「さて……帰って来たぜ我が故郷!!」「そうだね……僕達が旅に出てから随分経ってるし……任務とかで来ることはあったけど、こうして帰郷すると改めて帰って来たっ!って、感じがするねぇ〜……」身体全身を使ってダーッ!と、アントニオな表現をする俺と、しみじみと呟きながらウンウンと頷くラルフ。俺達はカーマイン達と別れた後、その足でバーンシュタインの王都まで帰って来た。ラルフの言う様に、任務なんかでは何度か戻って来てはいるが、やはりこうして帰ってくると感覚的に違う。まぁ、仕事でのそれは帰郷とは言えんし、戻って来てもいっつもバタバタしていたからな。やむを得ないわな。「さて、俺は陛下に事の顛末を報告しに行かねばならん……お前たちも来るのだろう?」「勿論。ただ、ラルフとポールに用事があってな……ライエルとジュリア……それにリビエラは先に行っててくれないか?直ぐに俺達も行くからさ」「分かった。では、先に行っているぞ?」「早く来てよね?」俺達に確認を取ってくるライエルに、俺はラルフ達に用があるから先に行っててくれと頼む。了承したジュリアとリビエラは、ライエルと共に城の方に向かって行った……。「さて……我々に用事とは何なんだ?」「ああ……二人にこれを渡そうと思ってな?」ポールの疑問に答え、二人にある装飾品を渡す。「これは指輪……?」「私のは腕輪か?」ラルフに渡したのは指輪……カーマインに渡した指輪と同じ形であり、あちらは銀で、こちらは金をあしらった仕様である。ポールに渡したのは腕輪……エリオット陛下が着けている腕輪の色違い。あちらが赤を主体にした色に対して、こちらは青を主体にした色をしている。「カーマインにも渡しておいたんだが、それは二人にとっては重要な意味を持つアイテムだ。『波動の指輪』と『波動の腕輪』って言う名を付けた。分かりやすいネーミングだろう?」俺がそのアイテムの名前を言うと、二人はハッとした表情になった。俺は説明を続ける。「効果は『波動』の消費量の減少……体内の波動をより効率的に循環させる、言わば補助装置だな」ゲヴェルを倒したことにより、カーマインを含めた三人が操られることは無くなったが、変わりにその寿命を縮める結果となった。……確か、原作だと約十日辺りでカーマインとポール――リシャールには限界が来たんだったよな……。ならば『こんなこともあろうかと』、延命装置として作っておいたのである。「――これを着けていれば、少なくとも一月は普段通りに生活出来る筈だ……あくまで予測だから、前後する可能性は否めないが」「一月か――それを越えれば我々は消え行く定めか……仮にこれを着けなければどうなる?」「憶測だが……まぁ、保って十日……って所だろうな。これも、グローシアンが側に居たお前らだからこその数値だったりするけどな……」俺はアイテムの効能を説明……ポールはアイテムを装着しなかった場合の話を聞いて来たので、憶測として答える。ルイセが側に居たカーマイン……俺が側に居たラルフ……また、俺のグローシュ波動は、常時垂れ流している状態でもバーンシュタイン王都(城、我が家を含む)を包み込む程度には強大だったので、リシャールもまた同じ様にグローシュ波動によって、ゲヴェルの『命の供給』を最低限にしか受け取れない形となっていた。結果としてグローシュに対してある程度の耐性が出来、ゲヴェルの波動の最小限の運用でも生活に支障をきたすことが無くなったのである。これが仮面騎士ならば、良くて一日保てば良い方じゃなかろうか?簡単に言うと……水(波動)を貯めておくタンクの大きさは同じだが、仮面騎士とは違って、そのタンクに注がれる水(波動)の量は少なく、かわりに消費する水(波動)もまた少ない……消費量はグローシュ波動という名の蛇口で調整されているために、注がれる量は少なくても、少しづつタンクに水(波動)は貯まっていく……みたいな?少し違うかも知れないな……。もっと簡潔に言うと、仮面騎士達が大排気量のアメ車なら、カーマイン達は国産の低燃費ハイブリッドカー……と言った所か。パワーはともかく燃費が良いと。……うん、こちらの方が分かりやすいな。とにもかくにも、ゲヴェルがくたばったことにより、『補充』されることは無くなり、後は燃料を喰い潰すだけなんだが……そんな状況を打開する為、悪あがきとして作ったのが『波動の指輪と腕輪』なワケだ。あくまで悪あがきにしかならないのが、我ながら情けないのだが……。「……分かった。ありがたく貰っておくよ」「お前が何の根拠も無いことを言う筈は無いしな……ありがたく使わせて貰うよ」ラルフとポールはそう言ってくれる……。ラルフはぼかしてあるとは言え、真実を知っているからともかく……ポールは俺の論理に何らかの根拠があると信じて疑わない。ポール君や……君は俺を信用し過ぎだと思うんだが……確かに根拠はあるが……。原作知識で知ってますた♪Te・he☆……なんて、言える筈が無いしなぁ……。まぁ、信じてくれるなら嬉しいがね。「それにしても、一月かぁ……長い様で短いな……ハハハ」「……この身は償い切れない程の罪を犯した……一生を賭けて償うつもりではあったが……やはりそう都合良くはいかない……か……」ラルフが小さく呟き……笑った。覚悟が決まっていたとは言え、明確な死刑宣告を受けたのと同義なのだから――その胸中がいかほどの物なのか――俺には計り知れない……それはポールも同様だ。俺はそんな二人を見兼ねて――。「解決策ならあるぞ?あくまで、それらのアイテムは、それを成すための時間稼ぎの為に作ったんだからな」「なっ……!?」あっけらかんとそんなことを呟いた。それを聞いて、ポールは驚愕した。ラルフも驚いていたが、俺から色々聞いていたためか、ポールよりは驚きは少ない。「そんなことが……可能なのか?」「まぁ、少し分が悪い賭けだが……十分チップを賭けるに値する賭けさ」鍵を握るのは、パワーストーンとその制御装置。パワーストーンに関しては、俺が色々小細工をした結果、何とか一回の使用で留めることが出来た。制御装置に関しては、いくら俺でも製作することは出来ず、フェザリアンに頼るしかないのが現状だが……。「フフッ……シオンがそこまで言うなら、僕も賭けるよ……その分が悪い賭けにね?」