***********さて、ローザリアを後にした俺だが……実はまだローランディア国内に居たりする。現在地、カーマイン領エルスリード。此処にある喫茶店にて、とある人物とお茶しているワケだ。――まぁ。「それにしても、元気そうで安心したよ」「ソレはお互い様だ……というか、まだそんなに時間が経ったワケじゃないだろう?」「ふふっ、確かにね」ラルフなんですけどね?そう、俺はラルフに会いに来たのだ。……詳細を説明すると、まず俺はラルフの気を探ってみた。すると、ローランディア国内……此処、エルスリードにてラルフの気を感知したので、文字通りテレポートを使って跳んで来たワケだ。「にしても、こんな所で何をしていたんだ?」「勿論、商売だよ。せっかくだから、此処にもウチの支店を出せないかな……って。カーマインに相談したら、一応OKは貰えたけど……今すぐどうこう出来る問題じゃないから、近いうちに管理人を交えて話し合おうってことになってさ」ラルフの奴、商人として頑張っているみたいだな……生き生きとしている。尚、そういう相談をするために、昨夜はフォルスマイヤー宅に泊まったらしい……。勝手知ったる何とやら……まぁ、俺が言えた台詞じゃないが。「さて、僕の身の上話は置いておいて―――本題に入ろう。頼まれた件について、調べておいたよ」さっきまでの和やかな雰囲気が一転、真剣味を帯びた空気に変わる――。「――首尾はどうだった?」「微かなゲヴェルの波動を頼りに、探してみたら――あったよ、水晶鉱山……もっとも、シオンの懸念通りになったみたいだったけど」「!?オイオイ……それじゃあ……」「……水晶鉱山は半壊していたよ。当然、中に居ただろうゲヴェルの姿は影も形も無かった」――俺はラルフに、商売のついでとして『残りのゲヴェル』が眠っているであろう水晶鉱山の捜索を頼んでいた。生憎、俺はナイツになったから気軽に身動きが取れなくなったし……。幾ら俺でも、封印されたゲヴェルの波動を感知するのは難しいからな……出来ないとは言わないが。ラルフに限ったことでは無いが、ゲヴェルから生み出された者には、ゲヴェルの波動を感知する能力があるらしい……。コレに関してはグローシアンである俺や、ルイセより優れているらしく、例え微弱な波動だろうと感知出来るそうだ。確か、Ⅱではカーマインは人間になったが、そういう感知能力は失われていなかったらしく、封印されていたゲーヴァスの存在を感知していたからな……。ラルフにその能力が備わっていても不思議では無い。「僕が見つけた水晶鉱山は二つだけだったけど、その二つとも壊されていた――もし、シオンの言う通り、ゲヴェルが全部で5体居るのだとしたら――」「――残りの水晶鉱山も破壊されている可能性は高い……か」俺はある懸念を抱いていた。ゲヴェルは封印されていた……そして、ゲヴェルは本来なら5体存在する……。仮に……仮にだが、コレらの封印が俺達の倒したゲヴェルの様に解けていたら……?或いは―――意図的に解かれていたら?俺の脳裏には、あのフードの野郎の姿が浮かぶ。「チッ……予想はしていたが、あまり宜しくない展開だな……」「やっぱり、シオンの言う様に例のフードの男……?」「だろうな……確証は無いが、確信は出来る」考えるだけで胸糞悪くなる話だが……もし、俺が奴の立場なら……同じ様なことをしただろうからな。「それって……やっぱり【本来は無かった流れ】――なんだよね?」「まぁ……な。【本来の流れ】なら、残りのゲヴェル処か、残りの水晶鉱山すら見付かりはしなかった筈だからな……」余談だが、ラルフは俺が『転生者』であることを知っている。俺の居た世界では、この世界のことが観測出来る【創作物】の様な物に記されていること―――(ゲーム云々は、この世界にテレビゲームの概念自体が無いので、敢えてぼかして説明している)そして、俺以外にも転生者が居ることも……。「……あの時のフードの男が動いたということは……?」「ほぼ間違いないだろうな……」俺と同じ様に、原作の知識を有しているのなら……その上でクソヒゲに協力しているならば……。「もし、残りのゲヴェル4体を投入されたら……」「最悪……だな」ラルフの言うもしも……かなりの確率で現実になるだろうソレ。俺やラルフ、それにカーマイン達ならば対抗出来るだろうが……。仮に、重要拠点へ同時にゲヴェルを投入されるなんて事態になれば……。考えたくないな……。まぁ、俺はその気になれば瞬殺して瞬転でボコり廻ることも出来るが……それでも少なくない犠牲が出るのは明白だ。俺の身体は一つしかないのだから――。もっとも、ラルフの力量ならタイマンでゲヴェルを打倒することは可能だろうし、カーマイン達は言わずもがな。ローランディアは先の戦で多少兵力は減ってしまったが、それでもウチの国よりは多いしな。バーンシュタインには俺を含めて、インペリアル・ナイトが五人も居る。ソレに父上達や、シルクも来るワケで。例えゲヴェルと言えど、引けは取るまい。つーか、過剰戦力と言っても良い。もっとも、先の戦で、兵力は三国で1番少なくなってしまったが……。1番心配なのはランザック………では無く、魔法学院。原作では、魔法学院も襲われていた……ならば、ゲヴェルが投入される可能性も少なくない。そうなった場合、魔法学院生では、まず対抗出来ない。幾らゲヴェルの弱点が魔法だとしても、一般人の使う魔法に対しては十分な耐性を持っていた筈。それに彼らは、まともな戦闘訓練を受けていないだろう……ユングや仮面騎士の様な人間サイズの相手なら未だしも、そんな者達がゲヴェルみたいな巨大な化け物に立ち向かえるだろうか?