今回、シオン君が大人の階段を上ります。それが堪えられない方は急いで引き返して下さい……という程の物ではありませんが、一応。***********バーンシュタインに帰還した俺は、陛下に事の顛末を報告し、とりあえずの任務を終了した。新たな任務を言い渡されたワケでは無いので、インペリアル・ナイトとしての仕事に戻ることになる。正確には始める……なのだが。さて、ここでインペリアル・ナイトの仕事について語りたいと思う。【インペリアル・ナイツ】とは、正式には【バーンシュタイン王国第一近衛騎士団】と言い、バーンシュタイン王国最強の騎士の称号であると同時に、大陸最強の騎士の称号でもある。その名の通り国の守護を担い、有事の際には前線に赴いて兵を率いて戦う将軍でもある。こと軍部にあっては、通常の将軍以上の発言力と責任がある立場なのがインペリアル・ナイトという立場だ。だが、当然それだけでは無い。国事に尽くし、時には王に進言するのもナイトの仕事である。とは言え、大まかな部分は王や大臣が指揮しているので、内政関係に関しては大臣の下で、一般の文官より少し偉く、責任がある立場という程度だが。この様に権限がある以上……将軍であると同時に、政治事にもある程度は顔を出さなければならない。無論、民の平穏を守る為に尽力もせねばならない……モンスター討伐、野盗退治………当たり前だが近衛である以上、王の身辺警護は絶対だ。更に、インペリアル・ナイトは貴族としても最上位にあたるので、自身の領地の管理運営もまた、重要な仕事だ。――カーマインの領地みたいに、優秀な管理人が居るなら話は違って来るが。まぁ、元より我が家は『領地を持たない』特殊な家系なので、その辺の心配は無いが――。余談だが、ジュリアはダグラス卿が健在なため、領地の管理などはしていない。今、ナイツで個人の領地を持っているのはライエル、リーヴス、ポールの三人だ。ポールについては、ナイツ就任と共に領地が与えられた。場所は、かつてボスヒゲの領地だった場所の一部。詳しく言うなら、クレイン村周辺。ボスヒゲの正体を知った以上、いつまでも後生大事に領地を守っておく必要もない……という結論に達したワケで。ポールは今頃、俺とは違った意味でてんてこ舞いだろう。まぁ……元が王で、しかも愚王ってワケでも無いから、内政力はかなりのモンがあるだろうし、心配は無いだろうけどな。他にも、ナイツにはそれぞれ直轄部隊というのが存在する。ナイツは直属の部隊をそれぞれに抱えている……その上で他の部隊を指揮したりするワケだ。つまり、俺も俺の直轄部隊を作らなきゃならない……何人かは決まっている。アイツらは確定だろ……これで安定した給料をやれるし……。問題は残りを一般兵から捜さなきゃなんだよな……もしくは一般応募。流石に5人6人じゃ、ナイツの直属としてどうよ?って、なっちまうしなぁ……。他にもetc、etc……。要するに、やることは山積みだってことだ。俺は城の中にある、俺に与えられた執務室(広さはそれほどでは無いが、我が家の書斎ほどの広さがあり、装飾が立派)の執務机に付属された椅子に座り、ため息を吐く。皆に暇を作るなんて言っちまったが、こりゃあ予想以上に大変だぞ……まぁ、ウジウジしていても問題は解決しない……か。「よっしゃあっ!!やったんぞぉっ!!」コンコン――。「……っと、はい、どうぞ。入ってくれ」「失礼します……着替えてきたケド……似合う、かな?」俺の執務室に入って来たのは、リビエラだった。その姿は、いつもの黒のインナーと白のプリーツスカート姿では無く、オズワルド達に渡した装備『蒼天の鎧』の女性バージョン。更にはその特注品。上は女性用シャドー・ナイト制服の色違いだが、それだけでは無く、肩当ても無くなり、インペリアル・ナイトの上着の様にロングコート風味になっている。余談だが、オズワルドもロングコート風味であり――マーク、ビリー、ニール、ザムは通常仕様である。下は本来ならOL風のタイトなスカートにスリットが入った様な仕様だが、リビエラ用にプリーツスカートにしてある。ちなみに私服とサイズは変わらないのでミニである。((グロラン通の方限定で言えば、Ⅳのロイヤルガード、シルヴァネールの来ている制服に近いデザインで、赤で無く青基調……と思って頂ければ間違いないかと……))なお、黒ニーソはそのまんまで、白ブーツを履いている。「おお、似合ってる似合ってる!流石リビエラ、何でも着こなすなぁ〜……」「あ、ありがとう……シオンにそう言ってもらえたら……嬉しいよ」………あ〜……まぁ、なんだ、本当に嬉しそうな顔するから……照れる。リビエラの頬がほんのり赤いが――多分、俺も似たようなモンだろう。もっと大胆なことをしてるくせに、こういうホンワカと温かい言葉には、中々馴れないな――俺は。俺は緩みかけた頬を引き締め、ポーカーフェイスを整えて軽く咳ばらい。そして、真剣な表情で宣言する。「リビエラ・マリウス――君は本日付けで私の直轄部隊『蒼天騎士団』所属となり、私の副官となって貰う。これからの働きに期待する」「拝命致しました、シオン将軍。これからより研鑽し、お役に立つことを誓います……国のためにも、それ以上に将軍のためにも……ね♪」俺の真剣さに、リビエラも真剣に返した――かに見えたが、結局茶化して来た。俺は苦笑いと共に言葉を口にする。「コラコラ、一応形式的な物とは言え、立派な辞令なんだから茶化すなよ」「あら、私は本気よ?祖国は勿論大切だけど、1番はシオンですもの。それに他に誰も居ないんだし、良いじゃない♪」リビエラは悪気はなさそうに言う――多分、本心なんだろうな。その気持ちは――嬉しいけどな。ちなみに、何故俺がリビエラを副官に任命したか……?それはリビエラの望みを叶えるためでもある。俺の元で働きたい――それがリビエラの望みだった。現在、バーンシュタイン王国はリシャール対エリオットによる内乱によって、決して軽くない傷を負って疲弊している。保有兵力の減少もその弊害の一つであり、今現在、兵の質という点においては未だに最高峰ではあるが、兵力という意味だけなら三国の中で1番少ないと言っても―――過言では無い。故に、上層部に居るであろう、エリオット陛下に良い感情を持たないと思われる臣下達も、表立って俺とポールのナイツ入りを反対しなかったのかも知れない。兵力で劣る以上、『インペリアル・ナイト』という分かりやすい『力』を誇示し、増やすことで、他国に対する牽制に使おうとしたのだろう。分かりやすく言うと、俺達はまだまだこんなに強いんだぞぅ!!舐めんなよっ!!って、言いたいんだろうさ。まぁ、エリオット陛下や陛下を支える臣下は、そういう意図は無かったと思うが。それだけ、ナイツの称号には力があるってこと。そんな状況だ……元シャドー・ナイツの連中を遊ばせておくワケには行かなくなった………正式に軍を退役したリビエラの姉……オリビアさんと、その婚約者などの例外はともかく、リビエラの様に軍に残ることを選んだ者はそうはいかない。陛下には予め、リビエラやオズワルド達のことは言ってあったが……仮にそれが無ければ、リビエラはシャドー・ナイト時代の経験を買われ、新たに設立された諜報部に出向させられていただろう……原作通りにな。これまた余談だが、リビエラはゲヴェルとの決戦後、姉夫婦の家に世話になっていたが、姉夫婦のあまりのストロベリーぶりに、羨ましいやら居心地悪いやらで、悶々としていたらしい……だからか、俺が今回のことを頼みに行ったら凄く喜ばれた。「気持ちは嬉しいけどな……誰かが居る時は自重してくれよ?」「任せてよ♪それで、私は何をすれば良いの?」「そうだな……主に俺のサポートだな。書類仕事、部隊の指揮や調練……」俺の頼みに、自身満々に答えたリビエラは、そのまま仕事内容について聞いて来たので、俺は色々説明する。「……と、まぁ……こんな所かな?」「うーん、シオンのサポートは勿論大歓迎なんだけど……私、書類整理や部隊の指揮とかならともかく、調練の仕方なんて分かんないんだけど……」「ああ、大丈夫。騎士団長はオズワルドに任せるつもりだし、有事以外では俺が鍛えるつもりだしな」「シオンが鍛えるって――あの魔導書を見せてってこと?」