「そうだな……今更、逃げはしない。ならば、その賭けに乗るのも一興か……例えそれが奇跡だとしてもな」そう言って笑みを浮かべる二人を見て、俺は新たに決意を固めた。――絶対に何とかしてやる……と――「知らないのか?奇跡は起きるから奇跡なんじゃなく……起こすから奇跡なんだぜ?」ニヤリと笑いながら、俺は二人に言ってやる。それを見て二人はポカーンとした後……。「アッハッハッハッハッ!不遜な言い様だが……お前が言うと、何故か信じてみたくなるな!」「ハハハハ……本当に、昔から変わんないんだからなぁ……けど、不思議とシオンならどんな無理でも押し通しそうだと……そう感じるよ!」楽しそうに笑い出した。ってか、ポールよ……不遜とか君には言われたくないのだが?……まぁ、二人が元気付いたなら良しとしますか。「ところで……何故、私だけ腕輪なんだ?」「ん?いや、ずっと身につけていた物が無くなったから、物寂しいんじゃないか――と、思って」俺のその理由を聞いた時、ポールは苦笑いを浮かべて言った。「そうか……それは気を使わせてすまなかったな?」……と。本人も悪い気はしていないみたいだし、無問題だろ?***********バーンシュタイン王城・謁見の間あの後、直ぐさま陛下に報告に行くべく、謁見の間へと向かった。既にライエルとリーヴス、ジュリアは陛下の側に控えていた。リビエラはリビエラで、先に事情を話していたらしい。「リビエラさんたちから話は聞きました。ゲヴェルを倒したそうですね!」既にリビエラ、ジュリア、ライエルから聞いていたか……陛下も嬉しそうだな。「世を騒がせていた元凶であるゲヴェルを打ち倒した。これだけの功績があれば、誰も文句は言わないだろう」「そうだね。この功績はどんな試練よりも重く、遥かに説得力がある……如何でしょう陛下?」ライエルとリーヴスが、俺達の成果を褒めたたえてくれているが……何か雲行きが怪しいような……。「そうですね。ライエルやリーヴスの言う通り、貴方達はそれだけの偉業を成し遂げました……よって、シオン・ウォルフマイヤー、ポール・スタークの両名に、正式なインペリアル・ナイトの称号を授けます」予想通りかよ……あ、ちなみにスタークってのは、ポールの偽ファミリーネームな?とことん俗な感じの名前にしたかったらしい。とりあえず、全世界のポール・スタークさんに謝れ!まぁ、それはともかく……。「お言葉を返す様ですがエリオット陛下……この度のゲヴェル打倒に関しましては、我々だけの力では成し得なかったことです……多くの者の助力があればこそ成し遂げられたこと。それを、我らの功績と成すのは……」「それにこの場に居る者や、真実を知る者ならともかく……他の貴族に対して示しがつきますまい……まして、陛下は王に即位して間もない……反感を買う恐れもあります」そんな陛下に、苦言を呈する俺とポール。実際、カーマイン達と協力して倒したのだから、俺らの手柄にするのは憚られる。俺らがいかにゲヴェルを倒した……と言っても、それを成し遂げたのを知っているのは、あの時あの場所に居た者達のみ。ライエルの様に関係者ならば信じるだろうし……王の言うことだからと、信じる者達も多いだろう。しかし、エリオット陛下に反感を抱く者は少なからず居る筈……。ただでさえ、ジュリアの件――実力さえあれば女性でもインペリアル・ナイツになれる法案――でも強権を発動しているんだ……。そのジュリアでさえ、ナイツとしての力量が確かだったからこそ、表立った反対が無かったのだから……。「勿論、後日に御前試合という形でお前達自身と、その実力をお披露目することにはなる……だが、陛下はその前に褒美として称号を授けることにしたんだよ」「ゲヴェルを倒したということは、君たちが考えている以上に大きな偉業だということさ」ジュリアとリーヴスの言い分も分かる……。実際、カーマインとゼノスはレティシアを救出して騎士になったしな……。それを考えれば……成程、確かにゲヴェルを打倒したことは、最高の栄誉を賜る程の偉業なのだろう。理屈は理解出来るが……。とは言え、褒美だというのを断ることは出来ないし……。やむを得ないな。その御前試合で俺らの実力を見せれば良い……か。「身に余る栄誉を承り、光栄の極みでございます……世の為、民の為……そしてバーンシュタインの未来の為、若輩ながら研鑽を積み、粉骨砕身の思いで職務に励ませて戴きたく存じます」「同じく、私には過ぎたる栄誉なれば、その栄誉に釣り合う様に一層の研鑽を積み、職務を全うしていきたく存じます」「期待していますよ、二人とも」俺とポールの誓いを聞き、満足そうに頷くエリオット陛下。ふむ……もしゴチャゴチャ言う輩が現れたなら、俺達がそれを振り払えば良い……か。御前試合をやれば、少なくとも武に関しては見せ付けてやれる……。心と技は自分次第……だな!「貴方たちにも、何かお礼をしなければなりませんね」「勿体ないお言葉でございます……」「彼の言う通りです。あくまで、自分たちの思うがままに行動した結果なんですから……」陛下の言葉にラルフとリビエラは謙虚に答える。まぁ、結局は二人ともそれぞれ報奨を貰うことになるんだが……それは割愛させてもらう。***********あの後、流石に今日は疲れているだろう……と、一旦解散となり、俺は久しぶりの我が家へと戻って来た。帰り際、ラルフにあることを頼んでいたのだが……それは余談である。ラルフは自宅へ……リビエラは姉とその婚約者の所へ顔を出すらしい。「久しぶりだなぁ……って、何か慌ただしいな」屋敷に帰ると、メイドや執事達が慌ただしくあちこちを掃除している。って、母上まで……!?「母上!?」「あら?シオンじゃない!!お帰り〜♪」三角巾を着けてハタキで埃を落としていた母が、俺に気付いてこちらに駆けてくる。「何の騒ぎなんです?」「ほら、しばらく家を空けたでしょう?だから大掃除してるの♪」可愛らしく笑う我が母上……相変わらず、歳相応に見えない人だな……。え?掃除しているのを咎めないのかって?まぁ……母上だしな。今更って感じだからね。「成程……それで、父上は?」「レイならね……」母上いわく、防衛戦を終えた父上は我がアジトに向かい、グローシアンの方々を迎えに行ったんだそうな。