注意的前書き。今回はいつも以上にご都合主義展開です。耐えられない方は某ゲッツのごとくフェードアウトしてください。**********ローランディア城・謁見の間「ただいま戻りました」「おお、戻ったか」アルカディウス王は、俺達が戻ったことを喜ばしく思ってくれている様だ。まぁ、ティピを通じてサンドラから話は聞いているからだろうが……。「偽の王様は、やっぱりゲヴェルの手下でした」「今はエリオットが王様になったから、もう安心ね」ルイセとティピの報告に、満足気に頷くアルカディウス王。「そうか、ご苦労であった。後はゲヴェルそのものの居場所を探り、とどめを刺すことだな……しかし、今は休むといい」こうして、何時もの様に休暇を三日賜った俺達は、最初の休暇先を指定……帰路に着いたのだった。**********王都ローザリア・フォルスマイヤー宅俺達は帰宅してから、夕食まで各々の時間を過ごしていた。明日の休暇先……バーンシュタイン新王、エリオットのお披露目式のために準備をする者……これは主に女性陣だな。まぁ、内々で行うとアンジェラ様は言っていたし……今更よそ行きの服なんて用意出来ないんだが……。そこはまぁ、女性だからな……そういうパーティーには憧れるモノらしいし、色々気になるんだろ?原作のゲヴェルを倒した後の戦勝祝賀パーティーでも、カレンは自身のテーブルマナーをしきりに気にしていたし。そういう内容について、色々と会話に華を咲かせているんだろうさ。その分、男である俺らは気楽で良い。そもそも先に述べた通り、内々の者だけの集まりであるため、そこまで気張る必要は無いだろうさ。これがバーンシュタイン貴族の連中や、各王族が集まる……というのなら、父上の息子である俺もそれなりに着飾る必要があるのだろうが……。ちなみに俺がその気になれば、各々に礼装を誂えるくらいは出来るが……。ワザワザそこまでしなくても良いだろうと思い、部屋にて色々とやっていたワケだが――。「さて……何か用があったんだろう?」「うん……そうだけど……良いのかい?何かしていたみたいだけど……」「ああ……まぁ、な。でも殆ど終わったからな。後はウォレスに試してもらうだけだ」俺はそれを軽く摘んで見せる。俺がやっていたのは新・魔法の眼の製作。今まで、ヒマを見てコツコツと開発していたのだが、ようやく試作品が完成したのだ。「それは、ウォレスさんの……」「そっ、アレの改良版。コツコツと作った試作品……ウォレス用に作った物だから、本人に試して貰わないとな」「見た目からは違いが分からないけど?」「ま〜な。あくまでサンドラの作った物の改良品だからな」サンドラが製作しただけあって、機構にほぼ無駄が無かったからな……。俺がしたのは、魔法の眼に込められた、視力回復魔法の強化に際する魔力の循環機関と、給排機関の改良増設、効率の上昇……。まぁ、小難しい理論とか抜きにして言えば、シルエットだけじゃなく、ちゃんと見える様にしたってこと。「後は目から光線を出す機能を着ければ完璧なんだが……まだ試作品だからな」「た、多分それはいらないんじゃないかな……ウォレスさん」何を言う!ウォレスの魔法の眼を初めて見たら、誰もが絶対思うことだろう?某一つ目の巨人の名を冠した超能力者の様に!目からビームは漢の浪漫だろJK?「絶対戦闘も楽になると思うんだがなぁ……」「とりあえず、ちゃんと見えるか確かめて貰ってからの方が……ね?」「お前がそこまで言うならやむを得まい……まぁ、それはともかく」俺は部屋に訪ねて来た客人……ラルフに向かい合う。「そろそろ本題に移らないか?お前がワザワザ話題を逸らしたということは……言いにくい内容なのか?」「………気付いてたんだ?」「気付かないでか。付き合い長いんだからよ?」ラルフは余程でなければ、話を逸らしたりはしない。単刀直入に――言いづらいことでも、必要ならオブラートに包んで言う様な奴だ。