不安そうなリビエラに俺は詳しく説明する。リビエラが言う魔導書とは『今日から君も大魔導師』『今日から君も大英雄』のことだな。「まぁ、いずれはそういうことも考えては居るが、まずは団員を集めなきゃならんからな……」「なんだ、騎士団の名前まで決めてるから、てっきりもう集まってるかと思ったのに……」「流石に、二、三日ではな……他にやることもあったし」俺は肩を竦めて答える。ちなみに、蒼天騎士団はリビエラ達が着けている『蒼天の鎧』から取った名前だ……実に安直な名前だが……分かりやすくて良いだろう?「さて、とりあえず今日のお仕事を片付けちゃいましょうか!」「そうだな……よし、やるか!!」こうして、俺はリビエラと書類整理に勤しむ……勿論リビエラはリビエラの席に座って。ちなみに、俺の書類処理速度にリビエラは大層驚いていた。具体的に言うと↓の様な感じだ。カリカリカリ……バッ!カリカリカリ……バッ!カリカリカリ……バッ!「…………」←呆然「…………」←集中カリカリカリ……バッ!カリカリカリ……バッ!「リビエラ、此処の要項に記入漏れがあるから、後でこれを送って来た……軍統括部か。そこに送っておいて」「は、はい!……うわぁ、本当に記入漏れがある……」カリカリカリ……バッ!カリカリカリ……バッ!カリカリカリ……バッ!「これは俺にじゃなくライエル宛の書類だ。ライエルの執務室に届けておいてくれ」「わ、分かった!」カリカリカリ……バッ!カリカリカリ……バッ!カリカリカリ……バッ!………………。……………。…………。………。……。***********「ふぅ……これで終わりっと……」「お疲れ様、はいお茶」「おっ、サンキュー♪」俺はやっと書類――主に俺の赴任に関する物や、新兵に関する物――の整理が終わったので、思わずため息を吐いて首を軽く回す……。ゴキゴキッと音が鳴った。幾らチート野郎でも、数時間机で同じ姿勢じゃあ間接くらい鳴るわな。父上に聞いた話だが、ウォルフマイヤー家のナイトは、領地の管理運営をしなくても良い代わりにこういう仕事が他のナイトよりも多いらしい。上手くバランスが取れている……のか?そんなことを考えていると、リビエラが紅茶を持ってきてくれたので、ありがたく戴くことにする。俺はそれを一口含み、ゆっくり香りや風味を味わってから、喉の中に流し込む。「どうかな……?」「うん、美味いよ。リビエラも随分上達したよな」「そっか……よかった」俺は素直な感想を口にする……実際、以前のリビエラは紅茶の入れ方も知らなかったからな……。一緒に勉強したりしたから、感慨も一塩ってやつだ。「リビエラのおかげで、日が沈む前に今日のノルマを終えることが出来たよ……ありがとな」「そんな……私はただ慌ててただけで……シオンに比べたら全然だったし……」「いや、リビエラが居なかったら夜まで掛かっただろうし、各部署に書類を届けるにも時間を喰っただろう……それに、こうして紅茶を飲む暇も無かっただろうしな?」俺はニッ!と、笑ってやる。下手っくそなウィンク付きで……まぁ、某人生薔薇色騎乗団団長よりは下手じゃなry……。それを見てか、リビエラはカーーッと真っ赤になった……うん、アレだ……俺にニコポのスキルは無い((と、シオンは思っている))し、下手っくそなウィンク((と、シオンは思ってry))だし、リビエラの乙女フィルターが稼動しているのは理解しているんだが……可愛いなぁチクショウ!!「うん……よかった……私、シオンの役に立てたんだ……」「阿呆……今日だけじゃなくて、今までだって数え切れないくらい助けられたっての……」「………シオン………」……やばい、空気がピンクだ。モチツケ……もとい、落ち着け俺!!此処は神聖な執務室……流石にそれは……。大佐……性欲を持て余す。!?い、いかん……なんかもうワケの分からん思考になってきた……。気付けば、直ぐ横に居たリビエラが俺に顔を近付け………俺もそれを受け入れ、互いの銀の前髪が触れ合い……そして。コンコン!……またかよチクショウ。まぁ、今回は助かったけど。慌てて定位置(俺の横、秘書的立ち位置)にまで戻るリビエラ。それを確認した俺は、ノックの主を促した。「――どうぞ」「失礼致します!」許可を得て入って来たのは一人の兵士……確か、門番の一人だったな。「どうしたんだ?」「はっ、実はシオン将軍に面会したいという男が――」「私に面会?」「エリックと言えば分かる――と」エリック――!?あれ以来何の連絡も無かったから、気にはなっていたが――。「分かった――通してくれ」「はっ!!」門番は戻って行った――。エリックに通行の許可を与えに行ったのだろう。「ねぇ、エリックって確か……」「以前、色々とあったモンスター使いだよ。覚えてるだろう?」「ええ、グローシアンの人たちの手紙を届けに行ってたのよね?」リビエラの言う様に、紆余曲折あって………最終的には互いにぶつかり合って和解し、保護していたグローシアンの皆が書いた手紙を届ける依頼をしたのだ。「でもすっかり音沙汰無かったし――って、もしかしたら連絡を取る方法を知らなかった………なんて?」「……まぁ、その辺は本人が教えてくれるさ」「え?」リビエラがもしかしたら……と、可能性の話をするが――覚えのある気配が扉の近くまで来たので、俺はそう返答する。クエスチョンマークを浮かべるリビエラを余所に、扉はノックされる。コンコン。「どうぞ」「失礼する」入って来たのは予想通り、エリックその人であった。「よう、エリック。あれから何の連絡も無かったから心配したぞ」「よく言う……連絡手段も無かったのだから、連絡のしようが無かっただろうが」うっ……そんなジト目で見なくても……いや、今回のは完璧に俺のミスだが。「済まなかったな……。色々バタバタしていて、連絡を取ることが出来なくてな……」「まぁ……良い」俺の謝罪に、エリックはため息を吐きながら、許してくれた。「ところで、貴方は今まで何をしていたの?」「ふむ……それはな……」リビエラの質問に、答えたエリック……。エリックの話を纏めるとこうだ。手紙の依頼を完遂したエリックは、依頼の終了を知らせにアジトへ向かったらしい。で、アジトに着いたのは良いが、既に俺達は去った後だった。アジトに居たシルクにどうにか俺と連絡を取れないか……と、尋ねると連絡を取れる……と言われ、(恐らく念話だろう)その方法をシルクが実行しようとした時……。「お前のアジトの入口……街道に繋がる道に居たレブナントが盗賊の様な奴らに襲われている、数人の集団を発見してな……直ぐさま助けに向かった」――話を聞いて驚いたが、その襲われていた集団とはグローシアンらしく、話を聞いたエリックによると、その集団は魔法学院から逃げて来たらしい。――恐らく、イリスがクソヒゲから逃がしたグローシアンだろう。生きていたのか……。余程必死に逃げたんだろう……まさか、オリビエ湖近くの街道まで来るなんてな……。盗賊――グレンガルの手下を蹴散らしたエリックとレブナント……そしてシルクは、そのグローシアン達を保護。何日もまともな物を食べていなかったらしく、彼らの為にシルクや我が家のメイド、執事がてんやわんやとなり、俺へ連絡を取る件がうやむやになってしまったそうな。エリックは仕方無しに、アジトで鍛練を続けながら待つことにしたらしい。………で、時間が過ぎていく内にそれが当たり前の様になっていたとか。エリックとしても、助けたグローシアン達を見捨てられなかったのだろう。用心棒みたいなことをしていたらしい。……本来の目的に気付いたのが、父上達がグローシアンの人々を迎えに来た時……だそうな。「――って、よくよく聞いたら今回の件、俺は勿論だが――お前やシルクにも責任が無いか?」「―――否定はしない」プイッと視線を逸らすエリック……結局、ゴタゴタしていたのは俺らだけじゃなかったってことか。で、本来の目的を思い出したエリックは、父上に俺の所在を聞いたらしい。で、現在に至ると。「正確にはランザック方面に住むグローシアンを送り届けてから……だがな」「成程な……で、わざわざ依頼の完遂を報告に来てくれた……って、だけじゃなさそうだな」もしそうなら、人伝に……それこそ父上達に頼んだ方が楽だし、エリックが義理堅い人間で、直接伝えたかったとしても――こんな面会可能時間ギリギリに訪れるワケが無い。