シオンがリビエラに後を任せて、グランシルに向かおうとしていた頃。少々時間を遡る――。***********――グランシル郊外、南の橋の境。そこには、薬草が生い茂る場所があり、そこで薬草の採取を行っている一人の女性が居た。長くしなやかなブロンドヘアーに、まるでコアラの耳の様なアクセントを加えた髪型――エプロンドレスと、ナース服と呼ばれるソレを纏った美しき女性――。カレン・ラングレーその人である。「うん、こんなものかな?」カレンは満足気に頷きながら、今日の成果を見遣る。彼女が持つ籠の中には、今日の収穫が確認出来る。そこには様々な薬草が摘み取られており、回復薬等の材料になる物から、ハーブティー等にして楽しめる物まで、正に多種多様だ。「――此処で、シオンさんと出会ったのよね……」しんみりと呟くカレン。約三年程前の出来事になるが――以前、彼女はこの場所で今の様に薬草採集をしていた時にモンスターに襲われ、危うい所を駆け付けたシオンに助けられたことがある。(最初は兄さんが助けに来てくれたんだって――勘違いしたのよね。フフッ、あの人と兄さんは全然似ていないのに――)実際、彼女の兄であるゼノスとシオンでは似通ってる部分は身長くらいのモノで、重なり合う様な部分は殆ど無いのだが――当時の彼女にとって、助けてくれる人=ゼノスという図式が成り立っていたのかも知れない。……その当時のシオンの装備(大剣のクレイモアと白いプレートメイル)が、ゼノスのソレに似通っていた……というのも理由の一つかも知れないが。「……3年、か」シオンとラルフ――二人の青年と出会ったのが、約三年前。そして一年間、彼等はグランシルに留まり、ラングレー兄妹と一緒の時間を過ごした。当時から、傭兵をしていたゼノスは家を留守にすることが多々あり、少なからずカレンは寂しい思いをしてきたことだろう。そんなカレンにとってシオン達との時間は、その寂しさを紛らわせても余りあるものだった。(最初は、兄さんと重ねて見ていたのかも知れない……でも、彼の人柄に触れていく内に、私は彼を追い掛けていた……彼に惹かれていった……)その時と、何ら変わらぬ――いや、更に強く想う様になった気持ち。それが現状のカレンの心を締め付け、大いに持て余していた。「……会いたいなぁ、シオンさん」先程までの上機嫌が一転、重い溜め息を吐くカレン。別段、今生の別れをしたワケでも無し――それどころか、数日前に実際に会っているのだが。以前、シオンが居なくなる夢なんかを見たカレンとしては、不安に思う部分があるのだろう。これで他に誰か――家族が家に居れば、また違うのかも知れないが――。ゼノスはローランディアの騎士であり多忙、父であるベルガーは――。(何があったのかわからないけれど、急に修行に出るとか言って何処かに行っちゃったし――)闘技場でとある人物に負けたことが原因なのだが、カレンは知る由も無い。尚、付け加えるならベルガーは修行ついでに自身の妻『達』の墓参りに向かったのだが、それは余談だろう。とにもかくにも、カレンは今、一人というワケである。「でも、すぐ会えるわよね」カレンは思索に耽る。思うのは近日迄に迫った戦勝祝賀会について。カレンの元にも招待状が届いていたのだ。(久しぶりにみなさんにも会えるし、兄さんにも、シオンさんにも会える……けど、私――お城のお祝い事に着ていける服なんて――)カレンは自身の服を見遣る――所謂、ナース服(現代のそれでは無く、所謂近代ヨーロッパの労働階級の女性が来ていた服を、メイド服っぽくアレンジした様な服装)で、カレンが1番好んで着ている服だ。勿論、他にも服を持っていて、よそ行き用の服なんていうのも持っている――だが、カレンにとってお城のパーティーなど、天上の出来事に等しく、そのよそ行きの服でもその場に似つかわしくない様に思えた。エリオットのお披露目会に行った時に、それを痛い程に感じたのだ。(かと言って、ドレスなんかを買うお金なんて無いし……)ゼノスが騎士になったことにより、仕送りが増えて以前より懐具合が豊かになったとは言え、城のパーティーに着ていけるドレスみたいな超高級品を買う程の余裕は無い。他にも、テーブルマナーとか、礼儀作法とか――気になることは山の様にある。「ハァ……帰ろう」かと言ってカレンには祝賀会に参加しない……という選択肢は無い。久しぶりに共に戦った仲間や、兄に――そして何より、誰よりも愛しい人に会えるのだから――。溜め息を吐きながら、カレンは家路に着こうと――。ガサッ、ガサッ――。「!?」……したその時、近くの茂みが音を立てた。(モンスター……?いえ、違う――!)カレンは咄嗟に身構えながらも、自身の考えを否定する。実は薬草採集に来てしばらく、案の定モンスターに襲われたカレンだったが、そこは今までに幾多の戦場を駆け抜け、仲間と共に修練を積んだカレンである。この辺りのモンスターに遅れを取ることなど無く、返り討ちにして退けたのだ。野生のモンスターは、縄張り意識が強いが――それ以上に弱肉強食を地で行く存在だ。故に、再び戻って来る可能性はあっても、そこに自分たちより強い強者――この場合はカレン――が居たならば、決して敵対したりはしない。少なくとも、カレンがそこに居る限りは――。「……誰?」油断無く構えながら、カレンは茂みに向けて声を掛ける。すると、促された様に一人の人型が姿を現す。ソレは顔全体を覆う仮面を付け、表情は伺えず――、その手には抜き身の剣を携えて――。「な、なんなんですか、あなたは!?」ソレの異様さに、神経を研ぎ澄ますカレン。十中八九、友好的な相手では無いだろうことを予測、牽制のためにマジックアローを待機状態でスタンバっておく。「くくく……我が主の命でしてね、一緒に来ていただきたい」「あ、主……?」(?この声、何処かで――?)警戒しながらも、仮面の人物の声を何処かで聞き覚えがあると感じたカレン。声からして男であると予測出来るが――。「これは嘆願では無く――命令です」「っ!?」自身の記憶を確認していたカレンに、有無を言わさず襲い掛かる仮面のソレ――。「えぇいっ!!」思考を中断し、待機状態にしていたマジックアローを解き放った。ズドドドッ!!牽制の為に放ったマジックアローは、寸分違わずに仮面の男へと着弾――したかに見えた。キィンッ!!ズドドドッ!!「えっ!?キャアァァッ!!?」直撃する瞬間、男の前に魔力の障壁が現れ――あろうことか、カレンのマジックアローを『反射』してのけたのだ。咄嗟にその場から跳び退くカレンだったが、反射されたマジックアローが地面に着弾、その衝撃の為に軽く吹き飛ばされてしまう。「くっ、うぅ……」「くっくっくっ、どうしました?痛くも痒くもありませんよ?」「っ、このぉっ!!」眼前にまで迫っていた仮面の男に対して、身につけていた風の魔法瓶――ウィンダルを投げ付ける。