バーンシュタイン国内のグローシアン達は父上が、ローランディア側とランザック側のグローシアンはオズワルド達が送るらしい。元気だなぁ父上……。まぁ、父上達が頑張ってるなら、俺が動く必要も無いな。本来の予定は、俺がテレポートで送る予定だったんだがな……。あ、そうだ……。『シルク……聞こえるか?』『あ、旦那様!?はい、聞こえてますぅ!』俺はシルクに念話を送る。状況を聞きたかったからなんだが……。ちなみに、今更言うまでもないと思うが、契約を結んでいる俺とシルクは、ティピとサンドラみたくテレパシーで繋がっていたりする。『父上達はもう来たか?』『ハイ!大旦那様とオズワルド様が、それぞれ皆さんをお連れしていきました!』『そっか……お前は父上達と来るんだろう?』そう、全てが終わった後に、シルクがアジトで一人になるのを見兼ねた俺は、シルクを我が家に招くことにしたのだ。***********シルクは最初は迷った。『屋敷を守るのは自分の役目だから……』と。とは言え、あれだけ騒がしかったのが一気に静まるのだから……シルクが悲しむのは容易に想像出来る。喜怒哀楽がハッキリした奴だからなぁ……。同時に責任感が強い奴でもある。――だから、俺はこう言った。『研修に来るつもりで来い』……と。シルクは、契約を結んでいることもあり、俺に仕えて尽くしたいという願望があるらしく、その為の『肥やし』になるならば、それを貪欲に学ぼうとするだろうからな……。貪欲と言うと聞こえが悪いが……要するに一生懸命ってことだ。そこまで誰かに仕えて尽くしたいならば、本職に学ぶのが1番という理屈だな。研修に来い……それだけ言えばシルクは理解したらしく、何とか折れてくれた。『わかりました!一杯勉強して旦那様にたくさんご奉仕しちゃいますっ!!』ついでにやる気も出してくれた……うん、良いことだ。だが、ご奉仕と聞くとソッチ系を連想してしまう辺り、俺も溜まってるんだなぁ……と、しみじみ思ってしまった。**********『ハイ!大旦那様に頼んで、今そちらに向かっている最中です〜♪』シルクが俺の問いに答えてくれる。俺はそれに頷いて一言。『そうか……待ってるからな?』『ハイ!ありがとうございます、旦那様!!』元気に答えるシルクの声に、微笑ましい物を感じつつ……少しの談笑の後に念話を切った。で、自室に戻って簡単に荷物などを整理した後は、俺も大掃除を手伝ったりした。休む様に言われても、手持ち無沙汰だったしな。で、俺が自重しなかったこともあり、比較的早く大掃除が終わった俺達。普通の使用人なら、その家の坊ちゃんに、こんなことを手伝わせるのは恐れ多い……とか言い出すのだろうが。良くも悪くも、我が家の使用人達なのだ……母上の『フランクに行こう♪菌』が蔓延しまくっているワケだ。無論、無理矢理手伝わせることはしないが……率先して手伝う分には、彼等は文句を言わなくなってしまったのである。まぁ、俺としてもそっちのほうが気楽で良いけどさ?執事やメイド達はそれぞれの仕事に戻り……俺は母上に付き合わされ、午後のティータイムと洒落込んでいるワケである。「それにしても、ようやく平和が訪れたのね……」「いえ、まだ終わってはいませんよ」「?どういうこと?」「それは近いうちに、陛下から何かしらのお触れがあるでしょうから……」母上は俺の言い分に首を傾げるが……。俺はそれをはぐらかす。俺が気にしているのは、ボスヒゲと――ルインとか言う野郎のことだ。特にルイン……奴は得体が知れなさ過ぎる……。……正直、奴の妙な移動術を使えば、こちらの動きを抑えることも出来た筈だ……。それこそ、俺らの知り合いを人質に捕って脅す……いや、僅かな邂逅だったが、奴の本質は何と無く理解出来た……。奴は一種の快楽主義者にして享楽主義者だ……人質を捕るくらいなら……。………捕まえて身体を弄り、俺達にぶつけて悦に浸る位のことは平然としてきそうだ……。………チッ、胸糞悪い……想像するだけで、ハラワタが煮え繰り返る気分だぜ……っ!!……だからこそ、奴の意図が読めない。俺達がゲヴェルを討伐に向かっていたあの時は、俺らの隙を突き、誰かを拉致るには絶好のチャンスだった筈……。……単純に動くつもりが無かったのか、それとも何か動けない理由が――ある……?無論、ボスヒゲ自身も油断ならない相手なのだが……。ゲヴェル以上の身体能力に、ゲヴェル以上の回復能力、時空を操る能力、皆既日食グローシアン……ハッキリ言ってチート……いや、バグだ。もっとも、そんなボスヒゲが相手でも決して負ける気はしないが。……いや、マジで。身体能力はその気になれば、指先一つでダウンさせられる位の力量の差があるし……回復能力にしたって幾ら凄いとは言え、某龍玉の魔人様ほどではあるまい。良くて某幽白に出てくる某100%弟の兄程度だろう……いや、あれも生半可じゃねーけどさ。粉々にされても復活してきたし……。原作でボスヒゲは、ウェーバー将軍の会心の一撃を喰らい、喰らった端から傷を修復していた……が、粒子レベルに分解させられて再生出来る程じゃあるまい。それこそ、全力のオーラバスターや極光で終いだろう。改めて思うけど、俺の方がバグってるよなぁ……今更だけど。だが、もしルインが原作知識を余すことなく教え込んでいたら……流石に目も当てられないのだが……。奴がヴェンツェルに対してそこまでの忠誠を誓っているとは、俺にはどうしても思えん……。奴にとって、此処はあくまでゲームの世界……奴はそのプレイヤー……いや、ゲームマスターを気取っている。そんな奴が『原作キャラ』であるヴェンツェルに忠誠を誓うワケがない……。いや、楽観視は出来んか……奴らの居場所が特定出来ない以上、後手に回ることにはなるが……対策は打っておかないとな……。幸い、インペリアル・ナイトという称号……肩書が手に入った。ならば、それを最大限に利用して立ち回るしかない―――。「―――って、シオンったら聞いてるの!?」「――っと、すみません。少し考え事をしていました……何でしょうか母上?」いかんいかん……深く考え込むあまり、母上への対応がおざなりになっていたらしい。「もう!シオンがインペリアル・ナイトになったから、何かお祝いでもしようか……って話していたんじゃないの!」