普段はお気遣いの紳士だが……いや、だからこそ言うべきことはごまかさずに言う。そんなラルフが、話をすり替えて来たのだから――。「『サイレント』」俺は声が外に漏れない様に消音魔法を使う。……なんか、最近このアレンジ魔法が地味に活躍しているなぁ……。「これで、外に話が聞かれることもない」「ありがとう。気を使わせてしまったね……?」「気にするなよ。で?」「うん……」ラルフは、迷っている様だ……しばらく考え込んだ後……何かを決意した様に俺を見据えてきた。「シオン……正直に言って欲しいんだ」「おぉ。俺に答えられることならな?」「……シオンは、知っていたのか?」「何をだよ?」俺は敢えて素知らぬ答えを返す。――もっとも、ラルフの聞きたいことについては、大体想像出来ているんだが――。「――僕とカーマイン……そして仮面の騎士の関係を……」やっぱりか……何となく理解してはいたがな。恐らく、随分前から自身について疑念を抱いていたんだろう……。「関係?お前達が奴らと何か関係があるのか?」それを仮面騎士と接触し……実際に素顔を見て………ラルフのことだから、ボスヒゲと接触した際に色々聞いたのかも知れない。その辺は、リシャールと戦っていた時に、何となく察したことなんだが。「……以前、話しただろう?ウォレスさんが仮面の騎士に襲われた時の夢を……あの時のことで、まだ言ってないことがあるんだ」ラルフいわく、ウォレスに重傷を負わせた相手の内一人が、自分やカーマインと同じ顔をしていたということらしい……。そして、ボスヒゲと接触した際の仮面騎士の顔……。偶然にしては出来過ぎているのだ……と。無論、俺は原作知識として知ってはいた……そして、ラルフが遅かれ早かれその真実にたどり着くことも、聡明なラルフがいち早く疑念を抱くだろうことも……予測していた。―――だが。「ラルフの言い分は分かった。自分やカーマインがゲヴェルと何か関わりがあるんじゃないか……と、疑ってるんだろう?だが、何でソコに俺が出てくる?まさか、あのヴェンツェル殿みたいに――ゲヴェルに良い様に使われている……とでも?」「そうじゃないよ。シオンはグローシアンだし、何よりそんなことをする理由が無い……それに、シオンの性格や強さは僕が1番よく知ってる……シオンはゲヴェルに良い様に使われる位なら、真っ向から立ち向かう……だろ?」「そりゃあ買い被りって奴だが……まぁ、確かにただで殺られるつもりは無いな。それじゃあ、俺の何を疑念に思ってるんだ?」むしろ返り討ちにしちゃるわいっ!!とか、思ってますが何か?しっかし……ラルフの奴……疑心を向けているというより、何処か確信している部分がある様だ……真っ直ぐ俺を見詰めてきやがる。思わず目を逸らしたくなるが、グッと堪えてその視線を受け止める。ポーカーフェイスは保てている……筈。「いや、僕はシオンを信頼してる。それは間違いないよ……。ただ……直感、かな?シオンが何かを隠してるんじゃないか……って。漠然とした勘なんだけどね?」そう言って苦笑いするラルフ……。俺はそれを見て、軽く胸が締め付けられる想いがした。この世に生を受けて……今までずっとつるんで来た幼なじみのマブダチ……。ソイツに嘘をつき続けるのか――?……話してみたらどうだ?俺は転生者です。前世の記憶を持っていて、この世界のことも、その行く末も知っていますって……。ゲームの世界として知っていた……とか言う必要は無い……二次創作のお約束、『異世界を観測する方法があった』――とでも言えば良い。大丈夫……ラルフなら馬鹿にしたりはしない。変な目で見られたりはしない……確信がある。コイツは受け入れてくれる……と。むしろ、此処でしらばっくれたりしたら、逆にこじれるんじゃないか?……選択しろ。教えるか否か……。「俺は……」示せ……その答えを……。***********僕はシオンに答えを求めた。自身の疑念を……僕達に隠された謎の答えを。