ローランディア城・謁見の間休暇を終えた俺達は、新たな任務を言付かる為、この謁見の間にやって来ていた。「いよいよバーンシュタイン王都を包囲するとの報告が入った。お前たちも協力しに行ってくれ」アルカディウス王に告げられたその言葉に、皆は一様に顔を引き締める。「戦争の終わりが近づいているんですね」「よし!頑張ろうよ!」「そうだな……」上からルイセ、ティピ、カーマインだ。いよいよ……だからな。気を引き締めるのも分かる……もっとも、コレはまだ『始まり』に過ぎないんだけどな……。とは言え……とりあえずは人間同士で争う……という事態にピリオドを打つことにはなる……。「さて、どうするよ?」謁見の間から退出した俺達だが……ふと、ゼノスがこんなことを言う。恐らく、エリオットの軍と父上の軍……どちらに援軍に行くか……という意味だろうが。「……エリオットの方に向かおう。ウォルフマイヤー卿の方が部隊も潤沢だ。それに、最終決戦ともなればエリオットもその立場上、自らリシャール王に対面することになる……王都の中にも陣が敷かれているだろうから、エリオットの護衛も兼ねて王都突入部隊を編成しなければならない」「とは言え、並の兵にソレが勤まるワケは無く、かと言ってジュリアン達の様な司令官が戦線を離れるワケにはいかない……何より、部隊を円滑に突入させる為に敵の本隊を陽動しなければならない……」「つまり僕達がエリオット君の護衛には最適……ってワケだね?」要するにそういうこと。少数精鋭にして、ある程度自由に動ける立場の存在……俺達が適任ってワケさ。「んじゃま……行きますか!」俺は瞬転を唱え、瞬時にしてジュリアの敷いた陣地に。そして、探してみるとエリオットとジュリア……それにリーヴス卿と彼の副官が話し合っていた。「お〜〜い!」「あ、皆さん」俺達はエリオット達に合流……状況の説明を受けた。エリオットが言うには今、父上、ダグラス卿、ブロンソン将軍、ベルナード将軍、ウェーバー将軍達が軍を率いて攻撃を仕掛けているところらしい。その隙に、エリオット含む護衛部隊が城内に突入する算段だそうな。「それで、皆さんには僕と来て欲しいのですが……」「もっちろん!アタシたちも最初からそのつもりだったからね!」「……ありがとうございます!」エリオットの頼みに、胸を張って答えるティピ。それに呼応して、頷いたり、笑みを浮かべたりして肯定する俺達。ちなみに、俺はナイススマイルでサムズアップな?「僕が君たちを城内へエスコートする」「リーヴス卿……部隊の指揮は宜しいので?」「そちらは半分はウォルフマイヤー卿たちに、半分はジュリアンに任せてあるよ。それに、侵入するには城の細部まで知っている者のエスコートが必要だろう?」俺の質問に爽やかな微笑みと共に答えるリーヴス卿。一々気障ったらしいリアクションの筈なんだが……それが気障ったらしくならないのが流石と言うか……。「ちょっと待った、リーヴス!」そんな爽やかBOYなリーヴス卿に待ったを掛けたのは、何を隠そうジュリアその人である。「――いいのか?中にはライエルがいるんだぞ?」「君には関係のないことだよ、ジュリアン」「しかし……!」ジュリアは、ほんの一時とは言え……仲間と敵対した……故にその苦しみを知っている。だから、親友同士の二人を気遣っての言葉を掛けた。それはジュリアの優しさなんだろう――だが、リーヴス卿とライエル卿――二人の誓いは固い。「そろそろ行こうか」だからこそ、涼しい顔をしてスルー出来る。とは言え、親友達と敵対するのだから――その心内はいかほどのモノか……。「おい、リーヴス!!」「おやめ下さい、ジュリアン様」先に進んで行ったリーヴス卿を追い掛けようとしたジュリア……そんなジュリアを引き止めたのは、リーヴス卿の副官だった。「私は聞いてしまったのです。リーヴス様とライエル様の話を……」「詳しく話してくれ」「ご存知と思われますが、ライエル様、リーヴス様、そしてリシャール陛下は、昔から、身分を越えた親友であらせられます。優しかった陛下は、突如乱心したかのように残虐な性格へ変貌してしまいましたが、2人とも親友である陛下を討つことは本意ではありません」それは知っている――バーンシュタイン国民の間では有名な話だからな。まぁ、俺は原作知識として知っていたんだが……。「しかしこのような状況になった以上、そのような我を通すことは出来ず、ある約束を交わされたのです。どちらが倒れようと、恨まず、残った方が陛下を最後まで面倒見ようと……」「つまりリーヴスがこちらにつく事は、ライエルも知っていたと?」「……はい」本当はライエルが憎まれ役になる筈だったが……リーヴスが自分が……と、買って出たんだよな……。「本当はどちらも陛下のそばにいたかったはず。だから、止めないでいただきたいのです……」俺達はそれを聞き、シーーンとなってしまった。ある程度知っていた俺や、その位で揺らがない経験をしてきたウォレス、ゼノスは平然としていたが……。「何をしている?突入するぞ!」「す、すまない。お前の部下を借りるので、少し打ち合わせをな」「相変わらず、心配性だな」そこにタイミング良く?俺達を呼びに来たリーヴス卿。ジュリアは若干慌てて言い訳をしていた……どうやら自然に流せたらしいが……。「……お前たち、彼を頼む」「任せとけ……そっちも気をつけてな?」俺はサムズアップして答える……すると、ジュリアも微かに笑みを浮かべて――頷いた。「……よし、私も出撃する!」ジュリアとリーヴスの副官も戦場へと向かった。さて、俺達も俺達の仕事をするとしようか?***********「来たな。ここを東に行けば、バーンシュタイン王都だ」リーヴス卿と合流した俺達は、その足でバーンシュタイン王都へ向かう。王都は目と鼻の先――つまり。「!!逆賊オスカー・リーヴスを捕らえよ!前進!!」妨害にも合うワケだ――。「団体さんのお着きだ……ってか?」「行くぞっ!!」とは言え、高々10人強……俺らの敵になる筈が無く、あっさり蹴散らして進む。で、王都の中心までやってきた俺達……周囲の気配を探る……おぉ、流石に王都を守るだけはある……結構な数だな。「城は街の北西にある。