Sideシオン戦勝祝賀会まで、後三日……そして、遂に同盟会談当日――。「――フッ!ハァッ!!」我が家の庭に出て、日課の早朝鍛練を行っている俺――こんな重要な予定がある時でも、鍛練かよ……というツッコミが入りそうな状況だが、もはや習慣だからなぁ……。「こんな日でも訓練は欠かさぬ……か。相変わらずだな」「父上……おはようございます」俺が一通り剣舞を舞い終わった後、父上がやってきて声を掛けてきた。父上は少し前から此処に来ていたのだが……俺の邪魔をしない様に、自重していたらしい――。「それで、何の御用でしょうか?父上がこんな朝早くに起きてくるなんて……」「オイオイ……それでは私が朝に弱いみたいではないか」「そういうワケではありませんが……父上に限らず、自分以外の者がこの時間帯に起きてくる……というのが珍しかったので」俺の言葉に、苦笑と共に返す父上。別に父上が朝に弱いワケでは無い。だが、時間が時間だけに少し疑問に感じただけだったり――。ちなみに、現在は日が昇り始めた辺り――大体、朝4時〜5時の間位か。「まぁ、帯剣している所を見れば、大体想像出来ますが……」「うむ……私も訓練しようと思ってな。最近は、これくらいの時間に起きているのだよ」父上いわく、最近改めて鍛え直しているらしく、そのためにいつもより起床時間が早いらしい。「せっかくだ……シオンよ。久々に剣を交えてみるか?」「そうですね……まだ時間もありますし……一手、お手合わせ願いましょうか」俺は父上の提案を受け入れる。互いに使用するのは木剣だが――所謂、模擬戦だな……とは言っても、これは言うならば親子同士のキャッチボールみたいな意味合いもある。互いに木剣を抜き放ち……構える――!「行くぞシオン!」「いつでも――!!」――こうして久しぶりに、俺と父上の模擬戦が幕を開けた――。言うまでもないが、今の俺は身体能力、技量、共に父上を大きく上回っている。実戦経験とて、父上程の場数は踏んでいないにしろ、濃密な経験をしてきたと思ってる。故に、何処かに油断があっただろうことは――否定しない。「甘いっ!!」「ぐぬぅ――!?」ガキャアアァァァァァンッッ!!!俺の剣撃(勿論加減した)を受け、弾き飛ばされる父上。ズザザザザッ!!弾き飛ばされながらも、踏ん張って耐えた父上――俺は勿論、加減した。身体能力を父上と同じくらいに調整し、純粋な技での勝負――と、思っていた俺は……ハッキリ言って自惚れていたんだと思う。まさか――。「流石だなシオン……もはや、単純な実力では遠く及ばないのだろうな……だが」此処まで父上が大人げなかったとは……。「お前はまだ知らない事がある……それを知って貰おうか!!」――まぁ、幼少時代の俺に必殺技を叩き込む様な人だから、大人げなんて無いのかも知れないが――。結論から言おう。俺は父上に、まだ知らぬ必殺技を叩き込まれてしまいました。――不覚にも、少し危なくなってチョロッと力を出してしまった……。まぁ、おかげで新たな技をラーニング出来たんだけど……。「大丈夫ですか父上?」「そう思うなら、もう少し加減しろ……正直、肝を冷やしたぞ」「そう思うなら、いきなり必殺技を叩き込まないで下さい。以前、それで母上に説教されたのを忘れたのですか?」見事、返り討ちとなり、地面に大の字となっている父上へ、手を貸して起き上がらせる俺。……小言くらい言わせて貰っても、バチは当たらないだろう?「なに、確かにあの時はやり過ぎたと反省しているが、今はむしろこちらが全力で挑まなければ鍛練にならないだろう?それに……お前なら本気でやっても平気だと思ってな」……父上に限ったことでは無いが、模擬戦したりすると……何故か皆『殺る気』で挑んで来るんだよなぁ……。そりゃあ、俺から『全力で来い』とか、煽ったりしたこともあったが――。『シオンだから』という理由で、全て無問題的な扱いをされるのも――中々に悲しかったり。まぁ、もう慣れたケド。「ところで、一つ気になっていたのですが――」「?なんだ?」「父上が使った必殺技――というより、我が家に伝わる剣術というか戦闘術というか――流派の名前はあるのでしょうか?私は、名前も知らずに使っていましたが――」そう、戦闘術や必殺技は修めたが――肝心の流派自体の名前を知らなかったのだ。簡単に言えば、体捌きや正拳突きは知ってるけど、空手という流派は知らない……みたいな?分かりにくいか――?某最終幻想5のジョブで例えるなら――アビリティや魔法はマスターしているのに、ジョブという概念は知らない……みたいな?……分かりにくいかも知れないが、何となく伝わったと思う――。「そういえば話していなかったな……とは言え、私も流派名は知らん」「――は?」何を言っちゃってるんデスカこの人?みたいな心境の俺に、父上は説明してくれる――。いわく、技や型の名前こそ伝わってはいるが、肝心の流派名は伝わっていないらしい――。「我が家に残された文献によると、最初にこの技を奮っていた者は遥か昔――ウォルフマイヤー家とは関わりの無い者だったらしい。お前はこの世界が、二つの世界が重なり合って成り立っている世界だとは――知っているか?」「ええ……かつての世界が太陽の異常で滅びを迎えた時、人間とフェザリアンの力を合わせて、この世界に移り住んだと――」――正確には、俺と同じ名前のラスボスが仕組んだことだったのだが――。俺の言葉に父上は頷く。「そこまで知っているなら話は早い。何を隠そう、その者とは――かつての世界に残った者の内の1人だったのだよ」「残った?」俺はⅢの原作知識として知ってはいるが、敢えて父上に尋ねる。「何も、皆が皆……こちらの世界に移り住んだわけでは無い……どうやらこちらの世界に移り住んだ者より、あちらの世界に残った者の方が多かった様なのだよ――」父上いわく、最初にその流派を使っていた者は、それはもう強かったらしい。「その者は何でも、当時の軍隊――数万近くを一人で圧倒したことから、『鬼神』等と呼ばれたりしたらしいが――あくまで文献の内容だからな、多少大袈裟に書いてあるのかもしれん――」「ははは、ですよね〜」俺ならその気になれば、数万くらい軽く捻れる――なんて思っても、口には出さないケド……。で、話の続きだが――その者はこちらの世界に渡る者の一人――自身の弟子に戦闘術の全てを伝授し、あちらの世界に残ったそうな……。その弟子というのが、後のウォルフマイヤー家の始祖だったらしい――。「で、その弟子も流派の名は知らなかった――と?」「というより、聞かされなかったらしい。だからか、この戦闘術は『竜』と呼ばれる様になった。これは受け継がれた技の名に『竜』あるいは『龍』の名を含んだ物が多かったから……というのが理由らしいが――」「成る程――我が家にそんな歴史があったのですか」父上の説明に相槌を打つ俺――。だが、実際には違うことを考えていた。ウォルフマイヤー家の始祖……彼に戦闘術を教えた者――。――もしかしたら転生者だったのかも知れない――と。根拠は幾つかある――。まず、文献に残されていたという、彼(便宜上、彼と呼ぶが、彼女かも知れない)の強さ。数万の軍隊を『一人』で圧倒する強さ。一見、眉唾にしか思えない内容だ。何しろかつての世界には、グローシュが満ち、誰しもが強力な魔法を行使出来た……言い換えれば、世界中の全員が皆既日食グローシアンみたいなものだったワケだ。そんな連中が多々居るであろう軍隊を一人で圧倒……仮に眉唾では無いとして――そんな無双が可能な人間であること――これは根拠が薄いか。チート人間=転生者……というのも安直過ぎる気がするしな。案外、突然変異的な何かだったのかも知れないし、もしかしたら人間じゃなかったのかも知れないし……父上も、彼が人間だった――とは一言も言っていないしな。俺が彼に転生者疑惑を持ったのは、もう一つの根拠があるからだ――。根拠その2――必殺技の名前。我が流派――つい先程知った――『竜』の必殺技の名前が――アレなんだ。――別にスッゴく香しい厨二臭がする名前……というワケではない。全く厨二臭がしないワケでもないが。俺がよく使っている必殺技――『飛竜翼斬』を例に挙げるが――せいぜい厨二レベルとしては中の下〜中の上くらいだろう……多分。十分厨二とか言うな!!こういうのは開き直ったモン勝ちなんだよ!――恐らく。ならば、何かというと――名前の一部……『飛竜翼斬』ならば『飛竜』の部分だ。――先程、父上からラーニングした技……その内の一つを比較対象として挙げるケド――。『轟竜破砕撃』――という技をラーニングしたのだが――。技の内容はまた、そのうち語るとして――。『轟竜』――何処かで聞き覚えは無いだろうか?