―――彼の者に慢心は無かった――。彼の者は自身の力量を理解し、その過ぎたる力を把握し、常にその力を抑えて来た――。また、その力に驕らず己を磨き、鍛え、研ぎ直して来た――。力と技と知……学び鍛え抜いたそれは、元より過ぎた力を更に高みへと押し上げた――。最強―――その言葉でも表し切れない程に、彼の者の力量は高まった――。そう――単純な力量ならば、この世界の者が束になろうと太刀打ち出来ぬ程に――。彼の者のそれは、星をも消し砕く―――過ぎたる異端。故に――彼の者は己を律し、常に抑えて来た。―――だが、彼の者は心が弱かった。いや、弱いというのは語弊だろう……ある意味では強いとも言えるのだから――。彼の者はかつて――この世界とは違う世界にあった――その世界は、この世界の様な闘争が日常にある世界では無かった――争いが全くないとは言えなかったが、少なくとも彼の者の周囲――国では血で血を洗う戦争は無くなって久しく、民草の一人であった彼の者には、争うことこそあれ、命のやり取りからは無縁の場所に居たと言えよう。彼の者は命に敏感である――それはかつての世界で、最愛の者を亡くしたから――。幸い、彼の者のトラウマはこの世界にて解消された――彼の者を想う者と、他でも無い……かつて亡くした最愛の者の御霊によって……。だが、心のしこりが消えたワケでは無い――。彼の者は――この世界で多くの命を奪って来た――。それは大切な者達を守るため――無論、彼の者程の力量があれば……命を奪わずに守ることも出来た……そんなこともあった――。だが――戦争という環の中においては、大切な者達の身に危機が及ぶことも――幾度と無くあった。かつての様に―――失いたくはない―――。その様な強迫概念のような想いが、彼の者を突き動かした―――迷いは……無かった。この世界で初めて人の命を奪った時――彼の者は壊れかけたが――大切な者に救われた――。故に迷いは無い。命を奪うのはしてはいけないこと―――出来るならしたくはない―――。彼の者の心は、未だにかつての世界の民草の時のまま――故に、目につく者は救えるだけ救ってきた……それでも、大切な者達と量りに掛けたならば―――迷う筈が無かった。一緒に笑いあった友のため―――自分の心を救ってくれた人のため――大切な仲間のため―――そのためならば、自身の心が軋もうと構わない―――それが彼の者の信念――。だが、彼の者は苛まれる――彼の者の異能により、怨嗟の声が、纏わり付く怨恨が、奪った命が消える瞬間が、命を刈り取った感触が―――。忘れることは出来ない―――それが彼の者の異能だから。怨念の塊から目を逸らすことは出来ない――それが彼の者の異能だから。いや――仮に忘れられようと、目を逸らすことが出来ようと―――それはしないだろう。それが彼の者の強さなのだから―――。慣れることは無い――ならば奪った命――怨嗟の念を背負ってでも―――それもまた、彼の者の信念なのだから―――。――だが。それは民草の心を持つ彼の者からすれば、あまりにも険しい茨の道―――常に傷付き、叫びを上げていた――。コロシタクナイ――コロシタクナンカナカッタンダ――ヤメテクレ――ダレカ――タスケテ――……ケレド、オレにそれを言う資格は無い……それが俺の罪……そして罰――。かつての世界の民草――その中においても、彼の者は優し過ぎた……故に彼の者は声にならない叫びを心に押し込める。――命に敏感故に、奪う自分を許せなくて――大切な者を守りたいが故に奪い、自身も傷付いて――人ならざる異能を持つが故に、声にならぬ叫びを上げる――――それが彼の者の弱さ。だが、彼の者はそれを周りに悟らせない―――表面上は何よりも強固で巨大な城壁の様な心―――毅然で、冷静で、余裕――しかし、それは張りぼて。傍目には何よりも強く見えるが、それは実際には果てしなく、儚く、脆い―――。故に、彼の者の心は強いとも弱いとも取れるのだろう――。――――仮に――――。仮に―――彼の者の心の張りぼてを壊すような手段を持つ者が居たならば―――。「ふふふ……悪いケド、君には此処に居てもらうよ……シオン君?」彼の者は最強足り得なくなるだろう―――。「……あの方の命令は足止めだったけど、せっかくのチャンスなんだ……君の能力を戴こうかなぁ?うん、そうしよう♪♪」彼の者に――慢心は無い――心が弱い故に――張りぼてで隠す。用心は怠らない―――張りぼてを破壊されようと―――。***********「ふぅ……今日はこんなモンか」俺は毎朝日課になっている早朝鍛練を行っていた。一応、肩書だけとは言えナイツになったワケだからな……。精進を怠るワケにはいかないだろ?とは言え、早く起きすぎたな…………まだ時間が……っ!!?「この魔力は………!!?」忘れもしない………あのフードの男の魔力……奴が近くにいやがるのか!?*********「……来たね、待っていたよ」瞬転した先に居た奴は、俺が来るのを予期していた様だった……周囲は森に囲まれている。「まるで、俺が来るのが分かっていたかの様な口ぶりだな?」「フフフ……分かるさ。君にとって、僕は問答無用で殺しに掛かる程の危険人物……そんな奴が近くに居るのが分かれば、放ってはおけないよねぇ?」「質問の答えになっていないぞ?」