このまま一気に駆け抜けよう!」「えぇっ!?敵の中を突破していくのぉ!?」リーヴス卿の提案に悲鳴を上げるティピ。「まだ先があるんだから仕方ないわよ。少しでも温存しておかないと」「そうだな……一々相手にしてる時間も惜しいからな」そう言うのはリビエラとウォレス……どうやらティピも納得したようだ。「よしっ!なら俺が殿りを勤める」「だ、大丈夫なのシオンさん??」俺は殿りを買って出た。ティピは不安そうに聞いて来たが、俺は不敵な笑みを浮かべてこう言った。「ティピ――俺を誰だと思ってるんだ?あの程度の連中――例え一万人居ようが、百万人居ようが屁でもねぇさ」「そ、そうだよね!シオンさんだもんね!」他の皆もそれを見て頷いた……どうやら信頼されてるらしい。なら、それに答えるとしましょうか!「よし――行けっ!!」「「「「「「おう(はい)(ああ)っ!!」」」」」」俺の合図と共に、皆が一斉に駆け出した。必然的に足の速さに差が生まれる――一番速いのはラルフ、二番目は(意外にも)ゼノス――カーマインはルイセを庇いながらだから三番目――リビエラが四番目で、アリオストがそれに続く形。エリオット、カレン、ウォレス、リーヴス卿が一塊になる感じか。「さて――ここから先は通さんよ?」「ぐぅ――!?」「ひっ…!?」俺は敵兵の前に立ち塞がり、メンチビーム!気を失う者も居れば、耐え抜いた者も……。「大人しく寝とけ」「ぎゃぶっ!?」俺はそんな耐え抜いた奴らを、素手で大地に沈めて行く。「「「「うおおぉぉぉっ!!」」」」四方から飛び掛かってくるが……。「甘いんだよっ!」「「「「ぐわあああぁぁぁぁぁ!!?」」」」俺はその中心で回転蹴り。連中は吹き飛んで行く………。「さて……次はどいつだ?」「お、おのれっ!!」魔導師の一人が、マジックアローを発動させる。どうやらルイセを狙ったみたいだが………。ドガガガガガッ!!「なっ……!?」「言っただろう……ここから先は通さん、と」俺はそれをマジックフェアリーで迎撃する。さて、俺の生徒を狙った君は……手痛いダメージを受けてもらおうか?「なっガァ!!?」俺は残ったフェアリーをその術者にぶつける。まぁ、加減したし死ぬことは無いだろう。「さて……次は誰が相手してくれるんだ?」再び殺気を撒き散らしながら奴らを見据える……。どうやら怯んでるらしいな……。まぁ……。「来ないなら……こちらから行くぞ?」俺は気絶している兵の足を掴み……それを。「オラァッ!!人手裏剣っ!!」投げた。ちなみに縦回転。「「「「げふぅ!!?」」」」人手裏剣は斜線上にいる兵士を蹴散らして進み……酒樽に突っ込んだ。………死んでない……よな?……よし、生きてる!「ほぉれ、どんどん行くぞぉっ!!!」「「「「ギャアアアァァァァァスッ!!!?」……とか、俺が敵を蹴散らしている内に。「よし、到着」「ったく、やっと着いたぜ」どうやら、ラルフとゼノスが目標地点に着いたらしいな……。「ふぅ……」「やっと着いた……」「………」ルイセ、ティピ、カーマインも続いたか。「警戒が厳重ね……」「ふぅ、着いたか」リビエラ、アリオストも同様に……。「やれやれ」「ようやく着きましたね……」「……ふへぇ」「さすがに敵が多いな最後にウォレス、カレン、エリオット、リーヴス卿の順か……。さて、最後は俺だな……。風向きも良好だな……クックックッ!!「そんじゃ……あばよっ!!」「ぐわっ!?なんだこの煙は………ぎゃああぁぁぁ!?目がぁ!目がアァァァ!?」俺は某警察無線のモノマネをする芸能人の様な捨て台詞と共に、敵兵との間に特製煙玉を炸裂させ、皆の元へ。「よう、皆お待たせ」「それは良いけど……アレは一体?」「アレか?俺の特製煙玉……その名も激辛濃縮マスタード玉だ!」俺の説明を聞いたティピは青い顔をしてそちらを見遣る。「いやあぁぁぁ!?目が、目が痛ぁ!?ケホッ、ケホッ!!!」「喉が――喉が焼けるぅ!!?」「うおああぁあぁぁ!!?」「痛い!痛いいぃぃぃ!!?」「殺せぇ!いっそ一思いに殺ぜぇ!?ゲホッゲホッ!!?」――地獄絵図。「あ、悪夢だわ……」「まぁ、死ぬよりは良いんでない?」ティピは自分もマスタードの洗礼を受けたことがあるからな……仕方ないにしても、まあ……バーンシュタイン兵の皆さんも死ぬよりはマシだと思うんだが……って、皆で変な顔をして……どったの?「み、みんな、用意は良いですか?」「は、はい」……あからさまに視線を逸らしやがった。しかもリーヴス卿まで……。まぁ、良い……今は先に進むのが先決だからな。そうこうするうちに、城門前まで辿り着いた。「まさかここも正面突破?」「もしご希望であれば、そうしますが?」「う、ううん!とんでもない!」ティピの問いに答えるリーヴス卿。実際、この面子なら正面突破しても余裕だとは思うが……な。とは言え、無駄な犠牲を出すことも無いだろう。「確かこのあたりに、城内への抜け道があるはずです」「抜け道か……探してみよう」俺達は周囲を探索する、そして俺は草木の陰に古井戸を発見した……まぁ、原作知識を頼りに探したんだが……。中に通路があるし……間違いないだろう。「皆!……これがそうじゃないか?」「間違いない……此処がそうだ」「入ってみましょうよ」俺達は井戸の中の通路を進み、しばらくすると……。「ここは……城壁の中ですか?」「はい。裏庭の一角です」エリオットの質問に答えながら、壁を調べていくリーヴス卿……そして、ある場所で止まり……告げた。「ここから城内に入れます」リーヴス卿はそこにあったスイッチの様な物を押した……すると、レンガの壁の一部が上へスライドしていくではないか!?いやまぁ、知っていたケドさ?「……では、行きましょうか?」俺達はリーヴス卿に促されるままに進んで行く……すると、隠し通路から出て城の廊下へと出ることが出来た。「廊下を南に下ったつきあたりがホールになっています。ホールから2階に上れば、リシャールのいる謁見の間へ入れます」リーヴス卿から説明を受け、謁見の間へ向かう俺達……道中、リーヴス派の兵士達に出会った。彼らはこのあたりを制圧しており、リシャール派の兵は大広間から謁見の間に集結しているとのこと……前以て先手を打って路を確保してるとは……リーヴス卿も抜目ないな。