俺が死者を弔っていたら、そこに来たのは……。「カーマイン…ルイセ…ティピ……それにラルフも……どうしたんだ?」「……俺たちも手伝って良いか?」死者を弔うのを手伝ってくれるという。「…そうか。頼む」その後、俺達は死んだ者達を埋葬し……墓を作った。俺は墓に向けて手の平を合わせて祈り、ゆっくり頭を下げる……よく言う、拝むという姿勢だ。「なぁに、それ?」俺と付き合いが長いラルフはともかく、残りは不思議そうに俺を見ていた。質問してきたのはティピ。祈り終わった俺は皆に振り返る。「これはある国の宗教の祈りの姿勢だ。死んだ人は仏様になるってな……あ、仏ってのは平たく言えば神様みたいなものだ。細かい定義やらなんやらはちょっと違うけど……こんなことしても、怨まれるのは明白なんだけどな」要するに、我が心の母国……日本の一般的な宗教、仏教の祈りだ。別段に仏教徒でなくとも、広く広まってるのは衆知だと思う。他にも神道とかあるけど割愛。ちなみに俺も仏教徒じゃない。「……一つ聞いていいか?シオン……アンタは人をこうやって、死なせてしまったことは……ないのか……?」またド直球な質問だなカーマイン君……。「あぁ、無い。ラルフもそうだが俺達は人の命を奪ったことはない……と、言うか…よく分かったな?」原作開始から間もないし、カーマインはそんなことが分かる程、修羅場を潜ってきてはいない筈だが……。「ウォレスが言っていたよ……シオンの剣は凄いけど、雰囲気が綺麗過ぎるってな」「……成程、流石は元傭兵。言うことが違うね……」「でも、実際ヘンだよね?シオンさん、そんなに強いのに、わざわざ手加減して、こんな悪党達にお墓を作ったりするなんて」「ティピ!」カーマイン以上にド直球なティピを、ルイセが諌める。「……人は皆、生きている。当たり前だよな?」「そんなの当然じゃない」それがどうかしたの?という顔をするティピ。「……生きている以上、親がいる訳だ。家族も居て、子供だって居るかも知れない。それはこいつらにも当て嵌まるだろう……」「…………」ラルフは黙って俺の胸の内を聞く……そういえば以前、同じ様なことを愚痴ってしまったことがあったっけな……。「誰かの命を奪うのはいけないこと……もし、俺が誰かの命を奪えば、その誰かの家族が、兄弟が、恋人が、俺を憎むだろう――怨みが恨みを呼ぶ復讐の連鎖だ……命を奪わずに済むならそれに越したことはない」「けど、それは「それだけじゃない」……え?」俺はティピの言葉を遮る。「もし…誰かを死なせてしまったら……その命を幾重にも背負ってしまったら……【俺】という存在が消えてしまいそうで……それが恐いんだ……」「「「……………」」」周りがなんとも言えない、いたたまれない空気に包まれている……。「……な〜んつってな♪」「…は?」そんな空気はぶち壊しておく。こういう空気は好きじゃないんだよ。「確かに、そういう感情も多々ある。けど、覚悟はある。もし仮に仲間を傷つける奴が居たら容赦はしねぇ……完膚無きまでに叩き潰す!!――だけどさ?命を奪う必要が無いのに奪うのは何か違くねぇ?その判断を降してるのは自分自身だけど」お茶を濁す為に軽い口調で言う。まあ、これも俺が思っていることなのだが。「俺は俺の考えを押し付ける気は無いし、誰かに考えを押し付けられる気も無い。もし、仲間との二者択一を選ばなきゃならなくなったら……俺は仲間を選ぶってだけの話さ」そう…、幾ら神懸かった力を持っていても、俺は神様じゃない。全知でもなければ全能でもない。全てを救うことなんて出来ない。出来るのは眼の届く場所にいる奴を守るくらいだ。「でも……もし奪うつもりはないのに、誰かの命を奪ってしまったら……シオンさんはどうするんですか…?」