勿論、シオンがそんなことを知ってる筈が無い。知ってる筈が、無いんだ……けど。僕の直感が告げる……シオンが何かを隠してるって。直感だけじゃない。今まで、ずっと一緒に行動してきたから……分かるんだ。確かにシオンはその戦闘力、頭のキレ等がずば抜けている。それは天性の物であり、鍛え学んで来た証だろう……。けれど―――それを考慮に入れたとしても―――上手く行き過ぎじゃないか?シオンにはいつも、ある一定の余裕みたいなのがある……勿論、慌てもするし、焦りもする。けれど、その何処かに余裕を残している。それは実力に裏打ちされた自信なのかも知れない。綿密に計算された策に対する余裕かも知れない。むしろ、そう考えた方が納得出来るんだ。なのに、僕は考えてしまう……シオンはもしかしたら、『知っていたんじゃないか』……って。仮に――シオンが何かを隠していたとしても、それで彼を軽蔑する気持ちなんか沸かないけれど。シオンがどういう人間か……どういう性格か、分かってるつもりだから。誰よりも長い時間を共に過ごした、親友だから……。「……俺は……確かに隠し事をしている。恐らく、突飛で……どうしようもなく信じがたいことを。……お前になら言っても良いかも知れないとも――思う」……シオンの言い分からして、非常に言いづらいことなんだろう……。「だが……今は全てを語れない。それでも構わないなら……話そう」僕はそれに頷いた……。僕になら教えても良いと……そう言ってくれたシオンの言葉が、嬉しかったから。「分かった………。ラルフ……お前は『転生』って知ってるか?」――シオンから語られたことは、突拍子もない話だった。いわく、自分には前世の記憶があると……。こことは違う世界に生まれ育ち、日々を過ごして来たが……気が付いたらこの世界の赤ん坊になっていた……と。「それは……」「信じられない……か?」「……続けてくれ」僕は先を促した……正直、突飛過ぎて信じられないと……一瞬思った。けれど、シオンの顔はどこまでも真剣だった。「……俺はこの世界を知っていた。物語としてな……」「物語……?」「あぁ……正確には物語の様なモノ……だがな」シオンが言うには、その世界には他の世界を観測する術があり、それが物語の様な形態を取っているのだとか。「だから……先に起きる出来事を事前に知っていたと……?」それなら、常にある程度の余裕があったのも理解出来る……。「それも正確じゃ無いんだがな」「えっ……」「さっき言った物語の様な……面倒だから物語と呼ぶが……この物語には存在しないファクターが存在する」「それは、シオンのことかい……?」「………俺を取り巻く全てだ」シオンが言うには、その『物語』には『シオン・ウォルフマイヤー』は疎か、『ウォルフマイヤー家』なんて存在しなかった……と。「つまり、此処は『物語』の世界に限りなく近く、『物語』の世界から限りなく遠い世界……ではないかな……と思う」詳しくは分からないけどな?と、シオンは言う。どうやら、シオン本人にも……何故こんな状況になったのか分からないらしい。その上で、予測した考えが『物語の世界に似た世界』に転生したのでは無いか……という考えだそうな。『物語』と大筋は似通っているが、部分部分で違うのだと……何が違うのかは教えてくれなかったけど……。だからこそ、先のことは語れないのだ…と。「お前の言う様に、俺は『物語』の結末を知っている……そして『物語』を指針にしている……まぁ、先に述べた理由から、参考程度に……だがな」「……それじゃあ……」「お前の聞きたい答えについても……知っている……」やっぱり……。「――お前の予想通り……と、だけ言っておく」「そう……か……」「とは言え、それは『物語』の話であって、『この世界』の話では無いからな……俺の語っている内容は、『可能性が高いだけ』に過ぎない……真実は自身で確かめなきゃ、分からんさ」そう言うシオンの顔は、何処までも優しく僕を見ていた……。