ちなみに、ガムランは居ないらしいが……それでも結構な数が待ち受けているらしい。「さ、着きましたよ」「ここが……」「大広間……だね」そう、大広間に着いた……だが案の定。「待ち伏せ……か」「へっ、なら蹴散らすまでだぜ!!」カーマインが呟き、ゼノスがやる気を見せて剣を抜き放つが……。「ちょっと待ってくれ!こんなところでぐずぐずしている暇はない。急がないと我々が侵入したことが知れ渡ってしまう!」「最悪、敵に援軍を呼ばれてパァ……ってワケだ」リーヴス卿と俺の言葉に、皆の言葉を詰まらせる。最悪そうなっても、切り抜けることは出来るが……全員が無事に切り抜けられるかと聞かれたら……僅かながら疑念が残る。「……行けよ。こんな連中、俺だけでも十分だ」「流石に一人は厳しいだろ……俺も残る」ゼノスとカーマインが戦闘体勢に入る。「俺たちが道を作る……残ったメンバーは謁見の間まで駆け抜けろ」「さっきはシオン君に殿りを任せちゃったからね……今度は僕が残ろう」「だから、先生たちは先に……っ!」ウォレス、アリオスト、ルイセ……。俺が残る……と、言いたいが、皆がやる気を出しているなら、俺がそれを削ぐことは無い。――信頼には信頼で返す。「分かった!先に行ってるから、早く追い付いて来いよ?行こうぜ、皆!」俺、ラルフ、カレン、リビエラ、エリオット、リーヴス卿は駆ける。それと同時に、ルイセがファイアーボールを放つ。敵がその場から散開した隙を突いて、俺達は駆け抜けた!「おのれ、逃がすかっ!」「待てよ……テメェらの相手は……」「……俺たちだ!」「よぉし……いっけえぇぇぇ!!」カーマイン達が戦闘に突入したらしいな……。俺達は謁見の扉の前に居る。この奥に……リシャールとライエルが居る。「ちょっと緊張しますね」エリオットの緊張も分かる……ある意味、自分自身と対面することになるんだからな。って、エリオットはそのことを知らないんだったよな……。「エリオット陛下、折り入って、お願いがあります」「どうしたんですか、あらたまって」「我々がこの戦いで勝った場合、アーネスト・ライエルを罰しないでいただきたいのです。自分の主を守るのがインペリアル・ナイツとしての当然の義務。本来ならば誓いがありながら、反乱に荷担した私な方が罰せられるべきなのです」「だけど、それは偽者を倒すために仕方ないことでしょう?あなたはどこも悪くないんじゃない?」エリオットにライエルの無罪を嘆願するリーヴス……それは友としての願い。リビエラの言うことも確かに正論だが……正論では納得出来ないこともあるのさ。「上手く言えないけれど、称号に忠誠を誓ったか、人柄に忠誠を誓ったかの違いですね」「――わかりました、約束しましょう」「ありがとうございます」エリオットも、分かるだろうな――リーヴス卿がどちらに忠誠を誓ったのか――故に――。「そしてもう1つ、リシャール王の事ですが……」「彼が何か?」この嘆願もまた、必然なのだと……。「彼は国王陛下の名を語る偽者だったわけですが、昔は本当に素直で優しい方でした。王として即位する直前から、何かに憑かれたように人が変わってしまいました。もし彼がゲヴェルに操られているなら、また元の彼に戻る可能性もあるのではないでしょうか?」「どういうことですか?」「私が説明するわ……実は……」恐らくアンジェラ様達から聞いたのだろう……真相を知ったリーヴス卿が嘆願した。が、エリオットは真相を知らない……なので、ボスヒゲに事情を聞いたリビエラが簡単に説明する。ゲヴェルとリシャールの関係……リシャールとエリオットの関係……そして、ヴェンツェルの存在と、ヴェンツェルがひそかにエリオットを助け出していたこと……等を。「そうだったんですか……それで貴方は、ゲヴェルを倒せば、元の彼に戻るかも知れないと言うのですね?」「……はい」エリオットとしても、色々と聞きたいことはあるが、先程リーヴス卿が言った通り……ぐずぐずしている時間は無い。だから、自身の疑問は押し込め……リーヴス卿に問い返した。そして、それに肯定を示したリーヴス卿を見て………ん?エリオットがこっちを見た……。成程、例の【約束】の件か。「…………」俺は頷くことで先を促す。エリオットもそれを頷いて返した。「わかりました。元より、彼を悪いようにするつもりはありませんでしたし……彼の身柄の安全を約束しましょう」「……まことに申し訳ございません」「さて、話が纏まった所で……謁見と行きますか!」こうして、俺達は謁見の間へ踏み込んだ……中には多数のバーンシュタイン兵と……赤きインペリアル・ナイト……そして、バーンシュタインの王が……待ち受けていたのだった。***********「……いよいよ……」「とうとうここまで来たか……」エリオットとリシャール……同じでありながら違う二人が、合見えたワケだ。「……陛下……」「まさかお前までが裏切るとはな。お前もそう思うだろ、アーネスト?」「は…はぁ」悲しそうな顔で見詰めるリーヴス卿だが、リシャールはそれを蔑む様に言い放つ。もっとも、ライエル卿はライエル卿で言葉に詰まっていたが。「それから、お前が余を偽者呼ばわりする下賎者か?」「それはお前の方だ!僕を下賎者と言うならば、本物の証拠を見せてみろ!」「それはお前も同じではないか?お前が本物を名乗るなら、その証をたててみろ!」「僕にはある。お前にない、本物の証が!」威圧感を伴うリシャールに対して、一歩も引かず……ありったけの気迫をぶつけるエリオット。そして、彼が掲げて見せた王位の腕輪……それを見て苦々しげな表情をリシャールは浮かべる。「口の減らぬ奴だ……」そして、彼がその命を降す。「アーネスト。この道化者と、反逆者オスカー・リーヴスの抹殺を命ずる!」「………はっ」「リシャール様……」その命令を、ライエル卿は受けた……内心に渦巻く葛藤を決して表そうとはせず……そして、抹殺を命じられたリーヴス卿は、ただ悲しそうに……辛そうに主君である友を見据えていた。……それが自身で選んだ選択だとしても……親友に、躊躇無く、殺意を向けられたんだから……無理は無いのだが。「頼みがある」「……何です?」