何か急用でも無ければ――。「なに、インペリアル・ナイトになったと聞いたのでな――丁度良いと思って、急いで来たというワケだ」「丁度良い?」エリックの言葉に疑問を重ねる……すると不敵な笑みを浮かべて言った。「俺達を雇わないか?――損はさせないぞ?」――と。***********「……ふぅ」俺はため息を吐いた……。ため息を吐く度に幸せが逃げていくと言うが、今日だけで幸せがどれだけ逃げたのだろうか……。それはともかく……エリックは今、リビエラに案内されて軍統括部に向かっている。……俺の書いた書状を持って。これで、余程のことが無い限りエリック……それにレブナントはバーンシュタイン軍所属となり、更に俺の直轄部隊『蒼天騎士団』所属となれるだろう。これからエリックは専用の兵舎(レブナントは獣舎)に住むことになる。リビエラ、オズワルドなども同様だ。にしても……。「随分気に入られたモンだな……」俺は思わず苦笑が零れる。エリックに、何故雇ってくれと聞いて来たのか……尋ねてみたら。『お前が気に入ったんだ。だから力を貸す……それだけさ』という、答えが帰って来た……が。「気に入られる様なことをしたか……俺?」俺がエリックにしたことと言えば………アイツの邪魔をしていたことを除くと………アレか?あのアジトでの【喧嘩】……アレくらいしか思い付かない。「まぁ、良いけどな」エリックとレブナントは、戦力的にも貴重だし、何より悪い奴らじゃないしな。なお、騒ぎを起こさないために、レブナントは近くの森で待機させていたらしい。「さて、そろそろ良い時間だし……帰るか」俺の場合、屋敷が近いので徒歩で帰ることが出来る。とりあえず書類整理はノルマ分(実際のノルマより三日分ほど量が多く、誇張では無く、山の様にあった)を終わらせたし、今から帰れば夕食には間に合うだろう。俺は椅子から立ち上がり、カーテンを閉め、明かりを消す。そして俺は執務室を出た……。で、執務室前で俺はリビエラを待つ。流石に報告を待たずに帰れないからな……。帰り支度をしたのは、直ぐに戻ってくるだろうと考えてのことだ。「シオン将軍、彼を送って来ました!……って、何故外に出ていらっしゃるのですか?」案の定、数分もしない内にリビエラは報告に戻って来た。ちゃんと敬語も使っている。「ありがとう。何、差し当たってする仕事も無いんでね……今日は帰ろうと思ってな」本来、軍属の者は城にある兵舎で寝泊まりをする。ナイツの場合も例外では無く、ナイツには専用の個室が宛がわれている。勿論、俺にもそれは存在し、帰る暇も無い時はそこで寝泊まりすることになる。だが、幸いと言うのか――我が家は城から目と鼻の先……とまでは言わないが、徒歩で行き来できる距離だ。そういう者は、自宅通勤も許されている。特にするべき事が無い場合は……だが。陛下の護りを疎かにして良いのか……という疑問があるかも知れないが。幾ら何でもナイツだからって、四六時中気を張ってるなんて不可能だしな。極端な話、陛下の寝所にまでは入れないだろう?「そうですか……では」「そうだ、良ければ一緒に来るか?」「え……(それって、アレ……?『今日は誰も居ないんだ……意味、分かるよな?』とか、そういうこと〜〜!?そんな、心の準備が……でも……♪)」「丁度、夕食時だしな。母上達も客が来たら喜ぶだろうし……って、何でガッカリしてる?」俺が理由を説明すると、リビエラはorzしそうな勢いでガッカリしている。―――何で?俺なりに、今日頑張ってくれたリビエラへの礼をしようと思ってのことだったんだが――。「――何でもない――何でもないから……ハハハ……」リ、リビエラ……背中が煤けているぞ?本当に大丈夫か……?――結局、リビエラは俺の誘いに乗ってくれた……が、我が家に着くまで沈んでいたのを明記しておく。***********で、我が家まで帰って来たワケだが。当然の如くリビエラは歓迎された………特に母上の喜びようったらなかった。「シオンが女の子を家に連れ込むなんて、初めてなんですもの♪お赤飯炊かなくちゃ♪」「連れ込むとか、人聞きの悪いことを言わないで下さい。後、赤飯を炊くようなことはしていませんから。っていうか、なんでその風習を知っているんですか母上」なお、我が家を尋ねた女性はジュリアが初だが、俺が連れて来た女性という意味で、リビエラが初めてという意味だ。夕食の料理は気合いが入った物で、リビエラが緊張していたことを明記しておく。料理に――というより、マナーを守れているか……に関して緊張していたんだろうが……。「仕方ないじゃない……こんな経験……無いわけじゃないけど……少ないんだから……」「俺と母上が、『マナーなんて気にしなくて良い』って言った時のリビエラのポカーンとした表情は……つい笑っちまったが」今、俺達は食事を終えて、俺の自室で話している。リビエラと俺……二人で俺のベットに腰掛けている。せっかくだから泊まっていって……とは母上の談。俺もそう言うつもりだったが。客間は一杯あるしな?……当たり前だが、少し話をしているだけで、同室とかじゃないからな?「し、しょうがないじゃない!普通、貴族のお屋敷にお呼ばれして、そんなことを言われるなんて思わなかったんだし……」「そうだよな……普通は言わないよなぁ……普通より砕けた感覚だからなぁ……ウチの皆、特に母上は」正確には母上の気さくさが伝染したのだが……。昔は生真面目な父上ですら、最近は毒されてきてしまったからなぁ……。母上の才能だな……周りの空気を変えるってのは……アレだけは、俺にもラーニング出来んなぁ。「そうよねぇ……お母様って気さくで、なんか貴族っぽくないのよね」「そりゃあそうさ……元々母上は平民出身の魔導師で、父上に見初められて嫁に来たらしいから」「へぇ、そうなんだぁ……」リビエラの疑問に俺が答える。実際、父上方の祖父は、父上と母上との交際に大反対だったらしいが、二人はそれを押し切って交際を始めたとか。大恋愛をしている……とは、母上の談だ。……現在進行系らしい。「まぁ、母上は魔導師としてかなり優秀で、次期宮廷魔術師とも呼ばれたりしていたらしいから」「はあ〜……凄い人なのね……」リビエラは感心した様に頷いていた。まぁ、父上と結婚し、俺を身篭ったからって育児退職しちゃうような母上なワケだが。ハチャメチャだよなぁ……せめて育児休暇で良いんじゃね?とか、思うわけだが……宮廷魔術師への道と子育て、天秤に掛けたら子育てに傾いたらしい『子供は愛情たっぷりで育てたいんだもの♪』とは母上の言葉だが……まぁ、母上らしいっちゃらしいわな……。しかし、将来を棒に振ってまで生まれて来たのが、俺の様な可愛いげの無い子供だったと……。なんか……色々スマン。「なんか、羨ましいな……家族の仲が良くて」「そうだな……少し仲が良すぎる気がしないでも無いがな?」リビエラの言葉に、肩を竦めながら答える。実際、旅に出てたりでお目に掛かることは無かったが、再び万年新婚夫婦のストロベリーぶりを見せ付けられるかと思うと、若干気が滅入る。とは言え、以前までは日常風景だったし……これからは仕事で中々帰宅出来なくなるだろうしな。「私ね……両親が早い内に死んじゃって……姉さんと二人で生きて来たの。だから、幸せな家族ってものに憧れがあるんだと思う……」「リビエラ……」「――わ、私、何言ってるんだろう……ゴメンね、シオン」リビエラは取り繕った様な笑みと共に謝罪してきたが……。「別に謝ること無いだろう」「え……」「俺には、リビエラの気持ちが分かる……なんて、軽々しいことは言えないけど、話を聞くくらいなら出来る……それくらいしか、出来ないけどな」リビエラの気持ちは何となく理解出来る、だがシオンとしても、凌治としても……本当の意味で理解しているとは言えない。以前の世界にしろ、この世界にしろ、両親が健在である俺には。だから、気安い慰めの言葉なんて掛けられない……せいぜい話を聞くくらいだ。気休めにしかならないだろうが、気休めに『なる』ことは出来る。「……そんなこと無いよ。シオンが居てくれたら、私はそれで幸せだもの……」「リビエラ……」リビエラは俺に身体を預けてくる。