そして……。「仮に、ラルフがラルフの予想通りの存在だとしても……ラルフが俺のダチであることに変わりは無いんだしな?」ニカッ!と、笑顔を向けてくれる……初めて会った時に感じた……温かい笑顔……。「……あぁ。ありがとう……シオン」そう言ってくれるだけで、僕は救われた想いだ……。……これで、迷いは晴れた。「その礼は後に取っておくさ……」「……どういうことだい?」「まぁ……仕上げをごろうじろってね?」ニヤリと笑ったシオンは、さっきと違って悪い顔をしている……。これは、何かを企んでいる顔だ……。**********話しちまった……まぁ、言っちまったものは仕方ないか。俺が旅に出たのはラルフを助けるため……とは言わなかった。恩着せがましいことは言いたくなかったしな。まぁ、分かりやすく決意を固めた表情をしたので、ナイススマイルと計画していた策を匂わせて場を和ませ……え、悪い顔?――まぁ、それは置いておいて。「で、信じて貰えたかな?」「あぁ……シオンが無意味な嘘をついたりする訳が無いからね」「そうか……一応、このことは皆には言うなよ?この秘密は墓まで持って行くつもりだったんだからな……?」一応、ぼかす部分はぼかしたが……その辺はラルフも理解した上で納得してくれた様だ。「それは……言っても信じられないと思ったから?」「それは無い……。アイツらなら信じてくれるだろうし、受け入れてくれるかも知れない……ただ、前世は前世……今は今……。ならば、今を精一杯生きるのに過去を引っ張る必要は無い……だろう?」勿論、俺にとっては前世……過去は大切な物だ。まして、俺は死んでから転生したわけじゃない……未練だってある。けど、シオンとしてこの世界に生まれ……この世界での絆も出来た。この世界での未練も出来た……。だから……それが理由だ。「そっか……分かったよ」「悪いな」「良いさ……シオンはシオンなんだから……だろ?」ありがとうな……ラルフ。……お前は必ず救ってみせる……それが、俺が初めてこの世界で立てた誓いなのだから。そのための細工も……隆々だしな?その後、俺はラルフと他愛もない話をして、しばらくしてからラルフは部屋に戻った。まぁ……後は特筆すべき出来事は無かった。皆で飯を食って、風呂でさっぱりして……。それから就寝したわけだから……魔法の眼?勿論渡したぜ?着けた時びっくりしてたが何か?……それは特筆すべきことじゃないのかって??じゃあ、その時のことを少し語ろう。**********「これを着けろ……と?」「あぁ。まだ試作品なんだがね……試してみてくれないか?」「どれ……」ウォレスは今、着けている魔法の眼を外し、俺の渡した魔法の眼を装着した。「む………!?」「どうだ?見えるか?」「ああ……これは良いな。お前はこんな顔をしていたのか……」ウォレスが言うにはどうやら、ちゃんと見える様にはなったが、色が灰色掛かっているそうだ。要するに、白黒テレビみたいなもんか?ふむ……眼の負担にならない様に、ギリギリの出力にしたからな……。「どうやらまた別角度からアプローチする必要があるか……」「いや、これで十分だ。シルエットだけだったのが、本当に見える様になったんだからな……これ以上を望んでは罰が当たるってもんだ」そうか?まぁ、本人が満足してるなら良いか……。「喜んで貰えたなら何より……コツコツ作った甲斐があったぜ」「スマン……恩にきるぜ」**********ってなことがあった……つまり、今ウォレスが着けているのは、俺が作った魔法の眼Ⅱというワケ。さて、俺もそろそろ寝るか……明日もあるんでね。お休み……。***********休暇一日目・バーンシュタイン王都「さて、着いたね。お城に行かなくちゃ」ルイセのテレポートでバーンシュタイン王都に到着するや、ティピが開口1番でそう言う。……と、そこに……。