「アーネストは…ライエルは僕が引き受ける。手出しをしないで欲しい」……参ったね。そんな真剣な眼差しを向けられたら……断れないじゃないか。「俺も個人的にライエル卿には借りがあるのですが……此処で駄々をこねる程、野暮ではありませんよ」「すまない……そのかわり、君たちはリシャール王を!」本心では辛いだろう……友と戦うことが……友が傷付けられるのを見るのが……。だが、その覚悟に水を注す様なことは言えないよな……。「聞いた通りだ!俺達は周りの兵隊とリシャール王を討つ!!直にカーマイン達も来る……この戦いで決着を着けるぞ!!」「ああ!!」「任せて下さい!」「勿論よ!」「全てを……終わらせるために……!!」俺達は得物を抜き放ち、戦闘体勢に入った――。「ラルフには兵隊連中を頼む!カレンとリビエラはその援護――エリオットは二人の護衛!万が一近付いてくる輩が居たら迎撃!俺はリシャールの相手をする……一応、顔見知りだしな」「大丈夫かい……?」「俺が負けるとでも?」「――思わないね」ラルフと互いに笑い合い、拳をぶつけ合う。「さて……行くかぁ!!」俺達は駆け出す……それぞれに成すべきことを成す為に――!!***********「オスカー……」「アーネスト、僕たちは間違えているのかな?」僕たちの誓いは……僕たちのしていることは間違えているのか……。僕には分からない……。「さてな。どちらが間違えているのか、2人とも間違えたのか、いや、それとも2人とも正しいのか……。どちらにしろ、判断するのは後世の連中だ」「僕は君がうらやましいよ。冷静にそう言い切れる君がね」「……人の気も知らずに」――ああ、分かってるさ。君が言葉とは違う気持ちを押し込めていることくらい……。だからこそ、僕は――。「ハァッ!!」「シッ!!」アーネストの剣閃を、僕は刈り取る様に弾く。普通なら、此処で返す刃で切り返すところだけど……今のは挨拶変わり。「……どうやら腕は衰えていないようだな」「お互いにね」正直、彼との模擬戦での勝敗は……僕が負け越している。だけど……今回は――今回だけは負けられない――!!「ハアァァァァァァッ!!!」「セエエェェェェイッ!!」アーネストの斬撃を、刺突を、無数に飛び交うソレを……僕は払い、薙ぎ、引き弾く。変則的に鎌を振るう僕だけど……双剣のアーネスト相手では、どうしても手数で劣る。ならば、僕は得物の重量差を活かした攻撃をしつつ……無駄の無い様に彼の嵐の様な攻撃を受け流さなければならない……。もっとも、筋力的にはアーネストの方に分があるんだけど……。元より、あらゆる面でアーネストは僕に勝る……ならば、僕は粘り続けて……絶対の隙を見逃さない様にするだけだ――。***********「まさか、君が裏切るとは思わなかったよシオン」「よく言う……最初から危険視していたんだろう?グローシアンの俺を……いや、俺だけじゃない。全てのグローシアンを……」だから、グローシアンを次々に抹殺していったんだろ?そう告げると、リシャールは愉快そうに笑う……。「そこまで気付いていたか……だが、それを邪魔していた人間がお前だったことは計算外だったよ……全ての計画はお前が狂わせていたのだな」「そんな大層なことをしたつもりは無いんだがね……だが、まぁ……その口ぶりだと、こちらの情報が漏れている様に感じるが……どういうことだ?」「ふふふ……ソレはお前の連れにでも聞くのだな!」俺としては、陰ながら動いていただけだし……主に動いていたのもオズワルド達だしな。俺はしらばっくれながらも、リシャールが色々知っているそぶりをしているのを指摘……すると、その剣で後ろのラルフを指し示した。「どういうことだ……?」「……ふん、そこまで教えてやる義理は無いな……どうしても聞きたいなら、私を倒してからにするのだな」リシャールはその双刃剣を構える。「これでも私はナイツ・マスターの位をもらった男だ。他の国の腰抜け王と一緒にされては困るぞ!」「一緒にはしないさ……だがお前は負ける。それは決定事項だ」「ならば見せてやろう……力というものを!」切り掛かってくるリシャール……そのスピードは確かに速い。だが……。「温い!」「ぬっ……ぐぅ……!?」俺はリシャールを弾き飛ばした……リシャールはなんとか踏ん張った様だが、怪訝な顔をしている。「……おかしい!?どうしたんだ、私の体は……。こんな時に…力が……力が入らん………いや、力が吸い取られてゆく!?」「――当然だ。ゲヴェルはグローシュ波動を浴びると弱体化する……ゲヴェルから創られた者もまた、同様だ……」もっとも、ゲヴェルの波動を常に遮られながら成長した者は例外だがな……カーマインやラルフがその例だ。そして、ゲヴェルに操られていない状態なら……さほど苦しんだりはしない。……闘技大会の時のリシャールが、そうだった様にな!つまり、普段のリシャールはゲヴェルに魔改造されており、身体能力などが異常に高い状態だが……それ以外は人間の枠を飛び越えた状態では無い。今現在は、ゲヴェル波動によるブーストが掛かってる状態であり、本来ならゲヴェルに近い力を出せる上、スタミナの際限が無く、回復力も並外れた物になるのだが、俺のグローシュ波動に遮られている。故に、精神は操られている状態でありながら普段の身体能力のまま……つまり【身体が着いてこない状態】というワケだ。俺は今、グローシュを抑えている状態だが、仮に意図的にグローシュを解放したならば……リシャールを更に弱らせることも出来る。それこそ……命の供給を絶つことも――。「くっ……おのれぇ……」「さて、俺としては知人がいつまでも狂ったままでいるのは忍びないんでな……強制的に目を醒まして貰うぞ?」「戯れ事を……!?」再び切り掛かってくるリシャール……。確かにその剣技は卓越している……。ナイツ・マスターと呼ばれるだけのモノがある。実際、俺が剣を合わせた者の中でも上位に入る。だが、軽い!!「下郎がっ!!」「目を……醒ましやがれえぇぇぇぇぇっ!!!」「ぐはあぁぁ!?」ドゴオォンッ!!襲い来る剣閃を弾き、懐に入って殴り飛ばす……リシャールは玉座に叩き付けられる。