「クックックッ……この間、君は遠く離れた僕の背後に突然現れた……それはつまり、僕の居場所を正確に特定する何かと、僕の居場所に瞬時に移動する術を持っているということ………」……どうやらそれなりに頭は切れるらしいな……。「ついでに何故今回は僕に襲い掛からないか……それは僕の能力を警戒しているから……また逃げられちゃあ堪んないもんねぇ〜?」「言っておくが……以前の様にはイカンぞ」俺はリーヴェイグを抜き放つ……。「も〜……短気だなぁ……せっかくシオン君がナイツに就任したお祝いに、耳寄りな情報を持って来たのにぃ〜♪」そう言って、奴はスッ……と礼をする。「まずは自己紹介からかな?僕の名前はルイン――君と同じ転生者。趣味は改造手術と凌辱――後は他人を手玉に取ることかな?以後宜しく―――」ザシュッ!!!「屑が……聞く耳なんざ持たねぇよ」「もう……酷い【ズシュッ!!】………な……」「……聞く耳持たんと言った。大人しく死んどけ……屑野郎」俺は瞬時に距離を詰め、奴に切り掛かった……案の定、奴の身体から影がぶれた―――もし、奴の能力がロマサガ3のシャドウ・サーバントならば、無効に出来る攻撃は一回のみ――直ぐに距離を取ろうとした奴に、二撃目を見舞う―――上手く避けられ、真っ二つには出来なかったが……瞬時に突きに変えて心臓を貫いた。今回は幻日も作用しなかったらしい……。終わったな………ついカッとなってやっちまった……本当は目的や正体まで探るつもりだったが……正体は奴から語ったからな。この手のタイプは、隙を見せたら付け込んで来る……。俺の本能が告げていた……こいつは生かしておいては危険な人種だと。「……悪いがテメェに構ってる暇は無いんでな」俺はその場を去るために瞬転を…………っ!?ゴアアァァァァァァァッ!!!!!奴の死体を………炎の柱が包んで………まさか……っ!?「………危ないなぁ。リヴァイヴァを掛けてなかったら死んでたじゃないか……スッゴク痛かったよぉ?」「………月影術の次は朱雀術か」「そう……これが僕の能力の一つ……ロマンシングサガシリーズの術と技が使えるんだ……敵味方問わずに、ね」成程な……これまた随分とチートだな……しかも、【能力の一つ】ということは、他にも能力があるということになるが……。「……僕はねぇ……他人を傷付けるのは好きだけど……傷つけられるのは大嫌いなんだよぉっ!!!!!」狂った様に喚き散らし、奴が取り出したのは…………菱形の何か。なんだ………?「ナキワメーケよ!!我に仕えよっ!!!」奴はそれを木に投げ付け……木にそれが張り付いた。そしてその木は光に包まれ……そこから現れたのは……。『ナーキワメーケーッ!!!』「な………」巨大な大樹の化け物だった……。『ジュモーークーーッ!!!』「ちぃっ!?」大樹の化け物は腕の様に変化した枝を、伸縮させ……鞭の様に打ち、レイピアの様に穿ってくる。威力はクレーターや円形の穴が出来ていることから、かなりの物なんだろうことが伺える。無論、易々と喰らってやるつもりは毛頭ないし、喰らっても俺なら致命傷にはならんが…。「どうだい?とある組織が所持していたアイテムさ……その戦闘力や能力は、取り付かせた物により左右される……そして、ソイツは僕の意のままに動く………もっとも、僕は弄る楽しみが無いから滅多に使わないんだけど。消耗品だしね?」『ジュモーークーーッ!!!』大樹の化け物は、頭の位置にある葉を無数に飛ばしてくる……それは周囲を切り裂き、穿ちながら俺に殺到する……が、その程度で俺をやれると思うな……っ!!「舐めるなよ……」『ジュ……モ……ク………』俺は跳躍し、大樹の化け物を菱形の物ごと真っ二つに切り裂いた。ズズーーーン……と、大きく音が響き渡る……見ると、大樹の化け物は元のサイズに戻った状態で唐竹に真っ二つとなっていた。「次はお前だ……慈悲は無いぞ」「慈悲は無いぞ……だって♪カッコイー(笑)にしても、ナキワメーケを一撃かぁ……良いね良いねぇ!!ますます君の力が欲しくなったよぉ!!」「……切り捨てる!!」俺は気を纏い、身体能力を上げる……今の俺はゲヴェルの本気モードや、ラルフの全力に匹敵するだろう所まで身体能力を引き上げている。無論、これ以上先も存在するが……ハッキリ言ってこれ以上はオーバーキルになるし、周りへの被害も甚大となる……。「青白い半透明な炎……ははは……まるでドラゴンボールに出てくる気みたいだねぇ……それとも、みたいじゃなくて……本物?」「さてな……それは」シュバッ!!!「自分で確かめな!!」俺は奴の懐まで距離を詰める……奴には俺が見えなかった筈だ。現に、奴の視線は未だに俺が居たであろう場所を見ているのだから。俺は奴を蹴り上げる……それだけでも致命傷になる威力の蹴り……それで奴を宙に浮かせた所に――飛竜翼斬を叩き込む!!それで終わる………筈だった。ガキンッ!!!「!?障壁……がああぁぁぁ!!!?」俺の蹴りが紫の障壁に阻まれたかと思うと、突如として衝撃が俺を襲う……まるで、思いきり蹴られた様な………まさか!?衝撃に弾かれた俺は、大きく弾き飛ばされた……何とか踏ん張りはしたが……。「俺の蹴りを……は、反射したのか……」「ご名答♪これを使ったのさ♪」奴が持っているのは鏡……?「物反鏡って……知ってるかなぁ?」「物反鏡……だと?……ちっ、何でもありだな……よもや、テトラカーンは使えやしないだろうな?」俺はヒーリングを掛けながら、奴に問う。ダイレクトにダメージが還って来たので、防御することが出来なかったのだ。