「話を聞いてくれる……側に居てくれる……こうして支えてくれて、温もりをくれるもの……寂しいことなんて、無いよ?」「…………」俺は、リビエラを抱き寄せる……手の中の温かみ、それが物凄く愛おしくて――。「――大好きだよ、シオン――ずっと、側に居てね……」「……それは俺の台詞だって……リビエラ、大好きだ。ずっと離さない……」もう、取りこぼしたりしない……大切な者は、絶対に離さない。……俺の場合、それが一人だけじゃないとか言う非常識な状況だが……俺自身がチート野郎という非常識な存在なんだ。……守り通してみせる。この力は、そのためにあるんだから――。「……シオン」リビエラがそっと、瞳を閉じる……そして……その意図を察し、俺はゆっくり顔を近付け……唇を重ねる。「ん……ふっ……んんっ!」俺は更に、リビエラの柔らかい唇の間に舌を滑り込ませ、歯茎と口腔をねちゃりとなぞる。瞬間、リビエラがビクリッ!と、震え……若干肩の力が緩んだのを確認した……。ぴちゃぴちゃと、口腔内を蹂躙してやると、ぶるりと恍惚に震えながら、固く閉ざされていた門を開け、自身の舌を差し出してくるリビエラ。そして、俺の舌と触れ合った瞬間――まるでそれを求めていたかの様に舌を絡ませて来た――。「ふぁ……んちゅ……ぴちゅ……んふぅ……」熱にうなされた様に熱くて苦しい……だが同時にどうしようも無く甘美で、むず痒い快楽が脳天を突き抜ける……。俺もリビエラも、互いに溺れ掛けている様だった……。「はぁ……はぁ……」ゆっくりと唇を離す……互いの口の間に、キラキラと光る唾液の橋が出来あがる。リビエラは、このキスだけで、既に力が入らない様だった。虚ろな瞳で、身体をほてらせながら……完全に俺へ身体を預けていた。「……お、お願いシオン……私、もう我慢出来ないよぉ……キスだけじゃいや……貴方と、一つになりたい……なりたいの……これ以上は……気が狂っちゃうよぉ……」熱にうなされた様に、涙を流して懇願するリビエラ……。俺はそんなリビエラを見て、彼女をゆっくりとベットに横たえる。「……心配しなくてもそのつもりだよ。これ以上の我慢なんて、俺だって出来るか――!」――正確には、俺の精神の中で抗い続ける鋼の砦をゴルディオンハンマーで粉砕し続け、声高々と反論を口にするキ○ヤシを拉致って監禁してようやく――という感じだが。だから、肉体的には我慢出来るが、精神的には限界が近かったワケで……。「ほんと……?ほんとに……?」「ああ……リビエラの全部は俺が貰う……後戻りは出来ないぜ?」「うん……!私を貴方の物にして……身も心も……」リビエラは嬉しそうに、待ち焦がれたように、その想いを口にする。――なら、俺がするべきことは一つだ。「リビエラ……」「シオン……」俺はリビエラにもう一度口付けを………。……………って、この気配は。「……?シ、シオン……?」突如止まった俺を見て、リビエラは不安そうな光を、その紅い瞳に宿して俺を見上げるが――。「少し待っててくれ――」「え――シオ……」俺はリビエラの声をそのままに、部屋を飛び出した――。***********リビエラちゃん……ご両親が……。もう、シオンってば――もっと気の利いたことを言えば良いのに!!………リビエラちゃんってば、そんなにシオンのことを……まぁ、そうよね……それくらい好きじゃなければ、ハーレムなんて許容出来ないモンね?仮に、レイが私の気持ちに気付いてくれなくて、他にもレイを好きな人が居たら……協力してでも振り向かせよう!って、思ったかも知れないもの。幸い、レイも私も直ぐに相思相愛になったから……そんな心配はなかったんだけど。―――あ、二人の声がくぐもった。しちゃったか?ぶちゅーってしちゃったかぁっ!?「……ちょっと、リーセリア様……もう少し詰めて下さいよぉ……」「そうですよ……私たちにも聞かせて下さいよ」私の横には、二人の若いメイドがいる。私の話友達でもある。――ちなみに、シオンのファンクラブの会員でもあるらしい。「ちょっと待って……今良いところだから……あっ、あっ、今リビエラちゃんの色っぽい声が――」私たちは今、シオンの部屋の隣――廊下の壁に張り付いている。ついでにコップを壁と耳の間に設置するのも忘れない。以前、偶然知ったんだけど……シオンの部屋の壁には一部だけ薄い部分があって、そこからなら中の声が聞こえちゃったりするワケ!やはりお母さんとしては、息子の初体験はデバガ……もとい、拝聴してあげたいじゃない!「それにしても、シオン様……好きな人居たんですね……なんかショック〜」「でも、確かシオン様って複数の女性とお付き合いしているって……なら、アタシにもチャンスがあるかも?」「ないない……夢は夢だから美しいのよ?アンタにチャンスがあるなら、私にだってチャンスがあることになるわよ――」この二人は、シオンのファンの中では、シオンの内面を好いてる珍しいタイプで、昔シオンに危ないところを助けられたりしたらしい。その時の恩を返したくて、メイドになったって聞いた。で、シオンと再会したらちゃんと覚えててくれたりしたから、さあ大変。恩返しのつもりがファンになっちゃったらしい。って、そんなことより……。「全部俺が貰う……だって!いよいよみたいよ、二人とも♪」「キャー♪キャー♪アタシも言われた〜い♪」「あぁ……シオン様の初めてが……名残惜しいような、羨ましいような……ああ!聞きたくないと思うのに、耳を離せない〜!」私たちは、ぐびびっと生唾を飲む……そして…………アレ?突然止まっ「……何をしているんですか母上?」た………?私は一気に青ざめる……二人も同じ様に真っ青だ……振り向かなくても分かる。―――怒ってる。気配を読むなんて出来ない私だけど、そんな私でも感じるくらいの怒りの気配――。私の中の何かが警鐘を鳴らす。逃げろ……逃げろ……にげろ……にげろ…ニゲロ…ニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロッ!!!……と。けれど、足が震えて動けない。それに直感で分かる……今逃げたら『終わる』……と。「良い女が三人揃って、こんなところで何をしていたんですか?」「こ、これはね?ちょっと「こっちを見て言い訳してくださいよ……」っ!!?」振り向いちゃダメだ、振り向いちゃダメだ、振り向いちゃ「こっちを向け」「「「は、はい……」」」有無を言わさぬその言葉に、ガタブルしながら……ギギギギ……という音が鳴りそうな――ゆっくりした速さで後ろを向く私たち……そこには、微笑を浮かべ……でも、決して眼は笑っていないシオンが腕を組んでこちらを見下ろしていた……仁王立ちというやつだ。「さて、母上……それにメイリー、シルビア……説明して貰いましょうか?」「ああああの、ただリーセリア様とお話を「正直に言えよ?無事に戻りたかったらな……?」ヒッ!?リ、リーセリア様に言われてシオン様の部屋の様子を伺おうって!!」「ちょっ、メイリー!?」裏切られた!?いや、確かに私が誘ったんだけど!!「本当か、シルビア……?」「(コクコクコクッ!!)」首がもげるんじゃないか……と言うくらいに肯定を示すシルビア……って、また裏切られた!?「よし……二人は初見だからな……特別に見逃してやろう」シオンはニコッと微笑んでそう言う……二人はその言葉を聞いてホッとしている。真っ赤になりながら。――ああいう自覚の無い行為が、人を引き付けるのを理解してるのかしら……してないんでしょうね〜……。まぁ、あの二人は最初から好意を持ってるからだろうけど――。うん、分かってる。現実逃避してるね私。だって、シオン『二人は見逃す』って言ったもの。お母さんはダメってことね……?でも、一応言っておこう……。「あの、反省するから、お母さんも見逃してくれると嬉し「寝言は寝て言って下さい」……だよね〜〜……?」ル〜〜〜〜……と、目の幅涙を流しながら、我が身の不幸を呪う私……。あぁ……、レイ……先立つ私を許して……。シオンの手が私の頭を掴み――。「次にこんなことをしたら――くすぐり地獄の刑ですからね?」「ななな、何それ……?」「それはその時に……では――――果てろ」ゴリィッ!!「みぎゃっ!?」そして私の意識は落ちたのだった……。