なんか、すっごい虐めてる気分だが……見た目エリオットと大差無いからなぁ……。「……なんだこの感覚……。…私は何をして……アーネスト……オスカー……」「陛下!?」「リシャール陛下!?」ライエル卿とリーヴス卿……二人は戦うのを中断してまで、リシャールの方を見遣る。友が自分達を呼んだから――。「……そうだ…私はこの世を…人間どもを支配下に……。そのために戦っているのだ……」だが、それも再び閉ざされてしまう……仕方ねぇ、気乗りはしねぇが……荒療治と行くか。「……聞こえてるんだろう?リシャール……」俺はリシャールにゆっくりと近付く……。「……な、何を……」「お前がもし……現状を悔いて、止めたいのなら……抗え。例え運命が過酷だとしても……反逆してみせろ」「だ、黙れ……」「ねだるな……勝ち取れ!さすれば、与えられん!!」「黙れえぇぇぇっ!!!」ドンッ!!!玉座にもたれ掛かっていたリシャールが、一足飛びにこちらに向かって来た……火事場のクソ力って奴か!!なら……受け止めてやらぁ!!「うあああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」リシャールは渾身の一撃……そこから更に連撃。ただひたすらに………斬る!斬る!!斬る!!斬るっ!!!俺はそれに合わせて、払い、捌き、受け流す……。「どうした!その程度かナイツ・マスター!!」「黙れと言っているっ!!!」「腰が入っていない!!息も上がっているぞ!!そんなザマでナイト・マスターなどと……笑わせるなぁ!!」俺は徐々に身体能力を上げていく……やがて、リシャールもそれに着いて来れなくなるのだが……尚も食らいついてくる。俺が敢えて挑発的な言葉を言っているのには、一応の理由がある。それはリシャール自身の心を刺激するためだ。心の隙を突く……と言うと聞こえが悪いかも知れないが……人はとかく怒る時に隙を作りやすい。怒りは凄まじい力を呼び起こせるが……代償として周りが見えなくなるからな。冷静に怒る……とかの例外もあるが、それは置いておく。「お前の想いとはそんなモンか!?ナイトに対する想いは………友に対する想いはっ!!」「……友……うぅ……!?」今のリシャールは非常に不安定だ。ゲヴェルの形成した人格……14年間育んで来た人格……その二つが責めぎ合っている。どうも、ゲヴェルが形成した人格の方が強いみたいだが……決してリシャール自身の人格が屈した訳では無い。「アーネスト・ライエル……オスカー・リーヴス……この二人はお前にとって何だ?ただの使いやすい駒か?」「……ち……がう………我々は……約…束………」現に、俺なんかの揺さ振りでも反応するんだからな……。それは体力的に削られたからなのか、ゲヴェルの波動を遮っているからなのか……或いはそのどちらも、なのか。植え付けられた物であれ、育まれた物であれ……どちらもリシャールであることに変わりは無い。ならば……リシャールは打ち勝たねばならない。植え付けられた闇に……原作のボスヒゲに逆らった時の様に……な。俺にはオルタの主人公……リヒターの様な特殊能力は無い。故に俺に出来るのは、説教臭ぇが……リシャール自身の心に刺激を与えることと、闇の呪縛を緩めることのみ。本当の意味で説得出来るのは……親友である、あの二人だけだろうさ。「ぐぅ……頭がぁ……私は……私は……」……上手く行くか?もし、リシャールが自ら闇の呪縛から逃れられたなら……。「手間取っているようだな」「!あいつらは……」奥の扉から現れたのは仮面の騎士……チッ、タイミングよく現れやがる。「ゲヴェルとリシャール王……やはり繋がりがあるみたいね」リビエラはヴェンツェルから聞いた話について、確信を深めた様だ……。「お、おお……お前たち、か……良いところに来た……手を、貸してくれ!」「そのつもりだ」くっ……ゲヴェルの人格が持ち直しやがったか……?これ以上手荒な真似はしたく無いんだが……。「シオン……彼らの相手は僕がする」「ラルフ?お前……」「カレンさんやリビエラさん……それにエリオット君も頑張ってくれたから、兵士達はあらかた片付いたよ………彼は、目覚める可能性があるんだろう?」「!?」お前……まさか……?「頼んだよ――相棒」そう言い残して、アイツは仮面騎士に向かって行った……。「というワケで……君達の相手は僕だ」「お前は……!?」ラルフは仮面騎士と対峙している……まさか、アイツ……いや、今はリシャールだよな。「そういうワケだ……リシャール。加減はする……だが、キツイの喰らわすから……歯を食いしばれ」「……人間ごときが……甘く見るなよ……!」俺とリシャールは武器を構える……やはり原作宜しく、ギリギリまで追い込むしか無い……か。「………」「………」互いに無言……リシャールは必殺の一撃を打ち込む隙を……。俺は必倒の一撃を叩き込む瞬間を………。そしてその瞬間は……。「「―――――っ!!!」」……訪れた。「やああぁぁぁぁ!!」リシャールの打ち下ろしの剣……俺はそれを剣閃に添う様に……。「掛かった!!」「!?」リシャールは振り切った筈の剣を返し、直ぐさま切り上げて来た……。これは……燕返し!?燕返し……と言っても、某運命の彼が使うソレでは無く、所謂【巌流】という流派で括られたソレ……高速の切り返しである。初太刀に必殺の意思を篭めて振るう……その必殺の意思は、例え避けられようとも、地を滑空し……一気に飛び上がる……そう――燕の様に。正直、リシャールが巌流なんて知っている筈が無い。言うなれば、コレは自身で編み出した物。だとすると――とんでもない才覚だな。――とは言え。「!?分身!?」「俺には届かねぇよ」――飛竜――翼撃――!!「ぬぐああぁぁぁぁっ!!?」ズガアアァァァァァンッ!!!リシャールは横からの一撃に吹っ飛び……壁に激突した。【飛竜翼撃】父上からラーニングした奥義のアレンジ……以前、闘技大会でゼノスにぶちかました技だ。「まぁ……紙一重……いや、髪一重……だったがな」言うや否や、ハラリ……と、俺の前髪が二、三本程舞い落ちる……。そう、リシャールの剣は届きかけていた。俺が身体能力を抑えていたこと、目測よりも剣速が加速したことなどの理由により……。