投げ付けた魔法瓶は、男の眼前で炸裂――封じられていた風の魔力が、荒れ狂った刃となって男に襲い掛かる――筈だった。キィンッ!!「なっ!?うあぁぁぁぁぁっ!?」再び魔力障壁が展開、なんと魔法瓶の風の魔力をも反射してしまった。よもや魔法瓶の攻撃まで反射されると思わなかったカレンは、反射された風の魔力の直撃を受けてしまい、後方に弾き飛ばされ――。ドガァッ!!!「か……は……っ!?」樹木に激突して背中を強打、一瞬だが呼吸困難に陥った。「おやおや、逃げないでいただけませんか?」仮面を着けているので分からないが、雰囲気からしてカレンを嘲笑っているのだろう。それを理解したカレンは、嘲笑を跳ね返す様に膝に力を入れて立ち上がる――。「ふむ……随分と反抗的な顔ですねぇ……これは少〜し、お仕置きしておきましょうかねぇ?」男は剣を携えながら――。「何、腕の一本程度が使い物にならなくなっても、生きていれば良いわけですからね」と、うそぶきながらカレンへと近付いていく。(あ、諦めない――絶対に!)正体不明の敵、謎の力――心が折れそうな不安、絶望、恐怖。そんな感覚を全て捩伏せ、カレンは立ち上がる。今までも、カレンは仲間達と共に多くの危機を乗り越えて来た――。それはカレンの自負であり、心の寄り処でもあった。故に、こんな仮面の男に屈するのは耐えられなかったし、この男に捕まるという選択肢も当然ながら有り得なかった。(けれど……どうしたら――)何故か分からないが、自分の攻撃は全て反射されてしまう。それを理解しているカレンは、その思考を巡らせ――打開策を検討する。(――今まで反射された攻撃は全部『魔力』を伴った攻撃だった……なら、物理的な攻撃だったら!)カレンは専用ホルスターから注射器を取り出し、ソレを起動させた。すると、注射器はカレンの身長程に巨大になる……そう、魔法の注射器『インジェクター』である。しかも、これはシオンが改良したモノで『インジェクターⅡ』と言う名称で呼ばれている。そのインジェクターⅡを脇に抱き抱える様に構え、眼前の男を睨みつける。「ククク……よもやその巨大な注射器で、私と張り合うつもりですか?正気の沙汰とは思えませんよ?」「くっ……!」そんなことは、カレンも重々承知している。そもそもカレンは、今までの戦いでも後方支援が殆どであり、訓練においても魔法関係を中心に行っていた。最低限の護身術や、近接戦闘をかじってはいるが――眼前の仮面にソレが通じるかと問われたら、カレン自身も首を傾げざるを得ない。(けど……やるしかっ!!)覚悟を決め、カレンはインジェクターⅡを麻痺モードにし、仮面に向かって突撃する。迫り来るカレンに、仮面の男は両腕を横に広げて立ち止まったまま――。『攻撃出来るのなら、攻撃してごらんなさい』と、でも言う様に。カレンのインジェクターⅡは、仮面の男に吸い込まれる様に突き刺さろうとして――。キィィンッ!!――空中で障壁に阻まれ停止していた――。「そ、そんな……っ!?」「くっくっくっ、そぉら返しますよ?」メギィッ!!!「!!?っああぁぁぁぁぁぁっ!!?」インジェクターⅡによる刺突――その衝撃が反射され、カレンを三度弾き飛ばす。二転、三転――地面を転げ回る。「あ、ぐぅ……っ」「おやおや、そんなに跳ね回られたら捕まえられないではありませんか」くっくっ……と、馬鹿にした様に笑いながら、仮面の男がゆっくりとカレンに近付いて行く。それに対してカレンは派手に吹っ飛び、あちこちボロボロにこそなってはいるが、実際はそれほどたいした怪我を負ったワケでは無い。――だが、それは身体的な意味合いでの話であって、精神的なダメージは無視出来ない物となっていた。(そんな……私の攻撃が、全部……反射されるなんて……)自身の攻撃が届かないという現実を前に、内心で焦燥感と絶望感に苛まれていくカレンだったが――それでも、果敢に立ち上がろうとする――。『カレンがピンチなら、この星の裏側からだって直ぐに駆け付けて来るさ』(――今、あの人に助けを求めたら――あの人は助けに来てくれるんだろうか……?)以前、カレンがこの場所で同じ様に襲われて、助けてくれた時にシオンが言った言葉。それを思い出したカレンは、心が揺らぐ……。しかし――。(ダメ……シオンさんにばかり……頼っちゃ……)それでもカレンは立ち上がる――揺らぐ心を奮い立たせて。(隣に立つのは無理かも知れない……それでも、あの人の心を支えられる様になりたいって、誓ったから――だから……こんなことで弱音を吐かない!!絶対にっ!!)攻撃が通用しない、それでも――心だけは決して折るものかと――眼前の仮面の男を睨み付ける。「気に入りませんねぇ……その表情」ヒュッ!!「さぁ、泣き叫びなさい、命乞いをしなさい」「………」――例え、剣を突き付けられても、恐怖で体が竦み上がりそうになっても――自分を鼓舞し、敵を睨み付け続けるカレン。「……良いだろう。ならば痛い目を見てもらおうかっ」仮面の男は剣を振りかぶり、それをカレンに振り下ろした。(――だめ、かな……)きっと、自分は斬られるのだろう――幾ら虚勢を張ろうとも、幾ら対策を考えようとも――。(恐い……それでも)そう思っても尚、カレンの瞳に絶望は無かった。(それでも、私は――っ!!)カレンは炎の魔法瓶――『グリトニル』を手に取り、それを投げ付けようと構える。先程の反射障壁は、カレンの攻撃の都度、何らかの魔法を詠唱していたのでは――?そう考えたカレンは、相手が直接手を降そうとする瞬間を待ち、ソレを狙った。――相打ち覚悟のカウンター。否――この至近距離では、魔法瓶の爆炎に仮面の男だけではなく、カレンも巻き込まれてしまう上に、先に攻撃モーションに入って勢いのついた仮面の男の剣閃もまた、カレンに当たってしまうだろう――。――それでも、カレンは引き下がらなかった。結論として言えば、カレンの考えは間違っていたが、もし相打ちが成功していたら――カレンは一矢を報いていただろう。何故ならば、仮面の男の使っていた障壁は『道具』の効果であり、時間の制限があるものだからだ。そして、カレンに剣を突き付けていた時には――その効果は既に切れていたのだから――。だが、その様な仮定は無意味だろう。何故なら……。ズガアァァァァンッ!!!「な、なんだとっ!?」「っ!?」カレンと仮面の男の衝突は――一本の剣によって妨げられたのだから。「ふはははははっ!!待てぇーーいっ!!」響くは高らかな笑い声――。「……何者です」仮面の男は声の発生源――信じられないことだが上空――に視線を向けて問う。そこには青年が居た。青い髪、腰に携えた一本の大剣……そして何より眼を奪われるのは、彼の背中から発現した紫の光翼。その姿には、一種の神秘性すら感じられた。「何者です?と聞かれたら、答えてあげるが世の情けぇ!!」……まぁ、その当人が色々と台無しにしていたので、プラマイゼロだったのだが。「世界の破壊を防ぐためっ!世界の平和を守るためっ!!