言うが。カレンの温かさに包まれたおかげで……壊れずに済んだ……。俺はゆっくり離れようとする……が、カレンは離そうとしない。「あの……カレン……もう大丈夫だから……」「ハイ……でも、もう少しこのままで……」カレンは赤くなりながらモジモジしている。息遣いも荒い……。何だと思って視線を動かすと………何か………手の様なモノが横の、山になっている膨らみにある……。ふにょん♪「あっ……ん♪」なんか聞いてはいけない声が聞こえた……。どうやら俺の手がカレンの胸を掴んでいるらしい。ハイ、本当にありがとうございます……………って、待てぇ!!!俺は無理矢理カレンを引きはがし、勢いのままに立ち上がる。「カカカカ、カレン!?君は何をやって……」「いえ!違うんです!……わたしはシオンさんが辛そうだったから……その……思わず抱きしめてしまって……そうしたらシオンさん……泣きながら……その……胸を……」カレンの声が尻窄まりに小さくなっていく……顔は真っ赤だ……。つーかマジですか?つまり何か?俺はカレンに抱き着いて泣いただけでは飽きたらず……その豊満な胸を揉み倒したと?何だソレは!!?何してんの俺!!どさくさに何してんの俺!!?「ゴ、ゴメン!!カレンは俺を慰めてくれてたのに、こんな……」「いえ、良いんです……(それに嫌じゃないですし……むしろもっと……)」「そうか…なら良いけど……って、良くないから!!……それに、こんな状況じゃ素直に……ん?」俺は辺りを見回す……死体が無い……それに気絶していた盗賊達も……血溜まりの後があるから、俺が斬り殺したのは確実……認めたくはないが……。思い出すとまだ震えが止まらない……。流石に取り乱したりはしないが……っていうか、マークとザムは?「頭!!」「?オズワルド……?一体何が……?」オズワルドが説明してくれる。モンスターに足止めを喰っていたオズワルド達だが、ある時を境にモンスター達が一斉に散って行ったそうだ。チャンスと思い、突っ切って此処に向かって来たのは良いが、到着して見えたのは、気絶している盗賊達……真っ二つに切り裂かれた死体……そしてカレンに縋り付き、泣きわめく俺と、バツの悪そうな顔をしていたマークとザムだったそうな……その直ぐ後に、ゼノス含むカーマイン達が来たらしい……。カーマイン達も何だかいたたまれない空気になり、(ティピは何やら気になって騒いでいたみたいだが、カーマインに折檻されたらしい)俺達を置いて先に家に帰ったそうだ。盗賊達はしょっぴいて、死体はカーマイン達が埋めたとか。ならばオズワルド達はと言うと……。「こんな状況で邪魔する程、俺達は野暮じゃありませんぜ!!」グッ!ニコォ!!と、俺にナイススマイルを向けてくる……す、素晴らしく暑苦しい……。まぁ、そこで俺もナイススマイルを向ける。それが俺達の流儀だから。「……早速で悪いんだが、調べて欲しいことがあるんだ……」「へい!なんなりと!!」俺はあのモンスター使いのことを調べてもらうことにした……原作には居ないキャラ……何と言うか、……原作から随分変化してきたようだな……俺のせいか?後はあの術者……か。「んじゃ、俺達はこれで!!」オズワルド達が俺の依頼に答える為にこの場を去る。「っと、そうだ頭。一つ言っときたいことが……」と、オズワルドが立ち止まる。「?何だよ?」「まぁ……頼りないでしょうが、俺達も居るんで、気張り過ぎないで下さいよ。では!」……ヤレヤレ……心配掛けちまったな……。俺はカレンに手を差し出す。「……帰ろうか?」「はい!」カレンはその手を取り、俺達は帰路に着いた。……俺はこの命を守れたんだ……命を奪ったのは良くないが……その代わり、カレン達を助けられた……後悔していないと言ったら嘘になる……だが後悔しようと、先に進む……そう誓ったのは何より俺自身なのだから……。心の奥にしこりを残しながら、俺は先に進む……仲間を……ダチを助ける為に……ふと、横にいるカレンを見る。俺を見ていたらしく、視線が合った。カレンは赤くなりながら俯いてしまった。「……どうした?」「い、いえ!なんでもないです!!(シオンさん……大好きです……愛して、います――まだ、言えないけど……いつかは――)」「そうか……」繋いだ手から伝わる温かさは、不安を和らげ……震えを抑えてくれた。その温かさを何故か……貴いモノだと、理解していた……。