それでも届かなかったのは、リシャールが弱っていたから……コレに尽きる。まぁ、仮に弱ってない状態で技を撃たれても、真っ向から受けてやったが……。「…ぐっ……ぐはっ!」……驚いたな。ゼノスですら気を失ったって言うのに……。耐えやがったよ……流石と言うべきか。「……こ…こんな……なぜ……うぅ……」「陛下!」「…申し訳ありません、リシャール陛下……」面と向かってリシャールの心配をするライエル卿……リーヴス卿は、立場上すまなそうに謝るくらいしか出来ないが……。「よくもやってくれたな。死をもって償うがよい!」「やらせるかっ!!」ラルフが仮面騎士とぶつかり合う……。「言った筈だ……君達の相手は僕だと」「くうぅ……貴様ぁっ!!」ラルフは終始仮面騎士を圧倒している……手を貸す必要は無いか……なにせ。「「【マジックフェアリー】!!」」「ぬがぁ!!がああぁぁぁ………!」カレンやリビエラの援護もあるしな……。それに……。「お待たせっ!!」「こっちは片付けたぞ……」カーマイン達も来たし……な?「……間に合ったようだな」………余計なオプションも着いてるみたいだがな。「貴方は……」「ヴェンツェルさん」エリオットはクエスチョンマークを浮かべていたが、ラルフがその言葉を口にしたので、奴が誰なのかを理解したらしい。「さっき合流したの!ヴェンツェルさん、約束を果たしに来てくれたんだって!」「そういうことだ。ゲヴェルの野望を阻止するために……な」ティピは嬉しそうに言うが、俺は胡散臭い物を見る眼でヴェンツェルを見遣る……正直、睨んでいると思う。だが、今此処で事を荒立てるワケにはいかない。俺は気を取り直して、口を開く。「ったく……もう少し早く来てくれたら良かったのによ?」「すまねぇ……敵の援軍の数が多くてな。思いの外てこずっちまった」俺の問いに答えてくれるゼノス……まぁ、仕方ねぇか。「さて、仮面の……もう詰みだ。待ったは無いぜ?」「くっ……まだだぁ!!」仮面騎士は目の前のラルフに切り掛かったが……。「ハァッ!!」「ガァ……アァ………」仮面騎士は返り討ちに合い、物言わぬ液体へと姿を変えた……。その様子を、ラルフは複雑そうな表情で見つめていた。――やはり――気付いているのか――ラルフ――。「これで、終わったんですね……」「……長かったね……」カレンの呟きに、合わせる様に……ルイセが零した。「……ああ。こんな戦いは久しぶりだ」「まっ、とりあえずは一件落着ってところか……」ウォレスとゼノスも胸を撫で下ろした。……まだ、終わってはいないんだがな。「……そろそろだな……」そう言うなり、ヴェンツェルはリシャールに近付き……呪文を唱える。するとリシャールの腕輪が、パカリと外れた。それを拾い、リシャールに駆け寄っていたライエル卿に見せる。「これを見よ。この腕輪の内側には、我が署名がない。もちろん、他の宮廷魔術師の署名もない。これが偽者の証拠だ」「……それはどうでも良いことなのだ。私はただ……親友を守りたかっただけだ……」「アーネスト………」ヴェンツェルに証拠を見せられても、たじろぎはしなかった。ライエル卿は偽者だろうと何だろうと……守りたかったのだ。ライエル卿の様に、リシャールに駆け寄っていたリーヴス卿も、心中は同じ気持ちの筈……。「……う……」「リシャール様!」「……オスカー……?私は……どうしたのだ……?なんだか長い夢を診ていたようだ……」「…陛下……。戻られたのですか?」リーヴス卿の言う様に、その瞳には濁った物は無く、ただただ澄んだ光を放っている。――闘技大会で再会した時と同じ――いや、それ以前の……幼少の頃の様に。「……懐かしい。まだ士官学校に入ったばかり……私たちが出会ったばかりの頃に戻ったようだ……」優しげに……懐かしそうに微笑む彼には最早、傲慢な王の姿は影も形も無い。「お怪我にさわります、陛下」「私はゲヴェルによって心を封じられてしまった。そして、今まで……」「…陛下……」二人は本当にリシャールを想っている……それをリシャールも理解したのだろう。穏やかな表情を浮かべている。「……私は良き家臣に……いや、良き親友に恵まれた…。お前もそうなのだな、エリオットとやら……これならば安心してこの国を任せられ…ゴホゴホッ!?」「……まさかあなたは……?」「自分のことだ、知っていたさ……」エリオットは悟る……リシャールが操られながらも、抗っていたことを……。「私の頭の中に、あの声が響き始めてから、私の心は2つになってしまった。ゲヴェルに作られた自分……人としての自分……。どちらが本来の自分だか分からぬが……ゲヴェルの支配はあまりにも強かった。次第に自分が自分でなくなり……」「だが、それに打ち勝った……だから今のお前が居る。……違うか?」俺はリシャールに声を掛ける。「シオンか……どうなのだろうな……。一時的に成りを潜めただけやも知れぬ……」「俺やルイセが近くに居ても苦しくないだろ?……それが何よりもの証拠だ」元より、リシャールもグローシアンとともに成長している。俺のグローシュ波動は、普通の状態でも王都全体を覆う程の物だ。つまり、王城に住んでいたリシャールもまた、ゲヴェルの波動を遮られていた状態だった。王城にもグローシアンは居ただろうし……だが、恐らく士官学校時代かその前後。リシャールはゲヴェルの声に苛まれることになったのだろう……。……奇しくも、俺が旅に出ていたこともあり。「そうか……私は勝てたのか……思えば、君が側に居てくれた時は……心が温かった気がする……あの闘技大会の時も……それ以前に出会った時も……」「……すまない」結果はどうあれ……俺が最初に見捨てた相手……それがリシャール……。故に、俺には謝ることしか出来ない。「君が謝ることは無いさ……」そうは言うが……な、これは俺にとっての罪なんだから……ままならないと理解はしていても……。「……立場上、あなたを捕らえなければなりません」「……仕方ないことだろうな。操られたとは言え、それだけのことをしてしまったのだから」リシャールは、偽王として国を揺るがせた大罪人……それだけなら未だしも、ゲヴェルに作られた複製人間。