――いや、某勇者特急の雷張さんの愛機では無く……確かに飛竜も轟竜も揃ってるけどさ?他にも、『覇竜咆哮波』というのも体得させて貰ったのだが――もう、分かったよな?そう、モンハンだ――あ、某甘党銀髪侍率いる万事屋が主役の漫画に出てくる、お猿をハンティングするゲームじゃなくて、モンスターハンターの方……だからな?ずばり、我が流派の技は――モンハンに出てくる竜の二つ名から来ているのだ!!……憶測を含んだモノだから、正確では無いのかも知れないが。飛竜、轟竜、覇竜……偶然にしては出来過ぎだろう?――俺はこう考えている。Ⅲの世界に転生した彼は、Ⅲの世界に残り……Ⅲの主人公達と共に戦ったのではないか?そして、彼が弟子とした者がこちらの世界に渡ったことにより、本来存在しなかったウォルフマイヤー家が誕生する運びになった――。――まぁ、全ては憶測に過ぎないし、考え過ぎかも知れないが――。仮に俺の憶測が正しかったとしても、それはそれで問題無い――。既に遥か昔の出来事だし、彼が存在したからこそ我が家が――俺が存在する運びになったのなら――それは感謝すべきことなのだろうから――。……未だに俺が何故『シオン』になったのか……或いは『選ばれた』のか――それは分からないが。「シオン、どうした?」「いえ、少し考え事を――しかし、そんな文献があったなんて私は知りませんでしたよ?」「ソレは我が家の家宝みたいな物だからな……代々ウォルフマイヤー家の当主に受け継がれていったのだ。故に私自身が保管しておったのだよ……お前の目に入らないのも道理というものだ」成る程……ならば、書斎に無いのも仕方ないか……。しかし……、新しい技も覚えられたし、意外な事実も知ることが出来た……存外、有意義な朝練だったな。「父上、そろそろ良い時間です」「そうだな、戻るとするか」こうして、久しぶりに行われた父上との模擬戦は終わった。***********バーンシュタイン城・執務室軽く汗を流して、制服に着替えた俺は、朝食を食べてから家を出た。で、現在は俺の執務室に来ている。「それじゃあ、オズワルド――後は頼むぜ?」「へい!シオンの頭……じゃなかった!……将軍の留守は、このオズワルドが守らせていただきますんで!!」俺は蒼天騎士団団長のオズワルドに、留守を頼む旨を伝えていた。俺の副官であるリビエラも、会談に同行することになっているので、必然的に蒼天騎士団の責任者はオズワルドのみになる。故に、新団員――ラッセル達を受け入れるためにも、オズワルドには頑張って貰わないといけない……と、言うわけである。「本当に大丈夫?結構癖のある人たちよ?――特に赤毛の奴は……うぅ!今思い出しても腹が立つわ……」「全くだな……まぁ、あの時はシオン将軍のおかげで、それなりに溜飲は下がったがな」と、ラッセルの態度に対して未だに思うところがあるのであろう……リビエラとエリック。……俺のことで、そこまで怒ってくれるのは嬉しいが……気にし過ぎだろう?「まぁ、そう言うなよ……悪い奴では無いんだからさ」「それは……分かってるケド……」「俺はもう気にしていない――だから、な?」ちなみに、既に分かってると思うが、現在この執務室には蒼天騎士団のメンバー全員が揃っている。つーか、エリックよ……それは自分のことを棚に上げていると思って良いんだな?「まぁ、そんなワケだから――皆よろしく頼むよ」「了解」「任せてくださいよ!」「しっかりお勤めを果たすッスよ!」「……努力します」俺の言葉に、了承を示すマーク、ビリー、ニール、ザム。うむうむ、やる気があるのは良いことだ。これなら、安心して任せられるな。「やる気が空回りしなければ良いけどね……」「大丈夫よリビエラ!なんてったって、私も居るんだから!」「あ〜、うん……ある意味それも心配かなって言うか……」張り切るエレーナに対して、苦笑を浮かべるリビエラ……。あぁ……何と言うか、もう少し信じてやれって。そんなワケで、後のことは皆に任せ――俺とリビエラは、エリオット陛下との待ち合わせ場所へ向かうのだった――。***********「お待たせしました!」そう言って、普段着――赤いジャケットを羽織った、原作でお馴染みの服装――のエリオット陛下が待ち合わせ場所の城門前にやってきた。――そこはかとなく嬉しそうだ。「いやぁ、久しぶりに国の外へ行くから、ワクワクして眠れなかったですよぉ♪」――遠足が楽しみな小学生かっ!!?そうツッコミたくなる位の、キラキラした笑顔の陛下。……まぁ、陛下の家庭環境と現在の状況を考えれば、それも当然なんだが……。最近では、ポールの監視も強くなってきた様で、中々抜け出して街に繰り出すということも……出来ないみたいだしなぁ……。「陛下、遊びに行くワケでは無いのですよ?」せめて、これだけは言っておこう。まぁ、敢えて言わなくても――。「えぇ、分かっています――道中、よろしく頼みますよ、二人とも」陛下は理解しているんだがな――。さっきまでの、トランペットに憧れる少年の様な表情は成りを潜め、王としての顔がそこにはあった――。「はっ!承知しました――我々にお任せ下さい」「とは言え、私のテレポートでひとっ飛びなので、道中の心配はありませんがね――」リビエラは、力強く頷き――陛下の声に答えたが――俺は少し力を抜かす様な……軽く冗談じみた台詞を吐く。「あははっ、そうですね!それでも、今日は宜しくお願いしますということで――」「了解しました……エリオット陛下。では、行きましょうか」可笑しそうに笑うエリオット陛下を見て、微笑ましい気持ちになってしまう俺……多分、リビエラも同様だろう。優しい顔をしている。そんな暖かい気持ちのまま、俺達は会談場所である魔法学院に向かったのだった――。***********Sideカーマイン「――っと、到着♪」俺たちは、ルイセのテレポートで同盟会談が行われる場所――魔法学院にやってきた。「で、学院の何処で会談が行われるんだ?」「たぶん、職員用の会議室だと思うけど……」ウォレスの質問に答えるルイセ――。何しろ、会談場所が魔法学院だとは聞いたが、学院の何処かは聞いていないからな――。「なら、そこに行ってみようよ!」「そうだな……分からなかったら、誰かに聞けば良いんだしな」ティピの言葉に、肯定を示すゼノス。――そう、俺たちはアルカディウス王の代理として此処に来ている――全員でな。まぁ……皆、ずっとカンヅメだったからな。もし、残っていたら……そいつはそいつだけでカンヅメだったのだろう――。流石にみんな、気分転換したいと思っても……仕方ないよな?……と。フワフワと、光の玉が降りて来て……それが拡大された。これは、テレポート時の光球……ということは――。「よし、到着」「あっ、シオンさんだぁ♪」「リビエラに……エリオットも一緒か」シオンを見たティピが声を掛け、ウォレスがリビエラとエリオットの姿も確認する。って、エリオット……?良いのか?王がこんな所まで来て……。「みんな!久しぶりね!」「みなさん、お元気そうで何よりです」「うん♪リビエラさんと、エリオットくんもね♪」二人の挨拶に対して、ニコヤカに返す我が妹。「おいおいルイセ、俺には挨拶無しか〜?先生は悲しいぞ〜?」「あ、ごめんなさい!!でも……シオン先生なら間違いなく元気だと思ったから――」「良いって良いって♪冗談なんだから……」シオンが茶化す様に……というか、茶化したのだろう。冗談を口にすると、ルイセは申し訳なさそうに萎縮……それを見たシオンは、かんらかんらと笑いながら冗談であることを説明した。「良いのよルイセちゃん。シオンが元気だったのも、本当なんだから――この前だって、私とジュリ『ガシッ!!』……あ゙……」「――リビエラ?何を話そうとした?」ルイセに何かを語ろうとしたリビエラ……だが、その内容を明らかにする前に、いつの間にかリビエラの後ろに回り込んだシオンに頭を鷲掴みにされていた――。ガタガタブルブル――と、過剰な迄に震えながら後ろを向くリビエラ――そこには凄くエガオな―――眼は笑っていない――シオンが居たのだった。ああ――相変わらずその威圧感は健在なんだネ?「ごごごご、ごめんなさ『これは……お仕置きが必要かな?』ひぅ!?」慌てて謝罪しようとするリビエラの言葉を遮り、何事かをリビエラの耳に囁くシオン。その内容を聞いただろうリビエラが――ボゥンッ!!と、音が聞こえたかの様に真っ赤になった………何だか、そこはかとなく嬉しそうに感じるのは気のせいか――?だが……。「何を勘違いしてるか知らないが―――帰ったら超グゥレイトォッ!!コースだからな?」「!!?