***********俺は、手の中でアイアンクローを喰らって、ぷらんぷらんしている母上を二人に差し出し……爽やかな笑みで言う。「次にこんなことをしたら―――二人もこうなるからね?」「「(コクコクコクコクコクコクッ!!!!)」」二人はガタブル震えながら、抱きしめ合い、物凄い勢いで頷いている……うん、素直な子は好きだよ♪「………ふぅ。それじゃ、二人とも母上を頼む」「ハ、ハイ!」「ワカリマシタ!!」ズダダダダダダダダーーーッ!!俺がドSモードを解除して、二人に母上を託す。二人は母上を神輿の様に掲げ、脱兎の如く走り去って行った……。「やれやれ、仲が良いのは構わないんだが……すっかり母上に毒されているなぁ……あの二人。他の家でアレをやったら、処断されても文句は言えないぞ?」昔は初々しいと言うか、純だったと言うか……あんなことをしたりする娘達じゃなかったのになぁ……。母上も懲りてくれたら良いんだが……流石に母上にくすぐり地獄の刑は洒落にならん……色んな意味で。「にしても、コップで盗み聞きとか……何処の漫画だよ?」赤飯の件と言い、このコップの件と言い……よもや母上も転生者じゃあるまいな……?……まさか、な。「さて―――戻るか」俺は気持ちを切り替え、部屋に戻って行った。そこでは、リビエラがポツン――と、ベットに腰を降ろしていた。「あ……シオン……」リビエラは俺を見付けた時、ホッとした顔を見せた……。「ちょっとデバガメ退治をな……」「……デバガメ?」俺は母上達が聞き耳を立てていたことと、それを粛正したことを説明する。それを聞いたリビエラは顔中真っ赤になりながらも、ホッと息を吐いて一言。「よかった……私、何かヘマをしちゃったのかって……」「ヘマってなんだよ?ヘマなんか何もしちゃいないだろう……リビエラは」大体、ヘマするようなこと自体、まだしていないだろうに……。「だってキスだけで、その……気持ちよかったから―――私だけ気持ちよくて……だから」――何コレマジ可愛いんですけど?オッサン色々漲ってくるんですけど?「――そんな心配するなよ。……俺も気持ち良かったから」「嘘……」俺が照れ臭いやら、漲ってくるやらで悶々とした物を抑えながら、先のキスの感想を言うが……リビエラは半信半疑といった答えを返す……って、なんでやねん。「本当だって……こんなことで嘘を言ってもしょうがないだろ?」「だって……」……普段はハキハキしてるのに、何でこんな時はこうも弱々しいというか、自信が無いんだろうか?初めてだから――というのもあるのだろうが、半分は散々引っ張ってきた俺のせいなんだろうなぁ……と、考えるのは自意識過剰だろうか?俺はリビエラの横に腰を降ろし、リビエラを抱き寄せ、リビエラの耳を俺の胸元――心臓の上辺りに導く。「あ……」「……聞こえるだろ?こうしてリビエラを抱いてるだけで、心臓がバクバクいってるんだ……さっきキスしていた時なんか、こんなモンじゃなかった……」精神年齢40ちょいのオッサンが、こんな独白するなんて……恥ずいやらキショいやら……。「途中、邪魔が入ってケチがついちまって、ムードもへったくれも無くなっちまったけど―――俺は続きをしたい」「あ、あうぅ……」だけど、俺は引くつもりは無い―――こんな俺を想い続けてくれるリビエラのためにも。――引けるかよ。「まぁ、リビエラが嫌なら無理強いはしないけど」「そんなことない!けど、また誰かに聞かれ「サイレント」……っ!?」俺はリビエラの言葉を遮り、部屋に消音魔法を掛ける。「……これで、誰かに聞かれることは無い。まぁ、仮に聞かれても構わない……って、今は思うけどな」「え……?」「そんなに聞きたいなら……見たいなら、見せ付けてやるってな」「そ、そんなの恥ずかし過ぎるわよ!?(けど、そういうのも……♪)」「そういう覚悟を決めたってことさ」真っ赤になって、俺の言葉を否定する………嫌がってない風に見えたのは気のせいか?……それはともかく、俺だっていきなりそんなプレイをするつもりはない。――将来的には分からないけどな。「さっき言ったよな?後戻りは出来ないって……」「――うん」リビエラは俺に抱き着く力を強めた。俺はそれをしっかり受け止める。「……これが最後のチャンスだぜ?止めるなら……んむ……」俺の言葉を封じる様に、リビエラから唇を重ねてくる……そして、先程以上に情熱的に求めてくる……俺は、快感の波に流されそうになるのを必死に堪える。「ふあぁ……や…だ……止めない…から……絶対……止めないんだからぁ……。おねがい、私をシオンで満たして……」「分かった……全力を尽くす」涙を溜めながら懇願するリビエラに、俺はただ一言、了承の言葉を口にする。俺はリビエラをベットに横たえ――。「ひぁっ!?そ、そこ……」「ここ、弱いの……?」俺が舐めたのは首筋……まぁ、弱いというよりは、くすぐったかっただけだろうが……。「し、知らない……!」プイッと顔を背けるリビエラ………え、ここがマジで弱かったのか?いや……。俺はリビエラの胸を服の上から揉む……乱暴にはせず、リンパの流れを意識する様に……ゆっくりと。「んはぁ……それ、気持ちい……いひぃ!?」既に固くなりかけていたその頂点を軽く摘んでやる……すると、嬌声と共にビクンッ!!と、リビエラの身体が電気が走った様に震えた。やっぱりか……リビエラは首筋が弱い……というより、全体的に感度が強いのか……。比較対象がジュリアしか居ないし、ジュリアにしても最後までイッたことが無いからなんとも言えないんだけどな……。「大丈夫か……?軽く触っただけなんだが……」「う、うん……なんか、電気が走ったみたいになって……自分で触った時はこんな感じはしなかったのに……」ぬな?自分でとな?「……自分で触ったりしていたのか?」「!?ああああの、違うの!それは……その……!」「どう違うのか……詳しく教えてくれよ」ヤバイ……変なスイッチ入った。赤くなりながら慌てるリビエラ……ゾクゾクするな……。何分、初めてだし、自重しなきゃなぁ……とは思うが―――それ以上に。「もっと――もっとリビエラの色んな顔を見せてくれ……」「シオ……んっ!?ふああぁっ!?そこ!やぁ……!?あぁ……っ」―――この日、俺はリビエラと一つになった。ストレートな物言いで、他に気の利いた言い回しが思い付かんけど、某釣りバカの『合体』よりはマシだと思う。まぁ、その……無茶苦茶気持ち良かった……当初恐れていた通り、これは溺れてしまうかも知れん。それと、元からそうなのか、シオンになってからそうなったのかは定かじゃないが……やはりコッチの方もチートでした。リビエラ初めてなのに、俺の抑えが効かなくて、5回もした上、リビエラを失神させてしまった……何を5回したとか聞かないでくれ……激しく自己嫌悪しているんだから……。まぁ、リビエラの反応を見た感じだと、最初はともかく、色々したおかげか、最後には苦痛は無かったみたいだが……むしろ……。って、想像すんな!!煩悩退散!煩悩退散!!喝、喝っ!!しかし、前世での生半可なハウトゥー本や、エッチィ本の知識が役に立つ時が来るとはな……人生ってのは分からんぜ。俺は汗とかで汚れてしまったリビエラを綺麗にして、そのままベットに入ってリビエラの寝顔を見ている。心無しか、幸せそうに寝ている気がする――。むしろ、幸せを貰ってるのは、俺の方って気がするが……。「明日もあるし、俺も寝るか………おやすみ、リビエラ」俺はリビエラの寝顔を見ながら、自身もまた……眠りに着いたのだった……何となく、良い夢が見れそうだな……とか思いながら。***********チチチ……。「ん……朝……?」小鳥の囀りと、カーテンの隙間から溢れる木漏れ日によって、私は目を醒ました……。何だか、凄く身体が怠い……けどそれ以上に心も身体も何かに満たされた様な……。「私……昨日………っ!!」私は寝ぼけた思考で、昨日の出来事を思い返して行く……そして、思い出した………私、昨日シオンと……その……しちゃったんだ……。うう……一気に目が醒めたわよ……。昨日のシオン……凄かったなぁ……って、考えちゃ駄目!……朝から変な気分になっちゃう……深呼吸、深呼吸……。「すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……。