残念だが、答えは否としか言えない。しかも、あの中で突出した戦力は、アリオストとミーシャ……それにイリス位だからな。ランザックに関しては、ローランディアより若干だが兵力が多い。コレは先の戦での損害が、一番少なかったことに原因があったりする。もっとも、魔法に関しては後進国であり、グローシアンも少なく、戦えるグローシアンともなると殆ど居ない……と、魔法学院の次くらいには心配になるのは変わり無いんだが。「せめて、あのヒゲのアジトが何処にあるのか分かればな……こっちから乗り込んでやるってのに……」「多分、結界か何かのせいだろうけど……気も魔力も感じないからね……」「結局、後手後手に回るしかない……か」明日の同盟会談で、取り上げるべき内容だな……。各国間の連携を強めないと、本気で足元を掬われかねないぞ、コレは……。「僕はもう少し色々と調べてみるよ――商売のついでに、ね?」「ああ、頼む……悪いな」「良いさ……親友の頼みだからね?」そう言って、微笑を浮かべるラルフ。ったく、コイツは……。「そんな小っ恥ずかしいことを臆面も無く……」「もっと恥ずかしいことを女性に言ってるシオンには、言われたくないかな?」「オイコラ」「冗談だよ♪」この野郎……爽やかな笑顔しやがってからに。その後、互いの近況を語った後……次の再会を誓い、お互いにその場を後にした。まぁ、元気そうで安心した……。あの指輪はキチンと効果を発揮しているみたいだな……ポールの腕輪がしっかり機能しているんだから、当然と言えば当然かね。さて、俺も最後の休暇を満喫しようか?次に向かうのは……。***********「よし、到着!」俺がやって来たのは魔法学院。そう、俺が会いに来たのはイリスだ。後は、アリオストにも用事があるが……。先ずはアリオストに会いに行くことにする。えっ、何故イリスじゃないのかだって?いや、イリスとはじっくり話したいし……今の時間帯じゃあ、教員のイリスは忙しい筈だろ?その点、アリオストは学院に在籍しているが、学生というよりは研究者であり、比較的自由な時間を有している。「そんなわけで、遊びに来たぜ!」「どういうわけか分からないけど……いらっしゃい」唐突に尋ねて来た俺を、アリオストは苦笑しながら自身の研究室に迎え入れてくれた。「それで?今日はどうしたんだい?」「うむ、実は『かくかくしかじか』――というワケでさ」「成る程……『これこれうまうま』というわけだね……って、分からないって」俺の悪ノリに乗ってくれるアリオスト……うむ!ナイスノリツッコミ!と、ふざけるのもコレくらいにして、俺は訪ねて来た理由を説明した。「成る程、休暇で来たのか……」「そういうこと……ついでだから、例の物を見せて貰おうかなってさ♪もう完成しているんだろう?」「ああ、バッチリだよ。もっとも、まだテストをしていなかったから、シオン君が来たのは丁度良かったかな」「オイオイ……人を実験台にする気かよ?」「実験台なんて人聞きが悪いな……それに、元からそのつもりだったんだろう?」「……まぁな?」お互いに顔を見合わせ、ニヤリッ……と笑う。何か、この場面だけ見ると悪巧みをしている様にも見えるが……断じてそんなことは無い。強いて言うなら、コレは浪漫だよ!!「……で、コレが現物なんだけど」「おおっ……」アリオストが持ってきたのは、一本の板……いや、ボードと言っても良い。簡単に言えば、某身体は子供、頭脳は大人な名探偵が持つジェットスケートボードの車輪を取っ払った様な形状で、大きさはサーフボード位の物を想像してくれると分かり易いかも知れん。「ほほう、コイツが……」「そう……コレが僕と君の合作した新たな飛行装置……その名も『マジックボード』だ」そう、以前俺は新たな飛行装置についてアリオストと語り合い、俺も魔導具製作者として色々とアドバイスをした……。そして、俺のアイディアとアリオストの科学力(正確には魔導学力か?)によって完成したのがこの『マジックボード』というワケだ。ボードの中には、アリオスト謹製の『浮遊円盤』が数枚、そして俺が作り上げた『魔力回路』――更には『出力装置』を内蔵している。「細かい説明は省くけど、僕の浮遊円盤で宙に浮く力を、君の作った魔力回路で浮遊円盤に円滑なエネルギー供給を、そして出力装置で推力と力場を発生させる……それにより、君の言う『滑る様な軌道』が可能になった……理論上はね?」「まだ、テストはしていないから……だよな?」「正確には、テスト自体はしたんだけど、テストにならなかった……が、正しいかな?」?何だか妙な言い回しだな……。「どういうことなんだ?」「このマジックボードは、内蔵された魔水晶に魔力を注ぐことで機能する様に出来ている……っていうのは知ってるよね?」「あぁ……だから、一般人の魔力では起動させることは出来ても、長時間動かすことは出来ない……だろう?」なので、魔力の少ない人間ではあまり速度も出せず、軽く遊ぶ位しか出来ないとか……。「僕も試してみたんだけど、遊ぶくらいなら長時間起動出来たんだけどね……」「速度を上げての起動は無理だった……か?」「そういうこと」つまり、全速力で動かすにはかなりの魔力量が必要……要するに燃費が悪いということらしい。「多分、ルイセ君くらいの魔力量があれば自由自在に扱える筈だけど……」ルイセか……魔力量という意味では問題なさそうだが……落っこちそうで怖いな。ルイセは、ハッキリ言って運動音痴……という程には酷くは無いが……。