「そうでしたか……申し訳ありませんでした」「良いわよ良いわよ……シオンは子供の頃からそうだもの……ちっとも甘えてくれなくて……母さんとは全然お風呂に入ってくれなかったし……」俺は上の空だったことを謝罪したが、母上はふーんだ!とか言いながら、ぶちぶち愚痴り始めたが……そういう仕種が様になる辺り、我が母上は容姿的(無論、若すぎるという意味で)に化け物だ……。というか、未だに根に持ってんのかい!?「私が悪かったですから……機嫌を直して下さいよ母上……」「そりゃあね……しっかり者だったのは喜ばしいことよ?けどね、親としては子供には甘えて欲しいじゃない……?レイとはよく遊んでたのに……母さんとは……母さんとは……うぅっ……」……駄目だこりゃ。完全に愚痴りモードだ……酒を飲んでもいないのに、よくもまぁ……これも母上の個性か。ちなみに、父上と遊んでいたというが……あれは剣の稽古をつけてもらっていただけだし、それこそ、母上から魔法のことを教わっていた回数と大差無い筈だ。……結局、その日は夕食まで母上の愚痴を聞きつつ、宥めすかすということで時間を費やすことになった。こりゃあ、何か日頃のお礼みたいな何かを準備するべきか……?……俺としては、インペリアル・ナイトに抜擢されたことが、最大の誉れにして最高の親孝行だとは思ったのだが……。むぅ………。**********戦勝祝賀会まで――あと九日――翌日……俺とポールは練兵場――Ⅱやオルタをやった人には分かると思うが、ちょっとした闘技場の様な面積の場所――にやってきていた。例の『お披露目』のためである。「これより、シオン・ウォルフマイヤー、ポール・スターク両名の御前試合を行う!」陛下の横に控えたリーヴスがそう宣誓する。ちなみに、陛下は闘技場にあった様なVIP席に着席している。他にも観客席みたいになっている場所があり、そこには諸侯――要するにバーンシュタイン各地を納める貴族連中――が試合の開始を今か今かと待ち侘びている………。お……ダグラス卿も来てるな。父上はまだ帰還していないから、母上が顔を出している。まぁ、仮に父上が帰還していても、顔を出しているだろうが……。まぁ、家族を連れて来ている者はさほど居ない……当たり前だが、御前試合とは遊びでは無く、一種の通過儀礼の様な物だ。間違っても娯楽の類では無い。だというのに中には、娘さんを連れて来ている方もいらっしゃるみたいだが……。他にも、インペリアル・ナイツ――第一近衛騎士団以外の騎士団長や、将軍らもまた、事の推移を見守っている。それはそうだ。インペリアル・ナイツはそれぞれ一軍の将と同等以上の権限を持つ。ぽっと出の若造が上に立つ可能性がある以上、その若造達の力量を確かめておきたいのだろうさ。「では、ポール・スターク……前へ!!」リーヴスに促され、ポールが前に出る。そして、そんなポールの相手となる者が現れた……それは。「ジュリアか……」そう、ジュリア・ダグラス……現インペリアル・ナイトの一人であり、『現在唯一』である女性のインペリアル・ナイト。まぁ、単純な百人抜きとかをやるより、現役ナイトが相手をした方が、何倍も難易度が高かったりするんだけどな。「それでは両者、正々堂々……全力を尽くす様に……では――始め!!」こうして、御前試合第一試合――ポールVSジュリアの幕が上がったのだった。***********オスカーの宣誓を聞き、私は剣を構えた。それは向こうも同じか……。ジュリア・ダグラス……かつて似た様な御前試合にて剣を交えたこともあるが……。「以前は遅れを取ったが……あの頃より腕は上げたつもりだ。あの時の様にはいかんぞ?……それに、個人的に負けたくない事情があるのでな」「フッ……では、私も奮起するとしようか!」彼女の負けられない理由というのに、若干興味が湧かないでは無いが……幾ら私と言えど、考え事をしながら相手取れるほど、甘い相手では無いことは認識している。なので、思考を戦闘用にに切り替える。「行くぞ!」「来い!」私は先手必勝を謡う訳ではないが、様子見を兼ねてこちらから攻めることにする。それに対して彼女は剣を頭上に掲げ、半身に構え……その刃に片手を添える様な……彼女独自の構えを取り、迎撃体勢に入る。あの体勢から放たれる初撃は……ほぼ間違いなく打ち下ろしか。ならば!「フッ!!」私が射程に入った瞬間、予想通り彼女は剣を振り下ろした……その剣閃は想像以上に速かったが、十分誤差範囲の内だ。私は足運びで身体を半身に逸らし、その剣閃を避ける。彼女の武器は大剣に分類される物だ。一撃一撃が重く、そして威力がある。本来、大剣は重さで斬る物だから、それは当然の帰結なのではあるが。だが、だからこそ弱点もある。先程も述べた通り、大剣という武器は本来、重量で叩き切る様な武器だ。速さで斬る様な武器ではない。故に、その攻撃手段も限られてくる……打ち下ろすか、薙ぎ払うか……2つに1つ。至極読みやすいとも言える……そう、『本来は』……。ヒュバッ!!振り下ろしたジュリアの剣閃が、軌道を変えて横に薙ぎ払われる。私はそれを剣を添わせるようにして受け流し、後方に跳ぶ。――そう、あくまでもそれは一般的な論理に過ぎない。仮にもインペリアル・ナイツの一員なのだ。そのような論理を捩曲げる位の剣腕を、持たない筈が無いのだ。彼女は見た目の細さとは裏腹に、実によく鍛えられている。片手で大剣の重量を振るう筋力、剣閃の軌道を変える手首の強さ……。女性である彼女がこれだけの力を身につけるのに、生半可な努力では足らなかったことだろう。恐らく、打ち下ろし、薙ぎ払い以外の攻撃手段もあるのは想像に難しくは無い。「はああぁぁぁぁ!!」彼女が切り掛かってくる……私はそれをかい潜り、再び切り付ける。彼女はそれを防ぐが、私は双刃剣を振るい、速さで圧倒していく。身長こそ彼女の方が大きいが、私と彼女では、単純な身体能力において大きな差があり、それは私に軍配が上がる。それも当然か……この身は『人間』では無いのだから……。パワーもスピードもスタミナも……全てにおいて私が上回っている……が、それでも彼女は食らい付いてくる。「やああぁぁぁぁぁっ!!!」技のキレ、そして何よりその気迫……正直、驚嘆に値する。ガカアアァァァァン―――!!彼女の剣撃を真っ向から受け、その為に衝撃波が巻き起こる。