よし、落ち着い………?」アレ、私……今……裸……?「〜〜〜〜〜〜!!?」私は慌てて布団を被り直す……当たり前だけど、当たり前だけど――恥ずかしいっ!!「すぅ……すぅ……」「あ……」そして、当然だけどシオンが横で寝てた……勿論、裸で。うわぁ……改めて見ると、凄い身体……。無駄な脂肪が無いって言うのか、細いのに引き締まってるって言うのか……。この身体に……抱かれたのよね……。私は頬が……ううん、身体が熱くなるのを感じながらも、シオンから視線を逸らさない。……幸せそうな寝顔。シオンも昨日のことに、幸せみたいなものを感じてくれたのかな……?案外、昨日の夢でも見てたりして……アハハ、そうなら女冥利に尽きるってモノだけど……。「もしかして、みんなの中じゃあ私が初めて――だったのかな?」みんなってカレンたちのことだけど……そう考えたら、嬉しいような申し訳ないような……複雑な心境だ。……でも、何よりシオンのことがもっと愛おしくなった……それは確かなこと。「フフフ……こうしてると、歳相応に見えるわね……って、同い年なんだけどね」普段の彼は、歳不相応の雰囲気というか、包容力というか、余裕を持ち合わせているから……そんな風には見えないんだけど……今のシオンは、ちゃんと同い年の男の子に見えるものね。単に私の中に余裕が生まれたから、そう見えてるだけかも知れない。多分、シオンが寝てるからっていうのもあるんだろうケド。「……もうちょっと、良いよね?えい♪」私はシオンに抱き着く。その身体はゴツゴツしていて、決して柔らかくは無いけど……そこが……良い……かもぉ……♪それに、暖かいし……。私は少し変な気分になりながらも、シオンの温かさに頬を緩める……けど……足を絡めた時に気付いてしまった。「こ、ここ、コレ……!」私はソレを確認するため、ゴソゴソとベットの中に潜り込む――。「うわぁ――す、凄い……」もしかして、本当に昨日の夢を見てるの……かな?だとしたら、間接的には私のせいよ……ね?「こ、このままじゃシオンが仕事出来なくなっちゃうわよね?だから……こ、これも、副官の務めよね―――静めてあげなくちゃ……」***********シオンです。この度、無事に大人の階段を上りました。シオンです。朝起きたら、エロゲ的イベントに見舞われてテンパったとです。シオンです。健康な男の息子が、朝に元気になるのは生理現象だと言っても、何やらスイッチが入ったみたいで聞いてくれません。おかげで俺のスイッチも入ってしまったとです。シオンです……シオンです……シオンです……。まぁ、そんなこんなで、朝にちょっとしたハプニングがあって、そのおかげで出勤時間に遅れそうになった……。何で遅れそうになったとか聞くな!詳しくはパパかママに聞け……って、誰に言ってるんだ俺は?なお、ちゃんとシャワーを浴びた。一応、拭きはしたが……二人とも汗や、よく分からないモノだらけになったからな……シャワーくらい浴びてサッパリしたいさ。着替えは昨日、脱ぎ散らかしっぱなしだったが、全てが終わった時に綺麗に畳んでおいたので問題無し。朝食もきちんと食べた。朝飯はその日を生き抜くのに必要な糧だしな。なお、食卓を一緒した母上は……昨日のアレで懲りたのか、追求はしてこなかった。朝っぱらから追求してきたりしたら、流石に勘弁ならなかっただろうしな……。戦勝祝賀会まで、後七日……やることは山積みだぜ!!「よっしゃ、行くか!!」「ええっ!!」こうして、俺達は今日もお仕事に向かう。――その手を互いに握り合っていたのは――ご愛嬌ってことで。余談だが、今回の件で俺の中にあった、暗示じみた『鋼の砦』は完全に再起不能になった。キバ○シは五月蝿いままだが――。おかげで色々と歯止めが効きにくくなった俺……実質、リビエラに溺れてしまった俺。今回判明したが、どうやら煩悩もチートらしいしな、俺……。職務中等に性的に暴走しないか、今からとっても心配です。なんか、エスカレートして行きそうで恐い……。***********バーンシュタイン城・シオンの執務室まぁ、そんなことは杞憂だったワケで……。所謂、賢者タイムなのか、公私を上手く切り換え出来ているのか――多分、後者。とにかく、バリバリ仕事を熟しているワケですが。「だ、大丈夫?言われた通り、どんどん書類を持ってきてるけど……昨日も思ったけど、コレ普通の量じゃないでしょう?他の将軍の執務室を訪ねた時にも書類の『束』は見たけど、『山』にはなってなかったもの……」「そりゃあな……元から俺の担当分が多いのもあるが、これは更に数日分くらいはあるしな」とか、話しながらも書類に走らすペンは止めない。口を動かす暇があるなら、手を動かす。かと言って、リビエラが話し掛けてくる以上、無視はしたくない。ならば口を動かしながら手も動かすのみ。「それより、もう書類は無いな?」「え、ええ……今のところシオンに頼む書類は無いって……」「なら午後は、各隊の調練に顔を出す。一般兵の中から、俺の部隊に使える奴がいるか確かめる意味も込めてな……その後は王都の見回りだ。さて、こっちの書類の束は処理し終わったから、届けておいてくれ」「了解!よいしょっと――」……こうして、午前中をフルに使って書類の整理を終えた。そして、ちょっとしたお昼休憩が訪れ……。「ふぅ……お疲れさ〜ん」「うん、流石に疲れたわ……」「よっしゃ、そんじゃ昼飯を食いに行くか?」バーンシュタイン城には、兵士用の食堂が存在する。そこで食べようというのだ。本来、ナイツは勿論、貴族連中は、自分の執務室なりに運んで貰って食べるんだが……ナイツが一般食堂を使用してはいけない……なんてルールは無いからな。某国民的食文化漫画に出てくる、某新聞社の編集局長だって社員食堂を普通に利用してるんだ……それと同じ様なモンさ。「そうね、それじゃあ……行きましょうか?」リビエラは微笑みを浮かべながら、執務机から立ち上がる。こうして、俺はリビエラを引き連れて……というか、横に並びながら食堂に向かった。流石に自重して手は繋がなかったが……。と、そこへ……。「やぁ、シオンと……リビエラさんだったよね?」「リーヴスじゃないか……どうしたんだ、こんな所で」「何、アーネストやポールと一緒に昼食を……と、思ってね?」廊下で出会ったのは同僚であるオスカー・リーヴスだ。相変わらず爽やかオーラ全開である。「そういう君達は、どうしたんだい?」「俺達は食堂で昼食にしようと思ってな……」「食堂……兵士食堂のことかい?」「そうだ……ナイツが食堂を利用しちゃいけない……なんてルールは無いだろう?」リーヴスの問いに答えた俺。その答えが意外だったのか、目をパチクリさせるリーヴス。そして、俺はニヤリと真実をリーヴスに突き付ける。すると、顎に手を当て、考え込むリーヴス。「……面白そうだな。僕もご一緒して良いかな?ついでに、そのままアーネストやポールも誘ってしまおうと思うんだけど……どうだろう?」一見、現ナイツの中で1番優しい雰囲気を放っているリーヴスだが、1番ノリが良い(場合によっては悪ノリもする)のがこのリーヴスなのだ。そういう意味では、ナイツの中では1番馬が合うのかも知れない。「俺は構わないが……リビエラはどうしたい?」「私には依存はありません。シオン将軍のご意向に従います」俺はリビエラにも尋ねた、リビエラは構わないというが……流石は元シャドー・ナイツというべきか……こういう場には強いな。動揺なんか微塵も……。「すまないね、せっかくの二人の食事を邪魔してしまったみたいで」「い、いえ……決してそんなことは」あ、動揺した……もしかして、図星を突かれた?そういうことなら、リビエラの気持ちを叶えてやりたいが……どちらにせよ、インペリアル・ナイトが食堂なんか使ったら、注目を浴び過ぎて落ち着いてストロベリることなんて出来ないだろうしな……。結局、ライエルとポールを誘って食堂に向かった。その時の二人の反応は以下の通りだ。ライエルは渋々。仲間内で食卓を囲むのは嫌いじゃないらしいのだが、騒がしい雰囲気は好きじゃないらしいのだ。俺とリーヴスの説得に、最後は……。「仕方ないな……今回だけだぞ?」と言って折れてくれた。