運動神経が良いとは、お世辞にも言えない。「……と、なると魔力エネルギータンクというか、補助エネルギー機関が必要……か」「その辺りは改良の余地があるけど、問題点もあるからね……まぁ、今はこの試作品の限界を引き出せる人物による試運転で、性能を確かめてみたいっていうのが本音なんだ」「で、俺に試して欲しいってワケだな?」俺の問いにアリオストが頷く。まぁ、確かに俺は皆既日食グローシアンであり、運動神経もチート……どころかバグってる。魔力量もまた同様。「そんなワケで、頼めるかい?」「モチのロンよ!」俺はグッとサムズアップして、最高のスマイルを見せる。むしろ望むところ!空を飛ぶ……というのは浪漫だからねぇ。俺も『跳ぶ』ことは出来るが、飛ぶことは出来ないから――。夢一杯になりながらも、俺達は試運転の準備に取り掛かった……そして。***********「よし!準備完了!!」現在、アリオストの研究室前。俺はボードの上に乗る。気分はスノーボーダー……いや、板のサイズ的にはサーファーか?「それじゃ、手順通りに」「了解!!」テンションフォルテッシモ!!状態の俺は、アリオストからの説明通りにマジックボードを起動させていく。―――フォン―――!「う、浮いた!?」俺を乗せたボードは、その重量などお構い無しという感じで、ふわり……と浮いた。よく見ると、ボードの裏から魔力力場が形成されているのが分かる。「よし、後は手順通りに……」「了解……!」俺はアリオストの言葉に促され、静かに瞳を閉じた……。俺の足からボードに魔力を送り込む。ヒイィィィィン―――と、清んだ音と共にボードに内蔵された魔水晶の魔力が高まって行くのを感じる……。俺はゆっくりと眼を開き………その指令を口に出す。「………飛べ」次の瞬間―――!ドヒュ!!「くおっ!?」ボードは速度を上げながら、力場の上を滑走して上昇―――!つまり……。「よし!成功だ!」地上からアリオストの声が聞こえる……そうか、俺は飛んでいるのか……そうかっ!!俺はボード上の足を使ってボードをコントロール……!クイッ!!と、方向転換……上昇していた軌道を平行に保ち、右にターンッ!!成程、スノボーとか、スケボーとか、サーフィンとか……感覚としてはやはりコレらに近い。というか、推力として蒼い魔力波動が、備え付けられた推進装置から放出されている様は……システム的には違うが、見た目的には完全にエ○レカのリフボードだな……。まぁ、それを狙って発案したんだし……当然か。「見ろっ!人がゴミの様だぁっ!!」っと、叫びたくなる程の絶景です。いや、実際は大袈裟だけどね?地上から約十数メートル。アリオストは勿論、地上に居た他の生徒達も上を向いてポカーンとしている。俺は軽くジグサクの軌道を取った後……。「よし、準備運動完了……本格的に行っくぜぇっ!!」俺はボードへ更に魔力を込め、スピードを上げる!!ちなみに、魔力壁が張れるシステムがあるため、俺に掛かる風圧は致命的な物にはならない。更に、魔力を通すことで軽い接続感というか、接着感というか……多少無理な軌道をしても落っこちるということは無いっぽい……つまり。「ねだるな!勝ち取れっ!!さすれば――与えられんっ!!アーイキャン……フラアアァァァァァイッ!!!!」こういうことも出来る!!キュバッ!!ドヒュンッ……ズバッ!!っと、俺はカットバック・ドロップターン(っぽい物)を決める!!っ!!超気持ち良いーーっ!!テンションうなぎ登りやでぇっ!!俺は更に、急上昇、急降下、急旋回を繰り返す……その軌道は複雑に絡み合い、魅せる動きをしている……と思う。……ただ、いかんせん自身のチートな六感のせいか速度が遅く感じられる。別段スピード狂では無いのだが、テンションが高くなっているので……。もっと……もっとスピードを!!更に魔力を込める……もっと!!更にスピードは加速する……グングンと。もう少しで高速の域『ボンッ!!』に……?「……ほわっつ?」ボードから煙が立ち込め『ガクンッ』と軌道が変わり……って、魔力力場が消えてる?ボヒュー……ン……。推進装置も情けない音をあげて沈黙なされました……えーっと、つまり?「あじゃぱああぁぁぁぁぁぁっ!!?」こうなるワケねええぇぇぇぇぇぇっ!!?俺は流星の様に落下していったのだった……。***********「あじゃぱああぁぁぁぁぁぁっ!!?」「…………」シオン君は凄まじい勢いでマジックボードを乗りこなしていた……周囲に居た学生達も、彼の動きに魅入る程に。かく言う僕も、同じ様に魅入っていたのだけど……。そして、その動きが次第に速くなり、遂には僕の眼では追えなくなった辺りで『ボンッ!!』と音が鳴り、ボードから煙を上げながらヒューンッと、森の方向に消えて行った。イメージ的にはこう……キラーンッ♪とお星様になった様な『ズガーーンッ!!』………って、見ている場合じゃないだろう僕っ!?「シオン君ーーーーっ!!!??」僕はシオン君が落下したと思われる場所まで、大急ぎで駆けて行く!!洒落になっていない……筈なんだけど。何故か、彼なら無事な気がするのは……何でだろう?(アリオストは知らないが、シオンは以前にカーマイン達と模擬戦をした際に、高台からカーマイン達の元に文字通り『飛来』したことがある)僕が向かった先には……。「ふぅ、死ぬかと思った……というのは冗談としても、俺以外なら間違いなくあの世行きだぞ?」「は、ははは……」陥没した大地から、無傷のシオン君が現れた時に、僕は渇いた笑いを浮かべるくらいしか出来なかったのは……仕方ないだろう?