もろに直撃したが……致命傷ではなかったのは幸いだったな。文字通り、全力では無かったのが幸を相したか。「そんなこと無いよ。僕には悪魔を召喚するツールも無ければ、ペルソナも降ろせない。ましてやマガタマなんて無いし……ね?これが僕のもう一つの能力……【アイテム創造】さ。僕の知識にあるアイテムを【創造】することが出来る……もっとも、【創造】出来るのは消費アイテム限定だし、知識が段々磨耗してきている僕では、【創造】出来るアイテムにも限りが出てくる……他にも色々縛りがあるんだけどね?」「そうか……さっきの大樹の化け物をけしかけている間に使ったのか……」「そうだよ?まぁ、君が最初から全力だったなら……使う暇も無かったけどねぇ」クッ……周りへの被害を考えすぎたか。実力では俺のほうが勝っている……。気を読んだが、コイツはさほど大きな気の持ち主じゃない。魔力に関しても同様だ。気に関してはラルフの方が強いし、魔力ならばルイセの方が強い。だが、奴の能力……正直厄介過ぎる。奴がどれだけのアイテムを識っているのかは知らんが……物反鏡を知っているということは、魔反鏡も知っているということだろう。チッ……あくまでもアイテムの効果だから、ラーニングも出来ないしな……。「言うまでもないと思うけど、魔反鏡も使ってるからね?魔法も無駄だよ。つまりあと一分強……僕は無敵ってワケ………それだけあれば」奴が取り出したのは瓶に入った液体。「君を無力化出来る」奴はその瓶の蓋を開けた……すると、その黄金色に輝く液体とは似ても似つかぬ、どす黒い煙りが溢れてくる。「煙幕か………そんな物に意味はないぞ?」「煙幕ぅ??フフフ……これはもっと素敵なモノだよ……」まさか毒か?だが、俺には【解毒能力】がある――それこそサンドラに盛られたゲヴェルの毒でも無ければ通じない……。チッ……視界が遮られたか……だが、奴の気は感じる。「それは不幸のエネルギー……人が不幸だと感じる想い……それを抽出し、凝縮したモノに指向性を持たせたモノ……簡単に言えば、それを受けた者は――」直接的な攻撃や、魔法攻撃は反射される……ならば、間接的なダメージを与える迄だ!!俺はリーヴェイグを鞘に納め――。「――悪夢に囚われる」奴へ向かい気を込めた拳を打ち放―――。「――兄さん?」「っ!!?……な……え……?」「どうしたの凌治兄さん?鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔してさ?」俺の目の前に居たのは奴では無く………。「れ、礼治……?」「そうだけど……どうしたの兄さん?なんか変だけど……風邪でも引いた?」海堂 礼治………俺の双子の弟……。「俺は……何をしていたんだ?」「何って……今日は沙紀との初デートなんだろ?昨日散々はしゃいでたじゃないか」「そう……だったっけ?」「……それは惚気?振られた弟としては苦笑い必至なんですが?」「そ、そんなんじゃねぇって!!」「本当に?……まぁ、良いや。早く下に降りてきなよ?母さんも朝食作って待ってるんだし」「分かったよ……」礼治を見送った俺は起き上がる……どうやら俺は寝ていたらしい。周囲を見渡す……。「……俺の部屋……いや、俺達の部屋か」……二つの勉強机、二段ベッド……俺のステレオコンポ、礼治の参考書、俺達の学校の制服――俺と礼治が、学生時代に使っていた部屋だ。「ん?学生時代……今もピチピチの学生じゃんか……?」何だろう……何か違和感を感じる。俺はこんなことをしていたのだろうか……違う気がする。何が違うかと聞かれると……。「分からないんだよなぁ……これが」おっかしいなぁ……俺って、記憶力は良い筈なんだがなぁ?「凌治ーーっ!!早く来なさーいっ!!朝ご飯冷めちゃうわよぉ!?」「わぁーてるよっ!……ったく、お袋はうるせーんだから……」俺はちゃっちゃと着替え、下に降りていった。勿論、沙紀との初デートらしいので、ビシッと気合いの入った服装で!とは言え、普段より少し小綺麗な格好ってだけだけどね。**********「クックックッ……危ない危ない♪」見ると、シオン君が拳を作り、こちらに向けて放とうとしている所だった……多分、何かの技を……恐らく物理攻撃でも魔法攻撃でもない何かを放とうとしていたんだろう……。しかし、それをする前に彼は不幸に囚われてくれた……。その証拠に彼は技を放とうとした瞬間のまま……微動だにしていない。「おっと……あまり近付き過ぎると、僕も巻き込まれるからね……離れておかないと。ククク、他人の不幸は蜜の味だけど……自分まで不幸になるのは御免だからね」僕はシオン君に纏わり付く、不幸の煙から離れ、事態を観測する……さて、原作のフレッシュな子達は自力でソレを振り払ったケド……シオン君はどうかなぁ?あの煙が晴れる方法は二つだけ……自力で悪夢を振り払うか、悪夢に完全に呑まれるか……。「ふふふ……悪いケド、君には此処に居てもらうよ……シオン君?」……あの方の……ヴェンツェル様の為にね。「……あの方の命令は足止めだったけど、せっかくのチャンスなんだ……君の能力を戴こうかなぁ?うん、そうしよう♪♪」ヴェンツェル様が言うには、シオン君はかつてのヴェンツェル様自身に匹敵するかも知れないグローシアンらしいし……。しかも気の様な力に、魔法を改変する能力……良いねぇ〜……それらが全て僕のモノになるかと思うと……ゾクゾクするよぉ……クハハハハ!!!