見た目通りのクールな性格だが、その内には誰よりも熱い物を宿しており、なんだかんだで付き合いは良い。余談だが、現在のインペリアル・ナイツ・マスターはライエルである。リシャールが抜けたので、暫定繰り上げで。次にポールだが。ポールは説得するまでも無く。「食堂か……利用したことは無いが、せっかくのお誘いだ。喜んで受けよう」と、乗り気で答えてくれた。今まで利用したことの無い食堂に対して、興味津々の様だ。ポールの性格はクールではあるが、所謂『素直クール』という奴で、王という重圧から開放されたからか、時折こうして歳相応というか、不相応というか――少年の顔を覗かせる。だが、覇気というか、風格的な物は王だった頃と比べても、決して衰えてはいない。「これでジュリアンが居れば完璧だったんだけどね」「任務で居ないもんな……アイツ」そう、リーヴスの言う様に、ジュリアは任務に出ているのだ。実は、昨日の夕食にはジュリアも誘っていたのだが、今から任務があるから……と、断られたのだ。何でも、周辺を騒がす野盗の巣窟を叩くのだとか。それなりに王都から距離があり、どんなに早くても帰還するのに今日の夕方近くまで掛かるらしい。……血涙流しそうなくらいに、残念がっていたのはスッゲェ印象に残っている。……帰って来たらご苦労様くらい言ってやらなきゃな。ちゃんと時間も作ってやらなきゃならねぇよな……。なんて、考えてる内に食堂についた。「それで、どうすれば良いんだ?」「兵士達が並んでいるのが見えるだろう?あそこに並んで、注文を取って、料理を受け取って席に着くと……」「詳しいなシオン……しかし、早く席を確保しないと、この勢いでは座れなくなるのではないか?」「こういう時は、席を誰かに確保してもらうべきだろう……戦場でも補給路を確保するのは大切なことだからね」「では、私が確保してきます」上からライエル、俺、ポール、リーヴス、リビエラ……である。「じゃあリビエラ……頼む。注文は俺が持っていくから……何が良い?」「それでは、日替わりランチをお願いします」「了解した。それじゃあそっちは任せたぜ?」「はい!」一応敬語は使っているが、表情は柔らかい。軽くウィンクをしたら、ウィンクを返された。うん、テラカワユス。「フッ……お前は良い副官に恵まれたのだな」「茶化すなライエル……それよか、早く並ばないと食う時間が無くなるぜ?」俺は皆を促して列に並ぶ……周りは俺達を見て目茶苦茶ざわついていたが。当然だよな……こんな、所謂、社員食堂的な場所に国の象徴たるインペリアル・ナイトが4人も雁首揃えて、一般兵に紛れてお盆(長方形)を持って並んでいるのだから。中々にシュールな光景だと思う。「ところで、シオン……さっきリビエラが言っていた、日替わりランチとはどういう物なんだ?」「日替わりランチってのは、読んで字の如く、その日によって料理の内容が変わるランチセットのことだよ……ほら、あそこに見本として作った物が置いてあるだろう?あれが今日の日替わりだ」並んでいる途中、ポールがそんなことを聞いて来たので、俺は日替わりについて説明する。なお、メニューはメインがポークソテー、サイドがフレッシュサラダ。それに季節のポタージュスープとパンである。兵士のためのガッツリ仕様なのか、ポークソテーは大きめで、サラダも量が多い様に見える。……リビエラ、本当にこれで良かったのか?「本当に詳しいな……もしかして、食堂に来たことがある?」「まさか……今回が初めてさ。旅をしていた時に、似た様なシステムの食堂を利用したことがあってな……それでだよ」リーヴスにそれらしく答えるが、実際は旅をしていた時では無く、前世の……リーマン時代の社員食堂のことを思い出したに過ぎない。こうして見ていたら、何となく同じシステムなのかな……と。なんか懐かしくなっちまうなぁ……。ただ、壁とかに料理の名前やどういうセット内容なのかを書いた貼紙が貼ってあるが、前の世界みたいに模型は存在しないらしい。なので全員、唯一見本がある日替わりランチを頼むことにした。……メニューの中には『料理長スペシャル』という謎のメニューがあったが、流石に頼む気はしなかった。だって、メニューの名前だけでどういうセット内容か……書いていないんですもの(汗)なお、俺達がそれぞれ注文を取ろうとしたら、注文を聞いたおばちゃんが卒倒しそうになってたいことを明記しておく。そんなにナイツが来るのが珍しいんだろうか……珍しいんだろうなぁ。そんな訳で、日替わりランチを乗せたお盆(俺はリビエラの分もあるのでお盆二つ)を持ってリビエラの元に向かう俺達。が、そこでは……。「だから言ってるでしょう?此処の席は確保してるって……他にも席は空いてるんだから、他を当たってちょうだい」「そう言わないでさぁ……ほら、俺達と一緒に食事をしたほうが楽しいぜ?」「そうそう、親睦を深める意味でもさ……君、見たこと無い服装してるから、新設部隊か何かの娘だろう?お兄さんたちが優しく教えてあげるからさぁ……色々と」……………………。「何だ、奴らは?」「知らないのかいポール?ああいう輩はナンパ……というらしいよ。彼らのアレは、レディを誘うには些か美しくないやり方だけどね」「……ああいう輩が我がバーンシュタインにも居るとは……見ていて気分が悪いな。さて、どうするシオン?」「そこで俺に聞くか……まぁ、良い。正直腹立たしいからな……皆、力を貸してくれ」俺は三人に策を伝えた後、毅然と断るリビエラと次第に熱くなるクズどもに近付いていく。そして……。「いい加減、お高く止まってんじゃ「私の副官に何か用かね?」あ?誰………だ……?」奴は俺を見て固まった……どうやらこの服装を見て固まったらしいな。「彼女は私の副官だ。何の用かと聞いている……それと、食堂とは食事を摂るところでは無いかね?」「シオン将軍!」「シオンって……シオン・ウォルフマイヤー将軍!?あのライエル将軍を一瞬で倒したって言う……」「な、何でインペリアル・ナイトがこんなところに……」俺は皮肉を口にしながら、件のクズどもを見据える。リビエラは俺を見付け、俺の名前を口にする。どうやら、コイツらは俺のことを知っていたらしい……。予想以上に噂になっているんだな……。「質問の答えがまだだぞ……何の用だと「どうしたのだシオン」む、ライエル」「「!!?」」チャラ男……いや、チャラ兵か?とにかくこの二人は心底驚いていた。当然だ……ライエルを筆頭にインペリアル・ナイトが三人、こちらにやってくるのだから。「やぁ、リビエラさん。席取りご苦労だったね」「いえ、さして苦労は無かったので」労うリーヴスにリビエラは恐縮しながらも、たいしたことじゃないと言う。「で、シオン――この者たちは知り合いか?」「さて、それは私が聞きたいのだがね……で、もう一度だけ聞くが……何の用だ?」俺はこの二人にピンポイントで殺気(弱)をぶつける。すると、連中は震え上がり……。「い、いえ!この方がシオン将軍の副官とは露知らず……」「ししし、失礼しましたぁぁぁぁぁっ!!!」ずたばたずたばた……ばたばたばたばたばた!!!!互いに縺れ合いながらも、我先にと逃げ出して行ったので、何とも不格好で……フッ、ざまぁ!「大丈夫だったか?」「はい、ありがとうございますシオン将軍」一応、俺はリビエラに声を掛ける。心配してなかった……といえば、嘘になるからな。リビエラはそんな俺に礼を述べる。「しかし、リビエラの制服は結構気合い入れて作ったんだがな……それこそウチらナイツの制服に見劣りしない、夜会にだって出られる様な奴を……なのに、奴らごときが気軽にナンパなんぞしやがって」「ふむ、これはお前が作ったのか……無駄に器用だな。後、さりげに毒を吐くな」さりげなくライエルにツッコまれる俺。どうやら連中は上級兵の様だが、立場的にはインペリアル・ナイトの副官であるリビエラの方が奴らより上なんだがな……。しかし、この世界……戦うのは男だけでは無く、女兵士だっている訳で……出会いが無いわけでは無い筈なんだけどな……。ちなみに、さっきの策とは『インペリアル・ナイツで睨みを効かせよう作戦』――そのまんまな作戦で、インペリアル・ナイツである俺達でメンチビームかましてやろうって作戦です。作戦の成果は見ての通りだ。