***********俺は落下した地表から這い出る。クレーターという程では無いが、周囲の木々を薙ぎ倒し、周りの地面が陥没している……。……龍玉かよ?「ふぅ、死ぬかと思った……というのは冗談としても、俺以外なら間違いなくあの世行きだぞ?」まぁ、その気になればテレポートなり瞬転なりを使って無事に着地出来たのだが……必要無いかなぁ……と思ってしまってな。この身体のポテンシャルって、マジで龍玉並だからなぁ……。気をうっすら纏うだけで無傷だったり。多分、気を纏わなくてもたいしたダメージにならない位には、現在の俺は頑丈だろうが……鍛えてますから。それでも服が汚れてしまうのは避けられないから、気を纏ったワケなんだが。「は、ははは……」アリオスト君が俺を見て、渇いた笑いを浮かべている。まぁ、気持ちは分かるが……多分ラルフもコレくらいは出来るぞ?多分。俺は右手を天高く掲げる……すると、空からマジックボードが落下してきたのでそれをキャッチ。あのまんまだったら、マジックボードは粉砕されていたからな……軽く空中にそぉい!してたのさ。うむ、おかげで見た目の損傷は無いな。まぁ……中身は壊れているだろうが。「おう、お出迎えご苦労様……ホイ、ボード。どうやら、俺の送り込んだ魔力量に耐えられなかったみたいだな」俺はアリオストに近付き、マジックボードを返す。マジックボードが故障した原因は間違いなく、俺が調子に乗ったからだ。マジックボードに内蔵された魔水晶が、俺の魔力量に耐え切れずに大きな負荷となり……ボンッ!!と……。俺も、天弓等の魔導具を作製したんだから分かる……天弓も改良して大分良くはなったが、それでもまだ、俺の全力の魔力には耐え切れない。それと同じことだったのだが……俺はテンションがマッハだったので、そんなことにも気付けなかった。「悪かったな……せっかくの試作品を壊しちまって」「なに、装置は壊れたら直せば良いのさ……欠点もね?それより、怪我は無いかい?」「ああ、おかげさまでピンピンしてるよ」「それは良かった……まぁ、君なら大丈夫だと思ってたケドね?」むぅ……爽やかに返された。アリオストらしいと言えばらしいか……。こうして、漢の浪漫――試作型マジックボードの試運転が終了したのだった。なお、俺が墜落事故を起こした件について、ブラッドレー副学院長にちゃんと弁解しておきました。騒ぎにこそならなかったものの、結構な人数に目撃されてるからな……当然の措置だろう?「多分、コレも魔技法に引っ掛かるんだろうな……」「どうかな?もしそうなら、別のアイディアを考えるだけさ……実はアイディアはもう練ってあってね……」研究室に戻って来た俺達は、雑談を交わしていた。もし、マジックボードが魔法技術管理法に引っ掛かった場合、また新しい飛行装置を開発するとアリオストは言う。アリオストの話を聞くと、今度は気球を製作する算段を立てていると言う。何と言うか、アリオストの空に対する情熱は中々に計り知れない。最初こそ、母親であるジーナさんに会う為に研究をしていたが……今現在、『空』はアリオストのライフワークになりつつある。―――案外、アリオストは生きてる内に、飛行機を完成させちまったりしてなぁ……。アリオストならありそうだよなぁ……。そもそも、この世界の魔導学はある意味では、前の世界の科学より優れているからな………本当に有り得そうな話だ。っと、そういえば……。「フェザリアンに対する答えは見つかったのか?」「まだ答えには届いていないけど……何となくは見えて来たかな?」「へぇ……どんな答えなんだ?」「いや、まだ漠然とした感じだから説明出来ないんだけど……」はぐらかされた……というワケでは無いんだろうな。アリオストの言う様に、答えは見えて来たのだろう……。ならば、それが形になるのを祈るのみ。その後、軽く雑談をし、その場を後にした。俺には、まだ会う人がいるからな。***********「嘘つき」「げはぁっ!!?」そして現在、俺は会うべき人――イリスに精神的ダメージを食らっていたワケで。ちなみに、今は彼女の部屋で話しています。魔法学院には男子寮と女子寮があり、そこに教員と学生の垣根は無い。当然だが、イリスは女子寮側に部屋がある。肝心のイリスだが……仕事で忙しいと思っていたんだけど、どうやら今日は休暇だったらしい。正直、予想外デス。「会いに来てくれたのは、嬉しく思います。ですが―――貴方は嘘をついた」……はい、先程アリオストとハッチャケていた所を、イリスにも目撃されまして……これはどういうことですか?と、尋ねられたので、詳しい説明をしたワケで……。なお、イリスが俺を嘘つき呼ばわりしている理由はコレでは無い。「休暇を貰ったら1番最初に会いに来てくれる……貴方はそう言いました。それなのに、他の女性に会いに行くとは……男に二言『有り』なんですねわかります」「ぐえふぅっ!!?」心が……心が痛いぃぃ!!実は―――隠しておくのはイカンと思って、先にサンドラとレティシアに会って来たことを素直にゲロりまして………それがこういう事態に繋がったワケだ。反省はしていないが、後悔はしている。言い訳をさせて貰えるなら、イリスとの約束を忘れていたワケじゃない。ただ、習慣というか何というか……しばらくカーマイン達に付き合って、ローランディアで活動していたからか……つい癖で。気付いた時には、先にローランディアに来ていたと言うか……。……そこで、『来てしまったからにはしょうがない……イリスなら分かってくれるだろう』と……自己完結させてしまったのが、そもそもの間違い。