此処でリシャールを大々的に許してしまえば、国民への示しがつかない。もっとも……裏技が無いことも無いんだがな?「衛兵!この者を牢へ!」呼ばれてやってきた衛兵が、リシャールの肩を担いで連れていく。「……丁重に運ぶのです」最後にそう言い渡したエリオットは、俺に向き直る。(それでは……後は約束通りに……)(ああ、ナイスだエリオット!ふふ……皆が驚く顔が目に浮かぶ)エリオットは苦笑しながら……俺はニヤリッと不敵な笑みを浮かべながら、視線で会話する。……まぁ、通じたかは分からないが……通じたと信じるさ。「みんな!」そこにジュリアとアンジェラ様が駆け付けて来る。「終わったのですね。話は聞きました、ヴェンツェル。あなたのおかげで、ゲヴェルの企みも防げました」「実際に防いだのは彼らです。私の出る幕はありませんでした」「そんなことはありません。あなたがいたから、ここまで来られたのです……あなたがいなければ、僕はここにはいなかった……」アンジェラ様の言葉に、謙遜するヴェンツェルだが……実際ほとんど何もしてないもんな……このヒゲ。エリオットはそんなヒゲに感謝を述べていた……命を救ってくれたこと、教育を施してくれたこと……などを色々と。ヒゲは仏頂面で聞いていたが……。「ならば、仕事らしい仕事の一つでもしておきましょうか」そう言って、リシャールのしていた腕輪をアンジェラ様に渡した。「これがリシャールのしていた腕輪です。本来であれば、王家のしきたりに従い、内側に宮廷魔術師の名前が彫り込まれているはず。王子が生まれた時、私の他に二人の宮廷魔術師がこの腕輪作りに参加しました」「確かに……何も彫り込まれていませんね」アンジェラ様も確認した……もっとも、このヒゲのことだからな……この事態を予測してリシャールの腕輪には署名を彫り込まなかったんだろうな。「エリオットの腕輪を外すまでもあるまい」ヒゲはエリオットを玉座に座らせる。「偽者は去った。これからはお前がリシャール王を名乗るのだ」「はぁ……」ヒゲの言葉に困惑するエリオット……。「今までずっとエリオットと呼ばれてきたので、今更リシャールと呼ばれても……出来れば、今まで通り、エリオットと呼んでほしいのですが……?」「陛下の望みとあらば……」「承知いたしました、エリオット陛下」エリオットの……あ、いや。エリオット王の頼みに、快く頷いたナイツ二人……言うまでも無いが、ジュリアとリーヴス卿だ。「同じ名前の人が2人もいると、面倒くさいしね!エリオット王ばんざーい!」「おめでとうございます、エリオット王」ティピ……流石はカーマインの名を言いにくいと言う理由で、ずっとアンタ呼ばわりなだけはあるな……。ウォレスもそうだが、皆も畏まった態度だ。まぁ、相手は王なんだから当たり前なんだが。「や、やだなぁ……。みなさんは、今まで通りにしてくださいよ……。あなた達の前では、ただのエリオットでいたいから」……エリオットらしいなぁ……とは言え、俺は立場上、敬語を使わにゃならんだろうがね?父上の手前もあるし……な?「エリオット陛下。私、アーネスト・ライエルは、陛下を信じず、最後まで反逆を行いました。かくなる上は、インペリアル・ナイトの称号を返上し、刑に服するつもりです」「ライエル!?」ライエル卿がエリオット王の前にひざまずき、ナイトの称号を返上すると告げた……それを見てジュリアは慌てるが……。「いいのだ、ジュリアン。どちらが勝っても、どちらかがこうなることは覚悟していた。俺のついた側が負けたのだ。だから俺が刑を受ける。それだけのことだ」「……くっ……」リーヴス卿は、ライエル卿がこう言い出すことを予測していたんだろう……もしも彼が同じ立場なら、同じことをしていたのだろうから……。「エリオット陛下。ご沙汰を」「いいえ。あなたは今のままいてもらいます。もちろん他の兵士たちも罰したりしません」「陛下!?」「あなたがどんな人柄なのか、十分わかりました。これほど優れた人材を失いたくはありません」「しかし、それでは示しがつきません。なにとぞ、罰をお与え下さい」頑なに許しを拒むライエル卿……まぁ、この人の性格を考えたら当然か。「……一理あるな。国民への示し……、そして何よりその男が納得すまい」「ヴェンツェル殿の言う通り……ライエル卿は頑固らしいですから。陛下が罰を与えるまでは、梃子でも動かないと愚考しますが?」俺もヒゲに便乗しておく……それを聞き、エリオットは一度瞳を閉じ……そして、ゆっくりと開いた。「……わかりました。あなたには、大きな罰を与えます」「ははっ」「アーネスト・ライエルは、ゲヴェルの脅威の去るその時まで、全力で民を守りなさい。与えられた職務を放棄することは許しません。多くの兵の模範となり、民の生活を守りなさい」「……ふっ、これは、大きな罰だ」まぁ……屁理屈とも言うがな。とは言え、罰は罰だ。「国王陛下直々の罰、このアーネスト・ライエル、謹んで受けさせていただきます。常に兵の模範を示し、民の生活を守ることを誓います」「見事でしたよ、エリオット」アンジェラ様の言う様に……エリオット王の技ありってやつだな。屁理屈ではあるけれど、罰を望むライエル卿には、逆にこの上ない罰となる。「さて、私は帰るとするか」「えっ?ゲヴェルのせいで城を出たなら、もう戻られてもいいのではないですか?」「……かも知れんが、今の研究を、早く完成させたいのでな」そう言って再びその場を去ろうとして……。「そうだ。ルイセ」「えっ、あ、はい」「今、研究していることで、お前の手伝いが欲しいのだが……」ルイセに声を掛けた……野郎、やはり原作通りに……だが、俺の目の黒い内は……。「わたしでよろしければ、いつでもお手伝いします」「それはありがたい。では、後日、改めて訪ねさせてもらおう。久々にサンドラの顔も見てみたいしな」「はい。お待ちしてます」やらせてたまるかよ……。「ああ、そうだ……出来れば君の力も借りたいのだが……」「私の……ですか?」……ヒゲの野郎、俺のグローシュも奪うつもり……いや、他に目的が……?「何の役に立つかは分かりませんが、私で役に立つなら……喜んで協力させていただきます」「ありがたい……これでこの研究も盤石と言うモノだ」ふん……こっちにとっても好都合だ……俺を関わらせようというならば、妨害もしやすい。