「フフフ、少しは懲らしめることが出来たんだから良かったじゃないか……ね?」「……まぁな。リビエラに手を出していやがったら極刑だが……ただのナンパだからな。あれくらいで十分だろ?」「参考までに聞いておくが、もし彼らが彼女を傷付けていたらどうしていた?」楽しそうに笑うリーヴスに、相槌を打つ様に俺は返答を返した。そこで、ポールが仮定の話を聞いて来たので……。「そんなもん、所属部隊を調べて●●●して顔面を整形した後はもう一度○○を使ってぐちゃぐちゃにし、腕を力任せに××××って奴らの△△△をぶっつぶしたあげく、二度と使えない様に去勢してから煮えたぎる□□に突っ込んで……「も、もう良い!もう良いから!!」そか?」そっちから聞いて来たのに……まぁ。「冗談だけどな」「冗談なのか……?」「半分な」「半分だけ!?」なんて話をしていたが……何で皆して引いてるのさ?ライエル、リーヴス、ポール、リビエラは勿論……周囲の兵士達まで……。とりあえず……。「騒がしくして済まない。皆、気にせずに食事を続けてくれ」(((((む、無理ですっ!!)))))「そうだよな……あんな騒ぎを起こせば、気にするなって方が無理だよなぁ……」(((((将軍が怖いこと言うからですっ!!!)))))結局、場の雰囲気は変わらず……そのまんま食事を開始する。兵士用の食堂の料理とは言え、気合いを入れて作られているみたいで、結構美味くて、皆も驚いているようだった。「なぁ、良いだろう?何人か見繕ってさぁ」「悪いが俺のところも人手不足でな……お前のところに回す余裕は無い……無論、ポールのところに回す人員もな」「むぅ……自己の責任とは言え、どうすれば……やはり一般から募るしか無いか?」「僕らのところは無理でも、話せば納得してくれる人も居るかもね?『ナイツの直属』になるというのは、兵士にとっては栄誉らしいから」上から、俺、ライエル、ポール、リーヴスである。むぅ、やはり皆の所も人手不足か……やむを得ないな。分かっていて聞いた部分もあるし……。「隣、失礼する」「ん?エリックじゃないか……どうだ?昨日はよく眠れたか?」「おかげさまで……まだ慣れたとは言えませんがね」そこにやってきたのは、『蒼天の鎧』を身に纏ったエリックだった。どうでもいいけど、敬語が壊滅的に似合わんな……とは言え、体面的には仕方ないのだが。「シオン、彼は――?」「あぁ、彼はエリック……俺の直轄部隊『蒼天騎士団』の記念すべき入団者第2号だ」「ほう……どうやら腕に覚えがあるらしいが」リーヴスが聞いて来たので、俺はエリックを紹介する。ちなみに、1号はリビエラな?ライエルは何となくエリックの実力を感知したらしい……流石というべきか?「まぁな……自身の戦闘能力も高いが、虎の子のモンスター使いでな。特に、彼の相棒である飛竜のレブナントとのコンビネーションは抜群なんだぜ?」「何故、シオン将軍が自慢げなんですか」「しかも、自分たちはシオン将軍に一度も勝ったことが無いんですがね……」俺が自慢げに語ると、リビエラとエリックにツッコまれる。「モンスター使いか……それは珍しいな。そういえば、バーンシュタインにもモンスター使いがいた様な……」シャドー・ナイトの彼ですね分かります。今頃、何処で何をしているやら……てっきり復讐でも企んでいるのかと思いきや、あの後バッタリと現れなくなるんだもんな……。俺の警告が効いたのかね?「それで、部隊に所属させられたのは良いのですが、訓練等はいつから始まるので?」「あ〜……とりあえず、午後から他部隊の調練見に行くから――一緒に来る?」「ご一緒しましょう――自主練するにも、まだ慣れていないので」だよなぁ……早いとこ部隊作成せな……。オズワルド達が戻ってくれば訓練も出来るんだがなぁ……。後は、討伐任務とかがある場合か。***********等と、雑談しながら昼食の時間は過ぎて行った。そして昼食を終えた俺達は、それぞれに仕事へ戻って行ったのだった。「さて、俺達も仕事に戻るか」「了解しました」「はい、頑張って行きましょう……シオン将軍?」将軍ね……それじゃあとりあえず、その名に恥じない仕事を……しましょうか?俺とリビエラ、エリックは調練を行う部隊の元へと向かって行った……。やることはまだまだある………よっしゃ、気合い入れていくぜっ!!***********おまけドンマイ!ジュリアさん「貴様が野盗の親玉か……」「これはこれは……インペリアル・ナイト様が自らお出ましとは」私は、小数の部下を伴い、野盗の巣窟へと乗り込んだ。そして、遂に野盗の親玉を追い詰めた……。「へへへ……だが、いけねぇや……無闇やたらにアジトに入りこんできちゃあ……だからこうして罠に「御託は結構だ」何?」「罠?退路を断ち、挟み打ちにする程度が罠?貴様インペリアル・ナイツを……引いてはバーンシュタインを甘く見ているのか?たかが数十人程度、我が障害足りえん!!お前たちもやれるな!?」「「「はっ!!」」」こんな所で時間を喰っているわけにはいかんのだ……。そう、私は昨日、任務に出立する前に、マイ・マスターから夕食を食べに来ないかと誘われた。口惜しかった……こんな時に任務があった自分自身が――。そして、直感した――私はこの選択で、大切な何かを失ったのだと――。何か、私のアドバンテージが崩れ去ったというか、違う選択をしていれば私はマイ・マスターと至福の時を過ごしていた筈―――それこそ、蜜月の時を過ごすことだって。私の直感が告げる―――今回のは妄言じゃないと……。何故……何故だ……。マイ・マスターとは私が1番付き合いが長い((ラルフ除く))んだぞ……あの『同盟』だって、私が言い出したことなのに………。何故だ……何故だ……何故だ……。「この野郎……おちょくりやがって……おい、聞いてんのか!?」マイ・マスターと良い雰囲気になると何時も邪魔が入る……。何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ……。「くそ、おい!!テメェらやっちまえ!!!」「「「「「ウオォォォォッ!!!」」」」」そうか………全部……。「貴様のせいかああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」ズバギャアアァァァァンッ!!「「ギャアアァァァスッ!!!?」「これは私の恨みっ!!!」グワラキイィィィィィィンッ!!!「「あじゃぱああぁぁぁぁ!?」「これは私の悲しみっ!!!」ボグシャアアァァァァァッ!!「「ワイの完敗やあぁぁぁぁぁっ!!?」」ザッ……ザッ……ザッ……。「そしてこれが……」「ば、化け物……!!?」「私の怒りだあぁぁぁぁぁぁっ!!!!」DOGOOOOOOOOOM!!!!!「ぎにゃあああぁぁぁぁぁっ!!!?」「私は!!マイ・マスターと!!1番付き合いが!!長いんだぞ!!なのに!!なのにっ!!」「ごふっ!そんなの!?うげっ!!知らな!?ぷべらっ!ちょ、まっ!?あべしっ!?」「それと私は野郎じゃない――私は女だあぁぁぁぁぁぁっ!!!」「たわばあぁぁぁぁぁっ!!?」「私は!!貴様が気絶するまで!!この手を止めないっ!!」ドガッ!!メキッ!!ゴキャ!!グシャ!!メチャ!!グチャ!!――――――。***********後に兵士は語る……この時のジュリアン将軍は無茶苦茶怖かったと……。そして鬼神の如き猛威を振るい、ほぼ一人で野盗を全滅させてしまったのだと……。その時同行した、ジュリアン直轄部隊の方は、後に語る。「俺、ジュリアン将軍を絶対怒らせない様にする」……と。この事件は一部で『ジュリアン・ダグラスの乱心』と呼ばれ、恐れられることになる。だがしかし、ジュリアン将軍がこの様な状態になったのは、後にも先にもこの一回きりであったという。ちなみに、大惨事と言ってもおかしくないにも係わらず、敵味方ともに死者は0だったそうな……。どっとはらい。***********後書き。という訳で。【シオン、大人の階段を上る】【食堂に参上、インペリアル・ナイツ】【愛と怒りと悲しみのジュリアン無双】の三本でした。次回は任務や熱き漢たちの帰還、そしてシオンに心酔する名も無き少女が再登場……するかも?それではm(__)m