「さぁ……早く闇に呑まれなよ……ああ!待ち遠しいなぁ!!早く!!早くぅ!!」ああ!!焦らされるだけ……快感が高まるぅ!!アハハ!!大丈夫だよシオン君……君の命は僕の贄として!!君の力は僕の糧として生き続けるのだからぁ!!!!ヒャッアハハハハハハハハァッ!!!!!!***********朝食を済ませたカーマイン達……。シオンが居ないことを気にするも、アルカディウス王を待たせる訳にも行かず、一先ずは謁見の間に……。アルカディウス王から伝えられた任務内容は、ゲヴェルの捜索……及び討伐だった。いよいよ、ゲヴェルを倒せばこの世界に平和が訪れるとあって、メンバーは気合い十分だ。しかし……。「……シオンさん、どうしたんでしょうか?」謁見の間を出た時にカレンが口にした一言……。「ナイトに任命された件で、国に呼び戻されたのかな?」「それは無いだろう……それならば私にも召集が掛かる筈だし……何より、我々は陛下からゲヴェル打倒の任を受けているのだから、それを蔑ろにするというのは、彼の性格上……考えにくい」ルイセの意見に異を唱えたのはポールだ。ポールの言う意見は、他のメンバーも納得出来る物だった。「あいつが何も言わずに消えちまうワケがねぇ」「そうだね。彼が独自に行動するとしても、それは事前に僕たちに相談するはずだ……」「何か不測の事態に巻き込まれた……か」ゼノス、アリオスト、ウォレスも首を傾げる。まがりなりにも、今まで苦楽を共にしてきた仲間のことだ。何かあったのではと推測するには十分。「けど、あのシオンさんだよ?何かあっても、鼻唄混じりでどうにかしちゃいそうだけど……」「ティピの言う通りかもな……生半可なことでは動じないだろ……シオンは」ティピとカーマインは、シオンなら大丈夫だろう……という意見を出す。これはカーマインとティピだけに限らないが、シオンの反則じみた強さを、メンバーは嫌というほど理解していた……。これも信頼の現れなのだろうが……。「それでも、シオンが何も言わずに居なくなるのはやっぱり変よ……」「そうですね……なんだか、嫌な予感がします」それでも不安を現にしたのがリビエラとカレンだ……別にシオンのことを信頼していないワケではない。むしろ、このメンバーの中では強くシオンを信頼しているだろう……しかし、故にこの状況は有り得ないと断言出来る。……カレンはこの様な事態に覚えがあった。カレンだけじゃない……カーマイン達も覚えていることだ。以前、シオンが似たように消えた時がある……ローランディアの貴族……コーネリウスの独断により捕えられ――拷問まがいの行いを受けた時である。慌てて助けに行ったら、思ったよりケロッとしていたのが、皆の印象に残っている……。「分かった……僕が捜してみるよ」「……ラルフ?」「僕ならシオンの大体の居場所は分かるからね……皆は先に用を済ませてくれ」そう言って、シオンを捜すのに立候補したのがラルフ……ある意味パーティーの中では、1番シオンとの信頼関係が厚いラルフだ。ラルフは説明する……自分は完全に気を読める。だからこそ、捜すのには適任だと。「でも、それじゃあなんで今まで黙ってたの?」「何と言うか……大体の居場所は分かるんだけど……何かに遮られてるって言うのかな?シオンの気配が希薄なんだ……シオンは激しい訓練をする時に結界を張ったりもするから……それ関連だと思うんだけど」ルイセの問いに答えるラルフ……。ラルフはシオンが早朝の訓練を行っていることを知っている……。時折、ラルフも早朝訓練に付き合っていたので分かるのだ。……もっとも、カーマインの次に寝覚めが悪いため、早起きをすることは滅多に無いのだが……。「分かった……だが、万が一に備えて、何人か連れていった方が良いかもしれん」「ウォレスの言う通りだな……じゃあ、誰が行く?」話し合いの結果、シオン探索組はラルフ、ポール、リビエラ、カレン……となった。ルイセは客人が待っているので、サンドラの研究室に行かねばならない。客人……ヴェンツェルの元へと。それに付き添うのは、カーマイン、ティピ、ウォレス、ゼノス、アリオスト……。「それじゃ……行ってくるよ」「ああ……気をつけてな……?」こうして、彼らは二手に別れた……ラルフ達はシオンを捜しに……カーマイン達は約束を果たす為に……。それは奇しくも、ルインの思惑を阻止する一手となるが……未だにヴェンツェルの掌の上で躍らされているということに、気付くこともなく。**********なんだ………コレは……。赤に塗れたナニカ……赤い水溜まり………。赤赤朱朱紅紅紅朱朱赤赤朱………赤い世界。「沙紀………沙紀いぃいぃぃぃぃ!!?」そう……沙紀……俺の幼なじみ……俺の恋人………。沙紀が……赤い沼にシズンデイク……その手をツカミトルことがデキズ……。「リョウ……なんで……?」違う……俺は……。「兄さん……何で沙紀を見捨てたの?」「違う!!俺は……」「違わないよ……あの時兄さんが沙紀と一緒に家を出ていれば……沙紀は死なずに済んだんだ」「っ!!!??」知らない……こんな記憶……俺は知らない……。確かに……礼治の言う通り……あの時に俺が沙紀の望みを受け入れていなければ……。だが……!!「本当に許されると思った?」「!!?」「兄さん……僕はね……兄さんが憎くて憎くて仕方ないんだ!!!兄さんが居なければ……沙紀は僕を選んでくれた筈だ!!