とりあえず、気絶しているシャドーナイトを縄で縛り上げておく。因みにパンツ一丁だ……何故かというと。「どうっすか頭、旦那?似合うっすか?」俺が衣服を剥いでおいて、それをニールが覆面を除いて着込んでいたからだ。…そういう趣味じゃないぞ?「シャドーナイト相手に遠慮は無用。何を仕込んでいるか分からないからな」案の定、二振りのブロードソードの他にも暗器や毒薬なんかも持っていた。それらはしっかり懐に入れておいた…毒薬は別段珍しくもない物だったし、使わないから捨てたけどな。「これって……強盗と大差無い様な気がする……」「甘いぞラルフ。コイツは俺達に襲い掛かって来た……殺す気でな?しかもシャドーナイトだ…油断してたら寝首を掻かれるぜ?無力化しておくのは当然。剥いだアイテムも捨て置くのは勿体ないだろ?」まぁ、俺とラルフが寝首を掻かれるなんざ無いだろうが、念の為にな。アイテムは強いて言うなら、戦利品だな。TRPGなんかでも剥ぐのは基本だしな。……いや、資金的には余裕ありまくりだよ?その気になれば装備を充実させるのはわけ無いし?「いやぁ〜、中々良い装備っすね〜!軽くて丈夫で!」シャドーナイト専用の大剣…シャドーブレイドと言うのが原作にはあったが……どうやら鎧も同じ材質らしい。ちなみにこのブロードソードもシャドーブレイドと同じ材質で出来ている。シャドーナイトも存外至れり尽くせりだな…。俺やラルフより装備的に心許ないニールに武器を含めて持たせたが、結構気に入ったらしい。丁度ニールも二刀流だったみたいだしな。今度、剣術でも教えてやるか?「さて、折角だしコイツから何かを聞き出すか?」「何か話してくれると思うかい?」「…手段を選ばなければ可能性はある」しかし、コイツが心底シャドーナイツに『染まっている』なら……最悪、舌を噛み切るなりして自害される可能性もある。一応猿ぐつわは噛ませてあるが。「…僕は手荒なことはしたくないんだけど…」「…それは俺も同じなんだがなぁ…」というか、面倒事は基本ゴメンだ。「もう一つ厄介なのが……コレなんだよなぁ……」俺は手に持っている一冊の書を見やる。内容はグローシュについての研究。原作でグローシュを研究していた奴は何人か居るが……このタイミングでシャドーナイトが絡んでくる研究者は一人だけ。「この男が持っていた物だね……魔導書…かい?」「ローランディアの宮廷魔術師…サンドラ・フォルスマイヤー著のな」「!……フォルスマイヤー……彼の……」「そういうこと」ラルフが驚愕の表情を浮かべている。何故か?――実は、ラルフには生き別れの双子の弟が居た……という話しを吹き込んでおります。道中で情報を得て……両親は分からないが、その双子の弟がローザリアに住んでいる……と。そういうご都合設定です。勿論全部俺の脚本です。実際には旅の道中で情報を入手した…というハッタリ。いや、ハッタリばかりでもないか……兄弟みたいなものなのは確かだし。かなり穴がある設定なんだが……ラルフの奴、一切俺の言うこと疑わないんだもんな……。何故そんな嘘をついたか?悲壮な現実より、少しでもハッピーな現実の方が良いだろう?どうせなら、さ?……ついでにカーマインとの接点も出来るしな。さーて、どうしたもんかねぇ……サンドラさんに直に届けるかね?俺もラルフも身元はハッキリしてるから、怪しまれはしても手酷い扱いを受けることは無いだろ。「とりあえず尋問するにしても、この男をのしてしまったからな…起きるまで待つか……」確か、魔導書を奪還するのにカーマイン達がやってくる筈だ……ルイセとウォレスが一緒だったか?そろそろカーマイン達と接触するつもりだったし、彼らが来た時に返せば良いか。