「くっ……」「確かに、貴公の技のキレと気迫はたいしたものだ……だが、さりとて私も負けられないのだよ!!」仮にもインペリアル・ナイツマスターを名乗っていたのだ……例え、そうなる様に造られた身だとしても……積み上げて来た修練の数々……決して貴公に劣る物では無いっ!!『アーネスト……オスカー……。私はこの国を……民を支えて行きたい。――着いて来てくれるか?』『勿論でございます……我が剣はリシャール様と共に……』『この剣と誇りに掛けて……貴方に忠誠を誓いました……ならば、我々の答えは唯一つです』『……ありがとう、アーネスト、オスカー……』あの日、王都を見渡せる小高い丘の上で誓った……我ら三人、この国と民を支え――守り抜くことを……。私はゲヴェルに操られ、その誓いを踏みにじり続けてしまった……。それは許されざる行いだ……。もはや、リシャールを名乗ることは叶わないが……それでも、あの頃の誓いはまだ忘れてはいない!『例え名前が変わろうと、貴方は貴方だ。あの時交わした誓いを、俺は忘れてはいない』そして……。『あの丘で交わした誓いは、未だに我が心の中にあります……反旗を翻した私が言えた台詞では無いのかもしれませんが……』二人とも覚えていてくれた……。そして、改めて誓ったのだ……『今度こそ、命ある限りこの国と民を守り抜く』……と。……だからこそ、負けられないのだ……私はっ!!**********今までは様子見だったのだろう……此処に来て、更に速さ、力、技、気迫……それらが合わさった圧力……それが一気に増していった。苛烈な攻め……それはまるで嵐の様に襲い掛かってくる。ポールはその双刃剣という武器のポテンシャルを、最大限に生かしてくる。切り払いも、直ぐさま刃を反して切り掛かって来る。縦、横、斜め……縦横無尽に襲い掛かってくる。そして何より、その一撃一撃が速く――重い。「くぅ……!?」私は防戦一方になり、時には受け流し、時には受け止めていたが、あまりにも強いその力に抗いきれず、その剣撃を受け、弾き飛ばされてしまう……。「どうした……貴公の力とはそんな物なのか?」「くっ、言ってくれる……」ポールの言葉に、思わず苦笑いが浮かんでしまう……。私は既に全力を尽くしている……つまり、それだけ力量に差があるということだが……。それでも、決して届かない高みでは無いと思った……。マイ・マスターと剣を合わせたことのある私だからこそ、それを顕著に感じることが出来た。そう、マイ・マスター……シオン……彼が見ているのだ……負けられないじゃないか。『よく来たなダグラス……そちらが』『ああ……『息子』のジュリアンだ……ジュリアン、こちらが私と同じナイツである、レイナード・ウォルフマイヤーだ』『は、はじめまして!ジュリアン・ダグラスです!!』あの頃、私は既に『息子』として生きることを決めていた……父の期待に答えたくて、褒めてもらいたくて……。『そんなに緊張することは無い……コレは私の息子のシオンだ。シオン、挨拶なさい』『お初にお目に掛かります、ダグラス卿。レイナードの息子のシオン・ウォルフマイヤーです』――マイ・マスターは随分と落ち着いた雰囲気の子供だったと思う……私ですら緊張していたのに、まるで慣れた大人の様に父に応対していたので、私も父も驚いていたのを覚えている。――ただ。『よろしく、ジュリアン!!』『う、うん……よろしく』あの時の笑顔が凄く暖かかったのは、よく覚えている……。思えばあの時から、私はマイ・マスターに惹かれて行ったのかも知れない……。それから度々、ウォルフマイヤー家を訪れ、または彼が我が家に訪れ、共に遊び、共に学んで行き……子供心に、益々惹かれて行くのが分かった。初恋、という奴だったのかもしれない……。故に私は迷った……『息子』として生きて行くことに……『女を捨てる』ことに。そんなある日、私が女であることがバレてしまうのだが……丁度よかったのかもしれない。あの時、私は彼を『友』と思う以上に『男』と思っていたことを改めて思い知らされたのだから……。その後、弟との試合で破れ、父に見限られた時には、弟への再戦を誓った私を鍛えてもくれた……。言わば、彼は私にとって師であるも同然……。父に見限られたと感じた私が、より彼への恋情を募らせていくことになったのは、必然だったのかも知れない……。紆余曲折あり、彼と戦い、敗れ……忠誠を誓ったのも。――そう、必然だったのだ。「そろそろ決めよう……この一撃に全てを賭ける……!!」「良いだろう……その話に乗ってやる」マイ・マスターが見ている……だから負けられない。そんな個人的な理由だが、私には十分過ぎる理由だ!!無論、民のためという気持ちはある……偽らざる正直な気持ちだ……しかしそれ以上に。「はああぁぁぁぁぁぁっ!!」マイ・マスターのために剣を振るう……あの方に身も心も捧げると……あの頃より誓ったのだ。「おおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」それはインペリアル・ナイトとなった今でも……変わらぬ誓い。あの方のためならば、どこまでも強くなれる……そう信じて振るった一撃は――。ガキャアアァァァァァァン―――!!!ぶつかり合い、弾け飛んだ………。ポールは私に剣を突き付ける……そう、弾かれたのは私の剣……。私の剣が背後に突き刺さり、そして――勝負は決した……。「私の……負けだ……」「それまで!!勝者、ポール・スターク!!」リーヴスの宣誓と共に、周囲がワアッと歓声が広がる……。負けてしまったか……。「おめでとう、お前の勝ちだ……やはり届かなかったな。分かってはいたのだが……」現時点で、ポールに及ばないのは理解していた……しかし、気迫は――想いだけは負けないと信じたかった――。「いや、紙一重だったよ……最後の一撃に込められた想い。それは決して軽い物では無かった――」「ありがとう……そう言ってくれれば気も休まる……」負けは負けだが、マイ・マスターに無様を晒す試合では無かったから……良しとするべきか。「――君の『負けられない理由』とやらを聞いても?」「……ある人が見ていて、その人の前で格好をつけたかった……それだけさ」「そうか……」ポールは剣を納め、私も地に突き刺さった剣を引き抜き、鞘に納めた。