……僕なら、沙紀を死なせずに済んだんだ!!」……違う。『……しっかりしてくれよ兄さん!!こんなの……こんなの沙紀だって……望んじゃいない……望んじゃいないんだよ!』……そう言って自棄になった俺を、奮い起こそうとした礼治……そんな礼治が……こんなことを言う筈……。「リョウ……私、言ったよね?」「沙………紀………」「彼女たちを幸せにしてあげてって………」血だらけの沙紀はスッ……と、俺の背後を指差す――。そこには――。「あ………あ………」そこには血の海………そこに沈む…………。「みん……な………」そう……俺の仲間達……みんナ……ナンデうゴカナいンダ……何で血だらケナンダ……???「幸せどころか……守れもしないなんて……リョウは所詮その程度なんだね?」「最強の力を持ってるなんて………自惚れた結果だよ兄さん」違う……こんなの違うっ!!「大切な仲間も守れず………」「愛する女性も守れない………全部兄さんのせいだよ?」「違う!!!沙紀や礼治はそんなことは言わない!!」「それはリョウの願望でしょ……?」嘘だ……。「僕らの気持ちは僕らにしか分からない………分かった様なこと言わないでよ」嘘だ…。「リョウは沢山殺して来た……なのに守れなかった」「兄さんのしたことは無駄だったんだよ……」「嘘だ…」「結局リョウには何も残らない……何も守れない」「それが兄さんの運命なんだよ」「嘘だあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!????」止めてくれ!!こんなモノを見せないでくれぇっ!!!俺は……俺はぁ……!!!「うああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」**********「そろそろかな……?君がどんな悪夢を見ているのか……分からないのが残念だよ…さぞかし楽しい見世物だろうに……」見ると、周囲の不幸の煙がシオン君に集束していっている。墜ちるのも時間の問題か……ククク!!「もう少し……もう少しぃ……もう少しで僕のモノにぃ……っ!!?」僕は殺気を感じ、咄嗟に飛びのく。そこに飛来したのは無数の魔法の矢……。「誰だぁい……?」僕が顔を向けると……そこに居たのはシオン君のお仲間達……。「これはこれは……シオン君のお仲間さん達……原作ヒロインの一人に……おやおや、やられキャラにⅡのヒロインまで……どうしたのかな?怖い顔してぇ?」「貴方は誰ですか!!シオンさんに何を……!?」原作ヒロインの一人……カレンが聞いてくる。ふぅん、シオン君……カレンの死亡フラグを折ったんだ……良いねぇ。お陰で壊す楽しみが増えたよ♪「彼は今、不幸に囚われているんだよ……しかも、悪夢に墜ちようとしている……まぁ、言っても分からないか」確かやられキャラ……ラルフ君もシオン君に魔改造されてるんだよね?ここはこのキャラ達の能力も戴いちゃおうか……いや、それじゃあ面白くないな。「……お前の言っていることは分からない。だが、これだけは分かる……お前の存在は許せない……」「おやぁ?シオン君のことで怒ったぁ?けど止めておきなよ……僕はシオン君に勝ったんだ。君達じゃ束になっても太刀打ち出来ないよ?」「そんなの認めるもんですか!!シオンが……シオンがアンタなんかに負けるワケないじゃない!」剣を抜き放ったラルフ君に警告する僕……そんな僕に向かって吠えるⅡのキャラ……確かリビエラだっけ?ふふふ……余程壊されたいらしいね……けど……僕は考えた。此処で彼らを殺し、壊し、犯して……能力を手にするのはワケ無い……。けれども、それじゃあ面白くない。「相手してあげても良いけど……シオン君は良いのかい?急がないと手遅れになるよ?」より面白くするには………シオン君が壊れてからじゃ駄目だ。シオン君の見る前で……奪い、殺し、犯し……壊す。そうしたなら最高に気持ち良い筈……。単純に無双するのもつまらないからね。それに……ヴェンツェル様の命は果たした。ならばこそ……引き上げるのが吉……だね。「……貴様」「ふふふ……シオン君を引き戻すには、シオン君が悪夢に勝たねばならない……もっとも、それが出来るかは分からないけどね」仮面を着けた彼が睨んでくるが………こんなキャラ居たっけ?モブキャラ?「あ……忠告しておくよ。あの煙の中に入ると、君達も悪夢に囚われることになるから……注意するんだね?アハハハハハハ!!!」「黙れ」見ると、ラルフ君が間合いを詰めて、剣を振るおうとしていた……って、あっぶなぁ〜〜い!?僕は直ぐさま影の中に逃げ込む……いやぁ、本当にあぶなかった♪ラルフ君……ただのやられキャラの癖に……君も中々侮れないね?アハハハハハハッ!!「それじゃあ……僕は此処で……一応、目的は果たしたから帰るよ。また会おう諸君……なんてね、ククク…クククククク……アーッハハハハハハッ!!!!!」**********「気配が……消えた」僕は周囲を探るが、あのフードの男の気は感じない……。あの男……あの時の夢で見た……。せめて……あの女性の仇くらいは討ちたかったけど……ゴメン……。「……それよりどうする?さっきから、あの煙がシオンに集まってきている様だ……奴の言う、時間が無いとはこのことか……?」「どうするもこうするも!!シオンを助けるに決まってるじゃない!!」「そうですね……急いであそこから連れだしましょう……!!」