愛と真実の悪……あ、ゴメン、今の無し」本当に、色々と台無しだった。「愛と正義の究極主人公――リヒター!!推・参ッ!!!」これが古き良き特撮物ならば、背景で爆発が起きているだろうって位にビシッとポーズを決めた青年――リヒター。「…………」「…………」思わず、ポカーンと口を開けて闖入者を見上げるカレンと仮面の男――。「とうっ!!」そんなことなどお構いなしに、リヒターは突き刺さった剣の元にカレンを背に庇う様に着地。仮面の男は咄嗟に距離を取る。「やいやいやいっ!!こんな可憐な女性を襲うなんざ――例え天が許そうと、超絶オリ主である俺が――許・さんっ!!」言葉の意味はよく分からないが、とにかく凄い自信を込めて言葉を紡ぐリヒター。(ムフフ、決まった……これで可憐なカレンたんのハートは、鷲掴みだZE!『可憐なカレン』……ウププ、上手いこと言ったなORE♪○田く〜ん、座布団一枚持ってきてぇ〜!)……本っ当に、色々と台無しだった。そんな彼の心情とは裏腹に、仮面の男は距離を取る。「邪魔が入ってしまいましたね……此処は退かせて貰いましょうか」「逃げるのか卑怯者っ!!」「私はこう見えて大変忙しい……それにその女を連れ去るというのは、優先順位の低い命令でしてね……あぁ、心配は無用ですよ?」仮面の男がそう宣言したのと、ほぼ同じタイミングで幾つもの光の球が来訪し――膨脹して弾けた。中から現れたのは、巨人族の中でも最上位に位置する巨人――ジャイアント。そして上級悪魔であり、魔法を極めし大悪魔――アークデーモンだ。「お前たちの相手は彼らがしてくれます――存分に楽しみなさい。では、ごきげんよう」そう言い放つと、仮面の男は光に包まれ、小さな光の球となっていずこかへと去って行った――。「今のは……テレポート!?」カレンは驚愕する。テレポートを使って、モンスターを呼び寄せたというのも驚きだが、テレポートを使うということは、相手はグローシアンだということになる。――しかし、カレンにとってグローシアンの知人は数少なく、その中でもテレポートを使いこなすとなるとただ二人――ルイセとシオンだけだ。カレンはその事実に、ただただ驚愕するだけ――。しかし――。「ふふふ――揃いも揃って……この俺を甘く見ているのかね」青年――リヒターは違った。「この程度の雑魚で――」相手がグローシアンだろうとそうでなかろうと――。「俺を倒せると思うなぁっ!!!」その意思を貫き通す――!!「そりゃああぁぁっ!!」『GAAAAAAAッ!!!』リヒターは手近に居たジャイアントの一体に切り掛かった。その一撃をジャイアントは迎撃に出た――が。「しゃらくせぇっ!!」ズババババァッ!!!『GUAAAAAAAAッ!!?』そもそも速度が違い、擦れ違い様に幾度も切り裂かれたジャイアントは、断末魔の叫びを上げてその場に崩れ落ちた。「す、凄い……」(この人――強い。でも……何だろう?)「ハッハァッ!!どうしたどうしたぁっ!!」カレンが感じたのは、違和感。残り二体のジャイアントが同時に襲い掛かり、その隙にアークデーモンが魔法を詠唱する。「ハッハッハァッ!!そんなスロモーな攻撃が、至高のオリ主である俺に通じるかよぉっ!!」立ちはだかるジャイアントを瞬時に薙ぎ払い、血飛沫に舞う――浮かぶ表情は――凄惨な笑顔。「そーんなとろ長ぇ呪文なんざ――唱えさせるかよっ!!」アークデーモンが最上級攻性魔法――メテオを唱えようとしている所を、瞬時に詰め寄ってその首を跳ね飛ばす。(違う……みんなとは……)カレンはリヒターに感じる違和感を悟った。それは、リヒターの表情……戦闘におけるスタンスと言ったほうが正確かも知れない。ゼノス等の様に、『純粋に強者との闘いを楽しむタイプ』でも、ましてやシオンの様に『本質的には闘争を望まず、競争を好むタイプ』とも違う。むしろそれらとは真逆――所謂『弱者を虐げ、蹂躙することを楽しむタイプ』に近い。これだけ聞くと、最低な奴に感じられるかも知れないが、彼の虐げる弱者とは即ち悪党であり、カレンが知る――弱者を虐げる者とも、また真逆なのだ。強いて言うなら力に酔って、自身を妄信している、と表現したほうがより正確かも知れない。そこに慈悲は無く、楽しげに命を屠る――。まるで、喜々として蝶の羽をもぎ取る子供の様に。故に感じる歪み……それがカレンの感じた違和感の正体。――真っ直ぐで、無邪気で、それでいて歪つ。「これでぇ……トドメだあぁぁぁっ!!!」ズバァァッ!!!『GOAAAAAAAッッッ!!!!???』最後のアークデーモンを胴体から一刀両断にしてのけたリヒターは、その顔に若干の愉悦を張り付けながら、カレンへと振り返った。「もう大丈夫だぜ?お嬢さん」「あ、ありがとうございます。おかげで助かりました」カレンはそんなリヒターに、恐さに似た感覚を抱いたが――危ない所を助けて貰ったのは事実。素直に頭を下げて礼を述べた。(決まったぁ――今の俺、超ブリリアント!!これでカレンたんのハートはドガーンと命中ぅ!これを皮切りに、ハーレム作ってムフフでアハハで、ローション塗ってカワイコチャンたちと一緒に究極の技でドッカァーン♪)そんなカレンとは裏腹に、リヒターはまぁ……舞い上がっていた。妄想の翼を羽ばたかせ、違った意味でトリップしていた。……それをお首にも出さないのは、ある意味称賛に値するが。――だからだろうか。倒したと思ったアークデーモンの一体が、その最後の力を振り絞って呪文を紡いだことに……気が付かなかったのは。「魔力!?」「なぬっ!!?」カレンたちの頭上には何処までも巨大な魔法陣――中からは、これまた巨大な隕石――その数は五つ。超上級攻性魔法――メテオだった。リヒターは咄嗟に魔力の発生源を見遣る。そこには、壮絶な嘲笑を浮かべて息絶えるアークデーモンの姿があった。「くっ、この雑魚ヤローがぁっ!!」(どーする?流石の俺でもメテオを喰らったら、少〜しはダメージを喰らっちまう……とは言え、この俺のボル○も裸足で逃げ出すくらいの神速の足を持ってすれば、そもそもあっさりと射程範囲外へ避けることも簡単だ。……しかし)リヒターはチラリと後ろを見遣る……そこには、呆然とした表情を浮かべるカレンの姿。(真のオリ主として……避けるって選択は選べないよなぁ……!)リヒターは迎撃体勢を取る。自身が誇る最高の切り札――それを切るために!!(しかし、アレをやるには溜めが必要だからな……正直、メテオがこっちに届く前に放てるかどうか……って、弱気になるな俺っ!!俺はオリ主!!必ず成功する!!いや、させてみせる!!!カレンたんのハートをズッキュウゥゥゥンッ!!とさせるためにも!!)……動機は何処までも不純だが、リヒターは決意を新たに両手の剣にエネルギーを溜めていく。(これがメテオ……現在ある魔法の中で最大の攻撃魔法……)一方、カレンは一見呆然としている様に見えるが、実際は冷静に思考を巡らせていた。