軽い理由と軽蔑しただろうか?それはそうだろう……インペリアル・ナイトとは国の象徴……その象徴が、一個人のために剣を振るったというのだから――。「正確なところは違うのかも知れないが……私も似た様な気持ちで剣を振るったからな……何と無く分かるよ。その気持ちは……」「え……」「誓った約束があり、私はその誓いを立てた友のために剣を振るった……百の言葉より、剣を合わせた方が――分かることもあるということか」それだけ言い残し、彼は下がって行った。そうか……彼もまた『誓い』と『誰かのため』に剣を振るうのか……。彼は『友のため』、私は『愛する人のため』……彼の言う様に、その対象への傾向は違うのかも知れないが……。私は顔に笑みが浮かぶのを感じ、その場を後にしたのだった……。***********流石はインペリアル・ナイト同士の戦い……一進一退の達人同士の戦いだ。現場に立つ将軍や騎士団長は良いが……正直、ジュリアにしろポールにしろ、この会場にやってきた貴族連中の三分の一はあまり良い感情を持っていなかっただろう。伝統を捩曲げた『女』と、何処の馬の骨とも知れない『若造』の試合なのだから。もっとも、二人の試合を見て、その考えはほとんど塗り潰されたみたいだが……。父親に連れられて来たのだろう、14、5くらいの女の子が、輝いた瞳で試合を観戦していたのが印象に強いが。分からないでは無い……こと、達人同士の戦いは、もはや人外の戦いと言っても良い物なのだからな――。父上やダグラス卿の様に騎士を務めた貴族様は、二人のレベルの高さをよく理解出来たと思う。最後は意地の張り合いにも見えたが……それ故に、最後の一撃は凄まじい物があり、周囲をほぼ完全に黙らせた。勝負が決した瞬間、歓声が二人を祝福したことを考えても、二人は受け入れられたと見て良いだろう。……もっとも、アレを見てまだ『所詮は女よ』とか、『まぐれで勝ちを拾っただけに過ぎぬわ』とか抜かす輩がいたが……正直、死ねば良いのでは?気に食わないので局所的メンチビームで黙らせましたが。豚の様な悲鳴を上げ、痙攣しながら失禁して失神しやがりました。ざまぁみやがれ。「シオン・ウォルフマイヤー、前へ!!」俺の出番か……。俺は呼ばれたので、前に出る……すると、俺の相手が向こうからやってくる………うん、まぁ……予測はしていた。ジュリアがポールの相手で、陛下の横にリーヴス『のみ』が控えていた時点で。「やはりライエルか……まぁ、予測はしていたが」「ふっ……勝負を預けていたからな……俺自ら志願した」ナイツマスターの『赤』を纏う男……アーネスト・ライエルその人が相手だと言うことを――。「それはまた……律義なことで」「フッ……遠慮は無用だぞ?」俺はやれやれ……と、肩を竦めるが、それを見てライエルは微かな微笑みを浮かべて言う。遠慮無しで来いと……ならば。俺は愛剣であるリーヴェイグを抜き放ち、ライエルもまた、自身の双剣を抜き放つ。「それでは……始め!!」リーヴスの声が響き渡り、それぞれ構えを取る。とは言え、武器の違いはあれど、構え自体はあまり変わらない。半身になりながら剣を下げる様な構え――所謂、自然体。互いに距離を計る……向こうに見えているかは知らんが、制空圏もまた狭まる……。というか、既に制空圏内だったりする……。だが、まだ攻めない。互いに、じわりじわりと近付いて行く。「………」「………」練兵場内は、痛いくらいに静寂に包まれている。俺達が発する雰囲気が、空気を伝って伝染しているのだろう……。ライエルの奴……本気だな……。恐らく、初っ端から必殺の一撃に賭けてくるのだろう……。冗談でも何でもなく『必殺』を……。ライエルがバトルジャンキーだとは思わなかったが……仮にも同僚に向ける気迫じゃねぇぞ?「殺る気漫々じゃないか……仲間に対する気迫じゃないな」「そのくらいの気迫でやらねば、お前には届きそうに無いのでな」その意気や良し……俺もその心意気に答えてやりたいが……。俺が全力を出せないのは言わずもがな……ならば、本気で相手をしつつ抑えるしかないか……まぁ、何時ものことだが。大気が揺らぐ……互いの剣気、闘気、殺気がぶつかり合い、バチバチと空気を弾く様な――そんな空気。そして―――。「「っ!!」」互いにぶつかり合った――!!ライエルは二刀流による、渾身の×の字を描くクロス切り。対して、俺は大剣を片手で振るう――パッと診はオーソドックスな唐竹割り……。だが、互いにその速度は神速……。激しい衝撃波に遅れて聞こえてくる金属音……。「ぐぉ……!!?」ぶつかり合いの果て、打ち負けたのはライエルの方であり、激しく後方へ弾き飛ばされる。「くっ……まだだ!!」しかし流石と言うべきか。直ぐさま体勢を整え、再びこちらに向かってこようとするが……。俺はリーヴェイグを鞘に納めた。既に勝敗は決しているからだ。「!?何故、剣を鞘に納める!?」「もう勝負は着いたからだ……その武器ではもう戦えまいよ」「なんだと……!?こ、これは!?」ライエルは剣を納めた俺に対して、憤りをぶつけてきたが、俺が武器の指摘をしたので、手元の武器を確認すると……。ライエルの双剣の刃はバラバラに切り裂かれて、地に散らばっていたのである……。「ば、馬鹿な……いつの間に……」「さっきぶつかり合った時にな……見えなかっただろうが――」そう、俺はパッと見は唐竹割りを放った様に見えただろうが、実際は手首のスナップと、肘、肩の関節をフル動員し、ライエルの武器を光速で切り刻んでいたのである。『武器破壊』限りなく本気で相手をし、かつライエルを傷付けない様に戦うために、この選択肢を選んだ。ライエルが吹き飛んだのは、最後に柄の端でライエルの剣の鍔に少し強めに衝撃をぶち込んだからである。本当なら、ポールとジュリアの様に互角の戦いを演じれば良かったのかも知れないが……。ライエルの心意気を知った以上、生半可な対応をしたくは無かったし。下手に互角を演じれば、ライエルのためにもならないと思ったからな……。―――決して、以前にジュリアとニャンニャンしようとしていたのを、邪魔されたことを根に持っているワケじゃないからネ?「……よもやこれほどとはな。