ポール君の言う様に、本当にゆっくりとだけど、煙がシオンに集まって行く……まるで吸い込む様に。リビエラさんとカレンさんが、シオンに向かって歩きだそうとするのを、僕は止める。「待ってくれ……あのフードの男の言葉を、全て真に受けるワケにはいかないけれど……あの煙の中に行くと、シオンの二の舞になる可能性が高い」「じゃあ、放っておけって言うんですか……?そんなこと私にはっ!?」悲しそうに叫ぶカレンさん……リビエラさんも同じ気持ちだろうと思う。「だから……僕が行ってくる」「なっ……ラルフ!貴方……」「シオンを正気に戻せても、その時にカレンさん達が今のシオンみたいになってたら……僕が怒られる。『お前が居ながら、何で止めなかったんだ!!』ってね?」まぁ、シオンならそんな八つ当たりじみたことは―――しないだろうけどね?「それに、全員で飛び込むのは危険だ――あのフードの男の気配は消えたけど、もしかしたら何処かに隠れてチャンスを伺っているのかも知れない……だから」「成る程……自分が実験台になろうというのか」「勿論、僕がそのままシオンの目を覚ませれば良いんだけどね……その方法も分からない以上、誰かがやらなきゃならない……このままじゃ時間が無いって言うならね」ポール君の言うように……実験台というよりは偵察に近いケド。さっきの理由でカレンさんやリビエラさんを行かせるワケには行かない。ポール君にはいざという時に二人を守る為に、残って貰う。「けれど……」「問答をしている暇はない……じゃあ、後は頼むよっ!!!」「ラルフさん!?」僕は煙の中へ突っ込んで行く……シオンをこの煙の中から連れ出すために!!意識が朦朧としてくる……ケド!僕は――!!**********「……此処は」周囲を見渡す……そこはローランディアの街。カーマインの家の居間……。「皆……どうしたんだい?」そこには皆が集まっていた……。僕は皆の場所へ向かい……。「近寄らないでよ……化け物!!」「ティピちゃん…?」「……俺たちはな、知ってるんだよ。お前が隠してることをな……」「お兄ちゃんの双子だなんて言って……皆を騙していたんだね」ウォレスさん……ルイセちゃん……。「ゲヴェルの手下野郎が……仲間面するんじゃねぇよ!!」「近寄らないで下さい……」ゼノスさん……カレンさん……。「君の様な生き物が居るから……争いは無くならないんだ」「アタシはまだまだマシですよね……人類の敵じゃないんですから」アリオストさん……ミーシャちゃん……。「お笑いぐさよね?化け物の手下だったんだから……」リビエラさん……。「お前のせいで……俺も化け物の仲間入りだよ」カーマイン………。「やはり、お前も所詮化け物だったんだな……せめてもの情けだ……俺が引導を渡してやる」シオン……。そうか……。これは僕にとっての不幸……望まざること。認めたくない………絶望に誘うモノ……。だけど……。「違う」「何……?」「君達は違う……皆じゃない。皆はそんなことを言わないから……」「それはお前の願望だろう……」「……そうかもしれない。真実を知れば皆は、僕のことを受け入れてくれないかも知れない……だけど、僕は皆を信じてる……!!それに、シオンは絶対に僕を化け物なんて呼ばない……!」『僕と友達にならない?』『これからも頼むぜ、相棒?』『ラルフはラルフだろ?俺のダチに変わりはねぇ』「彼は僕の……相棒で――親友なのだからっ!!」ザアァッ―――!!僕の一声が響き渡り――視界が晴れる。どす黒い煙は消し飛び――目の前には拳を放とうとして動きを止めているシオンが――。「僕にだって出来たんだ……シオンに出来ない筈が無い。だから……負けないでくれ……相棒!!」煙が晴れたことにより、カレンさん達もこちらにやってくる……。彼女達だって心配してるんだ……。それはシオンだって本意じゃないだろう?だから……目を覚ましてくれ……!!**********「あ……あ………」俺の姿は凌治からシオンへと変化していた……。だが……そんなことはどうでもいい……。俺の身体は血の沼に沈んで行く……皆を死なせてしまった……俺に生きる価値なんて……。引きずり込まれる………今まで殺して来た者達に……もう……良いよ。もう疲れた………早く楽にしてくれ………。俺の身体が半分まで沈み……俺はそれを今かと待ち続け【ガシッ!!】……え……。何かが俺の手を掴む……俺はそれの正体を見た………何で?「ラ、ラルフ……」そんな……ラルフはさっき……。『僕にだって出来たんだ……シオンに出来ない筈が無い。だから……負けないでくれ……相棒!!』そんな………これは……【ガシッ!!】カレン……!!『お願い……目を覚まして下さいシオンさん!!私を……置いていかないで……』カレンが泣いている……俺が泣かせている……?【ガシッ!!】リビエラ……。『ねぇ……しっかりしてよシオン……お願い……目を覚まして……また、私のことを……呼んでよぉ……』リビエラも……泣いている……こんな……俺はこんなの……【ガシッ!!】リシャールまで……。『君がこんなことで負ける筈がない……目を開いて見てみろ……こんな麗しい女性たちを泣かせたままで良いのか?』分かってるよ……いや、分かっていたんだ。これがまやかしだって……だけど、俺は自分が信じられなかったから……。不安だったんだ……俺に仲間を守れるのか……。