「来たか、お前たち。パーティーまではまだ時間があるから、しばらくゆっくりしていてくれ」と、出迎えてくれたジュリアが言う。ワザワザありがたいなぁ……とか思いつつ。「じゃあ、解散しようか?みんな、お城で会おうね」そんなこんなで、皆は街中に散って行った。で、俺はと言うと……。「実は少しお願いがあるのですが……今日の宴は、陛下のお披露目であると同時に、私のお披露目でもあるのです」何でも、エリオットの紹介と共に、『ジュリア・ダグラス』のお披露目もやってしまおうという話らしい。「私はこの格好でも構わないのですが、陛下が是非にと言うもので……」で、アンジェラ様から服を譲って貰ったので、それを仕立屋で手直ししたいのだとか……原作のイベントですねわかryまぁ、カーマインの立ち位置に俺がいるだけの話なんだが……。後、ジュリアが敬語全開だが、敢えて突っ込まない。もう隠す必要は無いんだからな……まぁ、本当は止めなきゃ駄目なんだが……ジュリアの対面的に考えて。だが、今日くらいは良いだろう……と。それはともかく。「それに……この服が似合うかどうか、皆に見せる前に見てもらいたいのです」「そいつは光栄だな……ジュリアの女の子らしい格好なんて、見たこと無かったからなぁ……」小さい頃に出会った時、既に男の子な服装だったからな……。今でさえ綺麗なんだ、やはり女の子な服装のジュリアも見てみたい。「……そうだと思ったから、貴方に誰よりも早く見てほしいのです」「っ……そっか。ところで仕立屋に手直しして貰うと言っていたが、宛はあるのか?」やばい……そのはにかんだ表情……破壊力がとんでもない!正直ドキドキする……顔に出さなかった俺を褒めてやりたい!「いえ……貴方なら、知っているのでは…と」「ああ……まぁ、確かに仕立屋の爺さんは知っている。腕も良いし、あの爺さんに頼むのが1番だろう」「では、そこに参りましょう」俺はジュリアを伴って、仕立屋の爺さんの所に向かう。「此処は……宿屋?」「宿屋の主人の親父さんが、件の仕立屋なのさ」俺達は宿屋へ入り仕立屋の爺さんを見付ける。「久しぶり、爺さん!」「ん?おぉ、シオン様ではないですか!旅から戻られたのですか……して、わしになんのご用ですかな?」俺やラルフは、バーンシュタイン王都では結構馴染みが深い。旅に出るまでは、街にも度々顔を出していたからな……街の皆には顔を覚えてもらってるっつーワケ。下手をしたら、インペリアル・ナイツよりも有名……ってことは無いが、顔を覚えて貰ってるという意味では有名だろう……王都限定だが。インペリアル・ナイツは名前こそ有名だが、その顔を知る一般人は余程のミーハーでも無い限り、少ない。リシャールの顔を知らない……なんて人も、王都に居たくらいだからな。「今回は一時的帰郷って奴さ……後、用があるのは俺じゃなくて……こちら」そう言って俺は、ジュリアを促す。「実はこのドレスの仕立て直しを頼みたいのだが……」「うむ、わしに任せておけ。で、どんな具合に直して欲しいんじゃ?」「どんなのが良いと思いますか……?」「って、俺かよ!?……そんな眼で見るなよ……俺の好みに合わせて良いのか?」めがっさウルウルと見つめられたので、溜め息と共に確認を取る。「はい!むしろ望むところ!」「それじゃあ……」俺はオチを予測しつつも、爺さんにどう仕立て直すかを指示した。すると……。「出来上がりは……そうじゃな、2日ほどもらえるかな?」「それは困る。今夜には着なければならない」「今夜じゃと!?………うーむ。サイズ直しだけでもギリギリというところじゃな」と、予測通りのオチが返って来た。服を仕立て直すのは時間が掛かる……まして、そういう服飾用の機械も存在しない世界なら……尚更だ。「しかたあるまい。それでお願いする」こうして、ジュリアは爺さんに連れられ、服のサイズ直しに向かった。数時間後………。