ぴ、ぴいぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!!?」今度は瞬時に顔が青くなった……。と、同時に小鳥の断末魔の様な悲鳴を挙げるリビエラ……。例えるなら、桃源郷から一気に奈落の底へ叩き落とされた様な……って、何を言っているのか自分でも分からんが――。超グゥレイトォッ!!コース……何だか知らんが、恐ろしい響きだぜ……。「こわいよぅ……こわいよぅ……」「アタシは悪くないアタシは悪くないアタシは……」「あぁ……シ、シオン……ルイセとティピがトラウマ入ったから……その、怒りをしずめてくれるとた、助かるんだが……」ルイセが俺の背に隠れ、俺にしがみつきながら震え……ティピは俺のジャケットのポケットに頭から突っ込んで震えている……見兼ねた俺は、勇気を振り絞って、障気的な何かを放つシオンに頼み込んだ。正直、俺たち男連中や、近くに居た学生すらも震え上がっている……だが!俺はみんなのリーダーなのだから……しっかりせねば!!「そうだな……ワリィワリィ……ついカッとなっちまった……反省してる」そんな決意の中、返って来た答えは了承と謝罪。シオンは申し訳なさそうな顔で、既に暗黒オーラは影も形も無い……。ホッと胸を撫で下ろす俺たち……。尚、女性陣が立ち直るのに、しばらく時間が掛かってしまったことを――明記しておく。***********Sideシオンむぅ……また皆を恐がらせちまった……俺、自重。とは言え、リビエラが何やら口を滑らそうとしたので……思わず、な?まぁ、本気で公言するつもりは無かったのだろうが……。(尚、超グゥレイトォッ!!コースとは、グゥレイトォッ!!な内容の修業である。例えば、俺と皆で以前にやった鬼ごっこをタイマンで――とかな)俺は良い。俺とリビエラとジュリアが、チョメチョメしていたことが公にバレた所で、ナイツ追放されて家に迷惑を掛けるだけ――――うん、全っ然良くない♪いや、まぁ……俺は良い。皆を抱いたことに、後悔なんて無いし――それだけ好意を抱いてくれていることに、むしろ誇りすら感じている。最悪、ウォルフマイヤー家に勘当扱いにしてもらって、国外にでもトンズラすれば……少なくともお家取り潰しとかは、避けられる……筈。両親が――俺を勘当してくれるかは、話が別だが。だが、ジュリアや俺をナイツに抜擢してくれたエリオット陛下に、多大な迷惑が掛かる……。だから、ナニする前は周囲には細心の注意を掃うし……。まぁ……何故か、俺の仲間達は……俺が複数の女性とラブるという、この狂った状況を認知してくれているらしく、周りにバラす様なことは無いとは理解してるが――。あ、ミーシャは例外ね?思いっきり前科(イリスとのチョメチョメをダチにチクろうとした)があるし――。………あぁ、益々駄目人間と化して行く俺……。この状況を疑問に思わなくなってきたとか……感覚が麻痺って来たかな……?「?どうしたのシオンさん?」「いや、ちょっと――自分のダメっぷりに凹んでてさ……」ティピが首を傾げながら、俺に疑問を尋ねてきたので、俺はそれに答えた――。「?よくわかんないけど、シオンさんは全然ダメなんかじゃないよ?」「ハハッ……ありがとうな、ティピ」素直に、思ったことを言ってくれただけなのだろうが――今はその優しさが、心地良くて、ちょっち辛い――。等と、黄昏れていると――。「ウォレス!」「ウェーバー」学院の校舎側から、ウェーバー将軍がやってくる。ランザック王が言っていた様に、王の代理としてやってきたのだろう。俺らの様に、テレポートを使えるグローシアンなんていないだろうから、此処まで来るのは大変だっただろうな――。「時間近くになっても来ないので、心配したぞ?」「まぁ、俺たちにはルイセが居るし……エリオットたちにはシオンが居るからな」「テレポートで直ぐだもんね♪」早めに来ていたであろう、ウェーバー将軍。どうやら時間ギリギリ――とまでは、言わないが……少し遅めにやってきた俺達のことを、心配していたらしい。だが、ウォレスとティピの言う様に、俺達にはテレポートがある。だからぶっちゃけ、本当にギリギリでも間に合ったりする。ランザックにも、グローシアンは少なからず居るだろうが……。その殆どが月食のグローシアン……しかも、しっかりと魔法を学んだことがある者は、限りなく少ない筈だ……。いかにグローシアンと言えど、学び、研鑽しなければ、それは宝の持ち腐れと同義だからな。「そうか……何と言うか、羨ましい限りだな。我が国にもグローシアンは居るが――テレポートを行使出来る程の魔導師は居ないのが現状だ――元より、土地柄としてグローシュが少ないこともあり、魔法に関して、他の国より遅れているのは認めざるを得ん――」溜め息と共に、愚痴を零すウェーバー将軍。その遅れを取り戻すため、ランザックはボスヒゲに教えを受けていたのだろうが……。頼った相手が悪かったとしか……言えないよなぁ……。「あの……大丈夫ですか?」「あぁ……ありがとうお嬢さん……」とうとう、陰鬱なオーラ迄放つ様になったウェーバー将軍を気遣うルイセ……相変わらずええ子やなぁ……。「何はともあれ、役者は揃ったワケですね……陛下?」「そうですね……それでは行きましょうか、皆さん」俺とエリオット陛下は、互いに頷く。――此処で、これから同盟会談が始まる――。上手く纏まると良いんだが――。***********魔法学院・特別会議室此処は、魔法学院の特別会議室……。 特別会議室とは――教員会議等が行われる、大きな会議室のことだ。教授会等にも使われるらしい。そこには大きな円卓があり、皆がそこに座る。「皆さん、遠路はるばるお集まりいただき、ありがとうございます」エリオット陛下が周囲を見渡して挨拶をする。円卓とは、上座も下座も無い――対等な立場で話そうという、意志の具現とも言えるモノだ。こういう会談にはピッタリだろう。北側から順に――エリオット陛下、俺、リビエラ、カーマイン(+ティピ)、ルイセ、ウォレス、ゼノス、ウェーバー将軍、あと、ランザック軍の……将軍かな?ウェーバー将軍と似た様なデザインの鎧を身に纏う人物が二人……。一人は黒い鎧を纏った……白髪のご年配……なのだが、ベルガーさんの様に筋骨隆々とした……歴戦の猛者を思わせる風貌。実力的には――ウェーバーさんには及ばないが、達人クラスか……。もう一人は、若い赤髪の女性で、赤茶けた鎧を身に纏っている。何と言うか……当たり前の様に美人だ。実力的には……ウェーバーさんや、黒い鎧の御仁より劣るか……。「僕はエリオット……バーンシュタインの王をやらせて貰っています」「シオン・ウォルフマイヤー……若輩ながらインペリアル・ナイトを勤めさせて戴いております」「リビエラ・マリウスです。シオン将軍の副官を勤めさせて戴いております。今回、将軍と私は陛下の護衛として、この場に馳せ参じました」知らない人も居るので、先ずは自己紹介……というワケで、俺達バーンシュタイン側から。しかし、『やらせて貰っています』か……エリオット陛下らしいっちゃあらしいが……。もう少し自信を持っても良いだろうに……。「あ、だからリビエラさん、そんな格好なんですね?」「というか、コレはシオン……将軍の直属騎士団の制服なのよ、ルイセちゃん」ルイセの疑問に答えるリビエラ。あまりにナチュラルな質問故、説明中に俺のことを呼び捨てにしようとしたが――この場に居るのはカーマイン達だけじゃないので、立場上――何とか取り繕った様だ。「お前、そんなモンを作ったのかよ?」「まぁな……ナイツは皆直属の騎士団を……というか、話が脇道に逸れかけてないか?」「あ……ご、ごめんなさい!」ゼノスの問いに答えつつ、話が逸れて行ってることを指摘する。すると、ルイセが慌てて謝罪してきた。あ、いや……責めてるワケじゃなくてな?「別にシオンも怒っているワケじゃないから……気にするなよルイセ?」「うん……ありがとうお兄ちゃん……♪」いや……確かに怒ってはいないが……瞬時にラブいフィールドを展開しなさんなって。で、カーマイン達の自己紹介になるのだが……。「カーマイン・フォルスマイヤー……ローランディアの騎士です」「ルイセ・フォルスマイヤーです。宜しくお願いします!」「ティピだよ!よろしくぅ♪」「ゼノス・ラングレーだ。カーマイン同様、ローランディアの騎士をやってる」「俺はウォレス。コイツらのサポートみたいなことをやってる」と、こんな感じで紹介をしていったローランディア組。なんつーか、カーマインとゼノスはともかく……ルイセとウォレスの紹介は、ざっくばらんだなぁ……。まぁ、今現在――二人には役職らしい役職も無いし……仕方ないのかも知れないが。