「あの〜……さっきから頭や旦那が言ってるシャドーナイトってのは…?」そういや説明してなかったな……あえて説明してなかったんだが……。俺はニールにシャドーナイトについて話す。俺達が奴らの動向を追っていることも。「言わなかったのは、お前達では荷が重い相手だと思ったからなんだが……」「つまり頭達はそんなヤバイ奴らを相手に立ち回ってたわけですか……くぅ〜!!感動っすよ!!」いや、お前は何処のガソスタの店員だ?「は、ハハハ……」その様子を見てラルフは苦笑い。いや俺も同じ気分だが……ニール、そのトランペットに憧れる少年の様な瞳をこっちに向けるのはやめい!溶けてしまうだろ!!「ん…?外に人の気配がする…」「本当だ……この男の仲間かな?」いや…気配は三つ…小さいのも入れると四つか。時間的にも考えて……来たか、グロラン主人公。「ん!?なんすか?敵っすか!?……よし!なら俺に任せて下さいっす!」ニールが覆面を着ける。おい待て………お前何を……。「これで敵を欺いてやるっす!!それで敵の情報を掴んでみせるッス!!お二人が影で頑張って下さってたんスから、俺もやるっすよぉぉぉっ!!」ダダダダダッ!!バタンッ!!ニールは外に出て行った!!「…って、待たんかい!!?」その格好で出てかれたら勘違いされるだろうがっ!?「行くぞラルフ!!」「う、うん、了解だけど…何をそんなに慌ててるんだい?」慌てもするわっ!!このタイミングで外に出るとか、原作過ぎるだろ!何か?世界の修正力とかそんなのか!?……まぁ、説明してもラルフには分からないことなので言わないケド。「…外に居るのが敵とは限らんだろう」「…?……そうか!この男への追っ手…!」「そういうこと。多分、この魔導書を取り返しに来たんだろうな…ニールがあんな格好してたら勘違いされる……ホレ行くぞ!」俺はラルフを伴って外に出る。余談だが、原作ではシャドーナイト以外にも盗賊風の男達が居た…恐らく雇われ者か構成員だと思うが…そいつらはどうしたか?どうやら来る途中でノしてきた盗賊風の連中…どうやらアイツらがそうだったらしい。余談終わり。*******ローザリアを出発してから色々あった。まず、俺達は川に掛かる橋の下で剣を拾う。古い剣だが、よく使い込まれ、丁寧に手入れされた剣だ。橋の上に剣を捨てたと思われる奴を見つける。ルイセとティピは落としたと思ってるみたいだったが……こんな大きな物を落とす奴はいない。よしんば、落としたとしても気付く。「それは……捨てたのだ……」追い掛けて話し掛けると、予想通り捨てたと言われる。若い男だが、どこか女の様な艶っぽさがあるな……こういうのを耽美って言うのか?ルイセが何故捨てたのか、疑問を問い掛けるが……。「お前達には関係無いだろう!貸せっ!!」男は剣を引ったくる様に奪い取り、さっさと先に行ってしまった。「なぁに、アレ?あったまにくるなぁ!!」ティピが憤慨する。ティピとしては折角、拾って届けたのに礼も言われずにあの態度……というのが気にくわないのだろう。「きっと、何か事情があるんだよ」「捨てたのを拾われ、尚且つ届けられたのだから、あの男にしたら大きなお世話なんだろうな」ティピは納得してなかったが、いつまでもボケッとしてる訳にもいかないので、進路をデリス村に取る。デリス村に着いた俺達は早速宿屋に向かうが、ウォレスという人はまだ来ていないようだ。宿の人に聞いたら夕方くらいには来るらしい。時間を潰す為にそれぞれ自由行動にした。ティピは俺に着いてくるみたいだが。その自由行動中、さっきの男を見掛けた。「…?なんだ、お前達か…」「お前じゃないよ、ティピだよ!