俺の技も、この剣も、生半可な物では無いのだがな……」「我が愛剣、リーヴェイグを俺が手にし、俺がある程度力を出して振るったんだ……断てぬ物は無い」ため息を吐きながら言うライエル。対して、俺は断言する様に言い放つ。確かに、ライエルは一騎当千の達人だ。その武器も特注品なのか、中々良質な剣だ。だが、それ以上に俺がライエルを上回った……。力量も、武器も……それだけのことなのだ。……まぁ、俺の場合、修業はしたが、その能力の全てが修業の成果なのか……と、問われるとYESとは言えないので、あまり偉そうなことは言えないんだが……。「で、どうする……続けるか?」「いや、この試合……私の負けだ」俺の問いに、思ったよりあっさりと答えるライエル。心なしか、若干スッキリしている様にも見える。「そ、それまで!!勝者、シオン・ウォルフマイヤー!!」戸惑いながらも告げられた、リーヴスの宣誓により試合に終わりが告げられた。ざわ……ざわ……。ZAWAZAWA TIMEですね分かry……。カ○ジじゃねぇんだから……。いや、分かるけどね……ポールの場合と違って、一瞬で決まったんだし……。何より、この会場の皆様には俺が何をしたか……なんて、分からなかっただろうし。人間、理解不能な物に対してはどうしようも無く狭量だ。ポールの時の様な歓声は期待するべくも無いが……『ば、化け物……』は言い過ぎだと思うんだ。まぁ、そんなことを言ってるのは陛下に反発心を持つ貴族か、騎士畑とは無縁の政治家貴族くらいだったのは、正直予想外デス。エリオット陛下達は無論だが、騎士団長や将軍ら、騎士畑出身の貴族はむしろ『頼もしい』とか、好意的な言葉を零している者もいる。彼らの場合、直感的に何かを感じたか……見えなかったけど、勝ったんだから良いじゃん!!……という二種類の反応に分けることが出来る。嬉しいが、少し複雑な気分だったり……。というのも、否定的な意見も、肯定的な意見も、全体から見たら半数にも満たない。殆どの人間は首を傾げているのだろう。『何が起こったか分からない』のだから。俺が勝ったのは理解しているが、それに対して納得していないと言うか……。俺が勝ったという結果は理解したが、勝つまでの過程が理解出来ていないと言うか……。――やはり互角を演じるべきだったか――?今更遅いか……反省はしているが、後悔はしていない。何はともあれ、力を示すことは出来たワケだ。陛下に反発心を抱く連中に対する、牽制にもなったしな……。「これにて、御前試合は終了です。シオン、ポールの両名には、更なる研鑽と奮起を期待します。頼みましたよ」「ハハッ!」「天と地と……我が命に賭けて!」こうして、御前試合という通過儀礼も無事終了し、俺達は名実ともにインペリアル・ナイツとなったのだった……。***********バーンシュタイン王城・謁見の間「二人ともお疲れ様でした」エリオット陛下が俺達に労いの言葉を掛ける。俺達はそれぞれに礼を述べる。ちなみに、今この場にはエリオット陛下と、インペリアル・ナイツしかいない。「ゲヴェルを倒し、手にした平和を……皆の力で守って行きましょう」「「「「ハハッ!!」」」」陛下の言葉に、肯定の意を示したのはライエル、リーヴス、ジュリア、ポールの四人。だが俺は――。「お言葉ですが陛下……まだ、この平和はつかの間の物に過ぎません」敢えて苦言を提する。「どういうことでしょうか?」「……まだ、ヴェンツェルが残っているからです」「ヴェンツェル?何故、そこで彼の名前が出てくるんだい?」陛下の問いに、俺は答える。リーヴスは疑問を尋ねて来た……いや、リーヴスに限らず、ライエル、ジュリアも同じ疑問を抱いている様だ。ポールは事情を知っているから、ハッとした表情をしているが……。俺は説明する……ヴェンツェルがルイセのグローシュを奪い去ったことを……その時の顛末を。「そんな……ヴェンツェル様が……」「……残念ながら事実です。私とポールが証人となりましょう」「我々は敵の妨害に遭い、直接その光景を目撃したわけではありませんが……ヴェンツェルがテレポートで逃げ去るのを確認しました。ローランディアの者たちの証言もありますし……何より、彼女――ルイセが日を追うごとに酷くなっていくのを、この目で確認しておりますから……」陛下は軽くショックを受けている……無理もないか。自分の命の恩人とも言える相手が、そんなことをしたなんて信じられないだろうしな。俺とポールの言葉を聞いて、皆は黙り込んでしまった。嘘だと思いたいが、俺達がこんな嘘をつくワケが無いし、何のメリットも無いことが分かっているからだろう。「奴が何を企んでいるかは分からない……だが、良からぬことを企んでいるのは明白……か」「我が国もそうだが、各国はゲヴェルを倒したことで浮足立っている……そこを突かれたら……」と、ライエルとジュリアが言葉を零したのを、俺は頷いて肯定した。「そうですね……各国に注意を促さなければなりませんね」立ち直った陛下は、二人の意見を聞き取り、そう言い放つ。そして――俺は陛下に進言する。「陛下……その役目、私に任せて戴けませんでしょうか?」「シオン?」「私はテレポートが使えます、伝令役としてはうってつけかと……幸いにも、各国の王、重臣とは面識がありますので」俺は伝令役に志願する。下手な奴に書簡を届けさせるより、この方が絶対早い。おまけに、俺はカーマイン達に引っ付いていたので、ローランディアのアルカディウス王とも面識があるし、カーマイン達とは言わずもがなである。ランザック王とは、言うほどの面識があるワケでは無いが、ウェーバー将軍は瞬転で部隊ごと運んだこともあるから……覚えてくれているだろう。「わかりました。貴方に頼みましょう……書簡をしたためますので、明日にでも行ってもらえますか?」「はっ、御意にございます……つきましては陛下……私に案がございます」俺は、感じた――時代のうねりという奴を。「ヴェンツェルは神出鬼没――いついかなる場所で足元を掬われるとも限りません……足並みを乱すのは得策とは思えません」そのうねりを生み出す一因が、他でも無い――俺にもあるんだと――だから。「故に、私は改めて三国間の繋がりを強めるために――『三国同盟』を結ぶことを提案いたします」俺は敢えてそのうねりに飛び込む――その先にあるのが、幸福であると信じて――。