尚、ティピはいつも通りなので、敢えてツッコまない。そして、今度はランザック組。「私はウェーバー。ランザックの将軍の一人だ」「儂はガイウス。そこのウェーバー同様、ランザックの将の一人じゃ」「リュクス・ハミルトン……同じくランザックの将軍です」黒い鎧の翁が、ガイウスで――赤茶けた鎧の女性がリュクスらしい。一応言っておくと、ウェーバー将軍の鎧は白な?「ランザック三将軍か……」「ランザックさんしょうぐん〜〜……?って、なんなの?」ウォレスの呟きに反応したティピ。無茶苦茶クエスチョンマークを浮かべている。って、俺も同じ気持ちなんだが……何、三将軍って……某史上最強の弟子に出てくる――初期のニューホワイト連合幹部、三人のことかぁ???「ランザック三将軍ってのは、読んで字の如くランザックに仕える三人の将軍のことだ。他にも将軍格は居るが、その中でも特に秀でた力を持つ者たちを『三将軍』と称するらしい」「ふぇ〜……ウェーバーさん以外にも、ランザックに将軍なんて居たんだぁ……」「当たり前だろうが。一国に仕える将軍がただ一人だけ……なんて、それこそ有り得ないぜ」ウォレスの説明を聞いて感心するティピと、そんなティピにツッコミを入れるゼノス。確かに、ゼノスの言う通り――ランザックの将がウェーバーさん一人だけ……というのも妙な話だよな。ローランディアには知ってるだけで、ブロンソン将軍、ベルナード将軍が居る。まぁ、他にも居るだろうが……。そしてバーンシュタインは、俺達インペリアル・ナイトや、ローガン将軍……他にも複数の将軍を有している。実際、一国の軍隊を指揮するのに、将軍一人ではとてもじゃないが腕が回らない筈。冷静に考えれば、分かりそうなモンだったよなぁ……。「でも、前にランザックに行った時、ウェーバーさんの噂は聞いたけど、他の将軍の噂なんて聞かなかったよ?」「ハッハッハッ!そりゃあそうじゃよ、小さなお嬢ちゃん。ウェーバーはランザックの英雄じゃからのぅ……儂の様な老いぼれと比べてはいかんぞぃ?」ティピの言葉に、楽しそうに笑って話すガイウスさん。「儂はウェーバーが来る迄は所謂、筆頭将軍だったのじゃが……何分、歳じゃからの。後進の育成に専念させて貰って、後はウェーバーに丸投げじゃわいっ!!」「それは……自慢になる様なことじゃないだろうに……」カーッカッカッカッ!と、笑って自身のことを語るガイウスさんに、静かにツッコむカーマイン。「まぁ、そんな次第じゃからして、次第に影が薄くなるのはやむ無しじゃが……流石に隠居はさせてくれんらしくての……」「当たり前です。ガイウス殿には、まだまだ頑張って戴かなければ」「コレじゃよ……全く、年寄りはもう少し敬うもんじゃろ?」やれやれ……と、肩を竦めて溜め息を吐くガイウスさんに、ウェーバーさんがツッコむ。それを聞いて更に溜め息を吐いているが……本人、満更じゃないんじゃないか?何処か嬉しそうだし。老いて益々盛ん……という言葉があるが、この人はそういうタイプっぽい……。「リュクスにしても、つい最近になって頭角を現してきたのじゃから、お主らが知らんのは道理じゃよ」「元々、リュクスは俺が将軍になった際に部下として配属された奴でな……ただでさえ、女の兵が少ないランザックにおいて、将軍にまで上り詰めた実力派だ……その力は、陛下や我々も認めている」「ウ、ウェーバー将軍……私はそんな大層な物ではありません……」ガイウスさんの言葉に続く形で、ウェーバーさんが言葉を紡ぐ。そして、リュクスさんはそれを聞いて謙遜している……んだけど……。……あ〜……リュクスさんって、ウェーバーさんにホの字か?いやね?謙遜してるんだけど、むっちゃ嬉しそうなのよ……。照れりこ昇天しちゃいそうな程に……。彼女がウェーバーさんに向ける感情は、ルイセがカーマインに向ける感情……ぶっちゃけて言えば、リビエラ達が俺に向けてくれる感情と同種のモノだ。ウェーバーさんの元・部下だと言っていたが……尊敬が敬愛に変化したワケか……だが、ウェーバーさんは気付いて無いっぽい。鈍感泥付き人参が此処にも!?って、俺も人のことは言えないわな……。まぁ、それはともかく……。「自己紹介も済んだことだし、そろそろ本題に入りたいのだが……宜しいか?」「そうだな……」「了解した」俺の問い掛けに、カーマインとウェーバーさんが答えた。他の面々も頷いてくれている。「では陛下……お願いします」「はい、分かりました」後は陛下にバトンタッチ……っと。「今日、この会談を開いたのは他でもありません……世界の危機が、再び訪れることになるかも知れないのです」陛下は言葉を紡ぎ、一拍間を置いてから……再び語り出す。「――皆さんご存知の通り、大きな戦争があり……その火種は、バーンシュタインでした。その裏には、偽王を操る――ゲヴェルという怪物の企みがあったことも……周知の事実だと思います」「ああ……そして、ゲヴェルは……俺たちが倒した」「話には聞き及んでおります……皆さんが、この世界を救ったのだと……」エリオット陛下の言葉に、頷いて返すカーマイン。リュクスさんも、俺達の話を聞き及んでいたらしく、納得した様に頷いている。「……確かに、ゲヴェルが倒されたのは事実です。ですが、それはつかの間の平和でしか――なかったのです」「……どういうことかな?」陛下の言葉に、疑問をぶつけるガイウスさん。その言葉に、陛下はゆっくりと返事を返す。「ヴェンツェル……この場に集まった国々……その全てに因縁を持った人物の名です……」「ヴェンツェル……だと!?」エリオット陛下は此処で、ボスヒゲの名前を出す。それを聞いて、ウェーバーさんが驚愕の表情を浮かべている。それもその筈……ヴェンツェル……ボスヒゲは、ランザックに魔法を教えることを条件に、匿って貰っていた筈だからな……。「ヴェンツェルは、我がバーンシュタインの宮廷魔術師長であり………ひそかに僕の命を救ってくれた――恩人でもあります。ですが、それもゲヴェルの悪巧みを阻止する為の切り札として……それ以上の意味はなかった……」「ヴェンツェルは、俺とルイセの母……ローランディアの宮廷魔術師である、サンドラの師匠に当たる人間だ……奴は、そのツテを利用し、ルイセに近づき、ルイセのグローシュを奪って行った……」陛下は自身の……ヴェンツェルとの関係性を語る。それに続く様に、カーマインも。「ちょっと待ってくれ……グローシュを奪って行った……と言われても、我々は陛下から、おおよその顛末しか聞かされていないので、事態がよく飲み込めないのだが……」「そうだな……その辺を詳しく説明しよう」クエスチョンマークを浮かべているウェーバーさん達ランザック組。それに対して、ウォレスが説明する。クソヒゲの正体、クソヒゲのやったことなどを――事細かに。「ヴェンツェルが元・グローシアン……だと」「中々に、とんでもない奴じゃったか……居なくなってくれて、良かったと言うべきか――」ウェーバー将軍、ガイウス将軍が、ウォレスから聞いた話を噛み締める様に反芻する。「居なくなった……とは?」「……我々ランザック王国が、魔法を習うことを条件に、ヴェンツェルを匿っていたことは……皆さんご存知と思います。あの日……エリオット王が王位を奪還された日―――あの日より、ヴェンツェルはランザック国内から、姿を消したのです」カーマインの問いに答えるハミルトン将軍。彼女の語る内容は、半ば予想していたことだが――。「恐らく、何処かに奴のアジトの様な場所があるのだろうな……。一応の目的を果たした奴は、そこに身を潜めた――」「アジトって、一体何処にあるんだよ?」「さぁ……それは分からないが……」俺は俺なりの見解を語る……ゼノスの問いには正直、答えられないのが現状だ。場所は多分、あの浮遊城だろうが……口惜しいが、それが何処にあるのかは……分からないのだから――。「いずれにせよ、奴も直ぐには行動出来ないってことだろうさ」「どういうこと……?」「もし、奴に何らかの企みがあったとして、直ぐさまソレを実行しないのは妙だ。極端な話、ゲヴェルを倒した直ぐ後にでも乱入されていたら、混乱は避けられなかった筈だ」ウォレスの言葉に、疑問を問い掛けるルイセ。そして、ウォレスは自身の見解を述べる。「確かに、ゲヴェルの軍勢と戦い……疲弊している所を突かれていれば……」「恐らく、瓦解していたでしょうね……あの時、皆さんがゲヴェルを倒しに向かった時……僕らのところにもゲヴェルの手先が攻め込んで来ました……あの戦いで、兵たちも疲弊していたのですから……」ウォレスの言葉を聞き、更に言葉を紡ぐカーマインと、ソレに同意するエリオット陛下。「それをしなかった……或いは出来なかったのか……?」「うにゅ?