俺が一階に降りてくると、母さんとルイセ…それに城の兵士が居た。「大丈夫でしたか?」「ああ……母さんにも、心配掛けたみたいだな…もう大丈夫さ」心配そうに俺を見てくる母に俺は大丈夫だと伝える。実際はまだ少し身体が怠いのだが、たいしたこともないので言わないでおく。余計な心配を掛けたくないしな。「なら良いのですが……それにしても、どうして私の研究室などにいたのですか?」「研究室……?」「君は城にあるサンドラ様の研究室の中で倒れていたんだよ」兵士の人が、俺が発見された時のことを話した。「…………」研究室……確かにそんな夢も見たが…いや、アレは夢では無い、のか……?「アタシから、もう一度説明するね?西の門の外で盗賊に襲われていた女の人を助けた後、アンタは突然倒れちゃったんだよ」そこまでは覚えてる。あの時の感覚は嫌な感じだったからな。「それでアタシ、慌てて人を呼びに行ったんだけど、戻ったときにはアンタの姿はなかったの」「ティピ。あなたには創造主である私と交信するという能力があったはずでしょ?」「あ……忘れてた……すみません、マスター!慌ててたもので……」ティピが涙目で母さんに謝罪する。母さんも仕方ないと言って、咎めはしない。ティピも必死だったのだろうから、俺も言及は控える。「とにかく、倒れたのは西門の外。そして発見されたところは私の研究室……あなたはどうやってこの2ヶ所を移動したのですか?」そうは言われてもな…未だに夢か現実か半信半疑な訳だし……。まぁ……俺の意識がある内の話なら……。「俺が気付いた時には研究室の前だったよ」その後、研究室に賊の一人の死体が残っていたこと、俺の剣に血が付着していたこと、母さんの研究書が盗まれたことが告げられる。「無くなった研究書と、君が倒れていたことから、賊は複数だったと考えられるんだ。何でも良い。思い出した事を教えてくれ」思い出したことと言っても…な。あの時の俺は……やたらと冷たくなっていく心に反して妙な高揚感があり……賊を切り殺した感覚が………ん?そういえば……。「確か……一人は窓から逃げた様な……」「やっぱりそうか!…しかし誰が、何の目的でサンドラ様の研究を盗んだのか」母さんの研究は『魔水晶の魔力成分について』の物だ。魔水晶とは、読んで字の如く…魔力が結晶化したものなんだが…とある場所で採れる魔水晶にはグローシュが含まれているらしい。「グローシュって……」「ティピ……昨日のことをもう忘れたのか?」阿呆の子……というより、鶏並の頭かお前は?「お、覚えてるわよ?確か……グローシアンが持ってる特別な魔力のこと…だったわよね??」「自信なさ気に聞くなよ……まぁ、正解だが」ティピは大はしゃぎだが、本気で心配になってきた……教養をキッチリ仕込むべきか?「グローシュは普通の人には無いから、それを取り出すことが出来れば、魔導学は大きく変わる。お母さんはそれに成功したの」ルイセが母さんの偉業について誇らしげに語る。「ほとんどの人は忘れ去っていますが、私達人類は、本来この世界の住人ではありません。我々の居た世界は、ある理由で滅びの危機を迎えました」母さんが言うには、500年前に人間の持つ魔法の力を結集し、人間はこの世界に渡って来た。それまでは誰でも強力な魔法が使えたらしいが、この世界に来てからは僅かしか魔力が持てなくなってしまった。それはこの世界にグローシュが無かったから。元の世界には大量にグローシュが満ちていて、それを魔法に用いていたのだが、この世界では精神力――つまり、己の中の保有魔力だけで魔法を行使せねばならない。例外はグローシアンのみ。この世界は、元の世界との間の空間を歪め、二つの世界を重ね合わせて出来ている…。だが空間の歪みは一定ではないため、たまに元の世界の影が現れることがある。それが日食や月食として見える訳だが、この時に生まれた者は無意識にこの時の歪みを記憶し、自分の中に向こうの世界とのチャンネルを開ける様になる。グローシアンはこのチャンネルを利用して、向こうの世界のグローシュを使うことが出来る。これが例外の理由だ。俺たち、通常の人間は保有魔力のみを利用するのに対し、グローシアンは元の世界からグローシュを引っ張って来て使うことが出来る。理論上は元の世界のグローシュが尽きない限り無尽蔵に。月食、日食、皆既月食、皆既日食の順にグローシアンの力が強まると言うが、これは一度にどれだけのグローシュを扱えるか……ということに繋がる。月食のグローシアンは一度に扱えるグローシュは微々たる物だが、皆既日食のグローシアンともなればその扱えるグローシュの量は膨大だ。我が妹ルイセも皆既日食のグローシアンなので、魔法の才で言えば母さん以上の物を持っていることになる。「とにかく、グローシュを人工的に取り出し、活用出来れば、誰もが昔のように強力な魔法を使うことが出来るようになるはずです……多分、その方法を欲した者が私の研究を奪ったのでしょう」と、こういう訳らしい。兵士の人は盗まれた魔導書を取り返す為に城へ、母さんは研究書を書き直す為に自身の研究所に向かうことに。これに際してルイセの魔導実習は一時中断の運びになった。母さんが研究所に向かう前に俺は頼み事をされる。「これをある人に渡して欲しいのです」「これは……眼鏡…か?」