(実際に見るのは初めて……凄い威圧感を感じる。でも――引かない)カレンはスッと構えを取る。両手の平を、揃えて上空の魔法陣に向ける。フォン――。簡単な詠唱を終えると、その手の平からは魔力障壁が――。「ま、待てお嬢さん――あんな石ころ程度、俺だけで……」その障壁は眼前のリヒターをも庇う様に展開されており、それに対してリヒターは異を唱える。いわく、自分一人で事は済むと――。「貴方が何かをしようとしているのは、何となくわかりました……私が時間を稼ぎますから、その内にっ」(私だって……これくらいやれなきゃ、あの人を支えるなんて……!!)異論を唱えるリヒターを促す様に告げたカレンは、上空の隕石を睨み付ける。無謀は百も承知。呪文を唱えたアークデーモンは既に事切れているが、腐っても上級悪魔の放った最大級の攻性魔法だ――5発全てを凌ぐことは困難だろう。(それでも、時間を稼ぐくらいは……!)破壊の巨石は――眼前にまで迫っていた。そして――。ゴアアァァァァァァァァァッ!!!!!「っっ!!!??」魔力の障壁と破壊の巨石が――激突した。(なんて、圧力……けど、これなら――)耐えられる。そう、思った――。だが、それは五発放たれた内の一発を耐えられただけに過ぎず――。それは即ち。ドガアァァァァァァッ!!!!「!?あ……ぐぅ……っ!?」二発目以降の隕石の衝突を加味した場合――それはカレンの数少ない余力を削り取っていく結果となる。誤解のない様に言っておくが、カレンの魔力は決して低くはない。確かにグローシアンなどに比べたら及ばないかも知れないが、一般的な魔術師の基準を裕に超えている。それはカレンの修練の成果であり、濃密な経験の賜物であった。ただ――それすら、上級悪魔の命を賭した――呪いじみた魔力の前では、枯れ葉の様に頼りない物でしか無かった。(に……二発目だけでこれじゃあ……長くは、保たな、い……っ!!?)「は、早く……う、ぐぅ……っ!!?」リヒターを促しつつ、三発目の巨石の衝突を防ぐカレン。障壁の外は、絶対的な質量と魔力の渦が荒れ狂い、周囲にある草木が吹き飛び、薙ぎ倒される。仮にカレンが障壁を張らなかったら、比べものにならない位の大惨事になっていたかも知れない。具体的には周囲十数メートルに及ぶ、どデカイクレーター……いや、そもそもここは谷が近くにあるので、地盤が崩れて周囲が谷底に真っ逆さま……かも知れない。グランシルからはそれなりに距離があるが、最悪……街の一部をも巻き込んでいたやも。これも、カレンが引かなかった理由の一つ。(苦痛に呻くカレンたんも……萌えるなぁ……イイッ!!――とか、言ってる場合じゃないよなっ!!)そんなカレンを見て、またまた妄想の翼を羽ばたかせかけたリヒターだが、流石に空気を読んだのか、気合いを込めてカレンに応えた。「いっくぜぇっ!!これが俺のぉ……全・力・全・開・ッ!!!」両手の大剣に膨大なエネルギーが蓄積され、それを振りかぶり――思い切り振り切った。「アビス・ブレイカー……デッドエンドシュートォォッ!!!」ゴゴゴアアァァァァァァァッ!!!!両の剣から放たれた紫色のエネルギー波は、極大の光の帯となってカレンの障壁を突き破り――眼前の隕石群を飲み込んだ。「ハッハァ!!ざまぁカンカン!!究極オリ主の底力……思い知ったか!!」「す、凄い……」その紫紺の極光をカレンは畏怖の篭った瞳で見つめた。魔力でも、気でも無い――未知のエネルギー。それが破壊の巨石を駆逐する様は、圧巻の一言に尽きる。いつぞや、シオンがゲヴェルに向かって放った『極光』という魔法があったが――威力的には引けを取らないかも知れない。しかし――。「っ、まだですっ!!」「ウェ!?」カレンは気付く……魔力の残滓がまだ残っている……いや、より強力になっていることを。その反応にリヒターは奇声を発しつつ、カレンの視線の先――頭上を見上げる。紫紺の極光が破壊の巨石を飲み込み、爆炎を散らした――その爆炎を切り裂き、更に巨大な巨石が飛来する。「ちょwww待っwww」「そ、んな……」リヒターが駆逐した隕石は、五つの内の四つに過ぎず――その中で一番巨大な質量と魔力が込められたソレは削られこそすれ、打ち砕かれることなく残っていた。(じ、冗談じゃねぇぞ!?あんなの消し飛ばすくらい当然出来るが、消し飛ばすエネルギーを溜めてる時間なんて……)冷や汗を垂らしながら苦笑いを浮かべるリヒター。俗に言う笑うしかないという状態だ。幾ら(自称)最強オリ主リヒターと言えど、先程のエネルギー波――アビスブレイカー――を再度放つには先程の倍以上の時間を必要とする。……当然だが、そんな時間をあの巨大隕石が与えてくれるとは、リヒターには思えなかった。そして、カレンもまた似たようなことを考えていた。(あんなの……今の私じゃあ……)カレンが使った魔力障壁――まんま『マジックシールド』と言い、シオンが防御系補助魔法――『マジックシェル』をアレンジして生み出した魔法である。防御系補助魔法――マジックシェルとは、対象一人に魔力の膜を展開――短時間ながら攻撃魔法を完全にシャットアウトする上級補助魔法である。対するマジックシールドは、自身の周囲に魔力の障壁を展開――盾とすることで相手の攻撃を防ぐ補助魔法である。端的に言うなら、マジックシールドはマジックシェルの劣化版だが、その分使い回しはかなり良好だ。マジックシェルはあらゆる攻撃魔法を無力化するが、その分魔力消費量が多く、対象者一人のみを対象とする。その上、持続時間が極端に短く、持続時間を長くしようとするなら、それこそ莫大な魔力を消費しなければならない――というデメリットが理由で、並の術者にはまず扱えない魔法。一方のマジックシールドは、あくまでも魔力で作った盾――障壁なので、魔法、物理関係なく攻撃を防いでくれる。魔力消費量もマジックアロー並に少なくて済む。また、効果範囲は術者の匙加減である程度は決められるため、術者自身のみならず、複数を対象に出来るのも利点だ。効果の持続時間も、断然長い。ただし、あくまでも魔法を無力化するのでは無く、障壁で防ぐだけなので、より強力な攻撃を防ごうとするならば、より多くの魔力を込めてシールドを強化せねばならない。防ぐ攻撃の威力によっては、マジックシェル以上の魔力を消費することになる。つまり、何が言いたいかと言うと――。先程、カレンが防いだメテオは……二発。それを防いだだけで、カレンの魔力は大幅に削り取られてしまったのである。何度も言うが、決してカレンの魔力量が少ないわけでは無い。それだけ、あのメテオには膨大な魔力が込められていたということだ。――カレンは愕然とした表情を浮かべる。もう駄目なのか――自分に出来ることは無いのか――自身に問い、答えを紡いだ。(諦めないって――決めたじゃない)こんなところで死ねない――死んでやるものか!!最後まで諦めず、あがき続ける……それがカレンの答えだ。