よくわかんな〜い……」何やら半ば納得するように頷くカーマインと……全く分かりませ〜ん!と、首を傾げるティピ。とりあえず……此処は説明おばさんならぬ、説明おじさんの出番かね。「つまり、あのヒゲは何かしらの理由から、身動きが取れない状態……或いは、敢えて身動きを取らない状態なのかも知れない……ってことだよ」「むー……じゃあ、その理由って?」俺はカーマインの言いたいだろうことを、かみ砕いて説明する。案の定、ティピが疑問をぶつけて来たので……答えることにする。「幾つか理由らしい理由は思い付くが……その中で確定しているだろう事項は―――戦力の増強」「戦力の……増強?しかも、確定しているって……」「少し気になってな。人に頼んで調べたんだよ……で、とんでもないことが分かった」俺は勿体振らず、情報を提示する。リビエラが疑問を尋ねて来たので、独自の人脈を頼りに調べたと答えた。正確には、ラルフに協力してもらったんだが。「とんでもないこと……ですか?」「はい、陛下……以前、ゲヴェルに関する文献に目を通す機会がありまして……その際、ゲヴェルが複数存在することを示唆する記述を見付け、気にはなっていたのですが……」「おい、まさか……」エリオット陛下が質問してきたので、『とんでもないこと』を調べるキッカケになった文献について語る。――本当のキッカケは、あのフード男……ルインの存在からなんだが。ウォレスが、何かに気付いたのか、驚愕を現にしている……。まぁ、ゲヴェルと因縁浅からぬウォレスだからな……気付いても不思議は無い……か。ってか、ゲヴェルが複数とか言ってる時点で、勘の良い奴は気付くよな……。「調べた結果……見付けたよ。新しい水晶鉱山を……4つな。――しかも、ご丁寧にも鉱山は半壊……中身はもぬけの殻だったらしい」「マジかよ……それってつまり……」「ほかにもいた……ゲヴェルが……復活した……」俺の説明に、驚愕しっぱなしのゼノスとルイセ。他の面々も同じ様な表情……。まぁ、事情を知らないだろうガイウス将軍と、ハミルトン将軍は……クエスチョンマークを浮かべていたが……。ウェーバー将軍は納得している様子…………そういえば、ウェーバー将軍もベルガーさんの傭兵団に居たんだったな……。「ふむ……何やら切迫した話の様だが、儂らには何が何やら――」「――ゲヴェルは、かつてのグローシアンたちが、その命を賭して封印した怪物だが……その封印した方法というのが、グローシアン自身を水晶と化し、その中にゲヴェルを閉じ込めるという物だったそうだ」「だからこそ、水晶鉱山から採れる魔水晶には、微量のグローシュが含まれていて、それがゲヴェルを弱体化させ、束縛していたらしい……」ガイウス将軍の疑問に答える、ウォレスとカーマイン。「……ちょっと待ってください……シオン将軍の言葉が真実だとすると……その、ゲヴェルという怪物が……」「野に放たれた……いや、ヴェンツェルの兵力として取り込まれた……と、考えるべきか」ハミルトン将軍とウェーバー将軍が、同じ見解にたどり着く。「もし、そのゲヴェルたちがいっぺんに襲い掛かってきたら……」「或いは、各国拠点へゲヴェルがそれぞれ襲撃を仕掛けてきたら……」「ちょっと待ってよ!それって最悪じゃないっ!!」上からルイセ、ウォレス、ティピだ。ティピの言う様に、最悪だ。ハッキリ言って、ルイセの言う様に一気に襲い掛かられる分には問題無い。4体だろうと、瞬殺する自信がある。だが、ウォレスの言う様に、4体それぞれが各国に攻め入って来たら――正直、人的被害は避けられそうに無い。――各国の足並みが乱れた状態では、尚更だ。「だから、こうして同盟会談を行っているんだろう……手遅れにならない様に」「カーマインの言う通りだぜ?手遅れになってからじゃ、遅ぇからな」ティピの言葉に対して答える、カーマインとゼノス。「とは言え、注意すべきはゲヴェルだけじゃないケドな……」俺は、更なる情報を提示する。ヴェンツェル自身の危険性………そして、あのフードの男……ルインについて……。奴が転生者……とか、語るつもりは無いが。奴らが保有するだろう戦力……人の成れの果てについて――。「……と、まぁ……憶測を含めた……俺の提示出来る限りの情報だ」「フードの男……ルイン……ヴェンツェルの配下……か。俺たちは直接出くわしたことは無いが……」「『人の成れの果て』って奴は見たことがある……オリビエ湖の地下で出くわした奴だろう?」「俺は他でも出くわしたぜ?確か……グレンガルとか言うハゲ野郎が使ってた奴らがそうだった筈だ」俺の言葉に、それぞれ答えるカーマイン、ウォレス、ゼノス。確かに、カーマイン達があの野郎と出くわしたことは無い。奴の姿を見たのは……俺とラルフ、ポール、カレン、リビエラだけだったからな。ウォレスやゼノスの言うことも、間違ってはいない。どちらも、奴の手に掛かった者達だろうことは、容易に想像出来る。「俺の私見だが――奴はある意味でヴェンツェルより、厄介かも知れない……」「そんなに……ですか?」俺の見解に、エリオット陛下が恐る恐る尋ねて来た。「純粋な強さ……という意味ならナイツクラスか、それより上だと思いますが……それ以上に、奴の在り方――その思考が危険なのです」「私もルインという男と対峙しましたが――正直、シオン将軍と同意見です。……強さ云々は分かりませんでしたが、まるで何かが腐った様な眼をして……あんな気持ち悪い目付きをした人間なんて……これまで見たことありませんでした……」俺の意見に賛同してくれるリビエラ……。ルインにしろ、ヴェンツェルにしろ、たいした会話とかしていない筈だが……それでも感じるモノがあったんだろう。リビエラいわく、ボスヒゲよりも、あのクソ野郎の方が質が悪いと……。「その強さ――奴の能力にしたって、謎が多い……奴はテレポートとは違う瞬間移動術を駆使し、未知の道具を行使する……得体の知れなさ――という意味では、間違いなくヴェンツェルより上だろうな……」「ルイセのグローシュを奪ったヴェンツェル、そのヴェンツェルに付き従う謎の男……ルイン。そして4体のゲヴェルと人間の成れの果て……か……頭が痛くなる話だな……」俺の話を聞いて、頭を抱えるウォレス。その気持ちはよぉーーっく分かる!!――俺だって頭を抱える問題なんだから――。だからこそ各国の間に、同盟を結ぶ必要がある――。奴らが神出鬼没故に――。「……彼らは、僕たちがゲヴェルとその軍勢……この二つとぶつかり合っていた時に、力を蓄えていたんですね……そして、虎視眈々とチャンスを伺っている――」「奴らを野放しにはしておけないが――現状、こちらから打って出ることが出来ない。奴らの根城が何処にあるのか……それすらも分からないのだから、どうしても受け身にならざるを得ない……」エリオット陛下の言葉に続いて、俺も言葉を紡ぐ。……その内容を聞いて、全員押し黙ってしまう。そんな中、エリオット陛下が再び口を開く。「――だからこそ、三国の繋がりを強めたいと思ったのです。彼らは必ず動き出します……その時に、足元を掬われてからでは遅いですから――」「――エリオットの言う通りだな。今現在、ローランディア、エリオットが王位に着いてからのバーンシュタイン、そしてランザックの三国は、先の戦いで協力し合い……偽王の政権を打倒した。その際、一応の同盟関係を結んではいるが……あくまでも、それは戦時中に決められた物だ。戦争が終わった今となっては、形式上の意味合いが強い」そう、ウォレスの言う様に、今でも一応の同盟が結ばれてはいるが――あくまでもソレは戦時中のモノ。噛み砕いて言うなら、ローランディアにしろランザックにしろ、エリオット陛下の王位奪還に力を貸す承諾をしてはくれたが、そこから先――これからも仲良くやろうぜっ!!的な、約束はしていなかった――ということだ。簡単な不可侵条約や、取り決めはしたらしいが……同盟をするには到っていなかった。それぞれの国が、戦争やゲヴェルの軍勢により疲弊していたことも、原因にあげられる。特にバーンシュタインは、二つに割れての戦争だったし、ゲヴェルの住み処から一番近い場所にあったからな……建て直しに時間が割かれたのも、仕方ないことだと言える……。「……これはアルカディウス王からの書状だ。……陛下は、ヴェンツェルのことがなかろうと、同盟を結ぶつもりだったらしい――」「こちらもだ。何より、その様な話を聞いて、同盟を蹴る様な真似は出来まいよ」そう言って、カーマインとウェーバー将軍がそれぞれ、アルカディウス王の書状と、ランザック王の書状を提示する。――元々、ローランディアもランザックも、同盟に対しては前向きだった。