俺達はエリオットを見送り、サンドラ様にしばしの別れを告げてから――家を出た。その際サンドラ様に改めて、必ず解決策を持って戻って来ますから、待っていて下さいね。的なことを真面目な顔で言った。そうしたら、少し赤くなりながら……。「ハイ、貴方達を信じて待ちます」……と、言ってくれた。病は気からとも言う。これで少しは勇気付いてくれたら良いんだけど……。さて、家を出たのは良いんだが。ここで重大な問題が発生した。フェザリアンに会う為の手段が分からないのだ!!!……いや、俺は知ってますよ?アリオストに会って協力してもらう。これが1番の解決策だ。けど、ここでそれを告げるのは不自然でしょ?アリオストに会ったこと無いんだから、俺。ラルフ、ウォレスも知らない筈。ルイセは……面識はあるかも知れないが、アリオストが、フェザリアンの住むフェザーランドを目指そうとしてるのは知らないと思われる。飛行機械の研究をしているのは知ってるかもしれないが……。後はティピとカーマインか……ティピは………ゴメン、無理か。付き合いは短いが、既に忘れているだろうことは、何と無く理解出来る。ティピはアリオストという人物と出会ったことは覚えてるが、アリオストがどんな研究をしているか、その研究でフェザリアンの島を目差している……なんてことも忘れている筈。すると、必然的にカーマインになる……このカーマインは結構優秀だからな……多分……。「あの時の学者……確かアリオストと言ったな。アイツに会いに行こう……確か、今は宿屋に居たよな?」「?お兄ちゃん、アリオストさんと知り合いなの?」ルイセが首を傾げる。ルイセは知らないんだから無理もないか。「この前ちょっと……な。ルイセ……アリオストは何の研究をしていた?」「えっ?確か飛行の……あっ、そうか!」つまり、そういうことだ。「う〜……よく分かんない!分かるように説明してよぉ!アリオストさんがどうしたのよぉ!」 ティピ……やっぱりなのか……仕方ない。「そのアリオストって人は、空を飛ぶ研究をしていたんだろう?なら協力してもらえれば、フェザリアンの住む浮島に行けるんじゃないのか?」「あ、そっかぁ!そうだよね!」どうやらティピも思い到った様子。俺達は一路、宿に向かった……が、宿の人に聞くと、アリオストさんは既に帰ったんだそうだ。やっぱり擦れ違いかぁ……こういうのに限って原作通りだからな。「アリオストさん…学院に戻ったのかなぁ?」「それじゃ、魔法学院に行きましょうよ」ティピが提案する。そして俺達はその提案を受け入れる。というか、これが最善の方法だし。「異議無し。まぁ、魔法学院にいるかは分からないが、居場所くらいは分かるかもしれないしな」「僕も異議無いよ」俺とラルフもその案に賛成する。「決まりだな。魔法学院はデリス村の先にあるブローニュ村から、さらに東へ行ったところだ」俺達は魔法学院を目指して街を後にした。それから俺達はデリス村を経由して、ブローニュ村に向かう道にある橋に差し掛かる。……なにやら、気配を感じる。モンスターか?「どうも様子が変だな」「ウォレスもそう思うか?」ウォレスとカーマインも気付いた様だな?「何か居るね……」「ああ、飛び切りデカイ奴がな」ラルフと俺も一応警戒しておく。一応というのは、気配自体はデカイが、決して強いものでは無いからだ。俺達が歩を進めると……そこには幾らかのモンスターが居た……と。ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ………。巨大な何かが転がる音がする。山から転がって来たそれは……。「なに、アレ……」とてつもなく大きな……。「気持ち悪〜い」ゲルだった。ゲル……まぁ、他のRPGではスライムとも呼ばれているが、要するに雑魚だ。