全てを救うなんて言わない……目に届く者……大切な者だけでも……。礼治は本気で心配してくれていた……沙紀は俺の中で見守ってくれていた。なのに信じられなかった……それらは自分に都合の良い解釈でしかないのではないか、と。だから――気付いている筈なのに気付けなかった――。「――俺に纏わり付く罪……それは甘んじて受け入れるべきだろう……だが、まだ沈むワケにはいかない……俺には、俺を待ってくれてる奴らが――居るんだ!!!」俺は引き上げられる――罪という名の沼から……。引き上げてくれたのは………。**********「――目は覚めたかい?」「ああ――済まないな、相棒」俺が目を見開くと、そこには俺を引き上げてくれた仲間が――。「僕に謝るより、二人に謝った方がいい」「二人って……のわっ!!?」俺は飛び掛かって来た二人を受け止める。カレン……リビエラ……。温かい……ちゃんと生きてる……。「心配……しました……シオンさんが消えてしまうんじゃないかって……」「大丈夫……カレン達のおかげで、還って来れたよ」「……本当よ!本当に心配したんだから……」「ゴメンな……リビエラ……泣かせるようなことになって……」俺は二人を抱きしめる……二人の涙を隠す様に……。「…コホン。感動のシーンを邪魔する様ですまないが……シオン、あの男は何者なんだ?目的は果たしたと言ったが……」申し訳なさそうに咳ばらいをして、説明するポール……奴が退いた……?それに目的だと……?「いや、俺にもよく分からないんだ……奴から聞き出したのはルインという名前くらいで………そういえば、カーマイン達は?」「ああ……ヴェンツェルさんがサンドラ様の研究室に訪ねて来たからそっちに行ってるよ」っ…まさか……目的ってのは……あの野郎、ボスヒゲと繋がってやがったのか……!?「シオンさん……?」「皆、急いで戻るぞ!!ルイセが……危ないっ!!」「ルイセちゃんが……一体何のこと?」「話してる時間は無いんだ!!皆、俺の側に!!」やられた――!!奴の目的は俺の足止めだったんだ―――!!クソッタレ!!!間に合ってくれ!!!**********ラルフたちを見送った後、俺たちは母さんの研究室に向かった。「マスター!!」「あら。ちょうど良かったわ」「お母さん、お客さんって……」研究室の一階で、母さんを見つけたティピが声を掛けると、奥から母さんがこちらにやってきた。そんな母さんにルイセは客とは誰なのかを訪ねた……まぁ、予想はついてるんだがな。「邪魔しているぞ」「やっぱり、ヴェンツェルの爺さんだったか……」「いらっしゃいませ」同じく奥から出て来た爺さんに、ルイセは丁寧に頭を下げる。むぅ……母さんの師匠だからな……俺も言葉遣いを改めた方が良いか?「約束通りお前達の手を借りに来た。……む?シオンはどうした?」「そういえば、シオンさんの姿が見えないみたいだけど……どうかしたの?」爺さんと母さんが、シオンの姿が無いことを気にしている。「先生はその……朝から行方が分からないの……」「シオンさんが……!?」「あ、いや、今はラルフたちが探してるから……大体の居場所は分かるみたいだし」「そうですか……」ルイセの説明に母さんが一瞬青くなるが、俺がフォローを入れておいたので、何とか安心してくれた……ヤレヤレ。「……やむを得んな。出来るならシオンの力も借りたかったのだが……ルイセだけでも出来んということは無いだろう」「はい。あの、何をすればいいのでしょう?」ため息を吐く爺さんだが、ルイセだけでも出来ないことは無いらしい。ルイセは何をすれば良いかを聞いている。「御師様は、水晶鉱山に含まれる、グローシュ波動を調べているの」「あの…水晶鉱山のグローシュは、使い終わった抜けがらみたいなものだって……」「ほほぅ。そこまで知っているのか」母さんの説明に異を唱えたルイセ……そのルイセの答えを聞き、爺さんは嬉しそうに言葉を漏らした。ルイセの教養に感心したのだろうか?「……そうか。マクスウェルの話を聞いたのだな?」「えっと『まくすうぇる』って、誰だっけ?」爺さんの問いに、頭に?マークを浮かべながら俺に聞いて来たティピ。ため息を吐きつつ俺は答える。「元魔法学院の学院長だ……」「あ、そうだった、そうだった☆」……大丈夫かティピ?「やはりそうか。ならば話は早い。確かに魔水晶に含まれるグローシュは燃えカスの様なものだ。だが漠然と燃えカスと言っても、どのように成文が違うのかは分かっていない。そこでルイセのグローシュ波動との比較をしてみたいのだ……何分、グローシアンの知り合いが居ないからな……頼める相手がサンドラの娘であるお前くらいなのだよ」爺さんいわく、本来はシオンにも協力してもらい、個人のグローシュ波動の比較もしたかったらしい……。「わたしでよろしければ、お手伝いします」「ではここに来てくれ」爺さんはルイセを隣に呼び、懐から何かの機械と水晶玉の様な物を取り出す。「波動の検出はすぐに終わる。これをかぶって、魔導をイメージするのだ。別に魔法を使う必要はない」「はい」ルイセはその機械の……輪っかになっている部分を頭にかぶった。「では始める」爺さんの合図と共に、機械が作動する。ルイセの身体を魔力の光が包んで輝く……それに呼応するかの様に、爺さんの水晶玉も……そして、一瞬だけ一際光が強く輝いた。爺さんはルイセの頭に着いた機械を取り外した……。ルイセから魔力の光は消えたが、爺さんの水晶玉は強く輝いている。