「お待たせしました」ジュリアがやってきて、その姿を披露してくれた……。「どうでしょうか……その、似合っていますか……?」……何と言うか、色々言いたいことがあったんだが。「マイ・マスター……?」ジュリアが何も言わない俺に対して、不安そうに顔を歪めるが……。「綺麗だ……」「えっ……!?」「あ、いやその……似合ってるよ」俺は思わず呟いてしまった言葉をごまかす様に、言葉を言い直した。実際、似合ってるんだが……絶対、顔が赤くなってるぞ……俺。「そ、そうですか。貴方が似合うというなら、そうなのでしょうね」何処か嬉しそうに言うジュリア……髪型も少し変えているな。いつもはふんわりした髪をリボンで纏めているのだが、それを解いており、ふんわりした長髪が柔らかく広がる感じだ。前髪もセットしてあり、目元がパッチリと見える様になっている。これだけで、普段の中性的な雰囲気が成りを潜め、女性らしさが前面に押し出されている感じになっている。「こんな服は初めて着たが……なんだか頼りない感じだ。普通の女性はこんなものを普段着ているのだな……」独り言を呟いて、ジュリアは自身の姿を見回す。まぁ……何と言うか、ジュリアが呟くのも分かる。原作を知っている人なら分かると思うが、このドレス……下の露出がパネェのだ。何と言うか、ラ○グリッサー時代を彷彿とさせるデザインなのである。分かりやすく言うなら、体のラインがモロに分かる様な白のレオタードに、半透明な紫色のスカート(前面にスリット入り)で、白に金で縁取られたニーソを履いている……みたいな感じなのだ。無論、両腕は紫の長袖だし、全体的に見て、ナイツの制服に似通う部分も無いわけじゃないが……。……うん、上品に纏まってはいる。ジュリアが着こなしているから……というのもあるかも知れないが。しかし、コレってアンジェラ様のお下がりなんだよな………まぁ、深くは考えまい。未だに似あうんじゃないか……と、考えたのは秘密だ。「さて、そろそろ宴の時間じゃないか?」「そうですね。そろそろ行くとしましょう」だが……城に向かっている最中……。「どうしたんだ?」ジュリアが立ち止まったのだ。「……私、どこかおかしいのでしょうか?」「いや、何処もおかしくないぞ?」「なんだか、みんなに見られているような気がするんだが……」「……本当に理由が分からないのか?」困惑しているジュリアに、呆れ半分で尋ねる俺。まぁ、今までが今までだから仕方ないのかも知れないが……。「周りの声を聞いてみれば分かる」そう言ってジュリアを促す……ジュリアは訝しげにしていたが、そのまま頷くと耳を澄ました。すると……。「凄い美人だ……」「きれい……、あの人誰かしら……」……等の声が聞こえて来た。それこそ老若男女関わらず……だ。それを聞いたジュリアは顔を赤くする。「な……。私が美人……!?そ、そんな……」どうやら、ジュリアはそんなことは考えたことも無かったらしく、真っ赤になりながら呟いた。「このまま消えてしまいたいくらい恥ずかしい……」うわ何コレ目茶苦茶可愛いんですケド?思わず抱きしめたくなったが……グッと堪えて……スッと手を差し出す。「マイ……マスター……?」「ほら、行こうぜ?」「……ハイ♪」嬉しそうに微笑みながら、俺の手を取るジュリア……俺達はそのまま城へ向かった。「すごい……あそこの二人、絵になるわねぇ……♪」「あ、あれはシオン様……!?まさか、そんなぁ……これは夢よ!でも、お似合い過ぎる……」……オッサンは右から左に受け流すよ?ええ、受け流したともさ!で、バーンシュタイン城の城門まで来たんだが……。「やぁ、シオン。待っていたよ」「さて、では行くぞ?」ガシッ!!「あの……リーヴス卿?ライエル卿?これは一体……?」あ、ありのまま今起こったことを話すぜ?ジュリアをエスコートして来たら、リーヴス卿とライエル卿が待ち構えていて両脇をガッシリと固められた。頭が変になりそうだ……。