両国のトップが、どちらも善人だから――というのも少なからずあるのだろうが……それ以上に、先程言った通り各国共に疲弊しているというのが、大きな理由だと思う。国として幾分弱っている中、一々ツッぱるのは得策では無い……と。まぁ、ツッぱる理由も無いし……今現在の両国のトップがトップだから、妙な野心を抱くことも無いだろう……。「――ありがとうございます、皆さん――!」エリオット陛下は、恐らく心からの礼を述べた。何より、争い事が好きじゃない方だからな……その気持ちは、いかほどのモノなのか……。もっとも、この場に居る者達は似た様な気持ちだろうが――。好戦的な奴も居る、争うことを怖がる奴も居る………それでも、望むのは平和。そして、戦うことを誓う――正確には、戦う動機はそれぞれ違うのだろうが――目指す場所は同じなのだから――。――その後、それぞれの書状にサインをし、無事に同盟締結と相成った。そして、しばしの雑談をした後に会談はお開きになったのだった。尚、その雑談の一部を語ると……。「ウェーバー、ベルガー隊長が見つかったんだ!」「何!?本当かウォレス!?」探し人が見つかったことに盛り上がるオッサン二人。「おい、シオン!お前、カレンには会いに行ってんのかよ?」「最近会って来た……って、この前言っただろうに……そういうお前は、実家に帰ってんのかよ?」「……いや、仕事が忙しくて……な?」絡んで来たお義兄様を、逆に凹ましてやったり――。「おじいちゃん、おじいちゃん!さっき、ウェーバーさんがランザックの英雄だって言ってたけど……アレってどういう意味なの??」「ふぉっふぉっふぉっ♪それはのぅ?あやつが陛下の危機を救ったことがあっての?」まるで、仲の良い孫と祖父みたいな会話に興じていたり――。「これから大変だけど……わたし、がんばるねっ!」「あぁ……一緒に頑張ろうな?」「……お兄ちゃん……♪♪♪」もう、お前ら付き合っちゃえば良いのに……的なピンクオーラを滲ませる義兄義妹。「貴女……大変そうね。気付いて貰えなくて……」「!?わ、わかって貰えるんですかっ!?」「わかり過ぎるわよ……私も……苦労したし……今は……幸せ……だけど、ね?」「そ、その……どうすれば……?」――何やら共感を得て、友情を芽生えさせた女性が二人――。「最近、ポールが厳しくて……少し城下の様子を見てきたいだけなのに……」「気持ちは分かりますが……彼の心情も察してあげて下さい」何故か、陛下の愚痴を聞いて差し上げたり――。と、まぁ――こんな感じだったワケで……。とにもかくにも、三国同盟は成った――。後手に廻るしか無い以上、連携だけはキッチリしとかないと……な。見てろよ……テメェらの思い通りにはさせねぇぞ……。と、そういえば……。「アイツらは大丈夫かねぇ……?」俺は蒼天騎士団の皆のことを考えていた……。新しく合流する面々……原作通りなら、一癖も二癖もある連中の筈だ。特に、ラッセルは……何かと面倒を起こしていそうだ……。『俺を従わせたいなら……俺を屈服させてみろ』「とか言ってそうだよなぁ……」「?どうしたのシオン?」「いや……皆仲良くしてれば良いなぁ……って」「あぁ………うん、そう……だね……」俺の言葉に相槌を打ってくれるリビエラに、感謝と愛おしさを感じながら……俺達は帰路に着いたのだった。***********Side Out時間は少し遡る。同盟会談が開始される少し前……シオン直属の蒼天騎士団の面々――彼らもまた、戦っていた。……比喩では無く、ガチで。シオンの不安は、ある意味で的中していた……ということである。それでは、居残り組の彼らの様子を見てみたいと思う。***********Sideオズワルドシオンの頭……いや、将軍に全てを任せられた俺様は、騎士団のメンバーを連れて、錬兵場にやってきていた。此処で、新しく入団する面々と合流することになっているからだ。いわく、癖が強いとのことだが……。「一体、どんな連中でしょうね?」ビリーの奴がそう聞いてくる。まぁ、そりゃあ会ってみなきゃ分からんだろうよ。ビリー・グレイズ。赤い短髪で、目付きが少々悪い……盗賊時代からの部下その1。身長は俺と同じくらいだから……170㎝ちょいくらいか?性格は卑屈つーか、皮肉屋っつーか……小悪党を【気取る】様な感じだが――性根は悪い奴じゃない。いざという時に、仲間の為に自分の体を張れる奴だ。両親は既に他界しているが、叔父だか何だかが居て、何かの本を書いてるとか、何かの研究をしてるって話だ……まぁ、詳しくは知らねーがな。使う武器は長槍で、確かシオンの将軍から『幸運の槍』ってのを貰って使ってる筈だ。「いやぁ……段々この騎士団も大きくなってきて……益々気合いを入れなきゃッスねぇ♪」「……そうだな」うんうん……と、頷いているのが、部下その2のニール。ニール・アスタード。盗賊時代からの付き合いその2。茶髪のザンバラ髪で、一見すりゃあ良いとこの坊ちゃんに見えなくもない……位には、整った顔をしている。身長は160後半……って所か?その性格は……熱血……って言えば良いのかぁ?気の良い性格ではあるんだが、その熱血ぶりから暴走することもあったなぁ……。元は没落貴族だったらしく、その強い正義感から正義の味方みたいになりたいと、武者修業の旅に出たそうだが………気付いたら盗賊になってたらしい……。何でだよ!?って、話だが……さっきも言った様にコイツは暴走癖があるからなぁ……。何かしらあったんだろう……で、抜け出せ無い内にズルズルと盗賊を続けることになった……と。武器は双剣……長剣と短剣の中間位の剣を使った二刀流。今使用している得物は、元々はシャドー・ナイトが使っていた物らしい。ちなみに、語尾に『ッス』と付けるのが特徴……というか癖。もう一人がザム。盗賊時代からの部下その3だ。ザム……孤児院出身の為にファミリーネームは無し。目線が隠れる位に伸びた黒い前髪が特徴(シオン将軍が最初にザムを見た時、シュジンコウヘアーとか言ってたが詳しくは知らん)……だったのだが、今は騎士になったので前髪を少し整え、片目の部分が見える様になった。(シオンの将軍はキタロー……とか言ってたが、やはり知らん)身長は160後半――ニールと同じくらいだな。性格は――ミステリアスというか……何というか……。基本、口数が極端に少ない。大人しいというか、無口というか……それなりに付き合いがある俺でも、まだ分からない所もあるが――。何気によく気が付き、気配りしたりもする………所謂、縁の下の力持ちって奴かも知れねぇな。使う武器はナイフ、剣、ボウガン。ナイフは投げナイフ……『スローイングダガー』。近接用の剣は『光の魔剣』という代物らしい。で、ボウガンだが……『クレインクイン』という代物で、中々の威力があるみたいだな……。「実際どうなんだ、その辺は?」「む……俺が見た限りでは、狂犬みたいな奴が一人居るが……後は普通に見えたぞ?」と、会話しているのがマークとエリックだ。マーク・ブルース。盗賊時代からの部下、その4。灰色の髪を肩の辺りまで伸ばした、目付きの鋭い男。身長も180ちょいあって、雰囲気的にはシオン将軍……いや、同じインペリアル・ナイトのアーネスト・ライエル将軍に近いかも知れねぇな。性格は冷静沈着で、自分の限界って奴をよく理解して行動する奴だ。ただ、情に熱い奴でもあり、仲間の為には限界を超えて気張ったりする。その際は喋り方も一変する……冷静沈着というよりは熱血系に。使う武器は竿状斧――『ハルバード』って奴だ。ちなみに、マークの奴はブローニュ村の出身で、シオン将軍の仲間であるアリオストって奴と同郷らしい。村を出て一旗挙げようとしたらしいが……盗賊団の頭だった……グレゴリーに何ぞ弱みを握られてしまったらしく、その為に嫌々ながら盗賊団に入ったらしい。『アリオストの奴、あんなに立派になって……会わす顔が無いな……』と、言っていたのを聞いたことがある。マークの奴、だから顔をあわす機会があっても避けてたのか……。ウォーマーという弟も居るらしいが……やはり、どの面下げて会いに行けば良いのか分からないと嘆いていたんだよな……。ってか、一応騎士になったんだから胸を張って会いに行けば良いんじゃねぇか?って、思うんだがなぁ……。で、もう一人がエリック。エリック・ウェルキンス。俺の部下に当たる男――だが、付き合いはさほど長いわけじゃない。かつての盗賊団で、俺の代わりに盗賊団に入った……いや、雇われたんだったな。雇われ者だったのだが、グレゴリー亡き後は成り行きで盗賊団を率いていた時期があったそうだ。しかし、シオン将軍に何度もぶちのめされる内に改心し――真っ向から将軍に立ち向かうために、盗賊団を抜けて修業に励んだとか。