或いは、この(何人もの女性に慕われる)状況に慣れてしまった俺が1番有り得ないのかも知れないが……。ってか、有り得ない以前に最低です。正直、イリスに詰られても文句は言えん。「……すまない」だから、実際には言い訳はせず……ただ謝るしか無い。「………もう、良いです。こうして会いに来て戴けたのは……嬉しいですから」ふぅ……と、ため息を吐きながらイリスは言う。おもいっきり苦笑だ……。「悪かった……その代わりってワケじゃないが……今日はとことんまで付き合うからさ」「とことんまで……ですか。本気にしますよ?」「ああ、本気にしてくれ」流石に男に二言は無い!!とは言えないよな……正に二言目だし。「ふふ……では、早速」「おい、ちょっ……」イリスが俺に抱き着いてきますた……あぁ、良い匂いだなぁ……って、違うだろ!?「こういう時、相思相愛の者はこうしてイチャイチャするのが定番……と、資料にはありました」「そんな素晴らし……もとい、そんな定番なんか何処で学んで来たよ!?」「コレです」イリスが渡して来た本を受け取る……。その表紙には、男女がイチャイチャしているイラストと共に、本のタイトルが記載されていた。その本の名は……。「イチャ○チャパ○ダイス……」作者は、ラインハルト某……って、またコイツか!?イリスの参考にする書物の半分以上がコイツの著だ。……よりにもよって、ナル○のエロ仙人のパクリかよ。このラインハルトとか言う奴、絶対に転生者だよ……。「というか、こういうのから得た知識を鵜呑みに「それに……」……?」「……私がイチャイチャしたいのです。させて――下さい……」―――無理だ。自分でも、だらし無いと思うが……我慢出来ない。こんな目で見られたら、懇願されたら……叶えてやるのが男の甲斐性!!「……分かった。約束だからな……とことん迄イチャイチャしよう」「嬉しいです……シオン……♪」ギュッと抱き合う、俺とイリス。「しかし、なんだな――」「なんですか?」「いや、幸せ過ぎて怖いなぁ……ってな?」そう、幸せ過ぎる……何度も思ったことだ。ご都合主義、テンプレ……何だって良い。俺には愛する女性達が居て、彼女達からも愛されていると感じる。……それは、こんなにも幸せなことだから――。だから……ふと思う。俺は――この幸せを守り切れるのだろうか……と。「……私も同じです。私などが……私の様な咎人が、この様に幸せで良いのだろうかと……」「イリス……」「私は、マスター……学院長に造られ、彼の行いに加担してきた……そんな私が、ミーシャや貴方の様に大切な人が出来て……それは凄く幸せなことです。――けれど」イリスは俺に抱き着く力を強める……その身体が震えているのが分かった――。「こんな幸せ……許されることでしょうか……?私は怖い……妹が……貴方が、私のせいで罰せられたら……私のせいで居なくなったら……私は「イリス」シオ……んんっ!?」俺は震えるイリスの顔を俺に向けさせ、そのまま強引に唇を奪った。深く、深く――繋がる様に――!「んふぅ――!ん……ちゅ……ちゅぷ…………ふぁ……シ……オン……いきな、り……「大丈夫だ」……?」「他の誰が批難しようが、関係無い……俺は居なくならないし、ミーシャだってそうだろうさ」貪る様に口内を蹂躙した俺は、イリスから唇を離す。イリスは赤くなりながら、息が絶え絶えだ。「で、でも……」「俺は大丈夫。ずっと、側に居る……イリスを一人になんかしねぇよ」そうだ……守り切れるか……じゃない。守り切るんだ――!この幸せをくれる人達を――失わない様に!「シオン……」「それに……だ」「……?」「いざとなったら、罰せられる前に逃げ出せば良いんだしな?それこそ、地の果てまで!」俺がそう言うと、イリスは一瞬ポカーンとした表情を浮かべ――。「……ふふっ、全く……貴方という人は……」クスッと、小さく噴き出した様に微笑み出す。うむ、やはり笑顔が一番だよな。「――もう、大丈夫だな」「いえ、大丈夫じゃないです」なぬ?俺が疑問を口に出そうとした時、唇が再び塞がれた……イリスからの口付けによって……。「んふぅ……ちゅ、ちゅぷ……んちゅ、んんっ!?……はふぅ……ハァ……ハァ……」イリスは先程の仕返しのつもりなのか、俺の口内を蹂躙しようと、舌を口内に忍び込ませて来るが……この数日で、大幅に経験値を積んだ俺には通用せず。舌を絡めて返り討ちにしてやった。……まぁ、気持ち良かったケドな?「身体が……熱いのです。熱くて……疼いて……抑えられないのです……シオンがいけないのですよ?私を熱くさせたのは……シオンなのですから……」「……なら、責任を持って鎮めなきゃならないな?」はい、スイッチ入りました〜♪とか、爽やかに言いたくなるくらい、切り替え早いなぁ……俺。駄目人間指数が、ぐんぐん上昇してる証やね……まぁ、もう開き直ったケドな!それに……だ。イリスにとっての安らぎになれるのなら、なってやりたいじゃないか……。「……では、お願いします」「ああ―――引き受けた」俺は備え付けのベットにイリスを横たえる。「何だか……恥ずかしいですね……」「俺も少し、な?」「――とてもそうは見えないのですが?」「まぁ、恥ずかしさよりは、嬉しいとかって気持ちの方が強いからな……」後は少し状況に慣れて来たから……とは、幾ら俺でも言えん。そういうのは、デリカッセン……じゃなく……デリカシーが無いだろ?……うん、デリカシーとか語れる様な奴じゃないね……俺。ちなみに、嬉しいって気持ちも本当だけど。