「……私がもう一度、防いでみます。だから――また、お願い出来ますか?」「なっ……む、無茶だろ!?これより小さな奴を受け止めた時でもあんなに辛そうだったのに……あんなデカイの止められるわけが――」「例え、そうだとしても……私は諦めません」今から逃げたところで、アレに潰されるだろうし、よしんば逃げ切れたとしても周囲の被害が甚大なものとなるだろう。マジックシェルを使えば、自分やリヒターだけは助かるかも知れないが、グランシルの街に住む人々にも被害が出るかも知れない。故郷の街や人々を見捨てることなど、カレンには許容出来ることでは無かった。ヴゥ……ンッ!!再びマジックシールドを展開するカレン。その瞳は何処までも力強く、光を称えていた。(……最後になんて、しない。するつもりもない――なのに)カレンの脳裏を過ぎるのは――これまでの思い出、過去、道程――。友人、仲間、父親、兄、そして――。(どうして……こんな……)まるで、走馬灯の様に――。(……いいえ、本当はわかってる……怖いんだ、私――)此処まで自身を鼓舞してきたカレンだが、恐怖を感じなかったわけではない。元来、カレンは『強い』女性ではない。しっかりした、芯の強い女性に思われがちだが……その実、繊細で――脆い心の持ち主。正史とも言うべき、『本来の流れ』の内の一つでは、カーマインと父親であるベルガーとの関連性を知り、大きく傷付いた。シャドー・ナイツマスター……ガムランに呪いを掛けられ、兄であるゼノスの足枷となってしまい、絶望したこともあった。この世界においては、それらはシオン達によって未然に防がれていたが。――それが正史以上の『弱さ』と『強さ』をカレンに与えることになった。ゼノスが傭兵家業をしていた頃、本来なら一人で家の留守を守っていたところを、シオンとラルフが傍に居て、共に過ごした時期があった。一年間限定だが――。これによりその間は寂しさを感じず、安らぎを得ることが出来たカレンであったが、本来養われる筈であった芯の強さ――心の強さに微かな陰りが生まれた。そういう意味ではカレンは正史より『弱い』と言える。兄へと向かっていた恋慕の情は、白銀を称えた青年に向けられ――それを本っっっ当に紆余曲折あった結果、受け入れられた。カレンは青年の慟哭を聞いた――悲しみを知った。だから、彼を支えられる様になりたいと努力し、結果として力を手に入れた。それは間違いなく、カレンの『強さ』だろう。しかし、故に、だからこそ――カレンは弱かった。(引けない――そんなことはわかってる……でも、恐い……)身体が微かに震える……自分は死ぬかもしれない――恐い。危ない所を助けてくれた、この青髪の青年が死ぬかもしれない――恐い。生まれ育った街が、その街に住む人々にも被害が及ぶかもしれない――恐い。しかし何より――。(みんなが、悲しむかもしれない……)兄であるゼノス、父であるベルガー……旅を共にしてきた仲間たち。――そして。(シオン――さん)最愛の、笑顔が暖かい青年――。カレンは考える。もし、自分が此処であの隕石に押し潰されたら……あの青年はどうなってしまうのだろうか?――カレンの脳裏に過ぎるのは、青年の慟哭――初めて人を殺め、その事実に潰されそうになった――懺悔の悲鳴。もし、自分がこの場で果てたら――あの暖かい笑顔は、曇ってしまうんじゃないだろうか……?心が潰されてしまうんじゃないだろうか――?また……あの慟哭を……。「そんなの……嫌、だっ――!!」カレンの張った障壁が、より力強さを増した。それが絶対の意思である様に……その意思に呼応する様に。「――っくそったれぇっ!!!」そんなカレンを他所に、リヒターは悲鳴じみた、絶望を滲ませた声をあげた。カレンの瞳は、まだ死んでいない。ならば、自称至高のオリ主である自分が、諦めるわけにはいかない。あの巨石を打ち砕く攻撃は――出せる。だが、いかんせん時間が足りない――どう頑張っても、間に合わない。(カレンたんの障壁――アレを相手にどれだけ保つ?――何分と保たないだろう。俺の感覚からしても、エネルギーが溜まり切るまでまだまだ時間が掛かる)歯痒い想いを抱きながら、リヒターは冷静に考える。(――カレンたんの気持ちは分かる、が、カレンたんに死なれたらフラグもクソも無い――)そして決断を降した――カレンは助けよう。自分も助けよう――だが、他がどうなろうと知ったことか……と。リヒターは原作の知識を有している――その知識の中には、グランシルの人々が主人公であるカーマインを糾弾するシーンが存在した。(優しいカレンたんのことだから、街の連中も助けたいと思っているんだろうが――幾らラスボスに脅かされているからって、原作主を糾弾する様な奴らに――助ける価値があるか?……いや、無い)普段の彼なら、此処まで独善的な思考に至ったりはしない。つまりは、それだけ追い込まれているということだ。思い立ったら即吉日!!と、ばかりにリヒターはエネルギーのチャージを中断……光翼を展開、カレンを掻っ攫おうとした。――瞬間――。翡翠の如き極光が――彼らの頭上に迫った破壊の巨石を――飲み込んだ。「――は?」その光景に、カレンを掻っ攫って飛び去ろうとしたリヒターは、両手を広げてカレンに飛び掛かろうとする姿勢のまま、頭上を見上げるというバレリーナみたいなポーズで固まり――。カレンは――。(……あっ……)その膨大な魔力の奔流に、望んで止まない暖かさを感じていた。マジックシールドを解き、魔力の源泉を辿る。視線を頭上から下げる……カレンに不安は無い。もし、カレンの望んだ通りなら――頭上の巨石は綺麗さっぱり吹き飛んでいるだろうから。「あっ……あぁ……」カレンの心から、絶望が消えていく。「やれやれ、なんだか知らないが……間に合ったみたいだな。本当、ベタベタなシチュエーションだよな」不敵な笑みを浮かべる、銀と蒼を携えた青年――シオン・ウォルフマイヤーが――そこに居た。***********危なかったな……。俺がテレポートでグランシルに到着した時、デカい魔力反応を感知した。咄嗟にそっちを見遣れば、巨大な隕石――メテオが、グランシルの郊外――あの橋辺りに墜ちていくのを視認。――しかも、あの辺りから気を感じる――数は二つ。その中の一つは馴染み深い――愛しい訪ね人の物。「……俺の直感も、中々馬鹿に出来ないな」俺はその場から瞬転を使い、急いで現場に向かって――今にも魔力の障壁を張っていた人物――カレンと衝突しそうになっていた隕石に極光をぶちかまして――現在に至るってワケだ。「シオン……さん……?」「ああ、シオンさんだぞ?」カレンがゆっくり近付きながら、俺に問い掛けてきたので、俺はソレに満面の笑みで答えた。「前にも言っただろ?カレンがピンチなら、この星の裏側からだって直ぐに駆け付けて来るってさ。……まぁ、我ながらもう少し早く来れたらとは――思ったけどな?」「そんな……そんなこと……。