頭をルドルフの野郎に渡したとか何とか……。で、紆余曲折あって将軍の仲間になったそうだが……詳しくは知らねぇ。短めの茶髪を、サッと纏めていて――身長は170後半くらいか?性格は誇り高く、仲間を大切にする様な奴で、仲間を馬鹿にされたりすると黙っていられないタイプ。シオン将軍いわく、出会った当初はプライドが鼻に付く――三下っぽい奴だったとか……マークやザムの証言もあるから間違いないんだろうなぁ。モンスター使いという稀有な存在で、特殊な粉を使ってモンスターを操ることが出来る。今、奴の横に居る飛竜――名前をレブナントと言う――は例外で、粉などを使わなくとも心を通わせているらしい。……余談だが、マークとザムは……エリックとレブナントに殺され掛けたことがあるらしいのだが……。まぁ、特に蟠りが無いのは――流石って所か?或いは、前以て謝罪していたのかもしれねーし。使う武器は剣――『メイジスローター』という一種の魔剣らしい。――これまた余談だが、コイツの実力は俺とドッコイドッコイ――つまり同格だったりする。コレにレブナントが加わったりすると、ちょっと俺でも手が付けられなくなる程になる。まぁ、実質ウチのNo.2的立ち位置に居る奴だな。「狂犬かぁ……うん、噛み付かれないように気をつけなきゃねっ!」……と、ガッツポーズしている女が、エレーナ。エレーナ・リステル。蒼天騎士団所属、俺の部下に当たる奴。茶髪の長髪をポニーテールにしていて、身長は大体……160ちょい位か。何でも、以前はシャドー・ナイツに所属していたらしく、リビエラとは同期らしい。で、シオン将軍と敵対したらしいんだが……あっさり負けたらしく……気絶させられて、身ぐるみを剥がされたらしい。その際、将軍に文字通り惚れ込んだらしく……ずっと探していたらしい。そんな折、任務中の俺たちと出会い……仲間になったわけだ。性格は……詳しく語れる程付き合いが長いわけじゃねぇから、何とも言えねぇが……。リビエラいわく、元気で明るく――ドMらしい。――意味わからねーよな?使う武器は長剣の二刀流……『雷鳴剣』って魔法剣の二刀流らしい。『らしい』ばっかりだが……それだけ付き合いが浅ぇってことだ。良い奴だってのは分かるけどな。「っと、来たみたいだぜ?」俺は複数の気配を感じ、言葉を漏らす――ん?なんで気配とか分かるのかって?シオン将軍の魔導書『今日から君も大英雄』を読んで修業したからな――つっても、ぼんやりと分かる程度なんだが……。どうも、俺には【気】という奴の才能があるらしい。同時期に修業したコイツらは、未だに【気】の感覚を掴めてねぇらしいし……って、俺のことは良いんだよ。今はやってきた新メンバーだよな……おぉ、結構居るじゃねぇか……。***********Side Out「バルク・ディオニースであります!」「レ、レノア・ウィルバーです!」「ラッセル・ウィルバーだ」「キルシュ・アンフィニール……ヨロシク」自己紹介をする元・特別第一小隊の面々。既に支給されていたのか、彼らは蒼天騎士団の制服を身に纏っている。そして――。「ウェイン・クルーズであります!」「マクシミリアン・シュナイダーであります。今回は研修ということで、短い間かも知れませんが……よろしくお願いします」特別第一小隊とは別に、自己紹介をする青年二人……彼らは蒼天騎士団の制服は着ていない。身長の高い方の青年――マクシミリアンが言うには、彼等は研修生的な形で、一時的に蒼天騎士団へ配属されることになったらしい。「俺が、蒼天騎士団団長のオズワルドだ。今回、シオン将軍ともう一人は別の任務についているため、この場には居ないが後で会う機会があると思う。で――コイツらがウチの団員だ」オズワルドに促され、自己紹介をする団員達――。(成る程ねぇ……シオンの将軍が言ってた通り、一癖も二癖もありそうな連中だな……狂犬ってのは――あの赤茶けた髪のツンツン頭だろ?ギラギラした眼をしてやがる……あのバルクって奴は――見た目とは裏腹に、中々あたまがキレそうだな……小隊長をやってたらしいし、当然か)オズワルドは、そんな風に思考を張り巡らせながら周囲を見遣る。(あの金髪の嬢ちゃん……キルシュって言ったか?……なんか、雰囲気がザムに似てるな………もしや不思議系か……?)少女――キルシュを見た後、ザムを見るオズワルド――。どうにも雰囲気が似ているらしい――。(レノアって嬢ちゃんは、少し緊張してるのか?初々しいねぇ……。ウェインって奴は気合いが入ってるし、マクシミリアンって奴は物腰が柔らかそうだな)残りの三人――レノア、ウェイン、マクシミリアンについては、さほど癖が強いようには感じなかったらしい。「さて、挨拶も済んだ所で「オイ」……何だ?」話を進めようとしたオズワルドの言葉を遮ったのは―――ラッセル。それを見たバルクは、あちゃー……という感じで顔に手を当てており、レノアはアワアワしている。キルシュは………ほけーーっとしている。「お前はあの男の代わりなのだろう?ならば――強いのか?」「また、ストレートに聞きやがる……あの男ってのがシオン将軍だとして、お前が将軍を基準に考えていると仮定したならば―――俺は将軍程強くはねぇ」「そうか……それはガッカリ「だが」――?」挑発的な言葉を投げかけてくるラッセルに、オズワルドは率直に答えた。ラッセルは落胆を現にしようとしたが、それをオズワルドは遮った。そして言った――。「少なくとも、お前よりは強ぇ」――と。「―――ほう?」「俺だけじゃねぇ……ウチの連中は全員、生半可な鍛え方はしてねぇんだ――ガッカリすることはねぇ筈だぜ?」目を細め、獰猛な笑みを浮かべてオズワルドを見遣るラッセル。そんなラッセルに、オズワルドは更に言葉をぶつける。その言葉には『あまり俺達を舐めるんじゃねぇぞ小僧』……といった意味を込めているのだろう……暗に蒼天騎士団のメンバーは皆、ラッセルより強いと言ったのだ。「なら――試させて貰おうか?誰でも良い……俺の相手をしろ!なんなら、纏めてでも構わんぞ?」「だからお前はどうしてそう……!」「本当だよ!お願いだから止めてって……団長さんも、煽らないで止めて下さいよぉ〜!」それを聞いたラッセルは、その瞳に火を付け……携えていた大剣を抜き放った。そして、流石にマズイと思ったのか……慌てて止めに入るバルクとレノア――レノアに到っては、オズワルドに批難めいた……泣きっ面で抗議したりしている。「俺は事実を言ったまでだぜ?それに――こういう奴には、ガツンと教えてやらなきゃならねぇ……毎回噛み付かれちゃ堪らねぇからな」(正直……気は乗らねぇんだがなぁ……)口では挑発めいた台詞を語るオズワルドだが、内心では気乗りしていなかった。オズワルドは、ラッセルの力量を何となくだが把握していた。気を朧げながら探った結果なのだが――。オズワルド自身か、エリックなら――真っ向から戦っても勝てるだろう。エレーナは全く互角――。だが、マーク、ビリー、ニール、ザムの場合は……正直、一対一ならばラッセルに分があるだろう……と。しかし、オズワルドは先程言った台詞を撤回しない。単純な力量だけが、=実力では無い。ある程度の実力差なら……戦い方次第で幾らでも埋められるのだから。「まぁ……煽ったのは事実だし、俺が相手するのが筋って奴だよなぁ……」はぁ……と、溜め息を吐いたオズワルドは、ラッセルとの手合わせに自身が志願したのだった……。***********Sideウェイン「……さて、いつでも良いぜ?」そう言って、2本の手斧を構えるオズワルド団長――。「ふん……」対して、アイツも自分の大剣を構える……。口では喧嘩腰だったけど、この前シオン将軍に直ぐやられたからか……慎重な印象を受ける。「……にしても、アイツは懲りるって言葉を知らないのか?なぁ、マックス?」「……………」「マックス?」俺は一緒に派遣されたマックス(マクシミリアンの略称)に声を掛ける……けど、マックスは複雑そうな表情で二人を見つめている。「マックス!」「!?あぁ……ウェイン?どうしたんだい?」「どうしたは俺の台詞だよ……どうしたんだよ、複雑そうな表情をして――」「いや……何でもない。それより、始まるみたいだよ」マックスは、そう言って二人の方を指し示す。確かに、二人がジワジワと間合いを縮めている――。って、何かはぐらかされた様な――。まぁ、理由は何となくわかってるんだけど……。マックスは争い事が好きじゃない……。っていうか、嫌いだ。騎士を目指しているのだって、親に対する義理からだって言ってたし……。だから、誰彼構わず喧嘩を売るアイツと――そんな喧嘩を買ったオズワルド団長を見て、悲しくなったんだろう……多分。