「シオン……」「なるべく、優しくするから……」「あっ……」***********その後、俺とイリスは一つになった。――まぁ、何だ……詳しくは言えんが……。毎度の如く……と、思って戴ければ……って、俺は誰に言ってるんだか。ただ、一つだけ違うのが――。「シオン……暖かいですね」「ああ……そうだな」イリスが気絶していないってことだ。いや、毎度の様に暴走しましたよ?ケドね?イリスは……俺をことごとく受け止めてくれたんだよ……。「にしても……腰が抜けるかと……思いましたよ……まだ、快感がピリピリ……残って、ますよ……本当に、凄いです……」「……俺としては、アレだけやって気絶しなかったイリスの方が凄いと思うが……」「だって……気を失ったら……勿体……ない……から………」そう言い残して、イリスはゆっくりと意識を手放した……。そして、穏やかな寝息をたて始める……。「……無理しやがってからに」イリスの髪を軽く撫でる……。そう、イリスは無理をして俺の劣情を受け止めてくれた。正直、イリスが限界を既に越えていたのを理解したので、最終的に俺から自重した。もっとあの恥態を見たかった………という気持ちもあるケド。「……相も変わらず、元気過ぎるな……我が息子は」未だに猛る愚息に、思わず苦笑い。それこそ、何百回とやらなければ満足しないんじゃなかろうか……?「……どんだけ〜……」自分自身の底無しの性欲に対して、苦笑を禁じえない俺だった……。その後、俺もイリスと一緒に睡眠を貪ることに。まぁ、時間が時間なんで……夕飯時には起きなきゃならないケドな。「まぁ、流石に夕飯前にエロゲ的な事態にはならないだろ……」そう零しながら、俺も眠りについたのだった。***********「ん……っ」私は意識を覚醒させる……どうやら、眠ってしまったらしい。「あ……」そうでしたね……私はシオンと……。横で睡眠しているシオンを見つめる。リラックスした寝顔ですね……。こんな無防備な寝顔を、私に曝してくれている……。「信頼してくれて……いるのですか……?」そうだとしたら………ええ、嬉しいことです。その寝顔を見ているだけで、胸が締め付けられる様な………擬音で言えば、『キュゥンッ♪』という感じでしょうか?言わずもがな、私とシオンは裸です。正確には、裸の上に薄布を掛けて横になっている状態です。そんな状態で肌を触れ合わせている。だから、というわけでは無いですが……先程迄の……交わりについて思い出してしまう。「凄……かった……」最初は痛みがあった……だが、それも直ぐに薄れ……後には気が狂いそうな快楽が残った。いや、実際に私は狂ったのだろう……。私は、そういう資料等からも知識を得ている……だから、その……そういう言葉を連呼していた気がする……。言葉の内容を詳しく覚えているわけじゃない……。けれど、確かに私は狂った様にシオンを求め続けたのだ。もっと快楽を、もっと温かさを感じさせて……もっと私を愛して……。そんな私を、シオンはこれでもかと愛してくれた……。求めて、受け止めて……気付いたら――シオンの存在だけが頭の中を占領していた……真っ白になって繋がり合った。とてつもない幸福感……ずっと、ずっと感じていたかった……。けれど、シオンは私の限界を見抜いて……。「――本当に、貴方は――」あの荒々しくも責め立てる姿が貴方なのか……優しく懐に留めてくれる姿が貴方なのか……。「愚問……でしたね」どちらもシオンの本質――形は違えど、それは愛情の形――。「……ふふっ、どうやら私は益々、貴方に惹かれていっているらしいです……シオン」どちらのシオンも、私には等しく愛おしいのですから……。「………こういう時、奉仕するのがお約束だと……資料には載っていましたね……」シオンは喜んでくれるだろうか……。「喜んで……くれますよね……」そのまま私はシオンの身体に触れ『ガチャッ!』……ガチャッ?「お姉さま〜♪夕ご飯一緒に食べ………………」「…………あ…………」「………………」時が止まり………そして……。……動き出す。「……え〜と、その……御呼びでない……御呼びでない……な〜んちゃって♪あはははは………アアアアタシ、やっぱり他の人と食べるから……ご、ごゆっくりぃ〜〜……♪」パタンッ♪と、静かに扉が閉められ……。「きゃああぁ♪大変大変♪皆に知らせなきゃ♪」「って、待ちなさいミーシャ!?」貴女は私をクビにするつもりですかっ!?***********「……良い?このことは口外しない様に……もし噂を広めたら、貴女のお下げを切り落とすからね……」「ひいぃぃ……それだけは、それだけは許してぇぇ……!」あの後、大急ぎで着替えてミーシャを追い掛け、捕まえた私は、ミーシャのお下げを人質に、このことは口外しないように確約させた。髪は女の命……と、ある書物に記されていましたが……どうやら本当の様だ。私も、丸坊主にするぞ……と言われたら戸惑うでしょうし……。「全く……もし噂になったら、私のクビは勿論……貴方だって気まずくなるのよ?」「ごめんなさい……お姉さま……お姉さまが幸せそうだったから、皆にも報告した方が良いかな――と、思って……」まぁ、そんなことだろうとは思った。ミーシャは、私に嫌がらせをしたいが為に話そうとしたのでは無く、私がシオンと……恋仲の者と結ばれたことが嬉しくて話そうとしたらしい――。ちなみに皆とは、ミーシャの友達のこと。一時期、私たちは学院長に造られた者として、学院に居る者から畏怖……いや、敵意すら向けられていた……。それは当然のこと……少なくとも、私はそれだけのことをしてきたのだから……。