みんなでジュリアンを見送った後、再び話す。「研究書も戻ったし、これで明日からまた魔導実習だね」「そのことで話があります」「えっ?」ルイセはまた、これから魔導実習かと思っていたらしく、多少なりとも意気込んでいたので肩透かしを喰った様だ。「今回の事といい、あなたは短期間の内にかなり成長しました。実習などを受けるより、実践で覚える方が向いているのかも知れません。これからもみんなと行動して、実践で魔法を鍛えなさい」まぁ、確かに……武術でも基礎訓練を行うより、組み手なんかをする方が成長は早いらしいしな……身体を壊す確率が多いから、結果的には効率が悪く危険だったりするがな。「それって、一緒に行ってもいいってこと?」「やったね、ルイセちゃん!」「うん☆」ルイセとティピは喜んでいるが、カーマインを見ると内心複雑なのか微妙な表情をしている……大事な妹を、危険な目に合わせるかも知れないのだから当たり前か。「それに……私は……うぅ……」サンドラ様がふらつく……顔色は差程悪くない……まさかとは思うが……。「サンドラ様、どうかしましたか?」ラルフがその様子を見てサンドラ様に声を掛ける。「だ、大丈夫です。夕べの件で、疲れが溜まっているのかもしれませんね……」…どうやら相当我慢してるらしいな。ったく、無茶をする……とにかく確認だな。「……サンドラ様、夕べ治療した傷痕を見せて戴けませんか?」「そ、それなら……貴方が治療してくれましたから、もう大事はありません……」「……失礼します」俺は多少強引にサンドラ様の腕を取る。「あ……」「チッ……やっぱりか……」俺は思わず舌打ちをしてしまう。夕べ治療した、傷口があった部分が腫れて来ているのだ……原作のルイセが言うほど、異常な腫れ方はしてないが……それと掴んだ腕が異様に熱い……間違いない。「自分の身体が、毒に侵されているのを黙っていましたね……?」「えっ!?」「……………」俺の台詞にルイセが驚愕の表情でサンドラ様を見る。サンドラ様は俯いて黙ったままだ。「だが、昨日……シオンが母さんの治療をしていただろう?あの時の母さんの調子は良さそうだったが……」「そうよ!シオンさんがこうピカーって治したじゃない!」「……ああ、そうだ。あの呪文は外部から受けた類の毒物なら、一発で治せる……」カーマインとティピの問いに答える。その自負はあった……回復系統の魔法だから加減は不要……魔力も十分に注いだし、術式構成も間違いない筈だ……どんな強力な呪いでも、どんなに未知の毒でも……例えゲヴェルの毒でも治せる筈……やはりそれは自惚れだったのか……?いや、何か原因がある筈だ……術式構成などに間違いない以上、何かが……。「……少し失礼します」「あ……はい……」俺は再びサンドラ様にディスペルを掛ける……今度はサンドラ様の体内の魔力の流れを意識して……。サンドラ様の表情が和らいでいく……つまりは効いているということだ。体内の魔力の流れは……急速な勢いで解呪して………ん……?この魔力の流れは……………そうか!?そういうことだったのか!!!「ルイセ、この街の医者の居場所は分かるか?」「え……知ってますけど……」「だったら急いで薬を貰って来てくれ!!!毒消しの1番強い奴だ!!」「は、ハイ!」俺の様子に、ルイセが慌てて医者に向かって行った。「一体、私の身体は……?」随分、楽になった表情でサンドラ様が俺に尋ねてくる。「詳しい説明は後でします……今は安静にして戴きます……失礼」俺はしゃがみ込み、サンドラ様を抱き上げる。所謂、お姫様抱っこだ……普段ならこんなこと絶対にしないんだが、緊急を要するんだ。四の五の言っていられるか。「カーマインはベットの用意をしていてくれ!ラルフは水の用意を!」俺は二人に指示を出す。二人を選んだのは特に意味はない。強いて言うなら1番近くに居たからだ。「あの……私はもう一人で歩けます……ですから、降ろしては戴けないでしょうか…?」サンドラ様が赤くなりながらしどろもどろになる……その仕種はかなりクるものがあるが、今は関係ない。「アンタは病人なんだ。だったら大人しく俺に抱かれてろ!」「!!……は、ハイ、分かりました」つい地が出ちまったが……素直にサンドラ様は頷いてくれた。……何故か更に赤くなっているが。「何がどうなってるか説明してくれるんだろう?」ウォレスが聞いてくる。それは勿論だ。「勿論……だが先ずはサンドラ様を横にしてからだ」俺達は、ベットの用意が出来たと言うカーマインに促され、部屋に入る。おそらくサンドラ様の部屋だろう。そしてサンドラ様をベットの上に寝かせ、布団を掛けた。「それで……一体何が……」「信じられないかもしれませんが、この毒物には指向性があります」「指向性……ですか?」「えぇ……この毒物は魔力を関知すると、その魔力を糧に更に進化する様です……一見、昨日の段階で完治していた様に見えましたが、実際は僅かですが体内に潜んでいたみたいですね…そして、僅かに残っていた俺の魔力の残滓を糧に再びここまで拡大した……」この毒物の毒性はかなり強い……俺のディスペルを受けながら、僅かなりとも体内に残ってしまったのだから。普通はそこから更に身体自体が毒素を駆逐していくんだが……。恐らく、ゲヴェルの体組織から作られた毒なんだろうと推測出来るが……ここまで強力なんて……。「えっと……エリオット、理解出来た?」