「!!ゼアアアァァァァァッ!!!」と、言っている側からアイツ――ラッセルが切り掛かった。アイツの得物は大剣――間合いに入るのは先だ。「――ふっ!」ガキイイィィィンッ!!!だが、それをオズワルド団長は手斧で弾いた。そう、弾いたのだ……。「チィッ……シャアアァァァッ!!!」ガキガキガキガキイィィィィィンッッ!!!ラッセルの怒涛の猛攻……それをオズワルド団長はことごとく弾く。アイツの斬撃が遅いのではない。――現に、俺はアイツとの模擬戦で……文字通り防ぐので精一杯で、手も足も出なかったのだから―――。だが、オズワルド団長は違う。圧倒的にリーチが短いあの手斧で、長大で重量のある大剣の攻撃を弾いているんだ――。幾ら手数が多く出せるとは言え、普通は中々出来ないぞ――。「剣の軌道を、横から叩いて逸らしてるんだ……つまり、あの団長殿はラッセルの攻撃を見切ってるってことだな……」「貴方は……」「バルク・ディオニースだ……改めて宜しくな少年たち」近くに居たバルクさんが、オズワルド団長のやっていることを解説してくれる。「……しかも、近付いてるみたいですね」「え――?」マックスが指摘した通り……よく見ると、攻撃を弾きながら――ジワジワと……オズワルド団長がラッセルに近づいていってる――。「チィッ……!?」ガガガガガガガガギィンッッ!!!!それに気付いたラッセルは、更に剣速を加速させた……って、やり過ぎだろ!?「こ、これ……もう模擬戦ってレベルじゃあ……」レノアと名乗った女性が、顔を真っ青にしている。それもそうだ……ラッセルの奴、明らかに殺しに行ってる。実戦経験がほとんど無い俺でも、奴の発する気迫と殺気が異常だとわかる……少なくとも、仲間に対して向ける物じゃない……。「止めなきゃマズイのに……何でみんな止めないのよぉ……」「……でも、当たってないという――衝撃の事実」「ふぇ……」アタフタするレノアに、キルシュと名乗った少女が指摘する。そう、あれだけ激しいラッセルの猛攻にも関わらず、オズワルド団長にはかすり傷一つ付いていない。それどころか―――。「――あの攻撃の中、更に距離を詰めてやがる……」ラッセルの猛攻をことごとく弾き、それでも尚……近付いてる。「クッ……」ラッセルの表情が、苦虫を噛み潰した様な表情に変わる。前回――シオン将軍に負けた時は、何のことかわからない内に負けたって感じだった……。しかし、今回は目に見えてソレが明らかになっている。だから――焦る。もう少しで――間合いに……!?「ふっ!!!」ガキイィィィィィィン――――ッッッ!!!「ぬぐぅ――!!?」オズワルド団長はラッセルの斬撃を、一際強く弾き――。ギュバッッ!!!その隙に、何を思ったのか……片方の手斧を投げ付けた……!「くっ……舐めるナァァァァァァッ!!!」カキイイィィィィンッ――!!当然……幾ら勢いがあろうと関係無い、と言う様にソレを叩き落とすラッセル……しかし、隙は出来た。ザッ!!「やっと詰めたぜ……小僧?」あの僅かな瞬間にオズワルド団長は、自分の領域まで一気に詰め寄った様だ……けど。「見え見えなんだよっ!!」それに気付かないラッセルではなく、詰め寄ったオズワルド団長にそのままタックルを叩き込もうとして―――。ブブゥ―――ン!!オズワルド団長の姿がぶれて――。「俺様の――勝ちだな?」気付いたらラッセルの首筋に斧を突き付けていた――えっ、何で……?「分身か……良い技を持ってやがる」バルクさんが言葉を漏らした……『分身』って……あの土壇場で?。「……ああ……俺の負けだ」ラッセルの奴は素直に負けを認め、剣を鞘に納めた。「やけに素直だな?」「負けは負けだ……それはつまり、それだけ互いに実力差があったということ……ソレは噛み締めねばならないだろう」あんまり素直に負けを認めたからか、拍子抜けした様に理由を尋ねるオズワルド団長。対してラッセルは負けは負けだ……と、納得した様に話した。……物分かりが良いんだか悪いんだか……わからない奴だなぁ……。***********Sideオズワルド何はともあれ……とりあえず問題らしい問題も片付いた。「よし、言いそびれちまったが……さっきの続きを言うぞ?――これから早速、全員で訓練を行おうと思う……」そう、互いの親睦を深める意味で、訓練を行おうとしていたのだ!やっぱり、互いにわかり合うには口で語る以上に、共同で何かを行うのが1番だと思うからな!***********Side Out尚、その訓練が中々に過酷で――シオン達が帰って来た頃には――何人かがへばっていたことを明記しておく。誰が誰――とは、本人の名誉の為に言わないが――。「ぜぇ……ぜぇ……もう少し……酒を控えるかね……」「うぅ……難しすぎて……わからにゃい……」「うぅ……きっつ〜……」「ははは……士官学校よりキツい訓練って……流石だね……はは、は……」―――誰が誰とは……言わないが………。***********「ティピと!」「ゼノスの!」「「ミニミニ!グローランサー!!」」「in出張版!!」「本日のパーソナリティは、みんなのアイドル!ティピちゃんと♪」「みんなの兄貴分!ゼノスでお送りします」「ハイ、というワケで久々に始まりましたケドも………って、ゼノス?」「おう、ゼノスだ!最近出番が少ないからな……こうして参上したぜ!!」「まぁ……本編は基本シオンさん視点だしねぇ……シオンさんがバーンシュタインのナイトになった以上、出番が減るのは仕方ないわよ……」「そうは言うがなぁ……シオンの奴は結構ローランディアに来てるじゃねぇか……任務とかで」「それはそうだけど……アレは別件だったし……って、愚痴ってる場合じゃないってば!」「お、おぉ……そうだったな。で、今回の趣旨は?」「ほら、今回の本編もそうだけど、キャラが多量に出て来たじゃない?きっと何が何だかわからなくなってる人も居るんじゃないかな〜って」「つまり、今まで本編に出て来た登場人物のプロフィールを語る……ってワケか?」「それだと正直、尺が足りないから――誰がどの作品の登場人物なのか――を、大まかに名前有りキャラだけで纏めてみようってさ……」「要するに、俺たちなら無印グローランサーから……みたいな感じか。ん?ならシオンとかはどうするんだ?」「ソレは別途オリキャラ枠ということで……ね♪」「そんなんで良いのか……んじゃ、始めるぜ?」「ちなみにアタシたちグロランⅠのキャラは省略……って、なんでよぉっ!?」「面倒なのと……尺が足りないからだろ?此処で紹介されてない奴は、Ⅰに出て来た奴ってこったな」***********グローランサーⅡウェイン、マクシミリアン、ローガン、リビエラ。グローランサーオルタナティブリヒター、ラッセル、レノア、バルク、キルシュ。オリジナルシオン、マーク、ビリー、ザム、ニール、エリック、レブナント、エレーナ、レイナード、リーセリア、ガイウス、リュクス、シルク、メイリー、シルビア、ルイン、ルドルフ。「ちなみに、名前だけの登場をした人はカウント外ね?リビエラさんのお姉さんとか、オルタに出て来た宮廷魔術師とか……」「つーか、オリジナル多いな!?」「作者いわく、『気付いたらこんなんなってました……』ってことらしいけど……」「プロットでは違う展開で、こんなにオリキャラが増えることは無かったって話らしいが?」「キャラが勝手に動くんだってさ」「――プロットの意味ないだろソレ」「まぁね……って言うかさ………ルドルフって誰?」「今回、本編でオズワルドの奴が語っていた……かつての盗賊団の一員で、現在は頭。実はチョロッとだけだが……出て来てるんだよ」「えっ!?嘘っ!?」「マジだって……名乗ろうとしたは良いが、邪魔されて名乗りきれなかったケドな」「それ……名無しキャラと同じなんじゃあ……」「まぁな……っと、大体こんな所か?」「うん、余計こんがらがったと思う♪」「……だよなぁ……本当は事細かに説明したいが……時間が来ちまったらしい」「あっ、本当だ!みんな、名残惜しいけどお別れの時間になっちゃった……お相手はティピと!」「ゼノスで、お送りしたぜっ!!」***********おまけ「ところで……homoさんは?」「あ?あ〜……アレな?俺と似た声で『や・ら・な・い・か?』とか言ってきやがってな……あまりにアレで、悪寒がしたからボコッといた」「あ〜〜……その、ゴメンね?」***********後書き的なアレ。すいませんm(__)m仕事が忙しすぎて、中々更新出来ませんでした……。忘れ去られていないか不安になりつつ……更新です。あっちの方も更新しておきましたので、宜しければ見てやって下さいませ……。それではm(__)m