だが、ミーシャは違う……ミーシャは知らなかった。それなのに虐げられるミーシャが痛ましく、かと言って私が庇えば『化け物同士の庇い合い』と、罵られる……。それを改善していってくれたのが、二人の女子生徒。この二人はミーシャの友達になって、周囲の悪意を払拭していってくれた……。おかげで、悪意が全く無くなったわけでは無いけど、ミーシャの持ち前の明るさもあり、今では敵視する者がいなくなった。そして、その副次効果として、私も敵視されることは無くなった。私もミーシャも、未だに嫌悪されることはあるみたいだけれども……。話が逸れましたね。とにかく、ミーシャの言う友達とは彼女たちのことだろう。しかし、さっきも言った様に……噂を広められたら私はクビになるかも知れない。寮に男を連れ込んで、イチャイチャしていた……例えクビにはならなくとも、未だに悪意を持つ者たちが、更に私たちを責め立てることは容易に想像がつく。私だけなら良い……しかし、その悪意がミーシャにまで及ぶのは耐えられない……。しかも、下手をしたら私たちだけでなく、シオンにも迷惑が掛かる……そんなのは………嫌だ。「ありがとう、ミーシャ……その気持ちだけ受け取っておくわ」「う、うん………ところでお姉さま?」「?なに?」「アタシのせいだと思うケド……服が乱れてるよ?」「え……?」ミーシャに言われ、自分の服装を確認する。ミーシャを追い掛ける為、急いで着替えたからか……シャツのボタンを掛け間違えていたり、何故か胸の部分が少しはだけていたり……。「……ありがとう、ミーシャ……教えてくれて」このまま気付かなければ、だらし無い格好を学院中に知らしめていたことだろう……。そうなれば、噂が広まっていたかも知れない……。教員として、こんな噂は……ダメだと思う。幸い、此処は女子寮であり、誰かに見付かる前にミーシャを確保出来たので、その心配は無いと思うが……。「うん♪それじゃあ、アタシは先に食堂に行くから!」「ええ」私はミーシャを見送った後、自分の部屋に戻った。「よ、お帰り」「!?シオン……起きていたのですか……?」「アレだけ騒がしければ目も覚めるって」部屋に戻った私が見たのは、既に着替え終わったシオンの姿だった。確かに、アレだけ騒がしくすればやむ無しか……。「ついでに、周りの部屋にいた生徒も起きたぞ?」「え……」「気付かなかったのか?夕飯時だからか、寮に居た人数こそ少なかったけど、少なくともこの部屋の近く……2、3部屋には誰かしら居たみたいだな」「……それは、その、何時から……?」「……俺とイリスがイチャイチャしだした辺りから――かな?」ッ……!!私は顔が熱くなるのを感じた……つまり……私たちの……聞かれて……。「……ちなみに、事前にこの部屋に消音魔法を張っておいたから、外の誰かに聞かれた……とか言う心配は無いぞ?」「……消音魔法……ですか?」聞いたことの無い言葉に、首を傾げる私。シオンが説明してくれた内容を纏めると、魔法で作った空間……その中の音を外部に漏らさない様にする魔法――らしい。これは部屋に掛けることも可能だとか。相変わらず、準備が良いと言うか……いつの間に……という感じですが。おかげさまで助かったというか、残念だったというか……。――残念?……何を言っているのだろう私は……。それでは、噂されたがっているみたいでは無いか。「……さて、そろそろお暇させて貰おうかな?」「む……今日はとことん付き合ってくれるのでは……?」私は少し拗ねた風に言ってみるが、シオンの言い分も分かる。「そうしたいのは山々だが、まさか部外者の俺が夕食を頂いてそのまま泊まる……なんて、魔法学院の性質上有り得ないだろう?」そう、あくまでも魔法学院は学ぶ所であり、研究機関でもある――来客用の部屋なんて無い。寮こそあるが、女子寮と男子寮共に余分な空きは無い。「このままイリスの所に泊まる――という選択肢も無いワケじゃないが……誰かに見付かったら大変だしな」そうなのだ……私はこれでも教員なので、誰かが訪ねてくる可能性は0じゃない。つまり非常に少ない確率だが、誰かに見付かる可能性も0じゃないのだ。現に、ミーシャに目撃されたのだから……。……シオンなら、人が近付いて来たら気付きそうなものだが――本人いわく。「敵意なり害意なりのある奴が近付いてくれば、寝ていても気付くんだけどな」――らしい。だから、ミーシャに気付けなかったのか……納得です。「俺はともかく、イリスがヤバイだろ?色々さ」「――そうですね」私はシオンの言葉に頷いた。実際、私は言うほど拗ねていたワケでは無い。シオンの言っていることも理解しているし、今日一日と言うワケにはいかなかったが、たくさんシオンと触れ合うことも出来た。――満足はしていないが、十二分に満喫した。何より、彼の言葉は私を心配しての言葉だ……どうして我が儘を言えようか?―――それでも。「シオンの言い分は理解していますから、ご安心を……さっきのは、ちょっとした冗談なのですから――」愛しい人に甘えたい――そう思ってしまった私の――戯れ。これくらいは許されますよね……?――ポフッ――「あっ……」シオンの手が私の頭に乗せられ――優しく髪を梳く様に撫でられる――。「また、来るよ……」「……はい」シオンは狡い……そんな優しい顔で、温かくも大きな手で触れられたら……嬉しくなってしまうじゃないですか。甘えたくなってしまうじゃないですか――。「――約束、ですよ?」期待してしまうじゃ――ないですか――。「ああ……約束だ!」ニッ!