それは白い縁の真ん中に赤く半透明なガラスの様な物が端から端へと繋がっている。「魔法の眼です」「眼っ!?」ティピが驚く…母さんが言うには、失った視力を魔法で多少戻してくれる物で、東のデリス村に住む剣士に頼まれて作ったらしいが……こんな状況なので代わりに行ってくれないか――とのこと。その剣士とは、件のデリス村の宿で待ち合わせているらしい。名をウォレスと言い、特徴は片腕が義手なんだそうだ。「義手に義眼……凄い怪我でもしたのかな?」ルイセが呟く。……義手に義眼……か。俺は何故か、今朝見た夢に出て来た男を思い出していた。「まずは東のデリス村に行って、ウォレスさんに魔法の眼を渡すのね。それからはどうするの?」「それは…」「ねぇ、アンタ。犯人を見たんでしょ?だったら、他の兵隊さんより、アンタの方が見つけやすいと思うんだけど」「それって、お兄ちゃんが犯人を捕まえるってこと?」ティピが提案し、ルイセが俺に問う。まぁ、最初からそのつもりだったが。「言われるまでもない……しっかり落し前は着けさせてもらうつもりだ」「やっぱり!お兄ちゃんならそう言うと思ってたんだ☆さぁ、行きましょ!」って…待て。「行きましょって、ルイセちゃん?」「決まってるじゃない。私も行くの」「だって、あの……」「お母さんも忙しくて魔導実習が出来ないから、その間、私も一緒に行く!」ルイセが仲間になった!「って…待て待て。俺は許可した覚えはないぞ?」危うく流される所だ。「ティピ……お前もお前だ。キッチリ説き伏せるなり、強引に押し返すくらいしろ。あっさり押し切られてどうする?」「それはその……その場の勢いというか……」ったく、普段は意味もなく強気な癖に、不足の事態には対処出来ないんだからな…。「良いかルイセ?昨夜忍び込んだ賊は、研究所の番をしている兵を手に掛けている。そんな奴らだ…仮に見付けられたとしても、魔導書を素直に渡すとは思えない。抵抗されるのはほぼ確実だ……俺は、お前をそんな危険な目に合わせたくない」「大丈夫だよ!お兄ちゃんが守ってくれるんでしょ?ティピに聞いたよ、お兄ちゃん、襲われてた女の人を鮮やかに助けだしたって」ティ〜ピ〜……お前という奴は……。ガシッ!!「はうっ!?」俺はティピの後頭部を掴む。「ちょ!アンタなに」「……少し話しがある」俺はそのままティピを引っつかんだまま、奥の寝室に向かう。「あああアンタ…顔が恐いよ?…ごめんね?いや、ルイセちゃん心配してたし、何があったか聞きたがってたし…」ガララっ…俺は引き戸を開ける。「ゴメンナサイ!?アタシが悪かったから許し」ピシャリ。俺は扉を閉めたのだった…………。「うわきゃああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」数分間…ティピの絶叫が木霊した。その後……心なしかスッキリした俺と、俺の肩でぐったりしてるティピが寝室から出て来た。何故かルイセは部屋の隅でガクブル震えていたが……何故だ?不覚にも可愛いと思ってしまったが。その後、ルイセの説得を試みる…。ルイセは自分には魔法もあるし、決して足手まといにはならないと主張。対して俺はルイセの身の危険、仮にルイセがどうにか出来ても相手を殺してしまう可能性…等を説いた。俺はルイセのことを想って言ったのだが、ルイセには厳しく聞こえてしまった様で、とうとう涙目になってしまった。「わたし……お兄ちゃんと……一緒に居たいだけなのに……それも駄目なの…?」マズイ……泣きそうになってる……だがここは厳しく言ってやらないと………。厳しく言って……。結局、俺が折れる形になってしまった。何故って……ルイセの性格をよく知ってるから――というより思い出したからだ。仮に俺がここで断固として同行を許可しなくても、ルイセは隠れて着いてくる……昔からそうなんだあいつは……俺にベッタリで、何時も一緒で……何かと俺に甘えて来て……。いつからだろうな……ルイセが俺に依存するくらいに、なってしまったのは。今でこそ、俺の兄としての努力の賜物か、それは成りを潜めたが…。時折こうして姿を現す。だから決して俺が甘い訳では無い。……多分。俺達は街道を進みデリス村に向かって行った。*******え〜と……こういう時はアレだ。あ、ありのまま起こったことを話すぜ!俺とラルフとニールはカレンとゼノスの救援に向かう途中、盗賊の襲撃に合う。楽勝で返り討ちにしたが、おかげで結局間に合わなくなり、ローランディアに向かう途中の山小屋で一泊することになった。翌日、とりあえずローランディアに向かうか…と話してたら覆面の男が小屋に入って来て、俺達に襲い掛かってきたので、俺は思わず裏拳一発でのしてしまった。気が変になりそうだ――。フラグ達成とかイベントクリアとか、そんなちゃちなモンじゃあ断じてない。もっと恐ろしい物の片鱗を垣間見たぜ……と言う所か。まぁ、詳しく言うならば……シャドーナイトらしき奴をノックアウトして、サンドラの魔導書らしきものをゲットしてしまいました。フラグブレイカーですね本当にありがとうございまry――じゃねーよ。どうしよう…フラグ叩き折っちまったよ……。******12話完成です。次からはまたシオンが主体です。