***********おまけ『その時、彼女は決意した』私は今日、父に連れられ、バーンシュタインにある練兵場に来ていた。何でも、今日……新たにインペリアル・ナイトに任命された者たちのお披露目の意味を込めた、御前試合が開かれるらしい。父は所謂、地方貴族という奴だが……だからこそ、女だてらに武を学ぶ私への励みになるだろうと、此処へ連れて来たのだろうと思う。私が武を学ぶのは、偏に弟のためなのだけど……。私の弟は病弱だ……そんな弟を元気付けるために。お姉ちゃんだって頑張れば出来るんだから……と。けど、弟は『お姉ちゃんだから頑張れるんだ……僕なんて……』と、諦めてしまっている。私は私なりに困難なことに挑戦してきたつもりだったのに……やはり駄目なのだろうか……?そんなことを考えていたら、もう試合が始まるらしく、戦うだろう人たちが向かい合っている。片方はジュリアン・ダグラス将軍。最近入ったインペリアル・ナイトだって父が言ってた。――綺麗な人ね――。私は彼を見てそう思った……まるで女の人みたい。でも、そんな筈は無いわね。女性はインペリアル・ナイトになれないのだから―――。「――お前が何を考えているかは知らんが、ジュリアン将軍は列記とした女性だぞ?」「!?そ、そうなのですか!?だって……」「エリオット陛下が決めたことらしい。『男のみに資格があるなど、間違いだ。条件に見合うなら、女性にもまた資格がある』……とな。彼女の本名はジュリアというらしい」「ジュリア……」女性のナイト……本当にそんなことが……?そんな彼女に相対するのは仮面を着けた少年……多分、私と近い年齢だと思う。うん、かなり整った顔をしているのが、仮面ごしでも分かる。名前はポール・スタークというらしい。恐らく、彼が新入りナイツなのだろう。そして、試合の開始が告げられた……。私はその試合に釘漬けになった。そのあまりの凄まじさに……。―――分かる―――私も武術をかじっているから分かる……この二人、本当に強い。なんとなく――仮面の少年の方が強い気がする。けれど、それに追い縋るジュリア将軍。動きは追い切れないけど、それはあまりにも流麗で、そして苛烈。――これがインペリアル・ナイトの戦い……。結局、勝ったのは仮面の少年だった。けれど、そんなことより私には衝撃的だった。私と同じ女性なのに、あれだけの動きをしたあの人の力と、実力が上回る相手に一歩も退かないあの気迫……。その瞬間、私はジュリア将軍に憧れたのだと思う。「私も……あの人みたいになれるかな……」「どうかな?陛下が認めたとは言え、女性を軽視する考えが無くなった訳じゃない。それに将軍の様になるのは、並大抵の努力では足りないぞ?」私の零した言葉に、父が答えてくれた。だけど、私にはあの姿が焼き付いたのだから……絶対諦めない!!それに、それだけ困難な道なら、弟を元気付けることが出来るかも知れないから!「ふん、所詮は女……あんなどこの馬の骨とも知れない奴に敗れるとは……運が良かったか、まぐれに決まっておるわ!!」「っ!!」私は後ろから聞こえた声に、思わず振り向いて睨み付けようとして―――。ゾクゥッ!!!「っっ!!??」何か――とてつもない何かが私を掠め――。「ぷぎいいぃぃぃ!!!??」睨み付けようとした男が、豚の様な悲鳴を上げて倒れ伏した。白目を向いて口から泡を吹き、し…失禁……って、汚らしいわねっ!!気絶した男の取り巻きらしき者達が、慌てふためいているけど、あんな腐った豚なんてどうでも良いわっ!!私は何かが飛んで来た方向を見遣る……。そこには、白銀を携えた蒼い衣に身を包んだ男がいた……。ジュリア将軍に負けず劣らず綺麗だけど……何故か―――凄く怖いと感じた……。今のは……彼が?多分、彼も新入りナイツの一人だと思うけど――他のナイツ、ジュリア将軍、リーヴス将軍……それにさっきのポールの制服とは色合いが違う。通常、インペリアル・ナイトの制服は紫と白を基調にした物だ。だが、彼のそれは蒼と白……。まるで他との差別化が図られているかの様に……けど、何のために?……ナイツマスターは赤だけどね?そして、試合が始まる――彼、シオン・ウォルフマイヤーと、ナイツマスターの赤を纏うナイト……アーネスト・ライエルの試合が。正直、先程の様には見られなかった……。空気がピリピリする……二人の発する何かがこちらにまで伝わってくる……。怖い……けれどそれ以上に目を引き付けられる。怖い物見たさ……とでも言うべきか。何となく感じる……この戦いは一瞬で終わるのだと……。その直感は正しく、二人がぶつかり合ったかと思うと、直ぐさま片方が弾き飛ばされた。ライエル将軍だ。彼は壁に激突しそうなのを何とか堪え、再び向かって行こうとしたが……対する相手が剣を納めてしまった……。その理由も明らかになる……ライエル将軍の武器が破壊されていたのだ。私は戦慄した……あの一瞬であんなことを……?私が彼を見て恐怖した理由が分かった……。理解出来ない……底が見えないのだ。ライエル将軍だって、私にとっては遥か頂の上……雲の上の人だ。そんなライエル将軍を子供扱いしてのけたのだ……あの男は。「ば、化け物……」私の近くにいた誰かがそんなことを口にした……。正直、私もそう思う……あの力……まるで化け物の様な……。化け物の様『に』……凄いんだってことが!!「お父様………凄いですね」「うむ……まことに頼もしい限りだ。流石はウォルフマイヤー卿の息子……ということか……」ジュリア将軍、ライエル将軍、ポールとシオン……インペリアル・ナイトって言うのはこんなに凄い人達ばかりなんだ……。なれるだろうか……私に?いや――。「さて、では戻るかシャルローネよ」「はい、お父様!」なってみせる――弟のためにも、何より自分のためにも!!――こうして、少女――シャルローネ・クラウディオスはインペリアル・ナイトを志すこととなる。ジュリア・ダグラスの在り方に憧れ、シオン・ウォルフマイヤーの武を目の当たりにして――。彼女は次代を駆け抜けて行くことになる――。なお、彼女は憧れた二人に因んで大剣を学ぶが、後に国から支給されたリング・ウェポンは弓に変化してしまい、orzする羽目になるのだが―――それはまた別のお話。