俺とラルフも、旅の途中で何度も遭遇したモンスターである。もっとも、こんな大物は初めてだが。俺は、こんなイベントもあったなぁ……と、懐かしんだりしていた。コイツはデカイだけで大して強い敵じゃあないしな。最初は驚いていたが、戦闘は呆気ない物でした。ウォレスが自身の得物である、特殊両手剣を投げ付け、それがデカイゲル……略してデカゲルのコア迄切り裂き、デカゲルは見事に飛び散った。残りの敵も軽くあしらってやった。正直、役者不足な感は否めなかったな。まぁ、あの圧迫感は中々の物で……。「やっと片付いた……」「怖かった〜……」「……しかし、ゲルってあんなにデカくなるんだな……」「僕も初めて見たよ……旅先でも、あんなのにはお目に掛かれなかったし……」「俺もあれだけデカい奴は初めて見たが……思わぬ所で戦いを強いられたものだな……」「強さはともかく、圧迫感があったからなぁ……なんつーか精神的に疲れたな……」と、それぞれに感想を漏らした。誰が誰だか分かるよな?上からティピ、ルイセ、カーマイン、ラルフ、ウォレス、そして俺の順だ。俺達はそのまま洞窟の中へ進んだ。洞窟の中は薄暗く、先が見えない感じだ。俺は呪文を唱える。すると、周囲が明るくなって行き、終いには洞窟全体が明るくなった。「それは?」カーマインが尋ねてきたので答えてやる。「これは【ライト】って言ってな。洞窟などの暗い場所を明るく照らし出す魔法。俺のオリジナルさ」正確にはオリジナルでは無いのだが……元ネタは昔、【ライ○ファンタジー】という題名のRPGソフトが発売されていたのだが……それに出てくる明かりを点す魔法……それがライトだ。これはそれの応用で、この魔法は術者の周囲を照らし出すことが出来る。ただし、その者の魔力の強さで点す明かりの明るさ、照らせる明かりの距離が決まる。しかも、一回の魔力の消費量はマジックアローより少ないが、効果はあまり長くなく、長時間使用しようとするのなら、送り込む魔力を維持し続けなければならない。これは一応、アレンジとかではなく、完全な創作魔法だが、術式が単純で、概念も明かりを点すだけ……と、簡単な物なので、オリジナルとは言え、才能が皆無に均しい俺にもなんとか覚えられた魔法だ。まぁ、俺の魔力なら洞窟全体を、昼の様に照らし出す位は造作も無いけど。「さて、先まで見えるようになったんだし、行きますか」俺が皆を促す。洞窟の中には骸骨の戦士スケルトン、幽霊タイプのモンスターであるレイスなどが存在し、俺達はそれらを蹴散らして進んで行った……。こうして出口に近付いて来た……その時。「ん!?」「どうしたの、ティピ?」何かに気付いたのか、ティピが止まる。ルイセはティピに問うた。……そういえば、ここが第一関門だったな。「今、何か聞こえなかった?」「別に聞こえなかったけど……」遂に来たか……俺の目的の一つ……。ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。「ほらっ!」ティピが言うが早いか、ほぼ同時に落石が俺達に襲い掛かる!「きゃあーーっ!」「いやーー!つぶされちゃうーっ!!」やらせるかよっ!「破っ!!!」ドドドンッ!俺は少〜しだけ本気を出し、身体を加速させ、一行の眼には止まらぬ速さで動き、跳躍。蹴りと拳で落石を文字通り粉砕した。「みんな無事か?」俺は着地した瞬間、みんなの安否を気遣う。「…ああ、なんともない」「助かった〜……」「あ、アレ?岩が無くなってる??何で???」「何だかよく分からんが、とにかく助かったんだ。それで良かったじゃねぇか」どうやら皆、気付いてないみたいだな……ウォレスやカーマイン辺りは気付くと思ってたんだが……。「今のは……シオンが……?」