「いえ……恥ずかしながら……」「……俺も分からんな」「俺は辛うじて理解出来たが……」「僕もカーマインと同じだよ……」みんなが、わけワカメな感じだ……ここは分かりやすく説明しておくか。「分かりやすく言えば、この毒には魔法は効かないってことだ。いや、効くことには効くが、生半可な回復魔法では逆にその魔力を餌にされ、更に毒が進行する」「つまり、昨日の治療は逆効果だったのか?」ウォレスが疑問を口にする。「いや、そうじゃない。少なくとも、あの場においてはあれが最善だった。あのまま放っておいたら、サンドラ様は今頃は倒れていただろうからな……単純な毒としてもこの毒はかなり強力だ。……俺のディスペルは強力だが、魔法だったからな。毒も予想以上にしぶとくなったのだろう」「じゃあさ、シオンさんがまたその魔法を使えば良いじゃない?完全に治るまで」ティピが何かを言うが、俺はそれを否定する…つーか、もっと分かりやすく言わなきゃ駄目か……。「つまり、あの場限りでは良かった。だが、これ以上は返って逆効果になってしまう。何故ならこの毒は魔力を餌にしているからな。魔法で回復させる限り、ドンドン強くなり、終いには手が着けられなくなる」「それじゃあ、どうしようもないんですか……」エリオットがうなだれる……直ぐに−思考に陥るのがエリオットの悪い癖だな。そんなことを話していると、ルイセが医者を連れてやってくる。「おお、サンドラ様!ささ、万能毒消しですぞ」ラルフが用意した水に粉薬を溶かした水薬をサンドラに差し出す。「ありがとう………ふぅ……」「お母さん…どう?」「ええ……大分良くなったわ……」サンドラ様が水薬を飲む……これで毒の進行は抑えられるだろう……だが。「いや、恐らく殆ど効果は無いだろう」「そんな!この毒消しは今ある物の中では1番の物なんですぞ?並大抵の毒はすぐに消えるはず……」俺が事実を突き付けると、医者が反論してきた。「この毒は並大抵の物じゃないからだ……」「えっ…どういうこと……?」ルイセと医者にも、皆にした説明をする。その説明を聞いた医者が愕然とする。「そんな……そんな毒が存在するなんて……」「俺もその毒消しについては知っていた。俺も薬学にはそれなりに知識があるからな……だからその薬を頼んだんだ」原作知識も確かにあるが、カレンに薬学を軽くとは言え、教わったのが役に立ったな。「でも……幾ら1番強い薬でも、効果がないんじゃあ……」ルイセが涙目になる……が、狙いはその薬で治すことじゃない。「全く効果が無いわけじゃない。毒の進行を遅らせることは出来る……」「もしかして……それが狙いか?」カーマインが俺の狙いを言い当てる。「正解。つまりそういうことだ。サンドラ様……サンドラ様には定期的にこの毒消しを飲んで、安静にして戴きます。そうすれば毒の進行を遅らせることが出来ますから…」「分かりました……そうしましょう」サンドラ様が静かに頷いた。「だがどうする?このままではいずれ……」ウォレスが疑問を尋ねてくる……確かにこのままだと最悪の未来は免れないだろう。だが……。「俺がディスペルをサンドラ様に再び掛けたのは、毒の特性を調べるのと、限り無く全快の状態に近づけてから毒の進行を遅らせるため……この状態なら最低でも半年は持つ」原作では衰弱仕切った所で進行を遅らせていたので、一ヶ月が山だと言われたが。それを回避する苦肉の策だ。「実際問題としてどうする?シオンの魔法が通用しないって言うんじゃ……」「……必要なのは、俺のディスペル並に強力な毒消し薬……でなければ効果は望めないだろう」ラルフの疑問に答えながら考える……やはり彼らに頼るしかないのか?「……。今の人間にはこれ以上の薬は作れない……。だけど……人間以上の知識を持つ存在だったら……」「やっぱりそこに行き着くしかない……か。ままならないな…やはり……」俺とルイセはそれぞれ答えにたどり着く……まぁ、この世界の常識の一つだな。「!そうか……フェザリアンだな」カーマインも答えにたどり着いたみたいだな。「フェザリアン?」ティピがクエスチョンマークを浮かべる……オイオイ……知ってる筈だろ?原作でアリオストに説明を受けた筈……それとも説明されてないのか?「……そう。彼らなら、治す方法を知っているかも」「正直、藁をも掴む話しではあるが……その藁に縋るしかないのが現状だ」俺とルイセが、フェザリアンに賭けるしかないことを説く。すると皆が一様に頷いた。「他に方法はなさそうだな。俺も力を貸すぞ」ウォレスが最初に名乗りを挙げた。「勿論、僕も協力させてもらうよ。黙って見過ごすなんて出来ないしね」ラルフも当然名乗りを挙げる。「俺も力を貸させてもらう。こんな状況、人として黙っていられないだろ?」当然、俺もだ。サンドラ様が無事に助かる可能性は高いが、既に原作から徐々にズレ始めてる……何が起きるか分からない以上、俺も同行するが吉だ。本来の目的である、パワーストーンフラグを叩き折るチャンスでもあるし……な。何より、俺はこの人を死なせたくない。「ウォレスさん、ラルフさん、シオンさん……三人ともありがとう」ルイセが御礼を言ってくる。「みんな……ありがとう……」サンドラ様も感謝の念を送ってくる。「あの……皆さん。僕は……」「エリオットは残るんだろ?王様へ書簡を渡さなきゃならんのだし」「すみません、本当なら僕も行きたいのですが、皆さんの足を引っ張ってしまいそうで……」「気にするな。お前はお前のやるべきことを果たせよ」もう少し肩の力を抜くんだな。未来の王様。