ルイセが怖ず怖ずと尋ねてくる。「例え、後悔しようと、心が磨耗しようと、【俺が】消えようと――大切なものは守る……それが俺の『信念』って奴だ」もう、『誰か』を失うのは御免だからな……。「まぁ、なんだかんだで、困ってる人がいたらつい手を差し延べちゃうけどな!」いや、当然でしょ人として。*******「……相変わらず優しいな、あいつは……優し過ぎる、くらいに――」窓からシオン達の様子を見ながら私はそんなことを呟いていた。「……そうだな。だがそれは決して悪いことじゃない。戦場で生き残るには厳しいかも知れないが……」ウォレスが私の呟きに相槌を入れてくれる。「…それに関しては心配はしていない。彼の強さは折り紙付きだ」私も訓練に付き合ってもらったことがあったが、まるで歯が立たなかった……当然だな。三年前には既に父であるウォルフマイヤー卿を裕に凌ぐ実力があったと聞く。私では歯が立たないのは道理だ。「そっちに関しては俺も心配してねぇがな。あれだけの大立ち回りをやってのけたんだ。しかも、相手をした奴が誰も死んでねぇときてる。かなりの実力者なのは雰囲気でわかるぜ……その分綺麗過ぎる剣だが、汚れた剣に対処出来ないというわけではないらしいしな」「では…何が……」「強いて言うならシオンの在り方……って奴か。その優しさが戦場では仇になるときがある」……そう、それは私も懸念の材料だったりする。あの人の父上、ウォルフマイヤー卿と私の父はあの人をナイツに相応しい器だ。と言うが、確かにあの人は心技体、全てにずば抜けた力がある。技と力は言うに及ばず、その心――意志もまた高潔なモノだ。――だが、ナイツになるということは一軍の将になるということ。自ら戦うだけでなく、味方を指揮して戦わなければならない。もし、味方に被害が出たりしたら……あの人の心が壊れてしまうのではないか……私は、それが恐いのだ。そうなって欲しくはない――だって、あの人は私の―――。******俺達は小屋に戻って、軽く色々な話しをしていた。内容はほとんどが、ジュリアンから俺への質問タイムになったが。Q、今まで何をしていた?A、見聞を広める旅に出て大陸中を回っていた。Q、そっちの二人は誰だ?一人はカーマインとそっくりだが……A、カーマインにそっくりなのは、ラルフ。カーマインの生き別れの双子のお兄さん。俺の幼なじみ。もう一人はニール。俺達の部下…というか仲間だな。等々等々……。色々な質問をされた。時にはルイセが、俺が使った魔法…マジックガトリングについて質問してきたのでそれに答えてあげたりもしたな。後はカーマインとラルフが今まで、どう過ごして来たのかを語ったり、俺がウォレスに【占い】をしてあげた。内容は『捜し人は人々の中。温かい日だまりの様。だが心は深い霧の中。その霧を晴らせるのは鈍く輝く銀の異形』もっと長い話しをしてたけど、大体こんな感じ。ウォレスが少し興奮気味に俺に詳細を聞いてきたが、所詮占いだからと言って言葉を濁す。信じるも信じないのも自由ってね。そんなこんなしてると、少しの内に回復したので早速村に向かうことにする。そういえば村で何かイベントがあったような気が……確かエリオット登場だっけか。しばらく歩くとデリス村にたどり着いた。「どうだ、ジュリアン。少しは答えが見えたか?」「……いいや。まだだ」ウォレスがジュリアンに問い掛けるが、ジュリアンは浮かない顔だ。「まぁ、時間はたっぷりあるんだ。焦らずいこうぜ」俺はジュリアンをそう励ます。と、言うかただ歩いて来ただけで答えなんか分かる筈もない。「……ありがとう」それにジュリアンは素直に礼を言ってくれる。なんかくすぐったいな。「きゃああっ!?」