嬉しいです、とても……」カレンは俺の傍まで来ると、俺に身体を委ねて来た。「――また、助けられちゃいましたね……」「そうだな……本当に、無事で良かった」「……悔しいなぁ」俺がカレンを抱きしめ、安堵の声をあげた時――カレンがぽそりと口にした言葉。「ん?」「私――貴方の支えになりたいって頑張っているのに……いつも貴方に支えてもらっている。それが、どうしようもなく心地良いのが……悔しいんです」「――俺だって、カレンに支えてもらってるさ」凄く安らいだ表情を浮かべるカレンに、俺は掛値なしの本音を口にする。カレンが支えてくれていなかったら……自分は壊れていたかも知れない。本当に、感謝してもしたりないくらいだ。「嘘……」「本当だって……」と、和やかで、少し惚気た空気に包まれて笑顔を浮かべる俺とカレン「ちょっっと待ったあぁぁぁぁっ!!!!」……うん、気付いてはいた。ただ、優先順位的にカレンが最優先だっただけで。「あっ、えっと、その……シオンさん。この人はリヒターさんです。危ない所を助けて戴いて――」――どうやら、カレンは素で忘れていたらしい。真っ赤な顔で慌てて俺から離れ、青年――リヒターを紹介してくれた。にしても、コイツがリヒターか……。青髪童顔、整った顔立ち、両手に握られた二本の大剣にプレートメイル。一見した感じ、悪い奴には見えないな。今まで、何度か聞いた噂を加味しても、そう判断出来る。……っと、イカンイカン。カレンを助けてくれた恩人なんだから――必要以上に警戒するのも失礼だよな。――転生者疑惑やら、聞きたいことは山程あるが、今は礼を言うのが先……だな。「俺はシオン、シオン・ウォルフマイヤーだ。彼女が危ない所を助けてくれたそうだな……俺からも礼を言わせてく「フフフフフ……」、れ?」と、感謝の意を述べようとした俺の言葉を遮り、突如笑い出したリヒター……正直、不気味だ。「リヒター……さん?」その様子にカレンも困惑気味の様だ。「フフハハハハハッ!!!遂に見付けたぞ、シオン・ウォルフマイヤー!!此処で会ったが百年目……覚悟ーーっ!!!」なっ!!?突如として殺気立ちながら、俺に切り掛かって来たリヒター。俺は咄嗟に愛剣、リーヴェイグを引き抜いて彼の剣閃を防ぐ。避けることも出来たが、近くにカレンが居たため迂闊に避けられなかった。ギキイィィィィィンッ!!甲高い金属音が周囲に鳴り響く――。「……何のつもりだ?」「黙れこの腐れ外道がっ!!テメェの様なゲス野郎は正義のオリ主である、このリヒターが成敗してくれるわぁっ!!」俺が冷たい視線と共に、リヒターを睨み付けると、リヒターは鍔ぜり合いをしながら一気にまくし立てた。「さぁ、カレンさん!!そこから離れてっ!!貴女は騙されているっ!!」「何を……何を言ってるんですか……何でシオンさんを……」カレンは突然のことに戸惑っているが、何処かリヒターを批難するような視線を向けている。「騙すとは穏やかじゃない、なっ!!」「ぐぬっ!!?」俺はリヒターを弾き飛ばし、距離を取らせる。リヒターは難無く着地してみせた。「出来れば、詳しく話を聞かせてもらいたいな」「O・HA・NA・SHIフラグですね分かります――だが、貴様に話すことなど無いっ!!」問答無用か……。仕方なく迎撃体勢を取ろうと構え――。「と――、○ム兄さんばりにヌッコロスのはわけないが……此処は敢えて舌戦で憤死させるのもまた一興。究極オリ主足る俺の灰色の脳細胞で、事件は解決だぜっ!!」肩透かしを喰った……まぁ、色々言いたいことはあるが、コイツは間違いなく転生者だな。しかも、ノリが何処か懐かしいような……。「フフフ……俺は知っているんだよ……好青年ぶっている貴様が、どうしようも無いゲスでクズで、女垂らしだってことをなぁっ!」「なん……だと……?」と、郷愁にも似た感覚の正体を探ろうとしていると、奴が聞き捨てならないことを言い出した。誰も好青年ぶってはいないんだが……女垂らしという点では――否定出来ないな……。「お前が自分の立場を利用して、仲間の女性にあんなことやこんなこと――揚げ句の果てにそんなことまでしちゃっていることはなぁ!!まるっとすぱっとお見通しだっ!!」「な、何を言ってるんですか!!シオンさんはそんな人じゃありません!!――そうですよね?」「……………」カレンの真っ直ぐな視線が……痛い。思わずスッ、と目を逸らした俺。――よく考えたら、俺がリビエラ、ジュリア、サンドラ、レティシア、イリスと―――したっていうの、カレンは知らないんだよなぁ……。いや、伝えようとはしたんだが――ほら、前回来た時はベルガーさん居たし、カレンは早々に酔い潰れたし……正確には酔い『潰した』なんだけどな。他の皆にはちゃんと言ったぜ?そういう描写があまり無い?――影でちゃんと説明していたんだよ……ってか、メタ発言禁止。いや、俺が言い出したんだけど……。「シオン……さん……?」「ふぅん、ぐうの音も出まい?信頼出来る筋からの情報だからな」それがどんな情報源からの情報か……なんて、俺には分からないが。――隠し立てはしたくない。カレンには、ちゃんと伝えなきゃ――な。「――すまん、カレン……実は……」俺はカレンに事情を説明する。俺がリビエラ達と――してしまったこと、そのことをカレンに説明しそこねたこと。「本当に、ゴメンな……」「……そんな、そんなことって……」カレンは俯き、落ち込んだ様に声を――。「そう!貴女は真実を知った!!さぁ、僕の胸に飛び込「私が……最後だなんて……」ん、で?」リヒターが妙なポーズで固まって――まぁ、それはどうでもいい。「やっぱり、あの時……私が酔い潰れなければ……私なんて……私なんて……腐った蜜柑みたいなものなんですね……あは、あはははは……」「あ〜、いや……カレン?あまり自分を卑下すんなよ?つーか、この場合……批難されるのは俺の筈では?」暗黒オーラを放ち始めたカレンに、俺は冷や汗と共に疑問を提示する。――リヒターが物凄い勢いで頷いているが、そこはスルーで。「だって……シオンさんを信じてますから――私が最後っていうのが、少し悲しいし、悔しいですけど――批難なんか、しないですよ。私たちが、好きでこういう形を受け入れたんですから――」「いや、まぁ――それでもやっぱり、ゴメンな?」俺は頬を軽く掻きながら、バツが悪そうに謝罪する。――実の所、この答えは想像していた通りだったりする。……何故なら、他の皆が似たような反応だったから。皆の間には絆の様なモノが存在して、故に互いに敵対することは無い。……まぁ、簡単に説明すると嫉妬とかはしても、互いを排斥したりせずに尊重し合い、認め合っているんだよな。正直、その精神性は異常だ……けど、彼女達をそこまで追い詰めたのは――俺、なんだよな……。そういう意味では、俺はリヒターの言う様に外道……なのかもな。けど――。「カレンだけ、寂しい思いはさせないから――」もし、彼女達を狂わせたのが俺ならば――俺も一緒に狂うだけだ。