「へ〜、よく気がついたなラルフ……まぁ、皆が無事で何より何より♪」ラルフは俺が修業をつけてやったからな……気配の読み方なんかもバッチリみたいだな。「なんか…益々シオンの底が知れなくなって来たよ……」ハハハ……と、ラルフが苦笑い。苦笑いしたいのは俺だっての。久しぶりに身体能力を少〜し開放してみたけど……相変わらず、チート臭過ぎる身体能力だぜ……なんつーか、少年時代より上がってる様な……そりゃあ基礎トレーニングは欠かしていないが……これ以上どうしろと?俺達はその場を後にした。その後……洞窟から出てから徒歩で十数分……程なくしてブローニュ村に辿り着く。……途中、行商人が紛れ込んでいたりした。なんでも、安全に旅をするために俺達の後ろから着いて来たのだとか……そのくせ、商品は決して値引きしないとか、どんだけ〜。まぁ、何はなくとも、ブローニュ村を後にする。泊まるか、とも考えたが、まだ暗くはなっていなかったので先に進む。あ……そういえば……。俺はローランディアに向かったもう一つの理由を思い出した。カレンとゼノスだ。結局行き違いになっちまったからなぁ……此処からならグランシルも近いし……駄目もとで聞いてみるか。「なぁ、みんな……少し寄り道したいんだが、良いか?」「寄り道って、何かあったの?シオンさん」突然の申し出に、皆は頭にクエスチョンの様だ。ルイセが俺に聞いてくる。「ん〜…ここからなら、グランシルが近いだろ?だからさ――」「そうか、ゼノスさんとカレンさんに会いに行くんだね?」ラルフがズバリ言い当てる。まぁ、付き合い長いからなぁ……。「あの、その人達って?」「実はな、ルイセ……」カーマインが、何かを説明する。恐らく、最初の外出の夜に二人と出会ったいきさつ辺りを説明しているのだろう。ついでなので、カーマインと一緒に俺達側の説明をする。「……と、言う訳で、結局行き違いになっちまったからさ……出来れば挨拶しておきたいんだ。あ、無理なら良いんだ。急いでるのは分かるし、な」「俺は構わない……少しくらいの寄り道なら、な」「急ぎではあるが、焦っても仕方ないからな。それに日も傾いて来たから、宿に泊まるのも悪くないだろう」男性陣は許可をくれた。「わたしも構わないよ。シオンさん」「アタシも良いよ。っていうか、この状況で断ったらアタシが悪者みたいじゃない!」どうやら皆、許可してくれた様だ。最悪、自分一人で行こうかとも思ってたし。俺は皆にありがとうと、言葉にした。その後、俺達はグランシルにたどり着いた。俺は早速ラングレー家を訪ねる。俺は扉をノックすると、直ぐに家主が出て来た。「誰だい?」「よ、久しぶり」「お久しぶりです、ゼノスさん」俺達は軽く挨拶をする。「シオン!ラルフ!お前ら今まで何処に……カレンが心配してたんだぞ?今は手紙を出してる様だが、ちゃんと顔を出しやがれ!」「すまなかったな……まあ色々あってさ、細かい話は後ほど。それで、そのカレンは?元気にしてるんだろ?」俺はゼノスに何気なく聞く……しかしそこで俺は気付く。……確か、このタイミングは……。「ああ。今は居ないけどな。今は薬に使う薬草を採りに南の森へ出掛けててな」……やっぱりかよ!!クソッ!!「前モンスターに襲われていたのもあの場所だし……そういや、お前達がカレンを助けたのもそこだった………ん?シオン?……消えた…だと……?」俺は既にその場に居なかった。俺は光と化し、カレンの元へ向かった。街の屋根伝いを爆走しながら。カレンの気配を探った……既に何人かに囲まれている様だ……クソッ!!間に合え!!俺はさらにスピードを上げる。仮にカレンが毒を喰らっても直ぐに直せる……だが、ゼノスを奴らの人形にさせられない。カレンに苦しい思いはさせたくない――!