宇宙人捕獲とか、ドナドナの牛とか……そんなチャチなモノじゃ断じて無いっ!!もっと恐ろしいモノの片鱗を味わったぜ……。って、お約束は良いんだよ!!「では、シオンを借りていくぞジュリアン」「ああ、よろしく頼む」「任せてくれ。それと、そのドレス姿…よく似合ってるよ」「ありがとうリーヴス」一通りの挨拶が終わったので、俺はそのまま二人に連れられ……って、待てやっ!!?「だから事情を……!!?」「後で説明する」「今は時間が惜しいからね」「ちょっ、ジュリア!?」「すまない…………後でどんなお叱りも受けます……申し訳ありません……」最後にジュリアはボソッと呟き、視線を逸らした……まさか……裏切ったな!?僕の気持ちを裏切ったんアッ―――――!?**********……で、連れて来られた場所で理由を教えられ、着替えさせられた俺だが……。「アンタら……マジか?」「そんなに睨まないでくれ……心臓に悪い」「これも相談した上で決めたことだから……それに陛下のご指示でもある……諦めてくれ」そうは言うが、何処か楽しそうな二人。まぁ、俺自身……マジで睨んでるワケじゃなく、呆れを含んだジト目なワケで……。「正気かよ……大した功績も無い、一貴族にナイツを張らせようってか……?」そう、俺が今着ているのはインペリアル・ナイツの制服……しかも、俺用の特注品。通常のナイツ制服は紫を基調にしている……それが俺のは蒼を基調にしてある……どんだけ〜?そもそも、何の試験も受けずにナイツとか……前代未聞である。そう言うと……。「陛下が、もしシオンがごねたらこう言ってくれと、おっしゃっていたよ」「『この際、サプライズが増えても構わないでしょう?』とのことだ……なんのことかは分からないがな?」グッ………確かに、それを言われると弱い……。元々、エリオットに無茶を頼んだのは俺だからな……。「……人類に逃げ場無し……か」「心配せずとも、ゲヴェル討伐を果たすまでは自由に動ける様、陛下が計らっておくそうだぞ?」そういう意味じゃなく………ちくしょう!覚悟を決めりゃあ良いんだろう!覚悟をっ!!こうして……多くの者の陰謀(恐らく父上達も含まれる)により、エリオット新王のお披露目は、ジュリアと、サプライズのお披露目……+俺のお披露目と相成った。……テメェら後で覚えてろよ?***********「みなさま、ご静粛に。これよりエリオット陛下のお言葉を頂こうと思います」「今日こうして私が王位を取り戻すことができたのも、ここに集まって頂いた皆様方のおかげです。まだ王の職務に慣れておりませんが、皆様のご助言を頂きながら、よりよい政治を執り行って行きたいと思います。どうかこれからも、よろしくお願いします」何と言うか……エリオットらしいな。謙虚というか、何と言うか……。「ねぇねぇ、シオンさんは?」「ん?……そういえば姿が見えないな……」周りを見渡す……招かれた客人は俺達の顔見知りばかり……だが、そこにシオンの姿が無い。……トイレか?「今日は他に、みなさんにお知らせしたいことがあります」エリオットが促したのはジュリアン……いや、ジュリアか。ジュリアは一歩前に出て、一礼する。「彼女の名はジュリア・ダグラス。心技体すべてに優れ、人々の模範となれる素晴らしい女性です。そして私は彼女を、女性で最初の、インペリアル・ナイトに任命します!……伝統あるインペリアル・ナイトの称号を女性に与えることに批判的な方もいらっしゃるでしょう……しかし思い出して下さい。ナイツは国の守護を目的とした、最強の精鋭騎士団です。ならば優れた人の登用こそ、ナイツにとって必要なことではないでしょうか。――人の評価に、性別や家柄など不要なのです」要は実力主義か……まぁ、分かりやすいよな。「そこで私は宣言します。インペリアル・ナイトの称号は、性別、家柄を問わず、心技体すべてに優れた者に与えることを」これは改革……って奴だよな。