こうして、ヒゲは去って行った……本当なら今すぐにトドメをさしたいところだが……。「さて、俺たちも邪魔にならないうちに帰らねぇか?この国も王が変わって、少し忙しくなるだろう?」「ああ、そうだな」ウォレスとゼノスの言う様に、これから忙しくなるだろうな…………あ、俺?確かに俺は貴族だが……正式にバーンシュタイン軍に所属しているワケじゃあない……。それに、ゲヴェルをどうにかするまでは戻るつもりは無いし。「いろいろお世話になりました」「いいってことよ」「それじゃ、マスターにこのこと、伝えとくね?」「ああ……頼む」エリオット王の言葉にウォレスが返した。その間、ティピがサンドラに事の顛末を説明するために念話をする。「そう言えば、ジュリアンさん。何かお願いがあるって……」「あ、ああ……実は今までみんなに黙っていたことがある。これを言えば、私はインペリアル・ナイトでいられなくなるかも知れない。それどころか、我が家までも取り潰しになるかも知れないが……」ジュリア……言うつもりだな。周りは緊迫した空気に包まれる。……この事実を知るのはダグラス家の者と、俺とカレン……あぁ、あの二人も知ってるんだっけな……。「話してみて下さい」「……私の名はジュリアン・ダグラスではないのだ」「えっ?」「いや、ダグラス家の者であることは間違いないのだが……本当の名は、【ジュリア・ダグラス】……ダグラス家の息子ではなく………」困惑する面々に告げた……自分は息子ではなく…………娘なのだと。――しばらく空気が止まった様に静かだったが――溜め息と共に、ある人物が口を開いた。「とうとう言ってしまったか」「えっ?」それはアーネスト・ライエル……その人だった。「僕たちが気付かないと思ったかい?」「………それじゃ………」したり顔で囁くのはオスカー・リーヴス……。ジュリアは愕然としている。「君が女であることを必死で隠しているようだから、みんなで気付かないフリをしていようってね、『アーネストが』……」「お、おい、オスカー!」「本当のことじゃないか」アーネストが……という部分を強調して言うリーヴス卿に慌てるライエル卿……一気に空気が緩んだぞ?「……人が悪いな。知っていたならなぜ訴えなかった?そもそもインペリアル・ナイトは男でなければ……」「僕たちが告げ口をするような男に見えるかい?」「……すまない」ジュリアは二人に感謝を篭めた謝罪をする。それが武士の情けなのか、友情から来るモノなのか……分からないがな?「ジュリアンさんの言いたいことはわかりました。元々、男のみという規則の方がおかしいのです。だから規則を変えましょう。インペリアル・ナイトは実力があり、皆の認める正しき者ならば、男女を問わないものとする」「あ、ありがとうございます、陛下!」エリオット王の決定に、感謝の気持ちを述べるジュリア……。「良かったな……ジュリア」「ああ、ありがとう……シオン!」うん!良い笑顔だ……オッサンも嬉しい限りだよ。「……え!?彼……じゃない!彼女がそうなの……?」「はい……私もジュリアさんに誘われて……」「成る程……一度彼女とはゆっくり話したいわね」……聞こえない。オッサン、なーんにも聞こえないんだからねっ!!?「それから、もし私の力が必要となったときには、いつでも言ってくれ!今までの恩を返すためにも……力になる」「ああ……その時は宜しくな?」とは言え、頼り過ぎてもいかんだろうがな……。「どうやら話もまとまったようですね。そこで私から提案があります。明日、内々でエリオットのお披露目の宴を開きたいと思います。そこでみなさんにもご出席していただきたいのです。みなさまもお忙しい身ですから、無理にとは申しません……気が向かれたら、是非いらしてください」「分かりました……是非伺わせて戴きます」アンジェラ様の提案を、カーマイン達は受けるつもりの様だ。「それじゃ、そろそろ帰るか」ウォレスの言葉に頷いた俺達は、バーンシュタイン城を後にする。とりあえず、人間同士の戦いは終わった……。だが、まだゲヴェルが残っている……そして……その先にも……。ようやっと折り返し地点だ……気を抜かずに行くぞ。まずはボスヒゲの野望をぶっつぶさなけりゃあな……。**********おまけシオンの進退。「それじゃあ、父上達には宜しく伝えてくれ」「ああ、分かった……では、また明日に会おう」………………………。「ふぅ……」「どうかしたんですか、ジュリアンさん?」「陛下……いえ、シオンのことなのですが……あれだけ優秀な能力を持っているのに……未だに見聞の旅のため……というのも……」「確かにそうだね……だが、彼の言うゲヴェル打倒のためという意見も分かるよ」「だがな、オスカー?アイツは結果として、この国の為に貢献している……一応、貴族にもなるのだし、何よりあのウォルフマイヤー卿の息子だ……」「というか、ライエル、リーヴス……二人ともいつの間に?」「気にするな」「そうですね……シオンさんに頼まれたこともありますし……僕に考えがあるんです」「シオンに頼まれたこと……?それに考えとは?」「そっちは秘密で……まだ決まったワケでは無いので……考えというのは……………と、こういう案なのですが」「……それはまた、前代未聞ですね」「良いじゃないかリーヴス!私は陛下の意見に賛成だ」「俺もだ……これくらい強引に事を運ばなければ、アイツはのらりくらりとかわしかねん」「勿論、僕も反対はしないさ……彼なら十分過ぎるくらいの資格があるし」「では、明日に向けて準備をしなければなりませんね。ウォルフマイヤー卿にもご相談した方が良いでしょうし」「はっ」「それでは」「直ちに」次回!ご都合旋風が嵐を呼ぶぜっ!!「……!?」「どうしたんだいシオン?」「いや……何だろう……何か――物凄く嫌な予感が……」**********あとがき♪え〜、今回も内容がうっすい癖に量が多いという状況なのですが!!一言だけ。次回、グローランサー・デュアルサーガ第113話!!ご都合旋風が嵐を呼ぶZE☆……とだけ言っておきます。それでは……神仁でした。m(__)m