ところで、アンタさぁ……」「アンタじゃない。ジュリアンだ」おっ?中々上手い切り返しだな…ここでしっかり言っておかないとずっとアンタで通すからな…こいつは。ちなみに俺は諦めた。「ムッ!…じゃあ、ジュリアン。何見てんの?」「…………」ジュリアンはティピの質問に答える様に、再び見ていた方向に顔を向ける。そこには剣の稽古をする親子が居た……剣の稽古か……。「…懐かしいな…」「…えっ…?」「俺もよく父さんに稽古を着けてもらったっけな……」今は居ないけど…な……本当に懐かしい……。ん?ジュリアンが俺を見てから再び押し黙ってしまう。「?どうしたの?」「……なんでもない。済まないが、一人にしておいてくれないか?」俺はティピを伴ってその場を離れた……何か考えたいことがあるのだろう。宿に戻ると先にルイセが戻っていた。ウォレスという人はまだ来ていないとのこと。と、話してると宿の扉が開く。入って来た男を見て軽く驚いた。右手に義手を着けて瞼は閉じられているが……間違いなく夢の中に出て来たあの男だったからだ。まぁ、確信に近い予感はあったのだが――。俺はまず、確認を取る。「…失礼だが…アンタがウォレスか?」「ああ、そうだが……お前達は?」……達?目が見えている……?――いや、気配を読んだのか。「わたしたち、母の…サンドラの使いで来ました」「そうか。サンドラ様のお子さん達か」「あぁ……コレを、アンタに渡す様に言われて来た」【魔法の眼】をウォレスに渡した。「ありがとう。……うむ、これはいい」早速魔法の眼を着けたウォレスが感想を述べる。「それで本当に見えるようになるんですか?」「以前のようには見えねぇがな……そうだな……人の影がぼんやり分かる程度だ」「それじゃ、あんまり分からないね…」「そうでもねぇぞ。今までは全く見えなかったんだ…それに比べれば雲泥の差だ。これで以前のように生活が出来る」今までが酷すぎたのだろうな……人の気配は読めても、物はその限りじゃないからな。母さんの頼みを終えた俺たちは、このまま賊探しに向かうことにする。その際にウォレスにどうしたのかと尋ねられたので、理由を話す。もしかしたら何か知ってるかも知れない。「なるほど…そういえば、東の森にある山小屋に不審な人物が入るのを見たと、木こりが言っていたな」「それよ!逃げられないうちに急ぎましょ!」「ああ、待った。良かったら俺も行こう」俺達を呼び止め、そう告げるウォレス。「えっ?危ないかも知れませんよ?」「早くこの眼と義手に慣れなきゃならねぇからな。それにサンドラ様の子供が危険な目にあったら大変だ。やっと、この腕が馴染んできたばかりで、戦ったことがない……腕前はお前より落ちるかも知れねぇが、人手は多い方がいいだろう」「そうか…なら宛にさせてもらうよ」夢で見たあの強さは、かなりの物だったからな――幾ら腕前が落ちていても、頼りになるだろう。村から出ようとした俺達は、再びジュリアンに出会う。どうやらまだあの親子を見ていたらしい。「何を迷っている。俺で良けりゃ、話してはくれまいか?」ウォレスがジュリアンに話し掛ける。「……あなたは?」「ああ、すまない。俺の名はウォレス」「ウォレス?ひょっとして、放浪の剣士と呼ばれた、あのウォレスなのか?」どうやらウォレスは、かなりの有名人らしいな。ウォレスの話しは信念があれば迷わない…という一言だった。多くを語らず、迷っているジュリアンに一石を投じた……年長者の重みという奴か。後は、ジュリアン自身が答えを導き出すだろうさ。俺達は件の山小屋に向かった。山小屋を発見し、山小屋に近付く。「待て!誰か来るぞ!」ウォレスの言葉と同時に現れたのは……。あの夜の覆面の男だった…。