と、力強い笑顔を見て、私は小さく頷いたのだった……。***********イリスとの再会を誓った……と言ったら大袈裟だが、また会いに来ると約束した俺は、学院を後にし――自宅に帰還した。バーンシュタイン郊外・ウォルフマイヤー邸「ただいまぁ!」「あ、旦那さまぁ♪お帰りなさいませぇ♪」実家に戻って来た俺を出迎えてくれたのは、ほわんっとした雰囲気を持った聖霊娘――シルクだった。「よぉ、シルク。元気そうだな?」「はい♪シルクは元気元気ですっ!」むんっ!と、ポーズを取って元気をアピールしているが、そんなんされても可愛いだけだぞ?なんつーか、小動物的意味で?あくまで雰囲気だがな?「シルクが来たってことは、父上達も帰って来たってことかな?」「はいです!大旦那様や皆さんも、みんな、み〜んな帰って来ましたですよ♪」「そうか……」シルクが言うには、帰って来たのは昨日らしい……。グローシアンの人達も、無事にそれぞれの家に帰り着いたという。「シルクは旦那様がお帰りになったのに気付きましたので、お出迎えなのです!他の皆さんもお待ちですよ」「ああ、分かった……行こうか?」俺はシルクを伴い屋敷へ――。シルクの言う様に、我が家に仕えてくれている執事やメイドが出迎えてくれた……。「「「お帰りなさいませ、シオン様」」」「あぁ……ただいま」ただ、些かやり過ぎ感は否めないんだが……。皆さん、気合いが入っているのは分かったから……もう少し普段通りで……。(普段は、使用人全員でお出迎えとか言う事態にはならない)多分、シルクが俺を感知したのを知らされて、慌てて出迎えの準備をしたのだろうなぁ……。シルビアとメイリー(121話参照)なんて、余程慌てていたのか……少し衣服が乱れているもんなぁ……。これは、執事長辺りにお小言を戴くことになるかな?ちなみに、シルビアは金髪ロングのポニーで少しツリ目な美少女。スラッとしたプロポーションながら、出てる所は出てるモデル体型。性格はハキハキしている、周りを引っ張るタイプ。メイリーはピンクのロング+ツインテで、少し垂れ目というか、優しい目付きをした美少女。小柄な体型だが、プロポーションは平均以上。性格はミーハーというか、いつも楽しそうというか……そんな明るい性格。二人は以前、俺が旅に出る前――自己鍛練をしていた森の近くで、野盗に襲われていた所を俺が助け出し、その恩返しをしたいと言って我が家のメイドに志願してきた経緯がある。二人とも、俺より年下だ。最初はガチガチだったが、今ではスッカリ慣れたのか、或いは母上菌に侵食されたのか―――母上の話友達みたいな感じである。「お帰りなさい、シオン!」「ただいま帰りました母上」母上も俺を出迎えてくれた。出迎えてくれるのはありがたいケドな……。「シオン!お母さんから大発表があるのよ?」「何です薮から棒に……」「なんと!シオンはこの度、お兄さんになることが決定しました〜♪」ザ・ワー○ド!!……………………。…………………。………………。……そして時は動き出すっ!!「…………………はっ?」母上いわく、近い将来に俺の弟か妹が出来るらしい……って、モチツケ……もとい落ち着け?つまり何か?―――コウノトリが赤ちゃんを……いや、現実的に考えて養子?………うん、ゴメン。分かっているんだ。母上のことだから、父上と頑張ってこさえたのだろうさ……。まさか、この歳になって兄貴になるとは思わなんだ……。だが、まぁ……。「良かったですね、母上」「うん♪レイと私の愛の結晶♪シオンも可愛がってあげてね♪」まだまだ先の話だというのに、キャイキャイとはしゃぐ母上。その姿に微笑ましさを感じると共に、若干の罪悪感も感じる。―――俺を身篭った時も、母上はこんな感じだったのだろうな……。授かった子に、惜しみない愛を注いで……。しかし、いかんせん俺は可愛いげの無い子供だった。以前の『凌治』の記憶を持って生まれたのだから、それも致し方なし。見た目や実情はともかく……精神年齢的には俺の方が年上……故に、甘えるということをしなかった。いや、出来なかったのだ――。某頭脳は大人な少年探偵みたいに、子供のフリをすることは出来たが……甘えることを良しとしなかった以上、俺は俺として――出来るだけ偽ることなく接したいと思ったのだ。無論、俺は『俺』の母上を大切に思っている。間違いなく、シオン・ウォルフマイヤーの母は彼女――リーセリア・ウォルフマイヤーだと。だが、俺は知っている――。母上は、もっと俺に甘えて欲しかったのだと―――。―――まだ見ぬ弟か妹よ、もし叶うならば……今度は母上にウンと甘えてやってくれ……。俺に出来なかった分も……な?あ、勿論……俺や父上にも甘えてくれたら嬉しいな……。って……存外俺も気が早いな。まだ先の話だってのに――。―――その日、俺は久々に父上と母上と一緒に夕食を食べながら、お互いに近況なんかを話したりした。……たまには家族団欒も悪くは無いよな?そして夜は更け……俺は自室で眠りに就く。明日はいよいよ三国同盟会談の日……。そして、彼らが正式に蒼天騎士団に配属されることになる……。明日は忙しくなるな……そう思いながら、俺は意識をまどろみの中に手放したのだった……。***********後書き的な落書き。え〜、おはこんばんちは!神仁でございます。m(__)m今回は【ラルフとお茶会】【漢の浪漫】【イリスと一緒】【シオン帰宅】――の、4本でお送りしました。――次回、ようやく会談です。P・S。×××板の方も更新しましたので、宜しければ、見てやって下され。それではm(__)m