彼女達が俺を受け入れてくれたなら、俺も彼女達を受け入れる――。ハーレム、ご都合主義――何でも来いっ!皆で幸せになる……皆と一緒に、人生を生き抜いてやる。それがアイツとの約束でもあるし、な。「あの、それって……」「今日は、その為に来たんだ――我ながら煩悩が強過ぎるとは思うけど」「そんなこと……ないですよ?私、ずっと待ってたんです……貴方と、その――だから、嬉しいです……っ」綺麗な笑顔だ……ほんのりと頬を染め、潤んだ瞳をこちらに向けて――。駄目だよな、もう我慢なんか――出来ない。俺はカレンを抱きしめ「フフフ……」る、ことは出来ず。何やら笑い出したリヒターに視線を向ける。「どちくしょう……どちくしょう……オリ主は俺なんだぞ?それなのに、なんだよアレ……ご都合主義はオリ主の特権だろ……?……ハッ!?そうか、幻術!?成る程、カレンたんが正気に戻らないのも……全てノストラダムスの予言に記されていたことだったんだよっ!!」「な、なんだってーーっ!!?」……………………。………………。…………。……。「シ、シオン……さん?」「あ、いや、あそこは驚いておかなきゃいけないかなぁ……と、常識的に考えて」カレンが凄く困惑してるが、俺も少し戸惑っていたりする。普段の俺なら、あんなノリにはならない。なったとしても、口には出さない。せいぜい心の中で(キバヤ○かよ!?)ってツッコミを入れる程度だろう。原因は分かっている――アイツ、リヒターのノリに引っ張られたんだ。酷く懐かしいソレに――。もう、何十年も前……俺が『シオン』では無く、『海道 凌治』だった頃に感じていたモノ。――確信は無い、が……まさか、アイツは――。「うおりゃあああぁぁぁぁぁっ!!!」「くっ!!?」俺が思考に更けることを許さぬと言う様に、リヒターは裂帛の気合いと共に剣を切り付けてきた。直ぐさま迎撃する――!!「幻術を解くには術者を倒す!!テンプレ過ぎるが、これ常識っ!!」「生憎、俺は幻術なんか使った覚えは……ねぇっ!!」再び弾き飛ばし、距離を取らせる。――もし、俺の考えてる通りなら……アイツは……。「嘘だっっっっ!!!!!!」ドンッッ!!!!リヒターが強烈な踏み込みで、俺に肉薄してくる……って、速っ!?「下がってろカレン!!」「シオンさん!?きゃぁ!?」俺はカレンをその場から下がらせ、リヒターに討って出る。あの速度――ラルフのソレに近い。生半可では、受け切れない――!!「ニコポナデポなど、貴様のような奴に相応しいものかっ!!アレはオリ主である俺の……特権だぁっ!!」ギキイィィィィィンッ!!!「っふざけたことを……吐かすなぁ!!」ドガァッ!!!!「ぬぐぇっ!!?」一瞬、鍔ぜり合いになったが、直ぐさま体当たりを敢行。問答無用で跳ね飛ばした。「くぅ……俺の動きについて来た……?そんなこと……ある筈がなぁいっ!!」再び奴が猛スピードで、こちらへ向かい――。「喰らえ!!スピード地獄ッ!!!」今度は直線では無く、縦横無尽に動いてフェイントを加えながらの攻め。そのスピードは残像を残す程に、速い――。確かに速いが――。俺はもっと速く、強い奴を知っている――。アイツの――ラルフの本気は、もっと速いっ!!それが分かった以上――。「俺には……温いんだよっ!!!」ヒュンッ!!!「!?消え――」「――遅い」俺は奴の猛攻を見切り、その攻撃が届く前に懐に入り込み―――。ドガガガガガガガガガッッ!!!!!「あがあぁぁぁぁぁっ!!?」無数の――それこそ奴の残像を掻き消すくらいの連撃を叩き込んでやった――。再度叩き飛ばされ、後方の木に激突するリヒター。無論、加減はしたが……。「がはっ……くそっ……俺はオリ主だぞ……なんで、こんな……」ダメージはデカイ筈だが、それでも立ち上がるリヒター……。「もう止めろ……お前くらいの実力者なら、彼我の実力差が分からない筈は無いだろう……」もし、リヒターがアイツなら――いや、そうでなくとも、リヒターには俺の知らない所で幾つも借りを作っていたらしいし、これ以上は――。「くそ……、せっかく、ドーピングまでして鍛えたのに……悪の権化に正攻法で勝てない、なんて――」「――俺は、ただ話がしたいだけだ。なんか誤解されてるみたいだしな……」このままじゃ、本当にO・HA・NA・SHI状態だよなぁ……そう思い立った俺は、剣を鞘に収め、こちらには戦う意思が無いとアピールを――『正攻法では』だと?「アビスウィーングッ!!!」「なっ……」リヒターが高らかに叫んだかと思うと、奴の背中に紫の光翼が出現――宙高く舞い上がった。考えていなかったワケじゃ無い。俺にご都合主義的な力があった様に、リヒターにも同じ様な力があっても不思議じゃない。奴のアレが、先天的な技能なのか後天的な努力の末に身につけた技能なのかは分からないが――確実に言えることは一つ。――リヒターは、戦闘兵器としての能力を自在に扱えるってことだ。厄介だな――。自在に扱えるということは、未知のエネルギーを扱って空を自在に飛べるし、攻撃にも転用出来るし――。何より反転――正確にはトータルエクリプス、だったか?アレを使えるってことだ――。それはつまり、カーマインやポール――ラルフの反転現象の危険性を意味している。俺がリヒターに対して、もっとも危惧していたことだ。「確かにお前の方が強い……悔しいが、今はまだ――な。だが、しかぁし!!俺の全力全開を喰らえば、お前は汚い花火と化すだろうさっ!!」言うなり、奴はエネルギーを二本の剣に凝縮させていく――。――本気か?「お前、此処にはカレンも居るんだぞ……なのにそんなものをぶっ放すつもりか?」「なっ、おのれ卑怯な……人質を取るつもりかぁっ!!?」そんなつもりはカケラも無いっつーの……にしても、人の話を聞かない所と言い、益々アイツに似てるなぁ……。「うぬぅ……や、やむを得まい!!此処は引き分けにしておいてやる!!だが、俺は必ずお前から彼女たちを開放する……必ずだっ!!」集束させたエネルギーを霧散させ、リヒターは吐き捨てる様に言い放つ……って、逃げる気か!?「ま、待て……まだ話が――っ!?」この、気配は――っ!!?「カレンッ!!」「え……うきゃ!?」俺は咄嗟にその場を跳びずさり、後ろに居たカレンを抱き抱えるのも忘れない。すると、俺達が居た場所に爆炎――恐らくファイヤーボールだろうが飛来する。周囲の木々を焼き払い、吹き飛ばされて――爆炎が晴れる。そこから現れたのは――奴。銀髪、赤眼、血の様に紅い剣を携えた眉目秀麗な青年――服装からして違うが、この気配……忘れやしねぇ!!「ルインじゃねーか!?」リヒターの言葉が、ソレを肯定した……。フードの男――ルイン……!!「リヒターさんに会いに来たんですが……何だか立て込んでいるみたいですね?僕が足止めをしますから、リヒターさんは逃げて下さい!!」「ちょ、待てって!!相手が悪すぎる!!