「……ルイセ?」ルイセは俺の声に反応せず――ふらついた後――。――バタッ――ゆっくりと前のめりに倒れた――――。―――え……?ルイセ……?「ルイセっ!?」「……クックックッ!ついに手に入れたぞ、純粋なグローシュをな!」「!?御師様!?」「さすが皆既日食のグローシアン。この装置の限界量まで抽出できるとはな。だが、これだけあれば我が真の力を取り戻すには十分」「貴様、まさかルイセから!?」母さんが……ウォレスが……爺さんに……ヴェンツェルに詰め寄る。―――シュバッ!!突然、部屋の中に複数の気配が現れる。この気配は……――。「ヴェンツェルッ!!!」「シオンさん!?」「遅かったな……ルイセのグローシュは戴いたぞ。残念だったな」そこにシオン達がやってきた……多分、瞬転という奴で。「もう、お前たちに用はない!さらばだ!」奴はテレポートで逃げやがった……だが、今はそんなことはどうでも良い!!!「ルイセッ!!?」「ルイセちゃん!!?」「ルイセ、しっかりしなさい!ルイセ!?」俺とティピ……母さんはルイセに駆け寄った……どんなに揺すっても、声を掛けても……ルイセは目覚めない……何でだよ……何でルイセがっ!!?「とにかく、ここじゃ何だ。家にでも戻ろう!」「………っ!!……分かった――ルイセは俺が連れていく――」ウォレスの提案を受け入れた俺たちは、家に戻る……ルイセは俺が抱え上げて連れていく……。くそっ……何でだよっ!!?何で……ルイセがこんな目に………!?**********……あれから一夜が明けて、俺達は居間に集まっていた。昨日のことを話し合うために……。「……ルイセちゃん、大丈夫かな……」純粋にルイセを心配するティピ……。「まさか、御師様がこんなことをするなんて……」信頼していた師に裏切られ、愛する娘を傷つけられた……サンドラ。「これじゃ、あの学院長と同じじゃねぇか!!」普段は滅多に動じないウォレスが、激しい怒りを見せる。「人を油断させておいて、これが狙いだったのかよ?クソッタレ!!」ゼノスもまた同じく、怒りを現にしている。「そうとは言い切れないが……」「どうして?だってルイセちゃんは能力を奪われちゃったんだよ?」ゼノスの意見に異を唱えたのは、ポールだった。ティピはポールの真意を尋ねる。「ゲヴェルが現れた頃は、まだルイセ君は生まれていなかった。その後はエリオット君が生まれ、すり替え事件の際に、ヴェンツェルはエリオット君を助けた。さらにその後、ルイセ君が生まれた……順番的には少しおかしい……そう言いたいんだろう?」「その通りだ……それに、グローシュを奪うことが目的ならば、他のグローシアンから奪うことも出来ただろう」アリオストはポールの言いたいことを引き継いで言い、ポールは更にそれを補則する。「……彼がルイセからグローシュを奪ったのは、途中経過なのかも知れません……」「それじゃあ、本当の目的って何なのかしら……?」「それは、分かりませんが……」サンドラとリビエラが言葉を交わす……。俺は知っている……奴の真の目的を……。だが……。「そういえば、シオン……お前は何故姿を消したんだ?」「ああ……実は……」俺は詳しく説明する……早朝訓練の際、怪しい気配を感じ、そこに向かって出会ったフードの男……ルイン。奴はヴェンツェルと繋がっており、俺の足止めを命じられていたらしいこと……そして、まんまと術中に嵌まったこと、ラルフ達に助けられたこと等を話した。「そうだったのですか……」「言い訳はしない……俺の油断が招いた事態だ……すまん」そのせいで、ルイセを助けられなかった……周りへの被害なんか考えなければ……油断さえしなければ……クソッ……!!「……今はこれからどうするか……っ!?」カーマインが口を開き、話を進めようとした時……。「ルイセ!」「大丈夫なのか……?」サンドラとカーマインが、ルイセの身を案じる。「う〜ん……。わたし、どうしたの?……なんだか頭が重いよ……」「寝てた方が良いんじゃねぇか?」「……わたし、どうして寝てたの?」体調が悪そうなルイセを、ウォレスが労うが……ルイセは何で寝ていたか分からない様子。「ルイセちゃん……覚えて無いのかい?」「えっ?何かあったっけ?」「お前は、ヴェンツェルにグローシュを奪われたんだよ」ラルフの問いにも首を傾げるルイセ……ウォレスが事情を説明してやるが……。「ヴェン…ツェ……誰?」「おい、本当に忘れちまったのかよ?」再び首を傾げるルイセを見て、ゼノスは問うたが……やはり答えは芳しく無いようだ。「あの……、同じようにグローシュを奪われたアイリーンさんは学院で治療をしていましたよね?」「そうか。魔法学院に行けば、何かわかるかも知れねぇな」「それじゃ、急いで出発しようよ!」カレンの提案を受け入れた俺達は、一路魔法学院を目指す……。「私も出来る限りのことは調べてみます。何か分かったら、すぐに戻ってくるのですよ」サンドラは残り、城の文献を調べると言う……。……俺は知っている。ルイセが元に戻る方法を……だが、コレは俺から説明出来るモノじゃない……。胸が軋む……分かっている。いざとなれば、話さなければならない。……ルインが居る以上、原作通りにルイセが復活するかも分からない……何らかの妨害をしてくるかも知れない。ならば……ルイセを守る!!分かっていながら、救えなかった仲間を……今度こそは……守ってみせる――!!