と、いきなり女性の絹を裂く様な悲鳴が聞こえて来た。「何、どうしたの?」ルイセが困惑気味に辺りを見回す。俺達も声のしたほうに顔を向ける。――するとそこには、品の良い服を着た妙齢の男女……そして赤いジャケットを羽織った金髪の美少年。まぁ、エリオット君だろうな。そしてそれらを守る様に背に庇う――良く見知った面子…。…って、オズワルド達じゃねーか。原作では襲う側だったのにな……こんなに変わるとは……まぁ、原因は間違いなく俺なんだよな。反省はしていない。「ふん!この俺様から逃げられると思うなよ?」「ちっきしょう…振り切れなかったかよ…」そしてあのハゲでガタイが良い男は……確かグレンガルが原作であんな格好してたような…?……いや、グレンガルはあんなダミ声じゃないしな。……あっ、グレンガルの弟の盗賊団頭領か?あのライエルの噛ませ犬の。「仕方ねぇ……アンタらは逃げな!ここは俺達が食い止める!」「だがそれでは…」「構いやしねぇよ。元々こっちが勝手に首を突っ込んだんだ……それに、アンタら見捨てて逃げちまったら、シオンの頭に顔向け出来ねぇしな」「バカめ!!オズワルドよ!このグレゴリー様に勝てるとでも思っているのか?それにむざむざ逃がすわけなかろう?こんな小さな村に逃げ込んだところで、村ごと滅ぼしてくれるわっ!!」「させやしねぇ!例え勝ち目は無くても足止めくらいはやってやらぁ!!」「俺達もいますぜ兄貴!!俺達も――やりますぜ!」オズワルド……立派になって……すっかり別人でわないか。ビリーにマーク、ザムまでやる気になって…。つーか、あの頭領グレゴリーってのか…衝撃の事実!!「あの親子が襲われている!?」ジュリアンがその状況に憤る。「ねぇ、あの男って、王都の西門でカレンさんを襲ってた奴じゃない?」「あぁ……それにあの四人は確か…」「そ、俺達の仲間」どうやら面識があるみたいだな。「兄貴!オズワルドの兄貴!!」ニールが声を掛ける。「この声は…………ニール、ニールじゃねぇか!!ってことは…」「当然、俺達もいるぜ?」「みんな、大丈夫だったかい?」「シオンの頭!!ラルフの旦那!!」さっきまで、悲壮な決意を秘めた表情をしていたオズワルド達が……希望に満ちた表情に一転した。「貴様がオズワルドの言ってたシオンとか言う奴か……ふん!青臭いガキじゃねぇか!!」「お初にお目に掛かる、グレゴリーとやら。ウチの仲間を随分と可愛がってくれたみたいだな?」「なぁに、これからもっと可愛がってやるところよ。なんならお前も一緒にどうだ?」「そこは丁重にお断りしたい……つー訳で、ちゃっちゃと帰ってくれんかね?今なら怪我せずに帰れるというサプライズが付くけど?」「断る!!こっちも仕事なんでな……どうやら、この前邪魔してくれたガキも居る様だな……野郎ども!!纏めて片付けちまえ!」こっちの誠心誠意の説得も通じず、結局はこうなるか。ん?誠心誠意に聞こえなかった?誠心誠意ですよ。真面目にネゴシエーションモードで応対してなかったのは事実だが。俺は喧嘩は好きだが、血みどろな殺戮劇は嫌いだ。なので、多少は下手に出てみた。だが、あの手の輩に頭を下げたりするのは個人的にはあまり…な?それで解決するならそれも良いけど、大体が笑いの種にされるだけで結果は変わらない。「ヘヘン!返り討ちにしてあげるわよ!」ティピが威勢良くタンカを切った。さて、不本意ながら開幕といこうか。「……あの……話しが見えないんだけど……」「戦わざるをえないってことだ」「不本意ながら…な」「まぁ、そういうことだな」困惑の表情を浮かべて疑問を口にするルイセに、ウォレス、俺、ジュリアンがそれぞれ武器を構えながら答える。カーマインとラルフ、オズワルド達も武器をそれぞれ構えた。