コイツ、お前の話以上に凶悪で――」「大丈夫です!策は我にあり!ですよ♪――後で必ず合流します!だから……」リヒターと知り合いだったのか……いや、それよりコイツがリヒターに何かを吹き込んだんだな……。――ふざけた真似しやがって!!!「おい、お前……っ!?」「………♪」俺がすかさず詰め寄ろうとすると、俺に向かってしーっ、と人差し指を口に宛てて、静かにしろと表現する――その顔に邪心に塗れた笑みを浮かべながら。――何か、仕掛けてやがるのか……?奴を葬り去るくらい造作も無いが……もし、アイツに何か細工をされていたら?そう思うと、迂闊に動くことが出来なかった……。「……すまん、恩に切るぜっ!!――シオン・ウォルフマイヤー!!この決着は必ず着ける――必ずなっ!!って、スゲェ悪役臭い台詞――だが……そこが良い。敢えてライバルフラグを立てて去る俺最高っ!!じゃあ――あばよぉっ!!」そう言い残して、アイツは去って行った――。俺は歯軋りをしながらアイツを見送り、眼前の奴を睨み付けた。「どういうつもりだ――?」「おや?その口ぶりだと、僕のことが分かっちゃってるんだぁ?君らの前で素顔を見せたつもりは無いんだけどね?」やはり、リヒターの前ではネコを被っていたらしい。何故そうするかは分からないが――。「ちなみに、今の質問を返すけど、君こそどういうつもりなんだい?君にとって彼は打倒すべき敵の筈だ――何故、見逃したんだい?」「確かにな――だが、奴以上に貴様の方が数倍厄介だからな――目を離した隙に何を仕出かすか分からん」アイツと俺の関連性に、気付かせるワケにはいかない――。「アハハ♪そんなに僕を警戒(評価)してくれてたんだぁ♪それは恐悦至極だねぇ……」コイツは問答無用で始末するべきだ……。俺の本能がそう告げている。だが、理性の部分は告げる――コイツが何の対策も無く俺の前に姿を現す筈が無い……以前も、それで煙に撒かれたんだからな……。ならば、情報を引き出せるだけ引き出すのが得策――。「まさかリヒターと貴様がつるんでいたとはな――正直、予想外だぜ」「つるむ――というのは正確じゃないね。あくまでも彼は手駒――この舞台を彩る有象無象の一つに過ぎないのさ。知っているかい?彼、自分が主人公だって――正義のヒーローだって本気で思ってるんだよ?本当は利用されてるとも知らずに――笑っちゃうよね?アッハハハハハハハハ!!」……っ!!落ち着け……冷静になれよ俺……。悟られるな……。「まぁ、よもやそこの彼女を都合良く助けるなんて……思わなかったケドねぇ?」「!?どういう、ことですか?」ルインの纏う異質な空気に、怯みながらも疑問を提示するカレン。「カァンタンさ♪君を襲った仮面の彼ね――僕の、ひいてはヴェンツェル様の部下なのさ――」「なに……!?」「彼女は君にとって大事な人みたいだ……本当なら、君に対するアドバンテージにしたかったんだけど……いやはや、上手くいかないものだねぇ?」コイツ……!?カレンを人質にしようと……!?「本当、犯して壊して弄ることが出来なくて――残念だよぉ?ヒャハハハハハハハッ!!!」――駄目だ。コイツは駄目だ――。不愉快で、不快で、不遜で、理不尽なこの男を――。「そうだぁ、なんなら今から――」奴がカレンに向けて手を伸ばす――――許容出来ない。俺は――ユルセナイ。「僕の玩具にして――「死ね――」げぎゅあ」俺が放ったのは拳――魔力と気を極限まで込めた……ソレだけの――只々に全力の拳。奴の言葉を聞くのも不愉快だ、同じ空気を吸うのも不快だ、不遜な態度は苛立ちを募らせる――。そして何より……理不尽な理由でカレンを傷付けようとしたこの汚物を――打ち砕くために放ったソレは、奴の上半身を吹き飛ばし、その拳圧は後方の木々を薙ぎ、穿った。その時の俺は、周囲の被害を気にするより、目の前で血飛沫を噴き上がらせる汚物のカケラを、完全に消し去れなかったことの方が気になった。――俺は想像以上に怒っていたらしい、が……カレンに残酷シーンを見せたことを後悔する程度には理性を残していたらしいな。おかげで気付くことが出来た――。血飛沫を撒き散らす汚物のカケラが、どろどろに溶けていくのを――。「――一杯喰わされたってワケだ」奴らは封印されていたゲヴェルを手中に納めた……ゲヴェルは採取した細胞から複製を作り出す能力がある……。つまり、そういうことなんだろう。今さっき潰した奴は――複製だったってことだ。「あ……あの……」「――ゴメンな」何が……とは言わない。今の俺が放つ怒りの雰囲気にか、拳一つで人間一人を粉砕したことにか、それともその威力で巨大な龍が通り抜けた様な『道』を作り上げたからか――何れにせよ、カレンが震えている原因が、俺にあるのは否めない。だから――。「違うんです……」「え――?」「確かに……怖かったです。さっきのシオンさんも……あのルインって人も……でも何より、シオンさんが助けてくれたのが嬉しかった……守ってくれたことが嬉しかった……それで、その――ホッとしたら身体に力が入らなくなって――げ、現金ですよね……さっきは悔しいなんて、言っていたのに……あはは……」――嘘だ。まだ怖い筈だ――なのに、俺を気遣かって――我慢して、笑顔を浮かべている……。「……本当に、ゴメン」「あっ――」俺はカレンをゆっくり抱き寄せた……。包み込む様に、愛おしい彼女を――。最初はビクッと震えたが、次第にカレンの震えは止まっていった――。「あったかい……いつもの、シオンさんだぁ……」カレンは嬉しそうに、愛おしそうに眼を細め――抱きしめ返してくれた。「怖い思いさせて――ゴメン」「フフ、今日のシオンさん……謝ってばかりです」「ああ、本当にな……」そう、互いに笑みが零れ……気付いたら俺の苛立っていた心は、緩やかに解されていた。だが、それでも完全に心は晴れなかった――。ただ一つの曇り――それは……。(……本当に、お前だったのか……国彦――?)何処までも懐かしい雰囲気を携えた、青髪の双剣士に思いを馳せ、空を見上げる……。もし本当にお前だったなら……俺は――。「確かめなきゃ、な」「?何をですか?」「いや、何でもないさ」例え国彦だろうとそうでなかろうと――利用されてるって言うなら、助けてみせるさ。アイツには、借りがあるからな――。何処までも澄み渡る空を見上げ、俺はそう誓うのだった――。***********次回予告男と女は一時の邂逅を果たす――。互いに愛し合い、求め合う――。それは大いなる流れの前の、穏やかな一時。ソレは、終局へと向かう流れの始まりの一時――。次回『胎動』***********後書き既に忘れ去られているとは思いますが、神仁でございます。m(__)m伊達家のお膝元に居たので、更新とか中々出来ない状態でした。(-.-;)一応、嘘予告と×××バージョンも更新してありますので、お目汚しではありますが、目を通して戴ければ幸いでございます。それではm(__)m