エリオットも毅然としている……あのエリオットとは思えない程に。「彼女はこれまで、ジュリアン・ダグラスの名でナイトを勤めてきました。そこで混乱を防ぐ意味を含めて、今しばらくはジュリアン・ダグラスで通すとのことです。これまで同様、彼女の活躍に期待したいと思います。頼みますよ、ジュリアン」「はっ、陛下!」ジュリアンがエリオットに頭を下げる。まぁ、名前のほうは……しばらくの間は仕方ないが……これからは女であることを隠さずに済むんだから、ジュリアンにとっては良かったんだろうな。「最後に新たに加わる二人のナイツを紹介したいと思います」その言葉に、会場がざわつく……どうやら、皆も知らなかったらしい。すると、二人の男が奥の謁見の間へと続く扉から現れ、階段から降りてくる……って、あの二人は……!?「彼の名はポール。士官学校を首席で卒業し、試験にも合格した優秀な人材です。この度の戦で、顔に傷を負った為、本人の希望もあり、顔を隠していますが……彼は心技体に優れ、ナイツに任命するに差し支えないと思います」そのポールと呼ばれた少年は、顔の目元を仮面で隠し……髪の毛も茶髪だが……。「ねぇ…あの子、なんかエリオットに似てない?」ティピがそう言うが、確かに似ている……体格や背格好は同じだ。髪型や髪の色は違うし、雰囲気も微妙に違うのでソックリとまでは言えないが……。――俺は最近、彼と同じ雰囲気の人間に出会ったことがある。まさか――と、思いつつ見遣ると、インペリアル・ナイトの二人――ライエル卿とリーヴス卿は目を見開いている。……やはりそうなのか?「仮面を着けたまま失礼……ご紹介に預かりました……ポールと申します。正直、何処の馬の骨とも知れない私がインペリアル・ナイトに抜擢されるなど、身に余る栄誉だと思います。私は、さほど優れた家柄ではありません……ですが、こうして抜擢された以上、エリオット陛下の期待に恥じぬ様、精進したいと思います」ポールが一礼する。……気付いてるのが何人かいるな……少なくともバーンシュタイン側の方々……特にアンジェラ様は確実に。そのポールが下がり、もう一人が前に出る。そいつは、俺達のよく知っている奴だった……。「彼のことは、ご存知の方も多いと思います。彼の名はシオン・ウォルフマイヤー。この戦の影の功労者の一人です。彼もまた、心技体に優れた……得難い人材です。彼もまた、ナイツに相応しい人材だと思います」エリオットに促されたシオンは、少し疲れた様な表情を浮かべた後、キリッと表情を正した。「シオン・ウォルフマイヤーです。皆様方はもうご存知とは思いますが、私は元インペリアル・ナイトのレイナード・ウォルフマイヤーの息子です。――正直、親の七光りだとおっしゃる方もいらっしゃるかと思います。私自身、ナイツの器だとは思えませんし――ですが、エリオット陛下に任命された以上……例え分不相応な身なれど、身命を賭して陛下にお仕えし、国事に尽くす所存です」「彼らには、ゲヴェルの脅威が晴れるその時まで、ローランディアの皆さんと行動を共にしてもらうつもりです。お願いしますよ、二人とも」「はっ!」「天地身命に賭けて…!」エリオットに一礼した二人……どうやら、あの二人は俺達と共に来る様だ……。何と言うか……マジか?「今日は皆様方のために、ささやかな宴を用意しました。楽しんでいただけると幸いです」こうして、宴が始まった……。とりあえず、質問責めにあいそうな新ナイツ達の元へ向かう……。俺も何故こんなことになったのかを聞きたいし……な?**********あとがき。はい、ご都合旋風でした……だが私は謝ryポールのネタはⅡをやった人には分かって頂けたと思います。仮面も似たような物です。ポールの制服はジュリアンやオスカーの様な通常ナイツ制服。シオンの制服が特注だったのは、両親がハッスルしたから。詳しいことはまた次回……ご都合旋風はまだまだ続くぜっ☆それではm(__)m